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人狼物語 三日月国


203 三月うさぎの不思議なテーブル

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視点:


【人】 店長 アン

あら。
もうこんなにきれいなのが? うれしい。

[馴染みの八百屋さんが持ってきてくれたのは、みずみずしくて太い、きれいなアスパラガス。まだ少し旬には早いけれど、充分おいしそうなしっかり具合。
 それからたけのこ、名残のブロッコリー。春ねえ、なんて思わず呟いて、黒板に乗せてあげようと決める。

 お肉なら今日は、鶏のいいのが入っている。丸鶏で仕入れたから、使いたい子には捌くところから任せて、残った分は部位ごとに分けてしまった。
 魚介はヤリイカがぴかぴかだった。やっぱりこれも、春の味わい。
 走りのマンゴーも合わせて載せて、今日のスペシャリテたちが一揃い*]
(0) 2023/03/07(Tue) 1:09:14
店長 アンは、メモを貼った。
(a0) 2023/03/07(Tue) 1:11:59

メモを貼った。

 ― 白うさぎは混乱中 ―



[ 分かってるのに、ちゃんと聞きたくて嘘をついた。
  そんなちょっとした我儘で零した「勘が良くない」を
  可愛い嘘、なんて言われて大咲は更に混乱する。
  あのもう頭と頬と胸全部が熱くて、砂糖みたいに甘くって
  限度を超えてしまいそうなんです。
  平常心、平常心……と言い聞かせるよう心中で唱えながら
  そういえば、お互いのこと、実はあんまり知らないなと
  気付いたのは 連絡先が差し出されてから。 ]


  ……合意がある場合でも、ナンパって、言いますかね


[ 出来れば、その、ナンパじゃなくて。
  貴方が好きなんですって言うための、…ううん
  私と貴方を知るためのチケットに、なりませんか。

  なんて思いも込めて、掴んだ服。 ]

 

 

  ……〜〜〜!?


[ 駄目です大咲キャパオーバーです助けて店長!!
  いや店長ヘルプしてもらっても解決しませんが!
  「待て」ができなくなるとか可愛いとか
  そんな、これ以上わたしを熱くさせてどうするんですか。

  何かを堪えるように唇を噛む神田と同じくらい
  間抜けなきょとん顔と赤い頬を晒した大咲は
  「終わったらすぐ連絡するのでっ」と言い逃げて
  厨房を抜け、バックヤードへ駆け込み、
  いつの間にか鎮座している新顔を抱きしめた。

  製作者によもや目撃され、可愛いと思われていたり
  貴方の心の中の主張なんか勿論知らぬまま
  白うさぎは落ち着くまで忙しさも忘れ、
  焼きたてパンみたいなふわふわうさぎで心を落ち着けた。* ]

 

 ― うさぎの穴から出た後は、 ―



[ 二連トラブルがあってもうさぎの穴は営業を終えた。
  大咲は爆速で洗い物や後片付け、在庫確認、
  明日のランチ向けの軽い仕込みを手早く済ませる合間。
  店へ個人置きしているタンブラーをひとつ持ち出し
  いつもお客様へ提供するのと全く同じ手間と時間を掛け
  淹れたコーヒーを、タンブラーに注いだりも。 ]


  ごめん皆、クローズ作業終わったからもう帰るね!
  ちょっとあの、大事な用があるんだ!


[ 制服から私服へ着替え終え、鏡で前髪を整えると
  面々に声を掛け、大咲はスカートを翻した。

  黒色のドレープ袖のブラウス、白のマーメイドスカート。
  クリーム色のボアカーディガンを羽織り、
  タンブラーを鞄へ仕舞って、スマホを取り出せば。
  渡された連絡先、…声が聞きたくて電話を選ぶ。 ]

 

 

  あの、……大咲です
  今退勤したから……えっと、会いにいって、いいですか

  すぐ向かう、ので!


[ 神田ブレンドのコーヒーは
  まだまだ寒い春先の夜の中、待ってくれたお礼として。
  在庫ちょっと勝手に使ってごめんね店長!
  人生掛かってるんです、可愛さに免じてゆるして!

  そう。店長やスタッフ達には遠慮も照れもなく
  「大咲かわいいもんね〜」とか言えるのに。
  なんで一人の言葉に、あんなに乱されたのか、とか
  解答欄はとっくに埋まってる。

  きっと通知音に気付いてくれた貴方がいる場所へ
  時計うさぎみたいに慌てて向かえば、
  貴方はどんな顔でそれを迎えてくれただろう。 ]

 

 

  ごめんなさい、お待たせしました、神田さん
  これ……寒かったと思うので、良かったら。

  ……えっと。家の方向、どっちですか?
  私、ここから一駅だけ電車に乗らなきゃで。
  でも終電までまだあるし、明日はシフト無い、ですし。

  ちょっとだけ、ゆっくりめに歩いて、いいですか
  …………顔見ながら、話したい……です。


[ もし話し終えるだけの時間がなければ、電話でも。
  そんなことも頭を過ったけれど
  特別、な貴方には、やっぱり直接聞いて欲しい。

  徒歩圏内に家があると教えて貰えるのなら
  何だったら、近くの公園へ寄り道をしてでも。 ]

 

 

[ どうするかの結論はともかくとして。
  コーヒーは無事に神田の体を温めるには至れたか。
  いつもなら気兼ねなく歩ける見慣れた道も、
  今日ばかりはまるで異世界みたい。 ]


  ……改めてみたいになるんですけど。
  うさぎ、喜んでくれて、ありがとうございました。

  誰かにこの話をするの ……初めてだから
  上手く話したり出来ないかも、しれないですけど。
  聞いてくれますか、──知りたいって言ってくれたこと。


[ 伺うように、瞳を見上げる。
  肯いてくれたなら、今まで誰にも言いたくなかった、
  ──言えなかった過去のことを、貴方に話したい。
  同時に、抱え続けていた夢の、もうひとつも。* ]

 

メモを貼った。

メモを貼った。

[がっついている自分を見せるのが恥ずかしくてつい「ナンパ」なんて言葉で自分の行動を茶化した。
それなのに、ああもう。
「合意」なんて言ってくれちゃって。]


 っは〜〜〜〜〜〜


[外で待つ間、桃色に染まった顔を思い出す。
その顔を見る前にもう、心は彼女のことだけを求めていたけれど。]


 ……ああもう堪んないな。
 落ち着け僕。


[自分が心を向けることであんな表情を見せてくれるのかと思えば、跳ね上がった感情が身体を渦巻いて気を抜いたら叫びだしそうになる。
店の真向い、もう灯りの消えているビルの壁にごちんと頭部をぶつけた。
火照った頬から冷たい壁が体温を奪っていく。]

――通知音――

 はい、神田です。

[退店してから今まで時間はあった筈なのに、余裕なんて全然手に入らなかった。
驚くべき速さで通話ボタンを押し、緊張があからさまな応答をする。]

 向かいのビルにいるよ。
 もう車も殆ど通ってないけど気を付けて。

 
――逢いたい。


[待っていると約束をした自分に「会いに行っていいですか」と言ってくれるものだから、先程まで同じ空間にいたのに胸がきゅうと苦しくなった。

いつもより近くで聞こえる、いつもとは少し違う電話口の声。
同じ条件で自分の声を聞く彼女も同じ胸中でいてくれたらいい。]

[程なく駆けて来た彼女の姿を見つけて片手を挙げる。
嬉しさを隠せない緩み切った表情は、暗がりで真白の瞳にどう映っただろう。]

 お疲れ様。
 忙しかったのに帰り急かしちゃって此方こそごめんね。
 わあありがとう。
 そわそわしちゃって口が乾いてたから助かる。

[タンブラーを受け取って早速蓋を開ける。
すぐに立つ湯気の香りは自分ブレンドだとわかれば、飲む前にもう身体の内側が温かい。]

 私服初めて見た。
 可愛い。
 あーもう僕「可愛い」しか口に出せなくなりそ。
 

[一口飲んで蓋を締め直すと、見かけた時からずっと思っていたことを言わずにはいられなかった。
タンブラーを持ち替えて、片手を差し出す。
んん、と喉を鳴らして心の準備。]

 まだ寒いので、手を繋いでもいいですか?

[自然に繋げる程スマートな男ではないので背伸びをせずに正直に誘います。]


 終電あるないに関わらず送るつもりだけどね。
 一駅くらいなら歩いても帰れるし。
 僕ん家はすぐそこ。高層マンションて訳じゃないからここからは見えないけど。

 じゃあ、ゆっくり歩いて、少し遠回りしようか。

[近所なので土地勘はある。
駅を一度通り過ぎる形で散歩道に。
桜はまだだが梅は綺麗に咲いている。

電車が動いている時間では人通りもある程度あって、歩きながらでは真剣な話は難しいか。
その先にある公園のベンチまで、歩幅を合わせて二人で。

今日の料理の感想を改めて喋ったりしながら。]


 こっち来たことある?
 今は草しかないけど、5月の前くらいになったら藤棚が綺麗だよ。

 うーん、草の屋根程度じゃまだ寒いかな。
 これ使って。

[モバイルプリンターも入る大きなリュックには、仕事先の椅子が冷たかった時に使う携帯用座布団が入っている。
バッテリーを接続してスイッチを入れれば、程なく温かくなる筈だ。

外のベンチで綺麗なスカートが汚れるのも嫌だしね!と強調したから、自分がベタにスカート好きの男だということはバレるかもしれない。**]

 

[ 数コールどころか、覚悟の間もなく音速で通話が始まる。
  ナンパだと茶化した真意なんて知らない大咲は
  「緊張しているのはお互い様なのかな」なんて考えて、
  第一声に微かに咲いながら。 ]


  ……私も、逢いたいです 待っててください


[ 待ってるって、約束してくれた。
  それは理由や場所は違えども、これで二度目。

  通話が切れ、はふ、と知らずのうちに息を吐く。
  胸が苦しくて、でもそれは嫌な息苦しさじゃなくって、
  そわそわするような 込み上げてくるような。
  貴方もそんな胸中だったかな。…そうならいいな。 ]

 

 

[ そうして駆け寄った先、片手を挙げる彼の姿。
  夜の暗がりでも分かる緩み切った表情に滲む色。
  直視すると照れてしまうと分かっているのに、
  目を逸らすことは 出来なかった。
  急かしてごめんと謝られれば、気にしないで、と笑いかけ
  タンブラーを手渡して。

  落ち着いていたはずの心がまた爆発した。 ]


  か、かわい、ぃ ……です……?
  ……ぅ。
  神田さんにかわいいって言ってもらえるの、嬉しい、けど
  …………照れちゃう、ので……控えめで……。


[ 言わないで、とは言いたくないけど。
  ああ今日もっと可愛い私服で来るんだった。そんな矛盾。
  服の好みが知りたい。彼の好きなタイプのことも。

  高野といつだったか交えていた気になる人談義、
  こっそり、こっそり、大咲は聞いていたけれど
  結局収穫は得られないままだったから。 ]
 

 

  ……ッはい。
  私も、手。……繋ぎたい、です


[ 正直な誘いには、頬を赤らめながら
  きゅう、と柔く彼の手を握った。
  スマートに自然に繋がれたら、慣れてるのかな、とか
  そんな風に少し、もやもやしてしまったかもしれない。
  だから。聞いてくれて良かった。 ]


  え。でも、一駅分送ってもらうなんて、申し訳ないです
  お家が近くなら余計に。
  営業後の仕込みで終電逃した時も歩いて帰ってますし…


[ そう。この業界は帰宅が遅いのだ。
  寒空の中待たせた上に一駅も送らせるのは、と思えども
  けれど「じゃあ後日」とはなれなかった。

  彼が進むまま、駅を一度通り過ぎ、
  梅が春を報せる道を不意に眺めながら。
  歩幅を合わせてくれているだろう彼に甘えつつ、
  穏やかに語らいながら、公園のベンチまで。 ]
 

 

  いえ、普段出勤ルートしか歩かないので……
  良いですね、藤棚。見たいな。
  いつもお店のことばっかり考えて、花の移り変わりとか
  ……そういえばろくに見てなかったかも……


[ 問いには首を横へ振り、春の訪れを想いながら。
  春夏秋冬の彩りを楽しむことを、こうして教えてもらって。
  背負っている大きなリュックから取り出された、
  温かさを与えてくれる携帯用の座布団に目を瞬かせ。 ]


  …良いんですか? ありがとうございます。
  …………ふふ、スカート、好きなんですね?


[ 遅れて耳へ訪った強調は流石に察するものがある。
  大咲も好きで制服にスカートを選んでいる。
  お揃い、だ。
  少し揶揄うように笑い、それからそっと、息を吐く。 ]
 

 

[ 神田が横に座れば、大咲はぽつりと口を開く。
  強調された言葉によるスカート好きの露呈により
  僅かに緊張は緩んだけれど、無くなったわけでもない。 ]


  んー……どこから話せばいいかな。
  ちょっと話すの下手でも、許してください。

  私ね、母子家庭で。
  物心ついた時からお母さんしかいなくて、多忙な人で。
  机の上に毎朝置かれてるお金で生活してたんです。


[ 何の仕事をしているのかも、良く知らない。
  ただお金は置かれ続けていたから何となく
  多忙な人なんだと思っているだけ。 ]

 

 

  で、小学校の……高学年くらいのころだったかな
  お母さんが作れないくらい忙しいならと思って
  興味もあったし、料理し始めたのが切欠でした。
  美澄くんのおばあさんがやってたお店。
  あそこで食べたあったかいご飯が美味しくて。
 
  大事な人と、一緒にご飯食べたいなぁって、
  ……そんな思いも、ちょっとだけ。


[ まあ最初は悲惨でしたけどねぇ、と茶化した。
  重い空気にしてしまうのも嫌で
  別に、それ自体を引きずっているわけでもなくて。 ]


  毎日作った料理を置いておくんです。
  そしたら朝起きて、一口も食べられないまま残ってて、
  でもお金は毎朝置かれてて。


[ 嫌いな食材も知らない。アレルギーでもあるのかも。
  そんな風に思いながら、そんなわけないと知っていて
  何年も。 ]
 

 

  高校一年の母の日に、初めて、ケーキを作ったんです
  周りに何を言われても、お母さんは
  お金をかけて私を育ててくれたから。
  お礼のつもりで、これなら食べてくれるかなって。


  そしたら、……次の日、捨てられちゃってたんですよね
  料理は捨てずに残すだけだったのに、
  わざわざ捨てるくらい迷惑だったんだ、と思って。

  私がお菓子を渡すの、迷惑だって思っちゃうのは
  ずーっとそれを引きずってるだけなんです。


[ 寒々しい筈なのに、不思議と寒くないのは
  彼が用意してくれた温かい座布団のおかげでもあり
  きっと繋がれたままの、手の温もりがあったから。
  「いやー、そっからは数年荒れましたねえ」と言って
  えへ、といつもと変わらぬ笑みを浮かべた。 ]

 

 


  でもやっぱり、料理が好きなんです。
  だから生まれ変わるつもりで、今のお店に頭下げましたね
  作ったものを食べてくれるだけで十分嬉しいし、
  喜んでくれたらもっと楽しい。

  美味しいって言ってくれる人はいっぱいいるけど
  神田さんは特に、幸せプラスとか、色んな感想とか
  "また私のクッキーが食べたい"……とか。
  ……多分、神田さんにとっては何気ない言葉でも
  私にはなにより欲しかった特別をくれました。

  勝手に救われた気になってたんです、……重いですけど。


[ 一回だけ作ったのは、ここでなら、と思えたから。
  でもやっぱり怖くて一歩下がり直してしまったとも。
  知って欲しくて話す時間は随分長く感じたけれど
  まだ告げたいことは、ひとつあるのだ。 ]

 

 

  私、お母さんのことは恨んだり嫌いじゃないです。
  育ててくれたのは本当だから。

  正直まだ、お菓子…特にケーキを作るのは怖いです。
  ……でも、いつかもし、大事な…特別な人ができたら
  いつか作っていきたいって、ずっと、思ってて。

  あの。…………あの、ですね


[ 言い淀む。
  けれど"言わずに後悔した"過去が大咲の背中を押した。
  どんな顔で聞いているか、怖くて見れずにいた神田の方を
  恐る恐る見上げて、髪を揺らして。 ]

 

 


  神田さんのこと、好きです。
  ……お客様としてとか、そういうのじゃ、なくて。

  いつか特別な人に作りたいと思ってたケーキ、
  神田さんが、食べてくれませんか。
  他の、まだ作れないお菓子も全部、一番最初に。

  後、あと、……一緒にご飯も食べたいです。


[ だから、"勘の良くない"私に、
  どうか頷いて 答えを教えては、くれませんか。** ]


 


 僕は出来ない約束はしない主義なんだ。

[これは「かわいい」を控え目に、というお願いに対してだけれど。
これまでやこれから自分が結ぶ約束は、「できる」と確信しているものだという意味も籠っている。]

 諦めて。
 多分これ控え目になる日は来ないから。

[けらけらと笑う。
揶揄っている訳ではない。]

 ああでも、誰か周りにいたら我慢しなきゃいけないな。
 そんな可愛い顔、僕以外に見せたくない。

[我慢なんて出来るだろうか。
まだまだ知らないことはたくさんあって、知る度に「可愛い」が勝手に口から零れてしまうくらい、既に真白でいっぱいなのに。

――ほらまた。
肯定するだけじゃなくて、恥ずかしがりながらちゃんと「自分も」と伝えてくれるところが、自分は――]

 この手が僕の幸せをつくってくれるんだよなぁ。
 特に大きい方じゃない僕の手でも包めるくらいの大きさで、いつも。
 ふふ、あったかい。
 あったまり過ぎて手汗かいたらごめんね?

[予防線を張っておくのを忘れない。
既にじわりと滲みそうなのを止める術は持っていない。]


 僕ができるだけ長く一緒にいたいからだよ。
 登山が好きだから歩くのは全然苦じゃないの。
 ああそう、車も仕事で必要だから持ってるんだけど。
 次、仕事で終電逃した〜って時は呼んでよ。
 駆けつけさせて。

[ぎゅっと手を握った。
今まで夜に一人で彼女が歩いている時に何かが起きなくて良かった。]

 そうそう、勿体ぶる訳じゃないけど、
 仕事の話は後でね。

 藤棚は咲きそろったらまた見に来よう。
 夏になったら小学校がひまわりの鉢植えずらーって並べるし、
 秋は老人会の人が焼き芋焼いてお裾分けくれたりもする。
 この冬に大人げなく中学生と雪合戦して負けたから次は別の楽しみ方考えてるとこ。

[公園に着くまでの会話は、浮かれているからか自分の方が饒舌だった。
尤もいつもお喋りだから、目立たなかったかもしれないが。

彼女のスカートが好きだというのがバレて指摘されたら照れて少し唇を尖らせて。]

 スカートだけじゃなくて、その如何にも女の子って感じのデザインのブラウスも、モコモコの上も好みだよ。

[と白状した。
それを彼女が着ているから余計好きになりそう、とも。]

[ベンチに並んで座っても、繋いだ手は解かないまま。
荷物を下ろして、タンブラーは横に置いて。
彼女が気持ちを整えるのを待つ。]


 ホントに嬉しかったからね。
 僕も改めて、ありがとう。


[改めて礼を言われれば、礼を返す
前置きをする彼女の瞳をしっかり見つめて「うん」と返した。]


 全部聞かせて。
 順番もマシロちゃんが話したいようにで大丈夫。


[「初めて」。
あんなに仲の良いうさぎ達にも話さなかった、話せなかったこと。
知りたいと踏み込んだ覚悟は繋いだ手にもう片方の手を重ねさせる。]


 ――うん。

[それから始まった打ち明け話。
最初は彼女の家庭環境から。

料理を始めたきっかけを知ると「へえ」と眉を上げ、自分の記憶にもある店の話題に店主の笑顔を思い出しては目を細めた。
小学生の真白が悪戦苦闘をして料理を作る様子を想像して、茶化す言葉には「うんうん」と頷いた。]


 ――っ、


[ああそれなのに。
想像だけで可愛さいじらしさに頬が緩んでしまうのに、彼女のやさしい気持ちのこもった料理は。
話の腰を折りたくなくて堪えたが、上向いていた唇は下がり、眉根に皺が寄る。]


 
は?!
 え。


[だが、母の日のエピソードは、それよりもなお悲しい記憶だった。
堪え切れずに険のある声が零れ、聞いた内容を反芻した。

彼女がお菓子を作るのに勇気が必要だった理由。
技術的に全く問題がないのに、「迷惑」と口にして恐れてしまう理由。

 (なんだそれ。なんだよ。)

荒れましたね、なんてさらっと言う彼女の笑顔がいつも通りで、「数年」を折り畳むことにした彼女の苦労を思う。
生まれ変わるつもりで白うさぎとなって、たくさんの料理で人を笑顔にしながら、彼女はずっと高校1年生の自分を背負っていたのだ。]


 っ、


[僕は、と思わず口を挟みそうになったが話はまだ終わっていなかった。
彼女が「恨んでいない」と言ったところで自分はもう今後彼女の母親を許せはしない。

「いつかもし」なんて聞いたら、そのポジションは自分にと身を乗り出して、今度は間違いようのない言葉で自分の想いを告げようとした。
恐る恐る見上げてくる瞳を見つめて口を開きかけ、]



 っっ!!


[ひゅっと空気の音が鳴る。

言いかけた言葉の前に重ねていた方の手が離れて彼女の肩に触れ、繋いだ手はぐい、と強く引く。
彼我の間にカメラがあることはすっかり頭から抜けていた。
唐突に転んだ時でさえ、絶対に話さなかったカメラの存在を忘れる瞬間がくるなんて、とは後から思い返して驚いたこと。]


 
好きだよ!


[近くに人がいるかどうかも見えていない。
抱き寄せた彼女の耳に届く鼓動に負けない大きさの声ではっきり言う。]


 あー先に言わせちゃった。
 カッコつかないなぁ。

 ……好きだよ。
 マシロちゃんが。
 知りたい、手を繋ぎたい、抱き締めて独り占めしたい。
 そーいう意味で。


[そっと体勢を戻した。
ここは外だし、固いカメラが身体を圧迫する痛みもあるから。]



 一番に食べたいし、マシロちゃんが作り慣れてお店で出すことが平気になっても食べたい。
 聞き飽きるくらい「おいしい」って言うから覚悟しといて。

 いつか、マシロちゃんにとってお菓子をつくることで思う記憶が全部僕になればいいって思ってる。


[強引に引き寄せたから彼女の前髪は乱れてしまったかもしれない。
そうでなくても肩から離した手は吸い寄せられるように髪にそっと触れた。]


 一緒に「いただきます」と「ごちそうさま」をしようね。
 後、僕結構自炊する方だから僕の料理も食べてほしいし、一緒に作ったりもしたい。


[お金しかくれないのにそれを「育てる」と評して、理由も知らされないまま料理おもいを否定されても「恨んでいない」と言う程求める彼女の母親にはなれないけれど。
タイムマシーンに乗って、辛かった時の彼女の頭を撫でることも出来ないけれど。

傍に居たい。
傍にいるのは自分でありたい。]


 話してくれてありがとう。
 僕は普通の家庭で育ったし、親に対して何かしてあげようみたいなやさしさを持ってないから否定された経験もない。
 マシロちゃんのお母さんが食べなかった理由も考え付かないし、正直部外者だけど「ふざけんな」ってムカついた。

 ……「わかるよ」って安易に言えない自分のうっすい人間性が嫌になる。

 けど。
 
 マシロちゃんに一番幸せにしてもらえるのは僕だって自信だけはあるよ。
 僕が君のことで幸せになることを喜んでくれるなら、マシロちゃんを一番幸せに出来るのも僕なんじゃないかなぁ?


[たくさんの料理を評してきたライターの割に語彙が貧困だと言われればぐうの音も出ないが、気持ちのままに。]



 ……どういうとこが好きか、言ってもいい?


[疲れているなら別の機会にするけど、と前置いて。**]

メモを貼った。

 

[ 
大咲もしかして死んでしまうのでは……?

  お願いは華麗に躱され、けらけら笑う神田の方を
  桃色うさぎに改名した方が良いような頬の色で
  うぅ、と見つめるしか出来なかった。

  出来ない約束はしない主義 と、いうのは。
  きっと、可愛いを控え目に、以外の意味も込められていて
  これから彼が結んでくれる約束の糸は
  絶対解れたりしないことを 教えてくれているみたい。
  ……みたいじゃなくて、実際そうなのだということに
  気付かないほど、大咲も勘は悪くないが。 ]


  …………見せたくなかったら、隠して、ください。
  その、……神田さんが。


[ 私は「可愛い」以外にも、貴方がくれるもの全てを
  きっと頬を染めて受け止めてしまうので。 ]
 

 

[ 自分も繋ぎたいと紡いで重なった掌が温かいのは、
  きっとお互いに緊張と、跳ねる心臓が脈打つせいだ。
  彼から齎される言葉のどれもが大咲の心を揺らすから、
  張られた予防線に垣間見える緊張は寧ろ有難くて。

  どうにかいつものように軽口を叩く……より早く
  ぎゅっと強く手を握られ、急速に頬に熱が集まった ]


  ……ん、と。
  私も出来るだけ長く一緒にいたい、です。
  だから 今日は……ううん、これからも
  お言葉に甘えたいし、甘えます、けど

  次の日予定があったり、体調が悪い時とかは
  絶対無理して応えようとは、しないでくださいね。


[ 迷惑じゃ、なんて言葉は彼の心配を助長させてしまう。
  でもここだけは譲れませんから、と。
  代わりに終電後、ひとりで帰る時は歩くのをやめて
  タクシーなり何なり、安全な帰宅方法を選ぼうか。 ]
 

 

[ ちゃっかり「登山好き」は頭の中にメモして
  神田さんフォルダへ丁寧に保存しておこう。
  一緒に藤棚を見に来ようという未来の約束に、頬を緩め
  「はい」としっかり頷いて。
  饒舌なお喋り内容は、ふふ、と楽し気に笑って聞いていた。
  中学生と雪合戦して負けたなんて、可愛いな。
  じゃあ次は私と雪うさぎ対決しましょうよ、とか。
  そんな返事をしながら。 ]


  ……こ、これ以上喜ばせてどうするんですか、ほんと…


[ 困ってないけど、困ってしまう。恋は矛盾だらけだ。
  これから可愛い服を買うのに更に時間をかけてしまうし
  常に貴方のかわいい、を更新できる自分でいたい。

  そんな時間を経て、ベンチに座って。
  優しい言葉に背中を押され
  大咲は初めて、お菓子作りを厭う理由を語っていく。
  重なったもう片方の掌が、心の雪を解かしていく。 ]

 

 

[ ご飯を食べてくれなかった話の時は。
  横で何かを堪えたのを、話しながらでも感じていた。
  話を途切れさせないようにという配慮を有難く受け取り
  しかし、ケーキの話はやっぱり、
  隣から穏やかでない色を含んだ声が零れ落ちてくる。

  だから食前には言いたくなかったのだ。
  こんな話を聞いた後に、彼だけのうさぎのクッキーをなんて
  もし同情でも覚えさせたらと思うと、言えなかった。
  ……料理の味を変えてしまうというのも勿論だけれど。

  優しい人だ。他愛なく人を喜ばせることができる人。
  大咲なりの恋の向け方は、多分、隠し通せてはいなくても
  それゆえに、あの時語ろうとしなかった。
  もし彼が他に想う人がいたとして、大咲の過去の話が
  邪魔してしまったらどうしよう──と。

  料理人としての自己肯定感は高くても。
  ひとりの大咲真白を肯定するには、
  あの日のケーキがどうしても傷痕になっていて。 ]

 

 

[ 恋ってもっと、甘くて穏やかで優しいことばかりだと
  そんな風に考えていたけど、現実は全く違う。
  好きだから辛くて、好きだから出来なくて、
  恋しているから、何故か過去の傷をまた掘り返して。

  全部知って欲しい。全部知りたい。
  私以外とじゃなくても幸せでいてほしいとも思えるのに
  でもやっぱりその時傍にいるのは、私がいい。


  ──好きだと告げた瞬間、彼の片手が肩へ触れ
  驚く間もなく繋がったままの手を強く引かれて
  勢いのまま、大咲は彼の胸元へ抱き寄せられた。 ]

 

 

  ────……っ、


[ 大咲の心音に負けないくらいの大きな声だった。
  咄嗟に、いつも大事にしてるカメラがあることを思い出し、
  けれど見開かれたままの目と言葉を紡げない唇は
  そのことを指摘する余裕もない。
  遅れて気付いた彼がそっと体を離すのに
  「あ、」とどこか名残惜し気な声だけが零れ落ちる。 ]


  ………… ……  は、じめて、です
  今まで、お弁当がないこととか授業参観とか……
  三者面談に来てくれないこと、とか
  そういうのから察して、かわいそうって
  言われたことはいっぱい、あった、けど


[ 彼は、母に怒ってくれたという。
  かわいそうじゃなくて、あの日の、母に。 ]

 

 

  ……怒ってくれたのが、嬉しいです
  私には、怒りたくても怒る権利は無いって思ってて
  お母さんにとって邪魔だって、……知りたくなかったから
  捨てたことをなんでって問い質したとして、

  最悪の未来を、考えたくなかったから……


[ だから、嫌いじゃない。恨んでない。
  でも、好きってわけでも、ない。
  触れ合わないのが私からの、せめてもの優しさだった。

  好きになった人が、あの日の自分の代わりに
  ふざけんなと言うくらい怒ってくれる。
  それだけでまた彼に救われて、紡ぐ声はひどく掠れて、
  「薄い人間性」なんて言葉には強く首を横へ振った。 ]

 

 

  全部、神田さんとしたいことばっかりです。
  ご飯もケーキも他のお菓子も食べて欲しいし、
  神田さんのご飯も、一緒に、食べたい。
  一緒に作るのも、きっと楽しいだろうなって思います。

  今まで知らなかったこと、全部知りたいし
  ……私だけの、神田さんになって、ほし ぃ …し


  お互いを一番幸せに出来るって、信じたい。
  ……ううん。一番幸せにするって、約束します、私。


[ 語彙なんか、私の方が滅茶苦茶だ。
  でも今は気持ちの儘に喋って、伝えたいことを伝えて
  貴方と一緒に未来だけ、見ていきたい。

  いつか作るお菓子の記憶が全部、ぜんぶ、
  貴方の笑顔になるように。
  作って差し出す時の、私の笑顔に、なれるように。 ]
 

 


  話したいと思わせてくれたのも
  受け止めてくれたのも、ありがとうございます。

  ……神田さんの恋人にしてください。
  うさぎの穴は例外、ですけど
  神田さんを独り占めさせてほしい、です。


[ カッコつかなくていいんですよ。
  ずっとそんな、照れさせられてばっかりだと
  いずれ溶けてしまいそうなので。

  私だって、好きなんですから
  言わせてください。恋は先手必勝です。 ]

 

 


  えっ。



[ いやあの、疲れてはいないんですが。
  でも照れずに受け止められる自信が全くないというか
  聞きたい気持ちと、聞いたら心が爆発する自信があって

  ……あの、複雑な乙女心という言葉の意味、
  私、ちゃんと今、心の底から理解した気がします! ]


 

 


  ………… ぁの。
  私、恥ずかしがると、逃げる癖が……ありまし、て……

  ……捕まえておいて、くれますか……


[ でも、聞きたいんです。
  貴方が好きになってくれた私のこと。

  そしたら私、自分のことを
  大事に出来るようになる気がするから。* ]

 

メモを貼った。

メモを貼った。

 ― 白うさぎの幕間閑話 ―



[ 早退の夜から二日後に戻って来た速崎は、しかし
  翌日から更に数日、今度は普通に体調不良で欠勤した。
  新しいアリスブルーのうさぎ店員はまだまだ慣れぬ身、
  大咲は急遽シフトを増やし、休日を出勤日にしたりして
  どうにかこうにかうさぎの穴を連携プレーで回した。
  神田とは、夜の退勤後、共に帰る夜もあっただろうか。

 
けいちゃんマジ今度こそツラ貸しとけ〜!?

  ……とは、まあ、体調不良者には思うまい。
  営業後に店裏へ呼び出してタイマンしても良いのだが
  あの時の後姿を思い出すと、どうしても。
  コーヒー豆をそのまま噛んだ後のような気持ちになる。

  "かわいそう"で傷付いたのは、栗栖と速崎だ。
  勝手にそこへ大咲の過去が付いてきただけ。
  零してしまった「なんで」の話し合いは、…未だ。
 
(あ、お土産はちゃっかり食べました。ええ。
美味しかったけど、けいちゃんどこ帰ってたん…?)
* ]

 

 ― アスパラガスの日に ―



[ 漸く得た夜シフトのみの日だった。
  ああ〜夕方からの出勤最高……とかなんとか思いながら
  既に仕込みや準備をする瑞野にそのテンションのまま
  (あの日の視線の先を思い出したのもあり)
  スマホ片手に、MVを見せに行くくらいにはご機嫌だった ]


  瑞野さん、見てくださいよこれ〜っ
  最近友達から送られてきて、ずっと聞いて …て…?


[ そんな他愛ない雑談、の、つもりが。
  予想外の反応に「これは…………」と勘付き
  "本当にヒーローなんだ"という言葉と、クレジット。
  大咲は大変に偉いので、深くは突っ込まなかったが ]

 

 

  (…………ふふ、瑞野さんも、そんな顔するんだ?)


[ あーあ、高野さんってば勿体ない。
  こんな瑞野さんを見れないなんて。
  でもこれは"うさぎの特権"の一種類なので。

  何だか遠くないうちに彼のものになってしまうような
  妙な確信めいた予感もあるからこそ。
  お兄ちゃんみたいな先輩スタッフの横顔を
  微笑ましく見守るに留めました。偉いでしょ〜?* ]

 

[明確な告白の前に、これからも「可愛い」と言う宣言をしたり、終電を逃したら送っていくと申し出たり、随分と厚かましく「彼氏面」をする自分に対し、彼女から返ってくるのは嫌悪でも固辞でもない。
親に甘えることなく育ってきたという成育歴はこの時点では聞いていなかったが、甘え方まで絶妙に可愛いものだから、何度も唇を内側に巻き込んで堪える羽目になった。
本当に隠せる場所ならともかく、ここはまだ彼女の店からほど近い路上なので。]

 頑張りはするけど無理はしないよ勿論。
 仕事を疎かにするやつがきちんと仕事をしてる人の横に立つなんて恥ずかしいし、
 体調不良で無理してうつすのも嫌だし、長引いて会えない日が出来るのも嫌だし。

 でも言っとくけど、僕の仕事はかなり融通が利くものだし、
 身体もすごい丈夫だからね?

[これは守れる約束だ。
自分が彼女の夜道を心配するように、彼女が自分の健康やスケジュールの心配をする権利を持っていてほしい。]

[明かされた話は、自分の人生において似た経験がないものだから、「同じ気持ち」になることはできない。
本当の意味で共感できないことを、耳障りの良い言葉で表現しても嘘になりそうで。
だから彼女の心を救える適切な言葉を探し出せない不甲斐ない自分を正直に晒した。
彼女自身が嫌いになれないと言う母親に怒っていることを隠さなかった。]


 「かわいそう」が言える人は「持ってる側」だよね。
 僕が使うのは「こんなおいしいものが嫌い?かわいそう!」みたいな時だけど。


[その言葉、さっきも聞いたような、と過ったが、食事に夢中だった時に流れた言葉だとは思い至らない。]


 マシロちゃんは、蔑ろにされたことを怒って良いと思うけど。
 
 ……そうか。
 甘え方がわかんないくらい放っておかれたから、
 怒っても「大丈夫」って思えないんだ。

 ああもうなんで!
 なんでこんな、
 
 ……僕の好きな子を傷つけたなって、怒鳴り込んでやりたい。

[呻くように低く呟く。]

[今度は衝動に駆られたスピードではなくゆっくりと引き寄せる。]


 好きだよ。


[切実な響きを耳元に落とした。
彼女が甘えを預けられる場所になりたいという願いを込めて。

約束で自分はまた更に幸せになれる。]


 うん。
 「うさぎの穴は例外」ってちゃんと言えるところも好きだよ。
 マシロちゃんが料理とお店を好きなの、ずっと見て来たからね。

 恋人。うん。
 
――ああ、

   ……「もう離さない」って、こういう時に出てくる言葉なんだなぁ。

[高野の真似をして自分には似合わないと笑った言葉がこんなにしっくり来る日が来ようとは。
実感が籠った言葉は、あの時よりは客観的に笑えるものになってはいないと思うけれど。]


 はは、かーわぃ、
 そうだね、ぴょんって背中向けるの得意だよね。
 
 僕は力もそんなに強い訳じゃないけど、この手は絶対離さない。


[抱擁を解いた。
抱き締めていたら表情が見られないのが惜しいから。*]

メモを貼った。

メモを貼った。


 僕はね、印象に残りにくい子どもだったんだ。

 教室の一軍でも、逆にはみ出し者でもなく、体つきも成績も至って普通。
 さっきも言ったけど、家もサラリーマンの父とパートの母と3人家族で、仲が悪い訳でもなければ比べられる兄弟もいない。
 マンガだと最終回になっても名前が判明しないモブみたいな。

 平凡な人生ってね、笑顔になることがないんだよ。
 テレビ観ても「面白い」がわかんない。
 友達はいたからそれなりに学校生活は送れてたんだろうけど、僕自身にも中学までの思い出って特になくて。

[語り始めたのは自分のつまらない半生。
ドラマティックな出来事がまるでないから、食事の肴にもならない。
だから、あれだけ店に通っていても、きっと誰も知らない。]

 中学何年生だったかの時にスマホを買ってもらって写真を撮り始めて気づいたんだ。
 「カメラを向けたら人って笑うんだ」って。
 そんなことを中学生になるまで知らなかった自分にぞっとした。


 で、笑顔を学ぶ為に写真を撮り始めたんだ。
 ポートレート専門じゃなくてグルメ専門になったのはね、
 「おいしい」って思ったら自分でも笑顔になってる気がしたからだよ。
 おいしいものを食べてたら笑顔になれるって思ったら、
 今度はおいしいもの探しの方にハマっちゃって。

 こりゃあ普通高校に行ってる場合じゃないなって、写真を専門的に学べるコースがある通信制にしたんだ。
 在学中にバイトで始めたグルメ記事が割と評判になって、今ではフリーのグルメライターです。
 SNSでごはん日記もつけてて、そっちの名義でもPR記事とか手掛けて商品もらったりもしてる。

[時間に融通が利く仕事で、それなりに収入があるというネタバラシ。]


 うさぎで仕事のことを言ってなかったのは、完全プライベートで行き始めて気にいっちゃったから、
 「これがいつか記事になるかも」って思われて提供されるのは悲しいなぁと思って。
 同時に、記事にしたらそれなりの反響があるって予想できるから、宝物を見せたくないって気持ちもあって。

[その独占欲は知恵に語ったのと同じだ。]

 まー、今となっては高野さんとかさ、貝沢さんみたいな――ああ後一人声優さんがいるけどこれは内緒かな、所謂「ギョーカイ人」がいるからね、ますます記事にはしないんだけど。

 SNSに前にシャミちゃんのもう一個のお仕事の紹介を偶然知らずに紹介しちゃったことがあって、リアクションかなりついてたから、SNSにも載せない。

 だからあの店に行くのはこれからもただの「神田」だよ。

[苦い後悔の話はまだ本人にはしていない。
彼女を多忙に陥らせた罪滅ぼしが出来る日もいまだ取り置き中だ。]


 前置きが長くなったけど。

 笑顔がよくわからないモブの神田くんは、あの店で自然に「幸せ」ってことを実感したんだ。
 初めは料理が美味しいからだって思ってて、それは勿論そうなんだけどね。

[じっと彼女を見た。
見ていると口角が自然に緩む。
今の自分は、「笑顔がわからない」なんて決して言わない。]


 マシロちゃんが笑ってて、
 マシロちゃんの料理で僕じゃない人もみんな笑顔になってて、
 「楽しんでほしい」って気持ちを聞いた時にね、「ああそっかぁ」って。

 あの日マシロちゃんに言った「幸せプラス」って表現ね、
 ずっと考えてたりどこかで使った言葉じゃなくて、あの場で自然に出た言葉なんだよ。

 僕を幸せにしてくれるのはマシロちゃんなんだって、思った。
 ただの客に過ぎない奴が店員さんに対して思うには重すぎるけど、これが君を意識した最初。

 最初のうさぎクッキーの写真を撮ったのは確かに習慣だけど、
 「また食べたい」って気持ちになったのは、無意識でも既に君が僕を幸せにしてくれるって本能で感じてたからなんだ。

 「ナンパじゃない」って言いながら写真を渡したのは、何気ない行動じゃないよ。
 喜んで欲しいって、顔を思い浮かべながらプリントしました。

[先程は口をはさめなかった、自分の行動の裏側にある気持ち。
あれがきっかけで彼女が自分を意識してくれたのなら、あの時既に好きだったのだと言いたくて。]


 料理に対して謙遜しないところが好きです。
 仲間の料理を人前で得意げに話すところも好きです。
 誉め言葉を否定しないで、照れてても一旦受け止めてくれるところも、
 それを聞いてどういう気持ちか素直にきちんと伝えてくれるところも、

 料理だけじゃない、マシロちゃんの存在自体が僕を幸せにしてくれてる。

 今言語化できるのがこれくらいなのが悔しいけど、
 もっともーっとある君の好きなとこは、
 これからずっと傍で聞いていて。


 好きだよ、マシロちゃん。
 「マシロちゃんの」料理が食べたい。お菓子が食べたい。

 僕を好きになってくれてありがとう。

[よく聞こえる白うさぎの耳は、全部を聞いてくれただろうか。
思いの丈を離せば随分と長話になってしまった。
「送るよ」と促して、先に立ち上がろう。*]

メモを貼った。

店長 アンは、メモを貼った。
(a44) 2023/03/07(Tue) 23:00:16

メモを貼った。

――牛しゃぶの話――

[店名を見れば、またランチのラインナップを見れば、この店は洋食屋さんなのだろうなと判断する一見さんも多くいるだろう。
だが自分は知っている。
望めばそれに必要な具材がない時以外は和食も作ってくれることを。

日本人の中にこの色嫌いなやついる?いねーよなあ!
とばかりの鍋つゆの色。
先に入れられた大根には出汁の味がしっかりと浸みている。

甘い白ネギ、シャキシャキの水菜、傘でたっぷり煮汁を抱えられるしいたけ、どれも好きな野菜だ。]


 はわわ……見てこのレースみたいな牛肉……
 まさにアート……ナギちゃん天才……


[菜箸が思わず震えた。
薄さを確かめるように、兄弟たちに掲げて見せる。]


 これをしゃぶ、しゃぶ、しゃぶ、 ……と、


[自分の取り皿にそっと置き、箸を持ち帰る。
まずは肉だけを口に入れ、「ほどける〜〜」と震えた。

それから野菜を巻いて。

青ネギと、生姜とをかけて。

最後に細切れしか残らなかった鍋つゆにご飯を入れて卵雑炊にしてもらったのを、3人で競うように食べた。]

[また3人で、或いは高野も入れて4人で、楽しく鍋をつつきたい。
そんなことを呑気に思い返したのは、浮かれた帰り道の翌日のこと。**]

メモを貼った。

 

[ 母親を嫌いになれないから、誰かに怒って欲しかった。
  大咲が言えないこと、癒えない傷を肯定されたくて。
  だから自分を救うために綺麗な言葉を並べるのではなく
  思っていることを吐き出すその誠実さが、好き、だ。 ]


  ……持ってる、側
  そうですね、……だから私、傷付いたのかも


[ 同じ世界にいたいのに、違う場所へ落とされたみたいで。
  持ってないと、なにか駄目なことが、あるのかなって。

  呻くように低く呟く貴方の方が、
  今はよっぽど、私よりも痛いような声音をしている。
  速崎へ零した"なんで"や、話し合いも、
  大咲はタイマンと言いつつ本当に怒る気はなかった。

  怒って、相手を失うのが怖いから。
  ……けれど、貴方が私の代わりに痛がってくれて
  こんな風に怒りを露にしてくれた、それだけで。
  過去の私が、泣き止んでいくような気がするんです。 ]

 

 

[ 緩やかに引き寄せられて、耳元で囁き落ちる言葉。
  そこには好意を伝える以上の切実な声色が満ちていて、
  ああ、甘えて良いんだと、思えた。

  甘え方はまだ手探りで、何もかも生まれたての迷子みたい。
  でもそこに貴方がいてくれるのなら
  私は、私のままでちゃんと、立っていられる。 ]


  ……うさぎの穴は例外って分かってくれる、
  ううん。同じ気持ちでいてくれる、神田さんが好きです

  ────それ、高野さんのMV……見ましたよね?


[ あの日ふざけて言い合っていた言葉。
  宛先が私だったら良いのにな、って思いながら聞いていた。
  揶揄うようになんとか声を返したけれど
  離さないで、ちゃんと、捕まえていて欲しいのです。
  ……白うさぎは脱兎が得意なので。

  体温が離れても、手の温もりは繋がれたまま。 ]

 

 

[ それから語られるのは、まず、貴方自身のこと。
  店員とお客様という立場の時は聞けなかった話だ。
 知りたくて、識りたくて、じっと貴方を見つめながら
  私は聞いていることを示すように頷きも時折挟む。

  父親と母親がいて。平凡な人生。
  大咲にはドラマ越しでしか知らない想像の世界。
  けれど、貴方のことなら何でも教えて欲しくって。
  "平凡な人生は笑顔になることがない"なんて
  そんな言葉に、ぽかん、と口を開けたりもしたかな。

  ……普通の人に憧れたことも、あったけれど
  彼らには彼らなりの悩みや人生や景色があるんだ。
  些細な、でも大事なこと。うん、と頷いた。 ]

 

 

  …………、


[ 写真が趣味の人なんだろうな、という大咲の認識は
  ここで大きくひっくり返されることになる。
  笑顔を学ぶため。
  常に楽し気にしているお店の貴方しか知らないから
  そんな理由も、想像なんて、していなくて。

  美味しいものを食べたら笑顔になるという言葉には
  「分かります」とばかり、瞳を輝かせた。
  フリーのグルメライター。SNSのご飯日記。
  だから昼夜問わず店へ来れて、融通も効くと言ったのか。

  ひとつひとつ、パズルのピースが嵌るような気持ちだ。
  他の誰でもない 特別な貴方 のこと
  耳に入る言葉はどれも新鮮で、知れることがうれしくて
  カメラを向けなくても、貴方がいるだけで笑えるんだ、と
  示すように私は自然と咲っていた。 ]

 

 

[ ──うさぎの穴を秘密にしている理由も。
  それだけ私が愛しているあの場所を、
  貴方も大事に想ってくれていることが分かるばかり。
  何故か業界人も多いとなればその配慮は有難い。

  …そういえばシャミ先輩、最近忙しそうだったな、と
  体調不良の理由を知っている大咲は
  シャミちゃんの、という話題で不意に思い出したけれど。

  そこは当人同士、或いは本人が糸を解くところだろう。
  故に察するに留め、ただの神田だよ、と言う彼に ]


  ────はい。


[ 勿論です、としっかり声を返した。 ]

 

 

[ じっと見つめられるなら、視線はそらさない。
  ……それ自体は結構大きな一歩なんですが、その、
  笑顔が分からない人の頬のゆるみ方じゃないですし
  そんな風に咲う理由も、あの、……自惚れでないなら。 ]


  ────── ……  っ


[ 聞かせてくださいと言った身で。
  愛されることに慣れない心は、降り注ぐ言葉に閾値を超え
  うさぎの目と同じように顔も耳も赤くした。

  「ナンパされても歓迎ですよ」なんて
  写真を貰った時、冗談めかして返したのを思い出す。
  あーあ、これ全然脈無しだ、と寧ろ思っていたのに
  ……私のこと。想ってくれてたんだ、とか。 ]

 

 


  ……あの時、ナンパして欲しかったんです、ほんとは
  今それ言うの、恥ずかしい…ですけど。
  神田さんの笑顔が好きだったから。
  高野さんと話してたこと、気にしちゃうくらい

  私を幸せプラスって言って幸せにしてくれた
  神田さんの笑顔も言葉も、全部、

  ────神田さんが好きです。わたし。
  今は、あの、……照れちゃって
  ぜんぜん……上手く言えないですけど

  隣で言い続けるから、神田さんからも、聞きたいです
  ……神田さんが好きでいてくれるなら
  私も、私のこと、ちゃんと大事にしたい。出来ます。


[ きゅ、と私から貴方を今度は抱き締めた。
  赤くなった顔も、感情が波打って潤んだ瞳も、
  隠すことなく体温を分かち合って。 ]

 

 

  はい。神田さん。
  "神田さんに"、全部全部、食べて欲しいです。

  ────そんなの、こっちのセリフですよ。
  好きになってくれてありがとうございます。
  ……好きを教えてくれたのも。


[ 初恋なんですよ、これ、と打ち明ければ
  全部ちゃーんと聞き届けた白うさぎの目に
  貴方はどんな顔で映っていたかな。

  へにゃへにゃ頬を緩める私は、春に浮かれたうさぎの顔
  先に立ち上がる貴方へ合わせて
  「送ってください」と頷き。

  そのまま、手を繋いで 穏やかな夜の帰り路
  春の訪れを感じながら、一緒に、帰りましょう。** ]

 

メモを貼った。

[その傷を負うのは自分ではない。
これは彼女の痛みとは比べてはいけない程身勝手なものだ。

「傷ついた」と明かせる相手はこれまでにいたのだろうか。
一人で痛がっていたのかもしれないと思うと堪らなくなる。

腕の中に閉じ込めた真白がこれ以上誰かに傷つけられないように守りたい。
現実的にどんなに不可能であっても、そう思うばかりで。

高野とのやり取りではピンと来ていなかった台詞がストンと腑に落ちた。]



 バレたか。
 マシロちゃんも知ってたんだねアレ。
 あの時はまだ片想いだったからね、僕が真似しても浮いてたけど。
 今なら実感籠って言えるから。

 あんなにいい声じゃないけど、
 マシロちゃんにとって「こっち」を本物にして。

 「もう離さない」

 白うさぎの時間が終わったら、後は全部僕の。

[真白も見ていたなら、あの時は彼にドキドキしていたのかもしれないが。
本歌取りしてしまえとばかり真剣に想いを込めて告げた。]

[取り立てて面白みのない生い立ちは、苦労した人から見れば腹立たしいものかもしれない。
そんな思い込みや勝手な引け目でこれまで語っては来なかった。

お喋りなようでいて、その9割は料理の感想を言っているだけの男。
中身は随分つまらないと自分では思っている。

そんな話でも、彼女は静かに聞いてくれた。
自分のプロフィールをこんな顔で聞いてくれる子がいるなんて思わなかった。++66
その社会的立場は置いておきたいという我儘には、相槌だけではなくきちんと言葉で約束してくれた。

話しているのは自分なのに、たくさんの彼女の情報を自分がプレゼントして貰っている感覚。
想いはたくさんあるのに言葉にできるのはほんの一部。

自称「勘が良くない」君でも間違いようがないくらい、
「愛しい」っていう笑顔ができるのは他ならない君のおかげだと――

どうやら伝わっていたらしい。]


 耳まで真っ赤なの、ほんっと可愛い。


[ほら、言うのを控えたりなんて出来ない。]


 ええー全然気づいてなかった。
 「信用してる」みたいに言われたから、僕は君にとって「男」って思われてないんだな〜って内心ちょっとしょんぼりしてたよ。

 白うさぎさんの耳は、特に僕に対して感度が良好だったんだ?

[店内の注文や要望をよく聞いているから、耳が良いのは誰に対してもだと思っていたが、自分が自分の注文以外が向かう先に自然と視線を向けてしまっていたように、彼女もこっそり此方を気にしてくれていたという事実。
嬉しさに緩みっぱなしの口元が逆に真顔に戻れなかったらどうしようかと思うくらい。]

 じゃあこれからはずっと大事にできるね。

[もう離すつもりなんてないから。]

[真白の腕が背に回る。
預けられた体温が心地好い。

「これ以上ない」

そんな熱に浮かされて言葉を紡いでいけば、とんでもないものが返って来た。]


 っ!
 それは反則でしょう……。

 僕が幸せになることで、君に好きを教えてあげられた?
 ああもう、すごい殺し文句だ!

 初恋を僕がもらっちゃっていいの?
 絶対返さないよ!


[耳が熱い。
彼女を揶揄えない程に自分も今真っ赤になっている自信がある。]

[送ろうか、と立ち上がったのは、時間がもう遅いというのもあるけれど、
これ以上彼女の可愛さを摂取したら過剰摂取で倒れてしまいそうだと思ったからだ。]

夜は更け、人はよりまばらに。
彼女さえ体力が残っていれば徒歩で帰路につく。]

[公園から見える位置にあるマンションの5階が神田家。
一人暮らし、実家は他県。
客用布団もあるから、仕事帰りに体調が悪くなったら使って。

25歳、誕生日は冬。もう過ぎた。
A型。ご存じの通り身長も体重も顔も声もすべて平均的。

たくさん食べても太らないのは、健康で新陳代謝が活発なのと、多分趣味が登山だから。

今まで好きな色を聞かれたら、美味しい食べ物が多い「茶色」と答えていたけれど]

 ちょっと前から白が特別になったよ。

[車検ついでに秋に車を買い替えた。
前は何も考えずに黒に乗っていたけれど、どうしても白から目が離せなかった。

そんなことをつらつら話して。]


 休みって何してる?
  ――これはデート計画に関わってくるからね、好きなこといっぱい聞かせて。
 インドア?アウトドアもいけちゃう方?

[あまり質問攻めにしたくはないと思っていたけれど、しつこかったかもしれない。
この夜が最後ではなく、店でだって色々聞けるのに、「また今度でいいや」と自制できなくて。

明日は休みだと聞いたが、月にどのくらい休みがあるのか、とか。
旅行に行くとしたら休みは取れそう?とか。

一駅、ゆっくり歩いた筈なのに、あっという間に着いてしまって別れ際。]


 そうそう、さっき言えなかったけど。
 「全部全部、食べて欲しい」っていう言葉はね、
 ちょっとこう、一瞬別の意味に捉えちゃったよ、って懺悔しとくね。

 話の流れでご飯っていうのはわかっててもね!

 ……すけべ心があるっていうのは、憶えといて。

 
じゃ!おやすみ!


[顔を隠すように手を振って、踵を返す。
初恋だと言う彼女のペースに合わせるつもりだけれど。
信頼される男でいたいけれど。

ああ、Madam March Hareで理性に聞く料理を注文しなきゃ!**]

メモを貼った。

 

[ 一緒に痛がってくれるのが嬉しい、なんて言ったら
  貴方は果たしてどんな顔をするのだろう。
  同情でも何でもなく、あの日の傷を肯定してくれること。
  例え立場が違っていても その想いは確かでしょう?

  これから先、二度と傷付かないなんてことはきっとなくて
  でもその代わりに私の隣には貴方がいるし
  貴方の傍にも私がいる。
  ──守られるばかりじゃなく、一緒に、どんな痛みも傷も
  向き合っていきたいな …そう思えた。
  うさぎだって、いざという時はやるんですよ。 ]


  ……私が一番好きな声は、神田さんの声、ですよ
  だから、その
  …………あんまりドキドキさせないでください……


[  真剣な声音が本気なんだと教えてくれる。
  そろそろ本気で担当カラーを桃色にするべきか。 ]

 

 

[ 好きな人のことなら、どんな人生でも聞いてみたい。
  寧ろ貴方が私みたいな道を歩いていなくて良かった、と
  そんな風に想うのは 大咲のエゴだけれど。
  「取り立てて面白みのない生い立ち」と思っているなら
  今から私が色を付ける余地が幾らでもあるということ。

  カメラを向けなくても美味しいものがなくても
  目の前に貴方がいれば、私は自然と咲えるんですよ。
  ……なんて、それはきっと、未来で示していける筈。 ]


  ────……ぁぅ、……。


[ かわいくないです、と言葉を否定したくはなくて
  でもいつものように肯定で茶化せもしない。
  形にならない声が零れ、赤い耳を隠しかけるけれど。 ]

 

 

  ……だ、だって、脈無しだと思ってたんです
  ナンパでも歓迎ってうっかり言っちゃって、
  どう返せば気まずくならないかなって、その……

  信用してたのも、本心ですし……


[ 「言わないでください……」といよいよ顔を覆った。
  気になってつい貴方の声を聴いてしまうし、
  常に探していたのも事実であるだけに。
  本人から指摘が来ると、ほんとにもう、居た堪れない。
  恋は盲目という先人の偉大な言葉が頭を過る。

  正直、遠い世界の、違う感情なんだとさえ思っていた。
  誰かを好きになる。その人に好きになってもらう。
  ──どうやって? 抱えた答えは出ないまま。
  一生縁がないなと思っていたのに、
  気付けば林檎が落ちるように恋へ転がって。 ]

 

 

  返されても、受け取りません。
  私の初恋、ちゃんと、最後の恋にしてください

  ──わたしも、好きでいて貰えるように頑張る、ので。


[ 抱き締めた体温は春先の夜に負けない熱さで、
  お互い耳まで赤い、そんな一幕。

  帰ろうかという提案の真意は知らずとも
  これ以上可愛いを言われると死んでしまいそうなので
  私の命も無事に救出されましたよ、お揃いですね? ]

 

 

[ 帰り路では色々な話をした。
  お店にいる間は聞くに聞けないプライベート。

  一人暮らしはお揃いです。一駅先、女性向け物件。
  実家は……まだ同じ場所にあるのか分からない。
  23歳。誕生日は冬なのも、お揃い。
  何型なんだろう。教えて貰ったことはなかった。
  155cm、体重はトップシークレットです。女の子の秘密。

  あと、好きな色は白です。名前が真白だから。
  ──神田さんは? と聞けば ]


  ……ず、るぃ ひと、ですね……


[ そんな不意の、会心の一撃。
  一生勝てそうにないんですが、どうしましょう、神さま。
  脱兎しなくなっただけ大咲偉いと思いませんか。
  代わりに、きゅ、と手を繋ぐ。 ]

 

 

  休みの日は……んー。
  新しい服とか、仕事の時は使えないけど可愛いコスメとか
  買い物に行くことが多い、ですね。
  あ、流行りの曲を聞くのも好きです。

  好きなこと──料理とかわいいものと、後
  これは今日気付いた好きなこと、なんですけど
  好きな人のことをいっぱい知るのが、好きです。


[ だからインドアもアウトドアも両刀です。
  しつこいなんて全然思わなくて、寧ろ質問は嬉しくて。
  友達はいるけど、荒れていた頃の子ばかりだから
  遊びに出かけたこともあんまりないです。

  だからいっぱい教えてください。
  新しく出来た好きなこと、教え続けるので。
  そんな風に笑いながら。 ]

 

 

[ 月のお休みは大体これくらいです、と教えたシフト。
  多分、世間一般の会社員よりもぎゅうぎゅう詰めで
  欠勤が出たら増やすこともままあるけれども
  一人で家にいるよりは、と入れすぎた節もあり。

  今後はちゃんと出来る範囲で調整しますと宣言して
  旅行にいくとすれば、なんて未来予想図には ]


  ──取ります! 絶対!
  ……長くても三日とか、四日が限界、かもですけど


[ せめて新しい人が増えてくれたらなぁ。
  という期待は、意図せずして直近にて叶うことになるが。

  一駅分。いつもと変わらない距離のはずなのに。
  ゆっくり歩いても、どうして短く感じるんだろう。 ]

 

 


   ………………  ……   ぇ、


[ 固まった。
  一瞬別の意味。全部食べて欲しい。べつのいみ。
  ご飯以外? ええと、つまり、し、したごころ?
  ふと頭を過る、カウンター席、男性陣の恋愛話


  ち、ちが、ちがうんですいえちがうこともないんですが
  そんな そんな ……あの、その、
  確かに言われてみれば、主語が抜け落ちているような
  その意味を理解出来ないほどお子様ではない、ので。 ]

 

 

[ 顔を隠すように手を振り踵を返す貴方の服を掴み、
  迷路みたいにぐるぐる回転する頭で導いた答えは。 ]


  あ、あのっ、 ぃ……いやじゃ、ないです
  だから懺悔とか、しなくてよくて…

  ……おぼえておく、ので
  いやじゃないことも、憶えておいて、ください


  じゃああの今度こそおやすみなさい!!!


[ 何言ってるんですか私。何口走ってるんですかわたし!?
  引き留めてまで言いたいことも要領を得ないくせに
  白うさぎは脱兎を決め、家の中へ駆け込んだ。

  ずるずるその場へ座り込むと、まっかな顔を覆って ]
 

 

[ 真白と書いて、ましろだから、白が好き。
  でも白色ってね 何色にも染まっちゃうんですよ


     ──いつか遠くないうちに
     貴方の色に、染めてほしい です。* ]


 

店長 アンは、メモを貼った。
(a71) 2023/03/08(Wed) 20:04:18

 ― アスパラガスの日にて ―



[ 速崎と話し合おう、と大咲は思っていた。
  連日何かと慌ただしく、思うように顔も合わせられず
  ようやく被った出勤日。
  仕込みの用意や時間が奇跡のすれ違いを見せ、
  結局大咲はここまで声どころか挨拶も交わせないまま。
  何かに空回るような速崎を見てしまえば

  勝手に傷付いただけの大咲が、声を掛ける余地もない。 ]


  (……ど、どう、どうしよ)


[ そうこうしているうちに衝撃の告白が聞こえ
  結局あの日以来、礼も言えていない葉月が来店し
  「なんでもない日」ではなくなった一日の幕開け。 ]

 

 

  …………けいちゃん



[ 大咲に出来ることは、ない。
  恋の実が色付かずに落ちる瞬間を見聞きしてしまっても
  今この場の大咲は、幸せと美味しいご飯の、白うさぎ。

  なんで、と零した先日の自分を思い出す。
  過去なんかひとつも教えなかったくせして
  どのツラ下げて傷付いたとか言えるんだろう。

  でもこの三年、一緒に笑い合って料理をして
  あの記憶と日々が全部、壊れてしまう気がしたんだ。
  ──けれど、言い切らずに話し合おうとする速崎は
  クッキーを作った日の記憶と、どこか、重なる。 ]
 

 

[ その時すでに神田は店内にいたか。
  或いは幸か不幸か、この騒動を知らないか。

  今日のうさぎの穴はなんだか、少しだけ苦しい空気。
  それでも営業は閉店時間まで終わらない。
  大咲は過日のように動揺を露にすることなく
  しかし今日ばかりは空気になるしかないと気配を消した ]


  (なんかもう、感情も考えもぐちゃぐちゃだけど
   私はやっぱり けいちゃんと終わりたくないな)


[ だって、信じたいってあの時確かに、思ったから。
 ────だから今は見守りもせず
  本人たちにとって良い結末へ向かえるよう祈るだけ。 ]

 

 


[ 貴方が来店のベルを鳴らすなら、
  「いらっしゃいませ!」といつものように明るく笑って。
  それとも貴方が既に、うさぎの穴へいたのなら
  お仕事中の白うさぎは、自然な動きで
  貴方の声を拾うため 近くへ移動することになる* ]


 

メモを貼った。

[下心を見せれば、怯えさせてしまうかな、とは少し思っていた。
けれど零しておかないと、いつか爆発して傷つけてしまいそうで。

「全部食べて」に違う意味がないことがわかっていても、
下心のある男にはそう響いてしまうことがあるから気を付けなよ、と警戒を促す意図も込めて。

居た堪れなさに逃げ出そうとしたら、逃げ足の速い白うさぎさんは捕まえるのも上手だった。]


 っくぅ……
 君は、本当にもう……
 ずっるぃ、


[今日一顔が赤くなったと思う。
降参。オーバーキルです。
早速勝ってるよ]



 忘れらんなくなるでしょ!


[「いやじゃない」と繰り返された。
「憶えておいて」の打ち返し。
そうやって言葉にしてくれるところが好きだから、
今日だけで何度も彼女に堕ちている。]

[繋ぐ手がないことがもう寂しい。
連れて帰るうさぎクッキーを代わりに掌に収める。

住んでるところが女性向け物件で良かった。
実家の場所が曖昧なのは、独立して母親と縁を切ったということか。
2個下。
まだ若いかな、と思う程度には自然と彼女の家族になる自分を思い浮かべている。

相槌を打って、血液型はもしもの時の為に調べておくことを勧めておいた。
刃物も火元もある職場だからね、心配させてほしい。

20cm弱の身長差、声も届きやすい。
体重は何キロでも構わないけど、密かにお姫様抱っこには憧れてるから鍛えておこう。

真白から「白」を選んだのは君。
「白」を見たら「マシロちゃん」に全部繋がるようになったのが僕。

彼女が自分の好みを変えたという話の何が狡いのかその時はよくわからなかった。
別れ際に言うことになるとはね。]

[休日はもっとメイクが濃い?
と少し立ち止まって覗いてみたり。

飲食店勤務だからと好きなことでも控える姿勢を尊敬する。
我慢しなくて良い日に思いっきり「かわいい」マシロちゃんに逢わせて。
それをデートのテーマにしよう。
力は強くないから、買い物の荷物は片手で持てるくらいにして。
片手は繋ぎたいから。

音楽は流行を追う。お揃い。
洋楽にはあまり詳しくない。
カラオケはすごい上手い訳でもすごい下手な訳でもないと思ってる。
この声を好きでいてくれるなら、2割くらい上手く聴こえるのかな。
試すのが楽しみだ。]

[彼女をひとつひとつ知って、自分と過ごす彼女を想像する。
「食べることが好き」以外のプロフィールを知りたい人がいるなんて思ってもみなかったけれど。

 『それもおそろい』
 『好きな子のこと知るの、すっごい好き!』

探せばきっともっとある、「おそろい」。
違っていても、お互いきっとそれを尊重できる。

「つまらなくないかな」って不安にならずに話せる相手がいるっていいね。

まるで恋愛初心者のような口ぶりは、過去の交際ではそれを実感できなかったと伝わるか。]

[横を歩く真白はずっと笑っていて。
自分もずっと笑っていた。

「ナンパでも歓迎」って言われたあの時、お互いが自分が相手の範囲外と思っていたのは今後も折に触れて笑い話になるだろう。
あの時はお互いの本心に気づかなかったのだから、演技は上手くいっていたということか。
これから先は下手になる一方だと思うけれど。]

[最後の恋にして、と言われた。

 「うん。約束する」

と、即答した。

この恋を失ったら、きっともう恋なんて出来ない。
絶望で塗りつぶされて、どこを探しても白が見つからない、そんな世界、耐えられる気がしない。*]

――アスパラガスの日――

[ゲイザーがあの日早退したのは、元からの家庭の事情というところまでは聞いた。
去り際に店内が少し妙な空気になった理由を真白は知っているようだが、恐らくまだ解決には至っていないのだろう。

というのも、教えてもらったシフトを元に何度か来店しても、ゲイザーの姿は店内になかったから。

ゲイザーを気にしているかのような、少し元気のない様子は気になるし、話して楽になることならいくらでも聞くけれど、真白は解決してから話すつもりだろうか。
自分が出来るのは、真白が話したいと思った時に傍にいることだけだ。]

 やあ。空いてる?

[いつもの台詞で店内に入る。
前はこっそり立ち位置を確認していたけれど、もう隠さない。
常連は自分達の関係が変化していることをもう知っているし、新規客がいたら牽制しないといけないので。

自然な動き?
うさぎさんがぴょんと跳ねている幻覚が見えるな?]

[来店したのは少し遅めの時間帯。
一緒に帰りたいと思ったら、前と同じ早目の時間だと食後に席を埋めることになるから。
この店は普段から食事が終わっても急かしたりはしないけれど、彼女の働く店で自分が困った客になるのは避けたい。

その結果、
幸か不幸か三角関係の告白劇は見逃していた。
カウンターには明らかに限度を超えて飲んだと思われる酔客の姿。]

 うーん、今から美味しく食べたいから、
 今日はテーブルにしとこ!

[勿論、彼が決壊してしまうなら、同業者のよしみで介抱するつもりではある。]



 たけのこ!おいしいよね。
 てんぷらがいいな。穂先多めで。

 あとねー、アスパラを鶏肉で巻いたのが食べたい。

 マンゴーはタルトだって?食べないわけがない!

[黒板を見つつ「いつも通り」の声色で意気揚々と注文する。
飲み物はホット烏龍茶にしよう。

ゲイザーがいて、もし今日真白と話をするなら――

遅くなった時に二人共を車で送れるように。*]

 

[ 葉月が速崎を気にしているのは知っていたけれども、
  速崎が栗栖に好意を持っているなんて気付かなかった。
  けれど貝沢も栗栖が好きで、栗栖も満更ではなさそうで
  ……その時点で全員幸せのハッピーエンドは存在しない。
  顛末として、明らかな深酒も気にかけてはいたけれど
  今日ばかりは致し方あるまい、と止めることはなく。

  あの日の妙な空気の理由は、
  気付いていないならまだ教えてはいなかった。
  栗栖の過去を無断で教える羽目になりかねないし
  全部が終わった後、話せるところだけ聞いて貰おう、と ]


  ────あ、神田さん!
  いらっしゃいませ、お好きなお席へどうぞ!


[ それはともかく、貴方の幻覚は実際その通り。
  白うさぎはこの空気感からの寄る辺を見つけ、
  ぱっと笑顔で、ぴょん、と跳ねては彼を迎えた。 ]
 

 

[ この店の、お客様と雑談をしても良し──どころか
  和気藹々とすることが寧ろ持ち味ということもあって
  まあ、変に勘違いをする人も、いないこともない。
  故に彼の牽制は実際功を為しているのだが、
  そちらは大咲が知る由もなかった。
  最近厄介なお客さん減ったなぁ、くらいの気持ちだ。

  少し遅い時間帯の来店の理由には察しがついている。
  てっぺんまで飲む、と決めるような日なら別でも
  夜のご飯を楽しむだけなら時間が余るのは確実で。
  気遣いながら通ってくれる彼の優しさが、うれしい。 ]


  前みたいにカウンターで事故っちゃったら、
  今の葉月さんだと大変ですしね〜?


[ なんて揶揄って、笑い声を一つ。
  その頃には店内も幾分か明るさを取り戻していて、
  ご機嫌な瑞野というレア中のレアまで見た後となれば
  絶対"アレ"じゃん!…と、野次馬しそうになるものの ]
 

 

[ いつも通りの声音、普段と変わらない笑顔。
  連日の出勤と今日も開催された騒動で疲弊した心に、
  恋しい彼の"普段通り"が安心感を与えてくれる。 ]


  はーい、承りました!
  たけのこの天ぷら、穂先多めと……アスパラの鶏肉巻き。
  マンゴータルトはですね、今日、瑞野さんが──


[ 作ったんですよ、と言いかけて、つい。
  やっぱり堪えきれない大咲は、瑞野のいる方を見た。
  何故か新人を息子にしたらしいご機嫌な瑞野。
  私の方が! 先に!
  お兄ちゃんみたいに慕ってたんですけど〜〜!?

  ……とは、言わない。大人なのだ、大咲は。 ]

 

 

  ……なんか瑞野さん、ご機嫌なんですよねー、今日。
  デザート以外は、私が作りますね。
  今なら手が空いててすぐ取り掛かれますし
  ちょっとだけ待っててください。


[ 見詰める大咲の顔は、仕事の為のナチュラルメイク。
  あの日教えた「お休みの日はラメを使うのが好き」という
  些細な、好きなことのひとつ。
  万が一でも料理に入ると困るから、勤務中は使えない。

  でも、私服は可愛いを常に気にするようになった。
  理由は──言わなくても、分かりますよね?

  白うさぎはオーダーを受け、おしぼりと温かい烏龍茶を
  まずは手早く机へお出しして。
  厨房の方に戻っていく。 ]

 

 

[ それにしても、春だなぁと思わんばかりの食材たちだ。
  たけのこの天ぷら。アスパラを鶏肉で巻いたもの。
  となれば前者はあっさりめで、後者には味を足そうか。

  まずはたけのこを手に取り、水洗いを終えれば
  穂先が多めになるよう食べやすい形へ切っていく。
  穂先は柔らかい分、薄く切ってしまうと噛み応えがないから
  厚めに切ることを意識して。

  鍋へ水と切り終えたたけのこ、店の特製めんつゆを入れ
  中火で煮汁が殆どなくなるまでいったん放置。
  ……という工程を一から踏むと時間が掛かってしまうので。
  和食を望まれた時に対応できるよう、
  ある程度は仕込んでおいた。穂先や根元は好みがあるから
  指定があれば選べるよう、きちんと考えて仕込んでいる。

  いや本当、その日の食材に合わせて注文を予想して
  予め仕込んでおいたものが使われると、安心します、ね ]

 

 

[ 仕込んでおいた水煮のたけのこを取り出し、
  器へ移して、残ってある煮汁に浸しながら広げて冷ます。

  待つ間に今度はアスパラ、皮を取り除いた鶏の胸肉。
  後はゴボウ、人参、干ししいたけを用意して
  胸肉に包丁で切り目を入れ、開く。
  塩と料理酒を全体へ振りかけて通るように軽く揉み込み、
  アスパラのかまを取り
  皮を剥いた(削いだともいう)ゴボウと人参を
  ある程度の太さの棒状へ切れば、しっかりと茹でる。

  干ししいたけは水で戻してしっかり水気を切った後、
  半分にカットして。
  開いた鶏肉の上へ茹で冷ましたゴボウ、アスパラ、人参の
  彩り三兄弟を乗せ、タコ糸で巻いて縛った。 ]

 

 

[ フライパンへごま油を引き、
  みりん、醤油、砂糖、料理酒を混ぜたものを用意して。
  天ぷらと一緒に食べても引き立つように、
  気持ち、味を濃く作ろうと、量を調整しつつ。
  先に巻き終えた鶏肉を並べ、転がすように全体へ火を通し
  一度余分な脂をキッチンペーパーで拭き取れば
  混ぜ終えた調味料と一緒に再度フライパンへ移し
  もう一度、今度はシイタケも加えて加熱する。

  粗熱を取る間に、ボウルへ天ぷら粉と水を混ぜ
  たけのこの汁気を軽くペーパーへ吸わせたら
  天ぷら粉へくぐらせ、油でじゅう、と揚げていこう。
  大葉も合わせるかと思い立ち、追加でそれも。

  完成した大葉とたけのこの天ぷらを見栄え良く並べ。
  粗熱も取れた鶏肉を一口サイズに切っていけば、
  中はちゃんと綺麗な市松模様になっていた。 ]

 

 

[ 後は一緒に加熱したシイタケを見栄え良く乗せて、
  いわゆる"八幡巻き"の完成だ。

  ……あ。いえ別に、あの、名前が同じだからとか
  そんな他意は。いや。その。
  無いとは、言わない。
  マンゴータルトは食後だろう、と二皿を手に
  神田の元へ笑顔と一緒に帰っていこう。 ]


  神田さん! お待たせしました!
  ご注文の、たけのこの天ぷらと……その、
  ……鶏肉のアスパラ巻きです!

  タルト、食後にお持ちします ……ご、ごゆっくり!


[ 咄嗟に料理名に詰まって、結局言えないまま
  白うさぎはいつもの癖でぴょんと背中を向け、かけて ]

 

 

[ やっぱりくるんと振り返った白うさぎは
  「あの」と小声で話し掛ける。
  お店の中、今は店員とお客様だと分かっているけれど

  ……ちょっとだけ。
  しんどい気持ちを、約束で、甘やかしてくれませんか。 ]


  
今日、お家に泊まっても、いいですか
体調が悪いとかじゃないんです、けど

……少しだけ。隣で今日は、休みたいです。



[ そんな雰囲気もきっと、
  貴方が牽制したいご新規様の心を折るのだろうな。** ]

 

メモを貼った。


 うーん、葉月さん、何があったんだろ……。
 記事の感想言いたかったんだけどな……。

[そわそわとカウンターを見遣る。
高野が送っていくと言っているので、自分の出番はいらないかもしれない。
昔から存在を認知しているとはいえ、自分は彼の家を知らない。
高野が把握しているのは、やはりあの記事がきっかけだろうか。

自分も見に行った公開録音の様子が端的にまとめられている。
「いつもと同じ穏やかな笑み」という表現が特に、記事を読んでいる「現地未参戦」のファンにとってその様子が一瞬で思い浮かべられるだろうから秀逸だ。

その後のインタビュー部分も、高野の「今」の姿を捉えるものに焦点を絞っていて、過去の栄光を強調したり事故のことを蒸し返したりしない、とても誠実な記事だった。]

 「人」を見るのが上手いんだよなぁ、やっぱ……。

[ないものねだりだが、自分には彼のように人に寄り添う記事は書けない。
共感力が圧倒的に劣っていると思っている。
彼自身は自分への評価が低いけれど、このこの記事のPV数で少しくらい自信を持ったら良いのにな、と思っている。*]

[注文した品が到着するのを待つ間、ぐるりと店内を観察しては見たものの、「何があったか」には思い至らなかった。
葉月の想いも、ゲイザーの心の向きも。

何せ高野と食事を共にした時、高野は沙弥と「いい感じ」に見えていたくらいのポンコツなもので。
ああでも「ご機嫌」な那岐が誰の方向を見ているかというのは――流石にわかる。
なるほど、話したそうな空気は読めていたということか、と一人納得。

ところで秘めた内心は隠したままなのだろうか。
ちょっとヤキモチ焼いてる彼女も見てみたいのだけれど。
それを見た自分がヤキモチを焼くとはわかっていても。]


 わ〜やったー!
 思ってたより早く出て来てびっくりだよ。
 同じ注文の人が前にいたり?

[注文を予想して仕込みをある程度しておくというのを聞いたら、「先見の明!」と小さく拍手した。
アク抜きまでならどの味付けでも転用できるが、天ぷらの下味はなかなか他には使いづらいのではないだろうか。]

 うん。天ぷら、と。

[にこにこ。
視線は、肉巻きの中のごぼうで止まり、彼女のラメのない目元に止まり。
アスパラしか指定していなかったその「中身」に、ごぼうを入れた時点で「わかっている」と思っている。]


 
呼んでくれないの?



[料理名なら、その可愛い声で自分の名前を構成する3文字が聞けるかなと思ったが中々難しいか。
白うさぎが背を向けるなら無理強いはしない。]

[――と、彼女が振り返った。

まだ、「白うさぎ」でいる時間に、彼女の方からこうして至近距離に来ることは珍しい。]


 うん、おいで。


[先程までにこにこと料理名を言わせようとしていた悪戯っぽい笑顔から一転、穏やかに。

理由は今は聞かない。
彼女が自分だけの「マシロちゃん」になってからだ。]



 僕は布団派です。
 来客用は浮かれてついこないだ新調しました。


[隣で過ごそう。

約束をして、冷めない内に料理を頂くことにする。**]

メモを貼った。