【墓】 なんでも屋 アマノ―――庭に響く何かが壊れる音。 男はそれを聞いていた。 「やめろよ……ミズガネ。 原因はそれだったかもしれねぇが、俺はここにちゃんといるぞ」 「俺は、ここに居るんだぞ」 肩をつかもうとしても、手を抑えようとしても、 触れることは敵わず。 声も届かず。 ただただ、響く破壊音を聞きながら、止められない事に苦い顔をした。 (+1) 2022/01/22(Sat) 3:50:56 |
【人】 酔吟 ミズガネ>>+1 アマノ 何も聞こえない。何も聞こえない。何も聞こえない。 『 俺は、ここに居るんだぞ 』貴方が何を言っても、男の耳に届かない。 何を言っても貴方は居ないのだ。 何を言ってもお前は居ないだろ。 「──こんな事なら──」 守ろうと、してくれてたのに。 聞くのだって、情に厚い男だ。 何か、言うつもりがあったかもしれないのに、 ──何の言葉も聞かぬまま、全部、自分の手で壊した。 「なんで生きてるんだよ」 「俺の演奏が、魂がクソだって言うなら、 俺を、俺を殺せよ、殺せよ、なあ!! 一度もろくな音出さないお前が!お前が!!」 また振りかぶった。 何でこいつは壊れないんだ? 何で俺の心ばかり壊すんだ? 楽器は一人一人に渡される専用のもの。相棒にすら近い。じゃあ、俺、こいつに裏切られてばかりだ。 「俺を殺さないなら、 お前が死んじまえッッ!!」 (17) 2022/01/22(Sat) 14:22:49 |
【人】 酔吟 ミズガネ>>16 イクリール 「……ぇ……、ぁ、……あ、……く、リール……」 『お前が死んじまえ』 そう叫んで、また叩きつけようとした時、貴方の声が聞こえて。 動きは止まった。ただ、貴方の顔を見つめて何かに怯えたように、男はじり、と後退りをする。 「……く、来るな。……いい、俺はいいから……」 手首から流れる血が手をつたって楽器を 赤 に染める。──それすら、いつか消えるのだ。 そんな存在と当然知っていて、でも壊そうとせずにはいられなかった。 「……も、……いやなんだ。……触れただけで呪うかもで、……それでもし、お前まで、殺したら。俺は、もう……だから、来ないでくれ、頼むから……」 貴方がそばに寄ろうとするならそれを制止して、そう言う。 何かに怯えるように、触れられるのを恐れるように、意地でも貴方と己の体が接触しないようにしようとするだろう。 (18) 2022/01/22(Sat) 14:35:00 |
【人】 酔吟 ミズガネ>>19 イクリール 「……そうだと、俺も、思って…… でも、でも『想定外』が起きたんだ、何ももう、」 貴方の手を払いたくはない。傷付けるのはわかりきってる。だからその手を払わないし、受け入れないけれど、その薬だけは自分でやるとばかりに受け取る。 「……今までがどうとか、信じられねえよ……」 指先ひとつ触れるのすら、今は怖いから。 乱雑に出血がひどいところからハンカチで拭って、押さえて、そうしてポツポツ、目線を逸らしたまま話し出す。 「……何より、『人殺し』の手でお前に触れたく、ない。俺は何もない男だから、唯一、……腐っても、そう言うのだけは、……しないでおこうって、決めてたのに……全部、全部終わりだ…… ……俺が、アマノを、殺したんだ」 (20) 2022/01/22(Sat) 16:31:03 |
ミズガネは、ひたすらに「ごめん、」と謝り続けている。殺した彼か、目の前の彼女か、あるいは両方に、ずっと。 (a6) 2022/01/22(Sat) 16:32:24 |
【人】 酔吟 ミズガネ>>21 イクリール 「……お前と同じくらい、馬鹿で、お人好しで、……優しくしてくれた奴だったよ。……だから、俺の殺しの依頼、受けときゃ……少なくともてめぇは死ななかった、のに……」 言い草から、貴方は覚えているだろうか。 貴方に毒薬を作って欲しいと依頼した時、もう一つ「殺してもらう」と言っていたのを。その相手と推測も容易だろう。 しかも最終的には断られるほど、この臆病な男は懐いていたし、恐らく父性を重ねていた。……貴方に母性を重ねているかはまだ、わからないが。 「……音を、」 「聞いてみたいって言われたから、聞かそうとしたんだ。当たり前だが最後までじゃない。ほんの触りで、ひでぇし、聞くだけで苦しくなるだろって……ほんと、いつもなら、平気だった短さなのに、……血、吐くし、慌てて止めても、悪化して、……」 手の中のハンカチが強く握りしめられる。 その後どうなったか、この様子で、殺したと言い切ったなら、何が起こって何を見届けて、『原因』を許せない心理は、貴方にはわかるだろうか。 (22) 2022/01/22(Sat) 17:20:28 |
【人】 魔女 イクリール>>22 ミズガネ 「アマノさん、いい人だったのね」 殺してといわれて殺す人のほうがめずらしいでしょうが、彼に優しくしてくれた人なら、きっと素敵な人だったのでしょう。 「……そうだったの……」 理解を超えた状況に想像をし切れていない部分はあれど、大体の流れは理解できました。 そんな状況では、貴方が自分を責めるのもしかたないでしょう。 本当に呪いで死んだのか、また別の理由なのかは解剖学にも精通していない魔女が知るすべはありません。 けれど、自分が、彼のためにしてあげられることははっきりしました。 「ミズガネくん、安心して。 私が何とかしてみるから……」 (23) 2022/01/22(Sat) 17:44:03 |
【人】 酔吟 ミズガネ>>23 イクリール 「……そうだよ。だから、俺より、もっと、……?」 彼の職を知っていると、完全にいい人か、それは主観になるのかもしれない。それでも男は、情に厚い彼をいい人と即答する。主観なら、男の答えはそれしかないから。 「……なんとかって、どういうことだ? 死体も、目の前で消えちまったのに……」 けれど、次に聞こえた貴方の言葉に訝しむ。励ましや慰めの言葉ではなく『何とかしてみる』とは、死者に対して何かできる手段があるとミズガネにはてんで想像ができない。 尤も、厳密にはここの人間は神隠しに近い状態にはなってもイコール死ではないのだが、そんな仕組みを男は知らないから一層だ。 (24) 2022/01/22(Sat) 18:04:07 |
【人】 酔吟 ミズガネ>>25 イクリール ふわりとかけられたストールを軽く握る。血で汚すわけにもいかないから、クシャクシャにしてしまったハンカチで薬を改めて塗るついでに血を拭う。 「……何とかって、いや、良い子にって……」 その間にも、時間が経ったせいで楽器は元のまま、完全に戻ってしまって。慰められたりするだけならまだ収まらなくて暴れていたかもしれないが、『何とかする』と言われれば、冷静さが僅かに戻る。 「……くそ、 ……誰かに世話になってばっかじゃねーか……」 情けない、不甲斐ないの気持ちが溢れかえるも、何もできる事もなく。言われた通り、良い子に……はさておき、すくなくとも悪い事はしないように、楽器を捨て置きたいのを堪えて、引き摺るようにどこかに去っていった。 (26) 2022/01/22(Sat) 19:28:32 |
【人】 魔女 イクリール──…… 魔女はひとり部屋へと戻ります。 緊張からか、いつもより表情が強張っていました。 「よいしょ……」 洗面器いっぱいに水を張り、バッグに入った一際古びた瓶を取り出します。 中に入った液体を惜しげもなく全て流しいれると、水がどす黒く染まりました。 「初めてだから、うまくいけばいいのだけれど……」 小さなナイフで掌を傷つけます。 あふれ出る鮮血注ぎ込む様にして軽くかき混ぜました。 本来は、死体を目の前にして行う術です。 ただの薬師である一族が、"魔女"と恐れられる所以となった、世界の理に反するたった一つの魔法。 神への冒涜ともいえる行為故に禁忌とされながらも、代々受け継がれてきたものです。 「アマノさん……どうか戻ってきて……」 成功するかどうかはわかりません。 でも魔女はただ祈りました。 その祈りか術の特性故か、生命力を吸い取られたかのように力が抜けていきます。 魔女は術の発動を見届けることなく、意識を手放してしまいました。 (27) 2022/01/22(Sat) 19:49:43 |
【墓】 なんでも屋 アマノ「おいおいおいおい……」 男はずっと二人のやり取りを見ていた。 イクリールと呼ばれた女の言動が気になって着いてきてみれば、そんな。 俺を生き返らせようとするなど。 一度も顔を合わせたことも、話したことがない男を。 どうして。 「俺を戻すのになんでアンタが倒れなきゃなんねぇんだ、クソが……」 その理由は聞かなくてもわかるというのに、舌打ちをしてしまう。 それは喜ばしいことであるはず。 あの男を、少なくとも彼女は大事に思っているからこそとわかっていても……。 そしてそれが成功してもしなくても。 大きな借りだけを作ってしまうのは癪で仕方ないのでした。 (+2) 2022/01/22(Sat) 20:52:58 |
【人】 彷徨民 ウミ『ラサルハグ』 きょろきょろ。 ウミはずっとずっと赤い髪のあの人を探しています。 『――ここにもいない』 池の水が大きく盛り上がって、中心から出てきたウミは水中から空中へ戻ります。 そうしてびしゃびしゃと跡を残しながら、別の場所に移動するのでした。 (28) 2022/01/22(Sat) 20:57:24 |
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