人狼物語 三日月国


260 【身内】Secret

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[ 目的もなく生きていくのなら、それでも良かっただろう。
  けれど傷を付けながら、
  生きるために彼のアカウントを探って彼を見続けた。

  それは間違っても感動する類の話ではない。
  犯罪として背筋を凍らせることはあったとしても、だ。 ]


  ……べつに、最初から泣いてない。


[ 嘘だ。今更繕っても意味のないこと。
  涙で罪を誤魔化すみたいで、それは──
  そんなことはしたくないだけ。

  ちっぽけなプライドだ。
  わたしが泣いて許されるのは簡単だけれど
  それを見せられる彼の気持ちはどこにいく? ]

 

 

[ 彼の手が僅かだけ、体温も移らないほどかすかに触れる。
  頭を少し下げただけでは届かなかったのか、
  力の抜けた腕は、頭の代わりに醜いわたしの手首を撫ぜる。

  長袖を着て見えないように誤魔化した過去の傷痕。
  現在を生きるために過去で裂いた血肉の痕。

  ────ひきつれた皮膚越しに感じた彼の指は
  おんぶして背負ってくれた時とは程遠い。
  弱々しさだけが胸を打つ。 ]


  ────────……ッ


[ なにをするのかと見ていれば、貴方は。
  あの甘えとはまた違う懐古を連れてくる。 ]

 

 

[ 噎せたように笑う姿が理解出来なくて、身体を引いた。

  どうしてこの状況で今彼は笑えるのか。
  なにも覚えていないくせに、
  どうして二人のおまじないだけ鮮明に見せてくるのか。

  ここで都合よく受け止めて幸せになれるような、
  お気楽で軽くいられる性格はしていない。 ]


  ……なに、お兄さん、意味わかんないよ
  今痛いのは、そっちの方でしょ……?

  上手く腕も動かせないのに、


[ 自分の頬を殴ってしまっていたのを思い出して
  恐る恐る、頬の怪我を確かめようと指を伸ばす。
  触れられるのは、彼にとっては怖いことだろうか。

  躊躇うように指先が空を彷徨って、 ]

 

 


   [ りんご蜘蛛の糸は落ちる。 ]


 

 

[ 迷子のような、悪さをした子どものような。
  顔立ちばかりが大人に近付いた女のかんばせは、
  どんな言葉も似合わないマーブルカラーだ。

  背後から急激に匂い立つ過去に戸惑って、
  責め立てるのではない彼の反応に怯えている。 ]


  ………………せっかく今日の為に
  お金も貯めて、お兄さんのことたくさん調べて
  チャンスをモノにしようと思ったのにな。

  いいよ。もう。
  ────なんにもしないし、抵抗しない。

  警察でも何でも、連絡して良いよ。


[ やめてよ。
  今更どうしてこっちを見ようとしてるの。
  頭のおかしい犯罪者で、ストーカーなんだから、

  昔と同じ仕草で、言葉で、やさしくしないで。 ]

 

 


  ……わたしの十数年なんか
  嘘でも食べちゃだめでしょ、お兄さん

  痛くなっちゃうよ……ほんとにさ。


[ 呟き落とすように咎めて、目を伏せる。
  相変わらず跨ったままの体勢だと
  彼の顔が嫌でも良く見えた。 ]


  ………… ほっぺた、怪我は?


[ 自分が気にしていいことではないかもしれない。
  けれど、自分の仕込んだ薬の影響ともなれば
  資格がないなんて理由で放置もしたくはなくて。

  両腕を下ろしたまま、小さく尋ねる。
  敵意がないと示す唯一の手段だった。** ]

 


 だまし上手なら、だまされるこた、
 ねーんじゃね……?


[人を騙そうとしたことはあったか。
幼い頃の悪戯でしたことはあったかもしれないが
覚えていない。

思い返せば悪意を持つ経験には乏しい人生だったかもしれない。]


 うそつきー。
 ないてた、だろ。


[見えていた訳ではない。
涙に触れた訳でも。
だが確信を持って断じた。]

[手が触れたのは髪の毛ではなく、
頭はやはり撫でさせてはくれないかと思う。

偶然触れた布地の下の皮膚隆起。
痛みはもう生じない場所の「痛かった記憶」を飲み込んで。]


 ……おー、いてー、わ。
 でも、いたくしたかったン、だろ?
 「ざまぁみろ」じゃ、ねーの?



[視界にルミの表情が映る。
弱った自分を見て溜飲が下がったと思っているようには見えない。]


 な。
 たとえば、あのまま俺がルミのナカに出して、
 その後は、どうするつもりだったか、教えてよ。


[自暴自棄な言葉には答えず、視線だけルミに合わせて。]



 けがは、どうだろな。
 まだちょっと痺れた感じある、しなぁ……。

 俺が痛いの心配する顔、ルミのままじゃん。
 全然違うストーカーになったんかと思った。
 ……なりたかった?


[先程よりは動かせるようになった手で、降ろされた腕を掴む。
大きくなった彼女は自分の痛みに対してどうするのか。

当初の目的は、痛みを与えることだったようだが。
今もそれを望む女なのだろうか。

それとも、彼女がずっと持っていてくれた思い出の通り、
自分の痛みを食べてあげると言った優しい女の子は
まだそこにいるのか。*]

 

[ 幼い頃は子供騙しにもならないことばかりだった。
  隠れきれず、丸わかりの状態でかくれんぼをしたり
  お花の指輪は、すぐ編めるくらい簡単だと偽ったり。

  傷付けるための嘘には乏しかったはずだ。
  ────気付けばすっかり嘘つきに育ってしまったが。 ]


  だから、……ッ、


[ 泣いてないと否定しようとして、言葉を呑む。
  彼の声音に宿った確信を感じ、
  言葉の投げ合いをするよりも引くことを選んだのだ。

  多く語るほど、過去の傷が痛むから。 ]

 

 


  ──────そ、れは


[ すぐさま反論を紡げずに、掌を握り締める。
  そうだ、自分は彼を傷付けたかった。
  過去の中で一方的に会い続けることより
  痛みの先で思い出して貰うために。

  この際、目的が完遂出来ないなら
  頬の痛みでもなんでも良いはずではないのか。 ]


  ……ッは、
  忘れてたのに……忘れてるのに
  わたしのままなんて、よく言えるね、お兄さん


[ 視線が交わる。過去と今が交差する。 ]

 

 

[ ぜえ、と肩で大きく息を吸った。
  掴まれた腕を振り解こうと、──振り上げようと
  動かしかけて、力を抜いて、また勢いに任せようとして
  ──繰り返すたびに喉を掻き毟って死にたくなる。

  ここで首でも絞めてやれば。
  彼には一生忘れられない記憶として残るだろうか。

  ここで頬でも殴ってやれたなら。
  みっともなく縋り続けていた過去を全部捨ててでも、
  目的を成せる存在だったら。 ]


  ──────……、わから なぃ、


[ まるで破れたページを継ぎはぐように。
  細切れで、強張った話し方だった。

  妙に冷静な頭が、彼の問いかけの答えを探している ]

 

 

  わたしには、これしか出来なかっただけ
  ……こうするしかないって、おもった、だけ

  お兄さんのこと探して、調べて
  昔の断片を見つけて…………
  お兄さんはわたしがいなくたって楽しそうで
  わたしは、昔のお兄さんしか、いなくて。


  思い知れば、傷付ける覚悟が出来るって思った、の
  ──────……そうすればもう、


[ あの公園に行かなくて済んだんだよ。
  楽しかった過去を、本当は美しいだけの思い出を、
  綺麗なまま封じ込めて死ねたんだ。 ]

 

 

  実るわけないこの馬鹿みたいな恋を
  叶えたがってる自分を殺せると思ったから………


[ 執着なのか偏執なのか刷り込みなのか。
  誰に何を説かれたって響かない。
  わたしにとってはこれが、わたしの恋。

  これが恋ではないなら愛なのだろう。
  愛ではないなら、
  そう思う人の方がおかしくって、恋を知らない。 ]

 

 

  …………べつに、あのまま続けてたとして
  お兄さんを子どもで縛ろうなんて気はなかったよ。

  アフターピル……避妊薬持ってるから、それ飲んで。
  明日から実家、帰るんでしょ。
  さっきスマホのパスワードは盗み見ておいたから
  実家にお兄さんのフリして、帰らないって連絡して。

  長期休暇の間だけ、この家にいてもらう気だったの
  ──それで……何をしても、どうなっても、
  わたしを忘れられないくらい傷付けてやろうとしただけ


[ 犯罪だよね。そんなのも覚悟の上だよ。

  言って、わたしは飾られたブランドバッグを見た。
  もう連絡も絶えた昔の客からのプレゼント。
  売れば高い値段がつくような代物。

  可視化されたわたしの価値。 ]

 

 

[ お兄さんの痛いのを食べてあげるね、と笑った子どもは
  今や呑み込めないほどの傷を付けたがる化物だ。 ]


  そしたら、逮捕とかされるのかなって。
  慰謝料とかの準備もしたし。
  もしあれを見てお兄さんが利用価値を持ってくれたら、
  それでもいいなって思ってた。

  そういうのも含めて、いっぱい働いて
  ……頑張ったんだけど。


[ 現実は、想像のように上手くはいってくれないか。
  自分で自分を殴った彼を見ただけで
  怪我を心配してしまう甘さも弱さも抜けていない。
  ────昔なら、 ]

 

 

[ 息を吐く。
  なりたかったものは、愚かにも見た夢は。

  なれなかったものならよく知ってる。
  昔の記憶に置き去りのままの幼いわたし。
  痛みも食べてあげると息まいた世間知らず。 ]


  ……薬が抜ける間の時間稼ぎにはなったんじゃない?
  ほら、もう良いでしょ

  だまされて今なら食べてあげるから
  ……さっさと離してよ、お兄さん


[ 今ならまだ、間に合うよ。
  妙な同情心でも湧いちゃった?
  やっぱり嫌になったでしょう?

  それでも今なら許してあげるから。* ]

 


 忘れてて、思い出した分、じゅんすぃな思い出のままだ。


[思い出は美化されると言う。
自分に都合が良いように脳が改変する。

煮詰めなかった分、新鮮な状態で昔のルミの表情を
思い出せるのだと言う屁理屈。]

[裏を返せば、何度も思い出したルミの中の自分は
もしかすると随分美化されているのかもしれないが、
そこの記憶の擦り合わせをする意味はないだろう。

ブランドバッグやマンションの部屋の資金源――
物理的に「助けた」人々かりゅうどよりも、
彼女を抱いて温もりを与えた人々こびとよりも

強い印象を与えたひとりおうじさまを選んだのが
ルミ白雪姫なのだから。]


 俺を傷つければ、恋を辞めれるって思ったのか……。
 ふーん……。
 イッてはないけど、 ハメてみて、

 終われそう?


[段々と上手く口を動かせるようになってきた。
薬の効果が薄れて行っているのはルミにも伝わっているだろう。]


 それとも、予定通り、長休の間監禁して、
 俺が逃げないように薬使ったり、
 ……トイレはおむつか?

 辱めたら幻滅できると思った?
 


 アフターピルってキツいって聞くけど、
 ……まー、考えてたなら、よかった。

 逮捕とか慰謝料とか、そっか。
 生きてるつもりだったなら、うん。

 ……その為にがんばってたモチベ失くすなら、
 死ぬつもりだったのかなと思ってた。


[一方的に嬲られて――いなくなられたら、
きっと自分はもう誰とも恋が出来ないくらい狂ってしまっただろう。

ルミが自分をそういう人間だと分析できていれば
それが一番効果的であるとわかった筈だ。

それでも、恋を葬ってなお、生きようと思ってくれていたことに
心底安堵する。]



 まだ俺の質問に答えてない。

 「こうするしかなかった」ってのは聞いたけど、
 本当に、ストーカー以外の方法、
 なりたかったもの、なかった?


[掴んだ腕は力を入れると折れそうだ。
時間稼ぎをしなくても、この場から離れようと思えば
離れられるのだ。

離さないのは、そうしたいから。]

 

[ 美化され続ける思い出と、
  色褪せて消える思い出の違いはなんだろう。

  失った過去は二度と手に入らないが故にうつくしく、
  苦しい記憶を経てきたと思い難い防御本能故に
  ある程度の痛みならば無かったことになる。


  狩人はどうして白雪姫を助けたのか。
  見返りも求めずに? 憐憫のただひとつだけ?
  ────狩人に恋すれば白雪姫は死なずに済んだのに。

  りんごは落ちない。
  死ぬ" かもしれない "未来から助けたひとよりも
  既に骸となった自分を救った王子を選んだ姫。
  どうして死して尚、
  狩人の救済の尊さを覚えなかったのか。

  説明がつかないことを、恋と呼ぶ。 ]

 

 

  ……終われそう、じゃないの
  終わらせるの────お兄さんを好きな気持ちごと。

  全部、この家で
  あの公園を見れる場所で、思い出すら消えるくらいに。


[ 随分と口も回るようになったらしい。
  あの薬は効果こそ覿面だったけれど、
  害さぬよう与えるとなれば時間はこんなものか。 ]


  ……幻滅できるなら、とっくにしてる。


[ 貴方が見知らぬ女を抱いた日に。
  わたしを忘れて楽しく毎日を過ごす様子に。
  所詮そんなものか、と手離せる愛ならそうしてる。

  出来やしないから、心ごと殺すんだ。 ]

 

 

[ ぱち、と目が瞬く。 ]


  …………ああ。そっか。
  わたし、目的を達成した後の自分のこととか
  あんまり考えてなかったや。

  心を殺せば、自分は死ぬのと同じだと思ってた。
  お兄さんには、与えた傷と一緒に生きて貰う為に
  お金を渡すしかないと思って、慰謝料、用意したの

  どうせ生きてる意味もないなら
  いつ死んだって同じだし────


[ 新しい発見を得たというように頷いた。
  言うことを聞かないなら死ぬと脅した時はただ、
  善良な人間なら
  目の前で人が死ぬのは嫌だろうと思ったのだ。

  そこに期待がなかったといえば、嘘になるけれど ]

 

 


  そっかぁ
  いつ死んでも同じなら、逮捕とか待たなくて良いよね。

  ……でも、生きてれば
  お兄さんはずっとわたしに怯えてくれるかな?


[ " 今の "彼を分析できるほど、彼を知らない。
  とにかくこの恋を終わらせるために必死だった。

  恋を終わらせて、傷の中で会い続ける。
  わたしは貴方の傷になって生きていく。
  ────新しい世界を知った子どものような声で、
  独り言のように言葉を零して。 ]

 

 

  ──────……

  なんで、そんなこと聞くの?
  答えたら叶えてくれるっていうの?

  ばぁか。
  なりたいものなんか、……わたしの願いなんて
  お兄さんにとって、ずっと────……


 

 



   …………………ずっと、



 

 




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