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![]() | 【人】 眼科医 紫川 誠丞「そのうち結婚なさるんでしょう? 先生も」 [曖昧に返事をして、ペンを走らせる。 余白がほとんどない色紙に書く言葉を探し、ありきたり過ぎないかと頭を悩ませる時間。見慣れた外来の診察室で、隣には看護師……いや受付の事務員か、ぼんやりとした外郭の人間が暇そうに立っていて、私が書き終えるのを待っている。 書き上げた一枚を手渡す。機嫌良さげな、それでいて得意ではない類の好奇心の色を隠さず、相手が笑いかけてくる。その唇が動き、何かを言った。 ……こんな時は、無難なことを言っておくに限る] いや、結婚は…………どうでしょうね。 昔からずっと、好きな人がいるんです。 [口から出た言葉に、自分でぎくりとする。 身を乗り出してきた彼女が連ねる質問に、洗いざらい答えてしまう。そんなプライベートな話は職場の人間に聞かせるべきじゃないのに、自分の身体を制御出来ない。どうして。 笑顔を浮かべていた彼女が首を傾げる。 すっと表情が消えた双眸が、白衣の男を捉えた] 「先生は、……その人のどこが好きなんですか?」 (64) 2022/05/23(Mon) 22:26:50 |
![]() | 【人】 眼科医 紫川 誠丞[彼女──だと思っていた輪郭が、声が。 次第に変質していき、気付けば目の前に「阿出川くん」が立っていた。 その空間の異常さに私は何の疑問も抱かず、咄嗟に腕を掴もうとした手が空を切る。 「会いたかった」と再会を喜んだが、何かがおかしい] 「……せんせぇー、なんで俺のこと好きなの?」 [時間の流れを置き去りにした、昔のままの彼が。 私に問い掛けてくる] (65) 2022/05/23(Mon) 22:27:08 |
![]() | 【人】 眼科医 紫川 誠丞[「好き」な理由──なかなか難しい質問だ。 学生時代は特に 希薄な人間関係ばかり築いていたから 憧憬や親愛を拗らせただけだ、 彼の顔が男にしては綺麗で可愛かったからだ、とか。 そう考えて、彼に似ている要素がある人なら 好きになれるんじゃないかとも思ったが駄目だった。 性格、立ち振る舞い、外見。 言葉にすると淡白で説得力に欠けるように思えて 記憶を遡り、好きだと思った瞬間を順に思い起こせば、 あり過ぎて話し始めたらキリがないと気がついた。 そして、無数に候補は挙げられるが…… 例えば変わってしまったら冷めてしまうような、 決定的な「何か」は見つけられそうもない。 要素が欠けたら興味が無くなるかと聞かれれば、違う。 かといって「馬鹿」になりきった、 彼の見た目をした人形を可愛がりたい訳でもない。 ……好きでいることが当たり前過ぎて 今までずっと、理由を考えたことも無かった] (66) 2022/05/23(Mon) 22:27:40 |
(a6) 2022/05/23(Mon) 22:36:02 |
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