81 【身内】三途病院連続殺人事件【R18G】
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セナハラ
「約束
だよ……」
そのまま、ぎゅっと貴方を抱きしめた。
「セナハラさん……大好き……
」
死後漸く望みが叶うなんて、皮肉以外の何物でもないが、少年は幸せだった。
「…………」
だれかが、傍にいたような気がした。
以前感じた悪寒はない。根拠もない。
ただ彼のことを思い出していたから
そう思い込んだだけかもしれない。
メイジは、ふいに立ち上がって
干されていた"肉"をかき集めて、その場を後にした。
| >>6 ロク くるりと、振り返る。 ここ数日で聞き慣れた声。見慣れた姿だ。 貴方が視界の外でした行動の意味など、少女に知るすべはない。 ただ貴方がいた事、返事が来た事に安堵したような表情を浮かべただけだ。 「おはよう、ロクさん。 ……他の人は、見なかった?」 皆どこに行ったのだろうと、がらんとした病院内を見回す。 昨日、ミロクがあんな事になったばかりだというのに。 (7) 2021/07/09(Fri) 22:10:34 |
| >>8 ロク そう、と短く答えた。 ……姿が見えない人々が、どうなっているのか。 薄々想像がついているのかもしれない。 「うん。探しに……あっ」 ふと思い出したように顔を上げ、ちょっと待っていてほしいと一旦離れる。 戻ってきた時、手の中には貴方が先日フジノにかけた上着があった。 「上着、ありがとう、ございました。 ……あの時は、何もできなくて、ごめんなさい」 貴方の気後れするような雰囲気も気にせず、 気を遣ってくれてありがとうと告げ、上着を返しただろう。 (9) 2021/07/09(Fri) 23:39:38 |
ニエカワ
抱き締められても、温もりなど少しも伝わってこない。
そこにあるのは交わしてしまった約束と、
剥き出しの好意だけだ。
何故好かれているのか、男にはちっともわからなかった。
だからこそ、恐ろしい。
「──……はい。約束
、です」
恐る恐る、背中に手を伸ばす。
この約束を手放してしまえば、
自分は永劫許されなくなると思った。
セナハラ
背に回される手には同じように温度はない。
けれど心が温かくなるような感じがした。
約束をしてくれたから、自分は彼を信じていよう。
セナハラさんは“大人”だから、また約束を忘れてしまうかもしれないけれど、その時はまた思い出させてあげればいいだけだ。
「(──やっぱり…、セナハラさんにはお嫁さん……いらなかったね)」
| >>10 ロク 「ううん……あのままだと、ずっと、ただ見てるだけで何も、動くこともできなかった、だろうから。 ロクさんのおかげで、落ち着けたし、助かった、よ」 ぴくりと肩が一度跳ねたが、それだけだ。 反射的に身構えてしまうのはどうしようもないけれど、貴方がフジノに向かって挙げた手をそのまま振り下ろす人ではない事を、わかっているつもりだ。 「そう、かな。そうだと、いいな。 ……ひとりだと、寂しい、ものね」 腹をそっと撫でながら呟くように言う。 会話している内に、調理室から先日と同じ匂いが漂い始めただろうか。 >>5 (11) 2021/07/10(Sat) 11:22:15 |
| >>12 ロク おとなしく撫でられる。 またこの感覚には、慣れない。いつか慣れるだろうか? 「そう、だね。 ……お腹が空いたままだと、生きられないもの」 腹を軽く擦り、貴方と共に調理室へ向かっただろう。 (13) 2021/07/10(Sat) 12:32:42 |
| >>5 >>13 【調理室】 そうして、二人は調理室へやってきた。 先日と同じ匂い。焼かれている肉は余っていたものだろうか? 焼いている人間は、先日と違う。 「……今日は、メイジが焼いてるんだ、ね」 先生はどこへ行ったのだろう。 室内を見回した。姿は、見えないように思う。 (14) 2021/07/10(Sat) 12:40:25 |
これは、誰かが遺体を見る少し前の手術室──
メイジは壁際に座り込んだまま動かない男と
結構な時間、寄り添っていた。
悲しみに暮れていたのか、動く気力がなかったからか。
「やっぱ起きないや」
当然だ。己の手で殺したのだから。
やがてそれにも飽きたのか、気だるそうに立ち上がり
ずるずると遺体を手術室の中央まで引きずっていた。
「………重い」
持ち上げて、仰向けに手術台に寝かせた。
だらりと投げ出された手を胸の前で合わせる。
「………………重たいよ」
消え入りそうな、忌々しげな声が
腐敗臭のただよう手術室にむなしく響いた。
| >>16 【調理室】 昨日焼いていた先生は、どこへ行ったのだろう。 ……いいや。どこ、だなんて。聞かなくても、答えてもらわなくとも、どうなっているかはなんとなく、わかってしまう。 なら、この病院で生きているのはきっとこの三人だけなのだろうと、わかってしまった。 「……そう、だね。それもある、かな」 膨れたお腹を擦り、頷く。 食べられるものは食べておかないと、いけない。 それが何の肉であるか、まだ確証を得てはいないけれど。 (18) 2021/07/10(Sat) 18:00:54 |
| >>17 【調理室】 どこにあるか知っていると、聞いて少しだけ顔を曇らせた。 ……後で、探しに行かないと。 『見つけて』あげなければと、思った。 きっと昨日見たような惨状を目にするだろう。 それでも、そのまま放っているのは気が引けた。 その惨状をメイジが抱えている状況も、嫌だと思った。 (19) 2021/07/10(Sat) 18:05:53 |
| >>20 >>21 【調理室】 「うん。大丈夫。いただく、よ」 受け取り、いただきますと呟いて口に運ぶ。 すべては食べきれないけれど、乗せられた分はしっかりと食べていく。 これが何の肉であろうと……この後、その見当がついてしまっても。 食べて生にしがみつかねばならない。 フジノが抱えるいのちは、フジノひとりのものではない。 (22) 2021/07/10(Sat) 22:16:03 |
メイジは、用事がある時以外は、ずっと手術室にいる。
手術台の上でずっと、突っ伏して
返事も帰ってこない抜け殻に話し続けていた。
少年は死後の世界があるなんて知るはずもない。
……だからこそ、友達にも嘘を吐き続けた。
なにも知らないままでいてほしかった。
「セナさん、雨と風弱まってきたんだ
……もうすぐ帰れるかな。助けなんてくるのかな」
これはどこかの時間。
死んだ男は、手術室で自分の死体と少年を見つめていた。
聞こえないと知りながら、返事をし続ける。
「きみは何も悪くないんですよ」
以前のように頭を撫でようとして、
己がさせたことを思い出せば、手を下ろした。
「いつか、助けがきますから」
どうせわからないのだから、撫でてもいいとわかっている。
しかし、そんな資格は無い。
「……」
いや、自らそれを捨てたのだ。
──貴方は良い子だから。
──自分の我儘に付き合ってくれると、信じていた。
「ありがとう、」
「ごめんなさい」
あのとき伝えたかった二つの言葉を、小さく呟いた。
| >>23 >>24 【調理室】→【手術室】 「ごちそう、さまでした」 食べ終えればそう言って手を合わせた。 ロクの片付けを手伝い、メイジの後に続いて歩き出す。 進むにつれ、異質な匂いが鼻をつき始めた。 それは手術室へ入ると一層強くなり……視線を奥に向ければ、変わり果てた医師を見つけた。 今日は、叫ばなかった。 ただ悲しげにその場の人々を見つめた。 (25) 2021/07/11(Sun) 2:17:27 |
「セナさんがいなかったら
……誰がオレを助けてくれるの……?」
そうして呟く背中は、ただの小さな子供のようだった。
「……あはは……もうそんな子供みたいなこと
言ってられないよな……。
もうひとりだ、オレ。家族はみんな死んじゃったり
出ていったり、いなくなっちゃったから」
「自分でやったんだ」
実の父親も、──優しい父親がいたらと夢見た人のことも。
「最後、なんて言おうとしたのかな」
ふいに思い出す。考えてもわかるはずもない。
メイジには何も見えない、聞こえない。
だから、ずっと目の前の遺体だけを見つめている。
「死んだら、どこにいくのかな」
「やっぱ地獄かな? 悪いことしたもんね」
「楽になれないかもね」
「オレのこと、実はどっかで見てんのかな
……それはそれで、いやだな」
「オレも死んだらおなじとこ行けるかな
悪いことしたからさ」
思い浮かんだ言葉を脈絡もなくぽつぽつ。
| >>28 >>29 【手術室】 貴方達をじっと、黙って見つめている。 メイジが“悪いこと”をしていた事は、本人から聞いた。 ……ロクは『誰の骸』から聞いたのだろう? フジノに人外の声は聞こえない。 姿も見えない。 そこには物言わぬ肉の塊があるだけだ。 ―――あぁ。 あの『肉』達は、そういう事だったのかも。 やっと思い至って。 そっと、腹を撫でた。 (30) 2021/07/11(Sun) 13:54:46 |
あの日、彼を黒猫を抱え見送った。『無事に帰ってきてくださいね』
| (a6) 2021/07/11(Sun) 16:30:59 |
| (a7) 2021/07/11(Sun) 16:31:17 |
| フジノは、きっと。肉の正体がわかっていても、口にしていただろう。 (a8) 2021/07/11(Sun) 16:32:25 |
ロクと話をしている。結構、かなり、ながく、ずっと。
「頭から焼きついて離れないんだ」
バラバラになっていく手足や、開かれる胸、鮮血
赤黒い内臓、砕かれる骨──頭だけになった、人間の姿が。
人を刺して、肉を切る、感触が──
この手で、脈打っていた鼓動を止める瞬間が。
忘れろ、と言われたことは覚えている。
忘れられる日なんて、来るだろうかと今は思う。
胸が痛い、頭が痛い、とうの昔に治ったはずの傷が疼く
メイジは、よく怪我をする少年だった。
| >>33 >>35 【手術室】 フジノはやはり、黙って聞いていた。 どうせ全てを知ることも聞くことも、できないのだろう。 ただ、ここで何が起こったか。 彼らが何をしたか。 自分がどう加担したか。 それらの断片を生きている間、抱えるのだ。 それが生かされたフジノに唯一できることだから。 「……メイジ」 名を呼んで、貴方の傍らにしゃがむ。 丸くなった背を優しく……少しぎこちない手つきで、撫でただろう。 貴方が落ち着くまで、大丈夫だと思うまで、何度でも。 (36) 2021/07/11(Sun) 20:57:46 |
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