【人】 軍医 ルーク ―― “ルーク” ――[ 東棟、医務室。 その場所を訪れる者たちの間で囁かれている不文律がある。 着任したての新兵に、真顔で告げる上官もいるらしい。 曰く、『葬儀屋がいるときには近づくな』。 軍医は一人ではない、 ハズレを引きに行くことは避けろ、ということだ。 軍医としては不名誉を通り越して致命的な呼称の原因は、 先ずは身に纏う黒衣のせいでもあるし、 枚挙に暇がない、ろくでもない噂の数々でもあるだろう。 藪かというと、決してそうではない。 むしろその逆、この基地に配属される前は、 中央で将来を嘱望された研究者であり外科医だった。 尤も当人、中央にいたころから 多大に問題のある言動を乱発していたものだから、 それでも将来を期待されているということは、 マイナスを補って余りある力量 だけは 持ち合わせていたわけである。 さて、そのろくでもない噂の数々というのは、例えば―― ] (17) 2020/05/15(Fri) 2:23:31 |
【人】 軍医 ルーク[ 違法な研究に手を染めて中央を追放されたとか、 夜な夜な何かを解剖している高笑いが響くとか、 患者にひそかに非合法な薬物を投与して 人体実験を行っているとか、 出さなくても良い薬を実験のためにわざと飲ませているとか、 満月の晩に医務室に入ったら生きては出られないとか、 あのローブの下は自分で自分を改造しているのだとか、 その結果表情筋も死滅しているのだとか、 いや、患者の悲鳴を聞いたときにはにやりと笑うのだとか、 滅多にフードを下ろさないのは 頭の後ろにも口がある妖怪だからだとか、 耳も尻尾も二目とみられない有様なのだとか、 いっそ切り取ってしまったのだとか、 実はとっくに生き物でもなんでもない義体なのだとか、 あの顔が笑うのを見た者は呪い殺されるとか、 医務室の鍵付き戸棚の中は決して開けてはいけない、 この世界のありとあらゆる毒が収納されているのだとか、 むしろあの中にあるのは爆発物の類であるとか、 気分次第で麻酔なしで手術をされるのだとか、 切られた傷口がそのうち開いて殺されるとか、 手袋を脱いだ手には絶対に触られるな、 研究中の細菌に感染するぞ、とか、 中央にいる頃に確執のあった上官を毒殺しようとしたとか、 逆に、実は中央からの監視官で、 兵士たちに内偵のための処置を行っているのだとか、 だから戸棚の中には内偵文書が収められているのだとか、 基地内にいるぺんぎんたちを解剖する機会を狙っているとか、 飲料水のタンクに実験のための毒を流し込んでいるのだと ] (18) 2020/05/15(Fri) 2:24:17 |
【人】 軍医 ルーク[ か――… 最後辺りは大喜利の様相を呈していることも否めないが、 兎も角、はみ出すほどに枚挙に暇がない、というわけだ。 医務室は広い。 一気に大量の怪我人が運び込まれてくることがあるからだ。 その場でも相当の処置が出来るよう、設備も整っている。 勤務は交代制だが、常に一人ないし二人は 在室することになっている。 そして、どれほど酷いうわさが流れていようと、 あるいは流されていようと―― 患者は医者を選べない。 部屋の中にいる黒い奴を見て引き返せるものは、 時間に融通が利いて、それなりに余裕がある者だ。 中には、止む無く治療を受けに来る者もいるだろう。] (19) 2020/05/15(Fri) 2:25:21 |
【人】 軍医 ルーク[ 本人、自分が何を言われていようと気にした様子もなく、 粗末な木の椅子に腰掛け、微動だにせず医学書を読んでいる。 時々瞬きを忘れているのに気づいて、瞬きをしたりもする。 ごくたまに、何が面白いのか、頁を捲ってにやりと笑う。] あははは [ 笑い声も妙に平坦だった。 そのようなわけで、入って来た犬耳の新兵は、 『失礼しましたー!!』 と、蒼い顔で踵を返し、 尻尾を(文字通りに)巻いて、ばたばたと逃げ出していった。 其方にちらりと視線を遣っては、読書に戻る。 概ねそれが、医務室の日常だ。]** (20) 2020/05/15(Fri) 2:28:37 |
軍医 ルークは、メモを貼った。 (a2) 2020/05/15(Fri) 2:31:19 |
【人】 軍医 ルーク―― 父親の話 ――[ 物心ついたころには家にはおらず、 世界中彼方此方を旅してまわっていた研究者の父は、 良く言えば夢追い人、 一般的に言えば生活力皆無のロクデナシだった。 気付けば自分も似たような道を歩んでいたのは、 果たして奴の影響を受けたのかどうかは知らないが、 片付けられもせずに積み上げられた本の中で育てば、 まあ、自然の成り行きではあっただろう。 ろくに連絡も寄越さなかったそいつが、 死んだと聞かされたのは、暫く前―― そう、あの大穴が出来たときのこと。 穴の調査に赴いて調査拠点に留まっていた父は、 そこから突如現れた『怪物』に殺害されたのだという。] (53) 2020/05/15(Fri) 13:19:46 |
【人】 軍医 ルーク[ 当時の自分も、既に医術の道に踏み込んではいた。 衝撃を受けるだろうと予測してか、 遺体の状態について口ごもる父の同僚に、 いいよ、見る、とだけ告げて安置所に赴いた。 ぽつんと灯された裸の明かりが、薄暗い安置所を照らす。 回収された部分だけが入っていた遺体袋は、 人ひとりが入っているにしては、随分に小さかった。 ――自分は、きっと平気だったに違いない。 思い出される自身は、どうしてか、遠い後姿だけれど。] (54) 2020/05/15(Fri) 13:20:01 |
【人】 軍医 ルーク[ その拠点に赴いていることは知っていた。 居所を知らせる手紙なんて寄越しやしなかったけれど、 父の知り合いが気を使って知らせてくれたのだ。 まあ、一年か二年はそこに留まるのだろうと思っていた。 研究のこととなれば寝食を忘れる破天荒のロクデナシは、 調査拠点でもさぞ持て余されていたに違いない。 いや、あれはあれで、案外人望もあったようだ。 情に厚く、人には親身になるたちのようだったから。 もし何か面白い結果でも得られようものなら、 同僚や警備員を捕まえて、 どんちゃん騒ぎの酒盛りでも始めたりだとか。 ―― 今となっては、想像するのみだ。 その調査拠点に残っていたものは、 殆どが死んでしまったのだと聞く。 早々に避難できたものは、何が起こったかは当然のこと、 ろくに見てはいなかったようだ。 少なくとも自分は、何が起こったか、 何一つ知らされることはなかった。 ただ、“怪物”が現れたのだと――それだけ。] (59) 2020/05/15(Fri) 13:29:19 |
【人】 軍医 ルーク[ 残されたものは、多くはなかった。 形見の遺品も礫の下に埋もれ、見つかってはいない。 ただ、身に着けていたものがひとつ。 白い狐耳の若い女性と、同じ耳の子供が写る写真。 それだけが、奇跡のように傷一つなく残されていた。 もう、随分と昔のものだ。 ああ、そういえば、最近写真なんて撮っちゃいなかった。 自分でも忘れていたようなそれを、 そいつが肌身離さず持ち歩いていたのは、 ひどく意外だった。] (60) 2020/05/15(Fri) 13:30:11 |
【人】 軍医 ルーク[ いま、外壁に立ち、天に空いた大穴を見る。 荒れ果てた地面を見る。 そこに聊かの感慨もないと言ったら嘘になる。 けれど、降下してくる怪物をただ真っ直ぐに見据える紫の、 その奥底に冷たく煮えたぎるものは、 一言に恨みや恐怖、好奇心と表すには足りない、 ただまっしぐらに、炎のように燃え盛る、探求心。 そして――… ] (61) 2020/05/15(Fri) 13:30:40 |
【人】 軍医 ルーク―― 飛べないぺんぎんの話 ――[ 基地にはたくさんのペンギンたちがいる。 いわゆるお手伝い端末というやつで、 小さな身体でてちてちと歩き回りながら、 行き会う者たちに人懐っこく挨拶したり、 業務の『おてつだい』をしたり、 そこかしこに歩き回っている、白黒のもふい塊だ。 ちなみに、奴らは一生懸命羽ばたけば飛べる。 高いところのものを取るときだとか、驚いたときには、 必死に羽根を動かして高所に飛び乗る姿が、時折見られる。 大体似たような姿形だが、微妙に個体差はあるようで、 活発なのもいればおっとりしたやつも、 真面目なやつも、サボりがちなやつもいる。 大体の者は彼らの見分けなんてつかないのだが、 一部には分かっている者もいる。 自分は後者だ。 興味のあるなしの問題ではない。 単に、特徴を見れば見わけがつくというだけだ。] (62) 2020/05/15(Fri) 13:31:38 |
【人】 軍医 ルーク[ そのうちの一匹が医務室に担ぎ込まれたのは、 着任から一週間ほど後のこと。 どうやら他の連中とは動きが違って、 手――というか羽根を痛めているのではないかと。] わたしは人間の医者なんだが。 こいつは専門外だ――ばらして調べていいか? [ 担ぎ込まれたぺんぎんは、じたばたと逃げようとしていた。 それでもまあ、診るだけは、診た。 どうやらどこかで強い衝撃を受けたらしく、 まずは直せるような状態ではないようだった。 こいつらはこれでも基地の備品扱いだから、 上官への報告ついでに、言い置いた。 変わったことがあったときには逐一報告するように、 着任時に言われていたからだ。 その時何やら難しい問題に頭を悩ませていたらしい上司は、 持ち込まれたもふもふ案件に怒鳴り声を上げ、 不良品ならすぐに捨ててしまえと厳命してきた。 さー、いえっさー、と棒読みにして、その場を辞す。] (63) 2020/05/15(Fri) 13:32:26 |
【人】 軍医 ルーク[ 鳥を小脇にふん捕まえたまま基地を行く。 抱えられたぺんぎんの、きゅーきゅーという悲痛な叫び声と 必死の羽ばたきは、 すれ違った者たち皆の目に入ったことだろう。 眉を顰める者や、止めようとする者も多かった。 それがまた、着任早々着々と増え始めていた自分の噂に 新たな一頁を加えることになったようだが、どうでもよい。 そういえば、『葬儀屋』と呼ばれ始めたのは、 ちょうどその頃だったような気もする。 ] (64) 2020/05/15(Fri) 13:34:40 |
【人】 軍医 ルーク[ 焼却処分場にぺんぎんを連れ込んで、 ごみの山の上に下ろしたときには、 そいつはぷるぷると怯え切った様子で此方を見上げてきた。] さて、これでわたしは、君を捨てた。 命令は完了した。 [ そうして、間をおかずにひょいとそいつを拾い上げ、 さっさと焼却場を後にする。 捨てられていたごみを拾ったところで、 それは個人の勝手というものだ。 人目のない廊下で、そいつを離す。] (65) 2020/05/15(Fri) 13:35:06 |
【人】 軍医 ルーク他の連中に紛れてしまえば、 君に気付く上官はいないだろうさ。 あとは好きにするといいよ。 [ かくして飛べないぺんぎんは、 何事もなかったかのように基地内に帰還を遂げた―― はず、だったのだが。 何故かその日から、東棟の医務室に 一匹のぺんぎんが入り浸ることとなる。 人見知りが激しいようで、普段は物陰に隠れていて、 患者が誰もいないときにはひょっこり顔を出し、 医務室の主にてちてちと茶など運んできたりする。 きっと場所が気に入ったのだろうと、放っておくことにした。 (薬品の入っている棚には、その日のうちに鍵をかけた) 来訪者があるときにそいつが姿を現すことがあったとしたら、 それは例えば、余程気を許しただれかが訪れたときのこと。 そういった相手がいるかどうかは―― 当のぺんぎんや、ぺんぎんと親しいであろう誰か次第。]** (66) 2020/05/15(Fri) 13:36:05 |
軍医 ルークは、メモを貼った。 (a8) 2020/05/15(Fri) 13:46:07 |
【人】 軍医 ルーク ―― 前線基地・外壁上 ――[ 出撃した兵士達は散会し、各々の配置につく。 中の一隊が、前方に突出している。 あれは、穴から降りてくる怪物の降下位置近くに陣取る 第一部隊だろう。 武装に身を固めながら、 その動きは気を抜けば見失いそうなほどに疾い。 怪物を間近に相手取る超近接部隊には、 身体能力に優れているものが多く配属されているのか、 あるいは、余程よく統率が取れているのか。 彼らを見下ろす顔に表情はない――はずだ。 地上の動きに集中していたものだから、 固唾を飲んで事情を見守る手の中の鳥が、 不安げにちらりと此方を見上げたことには、 一向に気付かなかった。] (82) 2020/05/15(Fri) 22:25:32 |
【人】 軍医 ルーク[ 天の大穴から、“それ”が降りてくる。 否、“降りてくる”というよりは―― 落下だ、落ちてくる。 あの距離から落下しては、生き物ならばひとたまりもない。 けれど、それは、そう ――言葉通りの意味で、生き物ではないのだ。 けたたましい吼え声が戦場を劈き、 『それ』が地面に着地するのと、 砲門が火を噴くのは同時だった。 腹の底に響く砲撃音が、耳を聾する。 矢継ぎ早に放たれた第一陣の砲撃は、 怪物に、あるいはその周囲に着弾し、 爆音が轟き、土煙が巻き上がる。 前線の人影たちは、射線上にはいない。 砲撃部隊も味方を撃つ様な無様はすまい――という、 そう簡単な話ではない、 近接部隊の彼らはあれほど突出し、 見上げるほどに巨大な怪物と相対しながら、 同時に、味方の動きを把握しているのだろう。] (83) 2020/05/15(Fri) 22:26:15 |
【人】 軍医 ルーク[ もうもうと巻き上がる土煙、 閃光がひらめき、戦場は地獄と化す。 今もその残骸が残る建造物の名残が、 怪物の前足の一撃で、がらがらと崩れ落ちた。 ――そう、此処は、あの大穴から怪物があらわれるまでは、 ひとが住まう土地だった。 ここにいても、大きな白い耳はあまりにもよく音を拾う。 破壊音、爆音、銃弾の音、ひとの声。 晴れてゆく土煙の向こうで、“それ”の影が現れる。 再びの咆哮。 四つ足の怪物は進みを止め、その首はぎりりと向きを変え、 生き物ではありえない角度で外壁を見上げ、 基地へと狙いを定めるように、一歩ずつ近づいてくる。>>72] (84) 2020/05/15(Fri) 22:27:11 |
【人】 軍医 ルーク四足歩行型―― 速度に応じて足並みを変化させている、 歩容の再現まで完全… などという生易しいものじゃ、ないな、あれは。 [ 生き物にしか見えない動き、 けして生き物ではありえない、圧倒的な破壊の化身。 その足取りを止めようと、兵士たちが攻撃を加える。 けれど、その進みを止めるには至らない。 四つ足の怪物が、迫って来る。 その胸元がぱかりと開き、奥にある『なにか』が、 戦場の何処かへと狙いを定めようとした、そのとき――] (85) 2020/05/15(Fri) 22:27:51 |
【人】 軍医 ルーク[ 戦場の中心に、白い光が膨れ上がる。 まるで『太陽』のように、 目が眩み、焼かれそうなほどの光量だ。 色素の薄い瞳は、それほど光には強くない。 けれど、目を眩しそうに細めながらも瞑ることなく、 強く、強く、輝きを増してゆく光を見続ける。 やがてそれは一筋に収束し―― 怪物の中央部を射抜き、消えていった。 ずしん、と、 巨体の倒れる音と舞い上がる土煙が、ここからも良く見えた。 それからもう一つ―― 先ほど白い光が見えた場所に、赤い影ひとつ。 そして、倒れたその影のところに、 ばらばらと駆け寄ってゆく近接部隊の兵士たち。] (86) 2020/05/15(Fri) 22:28:52 |
【人】 軍医 ルーク戻るよ。 [ きゅう、と鳥が窮屈そうな声を上げる。 それで初めて、自分が身体に力を入れていたことに気付く。 鳥は今の光が眩しかったようで、 くしくしと羽で目の辺りを擦るような仕草を見せていた。 こいつはこいつで、生き物よりも生き物らしい。 あれはなに? と問うように此方を見上げるものだから] (87) 2020/05/15(Fri) 22:29:35 |
【人】 軍医 ルークあれかい? そうだなあ、極めつけの莫迦が、 極めつけに莫迦なことをしたということだよ。 ああ、仕方がないんだ、 莫迦は莫迦なことをするがゆえに莫迦なんだから。 [ そんな風に言いながら、基地の中へと踵を返す。 これから医務室に訪問者があるに違いない。 その足取りはゆっくりしたものだったが ――これ以上早く歩けないのだから仕方ない―― 寄り道せずに、医務室へと戻るだろう。]* (88) 2020/05/15(Fri) 22:30:02 |
【人】 軍医 ルーク―― 医務室 ――[ 長耳兎の部隊長がいつ頃目覚めたかは、 そいつの体力次第といったところだけれど、 少なくとも、隊長を担ぎ込んできた部下たちの阿鼻叫喚は、 耳に入らなかったようだった。 あの耳はさぞよく聞こえるだろうから、 もし意識があったなら、 なんでよりによって葬儀屋がいるんだ!? 誰でもいいから他の医者呼んで来い、 うわやめろ俺たちは大した怪我なんてギャー!!! ――みたいな大騒ぎが、 ことのほかよく聞こえていたはずだ。 (もしかしたら多少夢見は悪かったかもしれない) 戦闘があって負傷者が零ということはなく、 暫くの間は駆け付けた他の医者たちも交えて、 怪我人の手当てに追われた。 急な処置を要する負傷をしたものは、ほぼいない。 部隊の練度の賜物か、 あるいは――被害が出る『前に』、敵を仕留めたからか。 ある意味で一番重症だったのは、この長耳だったのだけれど、 先ずは寝台に突っ込んで点滴の管を刺し、 他の患者の応急手当てに当たる。] (89) 2020/05/15(Fri) 22:31:30 |
【人】 軍医 ルーク君、そいつに何かあったら呼んでくれ。 [ 戸棚の横を通り過ぎがてら、 影に隠れていたもふ玉に声をかければ、 鳥はらじゃー! とばかりに頷いて、 兎のベッドの下に潜り込んで隠れる。 けれど、下にいては様子が分からないと気づいたのか、 よいしょ、と寝台によじ登り、 布団の中に潜り込んで、もそもそと隠れた。 ――まあ、それはそれでいいだろう。] (90) 2020/05/15(Fri) 22:32:11 |
【人】 軍医 ルーク[ だから、そいつが目覚めたときに最初に見るのは、 首を右に傾けるか、左に傾けるかの運次第。 運が良ければ、人が去って医務室が静けさを取り戻した後、 にょきっと布団から顔だけ出して添い寝を決め込む ぺんぎんであったろうし、 運が悪ければ、元々ない表情を凍らせて、 笑っていない目で口元だけを釣り上げている、 『話が分からない』方の医者であっただろう。] おはよう。 早速だけれど、問診の時間だ。 さてその前に、聞いておこうかな。 確か君は以前、わたしが薬を処方した際、 『苺飴なら喜んで食べるのに』と言っていたかな。 それを踏まえて質問だ。 [ 記憶力は良い、患者の希望は『よく覚えている』] (91) 2020/05/15(Fri) 22:33:13 |
【人】 軍医 ルーク それほどあの薬が嫌なら、開発中の新薬か、 中央から取り寄せた栄養剤を試そうか。 どれも頗るよく効くよ。 さて、腸が捻じれかえるほどに苦い奴と、 胃が踊り出しそうに苦い奴と、 それともいつものやつ、どれがいい? [ にい、と口端が笑みの形を象る。 三つも選択肢を用意するなんて、 自分はなんて心優しい医者なのだろう。 ――そう、患者の希望を覚えてはいるし、 話もしっかりと理解するが、 かといって希望に沿うとは限らないのである。] (92) 2020/05/15(Fri) 22:37:12 |
【人】 軍医 ルーク[ 怒るか、実験対象か。 どう思われているかは、分からないけれど。 答えを待ちながら、その様子をじっと見る。 目の動き、手足の動き、問いに応えるならば声の調子。 疲労以外に何かの症状は出ていないか? ――戦場でどう行動するかは、兵士の領分だ。 だから、ああするべきだった、こうするべきだったと、 口を挟むようなものではない。 しかし、ここは医務室で、自分は医者だ。 だから医者としての所見を述べておくことにしよう。] 阿呆。 * (93) 2020/05/15(Fri) 22:41:43 |
軍医 ルークは、メモを貼った。 (a12) 2020/05/15(Fri) 22:51:00 |
軍医 ルークは、メモを貼った。 (a16) 2020/05/15(Fri) 23:45:27 |
【人】 軍医 ルーク ―― 医務室 ――[ 監視を頼む、とぺんぎんに言い置きはしたけれど、 目を離していたわけじゃない。 だから、寝台の方でもぞりと動く気配は把握していた。 そいつが寝返りを打ったのは左側、 つまりは自分とは逆の窓側の方。 まさかここから逃亡しようとしているなどとは 知る由もない―― とでも思ったか。 逃がすか、と診断に歩み寄れば、布団がもぞもぞと動き、 白黒の塊とそいつが接近遭遇のご対面を果たしている。 ひとがいるときに出てこないこのぺんぎんが姿を現し、 あまつさえ寝台に潜り込もうとするのは、 間違いなくこの兎が相手のときだけだ。] (169) 2020/05/16(Sat) 14:41:46 |
【人】 軍医 ルーク[ 最初にそうしているのを見たのはいつだったか。 自分が医務室にいないときに会う機会でもあったのだろう。 このぺんぎんは実に人見知りであるからして、 自分から出てくることはあまりない。 恐らく空腹で燃料補給にでも現れて、 窓際の特等席でごろごろしているときに、 訪れた患者と遭遇でもしたに違いない。 普段ならそれで逃げ出すのだけれど、 懐いたということは、果たしてどんなやり取りがあったやら。 ……動物は人を見る、と言うが、 此奴が懐いているということは、そういうことなのだろう。 少し驚きはしたものの、 今もこうして布団の中で何やらもぞもぞ交流しているらしき 様子を見ると、この兎の方も、 ぺんぎんが好きな手合いであるようだ。 なにか食べ物を与えているらしい。 内緒のやり取りのつもりかもしれないが、此方も耳は良い。] (170) 2020/05/16(Sat) 14:43:06 |
【人】 軍医 ルーク[ 布団からそいつが起き上がったタイミングで、声をかける。 一瞬でも遅れたなら、窓の方へとダッシュしていただろう タイミングだ。 そいつは見事に固まって、頭から布団を被って隠れる。] 子供かな。 [ 声をかけるが、返事は来ない。 構わず話を続けて薬の三択を迫ることにする。>>163 布団のかたまりがふるりと震えたようにも見えたのは 果たして気のせいか。] さて、希望は聞こう。 5数えるうちに出てこないと、 こっちで適当に選んで飲ませるよ。 5432 [ 明らかに一秒一カウントではない、するすると減る数字。 そのまま零になったら、本当に布団をはぎ取って 口の中に薬を突っ込んでやろうかと思っていたのだが、 白い布団から、赤い頭と耳がにゅっと現れた。 まさに穴に潜った兎状態。 余程苦いのが苦手であるらしく、涙目になっている。] (171) 2020/05/16(Sat) 14:45:47 |
【人】 軍医 ルーク[ 音に聞こえた第一攻撃部隊の部隊長殿の有様とは思えない ――と、見ている者がいたら驚くかもしれないのだが、 生憎自分は、こういった様子をこれまでにもよく見ている。 だから、感じる感慨はひとつ。] ……最近気付いたんだ。 君を見てると、 自分の中に自覚していなかった類の 感情があるのに気づく。 [ 感心したようにしみじみと頷き、 ベッドの横のスツールに腰を下ろす。 小首をかしげ、目を細め、 布団に包まる赤いうさぎをじいっと見下ろした。 冴え冴えと冷たい紫の目に、ふっと感情の色が宿る。 そう、それは。] (172) 2020/05/16(Sat) 14:46:53 |
【人】 軍医 ルーク嗜虐心。 [ どこまで冗談か分からない顔で、そう告げる。 ぺんぎんは抱き込まれた腕の中で、 だいじょうぶ? だいじょうぶ? とでも言いたげに 赤いウサギを見上げていたが、 外のやり取りが気になったのか、もぞもぞと動いて 顔だけを布団から出す。 そして、医務室の主の表情に、ぴえっと毛を膨らませた。] (173) 2020/05/16(Sat) 14:47:56 |
【人】 軍医 ルーク[ 四番目、甘いやつ。 その回答に、ぺんぎんの視線が戸棚の方に向く。 それに気づいてはいたものの、小さく首を横に振った。] そうか、四番目―― うん、分かったよ、了解だ。 少し待っていて。 [ そう言って、ゆっくりと机に歩み寄る。 そこにはいま告げた三種の栄養剤と、コップが一つ。 きゅきゅ、と手際よく栄養剤をあけていき、] (174) 2020/05/16(Sat) 14:48:31 |
【人】 軍医 ルーク四番目。 [ くすりと微笑みさえ浮かべ、小さなコップに適量を取る。 成分や配合は当然のこと、すべて把握している。 そもそもどれも、似たような造りになっている栄養剤だ。 混ぜて出すことに何ら問題はないことは分かっている。 ただひとつ問題があるとするなら、 その味はきっと、一日中口の中に残るようなえぐみに加え、 腸が捻じれて胃が踊り出すような実に刺激的な味わいに なっているだろう、ということだけ。 さあ飲め、とコップをぐいぐい押し付けようとする。] (176) 2020/05/16(Sat) 14:50:06 |
【人】 軍医 ルーク[ 薬を飲んだなら、次は背中の傷の治療が必要だろう。 動きを見ていれば、打っているのは分かる。 担ぎ込まれてきた時にもっとよく確認するべきだった。 痛みには強いようだが、 それでもやはり体は痛めた個所に反応するものだ。 自分の不手際に内心舌打ちしながら、薬の行方を見守る。 ふと、言う心算もなかった言葉が零れた。] ……嫌いでも、苦い、は感じておいた方がいいよ。 その手の信号は、要る。 [ ――痛い、は身体が出す危険信号だ。 危険に反応し、身を護り、生き延びるためのもの。 それに強いのか、あるいは鈍いのか。 そのことに気付いたときに、自分が何を感じたかは―― さあ、自分のことだから、 きっと何かを感じるなんてことはしていない。 していないはずなのだが、布団の中のぺんぎんは、 きゅう、と難しげな顔でこちらを見ている。] (177) 2020/05/16(Sat) 14:50:57 |
【人】 軍医 ルーク[ 阿呆、と言ってやっても、そいつは安堵すら浮かべて笑う。 気遣うのは自分の部下のこと。] ……ああ、そうか。 あのとき、敵はどこかを撃とうとしていたようだけど。 [ そいつが自分の忠告を無視してあの武器を使った理由は、 何となく、分かったような気がした。 いま自分が口にした言葉は、命令に反して避難をせずに、 戦闘の様子を一望できる場所に居たことを 白状していたに等しいけれど―― そのようなことは、今更だ。] 全員無事だよ、 軽傷はいたけれど、 一番程度が重い怪我でも数日で完治するだろう。 [ 淡々と、事実を告げる。] (178) 2020/05/16(Sat) 14:52:47 |
【人】 軍医 ルーク[ そういう部隊長が部下に慕われるのは当然のことで、 周囲と交流がない自分にも、評判が聞こえてくるほどだ。 たまに食事を思い出して食堂に行くときなど (なお、自分の周りには、どれだけ混んでいても 見事な距離が出来る) 部隊の者と共に食事をとる姿を見かけることもあり、 彼らは自分たちの隊長を慕っているようにも見えた。 このうさぎは、そんな彼らを見ている。 ――眺めている。>>69 そうして、一番の阿呆が自分ならいいと言う。 自分の口が、唇を噛むのと似た動きをしたことに気づかない。 気付く前に、口を開いていたからだ。] ……開き直る阿呆は猶更始末に悪い。 何回言っても分からないなら、 わたしの言ったことがよく聞こえてないのかな? その長い耳は飾りかな、 飾りならいっそ、 固結びにしてやってもいいんじゃないかな。 [ じー、と布団からはみ出した長耳に視線を落とす。 こういうときでも、視線はやはり平坦すぎて強い。] さて、それじゃあ背中を見せて。 これ以上籠城するようなら、本当に、その耳結ぶよ。* (179) 2020/05/16(Sat) 14:55:04 |
軍医 ルークは、メモを貼った。 (a33) 2020/05/16(Sat) 15:01:17 |
【人】 軍医 ルーク[ ぶわっと膨らんでボール状態のもふ玉は、 ぬいぐるみのように抱きしめたなら、もふもふで暖かく、 実に良い抱き心地だっただろう。>>220 薬は甘いほうが良いかと問われた鳥は、 それはもうぶんぶんと首を縦に振って、同意を刻む。 医務室の主が差し出してきた薬の正体も、 概ね想像がついていたらしく、 ぴゃー…と、絶望的な鳴き声を上げた。 その薬を一気に口に運ぶ様子を戦々恐々と見上げ、 みていられない、とばかりに羽で目を覆う。 一方、薬を差し出した医者の方はというと、 『皆の様子を見に行って報告と見張り』のあたりで、 微笑みの温度を益々下げていたのだけれど―― 甘い薬だと信じ込んだまま口に流し込むうさぎには、 恐らくそのような表情の変化は、 気付かれてはいなかったのだろう。] (240) 2020/05/16(Sat) 21:43:03 |
【人】 軍医 ルーク[ ――さて、薬の“効果”は絶大だったようで、 一息に飲み干したうさぎの顔色が変わる。 布団に突っ伏したその身体の周りで、 ぺんぎんがおろおろと慌てて走り回り、 のたうち回るその“背”をさすろうと羽根を伸ばすのだが、 それを、横から止めた。 目を丸くして見上げるぺんぎんに、首を横に振る。 ぺんぎんは行ったり来たり、 ふたりを見比べるように視線を彷徨わせていたが、 やがて諦め、赤いうさぎの横に丸まって じっと寄り添うことにしたようだった。] ん、何だい? 困ったな、君が何を言っているか分からない。 そうか、やっぱりこれは 上手く会話が成立していないのだろうね。 それなら結んでしまうのも止む無しかな? [ 苦さのあまり口が回らなくなっているらしい返答に、 わざとらしく首を傾げ、 サイドテーブルの空のコップに、水差しから水を注いだ。] (241) 2020/05/16(Sat) 21:43:40 |
【人】 軍医 ルーク……怒る、わたしが? [ そればかりは本当に分からずに、微かに眉を寄せた。 確かに、言ったことを守らない患者には、 何度でも強く言うべきだと思う。 けれどそれが自分の“怒り”であるかといえば―― わからずに鸚鵡返しにすることしかできない。 怒りか、と言われると、何かが違う気もする。 抑々、そこに何かがあったのか、自分ではわからずにいる。 もし本当に自分が怒っていたとして、 そのこと自体も自覚できていないし、 ――その理由も。] (242) 2020/05/16(Sat) 21:44:10 |
【人】 軍医 ルーク[ 思考は、患者の傷を目の当たりにすれば、そこで中断だ。 シャツを捲れば想像以上に状態が酷い。] シャツも脱いでしまって。 あとで新しいのを出すから。 [ これは全体を診たほうが良さそうだと、そう指示する。 見ているのは、傷と同時に、身体の動き、目の動き。 あとでより精密に調べる必要はあるが、 おそらく今回も、極度の疲労以上の後遺症が出ている様子は なさそうだ。 傷口を確かめ、めり込んだ破片や石の欠片を手早く取り除き、 消毒し、処置を続けていく。] (243) 2020/05/16(Sat) 21:44:40 |
【人】 軍医 ルーク……次に君が運び込まれてきたら、 まずは、剥ぐ。 部下の前で、丸ごと。 [ 溜め息をつかせるには十分な有様だ。 けれど、息を吐く暇も惜しいとばかりに手を動かす。 治療の速さ、正確さでは人後に落ちることはない。 時折、氷のように冷たい指が触れる感触はあっただろう。 (他の患者は、この世の終わりのように叫ぶ) 処置に痛みを感じたとしても、 長引くことはなかったはずだが―― そもそも、この状態で今まで殆ど平気な顔をしていた方が、 どうかしているのだ。 治療を終えて包帯を巻けば、傷跡は隠れる。 新しいものも、古いものも、白く覆ってゆく。] (244) 2020/05/16(Sat) 21:45:28 |
【人】 軍医 ルークさっき何か聞こえたけれど―― 様子を見に行って、とかいうのは 寝言か譫言と考えて構わないよね。 言っておくけれど、暫くは安静だよ。 動けるようになったら自室に戻って構わないけれど、 任務に戻るのは言語道断、見張りも駄目。 報告が必要なら、部下かぺんぎんにでも 口頭か、書面の伝達を頼めばいい。 ああ、もし無理して動こうものなら――… [ わかるでしょう? とばかりに、 じーっと耳に視線を落としてやった。むすぶ。] 『検査』の方も、数日は休み。 [ 実際のところ、記憶の治療に差し支える状態かというと、 他の軍医であれば、この指示は出さなかっただろう。 上層部から厳命されている以上、彼らに選択肢などない。 自分は? 指示など知るか、である。] (245) 2020/05/16(Sat) 21:46:04 |
【人】 軍医 ルーク[ とはいえ、どうやら本人、 負傷よりも口内の苦みの方がダメージが強かったようである。 ようやく話せるようになったところで、 ぽつり、問いかけられたことが何であるか、 最初は把握できなかった。>>225] どう――とは? [ さっき、というのが戦闘時のことであろうというのは、 朧げに分かった。 戦闘の様子を見ていたことは、話してしまっていたから。 何かを思い返しているような目線、続いての言葉に、 何を問われているかを漸く察する。] 四足歩行型、あれだけの重量で自重を支え、 且つ、あれほど精密な動作制御を行っている。 間違いなく、我々の技術では再現不可能。 (246) 2020/05/16(Sat) 21:47:05 |
【人】 軍医 ルーク[ この世界に住まう者たちの技術力は、高くない。 世界の其処彼処に遺された遺物を掘り出し、 それらの使い道をどうにか把握し、使う。 それは見ようによっては、どこか歪で、 宙に浮いたような在り方でもあるだろう。 ――… ]あの怪物は、『どちら』だったのだろう? 脳裏に過る一つの『記憶』を、瞬き一つ、封じ込める。 わたしがいた外壁の上からは、距離があったから、 それ程のことは見えなかった。 今頃調査班が残骸を回収している。 それが済んだら解析作業が始まる。 何か実戦に役立つ情報が得られたら、伝わるはずだよ。 [ 自分も、その解析には加わる。 ――どう、だったか。 あの怪物について問われて、過る記憶が、 自分には多すぎる。]* (247) 2020/05/16(Sat) 21:50:30 |
軍医 ルークは、メモを貼った。 (a44) 2020/05/16(Sat) 21:56:37 |
【人】 軍医 ルーク[ 剥ぐだの結ぶだの、散々脅した甲斐あってか、 怪我は直ぐに言うし逃げない、 暫くは安静にすると言質は取れた。 此方も頷きはしたものの、 結ぶ、は兎も角、剥ぐ、は実行するつもりだ。 それはもう、べりべりと容赦なく。 この分なら、本人には隠すつもりはなくても、 気付かずにいる傷があったり、 自覚より重症の可能性はあるだろうから。 治療の間表情一つ変えずにいる様子に、改めてそう考える。 安静の方も、不満はありそうな様子だったし。] さっさと治すのも仕事の内だろう? [ 耳にじーっと視線を落としながら、それだけを返した。 見張りは他の者も代わることが出来る、 部下は、向こうの方からじきに来るだろう、 そして検査も―― そこまで言葉を継ぐことはせず、 銀の義手を撫でる様子を、黙って見ていた。] (297) 2020/05/17(Sun) 11:47:52 |
【人】 軍医 ルーク[ 襲ってきた怪物の話になる。] 戦っている者にしか分からない話もあるだろう、 いずれ研究班の方から、具体的な相談も来るかもね。 例えば、回収された残骸のパーツが、 実戦ではどのように動いていたか―― みたいなこと。 [ もしかしたらそれは、 もう少し話すことにリソースを割いていそうな、 説明上手な連中に割り振られている役割かもしれないけれど。 怪物は、外壁まではこれからもいかない―― その言い回しと、真っ直ぐな赤い目には、 これまで敵が外壁に至ったことはないという事実以上に、 そこまでは“行かせない”という宣言が 含まれていたように思えるのは、 果たして自分の考えすぎであっただろうか。] (298) 2020/05/17(Sun) 11:49:34 |
【人】 軍医 ルーク ……あいつらのことは、 突き止めるよ。 [ あの怪物は何者か、どこから来たのか。 “天”の向こうには世界があるのだと、 父は言った。 少しでも分かることが増えるなら、 戦局を打破する可能性も生まれるだろうか。 ほんとうは。 極一部にしか知らされていない情報は、ある。 自分は、この基地にいる同じ立場の人間より、 多くのものを見てきたし、聞いている。 ――知らぬ顔で、いる。 それらと命を賭して戦っている者たちの前で。 待っている、と告げられた声音に、疑念は感じられなかった。 只、頷く。] (299) 2020/05/17(Sun) 11:51:27 |
【人】 軍医 ルーク次こそは、甘いやつ? ……『次』というのは? もしかしてまたやる心算かな? [ もう本当に結んでやろうか、とばかり、 赤い耳に乱暴に手を伸ばすが、 結局指は耳に触れることなく、緩く拳を結んだ。] 今回の、明日からの分については、 悪いけれど、甘い薬なんてない。 ああいや、訂正するよ、ひとつ嘘をついた。 “悪い”とは、正直思っていないんだ。 [ 少しは懲りるといい。 ベッドを離れ、自分の椅子に戻る。] (300) 2020/05/17(Sun) 11:52:16 |
【人】 軍医 ルーク[ やがて、どれくらい時間が経ったか、 寝台の方から寝息が聞こえてきた頃。 静かに椅子を立ち上がり、戸棚へと歩み寄る。 先ほど“四番目、甘い薬”の際に、 ぺんぎんが意味ありげな視線を送っていた棚だ。>>174 鍵を開け、静かに開けば、 がらんどうのスペースにひとつ、透明な瓶がある。 瓶の中には赤い果実と、 とろりと柔らかな薄赤色の液体。 あの薬の冗談みたいな語呂と同じ、小さな赤い実。>>77 底には溶けかけた氷砂糖の塊がまだ残っている。 瓶を傾け、軽く中身を混ぜ、また棚に戻して閉めた。 あと数日もすれば、苺のシロップが出来上がる。 自分では甘い物なんて食べないから、 どんな味になるかは、知らない。 ――渡すことがあるかどうかも、多分、知らない。] (301) 2020/05/17(Sun) 11:54:45 |
【人】 軍医 ルーク[ 回収された残骸の調査は、その日の晩から始まった。 夜は夜行性の研究者たちと共に調査を行い、 昼は担当の時間帯に医務室に赴き、 残りの時間は自室で本を読んだり、 たまに外に出ることもある。 そうしていれば一日はあっという間で、 今日もこれから残骸の調査だ。 ああ、そういえば、何か腹に入れておかないと そろそろ頭が働かない。 机の上の瓶から錠剤をざらりと取り出し、 数も数えず適当に口に放り込み、水無しで飲み込んだ。 部屋の外に出るときに、訪れてきた兎の見舞いの部下たちが、 不吉なものとの遭遇にぎょっとした様子で、慌てて避ける。 彼らは昨日も一昨日も、ここを訪れていたようだ。 挨拶もせず医務室を出て、ゆっくりと歩みを進めれば、 角の所に、見知った男の姿があった。] ――司令。 [ この基地の司令官である黒眼鏡の男――ジャイルズは、 どこか飄々とした笑みを浮かべ、 気さくにやあ、と声をかけてくる。] (302) 2020/05/17(Sun) 11:55:46 |
【人】 軍医 ルーク 『研究の方は、捗っているかな? 患者の様子は? 二足の草鞋は歩くのも疲れることだろう、 ふむ、少しは眠ったほうがいいようだ、 隈が酷いよ』 どちらも、報告は上げています。 『いやあ、書類はどうも苦手でね、 副指令に任せて、サインだけしているんだ』 [ そのようなはずもないことをしゃあしゃあと言いながら、 ちらりと、医務室に視線を向ける。] 『そろそろ“検査”も再開できそうかな。 ああ、もしかして急いでいる? そろそろ次の実験が始まる時間か。 それなら失礼、どうぞ行ってくれたまえ』 [ 無言で一礼して歩き出し、すれ違おうとしたそのとき、 男は思い出したかのようにもう一度、口を開く。] (303) 2020/05/17(Sun) 11:56:49 |
【人】 軍医 ルーク 『半端な同情は、結果的には大きな付けを払う。 君は、誰よりもよくそれを 知っていると思うのだけれど?』 [ 立ち止まり、振り返る。 数日の検査の延期を打診したことを言っているのだろう。] 同情ではありません。 医師としての所見です。 [ 記憶のこと、痛覚のこと、 最初の襲撃の折に、只一人生き残ったということ。 父が死んだ、あのときに。 立場柄、資料の目を通してはいる。 例えば痛覚のことをいうなら、無痛症程重くはないようだが 先天性か後天性か、記憶の障害ゆえにそれすら分からない。 けれど、痛覚が鈍いものが戦闘を行うことは、 “きわめて危険だ”。 身体が自身の限界に気付かない、 咄嗟に身を護る判断をしない。 それでいて、最前線に出る。 心身に対する配慮が足りていない検査を日々行う。 記憶が欠落しているというのなら、 それ相応の『理由』があるはずなのに。] (304) 2020/05/17(Sun) 12:00:07 |
【人】 軍医 ルーク[ 同情ではない、それは確か。 それだけははっきりと言い切れる。 では別の何かというと――… どれも、きっと違うだろう。 わたしには、なにもない。] 『それなら結構。 まあ、心配にせよ、なんにせよ――』 [ 医務室から、賑やかな笑い声が聞こえてくる。 元気でいいことだねえ、と、司令は目を細め、 ゆるやかに視線を遣った。 そうすることで、彼我に一本の線を引くように。] 『あの様子なら、そういったものは 十分足りているようだし、 君のは、迷惑なだけだろう? まあ、つまりは―― お互いお仕事をしましょう、ということだ』 [ 否定はせずに、頷いた。 何を感じることも、なかったと思う。 仕事はする、そのために此処に来た、それは確かだ。 その場を持して持ち場へと向かう。 ぎしり、と軋みを上げて扉は開き、 ゆるやかな足取りは、その向こうへと消えていった。]* (305) 2020/05/17(Sun) 12:03:55 |
軍医 ルークは、メモを貼った。 (a52) 2020/05/17(Sun) 12:13:22 |
【人】 軍医 ルーク[ 兎の部下たちは、毎日のように見舞いに訪れた。 歓談の雰囲気は、日を追うごとに和やかなものになった。 自分がいては冷や水をかける以外の何者でもないが、 勤務時間は勤務時間だから、席を外せないこともある。 そういうときは、その場にいた。 訪れるたびに胡乱な目を投げかける者もいた気がする。 自分たちの隊長に何かしたら只では置かない、 というところだろうか。 義手を取り外してのやり取りの時には、 ちらりと視線が其方に向かいはした。 それもまた、通常なら耐えられないような『痛み』を伴う 動作のはずなのに、 表面上、それが表れているようには見えない。 研究班の人に、細身のくせに馬鹿力の怪力兎と言われる―― というくだりで、 此方に部下のきつい視線が飛んだ気もするが、心外だ。 自分が言ったのは『莫迦』だけだ。 まあ、複数回言ったけれど。 阿呆、とも言ったけれど。 赤いうさぎの寝台を囲んでのそんなやりとりだとか、 屈託なさげな若い部下たちの表情、 感情豊かな女性の兵士の声、 そのようなものを聞くとはなしに聞きながら、 仕事の記録を付けている。] (389) 2020/05/17(Sun) 22:33:17 |
【人】 軍医 ルーク[ そして、兎が医務室を去る日の事。 検査についての問いかけに、決定事項を伝える。] 明日からだよ。 [ 任務に戻ってからも検査を止める理由は、何処にもない。 だから、これ以上引き延ばすことは出来ない。 この数日間ですっかりうさぎに懐いたぺんぎんが、 名残押しそうに足元に歩み寄るが、 その回復具合を喜んでいるのか。 がんばった! とばかりに両手を挙げてぱたぱたする。 頭を撫でられ、ぶどう味、という言葉に目を輝かせた。 はたしてどんなすばらしいあじが…! と、 喋らなくても目の輝きで、 誰にだって思っていることがわかるだろう。] (390) 2020/05/17(Sun) 22:33:29 |
【人】 軍医 ルーク次の検査は、薬は―― [ ふっと押し黙る。 此方の耳があるあたりに視線が向いたのは感じたが、 恐らく、何も読めなかっただろう。 何せ、普段は滅多にフードを下ろさないから、 覗こうとしても、耳自体見えなかったはず。>>18 この耳の形や色を知っている者は恐らく、 上官の前や顔の照会など、帽子を脱ぐ必要がある場に 居合わせた者だろうか。] 効果がない薬なら飲む必要はないよ。 経過次第かな。 [ 飲まなければならない栄養剤とは話が違う。 そう告げる声には、数日前このうさぎが担ぎ込まれて、 怪我も申告せず逃げようとしたり、 苦い薬に抵抗しようとしたときに見せた“怒り”――… 少なくとも、このうさぎはそう思ったらしいものは、 少しも含まれてはいないだろう。] (391) 2020/05/17(Sun) 22:34:13 |
【人】 軍医 ルーク[ 検査についての司令とのやり取りが、頭を過る。 部下たちとの和やかなやり取りも。 ――多分自分は、あの棚の中の瓶を、 どうすることもなく捨てるのだろうと思った。 作った理由も、捨てる理由も、わからない。 そんなものは、きっとない。 それにしても、ぷるぷる震える耳が実に分かりやすくて] でも、此方はあと一回分残っているね。 [ にい、と笑い顔の形を作り、 件の薬――AME015を差し出した。 飲み切るまではここから出さぬ、という 無言の圧を込めて。] (392) 2020/05/17(Sun) 22:35:28 |
【人】 軍医 ルーク[ 視界のすべてが赤かった。 炎は消し止められたようだ。 耳音で滴る水の音に、 ああ、流れている血だなと――そう思った。 辺り一面の瓦礫の山、 吹き飛んだ天井の向こうは、一面の闇だ。 誰かの声が聞こえる、誰かの動き回る音、 瓦礫をかき分ける音。 彼らの声が、ひとつも意味を為さない。 頭の中はぐらぐらと揺さぶられて、 目に飛び込んでくる景色も一秒後には捻じれ、 水にぬれて絞られる布のような心地がした。 身をよじり、身体を動かそうとする。 けれど、からり、と手元の破片が音を立てた、それだけで。 そうだ、繋いでいた手が、あったはずだった。] (394) 2020/05/17(Sun) 22:37:57 |
【人】 軍医 ルーク[ 首を傾ける。 小さな傷だらけの手は、確かにそこにあった。 自分の右手と、つないだままだった。 ――その手“だけ”が、あった。 動いた視界の先に、大きな瓦礫がある。 その下にあるものは――ああ、位置的にはわたしの脚か、と、 他人事のように、思う。 音のすべてが遠ざかる。 けれど、鼓膜は大丈夫。 視界に問題はない、赤いのは、血が入っているから。 そんな風に淡々と分析しながら、 駆け寄ってくる誰かの足音を聞きながら、 まるで、ピアノを弾いている指の上に 蓋を思い切り閉められたように、 自分の中に『何か』が致命的に断ち切れたということに、 気づいては、いた。 そのときは、それは両脚のことだと思った。 切れてしまった糸はそれだけではなかったということを、 病室で自分を診察した医師のカルテを盗み見て、知る。 ―― そのときも、もう、何も感じなかった。] (395) 2020/05/17(Sun) 22:39:33 |
【人】 軍医 ルーク [ ――… ] [ 目を覚ます。 最初に目に入ってきたものは、医務室の固い床と、] ……ぺんぎん…… [ そう、ぺんぎん。 目の前で此方を覗き込みながら、必死の様子でぺちぺちと、 頬を羽で柔らかく叩いている。 ああ、そうか、寝入った。 あと三時間もすれば、仮眠をとる予定だったのだけれど。 のろりと身体を起こし、揺れる頭を騙すように目を閉じて、 少し待ち、開く。] (396) 2020/05/17(Sun) 22:40:40 |
【人】 軍医 ルーク今夜は、勤務はない…… 起こしてもらったところ悪いけれど、 それは明日だよ。 [ そうじゃないそうじゃない、とばかりに ぺんぎんはぷるぷる首を振る。 しかし、この調子では明日の勤務に差し触るか。 食事だけでも、と、机の上の瓶を取ろうとしたところで、 ぺんぎんが机の上に飛び乗り、袖をぐいぐいと引く。 今日は何がしたいのだろう、一向に分からない。 手を止めて、とりあえず椅子に腰かけていると、 どこから調達してきたのか、 丸パンを一つぐいぐいと押し付けてきた。] ……食えと? 栄養なら、錠剤の方があるのに。 君のすることは、不思議。 [ 首を傾げるが、食べれば気が済むのだろうか――と、 千切って口に運ぶ。] (397) 2020/05/17(Sun) 22:41:35 |
【人】 軍医 ルーク[ まるで味がしないそれを飲み下せば、 久方ぶりの固形物に驚いた身体が全力で抵抗し、 飲んだものをそのまま吐き出させようとする。 ああ、吐いたら面倒だな――と、口元を押さえ、 机の上にあった瓶を片手で開け、中身をパンごと流し込んだ。 AME015。 味のない液体で、味のないパンを流し込み、食事を終える。 ぺんぎんは、ふー、と大きく息をついて、 机の上に座り込んでいる。 栄養剤の効果は抜群で、暫くすれば、 動くのに差しさわりがないくらいに体調も戻る。 これから徹夜が続いたときはこれを飲めばよいか。 自分用にも少しばかり発注しておこう。] (398) 2020/05/17(Sun) 22:43:01 |
【人】 軍医 ルーク[ 明け方近い時間帯、人気のない基地の中をゆっくりと歩く。 ひとりと一羽の、ゆっくりとした足音。 自室には向かわなかった。 この東棟の、外壁へと。 いつからだろうか、外壁を訪れて外を見るようになった。 目的は、大穴の『観察』。 毎日というわけではない。 ただ、あの大穴を見上げながら――時折、手を翳してみる。 天を眺めている。 夜目は効くが、視力自体はそこまで強くない。 生き物の影までは見えず、 天で発光する植物や苔の明かりは、少しぼやけていた。 見張りは外を見張っている。 内部寄りの見つかりにくい場所なら分かっていた。] (399) 2020/05/17(Sun) 22:44:11 |
【人】 軍医 ルーク[ やがて、『月』の時間が終わり、 『太陽』に切り替り始めるころ、 足元に壁面の、そして自身の影が差し、 それに追い立てられるように外壁を離れる。 立ち去り際、見張り台に寄ることにする。 この時間帯は、見張りは此処にはいない。 自分が立ち入る領域ではないのだが、 今朝見たものの記録を取るため、机を借りようと思ったのだ。 尤も、気づいたことなどそれほど多くはない。 只、あの大穴の向こうに何も見えないことに関する 仮説を一つふたつ――… 胸元のポケットに入れた用紙の束メモを取ろうとして、 ペンがないことに気付く。 ああ、寝ていた時に医務室に落としたのか。 今から取りに戻るのは面倒、申し訳ないが借りるとしよう。 引き出しを開ければ、そこにあったのは誰かの私物。 ノートや煙草だの双眼鏡だの、雑多なものだった。 そのくせ、見張り台だというのに筆記具は見つからない。 もしかしたらそれは他の引き出しにあるのかどうか。 手を奥に差し入れ、何か固いものに触れる。 なんだろう、と引き出してみれば] (400) 2020/05/17(Sun) 22:45:53 |
【人】 軍医 ルーク……タブレット。 [ 不用心なことだ、盗られたらどうするのだろう。 ひとのものを盗ったり読んだりする趣味はない。 そのまま奥に戻そうとして、 その手が止まったのは――見てしまったから。 赤い布の袋から覗く裏面の角にある、ひとつの『印』。 一見すると只の引っかき傷のように見える、それは。] ―――… [ 心臓が、どくりと鳴った。 これは、基地の人員に支給されているものだったはず。 発掘された遺失技術の産物の一つで、 何処かで大量に発見されたものと聞く。 ……いつ、どこで、 だれが? タブレットを取り出し、画面に指を滑らせる。 ロックがかかっている。 思いつくパスワードをいくつか入れてみるが、 どれもエラーに弾かれる。 当然だ、これを使っているのは――父ではない。 諦めきれずに、単語を無差別に入れてみても、駄目だ。] (401) 2020/05/17(Sun) 22:47:51 |
【人】 軍医 ルーク[ 恐らくは、発掘と研究に携わっていたのだろう。 発見されたそれらが回収されて、 期間を置いて実用に至り、基地に支給された。 父が居た頃、この地域で発掘されたものかもしれない。 だとしたらこの中身はとっくに初期化されて、 痕跡なんて、何も残っているはずがない。 そのまま袋に戻して立ち去ろうとして、ふと――… 魔が差した、というのだろうか、 あるいはある種の天啓だったのか。 不意に指先が綴ったのは、どうしてか。 先ほど自分が口にした、薬の名前。 ……棚の中にある、捨ててしまおうと思った、 それと同じ名前。 ――画面が、切り替わった。]* (402) 2020/05/17(Sun) 22:49:34 |
軍医 ルークは、メモを貼った。 (a57) 2020/05/17(Sun) 23:37:48 |
(a58) 2020/05/17(Sun) 23:42:55 |
[1] [2] [3] [メモ 匿名メモ/メモ履歴] / 発言欄へ
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 エピローグ 終了 / 最新