【人】 帝国新聞 「祝い事でしたら、月の綺麗な日が良いでしょう。」 寡黙な女が唯一零した要望はたったのそれだけ。 叶えない理由が皆無、二つ返事で日取りは決まる。 楽団が賑やかな曲を奏でる中で、 王族や貴族、司祭、彼らに仕える騎士までもが 平民たちから搾り取った税で作られた祝い酒を浴びていた。 今宵は無礼講だと言わんばかりの宴の中でも女は座った儘、 料理も酒も、一口も口にすることも無く一点を見つめていた。 「宴の後、私の部屋へ来るように。」 美酒に酔いしれた王が耳元で告げた言葉は 城内に響くことこそないが、誰もが気づいていただろう。 常日頃から彼女に触れる手つきが粘り気を帯び、 下心が隠せていない有様なのは周知の事実だったのだから。 かの王の目当ては女研究者の身体である、と。 (17) 2020/12/02(Wed) 2:36:15 |
【人】 王室研究者 リヴァイ[まだ月が雲間に隠れた静かな夜の事だった。 下女らに身を心底丁寧に洗い清められ、薄い布を纏うのみの艶めかしい姿で王の私室の扉を叩く。 数秒も経たない内に扉が開き、太い両腕を広げる主の胸に形ばかり微笑みを浮かべてゆっくりと飛び込んだ。 腰を抱かれ、撫でさするように掌を這わされながら 広い寝台へと徐々に誘導されていく。 鳥肌が立つ程の心地悪さを感じながらも 心の中でカウントダウンは忘れずに。 5,4,3,2,1……どさ 、とベッドに押し倒されれば 口角が歪な三日月を描き、アイスブルーが獣の如くぎらついた。] [眼前で う 、 と呻き声がする。 胸元を抑えて倒れ込んだ我が王は、 毒でも飲んだかのように苦しみ始めた。 焦ることもなく、表情を隠せない儘言い捨てた。] (18) 2020/12/02(Wed) 2:36:24 |
【人】 王室研究者 リヴァイ 私を味わう前に、教えてください。 ・・・・ 今日の宴の豚のお味は如何でしたか? 家畜そっくりな貴方様にはぴったりだと思ったのですが。 [シーツに沈み込んだ身体の間をすり抜けて立ち上がれば たわわな胸の谷間に隠し持っていた金の拳銃を相手の首筋に向けて構えた。 15歳の誕生日の時、両親から護身用にと手渡された祖国の刻印のついた特別性だ。今の今まで使う機会こそなかったが、今日という日のために銀の弾丸を何発も用意してきたのだ。 腐った人間など悪魔同然の扱いでよいだろう? 藻掻き苦しみ、酸素を求め首を掻きむしる様を無表情で眺めながら 遂に動かなくなったその喉元を引き裂くように────躊躇いもなく、引き金を引いた。] (19) 2020/12/02(Wed) 2:36:38 |
【人】 王室研究者 リヴァイ 私を味わう前に、教えてください。 ・・・・ 今日の宴の豚のお味は如何でしたか? 家畜そっくりな貴方様にはぴったりだと思ったのですが。 [シーツに沈み込んだ身体の間をすり抜けて立ち上がれば たわわな胸の谷間に隠し持っていた金の拳銃を相手の首筋に向けて構えた。 15歳の誕生日の時、両親から護身用にと手渡された祖国の刻印のついた特別性だ。今の今まで使う機会こそなかったが、今日という日のために銀の弾丸を何発も用意してきたのだ。 腐った人間など悪魔同然の扱いでよいだろう? 藻掻き苦しみ、酸素を求め首を掻きむしる様を無表情で眺めながら 遂に動かなくなったその喉元を引き裂くように────躊躇いもなく、引き金を引いた。] (20) 2020/12/02(Wed) 2:36:41 |
【人】 反逆者 リヴァイ[声が潰れるまで呻き、責苦と恐怖に強張った 豚のような王様は漸く首を転がし、苦痛からの解放を許された。 踊る骸がシーツに倒れ、酒代わりの血に酔い痴れる。 この夜こそが、彼女の求めていた真実の宴。 カウントダウンは料理に盛った毒薬が効力を出す時間。 祝典の焔も消えた闇の中で、徐々に絶望が牙を剥く。 死 の天使の如く白布を脱ぎ捨て、クロゼットにしまわれていた軍服と白衣に身を包む。 蒼褪め顔に恐怖を滲ませた数多の人々の 生への希望が失われる音にしてはあっけない、深々吐き出した息を狂騒に紛れさせながら、長い廊下を振り返りもせず靴音を響かせた。 肉とワインに紛れ込ませた罠に“運よく”かからなかった生者の悲鳴を耳に確りと刻みつけながら。] (21) 2020/12/02(Wed) 2:37:36 |
【人】 反逆者 リヴァイ[予想外の事態に身を縮みこませた兵士が撃ち込んだ弾丸を交わす度、白衣の裾が翻る。長い髪は素早い動きに追いつけず、発砲に巻き込まれれば一部の長さが犠牲となった。 同じ数だけ自身の銃が火を吹けば、銃撃戦は少々興ざめする形で終わりを迎えた。 『寮長……リヴァイ寮長なんですよね? 私、貴方とは戦いたくなんかありません……! 気高くて、優しくて、美しい貴方にずっと憧れてきました! なのに、どうしてこんなことを…… 同郷の者同士で殺し合うなんて悲劇です!』 兵士の屍の隙間から、震える声で叫んだ若い女研究者には見覚えがあった。同学部の一つ下の優秀な少女だった筈だ。自分をやけに慕ってくれて、卒業時には直筆の手紙迄贈ってくれたことを今更ながら思い出す。] 君は、私のことをそんな風に思っていたのか。 ───これを見ても同じことをいえるだろうか? (22) 2020/12/02(Wed) 2:37:47 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[黒い雲間から、震えあがる程に美しい満月が顔を出す。] [────ぴき 、と掌から腕へ、腕から肩へ。黒光りする鱗が肌を覆っていく。 仇討ちに情など必要ではない。無駄に理性を残して全てを狩りつくせないのならば、この夜だけは自我を繋ぎとめる薬など持ち合わせてもいない。 絶え間なく襲い来る頭痛に思わず頭を抱え込めば、獣特有の酷い飢えと渇きに思考回路が支配され、だんだん感覚が麻痺していく。 「────ひ 、いや、化け物ッ!」と息を呑み、叫んだ彼女に微かに残った感情が浮かぶのは呆れのみ。結局見た目でしか判断できず、理解すらしていなければ救う価値すら見いだせない。 本能のままに鉤爪を伸ばせば、弱弱しく暴れる四肢を噛み砕く。 甲高い断末魔と飛び散る血飛沫の赤が視界を覆いつくして───女の“人間”の意識はそこで途切れる。] (23) 2020/12/02(Wed) 2:38:04 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ 『リヴァイ───リヴァイ! お前は俺が止めてやる、俺が楽にしてやるから!』 [意識が途切れるほんの一瞬、 学び舎時代の嘗ての悪友が自身の名前を呼ぶ声と、 ────脇腹を抉る弾丸の感触がしたような気がした。] (24) 2020/12/02(Wed) 2:38:28 |
【人】 帝国新聞 「王城 血 に染まる王族貴族含め城内■■■人全てが死体で発見 祝賀会の後の犯行か?」 「件の女研究者 姿見当たらず」 首都機能を失くした帝国は混乱の一途を辿っていた。 その国の名のみを抱えた新聞が少ない情報を知らせている。 いつしか独裁国家でまとめられていた地は細かに分裂し、 小さな田舎町が転々と存在する独立区域へ姿を変えた。 獣化人間による最強の戦争大国は、 あっけなくその幕を下ろしてしまったのである。 (26) 2020/12/02(Wed) 2:39:34 |
【人】 亡国の歴史書 一夜の内に起きた悲惨な大量殺戮事件。 一部の遺体は獣に食い荒らされたようにぼろぼろで 形さえも判別できない有様だったという。 滅びた筈の月光病患者の悪夢を呼び戻したようだと どこかの誰かは例えたのだというが、 何れ人々はこの出来事に名前を付けた。 リヴァイアサン ────── לִויָתָן この国の終焉を知らせる獣の仕業だったのだろう、と。* (27) 2020/12/02(Wed) 2:41:32 |
終焉の獣 リヴァイは、メモを貼った。 (a2) 2020/12/02(Wed) 2:46:37 |
【人】 一 夜端[忠告は昨日もしたし今日もした。 これ以上はない。 俺も良い加減腹を括ることにする。 被虐の中に身を置かなければ 自己を保てないド変態な兄。 子分たちを操って趣味に付き合うのは 彼奴にだけ利益があることではない。] (29) 2020/12/02(Wed) 8:38:18 |
【人】 一 夜端[――気に喰わないのも間違いじゃない。 真昼にあって俺に無いもの。 父さんは彼奴のそこを気に入ってる。 だから俺は彼奴のことが妬ましくて仕方がないんだ。**] (31) 2020/12/02(Wed) 8:38:38 |
【人】 地名 真昼[それが何やら複雑そうな顔で 「二河くんとどういう関係なの?」 と訊ねてきた。 ……彼はとても可哀想な人種。 客の中にもそういうのは居た。 体を繋げただけで情を湧かせ 一時の熱病に罹ってしまう、哀れな――、] (35) 2020/12/02(Wed) 13:49:00 |
【人】 地名 真昼[その癖、現在の立場に甘んじてもいて 安全圏から見下ろし イイ思いをして 気まぐれに手を伸ばしてくる。 救いを与えてくれることもなければ 表面なぞって理解したつもりになって 真に知ろうとさえしない。 だからこんな僕に騙される。 可哀想な彼らを、心底嫌悪していた。] (36) 2020/12/02(Wed) 13:49:39 |
【人】 地名 真昼[だけど奥歯にも出さない。] 友達、だよ [また何やら難しい顔をする理由は わからないし知る気もない。 空澄くんが戻ってくれば 吉田は慌てて退散していく。 放課後の足音は着実に迫っていた。**] (37) 2020/12/02(Wed) 13:50:06 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ(互いを繋ぎとめているのは 酷く残酷な約束でしかない筈で、 それこそ自身への気休めにしかならないのに。 自分用にと作った最後の毒が手元にない事実に、 代わりのように短剣が懐に収まっている現実に、 酷く安堵感を覚えているのは何故だろう。 ……のたれ死ぬ期日が伸びただけなのに 狂気に呑まれないと、折れまいと抗う心に 覚えていたのは苛立ちだ、 無駄なことを…… と。) (38) 2020/12/02(Wed) 16:14:08 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[幸福な夢から醒め行くように 意識が戻るときに広がる世界はいつも無常だ。 覚えのない咆哮が独り歩きした後は、生の気配が一つもしない。] [無造作に転がる人間だったものたちは 大概が子供が残酷に壊した玩具のように、四方八方に部位を散乱させている。最早原型を取り戻せるかも不安な有様は、常人ならば吐き気どころでは収まらなかったかも知れない。 呆然と見つめた視界に映るは 彼等の首から、四肢から、中身から噴き出した一面の赤。 その余りの鮮やかさに驚きを隠すことができなかった。 どうやら彼等には自分と同じ色の血が流れていたらしい。] [自分も彼等も同じく醜いものなのだ、とここで漸く理解した。] (39) 2020/12/02(Wed) 16:14:14 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[追憶したのは、捨て去った陽だまりの日々。 柔らかく、穏やかな時間に絆され乍ら 無知故に無限に受け渡される抱擁のような優しさに包み込まれた戻らぬ記憶は脳内で黒く塗りつぶされていくばかり。 思い返す資格さえ与える事すら許されない位に 己の人生を歩んだ足は後ろを振り向く事すら戻れない場所まで来てしまっていた。 死臭が漂う地獄のような空間の中でどんなに心が悲鳴を上げようと、肝心なところで自我は狂ってはくれなかった。 寧ろ現状を享受し、運命を受け入れるべきであるのだと益々自分の首を絞めていく。 ……最早何が自分の心を抉っているのか、一体どうしてこんなに苦痛に苦しんでいるのかさえも、わからないままでいる。 自分の知らないリヴァイの皮を被った誰かが糸繰り操っているようだった。] (見下ろした掌がいつまでも小刻みに震えているものだから 寒いという感覚だけをやっと理解することができた。 ……寒いのは、嫌いだ。温もりを奪ってしまうから。 叶わないととうに理解している癖に求めてしまうのは ないものねだりの延長線に似たようなものだろうか。) (40) 2020/12/02(Wed) 16:14:19 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[世界は誰にでも平等に朝の訪れを知らせるものだから、 血濡れた満月が過ぎ去った後は、冷たい朝日が窓辺に差した。 ほのかな光が溢れた空間の中でよろよろと歩を進めれば 屍の山の中に倒れ伏した、腕の無い骸の一つを抱きしめる。 逞しさの中に友愛の籠った翡翠は最早開くことはなく 半開きで固まりかけの赤を流す口は言葉を紡がない。 愛しい日々の一部分だった元相棒は生命を悉く食い尽くされて 死を象徴する冷たさだけが、服越しに自身を冷やしていく。] [不意に走った脇腹の疼きに顔を歪め、微かに呻く。 鱗で覆われきらなかった柔らかなそこを抉った銃弾は 化け物の皮を脱ぎ去っても尚、白い肌を突き破り赤く染めていた。 意識が遠のく直前に聞いた彼の言葉を思い出す。 “……噫、彼は終わらせられなかったのか。” 行き着いた結果に、どうしようもなく心が沈んだ。 幼き頃から重ねた罪が、耐え切れない重荷となって残った自我を押しつぶす。] (41) 2020/12/02(Wed) 16:14:26 |
【人】 終焉の獣 リヴァイ[思い出の一部を自ら壊し、形成された世界が破壊されようと、やっぱり涙は零れなかった。 抱きしめていたものをそっと離して、温度の無い頬面を優しくひと撫でする。 季節も後半に差し掛かり、朝冷えで凍えそうな石畳の廊下を裸足で歩けば客室へ戻り、着ていた服を纏い直す。 ひとではない獣になる際に、纏っていたものは破れて犠牲になっていたから。 誰かも分らぬ血のついた掌を清めもしない儘窓を開けば、窓枠に赤がこびりつく。毛程も気にせず───まるで意識は遠くへと飛んでしまったかのような目つきで白い太陽を眺めていた。] (……何もかも、終わってしまった。 生きる理由を果たしてしまえば、 残るものなどひとつも無かった。 何時かに言われた言葉の通りだ。 私はもう、どこにもいけない存在なんだろう。) (42) 2020/12/02(Wed) 16:14:31 |
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