203 三月うさぎの不思議なテーブル
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………あとで、二人きりの時にもっとして?
[だから、
立ち上がる前に くい、と彼の服の袖を引いて。
耳元で甘く囁こうかな。]
[そうして再び手を繋ぎ、
公園からまたバス停まで歩き出す。
相変わらず手を繋ぐだけで気恥ずかしそうにしてる彼に
キスはさらっと出来るのになんでよ、って
おかしくなって笑ったりしながら。
真っ赤な顔で眉を下げて笑う彼を見てるだけで幸せで
のんびりとした歩調で来た道を戻った。
バスに乗って、少し歩いて。
目的の店に着くのはちょうど予約していた時間頃。]
| ――プレートがcloseになったあと――
[言う、と決めてしまえば、思いの外心はすっきりしていた。 これで振られてもいーや。そのほうが、きっとぐずぐず誰かが座を奪うまで待つより、ずっといい。 すっきりついで、久しぶりに賄い作ろうかと思い立ったけど、緊張で手を切りそうで、今日まで食べ専させてもらうことにした。 代わりにホールの清掃は請け負おう。 今はとことんきれいにしてやりたい気分だ。 鼻歌交じり、テーブルを拭いて、床を掃除して。 ああ今度、大河に何かお返しはしないとな。 どうしどうしようもない愚痴を聞かせて、絡んだお詫び。] (174) 2023/03/12(Sun) 22:43:02 |
[アクセサリー作り教室の店舗に到着。
受付の人に2枚の招待券を渡し、
予約していた貝沢だと話せば
すんなり個室へと通された。
「本日はどのようなものをご希望ですか?」と尋ねられたので
ペアリングを作りたいのだと素直に答え
それなら、とリングの作成コースを勧められた。
プロのクラフトマンが側でアシストしてくれるから
未経験でも綺麗な形のものを作れるらしい。
作ったリングは当日すぐ持ち帰れるのだそうだ。]
素材の種類はシルバーとゴールドがあって、
形状とか仕上げの種類も色々選べるみたい。
鏡面仕上げってのがピカピカしてるやつで、
槌目仕上げがデコボコしてるやつ。
マット仕上げってのもある。
瑛斗、どんなのがいいと思う?
あ、指輪の裏に刻印してくれるサービスとかある。
せっかくだからして貰おうよ〜。
[なんて相談しながら進めていったことだろう。**]
| [賄いは誰が何を作ってくれたんだっけ。 さっきの揚げ出し大根美味しそうだな、ってねだったら、もらえたろうか。 揚げたのはマシロちゃんかもしれないけど、そこは美味しければ個人的にはヨシ。
気合は充分、って言えたらカッコいいけど、ま、正直緊張で壊れそうだ。 いつ言うかとか、ちゃんと言えるかとか、落ち着けない要素が多すぎる。
でも、もう、後には引けない。 引く気もないし、何ならここが壁際だ。 とっくに引いたあとの今。 もう、前に出るしかない。] (175) 2023/03/12(Sun) 22:47:41 |
| [息を吸う。吐く。……呼吸がちゃんと出来てる気がしない。]
あの。 さっきの。時間。 今。……いい?
[呼び出す声は、言葉を忘れたみたいにカタコトで。 それでも、あなたが席を立ってくれたなら。 あるいは本当に帰り際、店の外で立ち止まってくれたなら。] (176) 2023/03/12(Sun) 22:49:50 |
| あのさ。………… [切り出したけど、言葉が告げない。 しっかりしろ。しっかりしろ馬鹿野郎。ここしかないぞ。 頭をぐしゃぐしゃかき乱して、緊張とか忘れるつもりで。] あのさ! あの、シャミさんの、ケータリングの手伝いの話! あれ、やっぱり、ボクじゃ、……だめかな? [やらせてください、と力強く言い切ってやろうと思ったのに、結局なんだか尻すぼみだけど。 ……だけど、言った。言ってやった。最低ラインには辿り着いた。] (177) 2023/03/12(Sun) 22:52:50 |
| ……ずっと、見てた。シャミさんのこと。 最近もだけど――ほんとは、はじめて店に来たときから。
[言葉を口にしながら、あれ、これでよかったんだっけと冷静な自分がどこかで言う。 こんなこと言うつもりだった? いや、でも、いいや。事実だ。]
それで、この店で働きたいって――あ、ストーカーとかじゃないんで、それはほんと、安心してほしいんだけど、
[いややっぱりこれじゃないな。ちょっと待った。仕切り直し。] (178) 2023/03/12(Sun) 22:55:59 |
ああ、あれか。
人の心なんて見えないもんだし
あんな美人さんと勘違いされたなら光栄だよ。
[ あのときは聞かれた質問の意図を読めず
こちらも、勘違いしたって話しはいつかしよう。
SNSの更新を一度やめた理由までまだ、きっと
聞いていないから。 ]
そうだねぇ、ノーリスクってわけには
いかないよねぇ。俺はともかく、
面白可笑しく騒がれるのはちょっと。
[ 時代を思えば、カミングアウトなどは
なくもないのだろうけれど。そこまでの覚悟を
今相手に求めるつもりはないので。
力になると言ってくれる時がきたら
有り難く友人の手を借りるとしよう。 ]
いや、だいぶ来てるね。
……君は、笑って余裕ぶってるといいよ。
あっはっは、そうだね
真顔は怖いってたまに言われる。
[ キレてないようにはとても見えない。
ぶすくれたその顔も笑ってしまうが、
自分もそこそこ、怒っているのでね。
店員の迷惑考えないような、
仲間と呼ぶに値しない、客に対しては。
――で、思いついたのがあれなわけ。
少なくとも、あいつ今から告白するらしい
で、視線をこちらに集められれば、と考えたわけだが。 ]
[ おやおや、こちらも勘が良い。
目があった時、その表情から感じたのは
助けてもらえたというときめき
じみたものではなく、
相手だれですか?と言いたげな
興味がいっぱいに見えたので。 ]
ごめんね、お兄さんたち
ほんと、ありがとう
[ ナンパ男たちに、敗北感を味合わせる
つもりはなかったのだが。結果的に、
ウサギの逃亡を手助けできて、
店内が静かになるなら、問題はなかったかな。 ]
うん、がんばります
[ 好きな人に、好きだよということが告白になるなら
いついっても、何度言っても、良いものなので。 ]
[ そしてそれが結果的に、
餅を黒くしてしまったなら、更に自分に
感じ取れるような顔を見せてくれたなら
笑ってしまったし
心狭いのは俺も変わらないので
同盟組むなりしませんか、とか
言っていたかもしれないね。 ]
いえいえ、嘘ついたわけじゃないので。
[ しかしその黒くなった餅、長くは持たまい。
この光景が見えていたなら ]
なかよしだねぇ
[ そっと存在感を消す努力をしたけど
存在が物理的にもでかいので、
成功したかは、わからないな。* ]
| とにかく! ボクは、この店のみんなが好きで。 中でもシャミさんが、個人でも仕事してるって知って。 忙しいのにすごいな、って思ってたんだけど。 [それ自体の思いは、変わらない。 今でも尊敬している。Wワークは楽じゃない。] ……すごいだけじゃなくて、当たり前だけどしんどい時もあるって知ってさ。 でも、それで苦しくっても、シャミさん、店、休まないでしょ。 しんどいなら助け合いとかできたらな、って思ったんだけど、ボクの手じゃ、他のみんななら助けられることができなくて、……手が届かないな、って思ってた。 (179) 2023/03/12(Sun) 23:02:50 |
| この前、手伝いを募集してるって言ってたときも、きっとボクじゃない誰かが行くんだろうって思った。そのほうが力になるって。 ナギさんとかマシロちゃんとかケイちゃんとか、タイガとか。 その"誰か"になれないって決めつけて、羨んで。 ひとりで腐ってたら、もう大丈夫、って言われてさ。
……ずっと、ずっとボク、馬鹿じゃないのって、自分のこと。
[思い出すだに、馬鹿らしい。 このとき思い切ってしまえば、今こんなことにはなってないってのに。] (180) 2023/03/12(Sun) 23:08:02 |
| だけど、やっぱね、ムリだ。 このままいるのは、ムリ。 どんだけ考えても、ボクはその席を他の誰にも渡したくない。 スタッフの誰かでも、うさぎのぬいぐるみでも。 [あっさりと、笑う。 振り切って、笑えた。] (181) 2023/03/12(Sun) 23:10:34 |
| それだけじゃなくってさ。 買い物して、ご飯も食べに行こ。 ミモザの花も見に行こう。
お花見はそろそろシーズンオフかな。葉桜でもぜんぜんいーけど。 水族館とかいって、いっそどれが一番おいしそーかみたいな話しようよ。
[やりたいこと、いくらでも溢れてくる。 振り回すかもしれないけど、ついてきてほしい。 だって。] (182) 2023/03/12(Sun) 23:12:30 |
| ねえ、シャミさん。 ボクはもっとずっと、あなたの傍にいたい。 [本題の、さらに本題。 堂々宣言して、――やや間。] ……なんて。 キモかったら、すっきり振っていいよ。 一方的に言い切っちゃって悪いけどさ。 [そして一方的に、勝手に大変すっきりした*] (183) 2023/03/12(Sun) 23:14:44 |
― いつかどこかの後輩と ―
そうそう、お肉大好き栗栖くん。
あれ、喋ったことなかったんだ。
二人ともよくうさぎに来るしとっくに知り合いかと。
紹介して欲しいならするけど。
[隠すことでもない
(し、彼の方もまた堂々としているので)
相手が誰かまで普通に話す。
そして喋ったことがないと聞けば少し意外ではあった。
ほら、同性にも人懐っこい彼なので。
よく神田さんや葉月くんと楽しそうにじゃれてるのを見るし。]
それよりこれ、じゃーん!見てみて!
ペアリング作っちゃった〜♡いいでしょ〜!!
[先日作ったばかりのリングを嵌めた薬指を
ひらひら後輩に見せびらかしてドヤる。
本日の玲羅はやや酔っている。]
| (a37) 2023/03/12(Sun) 23:15:59 |
[そして彼の方も彼の方で上手くいっているようで。
最高だったのだと言うデートの首尾を聞けば
よかったねえと目を細めつつ。]
あーでもさ。
相手って、…彼、だよね?
[と、少しだけ声を潜めて。
いや、誰かもほぼ予想はついてるんだけど
彼がどこまで伏せてるのか分からない以上
あんまり大っぴらにするものでもないかなと思って。
言いながらちらりと厨房を見遣ったりはしたかもだが。]
別に業界的に珍しくもないし、
だからどうこうとかはないんだけど。
高野くんが男の子に恋するとは思ってなかったなあ。
前に好みの女性云々とか言ってた気がするし。
あれってカモフラだったん?
[日本酒のコップを傾けながら
率直な感想を述べたりしていた。**]
なるほ、ど……?
物理的に……。
[ 彼の目論見通りシェアと言われれば迷わず飛びつきつつ、
「悪くない」と投げられた言葉へ小首を傾げた。
あ、さっきの高野さんみたいな助け方ってことか、と
思い至るのに少しの時間も要しただろう。
高野への礼は、もし予想が当たっているのならば
今度会った時にちょっとした形で渡そうか。 ]
んむ。
……次からはメロンのシェイクとかもいいなぁ……。
[ そんな風にメロンの使い道を突然考え始めたのは、
零れてしまった羞恥方向の失言を流すため。
……しっかりばっちり届いてしまっているけれど
何も食べていないのに彼の喉が鳴る音がしたのも
気付かないほど、まだ鈍感なわけじゃ、ない。
]
────……
ま、まだだめ、です
[ 何度目か分からない"待て"の合図。
うさぎのクッキーからずっと待たせている自覚はあるし
線引きしようとして、
でも想いがどうしても溢れて、出来ていない自信もある。
つけてほしいんです しるし。
……とか、さすがに我慢させ続けてこれを言うのは
自分でもちょっとどうかと思うのは、自覚済みです。 ]
[ そして。
助けてくれた高野にも彼が餅を黒くしたとは露知らず
組まれた同盟も与り知らぬところではあるものの。
なかよしだねぇ、と存在感を消してくれようとしている
高野にようやく気付いたのなら。 ]
──────…… ッぁ、ぁの、
ご ごめんなさい本当に気付かなくてっ
いま完全に夜綿さ……っちが、神田さんに意識が、
わ、わたし、わたし……ぁぅ……
……っ店長に呼ばれた気がするのでいってきます!!
[ 瞬時に顔と耳を赤く染め、
特技の脱兎を久しぶりに披露する羽目になるのだった。* ]
― 閉店後 ―
[ 流石にクローズ作業を終え、仕込みも順調にクリアし
後は店長業務のみとなれば顔の熱は引いていた。
待ってくれていただろう彼に
「今から向かいます」と連絡し、足早に歩いた。
もう夜でも随分暖かくなってくる季節だから
今日はオープンショルダーのフレアワンピース。
デコルテ部分がホワイトベージュのニット生地で、
風が吹いても寒くはない。
ただの通勤なのに、こんなに可愛い服を選ぶのも
全部彼の為だけだ。
いつ見ても かわいいって思われたいから。 ]
夜綿さん。
この前言ってたお買い物デートの日なんですけど、
一番近い日だとここが一日オフで──
[ さっきの店内での発言はすっかり忘れました、みたいな。
寧ろ何も言ってませんよ? という風に
買い物デートの約束の話を繰り出して。
空いている日を教えながら、そっと
今日の帰り道も、貴方のあたたかい手を握ろうと。* ]
―― 鴨の日 ――
[可愛い妹の早い春の報告を聞いた日。
自身にも小さく芽吹いた芽は、
春の風と柔らかな夜の月明かりの下、花開いた。
すぐに報告するのも気恥ずかしく、
まだ仄かに色づいた程度の花だから。
大咲にはまだ告げられていない。
けれど、その日以降。
大咲から『彼氏』の話を聞く機会も増えたように思う。
視線に気づいた大咲に軽く手を上げて応えながら。
新規客らしい男達には冷めた視線を向けておいた。
これは、大咲に限らずの話だが、
うちの店員は可愛い人が揃っているので、
同僚としての牽制を含んでおく。
――――合意の上なら、吝かではない。]
[大咲には、誰とまでは聞かなかったけれど。
あの日、彼女が向けた視線の先に居た人から、
苦笑と共に真面目な回答が返ってきたならば。
なるほど、
……と、腑に落ちる部分があったかもしれない。
言葉の裏に彼女のへの気遣いが見えたから。]
……失礼しました。
今の話は、なかったことに。
[キャスケットのつばを上げて、軽く一礼を向け。
気を悪くするでもなく、来訪を約束してくれることに
ほっと静かに安堵を漏らす。]
いつでも、お待ちしています。
[そう、締め括ろうとして。
聞こえた潜められた声に気づいたら。]
神田さんも、苦労しそうですね。
[と、一言だけ。付け足して笑った。
可愛い妹をよろしくとは言わない。
その答えは先程の彼を見れば、十分だろう。**]
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