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【人】 Dom サクライ ー むかしむかしのはなし ー [それから度々、榛原と二人出掛けては 写真を撮るようになった。 夏 には電車を乗り継いで海辺を走る電車を、秋 には一面紅葉に彩られた山を、冬 には二人で繁華街の片隅に作った小さな雪だるまを。最初に撮った写真より、踏んだ場数の分だけ ピントをどこに合わせるだとか、 被写体の選び方や光の反射のさせ方とか、 基本的なカメラの使い方を覚えていった。 榛原の父親はカメラで有名な会社の部長さんで 母親はピアノ教師、妹が一人。 俺とは違う平々凡々で恙無い家族の話を 外出や、眠りに落ちるまでの時間に話したっけ。 俺の話も、もちろん。] (0) 2021/03/22(Mon) 2:29:54 |
【人】 Dom サクライどんな成績だろうと、多分煙草とか吸っていようと 父さんは跡取りの話しかしないと思う。 [ある夜、俺は榛原に胸中を打ち明けた。 消灯した後の寮の部屋の中、 隣のベッドにいる榛原の相槌は なんだか、とても心強かった。] ……本当は、さ。 家がどうこうじゃなくって ちゃんと俺を見てほしいって思う。 「こんな成績じゃ跡取りに出来ない」じゃなくて 「将来どうするんだ」とかさ。 [それが当たり前になってしまえば 言われてただうざったいだけかもしれないけど、 俺にはその当たり前が羨ましくて、眩しくて。] (1) 2021/03/22(Mon) 2:30:29 |
【人】 Dom サクライ……カメラを構えて、被写体と向き合ってる時は そういうこと考えずに 静かに相手と向き合える気がする。 写真を見た誰かは、 「この写真を撮ったのがどこの家の人間か」 ……なんて、考えないでしょ。普通。 [ひとりで笑った声が、明かりの無い室内に わぁん、と響く。 心細くなった俺が「榛原」と呼ぶと 暗闇の中から「えいちゃん」と返事が返ってきて それでようやく、安心できた。] 「えいちゃん、来週も、再来週も えいちゃんの気持ちが晴れるまで 一緒に写真撮ろうな」 [そんな静かな声が、どんな慰めよりもうれしかった。] (2) 2021/03/22(Mon) 2:31:16 |
【人】 Dom サクライ[その週、いつものように連れ立って 俺達は寮の外の公園へと足を伸ばした。 連日暖かな日が続き、凍えていた春の新芽が 地面から顔を覗かせ始めた時期の事だった。 被写体を探して、俺がファインダー越しに 公園の中を見て回っていた。 そして樹上に芽吹いたばかりの桜の芽から ふとレンズを背けると───── フレームの向こうに 同じように此方に向かってカメラを構える 榛原の姿が、見えた。 「キレーだと思ったものしか撮らない」と 言っていたはずの彼が。 俺がカメラを下ろすと、 榛原もカメラを下ろしてバツが悪そうに笑った。] (3) 2021/03/22(Mon) 2:31:53 |
【人】 Dom サクライ「何もかも忘れて、 自由に写真撮ってるえいちゃん 俺はキレーだと思うよ、って言いたくて」 [そう言って榛原は、ポケットから 数枚の写真を取りだした。 全部、俺。 今まで一緒に撮影に行った先で 被写体と向き合う俺の顔だった。] (4) 2021/03/22(Mon) 2:32:20 |
【人】 Dom サクライ[そうして、まだ蕾も開かない桜の木の下で 俺達はそっと唇を重ねた。 初めてのキスは、生まれて初めて勝ち得た 自由の味がしたと思う。 それから二人で逃げるように寮に帰って 正しい方法も知らないまま、見よう見まねで ただ猿みたいにセックスした。 ─────そこまでだったら、 ただの甘酸っぱい恋の話で終わってた、のに。 結局、生まれてこの方 何かの型にハマって生きていた俺は 「自由」というものに相容れなかったのかもしれない。] (5) 2021/03/22(Mon) 2:34:06 |
【人】 Dom サクライ[榛原と結ばれてから、学校に行ってはセックスして 寮に帰ってもセックスをする毎日だった。 多分あの頃の俺達は猿にすら 軽蔑されていたかもしれない。 だけれど、それが当たり前になるにつれて 何となく、物足りなくなって。 「確かにマンネリなのかな?」と あっけらかんと笑った榛原と色々調べて 行為を写真に収めるのを知った。 野外で人目を盗んでヤるのを知った。 男根ではなく異物を挿入するのを知った。 知ったものは片っ端から試していって 俺達はそれを学園生活の清涼剤にし続けた。 いつしか、清涼剤無しじゃ 幸福を感じられないほどに。] (6) 2021/03/22(Mon) 2:35:21 |
【人】 Dom サクライ[榛原は誰より自由な男だった。 そいつが俺の下に組み敷かれて 恥ずかしい場所を晒して、 人格を疑われるような恥ずかしい行為をする。 全部、俺のために。 ……そんな光景が日常になる。 月日が経ち、学生寮を出て 二人で暮らすようになったら もっと歯止めが聞かなくなった。 それでも、榛原は根を上げて 俺の元から去ったりはしなかった。] (7) 2021/03/22(Mon) 2:36:16 |
【人】 Dom サクライ[「牛乳とゴム買ってくるわ」なんて、 最期の一言に相応しくない台詞を残して 事故で死んでしまわなかったら、 ……多分俺は榛原と今日までずっと一緒にいたと思う。]* (8) 2021/03/22(Mon) 2:39:21 |
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