203 三月うさぎの不思議なテーブル
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あいつ酔ったら『お母さん』とか言いそうだけど
驚くかな、どうだろ。
好きな人口説きますって宣言してその後
俺一直線に君に向かっていったから
案外気づいてるかもね。
[ 夜
桜
が月明かりに照らされて美しい。
柔らかな光のもと、
そう言いたくなる気持ちが、
分かってしまったので。 ]
綺麗だね
[ 自然と口から溢れだしてしまったな。* ]
[熱いお茶を、零してしまわないように。
火傷しないように。受け取って。
玲羅が真っ赤になった。]
……ふふっ。
[胸の内がくすぐったくて温かくて。
おでこにおでこをコツンと当てたら、顔を離した。
牛さんになる玲羅も可愛い。
小さな囁き声に、胸の奥から笑いが零れた。]
[玲羅を育てたご両親。
何時か会ってみたい。
この明るく芯が強く優しい人を、育てた人。]
ううん。頑張ったのは玲羅だから。
……でも、ありがとう。
何時かご両親にも会ってみたいな。
[そう微笑んで。]
[お弁当を片付けながら。
春色のネイルも可愛い。
本当に自分の魅せ方を知っている人。
アクセサリー、何色が似合うかな?
髪飾り、ネックレス、イヤリング……
考えて居れば、少し恥ずかしそうな囁き声。
俺は愛おしくて、幸せで、顔が綻んで。]
もちろん。作ろう?
俺が玲羅の作るから、玲羅は俺のを作って?
[ガラス石とか入れるんだろうか?
何色が似合うかな?何色が好き?
でも今一番聞きたい事は……]
――鴨南蛮の日――
あー成程。
それは家じゃ中々出せないね。
「贅沢を飲んでる」って感じがするもんな……。
[那岐から正解が出されても、境地に辿り着くことはできない。
得たければこの店に来るしかないという訳だ。
どうか末永く続いていて欲しい。
繁盛し過ぎて座る席がないというのも困るのだけれど。]
[新じゃがは好きだ。
皮ごと食べられるのが良い。
自分が作った味噌汁にも皮ごと入れていた。
料理に関する勘なら任せて欲しい。
身を乗り出すようにして、緑がかった油の中を泳ぐ赤・黄・緑を見つめる。
にんにくの香りは満腹感を覚え始めた自分の脳を狂わせる。
帰りの事を考えているかって?
仕事柄、取材のはしごもある身、歯ブラシセットは常備しています。大丈夫。]
こっちは七味は良いかな。
[油の泡が弾け切らない内に撮影を終え、柄の長いフォークを貰う。
アンチョビがかかったじゃがいもの色合いに目を細め、はふ、と口の中へ。
鴨南蛮で和風の味に満たされていた口が一気に気分を変えた。]
あっふ、あふぃ、 はふ、あー……
アヒージョ食べてると油たっぷりなのに
涎すごい出てくるから口ん中大変になるよね。
だがそこがいい。
っ海老……ぷりっぷりで最高。
頭も尻尾もつけたまま出してくれるのが
ホント、ナギちゃんだなぁ……
食べない部分も「旨い」って感じさせるのが上手。
[アスパラも噛めば撓むのではなく気持ち良く折れてくれる。
色味の面だけではなく食感的な意味でもバランスが良い。
「ナギちゃんだなぁ」の後に、少し前なら何の衒いもなく「スキ」!と勿論LIKEの意味で言葉を放ったのだけれど、意味合いが違えど今では出し惜しみする気持ちが出て来た。
それに、]
遅めの時間だと注文減ってる分、料理の手元がよく見えて良いよね。
さっきの、「チャンス」って、こういう意味?
違う意味?
[そう話しかけられる位置にいる人の耳も割と気になることだし。**]
[鴨南蛮は醤油の出汁の香り。
鴨の深みも口に残るだろうから。
揚げ物の方は少しさっぱりと。
思わずと零れた反応だろう音。
今までとは違うのは、味覚が覚えたからか。
親しい神田の癖が移ったのかもしれない。]
そうですね。後、生姜も少し。
[彼とも答え合わせをして、頷きながら。
少し酒の入った様子を仕事の合間に垣間見る。
口元に運ばれていく箸を見ながら、
ふと、過去に話した友人との下世話な話を思い出した。]
[――食事と性欲は密に繋がっている。
その傾向も、食べ方で分かるらしい。
初めて彼と出かけた日。
初めてバイクに乗って、彼の家で過ごした日。
次の約束を仄めかされて、
彼が感心して止まなかった料理を二人で
腹の中に収めた後。
片付けの申し出に甘えて、
柔らかなソファの心地よさに心ゆくまで沈んで。
ダメになる理由をしっかりと覚えさせられて、
狭い家に同じものが欲しくなったと零したりもした。]
[別れ際に、名残惜しそうに触れられた指先が。
頬を撫でるのを少し擽ったく感じながら、
見上げた時に瞳に覗いた微かな欲の色。]
[不謹慎にも、触れた柔らかな感触を思い出して。
微かに、息を呑んだ。
頬が、熱い。
]
[煩悩を振り払うように手元に集中した。
神田さん、生憎と俺が作った料理に
理性を保てる効能ないかもしれません。
観たいもののリクエストには鈍い反応を見た時は。
駄目かな、と思ったものだけど。
後に見えた照れるようなリアクションを見たら、
了承と捉えてもいいのだろう。
戦隊モノは、子供の頃に少ししか
見た記憶がないぐらいに薄い。
それでも、本人の解説付きでそれが恋人であるならば、
その時間が楽しいことは保証されている。]
[少し斜に構えた、後方から見守るような存在。
それが俺の小さな頃に見た『ブラック』のイメージ。
夜桜を見やすいように明るい街灯の下。
まだ見たことがないもう一人の『ブラック』の方は、
拗ねたような声で、可愛らしい嫉妬を見せた。]
……ふ、
[分かりやすい反応に思わず、頬が緩んだ。
握りあった手が彼の口元へ運ばれていく。
だから、此方からも。
運ばれた手の甲を、彼の唇にトン、と触れさせた。]
心配しなくても、
妬くようなことにならないですよ。
[斜めに曲がった機嫌は治るだろうか。
笑っているから、きっと、大丈夫。]
[葉月の酔い方は目にしたことがある。
あれは度数の問題もあるだろうから、
毎回ああなる訳じゃないだろうけれど。
自身も酒があまり強い方ではないから、
共感する気持ちが強いのは否めない。
『お母さん』と呼ばれる高野の姿を
想像して、また笑いを押し殺しながら。
彼が口にしたのは、あの日のこと。
夜桜に視線を移していく彼を追って、
見上げたら、ピンクの隙間に浮かぶ
薄白い月が見えただろうか。]
[落とされる呟きに
、微笑みを返す。
脳裏に浮かぶのは、あの時流れていたBGM。]
そうですね。
桜も、――月も。
[死んでもいい、
とは返さない。
九死に一生を得る狭間を彷徨ったあなただから。]
[それから、]
配信を観る日は、泊まってもいいですか?
[少し、躊躇いながら口にしたそれは。
無事、受け入れられただろうか。*]
[ すっかり流されていたと思った話題は
鴨南蛮を綺麗に空にし、竜田揚げも
あとひとつ、というときに戻ってきたので
こういうとこ、記者の気質なのかなぁとか考えながら ]
そうだね
[ 軽い肯定で答えただろう。 ]
神田くんも最近遅いよね
目的は一緒?
[ 堂々と関係性を認める言葉を使わずとも、
視線がカウンターの中に向かえば、
察せるものはあっただろう。
聞きすぎることを厭うような友人のことは
信頼しているので。
視線も、細まる目も、嘘はつかない。* ]
ああ、言われたら生姜、
分かる気がする。
[ 今までも、カウンター席から調理する姿を
眺めることはあった、相手が誰であれ。
生放送を見ている、そんな感覚で。
けれど、今はそれだけじゃない。
好きな相手が、料理が好きだから
興味を持つようになり、解説本などを
読んでいるうちに、より興味を持って、
調理する姿を見るようになったので。
単純に手際に見惚れていることのほうが
多いのだけどね。
仕事だから。いいや、それ以上の手間を
彼らは難なく、こなしてくれるものだから。
見ていて楽しいのも、本当だけど。 ]
[ 自分の出演作に、興味を持ってくれるのは
俺が君の調理する姿を見ていたい、それと
近しいもの、なのだろうか。
それ以外にも出演作はいくつもあるが、
あれが、原点。故に巧みな演技力など
期待できるものではないけれど。 ]
じゃ、次の休み、連絡して。
[ つい先日、目覚ましい仲間の活躍により
配信が開始されたことは知っている。
仲間のSNSにも大きく告知が出ていた。
余計な一言も、添えられていたが。
"仲間の活躍はいつでも嬉しいです"だとか。
あの仲間という言葉は、自分にも向けられている
事はすぐに察することができたよ。
その情報に紐付けられていた
当時の記念写真は、五人で撮ったものだって
山ほどあった筈なのに、六人で写ったもの
だったから。 ]
[ 小さな笑い声。
引き寄せた手の甲が、唇に触れる。 ]
なら、いいけど。
[ 心の狭い所、見せてしまった。
みっともないな、と胸中で呟く。
けど、ただの男なので。
そういう所も、たまに見せてしまうだろうな
これからも。 ]
心配はするよ、俺が好きになった君だからね
でも、ほんとに良いやつだから
紹介は、したい。
[ 本当に俺の恋人は、俺の機嫌を取るのが
上手で困る、餅焼く暇も、ないくらい。 ]
[ 夜と言えども、気候は温暖。
花散らすほどの風もなく、おだやかなもの。
告げた言葉の意味は伝わっただろう。
繋いだ手はそのままに、
ゆっくりと下ろし、こちらも少し応えるように
力を籠めた。 ]
はい、もちろん。
その日まで届くかな
[ 答えた後で、脳内でリフレインした。
少し躊躇うようにして、問われた言葉 ]
ダメになるためのアレ
もう一つ、注文しちゃったんだ。
[ 歩みは止めないままで、何気ないことを
話すように、努めては見たけれど、 ]
すごいドキッとした。
[ 誘われているようで、つい口にしてしまった。
その日は遠くない。休みの日を確保する算段は
既に立ててあるから。
うるさい心臓の音までは
聞こえていないと思いたい。* ]
― 過日:うさぎ兄妹の戯れ ―
[ ところで成人男性がついてくる事故物件(疑惑)の、
ついてくる、はどっちの意味なのだろうか。
文字通りひとり同居するということなのか
漢字に変換すると憑いてくる、になったり──?
……ホラーが苦手な大咲は考えるのを止めた。
ご機嫌取りのような、親しみを込めるような
そんな優しさで数度頭を撫でられれば
笑うように目を細めた彼が、首を傾げて。
]
……えっ
[ 反撃。……ではない。ようだ。
良い感じの恋バナ出てこないかなぁとかいう企みは消え
まごついている間に、瑞野の視線は、ある一点へ。 ]
[ 視線の先、少し遠くに見えるのは
つい最近なにかと世間様で話題の彼しかいない。
無意識なのか、それとも意識しているのか
…恐らく前者であろう笑みを、妹はしっかり目撃した。 ]
……はぁい。
待ってます、話してくれるの。
美澄くんの面倒は……が、がんばります……。
[ アルコール度数18度のカクテルを初手に堂々作ろうとは
何とも肝の据わった期待の大型新人だ。
兄の教育方針を受け継ぎ、神妙な面持ちで頷いた後。
きっと彼にしか聞こえない小さな声で。 ]
あの。
……これ、まだ、瑞野さんにしか言ってないんですけど
最近、……なんですけど
好きな人に、彼女にして貰えました
…ちょっと浮かれてても、見逃してください、ね?
[ つられるように流した視線。
きっとそれだけで、相手が誰かも悟られるかもしれないが。
最後の一撫でをにこにこご機嫌で受け取って
"早く
桜
が咲きますように"と
その背中を見送るのでした。* ]
― 鴨の日にて ―
[ 大咲が速崎からの返事を受け取ったのは、
店長への言付を依頼した翌々日のこと。
便箋のサイズと比べれば短い簡潔的な返事でも
"縁は切れない"ことを実感出来る内容に
どこかほっとした面持ちで読み終えてからは
少なくとも、仕事中のやり取りが微妙な空気になったりとか
そんなことは起こらなくなった。
────そして鴨肉の日、うさぎの穴にて
白うさぎたる大咲は、あまり厨房には立てなかった。
決して自信喪失などではなく、理由は幾つかあるが。 ]
( だ、大丈夫かな、美澄くん…… )
[ ちらっと縋るように此方を見る新人うさぎ。
絡む視線に色濃く滲む不安の色。
ひとつめの理由、即ちカクテル作りの独り立ち。 ]
[ 「作って良いよ」とカクテル指導役の大咲は言ったものの
そんな子犬のような目で縋られると、つい。
付かず離れずの距離に立ち、谷底へ子ライオンを落としつつ
カクテル作りを見守っていた …が。
どうやら、先日のような惨劇は起こらない様子。
ソーダできちんと"割る"ことを覚えたうさぎ一羽へ
零したのは安堵の息。 ]
セーフ……。
[ 雲行きが怪しければ即座に止めに入るつもりだったが、
今後もその心配はせずに済みそうだ。
なおこの桜カクテルの追加注文は、
葉月の食レポ赤ペン先生により無しになった様子。
先生とはいつの時代も厳しいものである。
]
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