203 三月うさぎの不思議なテーブル
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[俺の言葉でも伝わったみたい!
次はどんな貝沢さんが見られるんだろう?
次の約束が楽しみで……
お弁当はね。詰めるのは毎日自分でやってたし。
料理自体も学生時代から手伝ってはいたから出来ます。少し。
人様にお出し出来る出来かと言われればNOだけど。
友人からは色が無い弁当だと言われていたっけ……
でも作っていきたかったのは。
自分の事を、知って貰いたかったから。
言葉を尽くすより、きっと分かりやすい。]
[ぽんぽんと決まる当日の予定。]
公園でお弁当とか、楽しみ!!
……当日楽しみにしてるね。
[貝沢さんに笑いかけて。]
[別れ際。小さな囁き声が聞こえて。
立ち去る貝沢さんに思わず声をかけていた。]
貝沢さん!!
……玲羅って、呼んで良い?
[言ってから。急に恥ずかしくなった。]
── デートの日 ──
[遠藤さんのレシピと、母さんの味。
分量は計ったけど、2人の味どちらとも違う味が出来た。
なんで味を知ってるか?味見しました。
週末まで我が家に毎日豆腐ハンバーグが並んだのは愛嬌です。
お豆腐のハンバーグと卵焼き。
それから塩むすびを幾つかラップに包んで。
う〜〜〜〜ん。白い。
ミニトマトはまだ実をつけていない。
背伸びをしようか一瞬悩んだけど……
このお弁当は、自分を知って貰う意味もあるから。と。
白と黄色だけのお弁当にした。
おにぎりは塩むすびだけど、塩梅だけは良いと思うんだけどな。俺の手で握ったから少し大きめ。
水筒に熱い玄米茶を注いで。お弁当の準備完了。]
[俺の服はだいたい何時も同じ。
白いシャツに、黒いセーターやベスト。
スーツも全く同じ色型の量産品を数着。
悩む必要が無いし、着れなくなった時最小限の交換で済む。
……ちょっと味気ない。
でも幸いな事は、どこにでも着ていけるから。
貝沢さんがどんな格好で来ても、浮きはしないだろうこと。
貝沢さんの事を思うと、心が浮き立った。
珍しく鏡の前に長居して、身だしなみをチェックした。
そんな自分の変化が可笑しくて。嬉しくて。
待ち合わせの10分前に着くように乗り継ぎを検索したのに。
少し早めにと考えて家を出たら。
乗り継ぎがスムーズに行き過ぎて。
30分くらい前に到着してしまった。
時計を見て、一人で笑った自分はちょっぴり不審者。**]
…………?
手抜きに違いなんて、あるんですか?
[そう聞いたのはさっきのコンビニでのこと。
初めて使うキッチンで、まずは手を綺麗に洗う。
あまり使われてなさそうだけれど、
洗い終えたプラ容器やペットボトルが
干されているのを見れば、普段の生活は察せるか。
片や、カウンターテーブルに残されたままの
開かれたままのレシピ。
これは作ろうとした名残か、何か。
そういえば以前にもそんな話をしたような。
血に塗れることのなかった包丁を取り出し、
思い出して、ふ、とまた笑みが零れた。
今度は包丁の持ち方から教えようか。
そんなことを考えながら、
開かれたページに今日のレシートを挟んでおく。
今日はレシピ本には休んでもらおう。]
[レジ袋から買ってきたものを取り出して、
シンクに並べていく。増えた調味料は、
既に並んでいる調味料の横へ並べて。
まずは手始めに小さな鍋を借りて水を沸かす。
コーンクリームのカップスープは湯に溶かすだけ。
湯が湧くまでの間にまだほとんど綺麗なままの
フライパンを借りて、熱くなったら、
食パンにこんがり焼け色がつくまで強火で焼く。
麦の香ばしい香りが立ってくる。
スープの粉末はしっかりと溶けるまで掻き混ぜたら、
コーンの粒が浮かび上がってくる。
仕上げに焼き上げたパンを9分割にして、
コーンクリームに食パンを入れるだけの一品。
スープが好きだと言っていたし、
風で冷えた身体には温まるだろうから。]
[テーブルに運んで、まずは一つ目。
家主はいつのまにか着替えていたらしい。
さっきまでの身体にフィットした皮のスタイルよりも、
ゆったりとした自宅用のラフなスタイル。
店ではなかなか見ることはない姿に、
口元を綻ばせながら、
ことりと湯気の立つカップを置いた。]
気持ちいいですか、それ。
[使われていないソファを横目に。
そんな会話を交わしながら、キッチンヘ。
少し、動いたとしても会話は成り立つぐらいの距離。
ときに、書棚へ視線を投げたり。
自分の家にはない大型のテレビに
目を向けたりしながら、キッチンへと戻っても。
話は、続けられただろう。*]
[別れ際、手を振って立ち去りかけて。
ふいに呼び止められて振り向く。]
――ー…
[虚を突かれて驚き、ぱちり、瞬きをして。
その後すぐにニッと目を細めて笑った。]
― 週末:デートの日 ―
[そうしてあっという間に月日は流れ、
待ちわびたデートの日がやって来た。
上は白いニットにカーキのデニムジャケットを羽織り
下は春らしいピンクの花柄ミディ丈スカート。
タイツにフラットシューズで合わせた。
公園デートでそこそこ歩くことも想定して
カジュアルさと可愛さを取り入れたくて。
前日に爪先を彩り、
春の新作コスメで華やかにメイクして、
バッグを肩にかけて家を出た。]
おはよ〜〜!!
お待たせ!早いね!?
[電車に乗り、到着はきっちり15分前。
駅前の待ち合わせ場所に
彼の姿を見つければ笑顔で手を振り、
ストレートに降ろした長い髪を揺らして
元気よく駆け寄った。
30分前に到着したなんてもし知ったら
ちょっと笑ってしまったかもしれないけれど。**]
[キャベツはハーフサイズのものがあって良かった。
半分に切り分けて、片方は千切りに。
もう片方は、手でちぎって形を残していく。
次に取り出したのはツナ缶。
少しだけ汁気を切って、残りは使う。
マヨネーズにごま油。
それににんにくチューブを入れてよくかき混ぜたら、
千切りにしたキャベツをプラス。
ツナが少し甘い分、
仕上げのブラックペッパーはたっぷりと振りかける。
器は手のひらサイズのものと、
もう一回り小さなものを借りてそれぞれに盛り付けていく。
ツナとキャベツのコールスロー。
小さな器の方は、
冷蔵庫で冷やして後日に食べてもらうとして。]
[調理器具の中に埋もれていた、明らかに貰い物らしき
シリコンスチーマーがあって良かった。
時短は大事。夜が更けてきたなら尚更。
料理をすることは苦ではないけれど。
彼と話す時間も、できるだけ長く取りたいから。
便利なものは使っていくに限る。
ちぎったキャベツとしらす干しをスチーマーに入れ、
顆粒タイプのコンソメを振りかけ、
サラダ油を大さじに一杯分。
箸でスチーマーの中を掻き混ぜて下味をつけるように
中身が行き渡れば、チーズを散らして。
後は、レンジで加熱するだけ。
時間が経つにつれてレンジの中で溶けていく
チーズとコンソメがキャベツから出た水分と絡んでいく。
しらすとキャベツの蒸し料理。
体型を維持したいと言っていたのは、
聞いたから、蒸し料理でヘルシーなものを一品。]
[顆粒コンソメは割りと便利なもので、
もう一品役に立って貰うために
そのままシンクに残しておく。
薄切りのハム、とろけるチーズを1cm角の長方形に刻む。
白ネギは5cm幅に一度切ってから、縦に四等分。
解けた白ネギが短冊のようになって、チーズと並ぶ。
片手で卵を割るのが格好いいと、
杏を見て思ったのは何歳の頃だったか。
今は慣れた手付きで出来るようになったもの。
卵は二つ。一度溶きほぐしたら、
今度はコンソメと牛乳を入れて混ぜていく。
そこまでで一度手を止め、]
……高野さん、耐熱用の容器ってあります?
[くつろいでいるであろう彼に一言。
彼が来るのを待ちながら、食器棚を眺める。]
[あまり食器は揃っていなかった。
一人暮らしの、料理をしない男性の佇まい。
そこに、前の恋人の影はなかっただろうか。]
……今度。
食器、増やしていいですか?
[探しものを見つけてくれたであろう彼に。
そう、次を匂わせた一面もあっただろうか。]
[無事手に入った耐熱容器は二人分。
ハムとネギは交互に重ね入れて、一番上にはチーズを。
そこにコンソメで味付けされた出汁を注いで、
ラップをふわりとかけて、またレンジへ。
電子レンジは革命だ。
これ一つさえあれば、初心者の一人暮らしには困らない。
美澄が引っ越すというのなら、
引っ越し祝いはグリエレンジにしようか。
なんて、考えているうちに出来上がりの音が鳴る。
一度、軽く加熱した後は、
今度は弱めにじっくり10分ほど。
表面のチーズが蕩けてきて、
出汁が柔らかさを残したまま固まっていく。
これは洋風の茶碗蒸し、といえばいいだろうか。]
[さて、副菜がいくつか出来たなら。
茶碗蒸しが冷めない内にメインを軽く、お手軽に。
パックのご飯をレンジで解凍している間に、
出来合いの焼き鳥を串から抜いていく。
ねぎまもあったのでちょうどいい。
先程使ったねぎの余りも軽く焼いて足しておく。
ほかほかのご飯を丼に盛れば、湯気がほわほわと温かい。
ご飯の上に、焼き鳥とねぎを乗せて。
鶏ガラスープの粉末をふりかけて湯を注ぎ入れる。
既に味付けされた焼き鳥とねぎから滲み出る味。
湯に溶けていく鶏ガラスープと相性はいいはず。
小口切りにしてある小ねぎを上から、
ぱらぱらと振りかければ彩りもよく。
焼き鳥スープ丼、メインも完成だ。]
[玲羅の言葉に、笑み崩れて。その日の月も綺麗だった。]
[料理の合間に先に出来たコールスローと、
蒸しキャベツは先に運んでおいたから。
先に食べ始めているかもしれない。
待ってくれているのなら、一緒に。
今しがた出来あがった料理をテーブルに運んで。]
……そういえば、昼は気づかなかったけど。
一緒に飯食うの初めてですね。
[いつも料理を食べてもらうことはあっても。
食卓を囲むのは初めてのこと。
座椅子が置かれた、斜め隣に腰を下ろして。
先に彼が食べ始めるのを眺めながら。**]
── 週末のデート ──
[玲羅を一目見て。胸がいっぱいで言葉が出なくなるかと思った。]
……おはよ。
今日も可愛いね。良く似合ってる。可愛い。
……ふふっ。可愛いね。
[ごめんね。俺の語彙力なんてこんなものだ。
でも。柔らかな色のニットもスカートも可愛いし。
デニム地のジャケットは玲羅の明るさや芯の強さを表してるようで良く似合う。
俺は目を細めて。可愛いってたくさん言った。
だって本当に可愛かったからね。]
[時計を見て見ればまだ15分前だ。]
玲羅だって早いじゃん。
俺はアレだ。本当は10分前に着くつもりだったんだけど。
余裕をもって家を出ようとしたら、アレよアレよと乗換が上手く行って、30分前に着いてた。
あははっ。楽しみにし過ぎ。
遠足前の小学生かっての。
[笑いながら。]
[ふと。このまま歩き出すのが躊躇われて。
手を差し出した。]
……行こう?
[手を繋いで歩きたいと思ったんだ。
とても自然に、そう思った。
俺は今胸がいっぱいで。
本当にコレお弁当入るのかな?とか頭を過ったけど。
きっと彼女と2人で食べれば、弁当も美味しいだろう。*]
―― 鴨が流行った夜 ――
[誘惑の一言に戸惑った反応を見て、
くすくすと笑いを零してしまう。
うちのシェフの腕は誰しもお墨付きなので。
どれを選んだとしてもオススメできるのだが。
『おまかせ』は、腕を信頼された証。]
かしこまりました。
鴨は神田さんと同じ鴨南蛮でいいですか?
[店長の腕はランチでも保証済み。
今は滅多に表に出てこないけれど、
俺に料理を作る切っ掛けを教えてくれたのは彼女だった。
鴨南蛮に使うロースはランチが終わった後に、
しっかりと、薄皮と脂を取り除いて、
じっくりと、焼いて煮込んだものがある。
鰹は美澄が作ったタタキを少し、分けてもらおう。]
[杏の手元で綺麗にスライスされていく鴨ロース。
食べごたえがあるぐらいの厚みを残している。
切っただけで、少し肉から染み込んだ汁が溢れる。
隣に並んで青い部分を切り落としたネギを
斜め切りにして。
フライパンを用意したなら杏がその前に立った。
投入されたネギに焼き色がついていく。
同じフライパンで鴨肉を焼けば
ネギの風味が肉にも移っていく。
その間にこちらは細打ちの蕎麦を茹でる傍ら、つゆ作り。
だし汁と醤油とみりんを足して濃い目に。
そこに焼いたネギと鴨肉を合わせたら、
味が染み渡るまで、少し時間を置いて。]
[ざる上げしたそばを、シンプルな白の器に盛る。
熱々のつゆとたっぷりとつゆを含んだ
ネギと鴨肉を乗せたなら、]
鴨南蛮です。七味はお好みで振ってくださいね。
[待ちかねていた神田と高野の前に、それぞれ置いた。]
[カツオは美澄が途中まで仕上げたタタキを貰う。
しっかりと焼き目の付いたカツオに
摩り下ろしたにんにくと酒を行き渡らせて、
そこに醤油と生姜汁を少し。
しっかりと和風の下味を付けた後は、
汁気を軽く切ってから、片栗粉をまぶして。
170度の油で揚げていく。
ぱちぱちと小さくなる油の音。
カラッと仕上がるようにあまり時間は掛けずに。
軽く茹でたグリーンアスパラと春人参は
箸休めに一緒に添えて、レモンも。
つけ塩にはオススメの琉球で取れた『雪塩』を乗せた。
その後もいくつか料理は頼まれただろう。
和食が好きなことはもう知っている。
その度に、彼が喜びそうなものを考えるのは、
好きな時間の、一つになる。
]
[料理を提供する側とされる側から、
少し、変化があった後。
またひとつ、仕事の合間に挟まれた誘いの言葉。
その時は、彼の家に招かれた後だっただろうか。
配信機能は最近ではネット回線を繋げれば、
テレビでも観れるようになったとか。
自宅で独りで見る時には、
タブレットを使っていたけれど。]
どんな映画ですか?
[観るとするなら大型のテレビがあった
彼の家になるだろうか。そんなことを考えながら。
また、一つ、約束を交わして。]
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