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【人】 学生 涼風【三日目 丑三つ時】 目が覚めた。 草木も眠る丑三つ時。生きる全てが眠りについて夢を見て、傍にある時計の針を進める音だけが部屋を満たしている。 秒針が進む音が今だけどうしてか怖くてたまらない。 暑さで少し乱れた寝巻き代わりの浴衣の襟や裾を整えて、広がる黒に慣れた目で辺りを見回す。眠れないのなら、眠くなるまで何かしていればいいかもしれない。 「……そうだ。呼子さんへ出す連絡、絵葉書にしたら楽しいかな。 こっちの村に着いたよって連絡は電話で簡単にして、楽しい話はモモと一緒に葉書に書こう」 ふと連絡を取り合っていた同い年の友人を思い出す。帰省の話になった時、小さな弟分を泊めたいと申し出たのは自分だ。 無事に到着した連絡くらいは済ませたほうが姉もきっと安心する筈。ただちょっと趣向を凝らして、帰省する前の連絡方法とは違うものを──。 「……。……?」 文机に伸ばした手がぽすりと自分の膝の上に落ちた。 何か、引っかかる。何故だろう? (21) 2021/08/13(Fri) 3:42:44 |
【人】 学生 涼風【三日目 丑四つ時】 気を取り直して葉書を探す。泊まりに来てくれている百千鳥を起こさないように、極力音を立てないよう浴衣の端をそっと持ち上げて押し入れへ。 そっと押入れの戸を滑らせれば、かすかな埃と古くなった紙の匂いが鼻をくすぐった。 使わなくなった葉書を探す。用箪笥を開ける。小学生の頃のテスト用紙が出てきた。日舞のお稽古に使う扇子も見つかった。夕凪や夜凪に貸したすり減ったクレヨンもあるし、呼子鳥や百千鳥と一緒に触った幼児用のヘアゴムも姿を現した。髪置について行く時に持っていった虫かごの破片も取ってある。捨てられなかったのだろう。 押入れにしまった物を出しては思い出に浸っていたものの。途中で我に返って時計を見た。長針がそれなりに進んでいる。脱線しすぎだ。 「……あれ」 慌てて用箪笥の別の引き出しを開ければ、いくつもの古びたノートが飛び出した。 恐る恐る指先でめくれば、色褪せた紙の上に鉛筆で描いた世界が載っていた。 これはたしか、星を授業で習った時。森に囲まれた学校で、皆でお泊まりしながら星を見上げたら楽しいなと思って作った物語。 こちらはたしか、テレビで豪華客船を知った時。見た事のない煌びやかな世界に憧れて、大きな船で遊ぶ旅人の物語。 まだ無邪気に夢を見ていた頃の欠片が、手の中に納まっている。 【→】 (25) 2021/08/13(Fri) 3:55:50 |
【人】 学生 涼風>>25 いくつも物語を書いてきた。小さな子供の見る世界なんてとても狭かったから、周りの人間がモデルとなることもしばしばあった。 コートを着た冷静沈着な警察官が、昔からいる老婆と話を進めて不思議な事件を解決して行く話。 都会に憧れる村娘が、村を飛び出して都会を巡り、素敵な男性と出会う話。 大人しい青年が動物たちのために森の中でレストランを開く話。 金髪の青年と黒髪の青年が喧嘩をしながらも世界に音楽の魔法を届ける話。 ピアスが似合う金髪の青年が夜の街を駆けて悪い奴をやっつける話。 嘘つきな女の子が病気の子供のために優しい嘘と魔法をかけてあげる話。 わんぱくな男の子二人と元気な女の子の三人組が、小さい体ながらも大冒険する話。 無邪気な少年が小さくなって、森の中で虫たちと友達になりながら沢山遊ぶ話。 元気な姉と弟が、移動する服屋さんを開いてみんなをおしゃれにしていく話。 写真好きの少年が、触れた写真の中に飛び込んで色んな世界を見て回る話。 双子の姉弟が、色の無い世界をクレヨンで彩って救って行く話。 【→】 (26) 2021/08/13(Fri) 4:43:13 |
【人】 学生 涼風>>26 モデルとなった人物の中にはきちんと話した事のない人もいる。母や父、祖母から噂を聞いていたり、遠巻きにこっそり見ていたり。 百千鳥のように誰にでも無邪気に声をかけてみたかったが、幼い自分にその勇気はなかったようだ。 「……」 無邪気に好きな世界を空想していたあの頃。 忘れていた思い出が泡のように揺らめいては弾けて消えていく。 振り切るように頭を左右に振った。 都会に出て、色んなことがあって、決めたはずだ。夢を見るのは諦めようと。 諦めようと── W……ここにいる間だけとかでもいいのよ。W 「…………」 ここにいる間だけなら、夢を見ていられる? ここにずっといられたら、ずっとずっと……いつまでも夢をみていられる? 【→】 (27) 2021/08/13(Fri) 4:45:31 |
【人】 学生 涼風>>27 「……私はいったい何を」 ため息を吐き出す。ずっといられる筈がない。眠る間に見る夢はいつか必ず終わるもの。胸に抱く夢は諦めるか叶えるか、二つに一つの終着点にたどり着くもの。 少年はそう考える。そう結論付けてしまった。 何のために?誰のために? 友人へ送る葉書を探すのはまた今度にしよう。夜だからこんなに色んなことを考えてしまうんだ。 自分に言い聞かせ、数冊のノートを綺麗に揃えようと重ねて文机にトンと置く。その時だった。 ノートの端から、何かが見える。 おもむろに摘んだそれは…… 「…………ぁ」 ……夕凪と夜凪に描いてもらった物語の挿絵だった。 自分が物語を書いて、二人に絵をつけてもらう。そうして遊んでいた。 「………………」 引き出しの中にしまわれたあの頃の記憶。 挿絵の描かれた紙を握りしめ、少年は暫くそのままだった。 かち、こち。かち、こち。 時計の針だけが、ずっと響き続けている。 時計の針は、決して止まることなどない。 〆 (28) 2021/08/13(Fri) 5:01:39 |
【人】 学生 涼風 三日目。蝉の声と共に夏の日差しが勢いづき始める頃。少年はきりりと冷やした麦茶を水筒に入れ、塩飴の袋や細々としたものを小さな鞄に詰め込んで家を出た。 写真好きなあの子はどこにいるだろうか。百千鳥が色んな人に海へ行こうと誘う姿を見ていた。もしかしたらあの子も声をかけられているかもしれない。 「海で遊んで、疲れたら海の家で写真を見る……というのも楽しそうだね」 想像して思わずくすりと笑みをこぼした。期待を胸に抱いてちょっとだけ足取りが軽くなってしまうのは、きっと仕方のない事だ。 (40) 2021/08/13(Fri) 16:27:55 |
学生 涼風は、メモを貼った。 (a22) 2021/08/13(Fri) 17:02:28 |
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