176 【R18】実波シークレットパラダイス外伝【身内】
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忌部
「あっ、いえいえ。
そういう意味じゃないですから、大丈夫です」
ぶんぶんと首を横に振る。
違う、そうじゃない。
プールで媚薬のことがあっただけに、あまりにも気まずいと思っただけの話だった。
「俺はどうにも社会不適合なとこがあるので、誰かと深く付き合うのは……ちょっと難しいですね」
「おはようございます。
昨日は大変な目に遭いました……」
あの後カフェに行ったりで埋め合わせはできたものの、
ここに来ると嫌でも思い出してしまう。
おまけに夜は同室で、気まずいったらなかった。
今もまともに顔が合わせられない状態だ。
そういう意味では、この場で誰かの性癖が暴かれて
話題がそれで持ち切りになるなら……と、
発表を心待ちにしていた側面もあった。
社員用のグループチャットに時間通り社長が投降した、
隠し撮り写真を見るまでは。
【秘密開示】
そこに写っている場所は社内ではないどこか。
今より幾分か若く──学生くらいに見える由希子を、
背後から秘密裏に撮影したと思しきアングルで。
見れば、すぐに特異な点に気付けるだろう。
彼女は首輪と猫耳カチューシャを着け、
さらにはスカートの『下』から猫尻尾を垂らしている。
首輪にはリードが繋がれ、写真の外に見切れた何者かに
リードを引かれて歩いているようだ。
その表情は恍惚として、その行為に陶酔している。
彼女はただ猫が好きなだけではない。
実は、自らペットのように扱われたい性癖の持ち主なのだ。
「ちょっ……!?
待っ、これは違……っ!」
目を見開き、口を金魚のようにぱくつかせながら
居合わせた他の社員たちに弁明をしようとするが、
証拠となる写真を前には言い訳も意味を為さない。
何より、あの日スパの更衣室を覗いた者は知っている。
彼女が今もそういった願望を秘めていることを。
「…………」
榑林さん?
そうだったのか……、と。
流れてきた写真を見て、飲んでいた珈琲を吹きかけた。
昨日あんなことがあったから、気まずさだけは半端ない。
だが。
しかし。
このゲームの悲劇はこれで終わりはしないのだ。
さて、今日暴露されるのは榑林くんだけではない。
富武 瑛、28歳。
新卒で入社し、現在係長。
この若さでの昇進は本人に能力があることが認められてのことであるが、本人は自分のことを
『社会不適合者』
と呼ぶ。
そつなく仕事をこなし、覚えも早いのだが。
他者へ説明したり、他者から説明を受けることを苦手としていることは一部の人間の間で知られている。
そのため、説明という行為が重要になる部署には行きたがらず、もっぱら総務部一筋で生きてきたことは人事課の人間も承知しているところだ。
「だが、こちらを見て欲しい」
――と、社長は一つの動画を流した。
▼
そこは社長室。
おそらくは経理の資料だろう書類を持ち、ぼそ……ぼそ……と何かを説明する富武の姿が映っている。
「よく聞こえないな。
君はそうじゃないだろう。もっと、オープンにして話しても構わないんだよ、富武くん」
「……しかし、」
「わかっているさ。
私は君のことを面接の時から知っているよ。ソレを内に秘めておくのはナンセンスというものだろう?」
「私は全てを許容する。
君の欲を吐き出してしまいなさい」
そこから先は、人が変わったかのように資料の解説を始めた富武がいた。
テレビのスポーツ解説者のように、いきいきと、ハキハキと、力強く話している様は最早別人だ。
あぁ、幸せだ。
ゾクゾクする。
もっと解説したい、もっと、もっとだ!!!
身体が高揚する。
興奮を隠せない。
スーツの上からもわかるほど張り詰めた下半身に、社長がニンマリと嘲笑った。
▼
【性癖開示】
「
元気になったね
。ここからが本番だよ、富武くん」
近寄って。
それに触れる。
社長に連れられ隣の部屋に入っていく―――
動画はそこで、打ち切られた。
富武瑛は
【実は、状況や行動を常に解説したり、ナレーションしたりされたりする事に対して性的に興奮するナレートフィリアという異常性癖の持ち主である。】
ナレーションされることに関しても興奮するあたりは、マゾの気質も兼ね備えているのかもしれない。
忌部
「よくないです、全然良くないです。
そんなの褒めないでください――――」
泣きたい。
両手で顔を覆った。
「だから昨日言ったじゃないですか。
俺は社会不適合者だって……」
知的生物が社会で生活するにおいて、”説明”だとか”解説”は避けて通れない。
そのたびに興奮するような男が世に放たれていたら、誰だって避けたいに違いないのだ
忌部
「他人に下半身を見られなきゃいいって問題じゃないですよ……」
性癖を旅行者全員に知られてしまった。
噂が広まって大半の人に知られてしまうのは時間の問題だろう。
ふと。
とある誰かの言葉を思い出して、俯く。
「俺もあの人に倣うべきなんですよね……」
他人に迷惑がかからないようにとその誰かがとった行動を自分に充てれば、それは一つしかないのだけども。
忌部
「俺、酒はあんまり強くないんですよ……」
むしろ弱い。
そんな男があなたと朝から酒を飲んで無事でいられるはずがないから、やんわりと首を横に振った。
リモートの良さは確かに伝え聞いているが、部下に指示ができない上司はただの役立たずだ。
本来なら自分が部下たちを気にかけなければならない立場なのに、もっと忙しいはずの課長に押し付けてしまうことになりかねないではないか。
あのもう一人の課長には色々思うところはあれど、仕事において今以上の迷惑はかけたくないと、男はそう考えていた。
「課長は皆とスパに行く予定じゃなかったんですか?
まぁ……確かにこの会社じゃなければもっと前に社会的に死んでた気がするんですけど……。
だいぶ遅かったですね、死にましたよ。社会的に
」
遠い目をしながら乾いた笑いを漏らし、席を立つ。
提案はありがたいが皆との時間を奪う気にはなれない。
かといって人の多い場所に今向かう気にもなれなくて、ありがとうございます、と頭を下げるのだった。
忌部
「はは……酔いつぶれると自制が効かなくなるんですよ」
ファミレスくらいならまだいい。
バーだったりちょっといい食事を出す店となると料理の説明をしてくる店員がいる。
そんな所で我慢できなくなるような事になるわけにいかない。
それでなくとも既に失敗してる男なのだ、この男は。
「でも、感謝してます。
俺やることがあるんで、今日はスパには行かないと思いますが……
後で愚痴でも聞いてください」
そう言って、あなたが予想した通り
人気のない場所に向かっていく。
今はまだ、自分で考えなければならない段階なのだと、そう思った。
望月
一度部屋に帰って、しばらくして。
ようやく独りになって、やるべきことをやって外を見ると、泳ぐだけの普通のプールで泳ぐ男性の人影が見えた。
「……あれは……」
遠く彼でもわかる大きな体躯に纏めた長い髪は、いつも顔を合わせている課長のものだ。
少し考えて部屋を出ると、いつかのようにその姿を追いかけプールに向かう。
富武がいつでも水着にはなれるような姿でそこに現れたのは、あなたもそろそろプールから上がろうとか、休憩しようとか思うくらいは泳ぎ始めから時間が過ぎていたことだろう。
「何、してるんですか」
皆とスパにも行かずに。とまでは言わず。
そう声をかけた男の顔は、やはりあまり表情はなかった。
どこかの時間帯。
張り出された部屋割りを見た。
「……………えぇ…………」
常に落ち着いてたはずの男も、困惑を隠せない。
#3日目スパの部課長二人が居なくなってからようやく現れた男。
いい加減皆居ないんじゃないかと思ったのになんだか賑わってるなぁ。
男しか居ないけど。
「…………ふむ…………」
「一体何のAVですか?」
なんで風呂を埋め尽くすほどの謎の生物がここに。
いやスライムですけど。
#3日目スパの部「……………………ふむ」
鹿籠くんを見た。
風呂の中の二人を見た、なんか言ってる。
蠢くスライムを見た。
つながった、ロープと、浮き輪…………。
「……そのまま引きずり込まれてみてはどうでしょうか?」
#3日目スパの部昨日なにがあったというのか。
「どうですかね。
自分が凌辱されてピンチの時に、助けが来る展開なんて良いでしょう?」
―――同人誌として。
その後展開がどっちに転んでも物語として面白いものになりますよ、といい笑顔を浮かべ。
浮き輪に捕まったのを見れば、流石にこんな冗談ばかり言ってる場合ではないかと、ロープを共に掴んで引っ張るのを手伝った。
「……と、雲野さん。
AV披露に巻き込まれたくなければあれに近づいてはだめですよ」
#3日目スパの部「……ロボ太くん、う、ええぁ!?」
ロープを引っ張るのを手伝ったのが運の尽き。
そのロープを滑った拍子に引っ張られたかと思いきや、手を離すのが遅れてそのままスライムプールに落下する。
そういう状態だったから、きっと鹿籠くんやロボ太くんの直ぐ側に落下したのだろう、けれども。
泳ぐのは苦手だから、頭まで浸かってしまってしまいもがく。
立てばちゃんと足がつくはずなのに、水でなくスライムが入って身体に絡んでくるせいで立つことも叶わない。
「ん”ぅ……!」
なんとか這い上がり?いや、這い上げられて顔だけは外に出せたものの、サーフパンツやラッシュガードの中まで入ってくるスライムたちがとにかく気持ち悪い。
「そもそもこいつは飼われてるんですか!?」
というかスライムに意思とか言うものは存在するのだろうか?
自分開発の人間じゃないからわかりません。
#3日目スパの部「ん、ぅ……っ、は」
沈むか沈まないかのギリギリのところに浮かされて、息をするので精一杯である口から漏れる喘ぎは大きくはないものの、止めることは出来ない。
その状態でもしばらくもがいていると、新しい浮き輪が飛んできて、必死にそれに掴まった。
「…………うぇ……」
引き上げられれば見るも無惨な全身である。
折角のスパ、楽しめる風呂のはずがこれでは入った意味はない。
これはちゃんと身体を洗い直さねばならないと、頭がクラクラしてきてしまった。
「……ぁ、雲野さんは……」
流石に女性を置いていくことができなくて、あたりを見回す。
まだ上がれていないようなら、緑郷からの浮き輪だけでなく己の手も貸して救出するだろう。
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