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人狼物語 三日月国


179 【突発R18】向日葵の花枯れる頃【ソロ可】

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高山 智恵は、メモを貼った。
(a0) 2022/10/17(Mon) 7:52:23

【人】 高山 智恵

 昨日の夜もさ、そうだったんだ。

 カフェのドアに“ closed ”を掛けて、バイトの子たちと店内を掃除して片付けて、売り上げを整理して、SNSを更新して、帰る時にスマホの電源を入れて――。
 チャットの通知が1件来ているのが目に入って。
 ……もう一度スマホの画面を落として、歩いて家路に着く。

 アパートの一室に帰って鍵を掛けて、スニーカーとコートを脱いで鞄をハンガーラックに掛けて、手洗いうがいして、冷蔵庫の中身を思い出しながらカーペットの上に座り込んで。
 それから漸く、新着通知の内容を確かめる。
(6) 2022/10/17(Mon) 8:24:41

【人】 高山 智恵


 チャットに送られてきていたのは、全くもって可愛らしくないワイルドな顔の野良猫の写真。
 
(7) 2022/10/17(Mon) 8:27:11

【人】 高山 智恵

 ……野良猫? 野良猫だよね? うん。首輪もついてないし、右耳もサクラカットされてたし――ってことは地域猫ってやつなのかも。
 ともあれテレビのCMに出てくるいかにもキュートな猫イメージとは程遠い、歴戦の猛者という風貌の猫の写真。
 “ 彼女 ”はこういう写真を、今でもSNSチャットを通じて私に送ってくる。

 彼女とのチャット履歴には、いかにも「チャット」「トーク」らしいテキストの遣り取りは殆ど投稿されていない。
 彼女が何かしらの写真を送って、たまにその後にスタンプや絵文字、単語一語程度のテキストが添えられてくる。
 それに対して私もスタンプを返したり、或いは短文で感想を伝えたり……という日常が続いている。

 彼女からの写真のセレクトは、新作だったり考案中だったりするメニューのそれらもあるけれど――。
 さっき言ったような可愛げのない猫とか、多分身近で見つけたんだろう鳥だとか虫だとか、っていうのも多い。
 ちなみに私は特に虫が好きって訳じゃないし大学で専攻したとかいう訳でもないけれど、別に苦手でもない。彼女はそれを知っているから虫の写真をわざわざ私に送ってくる、という訳だ。
(8) 2022/10/17(Mon) 8:42:58

【人】 高山 智恵

 そんな、彼女が彼女なりに見つけて送ってきた“ 素敵なもの ”の写真を、私は今でも受け取って見ている――見てしまう。
 彼女が彼女の“ 素敵 ”を進んで私に差し出すのを――その“ 素敵 ”が私に理解不能なものであっても――私は無視することができない。
 中には他の人には拒絶すらされかねない、つまり他に送る相手の宛てがないものもある、というのもあって、なおのこと放っておけないままでいる。

 こうして、私は彼女との繋がりを自分から絶てないでいる。
 自らの目標にあまりにも真摯で、それでいてひどく無邪気で……必ずしも誰からも愛され理解される訳じゃない彼女から、離れられずにいる。
(9) 2022/10/17(Mon) 9:17:33

【人】 高山 智恵


 私の中にあるのが、ただ。
 何の見返りもなく、ただ見つめ続けるだけで満たされるだけの想いだったなら、どんなにか、良かっただろう。
 
(10) 2022/10/17(Mon) 9:17:50

【人】 高山 智恵

 ……こういう私だから、なのかな? 別に関係ないかな?
 私には、ただひとりの相手を献身的に「推す」ということが、よく判らない。
 その結果、音楽サブスクのプレイリストには特定のアーティストを登録することなく、とりあえずざっと聞いて気に入った曲ばかりが「お気に入りLiked Songs」という形で追加され続けている。
 ちなみに私がハートマークを押した曲の最新は知る人ぞ知る海外のシンガーソングライターの最新曲だ。**
(11) 2022/10/17(Mon) 9:21:36
高山 智恵は、メモを貼った。
(a1) 2022/10/17(Mon) 9:38:01

【人】 高山 智恵

 失恋の傷心の客が(お初さんも常連さんも)立て続けに来店したあの日の、明くる日。
 朝がまた訪れれば、昨日と変わらずカフェへと――。
 いや、昨日と変わらず、じゃないか。今日来るバイトの顔ぶれも、お客様の顔ぶれだって、当たり前のように昨日とは違うんだから。

 開店前の店内清掃に食材の買い出し、ピークタイムに備えてのランチメニューの仕込み、SNS告知などなど……。
 一通りの準備を終えた後、お昼ご飯時より少し早い時間に、ドアプレートをひっくり返して“ open ”を通りに知らせる。

 昨日と同じ明日なんて、ない。
 私の心だって昨日とは違う――と、いいんだけれど。*
(34) 2022/10/17(Mon) 18:37:21
高山 智恵は、メモを貼った。
(a8) 2022/10/17(Mon) 20:01:55

【人】 高山 智恵

 ああ、昨日と違う今日という日は――ピークタイムが忙しなく騒がしいという点においては同じだ!
 まあバイト欠勤が無かった分、昨日程ヤバくはなかったんだけれども。


「はい、デミオムはそっち――(3)1n3番テーブルに(1)1d4個、(4)4n6番に(1)1d2個、カウンター(1)1n3(5)4n5番のお客様!
 ペペロンチーノ(5)2n5番、エビピラフ1.5倍(3)3n8番!
 〜〜〜〜そのモンブランは食後! そのココアは食事と一緒にお出しする!」


 店長加わるキッチン班がものすごい勢いで仕上げていくものの配膳先を、ホールスタッフに伝えていく。
 今はとてもじゃないけれど、1テーブルに1店員が対応、という丁寧な形で捌ける現場ではない。
 講義にレポートに研究、他のバイト、ステージ向けの練習――そういったものを抱えながら働くバイトの子たちあって捌くことのできる、この盛況ぶりだ。
(53) 2022/10/18(Tue) 7:57:52

【人】 高山 智恵

 ――こうして怒涛のランチタイムは過ぎていく――

 一段落つく時間帯に、バイトの子たちも休憩を挟んだり、或いはシフト上がりとして退店したりする。
 私も少しだけ休憩を挟んでから、少しだけ落ち着いた店内のカウンターに戻っていく。
 ……落ち着いたって言っても、ピークタイムを越えた後にだって、ザワつく程度には賑わう時間帯ってあるんだけれどね>>50
 ほら、またお客様がひとり、うちのドアを潜ってきた>>50


「いらっしゃいませ!
 こちらのお席へご案内しますね」


 ひとりだけの・・・・・・客をここで敢えて二人掛けの席へ案内したのは、この客が前々からもうひとりの子と一緒にうちのカフェをよく利用していた>>*0から。3年くらい前からのご来店だったかな?
 うん、丁度他のテーブル席もそこそこ程度空いてる時だから、お一人様がわざわざ二人席に案内される程度、そんなに周囲も気にしないだろう。良かった良かった。
(64) 2022/10/18(Tue) 9:14:02

【人】 高山 智恵



「“黒猫のホットココア”ですね? かしこまりました。
 実はこれ、私の発案メニューなんですよ。嬉しいですね」


 ……という、別になくてもいい一言をオーダーを聞いた時>>51に挟めるのも、相手がすっかり“ 馴染みの客 ”という意識があったから。
 いつもならノンシュガーのコーヒーを頼んでくるところを、わざわざ季節限定のメニューを頼んできてくれた、という嬉しさも実際あったからね!
(65) 2022/10/18(Tue) 9:15:06

【人】 高山 智恵

 で、何度も来てくれている“ いつもの ”お客様だからかな――。
 なんとなくだけれどこの子、いつもとは違う感じだ、って私にも思えたんだ。
 いかにも溜息ついてるなーっていう(実際の溜息の音>>52まで聞こえてきた訳じゃないけれど)、そんな感じ。

 まあ今はそんなことより、注文の品をお届けしないと、だけれどね。
(66) 2022/10/18(Tue) 9:15:29

【人】 高山 智恵

 ホットのアールグレイやコーヒーと違って、ホットココアはカウンターではなく厨房で作る。
 ココア粉と辛口のチョコレートシロップ、牛乳を入れた鍋。それを火にかけて、中身をかき混ぜていく。沸騰するギリギリくらいの温度まで温めてから、黒猫模様の描かれたマグに一杯を注いでいく。

 こうして、甘ったるさの無いワイルドな野良猫をちょっぴりイメージした、ビターな“ 黒猫のホットココア ”の出来上がり。
 砂糖抜きのオーダーだった分、ただでさえ微かな甘みはさらに削がれている。そんな苛烈な苦味を、けれどもミルクの滑らかさと温度が和らげてもいる……そんな風味になっている筈だ。


「お待たせいたしました。
 また何かあれば、お声がけくださいね」


 いつもの状況だったらここで「お連れ様がいらした時にまたお伺いしますね」とお声がけするところなんだけれど――今日はこの前までとは少し違うものを感じたので、ちょっと言い方を変えた。
 この言い方の変化、却ってお客様を気にしている感出ちゃってるかも……とは後から気付いたんだけれど、まあ、いいか!
 うん、変に口出しする気は勿論ないけれど(今の賑わい具合だと、多分話の内容も意識しないと聞き拾えないけれど)、見守ってはいるよ、という意識の表れだと思っておくれ。
(67) 2022/10/18(Tue) 9:16:43

【人】 高山 智恵


 ……しかし本当にどうしたんだろうね、この子。
 ダンス続けられないトラブルでもあったとか? まあ、先入観はやめておこうね。*
 
(68) 2022/10/18(Tue) 9:17:02
高山 智恵は、メモを貼った。
(a12) 2022/10/18(Tue) 9:30:14

【人】 高山 智恵

 さて、ついでだからこんな小話もしちゃおうかな。

 うちのカフェのバイト面子の中には、アートとかバンドとかラップとかダンスとか>>1:140――学業とは別方向に励んで夢を追ってる子たちもいる(アートの子は芸大行ってるとかって話だから、学業といえば学業か)。
 で、ダンス――アイドルのダンスでも社交ダンスでもコンテンポラリーでも日舞でもなく、ブレイキンで夢を追ってる子の話だ。
 あ、ちなみにその子も、ついでにラッパーの子も、二人揃ってオフでは派手目だしちょっと粋がってる節もあるみたいだけれど、勤務態度は非常に真面目なのでよろしくね。
(なので、本当は大会の応援>>17>>18とか行ってあげたいんだけれど、そういう時に限ってアレコレあって……)

 その子のシフトはピークタイムメインだったり午後のちょっと混む時間帯だったりで曜日によって違うんだけれど、基本的にはいつでもテキパキと動いてくれるし、ホールスタッフとして申し分ない社交性の持ち主でもある。
 なんだけれど、いつだったかな、ちょーーーっと顔色の優れない時があったんだよね。
 「大丈夫?」ってその時ちょっと聞いたら、返事は「大丈夫」の即答だったんだけれど……少し考える素振りをしてから、「すみません」って言い直して。結局その日、暫く彼を裏方に引っ込ませることにしたんだ。
 “ 何かあったら無理しない ”っていうのは、セクハラの件>>1:65に限らず新人に対して肝に銘じておいて貰う事項だ。だから彼も私も、一度決めたこの判断に惑うことはなかった。
(69) 2022/10/18(Tue) 11:48:35

【人】 高山 智恵

 で、その子が次に出勤してきた日の開店前に、ふっと「あの時どうしたの?」って聞いたんだ。そしたら――…


『いや、その、スミマセン……
 アイツ――知り合いがいたもんで、その……』

 「は、……そういうこと!?」


 別に体調不良でもなく、本気でヤバいことをしてきた相手がいたって訳でもなかった。
 単に、知り合いにここでバイトしてるの知られるのが滅茶苦茶恥ずかしかった
ってだけの話だった。この時バイト初めて日が浅かったってこともあって、その知り合いがこのカフェによく来てるってことをこの時まで知らなかったらしい。
 いくら無理しないって言ってもさー!ってうっかり怒りそうになったけれど、まあ、人に知られたくないものは知られたくないっていうのは私自身、よく理解できるからね……。

 ちなみにその“ 知り合い ”っていうのは……同じくブレイキンのダンサーなんだけれど、一緒のチームで共闘する方じゃなくて、大会で対戦する方のダンサー、とのことらしい。
 そりゃ普段張り合う間柄になってるんだろう好敵手に、このギラギラの欠片もないめちゃくちゃ爽やかな好青年カフェ店員っぷりを見られるのは……ね……。
(70) 2022/10/18(Tue) 11:53:38

【人】 高山 智恵

 結局、それでもうちでのバイトは続けるってその子が言うものだから(お金の問題とかあったんだろう)、特に辞めることもなく今でも元気にやっている。
 例の“ 知り合い ”とうっかり同じ時間帯に店に居ても、初回程の動揺を表に出さない程度には堂々と、そして爽やかな佇まいでお客様と接しているよ。たくましくなったね。


 ……さて、そのバイトの子の“ 知り合い ”は、うちのお馴染みさんのあの子>>1:124なのか否か、って?
 そうだねー、まあ、それについてはまた気が向いた時に。**
(71) 2022/10/18(Tue) 11:57:55
高山 智恵は、メモを貼った。
(a13) 2022/10/18(Tue) 12:13:56

高山 智恵は、メモを貼った。
(a14) 2022/10/18(Tue) 12:17:36

高山 智恵は、メモを貼った。
(a15) 2022/10/18(Tue) 12:25:56

【人】 高山 智恵

 さて、ちょっと気に掛かっていたバイトの子――霧ヶ峰さんのことなのだけれど。
 今日のシフトにはちゃんと無事に来てくれて(少なくともこの時は、無事なように見えた)ピークタイムの戦力になってくれたものだったよ>>75
 その後は、店長指示でバックヤードに行ったのだけれど。
(クリスマス向けの準備は早めに行っている。おそらくお客様方が思うより、ね)



( あの子ももしかして……ううん、 )


 余計なこと考える暇もないくらいの怒涛のランチタイムが、この前の「推し」俳優の報道のあれこれを忘れさせてくれてた……なんて(それこそ余計な)考えは一旦脇に置いた。私自身も今はあまり――自分の身に幾らかでも重なることは――考えたくない。ランチタイムを過ぎてもお客様はまだまだ来られるのだからね。

 ところで私、バイトの子の好き嫌いとか趣味とか、仕事に関わる個々の特性とかは、店長からの共有事項も含めてある程度把握している心算だったのだけれど――。
 何か盛大な聞き漏らし事項その他>>*9があったりしない??

 いや、今はそれを気にしている場合でもなかったね。うん。
(77) 2022/10/18(Tue) 17:58:27

【人】 高山 智恵

 さて、今日の開店後に電話での問い合わせがあったっていう話は、私も把握している。
 昨日うちに残されていた忘れ物の片方の件らしい>>73
 で、霧ヶ峰さんが表に出ていた時>>76だったかな――問い合わせ主のお客様の姿をちらっとカウンター越しに遠目に捉えて。
 その人の顔が記憶に新しい顔だったものだから、思わずぱちりと瞬いてしまったものだった。

 そういえば、ちょっと前にもこんな心当たりがあったな――勿論、今来ている人とは別のお客様のことなんだけれどね。
 一期一会かと思えば意外にそうでもなく、かと思えば本当に一期一会になったりする――って、これは接客業に限ったことじゃ、きっと、ないんだろうな。**
(78) 2022/10/18(Tue) 17:59:06
高山 智恵は、メモを貼った。
(a18) 2022/10/19(Wed) 8:15:41

【人】 高山 智恵

 10年近く前に、私はこの街で暮らしはじめた。

 詳しいいきさつは省くけれど――そう簡単に他人に話したくなるような話じゃない――私はすぐにでも地元から出たかった。離れたかった。
 勉強がそこまで得意って訳でもないのに、何が何でも都会の大学への現役合格を目指したのは、大学進学を口実にしてさっさと地元を出たかったから。無論、実家ってやつに戻る心算も毛頭なかった。
 そのために受験したのは文学部。偏差値が比較的低く、卒業もそこまで難しくない、という評判を塾やネットで見かけたから――本当にただそれだけの理由だった。就活に有利か不利かなんてことは気にしていられなかったし、ましてや「大学で何を学びたいか」という意識なんて、まるでなかった。

 ……とにかく、「こんな閉ざされた世界地元には居たくない」って気持ちばかりが先走っていた。
 自分がこれから具体的に何をしたいか、どこに向かって生きていたいか――あの時の私は何も考えていなかったし、考えられなかったんだ。
 考えられたのはせいぜい、実家からの仕送りを何時でも絶てるように自力で稼ぎ口を見つけなきゃ、ってことくらい。入学してすぐにバイトを探していたのも、これが背景にある。
(96) 2022/10/19(Wed) 16:58:36

【人】 高山 智恵

 そんな、行き先不明のモラトリアムな人間が文学部なんて場所に身を置いたものだったから。
 文学だけじゃなく、文化人類学とか宗教学とか>>1:74、そういったコースを自然に選んでいたのは、心の拠り所みたいなものを求めていたことの表れだったのかなあ。
 卒論内容は重箱の隅をつつくようなテーマにして、とりま卒業できればいいや的な姑息な纏め方したよね……。


 それでもハロウィーンがスクランブル交差点で仮装するだけのお祭りじゃないってことは知ってるし、クリスマスだって恋人たちの祭典じゃないってことも理解しているくらいには、ちゃんと講義で学んで得たことは身についている……と思いたい。
 まあそれはそれとして、うちのカフェの季節のイベントは大事に行っている。イベントを作って楽しむってこと自体は悪い事じゃないと思うし、それがお店の盛り上がりや売上に繋がるなら上々じゃない?>>1:62
(97) 2022/10/19(Wed) 17:00:05

【人】 高山 智恵

 そういえば去年のクリスマスの時期に、うちの店のツリーを出した際の霧ヶ峰さんのテンションが妙にアガっていた気がしたんだけれど……なんでだっけ?
 理由は誰かから聞いたような気がするんだけれど(霧ヶ峰さん自身だっけ? アート展示頑張ってる子だっけ?)何故かよく思い出せない。なんかあの俳優さん繋がりのモノでもあったのかな……>>75
(98) 2022/10/19(Wed) 17:00:22

【人】 高山 智恵

 閑話休題。
 バイト先は結局、雰囲気の良いこのカフェで即決して>>1:25
 とにかく稼がなきゃって気持ちで、必死に働いていた訳だった。

 私の後に雇用された“ 彼女 ”は違った。
 この時既に専門学校を卒業していた彼女は、初めから「自分のカフェを開く」という目標を抱いた上で、うちの店で働きだした>>1:26>>1:27
 これから先、何をして生きていたいか――それが非常にはっきりしている人だ。
 ついでに、店長をして「彼女は絶対に接客に向かない」>>1:74と言わしめる程の気質の人でもある。あの、張り付け固定気味のテンプレ営業スマイルすら見せなかったからね。

 本当に、彼女と私は違い過ぎていた。
 お客様と店員という関係性だったうちはまだしも、肩を並べる同僚同士という立場になると、いささか近寄りがたいような何かは彼女に対して初めは感じていたし、彼女のほうもそれは同じだったんだろうと思う。
(99) 2022/10/19(Wed) 17:01:15

【人】 高山 智恵


『高山さんはアーサー王伝説に興味がないのに、
 どうしてアーサー王伝説についての講義を受けたんですか?
 高山さんは
です。』


 こんなふうに雑談の中でいきなり面と向かって「変」呼ばわりされたら、今の私なら「そういうところだよ」で済むけれど、初めのうちはカチンときたよ流石に。……まあ、こういうところのある人だったって訳だ。
 まあ、彼女は「好きな分野を学ぶ」ことを当然として生きてきたんだから、当然のように私もアーサー王が好きだからその分野の講義を取った筈だって信じていたんだろう。
 え? この講義選んだ理由? 出欠もレポートも緩くて単位取るのめちゃくちゃ楽だって聞いたからだよ。実際楽に単位取れたし。残念ながら講義内容については「聞いたことはある」レベルの記憶に留まっている。

 ちなみにだけれど、私と彼女は同い年生まれだ。
 年齢差も上下関係もない相手であっても、彼女はこんなふうに私に対して丁寧語で喋る。それどころか、年下の子、小さな子供や赤ちゃん、人だけでなく動物相手にも丁寧語で喋る。
 彼女は接客の適性こそないと判断されても、子供からお年寄りまで誰に対しても分け隔てない態度で接する、そういう資質の人でもあるらしい。そういうところが気に入らなかった人もいたようだけれど、店長は好ましく思っているんだって。
(100) 2022/10/19(Wed) 17:01:51

【人】 高山 智恵

 とにかく彼女は、私にとって理解できないものの塊のような人だった。イラっとすることも多々あった。
 それでも、キッチンに向き合う彼女の真っすぐな背中や、食材や料理をじっと見つめる横顔は、純粋に綺麗だった――そうした一心さだって私にはないものだったから、あの時の私は彼女に妬いてもいたのだと、今になってみれば思う。

 そんな彼女が、ある日バックヤードで唐突に尋ねてきた。
 私が大学3年生になる直前の、まだ春というには冷える頃だった。


『高山さんはカナブンの幼虫は苦手ですか?』


「え? 何いきなり。
 でもなー、そうだなー、……そんな苦手でもないかな?」


 どうも他のバイト面子か知り合いかにいきなりこの話題を出して、蛇蝎の如く嫌われたことがあったらしい。
 私はというと――結局、育った地元が「田舎」ってやつだったからかな――ああ、ああいうやつだなーという心当たりがあって、その上で「苦手でもない」と答えていた。好きという訳でもなかったけれど。
 彼女が私にこの話題を振ったのが、私の出身が「田舎」なんだって意識したからだったのかは分からない(そう意識してなくても急に話題を振り出すところ、あったし……)。
(101) 2022/10/19(Wed) 17:05:17

【人】 高山 智恵

 で、「なんで私に聞いたの?」と問うよりも、彼女の次の行動の方が早かった。


『判りました。じゃあ写真を見せます』


 彼女はすぐに鞄からスマホを取り出して、写真画像の写された画面を私に差し出した。
 それこそこれを聞いているあなたが虫を蛇蝎の如く嫌う人だったらマズいかもしれないので
画像の詳細は省くけれど――写真の中のいきものについて語っている時の彼女の目は、確かに輝いていた。


『――――だるそうな感じで、可愛らしくて面白いです。
 しかも畑の土を豊かにしてくれる益虫だそうです。
 カナブンがいる畑の土で作った野菜とハーブを
 カフェのフードやドリンクに使ってみたいです』


 などなど。などなど。などなど……。
 私はといえば相槌を打ちながら、彼女の話の切れ目を(どうにかなんとか)見つけたところでコメントを挟んでいた。
(102) 2022/10/19(Wed) 17:07:57

【人】 高山 智恵


「いやー知らなかったなー。
 確かに自然派食材?みたいな感じで
 そういう畑の食材仕入れるのもアリアリだよね」


 このコメントは率直に素朴に思ったことそのままだったけれど、あれが「可愛らしくて」「面白い」かと言われれば……私には残念ながらそういう感性のチャンネルはなかった。そして未だにない。
 それでもこの感想と、何より私がきちんとこの話題に向き合っているということが、それだけで彼女にとってはものすごく嬉しかったらしい。
 普段愚直で不愛想な彼女が、確かにこの時、ぱっと無邪気に笑った。


「アリアリですよね!!」


 本当に“ 天使 ”か、或いはうろ覚えの“ 湖の乙女 ”か――そんな笑顔と声色だった。
 思えば、彼女が「カフェを作ること」「料理を作ること」以外に強い関心を示しているのを目の当たりにしたのは、この時が初めてだったな。
(103) 2022/10/19(Wed) 17:10:18

【人】 高山 智恵

 ……もしも私の中で“ 転機 ”と呼べるものがあったとすれば、この時だったのかな。
 今となっては、いつから、何によって彼女を「好きなんだ」と気付いたのかも曖昧だけれども――。

 これから私は、何をして生きていたいか。どこに向かって生きていたいか。
 曖昧にすら描けなかったその絵図は、こうしていつしか、はっきりとした輪郭を形作っていた。
(104) 2022/10/19(Wed) 17:22:54

【人】 高山 智恵


「私 ・、将来は自分のカフェ持ちたいですね。
 なので、売上管理とかマネジメントとかも
 正社員の立場で学んでみたいんですけれど。
 ……まだ社員昇格には早いですかね? 店長」


 店長にしれっとそう申し出た当時は「まだ早い」と即答されてしまったものだったけれど、ね。
 でもこの意思表示には、少しだけ嘘が含まれている。
 正しくは「自分のカフェ」じゃなくて、「自分と彼女のカフェ」だ。

 その嘘を正す夢物語を、店長にも彼女にも、私は言えなかった。
(105) 2022/10/19(Wed) 17:23:35

【人】 高山 智恵


『はい、私はあの ひとのことが好きです。
 ――さんは都心でショコラティエとして頑張っています。
 ――さんは本当に真剣にチョコレートに向き合ってます。
 ――さんは、本当に素敵です。素敵なんです。
 私たちのお店にお客さんとして来てくれて、
 本当に嬉しかったです』

『私は、素敵なあの ひとにちゃんと振り向いてもらいたいです。
 だから、次の新作のガトーショコラも、
 ホットココアも妥協しません』


 だってそれこそ、浮世離れした何かのような目の輝かせ方でこんな言葉を聞かされた後の日に、思い描いてしまった将来の夢>>105でもあったのだから。

 もし私がアーサー王にとってのマーリンになる心算だっていうなら、何の不満もなくこの夢を果たせるのかもしれない。けれども私は、あの コのマーリンとしてだけ在りたい訳じゃない。
 ……ああ、これじゃまるで、私はグィネヴィアにとってのランスロットになりたがってるみたいだ。
(106) 2022/10/19(Wed) 17:39:10

【人】 高山 智恵


 ――本当にあの娘は本当に彼のことが“ 好き ”なの?
   それって、何%くらい本当のことだと思う?



 そんな考えがふっと浮かびもしたけれど。
 彼女は嘘を吐かない。というより、吐けない。あれは本心だ。


 ――彼女の言う“ 好き ”って、どういう定義?
      “ 振り向いて ”もらうって、どういう意図?



 可能性を問う声ばかり、頭の中に響く。
 響きはすれど、それに耳を傾けることなんてできない。
 都合の良い夢ばかり、見ていたくはない。


 ……、そうだよ、今は夢なんて見ている場合じゃない。
 丁度目の前に気掛かりなことひとつ>>85>>87、捌かなきゃいけない仕事はいくつも>>89、あるじゃないか。
(107) 2022/10/19(Wed) 17:43:44