203 三月うさぎの不思議なテーブル
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[彼が誰かに伝えているなら、それはまた別の話。
高野が信頼を置いている人であるなら、
心配はしていない。
自慢するような恋人になれているか
自信があるわけではないけれど。
誰かに聞いて欲しい気持ちも、
それはまた理解できるから。
白うさぎのように聡いお客様が一人。
……いや、もう一人。
居ることには気づけないまま、
杏が顔を出すようなら、手伝いに向かおうか。*]
[かっこつけてほしいこと。
具体的に口にすればすぐさま実行してくれて。
]
あ、……あり、がとう……。 嬉しい……
[この素直さが彼の美徳であり、好きな所の一つであり、
そして破壊力が高い。
褒められるのにだってそれなりに慣れてて
普段なら無邪気にやったーって喜ぶのに
やっぱり"好きな人"の言葉だけは特別。
自分でねだったくせに、かあああ、と顔が熱くなってしまい。]
ちなみに栗栖くん、ってさ。どんなかっこが好み?
こういうの見てみたい、とかあれば、
次は寄せてみたりしますけども……
[これは自分を曲げて無理に合わせるとかではなくて。
私もやっぱり君に喜んでもらうために、ちょっとはかっこつけたいから。]
── ある日の夜 ──
[俺の『内緒』探しはまだ続いていた。
『高野景斗
』で検索しても何も出て来ないのだ。
そして難航したのにはもう一つ理由があった。
俺は今、戦隊物に嵌っていた。
だって検索してたら誘導されるように出て来たんだもん。
一話見てたら高野さん出て来なくて。
出てくるまで続けて見てたら面白くて。
はまっちゃったんだもん!!
ラジオは聞き流せるから、勉強のお供にかけてる。
しかしテレビは流し見しながら勉強には向かなかった。
今日はここまで。1話見終わったらスマホを置いて。
ラジオに切り替える。]
……勉強しよ。
[空を見て。月を見上げて。
貝沢さんも同じ月を見てたりするのかな?
離れてても、同じ物を見られるってなんかすごいな。
『月が綺麗ですね。』なんて言われたら。
月を見上げるたびに、思い出しちゃうね。
なんて思ってから、空気を入れ替えて机に向かった。]
[ラジオからは軽快なトークと音楽が流れてくる。
その日のラジオで『高野景斗』が誕生日の話題
に触れた。]
あ!!
俺、貝沢さんの誕生日知らない……
[『ローレライ』の公式情報になら載ってるかもしれないけど。学生時代の俺は、プレゼントを贈る余裕なんて無かったし。それに……
貝沢さんの口から聞きたい。
貝沢さんを想ってプレゼントを贈りたい。
貝沢さんが喜んでくれるもの。好きな物。
その日までに、もっと色々知っていきたい。
小さく微笑んで。貴女を想って。
今度こそ真面目に、机に向かった。*]
[そしてアクセサリー教室に誘ってみれば
何やら考え込むような素振り。
うーん、あんまり好みじゃなかったかなあ。
花より団子じゃないけれど、フラワーアレンジメントよりは
形に残るものの方が思い出になるかなって思って
こっちの招待券を貰ったんだけど。]
……ん?
[少しの間の後。ぽつりと言葉が返ってきて。
顔を熱くする彼にぱちぱちと瞬きをし
意図する所に思わず笑みが零れる。]
……、嬉しい人です。
[にっこり目を細めて答えながら。
もうひとつ、おねだりをすれば一瞬彼が固まる。]
[赤くなって、慌てて。くるくると変わる表情。
何考えたかなんて野暮なこと聞かないけれど。
だってほら、人類は下心で繁栄してきたからね。]
んっ。じゃあ、約束ね。
……次の週末とかがいいかな?
[満面の笑みに、こちらも屈託なく笑いながらそう返す。
未来の約束が嬉しくて、待ち遠しい。
そうして二人、身を寄せ合ったまま。
甘く優しい時間に暫し浸っていた。**]
[貝沢さんを褒めたら喜んでくれた。
やっぱり嬉しいな。
俺が容姿や服装を褒めるのが苦手なのは、生い立ちにも関係してるけど。でも、そんな俺の言葉でも、喜んでもらえるんだ。
俺の言葉でも良いんだって。思わせてくれる赤い顔。
好みに寄せてくれるって言うから。
俺は迷わず答えてた。]
俺ね。貝沢さんの大きく口を開けて笑う姿が好き。
あのね。遠慮なく、屈託なく、朗らかに笑う姿が好き。
も〜〜〜って拗ねたり。口尖らせたりするのも好き。
可愛いなぁって思うし。
揶揄われたり、言い返したりするのすごい楽しい。
だからね……
貝沢さんが、遠慮なく、そんな姿で居られる服で。
俺と一緒に居てくれたら。すごい嬉しい。
[貝沢さんってTPOをきちんと意識する人でしょう?
だから俺は、俺の前で居て欲しい貝沢さんについて語ってた。
そしたらきっと貝沢さんも、そんなお洋服を選んでくれるよね。]
[手作りアクセサリーは、プレゼントされたら嬉しい人だって。
明らかに意図は透けてるけど。俺も嬉しくて。
貝沢さんを見て、にこっと笑った。
……俺の下心はね。バレバレですよね。バレバレ。
でもほら。見ないフリをしてくれてます。ありがと。]
次の週末大丈夫だよ。
朝から待ち合わせしようか。
……俺、お弁当作って来ても良い?
遠藤さんのレシピと、後、母さんにも聞いて。
お料理チャレンジしてみる。
そんなの怖いわって言うなら、やめとくけど。
[くすくす笑って。
今度は、待ち合わせ場所も決めよう。
時間だって。朝から会おう。
アクセサリー教室ってどんなところだろう?
楽しく話せば時間はあっという間で。
自分は一人で平気だったはずなのに。
彼女と別れるのが、少し寂しくて。後ろ髪を引かれた。*]
一人でも、今日とそう変わんないよ。
法定速度、ちょいくらい。
それに、
[ 一度言い淀むようにして口を噤むが、
今日はずいぶん自分の話をしたし、開放感あふれる
場所であることも手伝って、再び口を開く。 ]
二人、の楽しさ知っちゃったからね。
[ 連休が取れたら、と添えた言葉への返事に
君は少しの間を要して、頷いたのは
おや、と思うものの、すぐにヘルメットを被って
しまったので、それ以上の言葉は交わさないまま。
滲む赤が見えたわけではない、が
それでも意識しているであろうことは伺えたので、
に、と笑ってしまったかもしれないな。 ]
[ 別にすぐにどうこう、は考えていない。
男女だってそう変わらないだろう。
それでもいつかは、相手をみる目に
劣情だって滲むだろう。
今はまだ微弱だったとしても。
精神的な繋がりを重視するとか、
余程潔癖であるとか、触れ合う事を
厭う理由がない限り。
互い、同性である故に、
男女のそれと同じにとは行かないが。
一泊旅行に、友人同士のような気軽さで
頷かれていたら、苦笑いしていたかもしれないので
あの反応は、俺を少し調子に乗せたし、
喜ばせたのは間違いない。 ]
ガスコンロもレンジもある、包丁も。
ほとんど使ってないけど、オーブンも。
[ あとは探せばある程度のものはあるのだが
なにせそれを購入したのは何年も前だし、
何ならパッケージに入ったままのスライサー等が
あることなど、本人はすっかり忘れてしまって
いるもので。 ]
うん、俺も好き。那岐くんの作るご飯。
[ 休日まで働かせてしまうようで、
気が引けるのは本当だけど、
相手から言い出してくれたこともあり、
ほとんど誰も入れたことのないプライベートな
スペースに存在する、君に強く惹かれた事もあり
お願いしてしまうことにした。
――その瞬間、次に買い物に行ったときに
買うものを決めた。
エプロンだ
。 ]
[ コンビニに入ると、カゴを片手に
あれこれと回っていく。
カゴに詰められていくものが
何を作るためにそこにいるのか
やっぱりどうも、わからないから
ほぼ後ろをついていくだけになってしまったかな ]
最近は思うとこあって、ほんとにちょっとだけ
でもほとんどしないと思って間違いないな
調味料、味噌と醤油、ドレッシングは三個くらい
…あとは覚えてないから多分、ない
[ どうしてその三つがあるかというと、
出来合いのものを買った時に使うから、である。
買っておきたいもの、と言われ思い出したように ]
あ、うち野菜ジュースと水と、
酒しかないから、飲み物あったほうがいいかも
コーヒーマシンはあるけど。
[ そう言って飲み物をいくつか、カゴに
入れた。冷蔵庫開けたら、並ぶ野菜ジュース。
その冷蔵庫より本領発揮してるワインセラーには
ワインが数本、
ベッドサイドの冷蔵庫にはミネラルウォーター。
という有様なので。 ]
―― 自宅へ ――
[ 駐車場にバイクを止め、
オートロックの玄関を抜けて、
エレベーターに乗り込み9階へ ]
どうぞ、ちょっと散らかってるけど
[ 扉を開けると君を招く。
キッチンは目と鼻の先、一番奥にベッド
リビングには人を駄目にするという
謳い文句のソファと大型テレビ。
テレビ脇の本棚には、雑多な本。
演技指導の本から、役作りのためだけにある
医学書や解説本など。
ソファ横のローテーブルには
広げたままのデートスポットの特集雑誌、
それにレシピ本未満の初心者向けの本。 ]
好きにくつろいでって言いたいとこだけど
先に確認しないと、
[ キッチンの収納扉を開けて、
今ある調理器具を見てもらい ]
足りそう?
[ 聞いて足りなさそうなら?
買い出しでもなんでも、行くとも。
しかし、自宅に自分以外の誰かが居る
という見慣れない光景にすこし、見入って
しまっていたかもしれないな。* ]
―― いつかの夜 ――
えぇ、そういう事を言う……
[ 散々悩んだ後に、鴨南蛮と決めた時だった。
誘惑の一言
が舞い込んできたのは ]
うーん……
じゃ、品数も料理も素材も
全部任せちゃおうかな。君に。
[ 関係の名前が変わっても、
ここへ通う頻度は相変わらず。
仕事に支障がでない程度に。
会いに来ている、も正しい。
食事をしに来ている、も正しい。
以前と変わらず隣に誰か居れば談笑するし
なにがしかの報告があれば聞いただろう。
彼氏彼女になった皆さん、情報お待ちしています。
]
[ 特に何を決めているわけでもない。
言うも言わないも。
大事な人に知っておいてほしいなら
それもいいし、誰にも知られたくないなら
それもそれ。
言いにくい事であることは理解している所だし
相手もそうだろう。
――人前で平気で好みのタイプ聞いたり
しといて今更ではあるんだが。
ただ、特定の曜日に休みが集中しているとか
そういう事を聞いていたら、こちらも合わせて ]
遠出もいいけど、だらっと過ごすのも
いいよね。気になってたけど見てなかった映画
そろそろ配信始まるんだ。一緒にどう?
[ 友人同士の距離に見えるだろうことを
敢えて利用するように堂々と、デートの約束
取り付けたりも、してただろう。 ]
[ ――尚。 ]
マジだった、しつけぇ
[ これは店で起きたか、それ以外の場所だったか
やたらとうるさいスタンプ爆撃が本当に
来たとしたら、 ]
葉月、前に、
俺好きな人とじっくり話したいからって
店先で捨ててきたんだけど、
根に持ってるのか教えろってしつこい。
[ 愚痴まじりにそう零した事もあったはずなので
そのうち、葉月には言う、と前もって
君には伝えていただろう。* ]
[オーブンがあるのに使わないとは勿体ない。
とはいえ、
それを使うには今日は手間が掛かりすぎるから、
オーブンの出番は次の機会に。
軽く投げられる『好き』に微笑む。
料理人として、作ったものが喜ばれることは
常に嬉しいことだと感じているから。]
店で出すものより
かなり、手抜きになりますけどね。
[そういえば、店に来る時以外の
食事はどうしているのだろうと、考える。
毎日外食している訳でもないだろうけれど。
余り作らないというのなら、
出来合いのものを買うことが多いのだろうか。
買い物かご片手にスーパーに居る高野の姿は、
……確かに余り想像出来ないな。
]
思うとこ?
[少し引っかかったものに、小さく首を傾げた。]
……じゃあ、砂糖も必要か。
[後半は独り言。砂糖をかごに足して。
こんなものかと、かごの中身を確認する。
足りなければ、その時また考えれば良い。
飲み物ばかり口にする様子を見れば、
多少、冷蔵庫の中身と
普段の食事生活が気になったものけれど。]
コーヒーがあるなら、嬉しいです。
よく飲むから。
[酒を飲むことになるとするなら、
つまみも必要だろうか?
彼が飲むつもりなら、多少は付き合うつもり。
足されていくかごの重さが
両手にで支える程にならなくてよかった。]
[二人乗りの楽しさをまた分け合った後、
案内されたマンションは、
俺が住んでいるワンルームよりも
セキュリティもしっかりしているようで。]
――お邪魔します。
[小さく頭を下げてから、開かれた玄関に一歩踏み出す。
男の一人暮らしにしては、整頓されている部屋。
ものは余り多くはなさそうだけれど、
困るほどもでもない物量の家具。
それから、仕事柄か紙媒体が多かっただろうか。
巨大な四角いような丸いようなブロックを見つけたら、]
……あ、駄目にするやつだ。
[とか呟いて、歩みを進ませながら。]
[キッチンへと案内されたなら、後を追って。
余り汚れていないキッチンカウンターに、
買ってきたばかりの荷物を置いた。
隣に並んで、開けられた収納棚を覗いたり、
調理器具の仕舞われた引き出しを確認する。
店よりも自宅よりも、
随分と空きスペースがあったけれど。
あまり、使われていない器具を手に取りながら。]
これなら、なんとか。
作りものをアレンジするくらいですし。
[多少、足りなくともなんとかするのは。
俺の手際の見せ所。]
運転、疲れたでしょう?
座っててもらっていいですよ。
すぐに出来るものは、先に出すんで。
[そう告げて、今日の防寒の役目を終えた
ジャケットとフリースを脱いだなら、
トレーナーの袖を捲くる。さあ、料理を始めよう。*]
[裕福な家庭ではなかった、ということは知れても
その詳細まで玲羅は知らない。
彼の生い立ちについても
また詳しく聞かせて貰える機会はあるだろうか。
ともあれ今は、その言葉に耳を傾けて。]
そっかあ………
[大きく口を開けて笑うのも、拗ねたり口を尖らせるのも。
別段意識してやっているわけではなくて
彼と居る時は自然体でそうなっているわけなので。
ほこほことした気持ちになって、照れたように髪を弄る。]
うん、わかった。
覚えとくね。
[彼の前で素敵な自分で居たいと、
そんな気持ちで選んだ服なら、どんな姿でも嬉しいと。
そう太鼓判を教えて貰えたような気がして。]
[そうして色んな思惑は次回に持ち越して。]
うん、了解。
え!お弁当作ってくれるの!?食べたーい!!
[軽く言うけどお弁当作るのって大変ですよ。
普段あまり料理しない人なら猶更だ。
ぱっと期待に目を輝かせる。
怖いわ、なんて言うわけない。
君だっていつだって私が勧めた料理を文句言わずに食べてくれる。
何より彼が一緒に楽しみたいと言う気持ちから
申し出てくれたことに、嬉しい以外の感想があるはずなくて。]
じゃあ、待ち合わせ… は、駅前とかでいいかな?
お弁当持ったままだと荷物になるから
公園とか散歩してお昼ご飯食べて、
そのあと午後からアクセ作り行こうか。
[なお手作りアクセサリー教室について
駅から徒歩10分程の店舗内でやっているようだ。
何時来店してもいいけれど事前予約が必要で
制作時間は作るものにもよるけど1~2時間くらい。らしい。
大体の時間を決めたならそちらはこちらで予約しておこう。
待ち合わせ時間と場所も決めて、
その場で暫く話したら、
ほどなくして解散の流れになっただろうか。]
じゃあ、またね。
今日はありがとう、楽しかった。
[別れるのは名残惜しいけれど、悲しくはない。
またすぐに会える。これからたくさん、楽しいことをするんだから。]
……好きだよ。
[もう一度、そう告げて。彼に手を振ろう。**]
| ─ その厨房 ─
あつっ
[バタン。オーブンの扉がしまる。 猛烈な蒸気に舌打ちしながら取り出した天板を揺らさぬよう調理台へ移し、ヒラメのムースの蒸し上がりを確かめる。
カチ・コチ・タイムリミットを数えるカウント。
冷菜類とデザートはもうクーラーボックスで現場へ届く頃。 ザウアーブラーテン(ローストビーフ)を切り分け、スープとグラタンを温め、パスタを茹でて仕上げるのは向こうのキッチンで。
ゴウゴウと鳴る換気扇の下でも、多めに揚げたファラフェル(豆のコロッケ)と鶏唐揚げの余韻で胸が灼ける。 崩れやすいムースをそっとパッキングしていく。
手元が狂わないように。 どうか、どうか完食してくれますように] (36) 2023/03/11(Sat) 14:42:55 |
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──ああ、もう、いかないと
[最近流行のデリバリーバッグ(ロゴは某社のものとは違うけど)を背負って、その重さに顔をしかめた。 火の始末をたしかめ、電気を消す。
それから出口付近のミニカウンターで見守ってくれていたぬいぐるみを抱き上げた]
行こ?
[バタン。扉を閉める]
(37) 2023/03/11(Sat) 14:43:05 |
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