45 【R18】雲を泳ぐラッコ
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| [在原が標本を作り始めたのは中学の頃だ。
昆虫フェスで 二束三文で売られていた B級品と呼ばれる子らとの出会いがきっかけだった。
扱いが雑なせいで 鱗粉が剥げていたり 翅に体液染みができていたり。
(命を摘み取られたあげく これは酷すぎないか…!?)
補修の仕方を必死に調べて 少しでも美しく、元の状態に戻せるように 尽力したのが最初だった。] (12) 2020/10/05(Mon) 21:13:32 |
| [あの頃に比べれば 己の技術も格段に上がり、 このくらい敬意を払って扱ってやれよ…!と 手本として見せられるくらいの出来にはなった。
だが、 蝶の作品を売り出す時に インセクトブリーダーとしての通り名「AlberT」を 名乗らずに居るのは
────命を全うさせてやれなかった
という、後ろめたい気持ちが 拭い切れないからだ。] (13) 2020/10/05(Mon) 21:15:17 |
|
[この命への拘りは、男の生い立ちに起因していた。]
(14) 2020/10/05(Mon) 21:16:05 |
| [ぱらり……、ぱらり…… 大きな病院。 個性のない真っ白な病室でひとり 小さな手が熱心にページを捲る。 祖父が与えてくれた 古めかしい昆虫図鑑だった。 虫と一括りにするには あまりにも様々な色と形を持った彼らに すぐ夢中になった。 ほかのみんなとは どこか なにか ちがっている ”こんな”ボクでも いてイイんじゃないか? はっきりと自覚していた訳ではないけれど その多様性に 密かに励まされてもいた。] (15) 2020/10/05(Mon) 21:17:02 |
|
いつか、ほんものが見たいなー
[その思いで 命を繋ぎ止めるための たくさんの不自由と たくさんの痛みに耐えて。]* (16) 2020/10/05(Mon) 21:17:49 |
[幸いなことに、図書室はあれからも
私たちを繋いでくれた。
友君の文字をなぞる。
本当、映画みたい。
2020年とんでもないなって、
改めて思う。
今の状況だって十分映画みたいだけど。]
[続く優しい言葉を、何度も読み返す。]
……ありがとう
[ぽつん、と落とした言葉は届かない。
他にももっと言葉があるはずなのに、
どれだけ友君の言葉が沁みてるか、
声が、表情が届けば、もっと伝えられるはずなのに。
私にできることは、ただ友君の言葉を指でなぞるだけで。
友君の文字がかすれなくたって、
滲んだ視界では見えにくかった。]
[私は友君に何でも話した。
チアの魅力、息がぴったり合って、
会場の観客と一緒に演技を作り上げていく達成感。
だけど、去年は銅賞になってしまったこと。
リベンジしたくて必死に練習したのに、
すべてのイベントが消えてしまって。]
[空気を乱さないか、興ざめじゃないか、
そう怯えて飲み込んでいた柔らかい心も、
友君なら受け入れてくれる気がして、
優しさに甘えて、話してしまう。
だけど、どれだけ心を寄せても、
私たちの距離は遠い。]*
| (a1) 2020/10/06(Tue) 2:15:06 |
| (a2) 2020/10/06(Tue) 5:05:10 |
……とも、くん
[友君の影が、私に近づく。手が伸ばされて、耳を撫でた。
耳にかけてくれた髪は、一本だって動かない。
いくら筋肉をつけたって、輪郭までは女のままだ。
その丸い胸と腰を、友君がなぞる。]
[友君の声も、顔も見えないのに、
気遣うような声が、表情を、感じる気がした。
嫌じゃなかった。
ただ、なんの感覚も無い愛撫が悲しかった。]
……ふ、
[影に口づけられると、じんと唇が痺れた。
無いはずの感触に戸惑って、
ほんの少しの期待を込めて友君を見上げる。
だけど、鼻先に指先をかざされると、
触れられなくても痒くなることを思い出して、
そうだよね、これ以上の奇跡は起きないよね……
なんて、すぐに落胆した。
友君はそうやって甘い痺れをもたらして、
私の緊張をほぐしていく。
だけどやっぱり足りない、
友君に触れたい。
友君に触れてほしい。]
[私は友君の手を取る。
その手は、空を掴む。
そのまま、カーディガンのボタンに導いた。
ハート形の可愛いボタンを、
私の、
友君の
指が、
一つずつ外していく。]
……ともくん、見て。
私をもっと、みて。
[衣擦れの音が図書室に響く。
私の影は、布の厚み分、小さくなった。
友君に知ってほしい。
早鐘のように鳴る鼓動も、
乱れた息遣いも、
夕焼けの色に染まった頬も、
何一つ触れられなくたって。
そのほんの欠片だけでも伝えたくて、
友君の手を、裸の心に導いた。]
[窓から吹き込む強い風が、カーテンを引いた。
風は、ヒュー、ヒュー、と
音を立てて吹いていました。
うっすらと開いた隙間から、月光が矢のように刺さる。
いつのまにか、満月が近い。
月明かりに照らされた私たちは、
確かに繋がっていた。]**
[あはは、ごめんね。
お客さんに上の子見てもらうために頑張ってたのに。
ちょっとすねすねモードはいってた。
そんなことを、返事に書こうかな。]
[どんなに見つめても、影は影。
うすぼんやりとした黒い輪郭が
目の前で揺らいでいるだけ。
触れたはずの唇が空を切って
微かな空気の揺らぎだけが
すう、と湿った唇を撫でた。
唇を離すと、影の手が俺の手を取り
心臓の辺りへと導いてくれた。
どく、どく、と脈打つ肉の感触もなく
俺の手はきっと、菜月の心に触れている。
脆くて危うい其処はきっと、
乱暴に暴けば傷が付いてしまう。
けれど、それを躊躇う程度には
柔らかくて、綺麗な形をしているのだろう。]
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