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【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ―― 朝・玄関ホール ―― [ なんでみつかったんだろう。 いやほんとなんでみつかったんだろう。 さがしてくれたんだなってことはわかる。 わかったうえでなんでみつかったんだろうと思う。 ぜったいばれない隠れ家だっておもってたのに。 もう一度寝て起きて廻らない頭で 何を考えていたんだったか、 何かを考えていた事ごとまるごと忘れてる間に 連れて来られて集まった先で話を聞く。 如何やら世界は滅びないらしい。 それに案外落胆しない自分の感情を持て余しつつ 話半分に聞きながらヒナギクの様子を眺めてた。 ] (0) 2022/12/22(Thu) 0:40:08 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ 攫うったって何処に。 冷静に自分の願望を否定する。 生活力どころか腕力すら彼女よりあるか怪しいぼくが 彼女を無理矢理どうこうするのは、 あんまり現実的ではない。 ぼくは無知ではあるけれど、 そこまで馬鹿にはなりきれなかった。 夢を見るのがあんまり得意じゃなかったし 此処で飼われていただけのぼくが 此処以外で生きていける未来がまるで思い描けない。 むしろぼくは邪魔なのでは? そう思い至った所で >>7随分潔い別れの言葉が聞えた。 「さようなら」 今迄なんで気付かなかったんだろう。 彼女がころされるまえに ぼくが消えたら良いのではないか。 天啓みたいに、閃いた。 つまり、揃ってさえいなければ 減るのは誰でも良いんだ (1) 2022/12/22(Thu) 0:40:11 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ 幸いなことにぼくの痣は 千切れてなくなる身体の末端にある訳でもなければ 潰れて見えなくなるほど小さくもない。 ひとり減った事を証明するのに ぼくの屍ほど適任はないだろう。 死肉を食い荒らす獣がいない場所でなくては。 水でふやけて魚の餌になるのもだめだ。 ひとのおおいところにいこう。 はじめてのピクニックの行き先を選ぶみたいな心地で 死に方を、死に場所を考える。 ] (2) 2022/12/22(Thu) 0:40:14 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ 餓える苦痛にとんでもなく鈍く 痛みにまるで頓着が無いぼくにとっては 思えば、なぜ今迄気付かなかったのか不思議なくらいに いきることよりしぬことのほうがよっぽど易く思えた。 なにより、これできみを守ることができると思った。 きみがひつようとしれくれたことで生かされた命が きみのために役に立つのなら、 こんなに幸せなことはないって、心の底から思うくらいに それは昨日思い付いた仄暗い願望よりも ずっとずっとすてきなことのようにおもえた。 此処まで連れてきた手を如何解こうか 考えてじっと眺めてた。 よかった。これなら、もう きみに置いて逝かれることもない。 (3) 2022/12/22(Thu) 0:40:38 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ―― 屋根裏部屋・夜明け ―― [ 呼ぶ声に応えるみたいに浮上する意識。 寝てた頭で、それでも取りこぼさずに拾った音を、 言葉として翻訳し直すのに随分と時間を要した。 随分明るくなった部屋の中は改めて見ても 長く過ごした塔の上に似ていて なんとなく懐かしさを覚えるこの場所に きみがいる違和感にすこしだけ混乱する。 世界が終わるかもしれない日にも 変わらず笑うきみの強さが眩しくて眩暈がする。 きっとだいじょうぶ、って信じてるんだろう。 ] (98) 2022/12/23(Fri) 13:56:14 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ……おはよう、ヒナギク。 [ 出来る範囲で笑い返してみる。 上手く笑えているか、なんて心配は要らない。 元から上手く出来ないことが 今日ばかりは丁度良かった。 だいじょうぶじゃないといいのに。 強い朝の日差しが天窓から注ぎ込む。 明るくなった部屋の中に、 光の強さの分だけ夜よりも濃い影が落ちた。 きみが大切にしたいものを大切に思えない 罪悪感が澄んだ光に照らし出されてしまわぬように 丁寧に隠して、飲み込んだ。 ] (99) 2022/12/23(Fri) 13:58:21 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ―― 玄関ホール・夢の終わり ―― [ >>70きみの安堵の吐息の音に、 同じ気持ちになれないぼくの心がざわめく。 なんにもよくないのに。 きみのその無防備さが不安で きみを隠さなきゃと云う思いが強まった。 でも叶わないから。 別の方法は案外すぐにおもいついて。 あとはこの手を気付かれないよう離すだけで良いのに。 >>71ふいに強い力で握り込まれた手に 不思議に思って繋いだ手を見下ろした。 『かみさま』が「さよなら」して不安なのかなって 勘違いをして、安心させるように握り返した。 みんなが『かみさま』を信じてそうなのは理解した。 今こうして集まってるのがその証明みたいだった。 ぼくには預言者を騙る詐欺師との違いが分からないけど みんながおもう『かみさま』と今の彼は似てるんだろう。 『かみさま』、宗教信仰の対象として尊崇・畏怖されるもの。 宗教に一切触れずに育ち、 その概念を最近ようやく認識し始めた ぼくにはまだすこし難しい。 ] (100) 2022/12/23(Fri) 14:00:31 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ 滅多に遭遇しなそうだなってことだけは感覚でわかる。 何処か遠い存在。 そう分類してしまえばかみさまも詐欺師もぼくのなかでは 同じ引き出しに押し込んでしまえた。 だから彼女の恐怖は理解出来なくて、 何に怯えているかも共感する事も出来ず、 まさかぼくのことだなんて頭の片隅を過りもしなくて それでもこれが最後かもしれないから いつもぼくに寄り添ってくれたきみの心に すこしでもいいから、寄り添いたくて。 ] 『だいじょうぶ』だよ。 [ 根拠のない嘘を吐く。 彼女が繰り返したその言葉を不器用に真似て。 重ねて乞うその願いを叶えることはできないけれど。 大丈夫、ぼくが守るから。 ぼくのそばをはなれて、きみがみつけた居場所で、 きみが変わらず笑って居られるように。 かおいろひとつ、こわいろひとつ変えずに きっと誰にも見破れない嘘を吐いた。つもりでいたのに。 >>3:433きみだけが、ぼくの違いを見抜いている事に 鈍いぼくはまだ気付いていなかった。 ] (101) 2022/12/23(Fri) 14:03:34 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ 勿論減るのはぼくでなくたっていい。 じゃあだれにする?なんて 責任の伴う選択をきみに迫るつもりはない。 それにきっときみは誰もえらべない。 けどそれじゃだめなんだ。 誰でも良い誰かにきみが選ばれる事のないように。 誰でも良いならぼくでいい、ぼくがいい。 きみを守るものになると決めた あの日の誓いを守り通す為にも。 いちどでいいんだ、きみの役に立ちたい。 そうすれば、 生まれてから今迄何の意味も無かった人生を 漸く誇れるような気がするんだ。 ] (102) 2022/12/23(Fri) 14:05:05 |
【人】 ]Y『 塔 』 プロセラ[ きみが安心するまで待って、けれど手遅れになる前に。 それって何時だろうって考えて すくなくともこうして手を繋いでいる間は きみが危険に晒されても身代わりにはなれる筈だって あとすこしだけ後回しにした。 ここにきても暫く、ぼくのそばからはなれなかったきみが すこしずつ外側に目を向けて行ったみたいに きみが落ち着いて、きみから手を離して 他のだれかのもとに向うまで、もう少しだけ。 ] そばにいるから。 [ もしも肉体を喪っても、 きっと心だけはきっときみの元へ帰るから。 だから怖がらなくて良い、って じゃれつくみたいに軽く凭れ掛かってくっついた。 夢を見るのがへたくそなぼくが考えた割に すっごくすてきな夢を叶えるこの先に ちょっと浮かれるぼくとはまるで正反対に、 >>72今にも泣き出しそうなきみの顔は ぼくのことばをまるで信じてくれなそうで どうしたら騙されてくれるかなって 碌な気遣いも悪巧みもした事のない頭で真剣に考えた。* ] (103) 2022/12/23(Fri) 14:07:18 |
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