人狼物語 三日月国


29 【2IDソロル+ペア混合】交換日記【完全RP村】

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【人】 軍医 ルーク

[ 検査記録を見ることは妨げられなかったため、
 日々の記録を追いながら、
 治療の建前すらかなぐり捨てたような実験めいた処置に、
 後から目を通すことしかできない。
 誰に訴えたところで、軍の方針に行きつく。

 自分には知らされていないところに理由があって、
 その理由は、最初の襲撃の顛末だけではない、
 あのうさぎ自身に関わりがあることだと、
 この頃には、もう確信し始めていた。

 “副作用ではない頭痛は、兆候。
  その前後の様子はよく見ておくように”
   
 記録されていた指示に、
 鳩尾を掴まれたような感覚を覚える。
 通信機を回収に向かった夜、
 箱を見つけたときのことを思い出す。
 頭痛の直後、まるで別人のような様子で、
 『機獣の構造を知らなければ』見つけようもなかった
 通信機を見つけ出した。]
(126) 2020/05/22(Fri) 21:45:16

【人】 軍医 ルーク

[ 本当なら、報告しなければいけないことだ。
 うさぎの記憶にまつわる手掛かりは、
 どのような細かいことでも申告するようにと
 言い渡されている。

 それなのに、口を噤んでいるのは、
 頭の中の何処かで強く鳴り響く警戒音があるからだ。
 言ってはいけない、口火を切ってはいけない。
 そうしたら、きっと、何かが始まってしまう――
 そんな、予感だ。

 出来ることが、何もない。
 手が届くようで届かないところで行われていることを、
 何もできずにただ見ているしかない。
 そんなどうしようもないもどかしさ、焦燥が、
 自身に対する怒りと自責を連れて、
 空洞の中で煮えている。

 そのような感覚は、
 そこまで時間をかけずに自覚することが出来た。
 この感覚の元になっているものが、
 あのうさぎへの『心配』だと、もう、知っていたからだ。]
(127) 2020/05/22(Fri) 21:46:43

【人】 軍医 ルーク

 
  ……しかも、
来ない



[ 昼時の医務室、椅子にかけている。
 音を立てて開いた扉にぱっと視線を向ければ、
 ひえっとすくみ上った鹿耳の若い兵士が、
 『部屋を間違えましたー!!』
 と、まっしぐらに逃げ出していった。

 ああ、いつものあれか――と、
 ぷいと顔を逸らした自分が、
 どれほど不機嫌な顔をしていたかを知っているのは、
 いかにもタイミングが悪かったその兵士と、
 机の上で溜め息をついているぺんぎんのみだろう。

 分かっている、向こうも暇じゃない。
 部隊長としての仕事や訓練に加え、検査がある。
 まともな空き時間なんてあるわけもないのだ。

 ―― 無事に、過ごせていられる状態だろうか。]
(128) 2020/05/22(Fri) 21:48:16

【人】 軍医 ルーク

[ 机の上で、ぎり、と拳を握りながら。
 顔を上げて、ぺんぎんに問う。]


  わたしは、『怒ってる』ように見える?


[ ぺんぎんは、それはもう、とばかりに頷いた。
 “また近いうちに”>>1:362
 その言葉を覚えていたぺんぎんは、
 仲間の伝手を辿って、『いいもの』を調達したようだった。
 とうもろこしから作ったお茶。
 珈琲や紅茶とは違い、苦みも渋みもない。
 戸棚のシロップの瓶の横にそっとしまい込まれたそれが、
 誰のために調達してきたものであるかは、聞くまでもない。

 やっぱりあいつが現れたら、
 最初は苦い物の一つも飲ませてやろう、そうしよう。
 決意を込めて頷けば、ぺんぎんは、
 おてやわらかに……とでもいうように、
 首を竦めたものだった。]*
(129) 2020/05/22(Fri) 21:49:23

【人】 軍医 ルーク

   ―― 
現在・医務室
 ――

[ 駆け込んできた足音は、ひどく慌てているようだった。
 耳に飛び込んできた声に、
 フードの下の白耳がぴくりと動く。]


  ――…、
   ん……


[ それが誰のものであるかを認識すれば、
 ぐらぐらと揺れていた意識が思考を結ぶ。
 最初に思ったのは、何故このような時間にということ。
 検査の時間でもない、夜の時間。>>70
 次の瞬間、思いついた可能性に、
 霞がかった思考がざっと晴れた。
 身をよじり、腕をついて身体を起こそうとする。]


  すぐ、起きるから。
  どこか、具合が悪いなら――


[ 椅子にでも座って待っていてほしい、
 そう言おうとしたのだけれど、
 痛みと吐き気にまるで身体に力が入らない。
 声だって、音になっていたか怪しい。]
(144) 2020/05/22(Fri) 22:25:18

【人】 軍医 ルーク

[ 記憶が戻る兆候、頭痛、
 “あと少しだろう”と皆は言っていた。>>63
 通信機を回収しに行ったあの晩に感じた感覚は、
 そう、『心配』だけではなくて、
 恐怖にも近く、痛みにもひどく近い。
 何に対する恐怖であるかは、分からないけれど。

   明け方の見張り台で、
   あの日記を読むときに感じる痛みと、
   どうしてか、ひどくよく似ているのだ。
   ――… 遠ざかる何かに、
   必死に手を伸ばすような。

 
 間近に見えたのは、赤い目だ。>>72
 いつもの穏やかな様子とは
 ずいぶん違った表情をしていたけれど、
 それでも、“変わらない”、あのうさぎのものだった。]
(146) 2020/05/22(Fri) 22:28:15

【人】 軍医 ルーク



  
   ――… シュゼット、


[ はじめて、名前を呼んだ。]
(147) 2020/05/22(Fri) 22:28:49

【人】 軍医 ルーク

[ ぺんぎんは、辺りをおろおろと駆けまわっていたけれど、
 飛ばされた指示にはっと我に返り、
 鍵のかかっていない方の戸棚に大急ぎで駆け寄る。
 勝手知ったる医務室、
 必要なものをかき集め、両の羽に抱えて
 ぺたぺたと戻って来た。

 どうやら、あの頭痛があったわけでも、
 具合が悪いというわけでもないらしい――…
 そうと気づけば、力も抜ける。
 床にぐったりと横たわり、
 腹部に手を当て、痛みをやり過ごそうとする。
 内臓まではやられていないだろう、休めば問題ないかと、
 頭はそう判断するものの、
 痛みというのは思考でどうにかなるものでもなかった。

 ローブにかけられた手の感触を感じたが、
 なされるが儘に動かない。]
(148) 2020/05/22(Fri) 22:29:59

【人】 軍医 ルーク

[ はぎ取られたフードと黒いローブの下、
 白い狐耳があらわれる。
 身体を庇うようにくるりと胴に巻き付いた尻尾は、
 普段は外には出さないもの。
 白く柔らかくふわふわで、
 胴回りよりも尾の方が豊かな程だ。

  降ったばかりの新雪と同じ色――と例えるには、
  この世界にそれがない。

 
 捲れた服の裾から覗く足は、両方とも金属色の義足。
 もし、怪我を探そうとローブの下のシャツをはぎ取るなら、
 一切止めようとしないのでそれは簡単なことだろう。
 腹部の殴打には、痣は残りづらい。
 肉付きの薄い体には、目に見える傷は殆どない。]
(149) 2020/05/22(Fri) 22:31:00

【人】 軍医 ルーク


 

[ 其処に在るのは、青白く痩せた、
 “女性”の身体。 ] *
(150) 2020/05/22(Fri) 22:32:10
軍医 ルークは、メモを貼った。
(a16) 2020/05/22(Fri) 22:35:56

【人】 軍医 ルーク

   ―― 
カイキリア
 ――


[           身をよじり、身体を動かそうとする。
 けれど、からり、と手元の破片が音を立てた、それだけで。
       そうだ、繋いでいた手が、あったはずだった。


                      首を傾ける。
       小さな傷だらけの手は、確かにそこにあった。
          自分の右手と、つないだままだった。]
(151) 2020/05/22(Fri) 23:00:05

【人】 軍医 ルーク

[ ――… ]

 
  『ルウのおとうさんは、
   随分…強烈なひとだったんだねえ』


[ 自分の話を聞き終えた彼女の第一声は、
 それだった。>>0:6>>0:7
 両親の話を聞かせてほしいと言うから語ったのに、
 聊かならず、引いている。
 
 じゃあ、君の親は?
 そう聞いたら、嬉しそうに色々なことを話し出した。
 “話しても良い”と、彼女が判断したことだろう。
 本当の両親ではないのだけれど、それは優しい人たちで、
 自分に色々なことを教えてくれたのだという。

 ――帰れるのだろうか、彼女は。
 胸を鷲掴みにされたような息苦しさを、
 表情に出すことは必死で抑え、“医者”の顔を作る。]
(152) 2020/05/22(Fri) 23:00:58

【人】 軍医 ルーク

[ 白い部屋だった。
 寝台も、床も、壁も、すべてが真っ白で、
 いっそ現実味を失うようなその空間には、
 あるべきものがひとつ、ない。
 窓のない部屋は、病室というよりは囚人を閉じ込める檻。
 まるで白紙の世界に放り出されたかのような、
 耳が痛くなるような静寂の底に、
 自分たちの声が吸い込まれて行く。]


  さて、傷を見せて。
  体調に変化は?
  
 『えー、もっとおしゃべりしようよ。』

  ん、何の話をするんだい?

 『ルウの尻尾の話』

  なにゆえ

 『えー、だってすごくもっふもふで、
  触り心地が良さそうなんだもの。
  ね、触らせてー!』


[ 寝台の上に胡坐をかき、屈託なく笑う子供。
 その笑顔が自分に向けられるたびに、
 胸奥がぎしりと軋む。]
(153) 2020/05/22(Fri) 23:02:18

【人】 軍医 ルーク

[ 自分は、そのような表情を向けられる資格がある人間じゃない。
 そのことは向こうだって、分かっているはずなのに。

 父の死を切欠に、機獣の謎を解き明かしたいと望み、
 この研究所に配属になった。
 業績を重ね、医者としての腕にある程度の信を
 置かれるようになった頃。
 一つの任務が与えられた。


 “機獣とともに回収された、
  天の穴の『向こう』からやって来た子供を、
  すべての情報を引きだすまでは
  心身共に、情報収集に差し支えない
  最低限の状態に保つこと。”    ]  *
(154) 2020/05/22(Fri) 23:07:43
軍医 ルークは、メモを貼った。
(a19) 2020/05/22(Fri) 23:11:27

[ノートには新しく、七ページ目が追加されていた。
今回は、視覚で見えるものが少なかったらしく、
前にあった、色硝子や、真っ白い大地など、
この世界にない物についての記述は無いようだった。]

○月●日
  まだ、確証はないのだが。
  僕にはもうあまり時間がないのかもしれない。
  できるかぎり、そうならないよう尽力するが
  最悪が起きてしまってからでは遅い。
  だから書けるうちになるべく、
  ここに、書き残しておきたいと思う。
  
  これは先ほど、ここに来る前の仮眠で見た夢だ。
  気づけば僕は、暗い暗い、吸い込まれそうな闇を
  見下ろすようにして立っていた。
  僕は横や後ろを見ようとしなかったから
  視界を埋め尽くす闇以外の場所は、
  どうなっているのか、わからなかった。
  
  後ろから声が聞こえた。
  僕に対する感情など何もないような、
  基地内のペンギンたちをただの端末と見てる人が
  彼らに対して命じるような、冷たい声だった。
  
  『事前に立てた予測と何も変わりは無かった。
  お前の調査結果の通り、外には望みは無い。
  あのような環境で生き延びられるのは
  精々、お前らのような存在だけだろう。
  ―――計画を実行に移す。行け。』

  僕は、後ろを振り返ることなく頷く。
  僕の横からその闇の中へと向かって、
  何か巨大なものが落ちてゆく気配がした。

  僕は大地を軽く蹴って、後に続く。
  感じるのは、ただ下へと落ちてゆく浮遊感。
  その時の僕自身の感情はわからないけれど
  地面を蹴った時のためらいの無さから
  僕には、命令が正しいかどうか考えるだけの
  意思というものが、無いように思えた。
  
  ―――でも。意思が無いとの予想は、
  暗闇に落ちたところで裏切られた。
  
  命令を聞くだけの機械のようだと
  夢を見ている僕が感じた、夢の中の僕が。
  人が住めなくなった土地……そう。
  前回の夢で見た、白い地面から突き出た腕。
  その手が握っていたものを、拾っていたのだろう。
  『数人の人が笑って映っている写真』が
  落ちる最中に荷物の中から零れて
  吹き飛んで行ってしまったのに気づいて。
  慌てた様子で手を伸ばしたけれど。
  頼りの綱の、上から刺す光などすぐ見えなくなり、
  ただの暗闇を義手が掴んだところで、
  今回の夢は終わりを迎えたのだった。

  今までの全てで、夢を見ている僕には、
  夢の主人公である僕の感情はわからなかった。
  でも、この時初めて、感じるものがあった。
  初めて感じた理由はもしかしたら、
  本当に初めて、夢の僕は自分の感情を
  自分で思うほど強く自覚したからかもしれない。

  憧れ?寂しい?悲しい?苦しい?後悔?
  今まで感情というものが無かった分まで
  様々な感情が爆発するように渦巻いている中で、
  旅で見つけた大事な宝物を失ったらしい僕が
  その時一番、強く感じていたことは―――
  
  自分へ命ずる声に対する。大きな『疑問』だった。

[日記の後に、間を空けて。
いつものように返事が書かれている。
返事を書いている間、今しがた書いた『日記』を
自分の目に入れたくない理由でもあったのか
今までに比べて、改行の数がやたらと多かった。]

僕の日記を読んでくれている誰かへ。

 あなたのお返事を見て、
 僕は、自分の見る夢について色々考えました。
 "人が住めなくなった土地を調査して歩いている"
 ……確かに、そう考えると納得ができます。
 しかし、そんな場所、どこにあると言うのでしょうか。
 ―――そう考えると、やっぱり。
 最初にあなたが話してくれた、
 "『天』の向こうには別の世界がある"というお話が
 とても、しっくりと来てしまうのです。
 
 そう考えると次に疑問なのが
 何故僕がこんな夢を見るか、ということになります。
 一つだけ、夢の内容に心当たりがあるのですが
 まだ、僕はそれを人に言う勇気がありません。
 
 本当は、日記の冒頭に書いた通りで、
 いつどうなってしまうか、僕にもわからない。
 だから話すべきだとは思っているのに、
 どうしても、文字を打つ指が止まってしまいます。
 
 でも……迷惑をかけるかもと思いつつも、
 誰も居ない景色の中を一人で行かせるのは嫌だと、
 そんな風に言ってくれた、あなたになら。
 ここまで、『夢』なんていう朧げな僕の話を
 根気よく聞き、寄り添うように向き合ってくれて、
 内容について一緒に考えてくれた、あなたになら。
 もう少ししたら、僕の抱えている残りを、
 全てお話しする勇気が出るかもしれません。

 確かに、夢では寒暖を感じることがありませんが
 白い粒が消えていく様子は、
 氷菓子の一粒が溶けてゆく様子に似ていました。
 綿のような氷が空から降ってくるなんて
 それこそ、夢のような世界で。
 夢の中の僕が旅をしていた場所は、
 氷菓子が食べ放題でいいなあと思います。
 お皿を置いて待っているだけで、
 あの甘い氷菓子が食べれるだなんて。
 まだ人が住めた頃は、皆そうしてたのかもと考えると
 想像すると、少しだけ元気になるようです。
 
 事故は…僕が想像することもできないぐらい
 深い傷を、あなたに残したのでしょう。
 でも僕は今まで、あなたとのやりとりで、
 不快になったことは一度もありません。
 (今まで、夢の中の僕には感情が無いようでしたので
 僕の書いた夢の話を何か不快に感じたら、謝ります。)
 
 そしてもし、あなたの感情を取り戻す
 助けになれているなら、僕はとても嬉しく思います。
 "貰っているものがある"というのは僕の方で、
 何かお返しできればいいのに、と。
 最近は、ここに来るときじゃないときも
 そればかり考えてしまうぐらいだったので。



    赤の散る未来を見ていた。
    所詮、石ではあるから大怪我ではなくても、
    華奢な手の甲を切るには充分だったのだろう。

    ほんのすこし、先の未来。
    薔薇色の瞳は起きている時も、
    赤が関わるなら白昼夢を見せる。

 



    世界一の薔薇が選んだのは、
    “騒ぎを起こす”未来であった。

 



 正しい物語かなんてわからない、
 定まらない未来の中で、

    薔薇が 蝶を選ぶ理由だなんて、────

 

【人】 軍医 ルーク

   ―― 
回想:第二研究所
 ――

[ 天の穴の向こうから来た人間。
 それが意味するところは、一つだった。
 機獣はただの災厄ではない、
 送り込んでくる者たちがいるということだ。
 あれが生物ではなく機械の一種であることを考えれば、
 それは当然とも言えたのだけれど、
 この世界の“上”にもう一つの世界があって、
 そこに住まう者たちが自分たちを滅ぼそうとしていることは、
 頭の中の世界がひっくり返るような衝撃ではあった。

 ――天の向こうには、世界がある。
 父の話を思い出す。
 その父は、現れた機獣に襲われて死んだ。

 彼女は、仇と呼ばれる存在であったのかもしれない。
 けれど、日々身体を切り刻まれ、
 その小さな体に傷を増やしていく子供を
 そのような目だけで見ることは、
 どうしたって出来そうもなかった。]
(176) 2020/05/23(Sat) 10:30:49

【人】 軍医 ルーク

[ 捕虜から情報を引き出そうとするのは当然のこと、
 増して自分たちが滅ぼされようとしている瀬戸際だ。
 そう思おうとしても、どうしても見過ごすことが出来なくて、
 せめてやり方を変えることは出来ないのかと訴えた。
 諭すように、けれども苛立ちを隠さず、上司はこう言った。

 “人道主義も結構だが、付き合っていられる状況ではない。
  彼女から引き出される情報は、確実に我々の有利となる。
  君の自己満足に付き合って、
  手の内にあるそれをみすみす逃し、
  何百何千という人が死ぬことになってもいいという、
  それだけの覚悟で言っているのか?
  君は汚れ役は周りに任せて、
  感謝される役回りを与えられた。
  その上で綺麗事を重ねるのは、
  虫が良すぎるというものだ。
  おままごとも程々にしておきなさい”

 どれ程食い下がっても、出来ることが何もなかった。]
(177) 2020/05/23(Sat) 10:31:46

【人】 軍医 ルーク

[  
   なかったのだろうか? ほんとうに?
   もし本気で状況を変えようと、
   死に物狂いで戦ったなら、
   結末は変わっていたのではないだろうか。
   それをせずに、状況に流されるままに甘んじて。



 恨まれて当然だった。
 自分も、彼女を傷つける者たちと変わらないというのに、
 その子供は、恨む素振りを見せなかった。
 ――少なくとも、表立っては。

 時折こっそりと持ち込む菓子を、嬉しそうに頬張る。
 食べることが大好きで、
 美味しいものを食べると何より幸せそうにする、
 そんな子供だった。]
(178) 2020/05/23(Sat) 10:34:13

【人】 軍医 ルーク

  お願いがあるの。
 

[ ある晩、彼女はそう言った。
 取り替えていた包帯の下の、治りかけの腕の傷は、
 治ろうとする端から再び抉られ、開かれて、
 無残に化膿しかけている。
 目を逸らしてはいけないと、震える指先を押さえつける。
 ――自分が抉っていると変わらない、そのような傷だ。]


  お願い、何?


[ 心臓がどきりと跳ねた。
 自分に出来ることは多くない。
 彼女が望んでいるであろう、此処から逃げ出すことも、
 天の向こうにいるという、
 “おとうさんとおかあさん”のところに帰ることも、
 叶えることは、許されない。]
(179) 2020/05/23(Sat) 10:35:31

【人】 軍医 ルーク

 『おとうさんとおかあさんと、お話がしたい。
  わたしを、機獣のところに連れて行って。
  話をするための機械があるの』
   

[ 心臓が早鐘のように打つ。
 それは、どうしたって、無理な相談だった。
 彼女が機獣と共に降りてきた存在である以上、
 接触させることなど許されるはずもない。
 それがばらばらに分解された残骸であっても、だ。
 “天の向こう”と連絡を取るなど、
 ことによっては致命的な事態だ。
 それは駄目だ、と首を横に振る自分に、彼女は言った。]


 『わたしが何かおかしなことをしようとしたら、
  その銃で撃ち殺してしまって構わない。
  お願い、ひとことだけでいい。
  わたしから話すだけでもいいから、
  死ぬ前に一度だけでも、話がしたい』


[ 彼女の視線は、服の下、
 支給品の銃が隠れているその場所に定められていて、
 ああ、彼女は知っていたのかと、そう悟る。
 両親と、ひとことだけでも話がしたい。
 その望みが、杭のように胸に刺さる。]
(180) 2020/05/23(Sat) 10:36:47

【人】 軍医 ルーク

              [ ――… ]
  
[ 機獣の残骸が保管されている一画は、
 研究所の北側に増設された巨大な格納庫。
 人気もなく、見張りも少ない
 此処は軍事基地ではなく研究所だ。
 機密性は極めて高いが、
 内側から忍び込むことは不可能ではなかった。

 直ぐに頷いたわけではない。
 けれど、“両親とひとことだけでも話したい”と、
 必死に、残りの命を振り絞るようにして訴える子供から
 最後まで目を背けることが、
 どうしても、出来なかったのだ。

 伽藍とした、天井の高い格納庫に、
 整然と並べられた機獣の残骸は、
 生き物の骨のような、亡骸のような、
 酷く奇妙に捻じれた死を感じさせる光景だった。

 腕であったもの、脚であったもの、胴であったもの。
 並べられた残骸を見渡し、
 子供はその中の一つ、“箱”に駆け寄る。
 自分も、周囲を警戒しながらその後に続いた。

 もし彼女が機獣に何かする素振りを見せたら、
 通信でおかしなことを一言でも話そうものなら、
 そのときは――引き金を、引かなければいけない。]
(181) 2020/05/23(Sat) 10:38:06