人狼物語 三日月国


185 【半突発R-18】La Costa in inverno【飛び入り募集】

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視点:


【人】 大富豪 シメオン

後日譚エピローグ

[深い井戸の底のよう場所で意識が揺蕩っている。
意識があるということはまだ生きているということだろうか、それともすでに事切れていて魂だけになったのか。

そうだとしても後悔はない。

女との競演は人生で最高の時間だったと言える。
死線を潜り抜け、勇者と称されるようになったときよりも、ずっと。
あれほど満たされた時間は他にない。

ならば、もう………いいではないか。

約束通りそして文字通りこの命をに捧げた。
仮にあと10年掛けても届かぬ筈の『美』に指先が触れられた。

もう、思い残すことなど─── ]
(0) 2022/11/28(Mon) 11:56:05

【人】 大富豪 シメオン

[ゆっくりと浮かび上がる感覚。
意識が浮上しようとしているのか。
死を受け入れたつもりになってはいたのだが、どうやら死に損なったらしい。

目を覚ませばそこは見慣れた部屋。
日当たりのいい窓辺から差し込む陽光は柔らかく、換気のためだろうか、窓は少しだけ開けられていて涼やかな風が心地良い。

そっと手を伸ばす。
出来得るならば、柔らかで淡い髪色のそれを手に掬う。]


 イルム……


[彼女はそこに居た。
眠っているのか、それとも佇んでいるのか。
どちらにせよ、ただそこに居るだけで、その姿がとても美しいと感じられた。]
(1) 2022/11/28(Mon) 11:57:18

【人】 大富豪 シメオン

[──無いはずだった。
『美』を愛し、『美』を求め、そして辿り着いたのだから、思い残すことなどある筈も無かったのに。

足りないのだと疼く。
もっと欲しいと、もっとお前が欲しいと欲が飢える。
お前を求めて止まない。

命までも捧げたつもりで、それでもまだ渇望していた。
お前という『美』がもっと欲しい。]


 ……強欲なのは私も同じだな。


[そんなことはとっくに理解っていた筈だった。
だからこそ互いに惹かれ合ったのだから。*]
(2) 2022/11/28(Mon) 11:58:35

【人】 大富豪 シメオン

[未だ意識がぼんやりとしていたからだろうか、不意を突くようにし抱きしめられていた。柔らかな髪がふわりと舞う。

震える声。
潤んだ瞳。
強く抱かれる。

なんて強欲な女。
命を懸けて見せたというのに、まだそれでも足りないというのか。
もっとと私を求めるのか。

男は目を細めそっと髪を撫でつける。]
(6) 2022/11/28(Mon) 21:42:59

【人】 大富豪 シメオン

[満ち足りぬのは己も同じ。

歳も違う。
扱うものも剣と弦。
男と女、生まれも、境遇も違う。

同じところを探すのが困難なほどに違うというのに。

それだけまるで鏡写しの様。
その渇望、互いを求め合う、その強欲。

ぴたりと寄り添うように嵌まり込む。]
(7) 2022/11/28(Mon) 21:44:16

【人】 大富豪 シメオン

[だから───]



 もう泣くな、私はここにいる。



[この美しい女の名を今一度呼ぼう。]
(8) 2022/11/28(Mon) 21:44:38

【人】 大富豪 シメオン

[男にとって女は喰らうべき『美』であった。
そらは己が『美』を磨くために必要なピースの一片。

男にとって女は貪る『美』であった。
欲望の熱が求めるままに犯しつくすための獲物。

男にとって女は『美』の弟子であった。
己が美にかける情念、そして執念のその後継者。

男にとって女は『美』の娘であった。
この手で育み、花開かせた宝のような存在。]
(11) 2022/11/28(Mon) 22:54:01

【人】 大富豪 シメオン

[だが、男にとってはただ一人の愛する女だった。

女は誰よりも男を理解し、男は誰よりも女を理解していた。
その生き方も美への想いも、お互いを喰らい合いながら、理解し、求め合い、いつしかお互いでなければならないほどに───]
(12) 2022/11/28(Mon) 22:54:15

【人】 大富豪 シメオン

[それは遠くない未来。
いつか先に逝くことになるだろう。
それは人の身であれば避けられない未来。
だけど今は未だ、女の側に居たいと願ってしまった。]


 私はここにいる、お前の元にな。


[溢れて零れる雫を拭いとりながら、男は女の頬をそっと撫でる。
全てを、お前が私の全てを喰らい尽くすまで、きっと私はお前の側に居るだろう。]


 イルム……


[男は女の顎に手を掛けるとこちらを向かせる。]
(13) 2022/11/28(Mon) 22:56:23

【人】 大富豪 シメオン

[それは誓いを求めるように。
そして、まるで女にその覚悟を問うように。*]
 
 
(14) 2022/11/28(Mon) 22:58:56

【人】 大富豪 シメオン

[近づく唇を避ける訳もない。
迎えて、重なる唇と唇。

あと幾度、こうして口付けを交わすことができるだろうか。
あと幾度、女の『美』を堪能できるだろうか。

いつまでもこうして、お前の欲を満たし続けていたい。
いつか終わりが来るその時まで。

だから覚悟を問うた。
それは己が覚悟を決めるため。
お互いが鏡合わせであるのだから。

終わりの、その次を始めるために。]
(21) 2022/11/28(Mon) 23:38:12

【人】 大富豪 シメオン

─ とある男の話 ─

[剣王シメオンの最も優れた能力スキルとは何か。
男と共に『北の勇者』と呼ばれた者たちは口を揃えてこう言う。

「瞬時に本質を見抜く力」

と。
敵の弱点を即座に見抜き、敵の意図を瞬時に判断する。
その力こそが剣王の持つ最たる能力、彼らはそれを『心眼』と呼んだ。

ラ・コスタへ移住してより、その力は『美』に対して向けられた。
才能豊かな、しかし伸び切れない眠れる『美』を見出しては、彼らの飛躍に必要なものを与え、世に送り出した。

端役で燻るダンサーはそれによってプリマバレリーナとなった。
場末で小銭を稼いでいた歌い手は大劇団のプリマドンナとなった。
路上で似顔絵を描いていた者は流行りの画家となり、土産物の工芸品を作っていた者は街を代表する工芸家として名を馳せた。

シメオンによって見出され『美』の担い手として有名になった者は数多い。]
(48) 2022/11/30(Wed) 17:07:08

【人】 大富豪 シメオン

[だが、男は余りにも『美』に偏っていた。
ただ一瞬の輝きのために破滅に追いやられた者もやはりら数多くいた。
『美』の頂点に立ち、名を残したからといって本人が幸せだったとは限らない。

その一人が女優のドナータだった。

賢者の求愛を受けた女は幸せの絶頂にあった。
だが、それは賢者の親友に乗っては『美』が失われようとしていると受け止められた。だから、男は手を回した。


 「幸せな結婚生活を続けるには必要なものがある」


男はそう言って女に流行りの歌を聞かせた。
女はそれを大層気に入って愛しい男にそれらを強請った。

男はそれを理解っていた。
賢者が男に何かを借りに来るとを。この街で賢者にはそれを頼める者が男しかいないのだから。]
(49) 2022/11/30(Wed) 17:07:56

【人】 大富豪 シメオン

[男は女の幸せを願っていた。
親友の幸せを願っていた。
ただ、それよりも男には譲れないものがあった。
そらだけのことで、それが全てだった。

ドナータは才能豊かな女優だった。
見目の美しさはもちろん、その演技は見るものを魅了した。
しかし、足りなかったのだ、男には女がもっと輝けることを、もっと美しくなることがわかっていた。

彼女に必要なもの。
男が見抜いたそれは『絶望感』だった。

ドナータの師は彼女を磨いた。
それが間違っていたわけではないが、彼女の『美』の本質は生まれの苦しさからくるものだった。あの頃には戻りたくないと、自分を磨くその想いこそが彼女の『美』の本質。
だが、幸せな日々を過ごす中でそれが曇っていくのを男は見過ごさなかった。見過ごせるわけがなかった。

そしてそれは見事に花開く。
悲劇的な別れ、体を汚され、愛する者を失ったその絶望がドナータをさらに美しく磨き上げた。]
(50) 2022/11/30(Wed) 17:08:51

【人】 大富豪 シメオン

[彼女は自分の幸せと引き換えに『美』の頂点に立った。
しかし、彼女の成功を知るとかつて彼女を弄び汚した男たちが再び女に近づいてきた。
男たちは当時のことをペラペラと女に聞かせた。
どれだけ楽しんだかということ、女もまた男たちに抱かれ快楽に悦んでいたということ、そして、女のもとへ向かわせた者の存在も。

その翌日、男たちの首は街の大通りに晒されていた。

人々は噂する。
彼らはドナータに手を出そうとして、彼女のパトロンが彼らを粛清したのだと。そのパトロンこそが賢者が去ってより彼女を庇護していた男、シメオン・ジョスイであった。

この街で知らない者はいない。
ジョスイの『美』に手を出してタダで済む訳がないことを。
故に、殺された男たちの親たちの辿った道は二つに一つだった。
黙して諦めるか、報復を画して返り討ちにあったか。]
(51) 2022/11/30(Wed) 17:09:56

【人】 大富豪 シメオン

[男はかつての親友に向けて呟いた。
 

 「甘いんだよお前は。
  敵は徹底して滅ぼさなければならない。
  俺たちは、北で身をもって知ったはずだ。」


結局、その出来事でシメオン・ジョスイが罪に問われることはなく、そのことがこの男にとっての伝説の一端となった。

そんな街の出来事を他所に、ドナータはただただ堕ちていき、男はそんな女を見て、その醜さに苦虫を噛み潰したような顔をしていたという。*]
(52) 2022/11/30(Wed) 17:12:22

【人】 大富豪 シメオン

[真夜中、イルムが寝入ったころにベッドから抜け出した。

水を持ってくる様に使用人を呼ぶと、水と共に一通の手紙と包みを持ってきた。そしてその差出人の名を聞いて男は薄笑みを浮かべた。

男は知っている。
かつての親友がとうに死んだことを。
復讐に囚われ自分すらも見失うほどの怒りと憎しみを携えていたことも。
いつかその炎が己を焼き尽くしにくるのだと予感していたが。

どうやらその予感は外れたらしい。

男はランプに火を灯すと、その炎で手紙を焼いた。
たったの一文字も目を通すことなく。

本当は生きていたのか、それとも偽物か、男にはどちらでもいいことだった。そしてこの手紙が本物なのかそうではないのかも。]
(71) 2022/11/30(Wed) 22:44:09

【人】 大富豪 シメオン

 

 ……過去の亡霊に用はない。


[そう口にした言葉とは裏腹に、男は一抹の寂しさを感じてながら、灰となって消えるそれをただじっと見つめていた。*]
(72) 2022/11/30(Wed) 22:44:54

【人】 大富豪 シメオン

[───1年。
  それが男に残された時間だった。

あの夜。
イルムと共演したあの剣舞によって文字通り男は命を燃やした。
失った時間を巻き戻すように若さを取り戻すという行為、紙の摂理に逆らうその代償は決して小さくはなかった。
しかし男はそれで満足だった。
あと10年かけても届かないはずの『美』に確かに届いたのだから。

ただ未練だけがある。
愛するイルムの傍にいつまでも居たい。
人として当然のその想いを男は手にしていたのだ。

それも宿命と男はそれを受け入れていた。
この想いの幾つを己の業によって砕いてきたのか。
いまさら自分だけがそれを享受できるとは思っていないし、だからこそ命を燃やすことができたのだ。
己の命も幸福さえも捧げる覚悟が男にはあった。]
(85) 2022/12/01(Thu) 16:08:06

【人】 大富豪 シメオン

[人は何のために生きる。
世に自分の痕跡を残す為、それが答えの一つだろう。
ならば男ほどこの世に『美』を残した者はおらず、そして己の傍らには最も美しき女がいる。
それはこの目が見出し、この手が花開かせた『美』だ。

悔いはない。
だが未練はある。

故に男は死に足掻気続け、拒み続けるのだ。


   
「その姿を醜いとおもうか?」



明日を決して諦めず。
100年先までイルムと共にある様にと願う。
男はそうして一年を過ごす。
最後の瞬間まで『美』への渇望を抱きながら。*]
(86) 2022/12/01(Thu) 16:09:11
 




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