203 三月うさぎの不思議なテーブル
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[公衆の面前だと言う理性が躊躇いを生んだけど
したくないってわけじゃなくて……
じゃあ、と退かれてしまったらそれはそれで
ちょっと寂しくなってしまっていた、気がするから。
きょろりと周囲を確認した彼が
もう一回軽く唇を触れ合わせて
困った、なんて大して思ってなさそうに
くすくすと悪戯っ子の顔で笑う。
触れ合った柔らかな唇は、
ちょっとさっきのお弁当の味がした。]
……もぉ。
[トクトクと早い心臓の音を感じながら
赤い顔で唇を尖らせるけれど。
自分の眼差しも声も
本気で咎めてるわけではないのはきっと
すぐに分かってしまっただろうな。]
………あとで、二人きりの時にもっとして?
[だから、
立ち上がる前に くい、と彼の服の袖を引いて。
耳元で甘く囁こうかな。]
[そうして再び手を繋ぎ、
公園からまたバス停まで歩き出す。
相変わらず手を繋ぐだけで気恥ずかしそうにしてる彼に
キスはさらっと出来るのになんでよ、って
おかしくなって笑ったりしながら。
真っ赤な顔で眉を下げて笑う彼を見てるだけで幸せで
のんびりとした歩調で来た道を戻った。
バスに乗って、少し歩いて。
目的の店に着くのはちょうど予約していた時間頃。]
[アクセサリー作り教室の店舗に到着。
受付の人に2枚の招待券を渡し、
予約していた貝沢だと話せば
すんなり個室へと通された。
「本日はどのようなものをご希望ですか?」と尋ねられたので
ペアリングを作りたいのだと素直に答え
それなら、とリングの作成コースを勧められた。
プロのクラフトマンが側でアシストしてくれるから
未経験でも綺麗な形のものを作れるらしい。
作ったリングは当日すぐ持ち帰れるのだそうだ。]
素材の種類はシルバーとゴールドがあって、
形状とか仕上げの種類も色々選べるみたい。
鏡面仕上げってのがピカピカしてるやつで、
槌目仕上げがデコボコしてるやつ。
マット仕上げってのもある。
瑛斗、どんなのがいいと思う?
あ、指輪の裏に刻印してくれるサービスとかある。
せっかくだからして貰おうよ〜。
[なんて相談しながら進めていったことだろう。**]
ああ、あれか。
人の心なんて見えないもんだし
あんな美人さんと勘違いされたなら光栄だよ。
[ あのときは聞かれた質問の意図を読めず
こちらも、勘違いしたって話しはいつかしよう。
SNSの更新を一度やめた理由までまだ、きっと
聞いていないから。 ]
そうだねぇ、ノーリスクってわけには
いかないよねぇ。俺はともかく、
面白可笑しく騒がれるのはちょっと。
[ 時代を思えば、カミングアウトなどは
なくもないのだろうけれど。そこまでの覚悟を
今相手に求めるつもりはないので。
力になると言ってくれる時がきたら
有り難く友人の手を借りるとしよう。 ]
いや、だいぶ来てるね。
……君は、笑って余裕ぶってるといいよ。
あっはっは、そうだね
真顔は怖いってたまに言われる。
[ キレてないようにはとても見えない。
ぶすくれたその顔も笑ってしまうが、
自分もそこそこ、怒っているのでね。
店員の迷惑考えないような、
仲間と呼ぶに値しない、客に対しては。
――で、思いついたのがあれなわけ。
少なくとも、あいつ今から告白するらしい
で、視線をこちらに集められれば、と考えたわけだが。 ]
[ おやおや、こちらも勘が良い。
目があった時、その表情から感じたのは
助けてもらえたというときめき
じみたものではなく、
相手だれですか?と言いたげな
興味がいっぱいに見えたので。 ]
ごめんね、お兄さんたち
ほんと、ありがとう
[ ナンパ男たちに、敗北感を味合わせる
つもりはなかったのだが。結果的に、
ウサギの逃亡を手助けできて、
店内が静かになるなら、問題はなかったかな。 ]
うん、がんばります
[ 好きな人に、好きだよということが告白になるなら
いついっても、何度言っても、良いものなので。 ]
[ そしてそれが結果的に、
餅を黒くしてしまったなら、更に自分に
感じ取れるような顔を見せてくれたなら
笑ってしまったし
心狭いのは俺も変わらないので
同盟組むなりしませんか、とか
言っていたかもしれないね。 ]
いえいえ、嘘ついたわけじゃないので。
[ しかしその黒くなった餅、長くは持たまい。
この光景が見えていたなら ]
なかよしだねぇ
[ そっと存在感を消す努力をしたけど
存在が物理的にもでかいので、
成功したかは、わからないな。* ]
― いつかどこかの後輩と ―
そうそう、お肉大好き栗栖くん。
あれ、喋ったことなかったんだ。
二人ともよくうさぎに来るしとっくに知り合いかと。
紹介して欲しいならするけど。
[隠すことでもない
(し、彼の方もまた堂々としているので)
相手が誰かまで普通に話す。
そして喋ったことがないと聞けば少し意外ではあった。
ほら、同性にも人懐っこい彼なので。
よく神田さんや葉月くんと楽しそうにじゃれてるのを見るし。]
それよりこれ、じゃーん!見てみて!
ペアリング作っちゃった〜♡いいでしょ〜!!
[先日作ったばかりのリングを嵌めた薬指を
ひらひら後輩に見せびらかしてドヤる。
本日の玲羅はやや酔っている。]
[そして彼の方も彼の方で上手くいっているようで。
最高だったのだと言うデートの首尾を聞けば
よかったねえと目を細めつつ。]
あーでもさ。
相手って、…彼、だよね?
[と、少しだけ声を潜めて。
いや、誰かもほぼ予想はついてるんだけど
彼がどこまで伏せてるのか分からない以上
あんまり大っぴらにするものでもないかなと思って。
言いながらちらりと厨房を見遣ったりはしたかもだが。]
別に業界的に珍しくもないし、
だからどうこうとかはないんだけど。
高野くんが男の子に恋するとは思ってなかったなあ。
前に好みの女性云々とか言ってた気がするし。
あれってカモフラだったん?
[日本酒のコップを傾けながら
率直な感想を述べたりしていた。**]
なるほ、ど……?
物理的に……。
[ 彼の目論見通りシェアと言われれば迷わず飛びつきつつ、
「悪くない」と投げられた言葉へ小首を傾げた。
あ、さっきの高野さんみたいな助け方ってことか、と
思い至るのに少しの時間も要しただろう。
高野への礼は、もし予想が当たっているのならば
今度会った時にちょっとした形で渡そうか。 ]
んむ。
……次からはメロンのシェイクとかもいいなぁ……。
[ そんな風にメロンの使い道を突然考え始めたのは、
零れてしまった羞恥方向の失言を流すため。
……しっかりばっちり届いてしまっているけれど
何も食べていないのに彼の喉が鳴る音がしたのも
気付かないほど、まだ鈍感なわけじゃ、ない。
]
────……
ま、まだだめ、です
[ 何度目か分からない"待て"の合図。
うさぎのクッキーからずっと待たせている自覚はあるし
線引きしようとして、
でも想いがどうしても溢れて、出来ていない自信もある。
つけてほしいんです しるし。
……とか、さすがに我慢させ続けてこれを言うのは
自分でもちょっとどうかと思うのは、自覚済みです。 ]
[ そして。
助けてくれた高野にも彼が餅を黒くしたとは露知らず
組まれた同盟も与り知らぬところではあるものの。
なかよしだねぇ、と存在感を消してくれようとしている
高野にようやく気付いたのなら。 ]
──────…… ッぁ、ぁの、
ご ごめんなさい本当に気付かなくてっ
いま完全に夜綿さ……っちが、神田さんに意識が、
わ、わたし、わたし……ぁぅ……
……っ店長に呼ばれた気がするのでいってきます!!
[ 瞬時に顔と耳を赤く染め、
特技の脱兎を久しぶりに披露する羽目になるのだった。* ]
― 閉店後 ―
[ 流石にクローズ作業を終え、仕込みも順調にクリアし
後は店長業務のみとなれば顔の熱は引いていた。
待ってくれていただろう彼に
「今から向かいます」と連絡し、足早に歩いた。
もう夜でも随分暖かくなってくる季節だから
今日はオープンショルダーのフレアワンピース。
デコルテ部分がホワイトベージュのニット生地で、
風が吹いても寒くはない。
ただの通勤なのに、こんなに可愛い服を選ぶのも
全部彼の為だけだ。
いつ見ても かわいいって思われたいから。 ]
夜綿さん。
この前言ってたお買い物デートの日なんですけど、
一番近い日だとここが一日オフで──
[ さっきの店内での発言はすっかり忘れました、みたいな。
寧ろ何も言ってませんよ? という風に
買い物デートの約束の話を繰り出して。
空いている日を教えながら、そっと
今日の帰り道も、貴方のあたたかい手を握ろうと。* ]
―― 鴨の日 ――
[可愛い妹の早い春の報告を聞いた日。
自身にも小さく芽吹いた芽は、
春の風と柔らかな夜の月明かりの下、花開いた。
すぐに報告するのも気恥ずかしく、
まだ仄かに色づいた程度の花だから。
大咲にはまだ告げられていない。
けれど、その日以降。
大咲から『彼氏』の話を聞く機会も増えたように思う。
視線に気づいた大咲に軽く手を上げて応えながら。
新規客らしい男達には冷めた視線を向けておいた。
これは、大咲に限らずの話だが、
うちの店員は可愛い人が揃っているので、
同僚としての牽制を含んでおく。
――――合意の上なら、吝かではない。]
[大咲には、誰とまでは聞かなかったけれど。
あの日、彼女が向けた視線の先に居た人から、
苦笑と共に真面目な回答が返ってきたならば。
なるほど、
……と、腑に落ちる部分があったかもしれない。
言葉の裏に彼女のへの気遣いが見えたから。]
……失礼しました。
今の話は、なかったことに。
[キャスケットのつばを上げて、軽く一礼を向け。
気を悪くするでもなく、来訪を約束してくれることに
ほっと静かに安堵を漏らす。]
いつでも、お待ちしています。
[そう、締め括ろうとして。
聞こえた潜められた声に気づいたら。]
神田さんも、苦労しそうですね。
[と、一言だけ。付け足して笑った。
可愛い妹をよろしくとは言わない。
その答えは先程の彼を見れば、十分だろう。**]
―― 休日に向けて ――
[ディナーに向けての仕込みを終えた後。
汚れたエプロンと着替えを鞄に放り込んで、
一度自宅へ戻り、洗濯機に入れて
代わりに翌日の着替えを取り、
とんぼ返りのように鍵を締めて出掛けた。
陽が落ちていく中、帰路に着く人たちとは
反対方向へ向かって地下鉄に乗り、
以前は、バイクで訪れたマンションへ向かう。
入り口でインターフォンで呼びかければ、
すぐに応対してくれただろうか。
開けられたセキュリティドアを抜けて、9階へ。
彼の部屋に向かったら。
玄関で挨拶と共に、抱き竦められて。
]
……っ、
[不意打ちに少し目を瞠ったものの。
応えるようにそっと、腕を背に回した。]
……ただいま?
[店で『おかえり』は、口にしたことはあるけれど。
その言葉を口にしたのは、実家以来だったろうか。
擽ったさに、くすりと笑みを零して。
すり、と甘えるように肩口に頬を寄せた。]
[少しの間、温もりを堪能してから離れ。
お邪魔します、も、やっぱり言ってしまったのだけど。
短い廊下を抜けて、リビングへと通されたら。
まず、目についたのは前に話していたソファ。]
ふ、届いたんですね。
[振り返って笑い、鞄を置いたら。
まずは触感を確かめるように触ってみようか。*]
―― 先輩と ――
顔はしってるんだけど、話し込んだ
ことはなかったかな。挨拶くらいは
したことあったかも。
雰囲気がさ、華やかな子だよね
[ して欲しいならする、とそれはそれは
さらっと口にした先輩は、続けて
みてみて、と自慢げにしていたか ]
それ作ったやつ?
へぇいいじゃん、手作りだって
わかんないかも。
満喫してんね、カップル。
[ やや酔っている彼女はひらひらと
作ったばかりのリングを嵌めた指を振る。 ]
そう
[ 潜めた声での質問
にはこちらも
同じような声量で答えた。
けれどさらりと、言い淀むようなことはなく。 ]
大っぴらには言えないことだけど
名前言わなきゃ、大丈夫でしょ
[ そう答えながら。
業界人だったから、ではなく
彼女自身が気にしないタイプで
あることには感謝したかもしれないな。
人によっちゃ、顔顰めてもおかしくないので。
先輩にそうされてたら、珍しくしょんぼりする後輩
の顔が見れたかもしれないが、あってほしくはない事柄。 ]
俺も誰かに恋するとは思ってなかったよ。
それに、ふくふくした顔で笑う女性がタイプ
ってのもホントだったし。
彼女も居たことはあるけど
忙しさにかまけてるうちに、消滅してったし
追おうと思わなかったから、
今少し、悪い事したなって思ってる。
[ それなら仕方ないね、ではなく、
彼女たちは、追ってきて欲しかったの
かもしれないとか、自分が人を愛して気づく事は
とても多い。
まぁその子達が本当に自分のことを
好きだったかどうかは、怪しいけれど。
なにせ火傷の痕を見る前に、去っていくか
火傷の痕を見て去っていくかの二択だったので。 ]
で、どういうとこ好きになったの?
[ 夜は長い。もしかしたらその内、彼氏も
現れるかもしれないし、その前にそれくらいは
聞いとこうかな、と思ったけれど、彼氏が
現れるようなら、邪魔せずに、またね、と
言っていたかもしれないな。* ]
[指輪はずっとつけていられる物。]
決まりだね。
[そう微笑んで……]
玲羅もずっとつけてくれる?の??
[期待と不安と嬉しさと幸せが入り混じった気持ち。
多分自分は笑み崩れていた。]
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