188 【身内P村】箱庭世界とリバースデイ【R18RP村】
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視点:人 狼 墓 恋 少 霊 九 全 管
[ 月には友がありました。
友とは互い大事に思い合い成り立つものに
ほかなりません。
世話を焼く、焼かれる間柄であったとしても
月もまた、友を大事に思っていました。
行動で示すことは得意ではありませんでしたが
その分、ことあるごとに言葉で、
また、不器用ながらに贈り物などをし、
己の気持ちを、伝えていたつもりでおりました。
友の持つ贈り物、ちからが、
いつしか友そのものを塗り替えてしまうと予見
していたとしても
月は教皇の、友であろうとしていたでしょう。
時折思い詰めた表情を見せることがあろうとも
苛烈な一面を見せることがあろうとも。 ]
煮えきりませんね
はっきりおっしゃいなさいな。
[ ある時、語り合いのなか決意に満ちた表情で
あなたは語ってくれようとしたのに、どこか
煮えきらないまま。取り出そうとした仕草を
見せるも、結局は出てくることはありませんでした。 ]
――違えてはいけないと誰が言ったのですか?
もういちど言うわ
はっきりおっしゃいなさいな。
貴方の願いなのでしょう
友たるわたくしが、無下にしないと
わかっていて、言うのであれば
覚悟を持って、おっしゃいなさい。
貴方とならば、刺し違える覚悟だって
わたくしには持ち合わせがありましてよ。
[ だって、貴方がそう育ててくれたのでしょう。
まるで、朝露に濡れる薔薇がきれいだったのよ、
とでも言うように、さらりとそう口にした。 ]
[ 花の世話をしたいの。
ああでも、わたくしときたら、
枯らすばかりで、ねえどうしたらいいかしら。
髪の毛が汚れてしまったの。
切ってしまおうとおもって。
え?切らずとも洗えばいいの?
じゃあ、お願いしてもいいかしら。
あなたと、わたくし。
あげればきりがないほど。
これまで話してきたじゃないの。
思い合ってきたじゃないの。
何を今更迷うことがあって?
月は呑気に微笑んでいました。 ]
[ 貴方の葛藤も、ささいな変化も、
教皇たる貴方をかたちづくるものなれば
受け入れ、たっとび、
貴方を愛した。
箱庭に住まう他の者同様
――いいえ、やはり貴方はいくらか特別に。 ]
[ ――だけど、ごめんなさいね。
わたくしは貴方を残し、死んでしまった。
死にゆく中で、貴方の言葉が
うかんでうかんで、
浮かばれなかった。 ]
ねぇ教皇、貴方はわたくしに何をねがい
なにを託したかったの
……私を、どうか
止めて欲しい?
ごめんなさいね、それはできそうにないわ
諌めて欲しい?
ごめんなさいね、それもできそうにないの
ころしてほしい?
……もっと早く、そう言ってくれれば
きっと叶えて差し上げられたのに
[ 薄れゆく意識、泥水に沈むように、
身動きが取れなくなっていく手足。
それでも最後まで、わたくしは貴方に
届かないと知って、手を伸ばしたわ。
すこしだけ、うらめしそうにね。 ]
[ 私を、どうか
ではなく、私と、どうか
と――そう言ってほしかったもの。
その未練が、うらめしさが、
月に色濃く残ってしまったのでしょうね。* ]
[『ボクたち』は結局のところ、みんなひとりでしかなかった]
[生まれたばかりの頃は、そんなこと思いもしなかったよ。
『ボクたち』は生まれた順番こそ違えど、
(そう、一番最後に生まれたのは『世界』だったね)
どこまでも幸せに暮らしていくものだと思ってた。
だけどそうじゃなかった。
神様が生み出した『ボクたち』は、一度争い始めたら、
ひとつにまとまることなく次々に死んでいく、
そういう存在でしかなかった]
[守りたい子がいた。
一緒に死んだ子たちに焦がれたこともあった。
歯車が狂っていく音を聞いた。
いつしか『審判』は狂った考えに取りつかれるようになった。
神様が望んでいるのは本当は、ひとりでも生きられる存在なんだと。
だから『月』を殺した。
もともとどこか気に食わないという感情を抱いていたうえに、
明らかにひとりでも生きられないように、『審判』の目には見えていたから。
『教皇』と一緒でない時を狙って、『月』を落っことしたのだ。
咎を追及する者達の前で、ちゃんと言ってやった。こうするのが『月』のためだったのだ、と]
[その後はというと、
人の良さをかなぐり捨てた『教皇』と色々あったような気もするし、
あとは……そう、神様が全部悪いのだと恨みをぶつけもした。
『審判』の考えていた神様の望みなんて、確証のない当て推量だったのにね。
結論から言えば『審判』はひとりぼっちで死んだ。
魂の奥底に眠る記憶は時折悪い夢となって悪さをする。
命尽きる間際に見えた記憶の中には以外にも色んな子がいたし、
みんなといるのは嫌いじゃなかったことを忘れかけて、
ひとりで死んだ記憶に囚われたままの魂は同じことを願い続けるだけだ]
“次はちゃんと、
ひとりでも大丈夫になる
んだよ” **
[── 穏やかな安寧の地、
ここに居たらきっと永遠にそう過ごせるんだろう。
別にそれも悪くはない。
『神様』の事も、『箱庭』の事も、
嫌いじゃなかったし、好きだった。
あの楽しい日々が、大好きだった。]
[愛すべき『恋人』がいて、
個性的なメンバーがいて、
気に入らないヤツもそりゃいたけれど。
『恋人』は愛しいし、
『愚者』も可愛いし、
『神様』も優しいし、
皆のやり取りも楽しいし。
だけど気付いてしまったんだ。
水面下にあるそれらの存在に。
別に誰が誰の事をどう思ってる、とか。
きちんと知っていたわけじゃない。
でも小さな衝突や残ったままの僅かな蟠り。
綺麗な景色の中にある見えない澱み。]
[どきどきした。わくわくした。
些細な悪戯を思いついた時のような、
塗りたての塗料に傷をつけるような、
新雪に最初に足跡を残すような、
未知へと踏み出す最初の一歩のような、
果物をつついて腐らせるような、
蛇の群れにねずみを投げ込むような、
リンゴを、そこに一つだけ置くような、
そんな気持ちで、
溢れだす好奇心、背徳の誘惑、
全然どうなるか解らなくって、
きっと楽しい事になると思って、
取り返しのつかない事をしたくって、
そんな時、一つの疑問も思い浮かんでしまって、
あの時、自分はそれに抗えなかった。]
「方法はいろいろ考えたんだよ。
俺もさあ、
一番効果的な方法をやりたいだろ?」
「誰がいいかなあとか、
どうするのがいいかなあ?とか?
本当にできるのかなあ?ともさ。
きちんと考えたんだよ、えらいと思わない?」
「だってこれで、
『箱庭』の『完璧』が終わったんだ、
もう22人揃う事はないからね。
これを知ったら皆どんな顔をするだろう。
これを見たら、『神様』はどう思うだろう?」
「なあ仕方がなかったんだよ。
だって楽しそうだったんだ。
見ろよ、もう『愚者』は動かない。
安らかな顔だよ、羨ましいな。
なあ、ほら、 すごいと思わないか?!
『俺たち』って、
死ねるんだ!
」
「『お前ら』も、
『誰か』を殺すことができるんだよ!」
[『神様』の事も、『箱庭』の事も、
嫌いじゃなかったし、好きだった。
あの楽しい日々が、大好きだった。
大好きだった、だけど、]
[大好きで、大好きで、大好きで、
…きっと、大嫌いだった。]
[俺の行動が切欠で、箱庭が壊れていく。
それが楽しくて仕方がなくて、
誰の死だって面白がった。
『恋人』の死に方は確かに
ちょっと残念だったけど、それだけ。
なあ神様!面白いだろう?
"俺の事を嫌いになった?"
何をしても揺らがないその様子が
何をしても愛しいというその瞳が
俺は、俺は、俺は……]
[それはきっと、自分がやった事を
親に褒めてほしい気持ちや、
親に叱ってほしい気持ちに似ていて、
俺が思う楽しい事への共感が欲しくて、
もし違うならばそれを教えてほしくて、
だったら"要らない"って言ってほしかった。
けれど神は制止する事はあったのに
崩壊していく様子を悲しんでいたのに
俺を咎める事はせず、戒めることもせず、
そのまま。]
私の力は、平穏に導くための道程を用意するもの。
仰々しいですが、実際は破壊のための力です。
命だって刈り取ることが出来る。
……まるで、私の方が『死神』のようではありませんか。
時に思うのです。
『教皇』である私と 『死神』である貴方。
私達は本来持つべき力を
神が取り違えられたのでは、と。
私こそが、本来の貴方であったのでは無いか、と。
[ タンザナイトが埋め込まれた聖杖を
『死神』の首元にぴたりと当て、口元を歪ませ嗤う。
・
・
ぼろり
・
聖者の仮面の欠片が、音も立てずに堕ちていく。
]
私は、貴方のことが羨ましかった。
私より余程清らかで、慈悲深く、汚れ無き存在の貴方が。
……いつの頃からか
妬ましく思えていました。
今この瞬間の、言葉だってそうですよ。
己の身が危険な状況であれど
案じているのは、貴方の命ではなく
…………私の事なのですから。
貴方の云う通り、私はこの程度の者でしかないのですよ。
[ 神が私に与えた “贈り物” は
間違っていなかったのでしょう。
間違えたのは、私の方。
]
[ かつて死神が師のように慕った“慈愛の聖者”の仮面は
狂気を孕んだ声と共に崩れ落ちました。
死神はどのような表情をしていたでしょうか。
どのような表情でも、態度が変わる訳ではありませんが。
やがて『死神』の首筋に向けたままの杖先から
顔色一つ変えず、爆発を発生させました。
しかし、僅か数秒後に知ってしまいます。
この爆発だけでは、終わりが訪れないことを。
『死神』の再生の力の賜物でしょうか。
それとも、肉体のみならず
魂まで消滅させたかったのでしょうか。
『教皇』はそれはもう念入りに
ぴくりとも動かなくなるまで
幾度となく攻撃を続け、殺害しました。
その時の形相といえば
悪鬼羅刹の類のそれと言えたでしょう。
後世、なかなか『死神』の証を持つ者が
生まれ落ちなかったのは、通説の
「22人揃わないようにと考えた人に殺された」他に
この悲しい出来事の影響もあるのでは、と
唱える説もあります。*]
[ 『節制』は、箱庭を愛していました。
世界を生み出した神様を愛していました。
自分と同じように箱庭に生み出された子らを、
それぞれに大切に想っていました。
相反する性質を持つ者たちの集う箱庭では
諍いが度々起こりました。
彼らが諍いで互いを傷付けすぎてしまうことのないよう、
一たび争いごとが起きたなら駆け付け
仲介役を進んで買っていました。
神様が『節制』へ贈った贈り物は「虹」
相反する二つの性質の間に立ち、
それらを結び付けることの出来る贈り物でした。
特別安らげるのは、親友である『隠者』の傍。
『隠者』は思慮深く、慎重で、思い遣りに満ち
誰よりも『節制』の性質を理解してくれます。
『節制』もまた『隠者』を誰よりも大切に想っていました。
晴れた空の下、よく二人だけのお茶会を開きました。
湖畔で涼やかな水音を聴きながら
アイリスの花を眺めるのがいっとう好きでした。]
[『節制』は規律を重んじ、節度を弁え
慈愛を尽くすためならば自己犠牲をも厭いません。
東に呼ぶ声あれば飛び、西に呼ぶ声あれば駆け
求められれば求められるがままに献身し、
皆の幸せを心から願っていました。
最初はきっと興味本位で始められたのでしょう
『運命の輪』の手による幸運と不運の流転。
やがてどちらをも楽しむようになってしまった
『運命の輪』のことを、その勝気な奔放さを
『節制』はどうしても理解できません。
初めこそ純粋に心配をしていましたが、
徐々に苛立ちを覚えるようになってしまいました。
『節制』が戒律し、己を戒めていましめて
とても出来ずにいるようなことをも
無邪気に成し遂げてしまうから。
羨望の色を孕んだ、醜く身勝手な苛立ちでした。
『節制』は自分が『運命の輪』を嗜められる気がしません。
『正義』に任せて、距離を置くことにしました。]
[ わたしは神様を愛しているのに
神様の創りたもうた子に苛立つなんて!
『節制』は自分の中に生まれた矛盾に苦しみました。
こんな自分は『隠者』にだけは知られたくない。
ひとり苦しむうちに、ぽきり、と何かが折れました。
どんなに仲介役を続けても
ただその場では丸く収まるというだけ。
争いの火種がそれぞれの個性に在る限り
諍いが完全に絶えることはありません。
……つかれたな。
ふとそう思いました。
仲人役を務めることが虚しくなってきましたし
自分の存在は箱庭に必要がないような気もしてきました。]
[ やがて思いました。
わたしが間に立とうと、立つまいと
さして結果は変わらないのではないか?
愛する神様からの贈り物を使いこなせない己に
『節制』は、失望しました。
必要がないのなら、わたしが生み出された理由は何だ。
「わたしは、神様から愛されていないのではないか?」
奇しくも『運命の輪』と真逆の発想に至りました。]
[ 神様を、箱庭を愛するがゆえに積み重ねてきた
丁寧な暮らしが荒れるようになりました。
箱庭の何処かで諍いが起こっても
知らぬ存ぜぬを貫きました。
昼夜は逆転し、好きなだけ酒を煽り、殻に閉じこもり
美しかった紅い翼はぼさぼさになってしまいました。
そんな情けない自分を誰にも見られたくなくて
『隠者』には特別見られたくなくて
もしも『隠者』が自分の元を訪ねてきてくれても
ひとりにしてほしい、と拒んでしまいました。
そんなある日のことでした。
『悪魔』が、『愚者』を殺しました。
どんなに諍いが続いても殺し合いに発展することはないと
『節制』は心の何処かで油断していました。
だからこそ見て見ぬふりをしていました。
──取り返しのつかないことが起きてしまった。
わたしが間に入ったとて
止められはしなかったかもしれない。
だが、『愚者』の死は防げたのではないか? ]
[ 自責の念に駆られた『節制』は我に返りました。
神様が愛した、穏やかな箱庭を取り戻すために。
混乱に陥った箱庭を鎮めようと
『節制』は、再び諍いを仲介し始めました。
そのうちに誰かが刃を持ち出しました。]
──いけません
わたしたちがわたしたち同士で
傷付け合ってはなりません……!!
[『節制』は仲立ちを試みながら
どうにかして刃を奪い取ろうとしました。
力任せに奪い取ろうとしたその弾みで
『節制』の身体は場外へと投げ出され、
掌の中の刃は──── ]**
[ ひとりきりの恋人たち。
胸の証はとある楽園の模倣。
蛇の奸計で林檎を口にし追放された者たちの烙印。
その意に破綻をも内包するそれは、
夢を見なければ生きられない程に、
最初から完璧ではなかった証。 ]
[ 知っていた。識っていた。
完璧な器に完璧な魂。
それでも足りないのです。
足りないと思ってしまうのです。
或る日神に問いました。
「どうしてわたしたちを完璧に作ってくれなかったの」
造物主は答えます。
「そのままのおまえを愛している」と ]
[ 『恋人』が何をしたとて何を思うとて、
永遠の不完全に絶望し身を投げたとて、
正気の果てに箱庭の全てと心中したとて、
何をしても愛しいのだとその瞳は告げるのでしょう。 ]
──── ああ、反吐が出る。
自分で作った可哀想な人形を愛でるその目が煩わしい。
わたしたちが欲しいのはそれじゃない。
[ 『悪魔』の愛は禁断の果実でした。
そこにあり、魅力的で、どうしても欲しいと思うのに、
手を伸ばせばその愛は終わってしまうのです。
わたしたち、ふたりでひとつの完璧な存在。
だのにこの身の外に抱いた愛に気付いた時、
『恋人』の『完璧』は永遠に失われてしまう。
だから見ないようにしました。
『完璧』であるならば、『悪魔』は愛してくれる。
何故、と思えば問うたことはありませんでした。
向かい合うことを避けていたようにも思います。
心で想うことだけは、この心だけは自由だ、などと、
そんな都合のよい夢を揺蕩っていたかったのです。 ]
[ だから、箱庭の黄昏を招いたのが『悪魔』だとしても
それは構いませんでした。
愛とは許しで、愛とは受容で、
愛とは存在を肯定するものだと信じていたからです。
彼がどれだけ血に染まろうと罪に塗れようと、
望むものを得る道なら何がどうなろうと構わない。
わたしたちの終わりですら──
きっと完璧なまま終わらせてくれると信じたから、
どうでもいいと思えたのです。
彼が真に求めるものが何であったかさえ、
知ろうとしないままに。 ]
[ けれど、狂気のままの精神は擦り切れる寸前でした。
生まれた時から『完璧』ではないと知りながら、
それでも『完璧』を偽り生き続けるのは地獄でした。
だから、それは確かに救いだったのです ]
── ねえ、『悪魔』。
こんな最期を少しくらいは惜しんでくれるかな?
わたしたちも少し残念だ。
最期だなんて言わず、
最初に殺してもらえばよかったかな、なんて。
ああ、でも。
きみに浮かぶ失望の色を見ることがなくてよかった。
きみの愛を失う前に、死ねてよかった。
[ そうして瞼を下ろします。
そこには音もなくただ優しく広がる夜がありました。
『恋人』はその不本意な死にも関わらず、
眠るように穏やかな顔をしていました。 ]
[ そうして『完璧』を守り通して死んだのです
それこそが彼への、彼/彼女の愛の体現なのでした ]
[ けれど神様、それでもわたしは
この世界の生きとし生けるものすべてを
あいしているのです
あなたのことも、
──あいしていたのです
]
[『正義』と『力』は
殺し合いの末、相討ちとなった。
一進一退の攻防
互いに満身創痍、そうして果ての、最期。
『力』の最期の一撃は、
『正義』の心臓を、静かに鋭く貫いた。
『正義』は『力』に抱きしめられた、
その事に気づいてはいたが、
それを振り払うことができなかった。
否……したくなかった。
『正義』の唇が戦慄いて、
何かを吐き出そうとした……が、
その何かは形にならず、代わりに鮮血が溢れる。
『正義』の手から、愛剣が滑り落ち、
からんと軽い音を立てた。
けれど『正義』が剣から手を話した時には、
やっぱり既に“ 手遅れ ”だったのだ。
『正義』は息絶えた………
『力』を道連れにして。]
[ 『ありがとう』
止めてくれて
『ごめん』
道連れにして
────鮮血が覆い隠した言葉たち]
[ だって、『太陽』の死は、事故だったのだから。 ]
[『嫉妬してるとハッキリ言うなんて、キミもやるじゃないか。
別に悔しくはないよ』
そんな声が聞こえた、気がした*]
[ 愛したものを理不尽に叩き壊された。
それが他でもない彼女自身の手であったから、
もはや責めることさえもできなかった。
仮にそうはならなかったとして、遠からず
『正義』や『教皇』の手が下っていたのかもしれない。
けれど、けれどそれでも、
誤りも罪も罰も背負ってでも
きみが生きてさえいてくれれば僕はそれでよかったのだと
―― 狂おしいほどの恋を水底に沈めて
考えて考えて、行き着いた思考の果てで、
彼女が選択した永遠の闇に救いを求めた。
もうすべて壊れればいいと思った。
もう止まれない僕を誰かに止めてほしかった。
]
[ わたしは教皇にたずねました。
愛とはなにかを。
教皇はこたえてくれました。
いとしいとおもうこころ。
いとしいとはなんでしょう。
わかりません。
けれど ]
この花はうつくしいとかんじます
けんめいに 生きるさまが
朽ちるさいごのすがたまで うつくしい
これが 『 いとしい 』 なのでしょうか
[ わたしがいのれば
この花もまたうつくしくさきほこる
かがやくすがたにもどれるかもしれません。
けれど わたしは
もうおわりをつげようとする そのままを
その 在り方に こころをよせました。 ]
[ わたしにはわかりません。
じゅんすいとは、やさしいとは
どんなもののことを いうのでしょう
わからない――
――どうしてか ときおり
あなたが くるしげなのかも
わたしには わかりませんでした。
あのとき まで *]
*
[ 吊るされた男はいつもわらっています。
となりにすわっているわたしに
ときおりもうしわけなさそうに、わらいます。
――わかりません。
どこかいたいのですか。
くるしいのですか。
たくさんかんがえるあなたは、
やはりわらっていました。
わたしはあなたのそばに はなをそえます。
『 いとしい 』を知ったから。
いつのまにか吊るされた男のまわりは
ひつぎのなかのように
花でいっぱいに なりました。
おせわをやく、ただしいのでしょうか。
――わかりません。 ]
[ ――わかりません。
わたしはどうしたら おだやかなやすらぎを
あなたにも わけることができますか? ]
[ それから。
愚者がころされました。
ひとつのこうきしんによって。
なにもわからなかったわたしのこころに
かなしみがたくさんあふれました。
かなしくて、かなしくて。
ずっとなきつづけて。
吊るされた男はわらっていました。
くるしそうなこえをきいて
わたしはようやく かおをあげます。
わらっています。
くるしそうに。
いつのまにか吊るされた男のまわりに
たくさんあったはずの
花はかれていました。 ]
[ ――いけない。
わたしは、花をさがしにいこうとしました。
ちかごろのあなたは
とてもおもいつめているように みえました。
だから、すこしでも、 ]
え?
[ 吊るされた男が つぶやくことばを
りかいするまえに
そのくびもとからは あかいちが
あふれだしました。 ]
[ それでも
それでも あなたは わらっていました。 ]
[ どうして どうして どうして
わたしの いのりは とどかないのですか
きのうまで 癒えたはずの きずぐちから
ちをとめることは できないのですか
――わかっています。
わたしはあなたに、ちからを つかっていないから。
いま、きずをとめることはかなうでしょう。
けれど きずがすべていえるまで
あなたはずっとくるしむことに なります。
わたしはそれをかなしいとおもいました。
もう、……もう、いい。
いやです。よくはありません。
あいはんするふたつのおもいをかかえながら
わたしは あなたのあたまを なでるのでしょう。 ]
[ わたしはわらいかたをしりません。
かなしいしか しりません。
だからあなたのまねごとをして
つくったえがおは
とてもふしぜんです。
でもはじめて あなたのために
つくったえがおです。
かなしくて、くるしいとき
わらうのでしよう?
だれもかなしませたくないから
わらうのでしょう? ]
[ 吊られた男のからだから
あたたかなたいおんがなくなるまで。
おわりのおとずれる、そのときまで
死神は ずっと
あたまを なでつづけていました。
ちにぬれても、
うごかなくなっても、
その、さいごまで。
ほほえみは 吊るされた男を
みおろしつづけました。
そのねむりが せめて おだやかであるように
―――さいごまで *]
[ ――――
箱庭崩壊の折、『魔術師』は『箱庭の神』を頼った>2:/12。
けれど何もしてくれなかった神に、
『魔術師』は怒りを覚え、失望し、
そして――見限った。
箱庭崩壊にあたって、神に対し一切の期待をしなくなった。]
[『月』とは多くを語らい、共に過ごす時間も多く
私にとって大切な存在でした。
花壇の薔薇が枯れたと聞けば
共に育てよう、と申し出て手伝いました。
あなたの美しい髪を切るのはとんでもない、と私が洗い
また、逆に私の髪も洗い、梳いていただきましたね。
贈り物も多くいただきました。
それでは私もお礼に、と負けず多くの品を贈りました。
特にハックマナイト入りの銀色の櫛は
あなたに似合うだけでは無く
私が持つタンザナイト入りの銀の聖杖と
お揃いのように見えるので、特段お気に入りでした。
『死神』や『吊るされた男』らとの会話が
“心癒される”一時とすれば
『月』との会話は“心安らぐ”一時でした。]
[ しかし、私は愛を『与える』ことに慣れていても
『与えられる』ことには慣れていなかったのです。
私は勿論、あなたのことを愛していました。
故に、あなたには最後まで
真実と願いを伝えられずにいたのです。
そのか細く美しい手が、血に塗れて欲しく無かった。
優しいあなたに、一生心に残る傷を与えたく無かった。
愛するあなたに、幸せでいて欲しかった。
悲しい思いをして欲しく無かった。
私には、覚悟が足りなかったのです。
今は争っていても、いつかは皆が理解し合い
争いも収束すると思っていました。
この心に這い寄る暗澹たる存在を自覚しながら
目を反らし続けていたのです。
]
…………。
[ 一度思わせぶりをしておきながら
言い淀むのは、確かに私の責任です。
そして悟ったのです。
あなたは私の悩みに、変化に。
既に気付いていたのでしょう。
それでも私を思い、私の為に尽くしてくれる
あなたの命を散らしたくない。]
……もし、私に何かがあった時は
必ず私の分まで生きて下さい。
私の分まで、幸せになって下さい。
[ あなたに託そうとした
私を殺すための短剣も
結局渡せずじまいのまま。
向けた笑顔も、明らかに無理な作り笑いだと
恐らく即座に気付けたことでしょう。]
[ この時が、最後の語らいとなったのです。
────
突然ではありましたが
いつか、この時が来る覚悟は存在していました。]
[ 友情とは、二つの肉体に宿る一つの魂のこと。
物静かで優しく、時に厳しい態度を示しながらも
私を支え、道を示すあなたは、紛れも無く私の半身でした。
魂の半分を喪ったこの時
私自身も同時に死んでいたのでしょう。
残ったのは、ただの壊れた人形でしか無かったのです。
……でも。
もしあの時、あなたに短剣を託し
想いを伝えることが出来ていたとしても
あなたを死なせる考えも
共に逝く考えもありませんでした。
あなたには私の分まで生きて欲しかった。
私の想いを抱いて、私の中で共に。
生きていれば、必ず良いことがあるから、と。
しかし、あなたは私よりも先に散ってしまった。
今となっては、全てがifの妄想。
あの時共に逝けたならば、私が完全に壊れる前に
あなたに救われていたのかもしれませんね。]
[ ……この段階で、既に
私は選択を誤っていたようです。]
[ 余談。
経典に記されている『教皇』は
“デセスパール”という名でも知られています。
この名がどの時代から使われ始めたかは不明ですが
語源としては、遠き国の言葉で
“絶望”
が変化したものとされています。
他に名を持たない者が多い中
彼は何を思い、この名を使い始めたのでしょう?*]
[ わたしの瞳が最期に映したのは
ずっと大切に想っていたあのひとだった。
何もかもが遠ざかる景色の中で
あのひとの青と緑だけが鮮明だった。]
( 泣かないで
どうか かなしまないで
わたしは あなたといられて よかった
あなたのそばに いられて よかった )
[『悪魔』が『恋人』を愛していた理由は、
完璧な彼/彼女が健気で美しかったから。
不完全ゆえの完璧さを孕む様は魅力的で、
蠱惑的で、いっそ無理やり自分のものにすることも
考えなかった訳ではない。
けれど、
考えてもそれは絶対にしなかっただろう。
『恋人』は今のままが一番"自分好み"であったからだ。
彼/彼女がその地獄をおくっていたのもその一因だろう。
その ぎりぎりで、壊れそうで、儚く、
それでも完璧であろうとする姿が
『悪魔』は何よりも好きだった。
愛していた。
勿論その心内の全てを知っていたわけではないが
『悪魔』は『恋人』が自分に靡かないだろう所も、
好ましいと思う箇所だ。
壊れたら取り返しのないものを
つついて遊ぶ。
それは『愚者』を殺した時の感情に似ていた。]
[似ていたけれど、
決定的に違うものはあっただろう。]
[どうせなら自分の手でその完璧を壊したかったけれど。
今までやこの混乱の中で『恋人』の精神が壊れてしまっていたのなら。
それは自分が壊したのも同じこと。
それに…… どうやら彼/彼女は
死ぬまで"それ"を貫いてくれたようだった。
だから直接殺した相手について大きく恨む事はない。
それでも少し羨ましいという気持ちがあったのは本当だけど。
それ故に、
『恋人』が最初に殺してほしいともし言ったとしても、
『悪魔』はそれをすぐに行う事はなかっただろう。
けれど、
ほどよく 適度に 丁寧に 壊して 壊れたら
その時には ── …… ]