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【人】 アウローラ[ とおいむかし。まだわたしが小さかった頃。 よく、夢を見ていたの。 ここではない、どこか知らない場所。 知らない景色。知らない人たち。 そんな世界で、わたしじゃない「私」は生きてきた。 物心ついた頃からずっと、そんな夢を、見てきた。 先生やシスター、親代わりになってくれた領主様。 孤児院で一緒に育った年上の兄姉たち。 他の誰に聞いてもわからない、 わたし以外の誰も知らない、 その見知らぬ世界の記憶が 所謂『前世』と呼ばれるものだと知ったのは、 本当につい最近。 ―――…半年前、わたしがはじめて、 この学園に足を踏み入れたときのことだった。 ] (148) 2022/05/18(Wed) 23:06:11 |
【人】 アウローラ[ 『夜明け告げるは星の唄』 あの遠い世界で、「私」が遊んでいたゲームの名前。 そう。今、わたしが生きているこの世界は 「私」がかつて生きてた世界の人たちにとっては、 ゲームと呼ばれる架空の物語の一つなんですって。 所謂『乙女ゲーム』と呼ばれるその物語は、 とある地方の村の孤児院で育った主人公の許へ、 ある日、王都から魔導師たちが訪れるところから始まる。 魔導師たちによると 主人公はこの世界では特に稀少な光の魔力を持っていて その保持者を保護する(或いは利用するために) 王侯貴族の子女たちも通う王都の学園への入学を 特別に許可されることになる。 主人公は、この国の王子である双子の兄弟や公爵令息、 騎士団長の息子や宰相の一人息子など、 個性豊かな青年たちと出逢い、 彼らとのさまざまな交流を通じて、 恋に邁進したり(時に妨害を受けたり) 彼らと協力して世界を救ったりする、そんな物語。] (150) 2022/05/18(Wed) 23:10:02 |
【人】 アウローラ[ 『夜明け告げるは星の唄』は 元いたあの世界では、所謂王道とされる部類で、 それほど珍しかったり、目新しい物語ではなかった。 それでも、夢の中の「私」はあの物語が好きだった。 ゲームという物語の中で、悩みや試練に向き合いながら 少しずつ、主人公と心通わせていく、 ―――…そんな、彼らの姿が大好きだった。 ] (151) 2022/05/18(Wed) 23:12:56 |
【人】 アウローラ[ だから、このゲームの世界に、 あの物語の主人公として転生したのだと それがわかったときは、本当に嬉しかった。 いつも、夢に見ていたあの人たちに。 画面の向こうの彼らを、実際にこの目で 見ることができると思ったから。 彼らと、言葉を交わすことができると思ったから。 だって、今のわたしはあの物語の「主人公」そのもので。 夢の中で描かれた、彼等と心通わせる女の子の姿は 確かに、今のわたしと同じ姿をしていたから。 彼らに、愛してもらえるかも、なんて、 そんな、ほんの少し都合の良い、甘い夢を見たの。 ……それが思い違いだと理解するのに、 きっと、そんなに時間はかからなかったと思う。 ] (152) 2022/05/18(Wed) 23:15:23 |
【人】 アウローラ[ 学園に入学してから、『攻略対象』と呼ばれていた 彼らと何度か話をすることができた。 この国のみならず、この世界でとても稀少な、 『光の魔力』を持つ平民の女の子。 それが、今のわたしの立場。 この世界では本来、魔力を持つ者は 王族や貴族などごく限られた者ばかりで、 多くは地水火風の四大属性の何れかひとつ。 複数の属性を持つ者もいるけれどそれはかなり珍しく、 数年に一度現れるか否かといったところらしい。 そして、そんな二重属性以上に稀少とされるのが、 わたしが有する光の魔力、なのだそうだ。] (153) 2022/05/18(Wed) 23:18:03 |
【人】 アウローラ[ そして、そんな物珍しい存在であるわたしに、 彼らも、彼ら以外の人たちも皆興味を持ったようだった。 いい意味でも、…悪い意味でも。 平民であるわたしが、王侯貴族である彼らと 気安く話をすることを快く思わない人たちは もちろんいっぱいいたけれど。 それでも、面と向かって彼らに 意見を口にする人はいなかった。 そのぶんの皺寄せがわたしのほうへ来るのは、 まぁ…仕方のないことよね。 ] (155) 2022/05/18(Wed) 23:19:25 |
【人】 アウローラ[ 閑話休題。 『攻略対象』の彼らと話をするたび、 殆ど必ずと言っていい程、話題に上がる人がいた。 マティルダ・ルース・デア=フォルトゥーナ。 攻略対象の一人である弟王子とは 幼い頃から親同士の決めた許嫁であり、 公爵令息にとっては義理の姉にあたる。 ゲームの中では所謂『悪役令嬢』とされていた彼女。 かつて「私」がプレイした記憶の中でも、 マティルダ様は初対面からいきなりきつい言葉で 嫌味を言ってくる怖い女性という印象だった。 そして、それはゲームの中の攻略対象たちにとっても 同じだったらしく。 ゲームの中では、彼女はどのルートを辿っても 次第に婚約者である弟王子から距離を置かれ、 貴族たちのグループからも、次第に孤立していく。 そうして最終的に、ラスボスである闇の精霊に 心の隙を突かれ悪堕ちし、主人公たちに倒される。 そういう、キャラクターのはずだった。 ] (157) 2022/05/18(Wed) 23:20:21 |
【人】 アウローラ[ ところが、攻略対象の皆が語るマティルダは 「私」の知っているマティルダとは大きく違っていた。 ―――誰にでも優しく、分け隔てなく接する まるで女神のような存在。 入学してまもなく聞いた、マティルダに関する噂話。 実際、この世界で生きる彼女はゲームの彼女とは 何もかもが正反対な少女だった。 ゲームの中では内心距離を置かれていた弟王子とも 険悪な間柄になっていた義弟である公爵令息とも その関係は良好そのもの。 時折、その二人がマティルダをあいだに挟んで 彼女を取り合う姿をわたしも何度か見かけたことがある。 そして、仲がいいのはその二人ばかりではない。 本編では特に接点の無かったはずの、 騎士団長の息子とも、宰相の一人息子とも、 いつのまにか幼馴染といっていい間柄になっていて、 その関係はいずれも、穏やかで親愛に満ちたものだった。 そして、先に述べた様に マティルダが優しいのは攻略対象ばかりではなく。 学園に通う貴族の子女からも、 王都の人々からも頗る評判がいい。 ] (159) 2022/05/18(Wed) 23:24:31 |
【人】 アウローラ[ ……攻略対象の皆から話を聞くたび、 ずっと、思っていたことがある。 「マティルダ様は、もしかしたらわたしと同じ 『転生者』なのかもしれない」って。 「不仲だった自分たちの仲を取り持ってくれた」 双子の王子たちが微笑って話してくれたこと。 「娼婦の子として産まれ、孤独だった自分に、 手を差し伸べて、家族の温もりを与えてくれた」 公爵令息の彼の、懐かしむような温かな眼差し。 「国の英雄である父を越えなければいけないと、 自身の才能の無さに思い詰めていた自分を諭してくれた」 騎士団長の息子の真摯な眼差しと言葉。 「母を病で失くしてから愛を知らず育った自分に、 人として本当に大切なことはなにかを 何度も何度も、母のように根気強く語ってくれた」 そんな彼女の力になりたいと、 わたしに語って聞かせてくれたのは かつての「私」のイチ押しだった宰相の一人息子。 ] (160) 2022/05/18(Wed) 23:31:49 |
【人】 アウローラ[ ゲームの中の彼らが抱えていた問題を マティルダは彼らが幼少の頃に解決、 あるいは心の整理、決着を果たしていて。 わたしの知らない十年近い年月の中で。 マティルダと彼らは、穏やかで、あたたかくて それでいて強固な絆を築き、成長していた。 少なくとも、彼らとマティルダのあいだに わたしが割って入ることなんてできないくらいに。 そんなことは許されないと、はっきりわかるくらい、 彼らの関係は―――…わたしの目には、とても、 眩しいものに映っていた。 ] (161) 2022/05/18(Wed) 23:33:04 |
【人】 アウローラ[ ……でも、それなら。 「わたし」は、どうしてここにいるのだろう? 今、この世界に生きているわたしは、 なんのために存在しているんだろう? 今、彼らの物語に、わたしは。 「ゲームの主人公」は必要ない。 葛藤も、孤独も、焦燥も、愛に飢えることもない。 それを解決するための存在を、彼らが求めることはない。 だって。彼らは今、とっても満ち足りていて、 幸せなのだから。 ] (162) 2022/05/18(Wed) 23:35:01 |
【人】 アウローラ[ わたしがまだ「私」だった頃 いつだって、彼らの幸せを願っていた。 目の前でわたしと話してくれる彼らは、 かつての私が願っていたように…ううん。 私が想像していた以上に、眩しいくらいに幸せそうで。 …そんな彼らを見るたび、ちくりと胸が痛んだ。 ほんとうなら、わたしは。 彼らの幸せを喜ぶべきなのに。 彼らに幸せを与え、笑顔にしているのは 彼らにとっての幸せな物語を作り上げたのは、 そして、彼らが幸せを願うのは。 ―――…他の誰でもない マティルダという、 彼らにとってかけがえのない、たった一人の女の子。 そのことを想うと、どうしようもなく 自分の中に目を逸らしたくなるような、 そんな気持ちが芽生えてしまう] (164) 2022/05/18(Wed) 23:38:29 |
【人】 アウローラ―― 星燈祭の夜/図書館 ―― ……はぁ。 [ 溜息と共にそっと視線を窓の向こうに向けた。 色とりどりの魔法の燈に照らされた中庭の噴水が きらきらと煌めくのが見える。 王都に瞬く星々を消し去ってしまいそうな輝きと、 楽団の軽やかな演奏を背に、学園の生徒たちが 次々にパートナーと手を取り合って踊り始める。 見知った顔も、あまり馴染みのない顔も、 皆、等しく、華やかに着飾って。 ] (166) 2022/05/18(Wed) 23:42:07 |
【人】 アウローラ[ 年に一度、ちょうど学園に入学してから 半年ほど経った頃に開催される『星燈祭』。 あちらの世界でいう「学園祭」と呼ばれるものに近い このイベントは、ゲームの中でも特に重要なものだ。 星燈祭の夜、裏庭にいると 攻略対象のなかで一番好感度が高い人物が 主人公の目の前に現れる。 そしてそれは、その人物の攻略ルートに入ったということ。 『夜明け告げるは星の唄』では、 基本的に誰かしらのルートに入る仕様になっている。 仮に攻略対象全員の好感度がゼロだった場合、 キャラクターにはそれぞれ優先順位が存在していて、 その優先順位に沿う形でルートが解禁される。 少なくとも、そういう仕様になっていた。 攻略対象の好感度がゼロの状態で、 ]特殊なフラグを立てておくと 攻略対象以外のキャラのルートへ行けるらしいが 「私」はそこまで詳しくはなかった。 (167) 2022/05/18(Wed) 23:44:39 |
【人】 アウローラ[ でも、裏庭にいっても、そこには誰もいなかった。 考えてみれば、当然よね。 だってここはゲームの中ではなくて、 そしてなにより、わたしは…あの夢の中で見たような 『ゲームの主人公』ではないもの。 どんなに他の人たちから特別だと言われる力があったって、 わたしは、ただの平民の女の子。 どれほど彼らを想ったとしても。 子供の頃からずっと絆を築いてきた、 彼らを救うために奮闘してきた彼女には、敵わない。 ] (168) 2022/05/18(Wed) 23:47:14 |
【人】 アウローラ[ ……頭では、わかっていた。 あの人たちが誰を想っているのかなんて、 そして、誠実な彼らが彼女以外に 目を向けたりしないなんてことは。 わかっていた。そのつもりだった。 それでも、心のどこかで 期待していた自分がいたことも 否定できない。 いつか、攻略対象の誰かが…たった一人でもいい、 彼女と比べることなく、わたしを見てくれることを。 そんな夢物語みたいな展開を、 望まなかったといえば、嘘になる。 ] (169) 2022/05/18(Wed) 23:48:34 |
【人】 アウローラ[ この半年間、ずっと、自分なりに努力してきた。 ゲームではみんなを攻略するためには ステータスも重要な要素だったから、 彼らと話をするだけじゃなくて、 学園での勉強も、魔力磨きも、身体を鍛えることも 思いつく限りのことはなんだってしてきた。 其れと同じく、ゲームでは 彼ら自身の好感度を上げるだけではだめだったから 学園内の他の人たちとも心を通わせようとしてきた。 あの人たちと一緒にいたくて……ううん、 いつか、誰かに「わたし」を選んでほしいなんて。 そんなバカみたいな思い上がりをカタチにしたくて がんばった。がんばってきた。] (170) 2022/05/18(Wed) 23:50:11 |
【人】 アウローラ[ でも、それは叶わなかった。 さっき窓から見えた光景を思い出す。 踊る生徒たちの中心にいたのは、 マティルダと、彼女が愛してやまない弟王子。 そして、そんな二人を温かく見つめる攻略対象たち。 ] ……。 [ そんな光景に堪らなく胸が締めつけられて 窓に背を向けて、その場を立ち去ろうとした。 ] (171) 2022/05/18(Wed) 23:50:46 |
【人】 アウローラ[ 彼らのことが、大好きだった。 今でもきっと、その気持ちは変わらないまま。 彼らに幸せでいてほしいと願っていた。 わたしが「私」であった頃から、ずっと。 そしてこの世界は、そんな願いが叶った世界。 悲しみや辛さ、悩みを抱えていた彼らが 抱えていたものから解放されて幸せでいられる世界。 この世界は、わたしにとって『美しい物語』 かつての「私」も夢見た世界。 ……だけど、この世界にきっと、「わたし」はいない。 わたしの居場所は、ない。 この世界の、どこにも。 (172) 2022/05/18(Wed) 23:51:44 |
【人】 アウローラ ……きゃっ。 [ 先程まで見ていた景色に気を取られていたせいか 何かに躓いて転んでしまう。 運が悪いことにその拍子に近くにあった本棚から 本が数冊、此方に落ちてきた。 ほとんどの本が直撃を免れたのと、 それほど重い本じゃなかったのは幸いだったけれど。 ] …。 (173) 2022/05/18(Wed) 23:55:01 |
【人】 アウローラ ……っ [ 不意に視界が歪んだのは、 本と一緒に落ちてきた埃が目に入ったから。 そして、本が落ちてきた痛みが、 急に時間差で襲い掛かって来たから。 熱を帯びた頬をさらに熱い雫が伝って、 目の前の黒い装丁の本にぽたりと雫が落ちたのだって。 ……決して、泣いてしまったわけじゃ、ない。] [ ―――…でも、] (175) 2022/05/18(Wed) 23:56:45 |
【人】 アウローラ[ その黒い本に手を添えたとき。 確かに、声が聴こえたの。 『泣いているのか?』って。 窓の外から差し込む光で、青みがかった景色の中。 気がつけば、さっきまでは聞こえていた外の喧騒が いつのまにか聞こえなくなっていて。 ……シン、とした静寂が、部屋の中に満ちていた。] …………。 [ 暗闇の中から問いかけてきた声は。 床に倒れ込んだままの私を見おろす、 暗闇に潜んだままの血のように赤い瞳は。 恐ろしいはずなのに、 なんだか酷く奇妙で、…そして少しだけ、 優しげに見えた。]* (178) 2022/05/18(Wed) 23:59:27 |
(a12) 2022/05/19(Thu) 0:41:51 |
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