[　艷めく鱗と同じ色合いをした髪が首筋に描く線が、
　 宗教画じみた非現実的さを孕んでいたものだから。　]

（　立場が異なるからこそ、
　　同情は叶っても共感は出来ぬ。

　　だが、憐れみに混じる喜びに似たこの感情は何だ？
　　……奴は血に染まるのが喜ばしい、
　　これまでの復讐相手とはまるで違う筈なのに。　）


　　　　　　　[　────不理解。空白感。
　　　　　　　　 掴み所のない感情の出処を知らないのは
　　　　　　　　 彼が精神的充足と共にある『恋』を
　　　　　　　　 経た過去がまるでないからだった。　]

　　　　　　　　　（　────嗚呼、だとしても。　）

　
[　唯の田舎娘にそこまでさせる程の呪いを投げ掛けた。
　 互いに律し、戒め合ったこの運命は
　 漸く終局に差し掛かろうとしている。　

　　 戦を終えれば、心を奮い立たせる理由も
　　 慈悲や情けを殺して埋める必要もなく。
　　 奇運に振り回され続けた少女のこれまでを思えば、　]

　　　　　 　
　（　せめて安らぎを、と思わずには居られまい。　）

[　微かな震えが起こるのも厭わずに、
　 唯々凍え切った身を温めようときつく抱き締めた。

　 濡れて張り付いた衣服の残骸など投げ捨てて、
　 人と獣の合間に在り、倒錯的ですらある肉体の
　 薄い肩をさすっては、髪を梳いて退かしてやる。　]

（　お前はもう“物”から脱却したのだから　）

[　縛り付けられて来た心が、愛されなかった子供が、
　 本当は心の中で何を求めていたのか。

　 其れを表現する術を持たない儘触れ合って、
　 名前も知らない“与え与えられる喜び”に溺れていく。

　 枷の外れた心は二十余年未知だった領域に踏み入っても
　 もう、どんな恐怖を覚えることもなかった。

　 ……総ては雨の降り頻る、長い夜の秘め事の中に。　]*