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【人】 ][『月』 エーリク―― 夜 ―― [ あれから少し眠った。 こんなときに、と咎められるかも知れないが 久方ぶりに必要、ではなく、眠りたいと思った故に。 目が覚めれば時刻は食事時を少し過ぎた頃。 呼び出しの声もかからなかったのは、それほど よく寝ていたせいか、そんなことをかまっている場合では ないせいか。 くぅ、と小さく腹が鳴る。 こんなときに、と自身に呆れるような気持ち半分に 立ち上がった。 ――こんなときでなければ、日常にある些細な 欲求すら沸き起こっていないのが不思議なところだが なにぶん、丈夫につくられているものだから。 ] (140) 2022/12/18(Sun) 20:31:23 |
【人】 ][『月』 エーリク[ 食堂には誰かいただろうか。 料理の腕に覚えはないので、 誰も居らず食事の用意もされていなければ 最悪、白粥をかきこむ羽目になるがどうだっただろう。 それもなければ、諦めよう。どうせこの程度では 死なないし、明日はどうなるかしれないし。 ――…常ならば、誰か一人くらいはここにいて とりとめもない話をすることも、あったのだろうか。 賑やかな談笑に混ざり込むことはなくとも、 そっと、ここに居させて、と頼むこともあったかもしれない。 腹の中でどう思われているか知らないし、 興味もないが、それでも表向き、皆親切に してくれていただろう。 答える術を知らずとも、同じように接することで 返せていればよかったのだけど。 ] (141) 2022/12/18(Sun) 20:32:04 |
【人】 ][『月』 エーリク[ 食事か、空腹を満たす行為かどちらかを 済ませると散歩とばかりに、館内を歩き出す。 誰か曰く、もしくはニュース等で知ったか もうすでに崩壊は始まっているらしい。 よもや、こんなことになろうとは。 誰も考えていなかったに違いない。 僕らはただ、証を持ってうまれただけの 人間なのだから。 崩壊する世界を、どこか他人事のように 思ってしまったところで、仕方ない。 父母からの連絡など入っていれば また違ったのかもしれないが。 入ったところで、今更僕になにをどうしろと そんな風に低い位置から、考えていただろうな。 ] (142) 2022/12/18(Sun) 20:32:18 |
【人】 ][『月』 エーリク[ 彼はどう選択するだろう。 彼女はどう選ぶだろう。 ぼんやりと考えながら 片足を立てて、窓べりに座った。 無意識に伸ばした手は、 右足のくるぶしのあたり。 半月に成り損ねたような 三日月と半月の間のような形のそれが 己の持つ、証。 いつだってブーツの中に隠していたもの。 脱ぐのに面倒なブーツを選び取り、 抜け出した際に、寄っていかないかと 誘われたときはいつも靴を脱ぐのが面倒だからと 断ってきた。 ] (143) 2022/12/18(Sun) 20:32:39 |
【人】 ][『月』 エーリク[ スポットライト、歓声、用意された台詞。 振り上げられた拳、羽交い締めにされ 晒された痣、悲鳴、罵声、聞き取れぬ怨嗟の声。 今もありありと、浮かんでくる情景。 背を押して欲しい。 こうしろと命じて欲しい。 そのほうがよほど楽だ。 崩壊なんてものに、自分の意思を求めないで欲しい。 考えても、考えても、答えなんて出やしない。 無責任に放り出してしまいたい。 今すぐここで、消えてしまいたい。 思いは煮詰まり涙となって、 浮かべば浮かんだだけ体の外へ行ってしまう。 まるで裸足でここまで来たとばかりに ブーツを脱ぎ捨て、あてもなく、 館内を、徘徊しはじめた。 無駄に丈夫な足腰は悲鳴をあげることはない。 もしかしたら、空が白んでくるまで、 そうしているかもしれない。* ] (144) 2022/12/18(Sun) 20:33:19 |
【人】 ][『月』 エーリク―― 回想・玄関ホールにて ―― [ 言葉はないまま、僕が頷き、 彼女もまた二度頷いた。 察しの良い方で、たすかる ――思った矢先、ヒナギクが彼女の視界を 横切り、僕とヒナギクを交互に見て、 あとでいく>>2:398、とチェレスタは言った。 ついてこられても多少緊張しただろうが 行くと宣言されるのもまた、緊張するものだ。 すっぽかされたらそちらのほうが 自分的にはホッとするような気がしたが おそらく、そんな事は起きやしないだろうな。 わかった、と頷いて、先に自室へ向かうとする。* ] (147) 2022/12/18(Sun) 20:46:32 |
【人】 ][『月』 エーリク―― 自室にて ―― どうぞ、…… [ 扉を叩く音、誰であるかなど火を見るより明らか なのだから、緊張した様子のままぎこちなく 部屋へと彼女を招いた。 開口一番、告げられた謝罪>>151には ゆるやかに首を振った。 上手にできないのはお互い様なのだ。 ただ、話があるよ、時間を取って そんな他愛のない会話を、敢えてしようと しないのもまた、お互い様だ。 誰かを招くことを考慮していない この部屋にはカップは二対あったとしても 椅子は一脚しか、揃えていない。 無言で指さしたが、お構いなくと言われてしまえば それ以上強く座ることをすすめはしない。 自分はベッドの端の方へと座り込んだが。 ] (191) 2022/12/18(Sun) 23:14:09 |
【人】 ][『月』 エーリク[ こちらの話が一心地ついた頃。 ちょうどコーヒーマシンが仕事を終えたところ だったので、彼女にも珈琲をすすめた。 ――自分の分を僕が用意するとは 思わなかったのであろうことは、表情から 読み取れた。 ] 様になっている?それくらいは 通っていたから、外へね [ 冗談でもいうような軽やかさをもって 放たれた言葉に少し自分で驚いた。 ] (194) 2022/12/18(Sun) 23:14:42 |
【人】 ][『月』 エーリク[ もしかしたらもっと早く、 どうにかして彼女との時間を克服できて いたならば、もっと違う関係を築くことも 出来たのかもしれない。 胸中に芽生えたものは、観念したように オーダーを口にする彼女の言葉で 鳴りを潜めた。 彼女の望むように、砂糖を一つ溶かし入れた 珈琲を、渡すと、彼女のほうが口を開いた>>156 ] ……そうだね [ わかるわけがない、それはその通り。 そもそも回答を求める問いかけではなかったが 人から語られれば、尚、真理を見た気がした。 ] (195) 2022/12/18(Sun) 23:15:04 |
【人】 ][『月』 エーリク ああ……それは考えてた 前から、ずっと。 [ 痛い思いをしたいとかそういうわけでは ないけれど、ふっと誰の目にも止まらぬうちに 霞んで消えてしまえたらいいのにとは、常々。 しかし続けられた言葉には目を見張った。 ] ………、 [ 貴方がいなくなれば悲しむ人は"ここにいる" それは洋館と解釈すべきか、それとも貴方と解釈すべきか 更に続く言葉を耳に入れれば、 ああ、後者かとすとんと胸に落ちてくる。 よくよくわかりやすい言葉を選んでくれるものだ。 穏やかに、そして静かに、 ] そうだね、死ぬだの殺すだのは 僕も御免被りたい。 [ 同調するような言葉で返した。 しばしの沈黙、湯気を立てるカップを 傾ける。いつも通り、いい味の珈琲だった。 ] (198) 2022/12/18(Sun) 23:15:37 |
【人】 ][『月』 エーリク ……わかりやすいね [ 彼女にとっての悲しみ>>158 取り上げられたら悲しいもの。 語られる言葉に対して短く返したのは 胸の奥の奥、わずかに灯った炎を 延焼させぬため。気を抜けばすぐにでも わかるよ、僕も――と続けてしまいそうだったから。 ] そう、もう崩壊が始まってるのか [ やがて、つまり、ええと>>159、と 言葉を詰まらせた後に、続けられた言葉には わかりやすく表情を歪ませながら、 それでも最後まで、黙って聞いた。 俯いてしまった彼女に向けて、 また己にも向けて、深く大きいため息をついた。 ] (199) 2022/12/18(Sun) 23:15:55 |
【人】 ][『月』 エーリク[ こじれにこじれて、 互い避け合い、嫌い嫌われるように 仕向けた結果。 そして己ではどうにもならない 厄介な彼らの記憶故に。 もしかしたら、互いにこうにちがいないと 思い込んだまま、今日の日まで 来てしまった。 一つ一つ、丁寧に誤解を解いていくだけの 時間は残されているだろうか――。 ] (201) 2022/12/18(Sun) 23:16:10 |
【人】 ][『月』 エーリク[ 永遠に続くのではと思われるほどの 長いながいため息のあと。 冷め始めた珈琲を一口、口の中で転がしたあと ] 端的に、言うと。 別に僕は、貴方に消えて欲しいとは思っていない。 それと、貴方が居るから悲しいわけじゃない。 それだけはどうか、勘違いしないで欲しい。 [ わざと音を立てるように、乱暴にカップを チェストの上に置く。……白い羊の足がまだら茶色に なってしまったが、今この時は些事だ。 ] (202) 2022/12/18(Sun) 23:16:33 |
【人】 ][『月』 エーリク 貴方のことは、恐ろしく思う これは言葉で説明できるものではないのだけど でもだからといって、 貴方が居なければいいと思ったことは ないよ、一度だって。 だから僕の選ぶ選択肢の根に 貴方の存在は、関係ない。 ……正直なところ、どうしたら 自分が悲しい思いをするのか、 僕はわからない。 それこそ、世界が崩壊してから、 気づくこともあるかもしれない。 [ 激昂しそうになるのを、 ぐ、と抑えるように、言葉を続けた。 ] (204) 2022/12/18(Sun) 23:17:03 |
【人】 ][『月』 エーリク チェレスタさん、 見て [ ほんの、皿一つ分。 指先を貴方に近づける。視認できるほど この指は震えている。 ] (205) 2022/12/18(Sun) 23:17:24 |
【人】 ][『月』 エーリク 僕はあなたに何をされたわけでもないけれど やはりどうしても、恐ろしく思う だけど、貴方が言うように 世界を滅ぼすことを望んだ、 その結果、手を汚さずに貴方を消すことを、 僕は、……僕は、そんなことを望まない 望んでいない……… わかって、ほしい [ 震え続ける指先はすっかり冷えてしまった。 引き寄せカップに押し付ける。 言い終えたなら、ふ、と視線を逸らすように 自分の指先を見た。まだわずかに、震えを残したままだが 恐怖だけではなく、興奮や、理解して欲しいという 強い気持ちも、たしかにそこにはあったんだ。* ] (207) 2022/12/18(Sun) 23:19:04 |
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