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【人】 二年生 小林 友[その日の逢瀬で、菜月と一体何が話せたろう。 けれど、夕方の束の間の時間なんて 俺達にはちっとも足りなくて、 俺は家に本を持ち帰って、 話し足りない続きを書こうとした。 何でも菜月は打ち明けてくれて、 柔らかくて繊細な心をひた隠しに 仲間や家族に笑ってみせた、その裏まで。] (20) 2020/10/06(Tue) 9:45:53 |
【人】 二年生 小林 友[出来るだけ近くで彼女の気持ちを聞きたくて 影に寄り添い、声に出す。 ─────ああ、悔しい。悔しいなあ。 もっと触れたい、近くにいたいのに。 便箋を書いては消して、書いては消して。 今までのやり取りは頭の中。] (21) 2020/10/06(Tue) 9:47:24 |
【人】 二年生 小林 友[そんな扱われ方をした便箋が…… もう、裏なんかセロテープが無いとこの方が 珍しいくらいになっているそれが、 こうなる事なんて、分かっていたはずなのに。] ─────……あっ! [何となく書き添えた、赤いハート。 恥ずかしくなって消そうとしたら、 びり、と音を立てて便箋が裂けてしまった。 慌てて学習机の上に手を伸ばして セロテープを取ろうとしたら、 手も触れていない便箋が、びり、びり、 もう耐え切れないのだ、と言わんばかりに ひとりでに千々に切れていく。] (22) 2020/10/06(Tue) 9:49:07 |
【人】 二年生 小林 友ちょっ、えっ、待ってよ! [慌てて便箋を手で押えても、手の下で 容赦なく紙は裂けていく。 たとえ破られても、 焼かれても、また轢かれても、 血の出るわけではなし、 また痛たいということもなかったのです。 この紙が無くなったら、菜月に逢えない。 いやだ、いやだ、嫌だ! 焦る俺を他所に、 シャーペンと消えるインクの跡を刻んだ便箋は もう飛ばす寸前の紙吹雪みたいになっていて。 ただ、この地上にいる間は、 ]おもしろいことと、 悲しいこととがあるばかりで、 しまいには、魂は、みんな───── (23) 2020/10/06(Tue) 9:55:46 |
【人】 二年生 小林 友[ともかく、セロテープで繋いでしまえば…… そう思って、紙から手を離した矢先。 細かく千切れた便箋たちは、 たちまち真っ青な 蝶 へと姿を変えて窓の外へと飛んでいくと、 まんまるなお月様の方へと 飛び立っていくのでした。] (24) 2020/10/06(Tue) 9:59:36 |
【人】 二年生 小林 友[行く手に美しい星の光る空を仰ぎ 窓から身を乗り出すようにして 俺は一人、大きな声を上げて泣いた。 「さびくて、しかたがない!」 真っ青な蝶の昇った空には ただ青ざめた顔をした月が 黙って地上を見下ろしていた。]* (25) 2020/10/06(Tue) 10:05:32 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[家に帰ってからも、私たちはやりとりを続けた。 スマートフォンと違って、通知も一切なかったけど、 時々、友君が書いている瞬間に立ち会えた。 そういう時は、椅子とコップをもう一つずつ。 一人用の勉強机に二人分並べて、 頬杖をついて便箋を眺めた。] (26) 2020/10/07(Wed) 6:16:23 |
【墓】 二年生 早乙女 菜月[あはは、ごめんね。 お客さんに上の子見てもらうために頑張ってたのに。 ちょっとすねすねモードはいってた。 そんなことを、返事に書こうかな。] (+9) 2020/10/07(Wed) 6:17:14 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[青インクと黒炭の染み込んだ便箋に、 赤いハートが浮かび上がる。>>22 可愛いの。見ちゃった。 すぐに消そうとするのも可笑しくて、 くすっと笑いが漏れる。 自分のもろさをさらけ出す私に、 友君はたくさん寄り添ってくれる。 友君との会話が楽しすぎて、永遠に続いてほしくて。 だから便箋はぼろぼろで、 いつか破れてしまうことは分かっていたのに、 目を逸らし続けてしまった。] (27) 2020/10/07(Wed) 6:17:42 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[世界の破ける音がした。] ……あ!? [友君、破っちゃったのか。 便箋、薄くなってるもんね。 分かっていても、大きな裂け目がメッセージを破くのは、 ショックな光景だ。 ちぎれた断面を合わせると、 もう一度、びり、と破けた。] え、うそうそ、 やだ、 [びり、びり、紙がひとりでに破けていく。 便箋を押さえつけると、手と机の間から、 一羽の蝶が飛び立った。 青いはねを一心に動かして、 透き通った美しい翅脈が見えるほど近くを通り過ぎる。] (29) 2020/10/07(Wed) 6:20:42 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[もう一羽。もう一羽。 するり、するりと手のひらの下から、 蝶の群れがあふれ出す。 友君と私の言葉を含んだ蝶は、 青い翅をきらめかせ、 銀の鱗粉を振りまきながら、 窓から空へを昇っていく。 月が二つに分かれた。違う、涙でぼやけているだけだ。 ねえ、待って。 もう一度だけ時間が欲しい。 だって私まだ、好きってことさえ言えてない。 そう蝶に訴えても、一羽だって振り向いてくれなくて、 私達は、ちゃんとお別れさえできなかった。]** (30) 2020/10/07(Wed) 6:21:25 |
【墓】 二年生 小林 友[どんなに見つめても、影は影。 うすぼんやりとした黒い輪郭が 目の前で揺らいでいるだけ。 触れたはずの唇が空を切って 微かな空気の揺らぎだけが すう、と湿った唇を撫でた。 唇を離すと、影の手が俺の手を取り 心臓の辺りへと導いてくれた。 どく、どく、と脈打つ肉の感触もなく 俺の手はきっと、菜月の心に触れている。 脆くて危うい其処はきっと、 乱暴に暴けば傷が付いてしまう。 けれど、それを躊躇う程度には 柔らかくて、綺麗な形をしているのだろう。] (+10) 2020/10/07(Wed) 19:20:26 |
【墓】 二年生 小林 友[俺は、ぐっと空を掻いて 菜月の柔らかい部分に触れようとした。 けれど、それはやっぱり虚空のまま。 触れていたら伝えられたんだろうか。 ありったけの「好き」の気持ちを 菜月の中に撒き散らして…… そこから奇跡でも芽吹いてくれていたろうか。] (+11) 2020/10/07(Wed) 19:20:45 |
【人】 二年生 小林 友「どうしたの?!もう夜も遅いのよ?!」 [驚いた様子の母さんを押し退けるように 俺は家の外へと飛び出した。 青い蝶は一匹残らず、 大きな月へと旅立ってしまった。 泣いても、叫んでも、 ただ慣れた顔のご近所さんが 窓からひょっこり顔を出すだけ。 頬を伝う涙が口へと流れ込んで まるで、海に溺れたみたいに塩辛い。] なつきィィィィーっ!!! [どれだけ叫べば届くのだろう。 世界を隔てて、君のところまで。] (31) 2020/10/07(Wed) 19:21:09 |
【人】 二年生 小林 友[この俺の有り様を見た人は聞くんだ。 「ともちゃん、大丈夫?」 「死のうとしてない?」 「ダメだったらいつでもいいなさい」 結局、誰も何も問題解決になってない。 みんな、話して解決すると思ってる。 話せば100%受け入れてくれる? 気持ちを分かちあって「ひとりじゃないよ」? それはただの慰めで、解決じゃない。 「陰キャだから、ひとりでいるから なんだか死にそうに見える」? 問題はもっと奥深いぞ。 俺は、ただ俺自身が嫌いなだけ。] (32) 2020/10/07(Wed) 19:21:31 |
【人】 二年生 小林 友[俺は月を見上げて叫んだ。] 途中で奪うくらいなら、 なんで菜月にあわせたんだよ!! もううんざりだ、何もかも!! さびしくて、しかたがない! [青白い月が、まっすぐ俺を見ている気がして。 その時、母さんや近所の人たちが 何を言っていたかも、覚えていない。 ただ、俺は声を限りに、願った。] (34) 2020/10/07(Wed) 19:22:22 |
【人】 二年生 小林 友どうか、この俺を消してください。 菜月がいないのなら、 こんなところにいたくない! [それを聞いた月は、何を思ったのだろう。 ふわり、と掬うように俺の意識は途切れて 闇の中へと堕ちていった。]* (35) 2020/10/07(Wed) 19:23:42 |
【置】 サティ家次期当主 シャーリエ私の騎士 リフル へずいぶんと経ってしまいましたがお元気ですか。 あなたがいない間に庭はすっかり変わりましたよ。 背の高いシイの木に小鳥が巣を作りました。 小鳥の家族はいつも歌っています。 朝がにぎやかになりました。 うらやましくなります 料理人の彼はお屋敷から出て家を買ったそうですよ。 1人部屋が寂しくなったのでしょうか? 隣にいる人って大切ですね 私は去年の収穫祭でサーカスを見ました。 彼らも旅から旅へ行く身だそうです。 どこかであなたと同じ街にいることもあるのでしょうか。 私もあなたと同じ場所に この国にも技師が増えました。 私たちはいつでもあなたを歓迎します。 どうかお元気で旅路を歩まれますように。 私はあの日に戻りたい あいた い ―― 数年しまわれたままの手紙より ―― (L1) 2020/10/07(Wed) 22:51:53 公開: 2020/10/08(Thu) 1:00:00 |
【人】 アクスル[外へ出て、 別れを惜しみながら帰国して……、 それから何日後のことだったか。 何日であれ、この日が来ることを 今日か今日かと心待ちにしていた。] (36) 2020/10/08(Thu) 0:06:01 |
【人】 アクスル治人! [空港の到着ロビーでその姿を見つければ 軽く手を振りながら 長い脚を動かして寄っていく。 袖口から微かに覗くのは彼から貰った枷。] ……治人。元気にしてたかな? [仮にもセレブ。屋内でもつけていた 変装用を兼ねるサングラスを外しながら 顔が緩んでいくのを自覚する。 到着予定時刻の二時間も前から ここで待っていた……、ことは、 SNSでの目撃情報でも見られてしまわない限り わからないだろう。きっと。] (37) 2020/10/08(Thu) 0:06:15 |
【人】 アクスル[大切な彼を座らせる席だ、 当然、ファーストクラスを手配した。 サービスは充実していた筈だが 12時間ものフライトを終えたばかりの彼。 お腹が空いてないか訊ね 空腹なようならレストランで食事をしてから 不要なようならそのまま 自宅である古城へと連れて行こうとするだろう。 ……運転手付きの車で。**] (38) 2020/10/08(Thu) 0:06:43 |
【人】 花の名 リフル― 彼の人の旅立ちの日のあと ― [私は、庭で彼女に手招きをした。 おいでおいで、と猫なで声で彼女を誘って、 彼女が来たらその場に座って 「膝枕をしてあげる」と上目に笑った] いいこ、いいこね、メグ。 [優しく髪をふわふわと撫でながら、 思い切り甘やかす様な声と手付きで彼女を可愛がる。 けれど、 その感覚も、声も、存在も、徐々に薄くなってゆく。 彼女に認知されなくなってゆく] ………メグ、 私の事、 忘れないで ね…… [声が消え行く。 私、本当はあの日>>18、 「もう私の事は忘れてね」って言おうと思ってたんだ。 私の声が、消え行く。 彼女はやがて目を覚ますだろう] (39) 2020/10/08(Thu) 5:20:14 |
【人】 花の名 リフル― 帰国者のあった日の朝 ― [私は、きっと久々に彼女の前に現れた。 にっこりと、上品ながらも満面の笑みだった。 彼女はもうすごくしっかりしてきたのに、 私の方が昔に戻った様に「ねえねえ」と子供っぽく手を振った] また逢えたね。 [手を伸ばして、彼女が取ってくれるのを待った。**] (40) 2020/10/08(Thu) 5:33:37 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[ 「せーの!」「あ、い、う、え、お!」「せーの!」「か、き、く、け、こ!」…… [グラウンドに響く声は大きい。 ちなみに体育館では発声練習禁止です。つば飛んじゃうから屋内はちょっと。 肺一杯に空気を詰め込んで、おなかの底から声を出していると、頭がぼうっとかすんでくる。華やかさとは裏腹に、チアは地味な反復練習が多い。頭で考えなくても動けるように、ひたすら体に覚え込ませる。何十分も同じ動きをしていると、頭が白く溶けていく。 そういう時間が、今の私には必要だった。] 「菜月、笑顔! みんなを元気にするのがチアなんだから!」 [指摘されて、にっと口角を上げる。 笑ったんじゃなくて、口角を、上げた。 皆を元気に、なんて、私にできるはずがない。 友君に勇気づけられてばっかりだったんだから。 細くなった筋肉に、必要以上に負荷をかける。 生まれたての小鹿みたいに、歩くたびに膝が折れる。] (41) 2020/10/08(Thu) 5:58:07 |
【人】 二年生 早乙女 菜月「ナツキ……戻ってきたのは良いけど、正直、怖いよ。 前はもっと、休憩時間も騒いでたのに。 今のナツキは、練習だけしに来てるみたい」 [ 心配してくれるのはわかるけど……ってこと 俺もよくあるよ。 友君の言葉がいつも、頭をよぎる。 なにそれー私すんごい熱心じゃん! なんてはやし立てる。 笑い飛ばして、無かったことにしようとする。] 「ろくに食べてないよね。 いくらトレーニングしても、食べなきゃ意味ないでしょう。本当にやる気あるの?」 [そう言ってきた先輩もいた。さすが上級生、よく見ている。 ウス、先輩ご馳走してくれるんスか? ありがとうございます、なんてへらへら笑ったら、もっと怒られた。 あーあ、失敗しちゃった。] (42) 2020/10/08(Thu) 6:00:17 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[柔軟体操をしていると、アキナと目が合った。 アキナは一瞬、なんとも言えない表情を浮かべると、何かを言いかける。 けど、その言葉が出てくる前に、他の部員に話しかけて、結局何も話さなかった。 復帰しても結局、こんな感じだ。 あれからうまく話せていない。 ペアも外されてしまった。 もしかしたら自分の中に 汚い気持ちがあるかもしれない、って 菜月は言うけれどもさ 少なくとも「今」の菜月は そんなことしないだろ。 「今」の私はどうだろう。 優しい老夫婦が人魚を売ったように、表と裏はくるくる変わる。 きっと私もたやすく、良くも悪くも転ぶ。 チアリーディングはスポーツだ。 グラウンドの外の花じゃない。技を競う真剣勝負。 勝利の証は、会場に溢れる笑顔。 誰かを応援するために、競い、高め合う。 だから、応援したい人を失ったら、強くなれないのは当然のことで。] (43) 2020/10/08(Thu) 6:01:13 |
【人】 二年生 早乙女 菜月[そんなことは分かっていても、私は必死にチアに打ち込む。 そうしていないと、友君のことを思い出してしまうから。 線路や、紅葉や、月や。 何気ない風景を見るたびに、友君の言葉が思い浮かぶ。 俺も、絵があるのも好き。 けど、この本は写実的っていうか…… 読んでるうちに頭の中に風景が浮かぶんだ。 そうだね、友君。 世界にはこんなにも、友君と拾い集めた風景が散らばっていて。 何もしないでいると、空を眺めるだけで泣いてしまう。 自分の体を苛め抜いて、泥のように眠る。 だけど夢の中では、いつもあの図書室にいて。 目を覚ませば、友君ともう会えないことを思い出して、べそべそと泣いた。] (44) 2020/10/08(Thu) 6:02:06 |
【人】 二年生 早乙女 菜月「また延長ですか」 [司書の先生が呆れたように言う。 あれから、図書室と友君の世界は断ち切れてしまった。それでも二週間に一度は足を運ぶ。 小川未明童話集、「赤いろうそくと人魚」。私が唯一借りた本を、何度も延長する。 「何か月借りるつもりですか」「卒業する時に買います」「これ備品だから高いよ。アマゾンの本が安いですよ」「この本が良いんです」「もう読み飽きたでしょう」「まだ読み終わってません」 そう、まだ私はこの本を読み終えていない。 友君と一緒に読もうと思っていたから。 きっと、この本を読み終えることは、無い。]** (45) 2020/10/08(Thu) 6:03:03 |
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