人狼物語 三日月国


74 五月うさぎのカーテンコール

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視点:


む。


[生米?生卵── あっ。]


ああ……


[びよんと手を伸ばせば鍋に手が……いや、無理だろう。目算するまでもなく。

頬を両手で手挟んで、唇を重ねた。
今度はリズムを崩して、少し息が上がるくらいの長さ。]

[立ち上がって火を止める。
小鍋をシンクに運んで、流水の下に置いて冷蔵庫を開けさせてもらう。マヨネーズと、バターを一欠片。]


胡椒だけでいいでしょうか。
他に何か入れたいものあります?


[尋ねながら卵を持って、殻にヒビを入れていく。全体が軽く粉砕骨折のようになったら薄皮ごとツルンと剥くだけ。
容器にぽいぽいと入れて、バターとマヨネーズを冷蔵庫に片付けて、]


たこ焼き機のとこ…でなくても、フライパンでもパイは焼けマス。


[卵を崩してサラダにするのはジンさんの隣で、お酒飲みながら。ウィスキーも試してみたい。*]

[図星を指されて、う、と声を詰まらせる。
上目遣いに見つめ返しても見透かされていては、あまり効果はないのかもしれない。

足の指先に触れる手に、ぴくりと足が跳ねる。
薄っすらと残った鼻緒の後を辿られて、くすぐったさだけではない感覚が肌を焼く。
赤裸々な言葉と同時に、指先に痛みが走ったら、]


 ……ッ、……


[漏れ出そうになる声を堪えた。
目線を上げれば、欲を湛えた視線とぶつかる。]



 うん、……
――抱いて、




[誘う声は掠れて、瞼を伏せる。やがて降りてくるキスを待った。*]

ん――

[指摘してすぐ止まる感情の波なら、きっとこうなる前に火を止めていた。
 別れ際の口づけは長く、酒精に蕩けた呼気すら全部相手にあげてしまうような時間。

 重ね合った分、離れがたく。
 立ち上がる姿を追いそうになったけれど、僅かな理性で止めた。
 空虚になった指が、グラスを持つ。空のグラスにワインを注ぎつつ。]

パイにするときにスパイス入れるなら、ベースの卵はシンプルに胡椒だけでもいいんじゃない?
アレンジはその後ってことで。
あ、でもしっかりめに胡椒効かせてほしい。

[最後の一言はただの好み。言うだけ言って、調理は麦に任せよう。
 全体に罅を入れて卵をむく、そんな手付きも見てるだけ。
 人の料理する様子はいい肴。スモークサーモンもうまい。]

戻ろーよ。
いろいろ広げたし、あとここだと狭い。

[卵サラダ作るのを眺めて、酔いを深め。
 ああ、気分がいいなあ。猫のようにうっとりと目を細めた*]

[こんなにも目を伏せた表情が美しい女性を卯田は知らなかった。
冗談でも誇張でもなく。

今すぐ乱暴にしたいくらい興奮すると同時、その美しさにひれ伏したくなる。]


 ん、


[目を閉じている彼女には見えないだろう。
卯田がくちづけながら、薄目で彼女の睫毛が震える様に見惚れているのを。]

[畳みを這うように彼女ごと布団の場所に移動する。
途中で鞄からバスタオルを引っ張り出した。
シーツを汚さない為に。
倒れた鞄から色々零れたが気にしない。
コンドームは今度は意図的に持たなかった。

唾液が零れないように、脱がせるまでは啄むだけのキスを繰り返す。
何度も触れ合うと唇全体が敏感になって、彼女の口唇紋の筋さえ感じ取ってしまいそう、というのは言い過ぎか。

後ろ手で帯の結び目を解く。
「くるくる〜」というのを楽しむ余裕は足湯に流してきた。
はだけた袂から手を差し込んで、膨らみをまさぐる。
変わった形のブラジャーを引き裂くように外せば、カップに収まっていた胸がぷるんと跳ねた。]


 ……この下着……すげーえろいな?


[なんだこの構造、というのは、ブラジャーにだけかかる文ではなく。
指で引っ掛けた紐を解けば、すぐにめくれてしまう布面積の少ない下着のことも指している。
今度こそ濡らさない内に脱がせられるかと、人差し指と中指を重ねてその薄布を前に倒して開け、スリットを探る。**]

はい、じゃあ胡椒しっかり。えい。


[茹で卵の容器の上で胡椒を挽いた。
スパイスと器とグラスとボトルを持って再びお引越し。
ウィスキーも飲んでみたい、と強請る声はふわふあと柔らかい。]

[保冷剤は入れてあったが、バッグの中でパイ生地はややへたれてきている。
もう一度たこ焼き機の上に4箇所ほどパイ生地をセットして。]


広いですね、こっちは。


[広いと言いながら酔っ払い達はくっついている。
クッションは有給休暇ですから。

ひっつき虫になってすりすり。掛け直していたらまた眼鏡を外そうと手は悪戯に動いた。]

[半球型のパイ生地に卵サラダを落とせば、可愛らしいシュウマイのようにも見える。上からスパイスを振りかけて。

それから、空焼きしといて後でチョコを乗せて食べるつもりのスイーツパイも。]


あ、サーモン俺も、もう一枚。


[カマンベールチーズを包んで、もぐ。
ほっぺたが落下の危険、手で押さえてもらおう。*]

[手はふたつだから、グラスとボトルを持ったら埋まってしまう。
 サーモンとオリーブは2往復め。ついでに野菜室開けて、ウイスキーを物色。]

混ぜると酔い回るよ?

[注意はするものの、飲まないとは言っていない。
 チェイサーに使っていたグラスに、ロックアイスをがらがらと。
 タリスカーのキャップを開けて、ワンフィンガーくらい注いだ。
 磯くらいピート香が強く、そして甘い。特に水が入ると一気に柑橘のようなやや苦い甘さが広がる。
 チェイサー片手にロックでゆっくり氷を溶かしながら飲むのが好き、だが。]

舐めるくらい、ゆっくりな。
キツかったら水割りにして飲んで。

[チェイサーグラスはさっきまでのワイングラスにしよう。
 白ワインを一息に飲み干して、カラフェの水で満たした。
 これもそろそろ、新しい水を入れてやるべきか。]

ま、さっきまでが狭すぎたとも言うけどね。

[入れてやるべきかと思ったけれど、一度座るとなかなか立たないのが酔っ払いだ。
 ソファの背もたれに体重預けて、溶けるように重なり合っている。
 眼鏡は移動するからかけていたけれど、外されるなら抵抗しない。]

お好きにどーぞ。
俺にもちょうだい。オリーブ付きで。

[ただ、外されて見えないからって、甘えるようにねだる。
 口を開ければ、ウイスキーに似合いの塩気が得られるか**]

[比べるのもどうかと思うけれど、基依さんはキスが上手い。
チェリーの茎を結ぶように器用に、食んで、啄んで、とろかせていく。

傾れ込むように布団に移動して、彼が用意したバスタオルの上に身を委ねながら、浴衣の帯を解かれている間も慈しむようにキスを幾度も落とされて。
ただ唇を触れ合わせているだけなのに、息が上がった。]


 ……、ン、ン……


[唇の隙間からは甘えるような声が零れて、もっと、とねだるように袂に手を滑らせる。
性急に浴衣の合わせを解かれて、下着を顕にされて。
胸が曝け出されなたら、隠すように手を置いてしまう。]

[落とされた感想に、かあ、と耳朶まで赤く染めて。]


 だって…………
 
脱がされて、みたくて……



[期待した。なんて言ったらどう思われるだろうか。
胸元を隠していた腕は顔元へと移動して、朱を散らした目元を覆い隠す。

彼の手が下腹に移ったら、手伝うように腰を浮かせて。
頼りない紐が解かれてしまえば、武装していたはずの心まで解かれたような気持ちに陥って眉尻を下げてしまう。
恥ずかしい所に指先が触れそうになれば、太腿を擦り合わせて身をくねらせた。*]

……うわ、美味しい


[海の香りのウィスキーが口に入ると、今さっき食べたサーモンの脂が泳ぎ出す。
ゆっくりゆっくり舌の上を転がして、水を含むとぐっと甘い。それにほろ苦い。]


チョコと合いそうです。


[板チョコに塩を振って、がいいかな。でもせっかくチョコパイを準備してるから待とう。
考えながら、スモークサーモンをもう一切れ。オリーブを包んだ。]

どうぞ、ジンさん。


[お口開けて待ってるジンさん可愛くて天災ですね。
スモークサーモンを入れてあげた指で下唇を撫でて、ウィスキーをもうひと舐め。]


酔いが回ったら、寝かしつけてくれますか?


[まだ明るい時間帯だけれども。]



[パイは焦がさないように意識を残しつつ。

ウィスキーと水とジンさんを代わりばんこ。
ちゅ、と触れるのは唇に、口に何か入ってるなら指に、寄りかかるなら瞼に、髪に。
チェイサーは入れているつもりだけど酔いは深まっていく。*]

[ごく、と喉を鳴らす音がやけに大きく聞こえた。
これもまた「見せる為の下着」だったという訳か。]


 ……紫亜といると、新しい扉をいくつ開けるのかって感じだ、


[すげー興奮する、と伝える声は低く獰猛だ。
外した時に一度隠されてしまった胸は、彼女が顔を隠すに合わせて再びまろびでた。
仰向けで流れた横乳の輪郭をなぞるように舌を伸ばした。]

[胸を唇と舌で愛でながら、指は下肢へと。
脱ぐところまでは協力があったが、太ももは閉じられている。
一度身体を離して、紫亜の身体をころんと反転させた。
はだけた浴衣を抜き取って、布団の外へ。]


 足湯の間、ずっと舐めたかったんだよなー


[もう一度彼女を仰向けにすると、右足を持ち上げて。
顔を見ながら親指にくちづけた。
窄めた唇を押し当てて咥内に取り込み、爪の間をちろちろと舐める。

まるでぶどう飴を舐めるかのように。*]



  ……扉?


[きょとりと瞬いて、小首を傾げる。
だが、続く言葉を聞く限り、喜ばせることには成功したようで。
低く響く声に孕んだ色気にくらくらとして胸が高鳴った。

赤い舌がちらりと覗いて、期待に身体が震える。]


 あ、ぁ  ンッ……


[胸に落ちてきた唇に、甘やかな声が漏れる。
為すがままに身体を転がされながら、意味をなくした浴衣は抜き取られてしまって役目を終えた。

足を持ち上げられたら、わ、と眼を丸くしたのも一寸ばかり。
足先に落とされるキスに、ぴくりと足が揺れて。]

 
 ぁ、……やだ、そんなところ……ぁ、 ァッ……


[向けられた視線に気づいたら、くすぐったさだけではない感覚に目を眇めて、ぬるりとした舌が這う気持ちよさに思わず足を引きそうになる。*]

[一生懸命背伸びをする姿だったり、初めて身に着けるものが似合うかくるりと回って見せる仕草だったり、紫亜が見せてくれるものすべてが自分の「性癖」になるから、「扉」。

今ひらいたのは、前にホックがあるブラジャーと、紐で結ぶタイプのショーツを身に着けた姿。
そして足指への刺激に感じる声。

ちゅぶ、ぢゅっ、と態と卑猥な音を立てて吸う。
鼻緒が当たって少し赤くなっている水かきを労わるように舐めて。]

 っはぁ、 ココに、痕残すの、先に俺がしとけば良かった。

[そこから甲に薄っすら伸びる線を下でなぞる。
持ち上げているのは片足だけだから、布団に投げ出したもう片方を蹴り上げれば離してやることは出来るが、腰を引くだけでは逃がしてやれない。
視界の端、露わになった秘所に光る蜜を見つけて目を細めた。]



 「そんなところ」で、感じてる、だろ?
 
濡れてる



[指摘して、にやりと笑うと同時、鼻緒の痕の上書きとばかりに甲を強く吸って歯を立てた。*]

[響く水音が耳を刺激して、ぞくぞくと快感が走っていく。
足先から膝を通って太腿まで。
普段意識しなかった箇所が快楽を引き寄せることに驚いて、足の指先を丸めながら熱い吐息を零した。]


 ン、ぅ……


[鼻緒の後にすら嫉妬する声に、たまらなく胸が締め付けられて。
まだ直接触られてもいないのに秘部が切なく疼きを訴える。

痕がなくて物足りないと思っていたのは自分だけじゃないと知って。]


 ……痕、もっと、つけてほし……


[唇に手をやりながら見下ろして、密やかにおねだりを囁く。]

[感じてしまう声を堪えるように、爪を噛んで。
身体の変化を伝えられたなら、羞恥に視界が滲む。]


 や、言わないでっ…… ァ、んンッ……


[ふる、と首を揺らせば、耳元で蝶が揺れてはらりと髪が解けていく。
伏せた瞳の先、新しく花咲いた痕を見留てぶるりと身を震わせた。*]

[足指の強張りが、彼女の性感を伝えてくる。
足裏でくすぐったさを訴える人は多いが、今の紫亜ならば全部「きもちいい」に変換されてしまうかもしれない。]


 ……外の温泉入れなくなるよ?
 それとも、俺にいっぱい愛されたの、見せびらかしたい?


[これは気遣いではなくただの煽り。
今なら甲に咲いた赤は遠目だと虫刺され程度にしか見えない数だけれど。]

 見えにくい場所につけようか。
 ココ、とか。


[震える内腿にむしゃぶりついた。
少しだけ群れた汗の味がする。
甲よりも大きな華がひとつ、ふたつ。]


 声は抑えないでって、俺は前にも言っただろ?
 爪、せっかく綺麗なんだから噛むなって。


[ふと上を見ると、彼女は乱れる自分を恥じるように唇を指で戒めていた。
ちょいちょいと腕をつついて指摘する。
どこまで頑張れるかは彼女次第ではあるけれど。

内腿から移動した唇は、水源を求めて蠢く。
ひちゃりと音を立てて、とろとろと蜜を零す秘所に舌が纏わりついた。*]

[羞恥を煽るような言葉に、息を吐いて。
甘く爪を噛んで堪えながら、ふるりと睫毛を震わせる。]

 
 みられるのは、はずかしい、けど……
 
……ない、と、淋しい……



[身体に残される痕は彼に愛された証でもあるから。
いつの間にか何もない肌を見返しては、物足りなさを覚えてしまうようになってしまった。
人前で温泉には入れなくなるかもしれないけれど、それよりも今は愛されたい気持ちのほうが勝る。] 

 あ、 やぁ、ン……


[足を開かれて、内腿に華が咲く。
湿り気を帯びた箇所に彼の頭が近づくのを感じて、抵抗するように身じろいだ。
自分でも見られない部分を、彼が覗く行為はあまりにも恥ずかしい。酷く甘い声で指を噛むことを制されたなら、うう、と唸る声を洩らして。
躊躇いが残りつつも唇から指を離していく。

それでもまだ羞恥心には勝てなくて、薄く唇を噛んで声を殺そうとすれば。
あられもない場所に彼の吐息を感じて目を見開いた。]


 
 アッ、やだっ、そこ……っ、
 だめぇ……



[淫猥な音が響いて、くしゃりと顔が歪む。
引き剥がそうとする手は彼の髪を撫ぜるだけで、抵抗は酷く弱い。
思わず内腿で彼の頭を挟み込んでしまって、は、と胸を喘がせた。*]

[上手く抵抗出来ない程に感じているのだろう。
髪を混ぜる手に力はない。
痕をつける動きだった唇は、探り当てた水源に夢中になり暫くは動けそうにない。
次第に激しくなる水音は彼女の蜜かそれともその蜜を欲しがる雄の唾液か。]


 きもち悦い?
 ……膨らんで、美味そ、


[熟れた紅玉を唇で挟み刺激する。
ひとつひとつの動きに紫亜がどんな表情をするのか見逃したくなくて、何度も上を見上げた。

バスタオルを敷いていて正解だった。
彼女の体質か卯田との相性の所為か、とろとろと溢れる量はきっと多い方な気がする。
このまま限界を迎えて弾けても噴いたものを飲む心算はあるけれど、そもそもその段階に行くかどうかは彼女がどこまで預けてくれるかの問題がある訳で。
どこまで許されるのか試したくて、指でフリルを割り開いて粘膜を吸い上げた。*]

そーか、うまいかー。
末恐ろしーね。俺20代前半ではウイスキーうまいと思わなかったよ。

なんか臭いがきついし、アルコールもきついし。

[だからこそいいウイスキーを選んで置いているとはいえ、ファーストコンタクトにピーティなのは人を選びそうだったが。
 これがイケる口なら、舌の好みは似ていそうだ。]

チョコで飲む人、確かにいるね。
バーとかでもよく見る。

ん。

[口腔に感じる塩気に、ウイスキーをひと舐め。
 唇を舌で拭って、ご満悦。
 指先が下唇をくすぐっていたなら、きっとそれごと。]

俺が先に潰れなかったらねぇ。

[口元はもう締まりがないし、滑舌もとろけてきてる。
 シュロプシャーブルーを削り、氷の溶けた表面を吸い取るみたいにぴちゃりとタリスカーを味わう。
 このままぐずぐずと崩れていって、ふたり眠ってしまうのも悪くない。
 パイが焦げる前に、電源だけは切らないと拙いけど。]

麦。

[小鳥がついばむような、子供がじゃれ合うような触れ合いの隙間で、名前を呼んだ。
 視線がこちらに向いたなら、うっとりと目を細めて。]

麦、かわいーねぇ。

[よしよし、と猫にでもするみたいに、わしゃわしゃ髪を撫で回す。
 いーこ、いーこ*]

やだ、つぶれないでー。
潰れたらジンさんのこと寝かしつけますからね。


[指先に触れていった舌に眩暈めいた酔いが回る。
着てきたパーカーはその辺に緩く畳んで置いてたけど、Tシャツ一枚で肌寒さは感じない。

指先がほかほかしていて、お腹があったかくて。
くっついてぐずぐずと、幸福へ溶けていくような酩酊感。]

[麦]


── はぁい


[名前を呼ばれるのが好き。
ずっと扱いに困って定まらないみたいに、宙に浮いていた呼称。

いつもは眼鏡越しにしか見えない目が、とろんと蕩けて微笑んでいる。]


はい。かわいいですかー?
かわいくて好き?


[子供にするみたいに髪をかき乱す手に目を細めた。
されるままに頭を預けて、くっしゃくしゃがぐっしゃぐしゃに。]

[そろそろチェイサー不足。
状態異常「酔っ払い」パーティーは水汲みに立ち上がることができるのか!]



   
ジンさん。



[ウィスキーのグラスを優しく奪い取ってテーブルに置く。
手首の内側をちゅ、と啄んで、手のひらへこめかみをすりすりと擦り付けた。撫でて、の仕草。

脚を持ち上げて、ソファに凭れた体を膝で跨ぐ。背もたれに手をついて、向かい合わせに見下ろした。

そっと体をかがめるようにして、]


……ジンさん、





卵サラダのパイ、焼けました、よ。

食べて?


[とろとろに幸せな笑顔で囁いた*]

[内から溢れ出てくる蜜は止めどなく、ぴちゃぴちゃと響く水音が尚更羞恥を煽られていく。
舌先で弄ぶように摘みを含まれたら、びくんと身体が小さく跳ねて仰け反った。]

 
 は、 ……ん、ぅんッ……
 きもち、ぃ……


[確認する声は甘く、羞恥に浮かされながらも言葉にすることを促されたら抗えず。
こくこくと何度も首を縦に振って頷いて、我慢できずにシーツを掻き乱して身悶えながら。
ふわふわと身体が浮いてる感覚に溺れそうで涙が浮かんで、舌先で割れ目を割り開かれたなら、一際甲高い声が零れた。]


 〜〜〜〜アッ、……だめっ……


[ぶわりと一気に蜜が溢れる感触が自分でも分かる。
短い髪に深く指先を埋めて、熱に浮かされた眸で見上げる視線に訴えた。*]

[自分で「きもちいい」と言わせるのは、その感覚と言葉を彼女自身に紐づけさせるため。
教え込んだ身体は従順にその言葉通りに快感を拾い、どんどん反応を良くしている。]


 ん、いーよ。


[頭皮にかかる痛みが、紫亜の限界を知らせる。
水鉄砲のような勢いで噴いた液体を受け止め、そのまま痙攣が収まるまで唇で蓋をしていた。]



 ……は、 上手、


[せり上がる感覚に抗わずに上手に達したこと。
褒める言葉は彼女に届いていたか。

乱れた髪を撫でつけ、そっと身体を離す。
口元をティッシュで拭くと、備え付けてあった水のペットボトルで口を漱いで飲み込んだ。

このままだとキスの好きな彼女に葛藤を与えてしまうだろうから。
嗽の方が良いかもしれないが、何せその水を吐くには洗面所は少し遠く、今はまだ離れがたい。

紫亜の息が整うまでは、もう少しだけここで撫でていたい。*]

えー、いいよぉ。
寝かしつけて。

[一挙手一投足、笑みの種になる。
 ふわふわふくふく笑って、思考は融けていく。]

麦がしてくれんなら、別に。

[そう、そう言って笑っていた]

[返事があって、それが幸福を助長する。
 クッションでは得られない感情で満たされていく。]

[返事があって、それが幸福を助長する。
 クッションでは得られない感情で満たされていく。]

ん。
すきだよ。

[酒精に蕩けた思考が、導かれるように、問の罠に乗るように、好意を紡ぐ。
 好きかと問われたから、そうだと答えた。嫌いではなかったから。そんな程度の甘い意識。

 グラスが手から離れるのは名残惜しかったが、すぐに構う先を得れば今度はやさしく、梳くように髪を撫でた。
 慈しむ手付きも、それがまるで自然な行為かのよう。]

[だから。]

――――……、

[きし、とソファーが軋んで、視界が麦で埋め尽くされて、影が落ちて、顔の真横に腕が伸びてきたとき、こくりと緊張に喉が鳴った。
 すき、という二文字を紡いだことに後悔はなくとも、その意味を軽視したかもしれないと内心思った。
 僅かの時間。酔いが醒めそうな間。
 どく、と心臓が跳ねた瞬間――]

ん。たべる。
食べさせて。

[空気はまた緩んで溶けて、知らず詰めていた息を吐く。
 焼き立てのパイは、酩酊を叱るみたいにスパイシーだ*]

 
 ん ンンッ…… !


[限界を促す声に誘われたら、襲い来る波に泳がされるまま。
追い立てられて、堰が切ったように蜜が溢れ出す。
びくびくと小刻みに揺れる身体は自由が効かなくて、彼の唇を濡らしてしまった。]



 
は、ぁッ ……



[詰めた息が溢れ出て。
くたりと力を無くして、肩で息を整えながらシーツに身体を埋める。
頭を撫でる手に甘えながら、うっとりと眼を細めて。
いまだゆらゆらと揺蕩っているような感覚が長く続いて、その心地良さにしばらく身を任せていた。

水を飲む彼を少し遠くに居るような心地で眺めながら、つんと浴衣の袖を引く。
まるで悪戯を仕掛けるように。離れられるのを惜しむように。*]

はい。
  口あけて?


[TAKOYAKIサイズの小さなエッグパイ。
熱いから指でずっとは持っていられない。なるべく火傷しないくらいまでさましてから、口元へ差し出した。]



[食べてるとこ正面から見たいから。
膝立ちのソファで体はぐら、ぐら。

片腕で浮遊感を支えて、少しだけ顔を持ち上げさせてもらって。額と、眉間と、鼻筋と。触れるキスをした。]

おいし ですか?


[にこー
 見下ろして、緩んで蕩ける笑顔。

だけど、ここを降りて水を汲みに行かなくちゃ。
そう考えると悲しくなった*]

[女の匂いが濃くなって溢れた液体はとろとろと零れる蜜とは違う味がする。
どちらも特に美味ではないが、その瞬間の紫亜の反応が最高にいやらしくて美味しいので問題はない。

とろんと蕩けていた瞳の焦点が合うのを待ってから咥内をリセットしたけれど、その間の別離も寂しかったのか、浴衣が引かれた。
クス、と笑って自分の浴衣の帯を解いた。]

 勿論、今ので終わる訳ねーよ?

[はだけさせた浴衣の下、下着は既に形を変えている。
掴んできた彼女の手を下肢に導いて、熱を伝えた。]

[一度口を漱いだから、キスは解禁だろうか。
そっと近づけた。

どうしても抵抗があるのなら、唇は諦めて耳裏に新しい痕をつける旅に出かけよう。

合間に下ろした下着から、戒めを失った自身がぶるりと飛び出る。
血管の浮き出たそこが既に期待に涎を垂らしているのは、触らずともわかる。

予行演習の如く空中で腰を動かした。*]

ん。

[指先でつままれたパイを受け取ろうと、欲しがりの口を開ける。
 食べ頃まで冷めたパイは、さくりと軽快な音を立てて卵の甘みとスパイスの香りを運んでくる。
 熱を孕みやすいフィリングはまだ少し熱い。やけどしない程度にゆっくり食べるから、その間に目の前の麦とも何度も目があった。
 その度、ほつ、ほつ、とやさしい雨が降った。
 額に落ち、眉間に落ち、鼻に。]

ためして、みる?

[おいしいかと聞かれたから、自分で確認すればいいと。
 揺れる身体に手を伸ばし、首裏に絡めて引き寄せる。
 鼻にまでしか落ちてこなかったキスを、こちらから唇へ。
 くち、と水音がするほど、ひと食み、ふた食み、重ね合わせ。]

……――ふ。

[とろりと笑って、それから離れよう。]

そろそろ水、汲みにいかないとねぇ。
……っと、

[引き寄せたくせ、抜けるのもこちらから。
 カラフェを持って立ち上がろうとして、一歩たたらを踏んだけど。
 ぺた、ぺた、床を確かめるように、ゆっくりシンクの方へ*]

 

 ……うん、

[寂しがっていることはどうやら伝わってしまったらしい。
はだけた浴衣から彼の胸板が顕になっていく。
すがりたくなる気持ちを堪えて、息を呑んだ。

膝を立てて擦り寄れば、手を導かれて触れた昂りは既に兆し始めていて、その熱さが感染するかのように頬が赤く染まる。]

[求められるまま、顔を傾けて唇を受けながら。
応えるように啄んで、薄い下唇を食んで、少し離れる。]


 ん、もっと、さわって
 
もといさんで、いっぱいに、して……?



[触れ合わせた唇の端、吐息を絡めて囁いて。
取り払われた下着から覗いた、彼自身に指で触れる。

ぬるりとした滑りが指先から掌へと移っていくのを確かめながら、少しだけ刺激するように手を上下に揺らして、しなだれかかるようにして彼の膝へと乗り上げる。
とろりと落ちた瞼は眸を覆い隠し、迎え入れるように薄く唇を開いてからキスが深くなるのを待った。*]

試── ん


[体勢が崩れる。
両膝と両手がソファについた。

スパイシーなターメリックと、バターの香り。

くち、と音がして背中が震える。
固茹でをマヨネーズでまとめたフィリングの味。]


 ……は、


[唇と、舌とウィスキー。

ひと食み、ふた喰み、混じり合って。]



あ…


[抜け出していく体温。
抵抗せずに片足のつま先を床に下ろして、反転して。くるりとソファに座り直した。

食べてしまった、食べられてしまった?エッグパイは美味しい。

立ち上がろうとしたジンさんの、ふらついた腰を伸ばした腕で後ろから支えて
無事に歩き始めたら、その腕を上げて肘のところに鼻から下を埋めた。

あつい。]



[鶴のヒヨコみたいに追いかけようとして、
できないことに気がついた。]


……。


[アルコールに侵されてるからか、目立つほどではない、という…ほどでもない。

脚に肘をついて、背中を丸めて頭を抱えた。*]


 
っ、



[自分から触らせといて、いざ指が触れると火傷したみたいな刺激に腰が引けそうになる。
起き上がった彼女の手が、既に育ちきった自身の形を確かめるように動く。
彼女の痴態で煽られているのに、あまりされると情けない結果になりかねない。

誤魔化すように、薄く開けられて誘うその咥内にくちづけた。
ぬるりと侵入させた舌が上口蓋の奥、パラタイン喉腺を削る。]

[折角起き上がってくれたけれど、先程はしなかった体位ではいりたくて、ゆっくりと身体を押し倒した。
後頭部を片手で支えて衝撃を和らげるように。
もう片方の手は、つんと上向いた蕾を捉え。

リーチの違いで彼女の手は自身から離れてしまうだろうが、達するなら彼女の裡が良いとキスの合間に伝えれば納得して貰えるだろうか。
布団に着地したら支えていた手を外し、代わりに脚を持ち上げた。]


 あー……はい、 る、


[室内の分、挿入の水音が響く。
ゆっくりゆっくり焦らすように挿入する間は、声が聴きたいからキスを外して。
耳元でふうふうと荒い呼吸を繰り返した。*]

[口づけの残り香を反芻しながら、水を汲む。
 流れる水音がとぽとぽと心地良い。]



[ああ、酔った、酔った。アテもうまいし、かわいく慕ってくれる相手もいる。
 思わず鼻歌交じりになんてなる、のだけど。]

[ソファに戻れば、麦がひとり。]

……どうした? 気分悪い?
水飲めるか。

[背を丸めて頭を抱える様子を見れば、はっとする。
 ちょうど水を汲んだところでよかったと、グラスに水を注ぐ。
 酔いがさあと醒めるような心地。しゃがみ込み、眉を寄せて麦の顔を覗き込もうと*]



  ……ッン、 んぅ……

[指先に触れた昂りがぴくりと跳ねた気がしたのも束の間。

重なった唇は深くなり、ざらりとした舌が上顎を撫でる。
くすぐったさしか感じなかった箇所が今は彼によって開発されて、ぞわぞわして頭が痺れるような快楽を覚えた。

身体はすぐに布団へと逆戻りして、後頭部を支えた手が離れたらシーツの上に解けた髪が広がっていく。]



  ふ、ぁっ 

[彼の手がまた蕾に触れて、思わず声が上擦った。
唾液を交換するようなキスの合間に、中で果てたいと切羽詰まったような声で囁かれてしまっては断れるはずもなく。
身を横たえ、彼の手に擦り寄せるように脚を開いていく。]


  あ、ぁ、   んーッ……、
 

[じわりじわりと侵食するように、身体の奥に熱く硬いものが入り込んできて、髪を乱して小さく身悶える。
彷徨った手は頼りなさげに撓んだシーツを掴んで、必死に湧き上がる熱を堪えるようにやり過ごす。

熱くて、気持ち良くて、昂ぶる感情に涙が浮かぶ。*]



  ──……蓮司さん、その。


[更に、寝落ちる直前のことを思い出してしまって。
途端に落ち着かない気分になりながら。

俯き加減のまま薄ら目を開ける。
もぞもぞと手を伸ばし、彼の服の裾を引っ張って。]


  
朝に約束したのを

  
着てみたんです、けど。


[なんのことか伝わるだろうか。

シアさんと買い物に行った時おすすめしてもらった、
ロイヤルブルーのランジェリー。
着慣れない色に、派手じゃないかなとか
レース部分が多くてほとんど透けてるんじゃとか、
不安は山ほどあるけど、彼がすごく見たがってくれたから。*]

[ああ、酔った…酔ってしまった。
美味しいお酒とおかず、酔って近寄って、キスをしてくれて。
ずるく引き出すようにだけど、好きの言葉をくれて。]


ぅあ、


[戻ってきてしまう。
そんなすぐに引っ込むわけない。
焦るほど体が熱くなって、火照る顔を必死に俯けた。]

ん、なんでもないデス、
座って…?


[隣を指さそうとして。
いやそれよりも、差し出された水のグラスを受け取ろうとして。
は、と息をついて、片手を脚の間に置いた。

不自然な膨らみ。隠そうとする動きが却って露骨だと、気づくのはしてしまった後。
ぴぴぴ、と頬の赤みが増していく音がする。]


ご──


[いや、ここで謝ってはだめだ。どうしよう。]

これは…


  
ジンさんのキスが官能的で
      興奮してしまいました。



[早口の小声で自白して、執行猶予を求む。]


嫌にならないなら、もっとちゅってしたいから
あの……トイレ行ってきます……

まだ飲めます。から。


[精一杯。自分のせいでお開きは嫌だの意思表示*]

[頷いてくれた彼女に安堵して。
共に布団に包まったけれど。
身動ぎして眠れなさそうな姿。
呼びかけに、目を開けて、彼女を見詰めて。
聞こえた言葉に、目を瞬いた。]


…………。

ふっ。ふふ。あはははは。


[珍しく声をあげて笑って。
怒られても。『ごめん。でも嬉しくて。』と笑って。
きっと緊張と安堵が笑いにも影響していたけれど……]

[笑いの発作がおさまると、嵐を見詰める。]


自分で脱いで、見せて欲しいな。


[恥ずかしそうな嵐には、少し意地悪なお願いだったろうか。
でも欲望の赴くままに、そんなおねだりを一つ。
言葉に乗せた。*]

[酔いというのは、自覚なく進行して、急激に落ち込むことがあるから。
 顔色を窺って、もし気分が悪いなら休ませようと、そうした考えで下から覗き込んだ、が。
 なんでもない、という口調が思っていたより何でもなさそうで、瞬いた。
 立ち上がって、グラスを渡すだけ渡す。その瞬間の、片手の行き先。酔い以外の原因で、赤らむ頬のいろ。]

――?

[浮かんだ疑問符は、小声の告白によって解消される。]

あっはは! そーか。
いや、ごめん、それは謝るのは俺の方だなぁ。

若い若い。嫌になんてならないから、冷ましといで。

[立てる?と手を伸ばす。
 支えが必要なら、先程の礼とばかり支えよう。
 好意を抱いているという相手に、許されているからと絡み酒したのはこちらだ。
 ほぼ全責任が俺にあると言ってもいい。

 トイレまで見送ったら、ぽすんとソファに全体重預けた*]


 紫亜、手、


[彼女の身体を折り畳んで、すべてを収めた後、滲む涙を舐めとりながら、シーツを掴む手に触れる。]


 縋るなら、俺にしてよ。
 爪立てていーから。


[彼女による痕が欲しいのは此方も。
乱れて貼りつく髪を丁寧に剥いで、頬を包み込む。]


 ……好きだよ。


[荒い息のまま微笑む。
もう幾らも止まっていられないから、彼女に届く内に言いたくて。]


 好きだ、もう紫亜がいないと駄目になる、


[今の自分は、彼女が告白してくれた時の彼女の望んだ位置まで辿り着いているだろうか。
追いつくどころか追い抜いている気もするが。
ぐぐっと最奥まで穿ちながら、もう一度「好きだ」と告げた。*]

やー……そうか、そうだなぁ。

["そういう"対象として見られていることを、改めて実感した気がする。
 チーズをナイフの先で深めに削る。
 大きめの欠片で口に入れて、塩気に任せてグラスを一気に呷った。]

っ、あー、効く。

[ぐらり、頭の芯が揺らされるような衝撃。
 突き抜けるアルコールは、苦い。]

[麦が戻ってくるようなら、一度クールダウン代わり、チェイサーで乾杯しよう。
 冷たい水を飲み干して、アヒージョの残ったオイルにバケットを浸して。
 さて、何を話そうかと言うタイミング。]

ねえ、麦はゲイなの?

[単刀直入直球で聞いてしまってから、言葉足らずかと慌てて言葉を継ぐ。]

ああいや、それが嫌とかそういうんじゃないんだけど。
単純な興味? 関心? いやこれも変な言い方だな。

女の子も好きになるのか、そうでもないのか、まったくもって生まれてこの方俺のこと以外は考えてなかったとか、なんかそーゆー……言うなれば恋バナがしたいってやつよ。

[酔っぱらいの定番トークではないか。
 自分より過去を知りたい、そんな興味。]

……俺が一目惚れしたのも男だったから、なんか一目惚れって特別な効果でもあるのかと思って。

[さらりと、こちらの暴露も挟んでおいたりして*]



  
な……っんで笑うの!



[突然、声を上げて笑い出した蓮司さんにむくれる。
ちょっと本当に笑うところじゃないでしょ!?
恥ずかしいけど、めちゃくちゃ勇気出したのに!!

その理由が「嬉しくて」だとしても、なんだか釈然しなくて
笑いがおさまるまで、じーっと睨んで待っていたら。]

[蓮司さんの意地悪い声。


  …………ほんっとーに、見たいんですか。


[真っ赤になったまま怪訝顔で、も一度確認してしまう。

でもここまできて見せなかったら後悔しそうなので
渋々腕の中から起き上がれば、
腰に手を宛て、ちら、と蓮司さんを見やり。

ルームウェアの下を脚から抜き取っていく。
できるだけ上が捲れないように動いてしまうのは、
見られてる視線が恥ずかしいせいだ。]


  ……ぅー…上も、ですよね。

[これで勘弁してくれないだろうかと、
裾を掴んでも一度きいて。
おずおずと裾を持ち上げ、頭から脱いでしまえば
手で隠したいのを堪え、太腿をくっつけてぺたんと座り。]

  えと……どう、ですか?

[所在なさ気に視線が泳いだ。*]

[名前を呼ぶ声は甘く優しい。
浮かべた涙を唇で掬われたなら眩しそうに片目を眇めた。
シーツを掴んだ手を導かれて、おずおずと両手を背に絡めながら、ん、と短い頷きを重ねる。

頬に添えられた手に自然と上がる眸は、間近に見下ろす真摯な眸を捉えて離れない。]

[落とされた言葉に、浮かんだ表情に。
泣きそうになった。ううん、泣いていた。

潤んだ眸で瞬いたら雫が頬を伝う。
滲んだ視界の中、はく、と呼吸を紡いで、背に回した腕にきゅうと力が籠もる。]


 わたしも、すき
 基依さんじゃないと、やだ、から……
 
 
もっと、駄目になって、



[私が貴方なしじゃいられないように、
    ―――貴方にも私が必要であって欲しい。]


 ……ぁんッ アッ、 
 だめっ……、まだ、動かないでっ…… 

[ぐっと迫り上がるような突き上げに我慢できずに喘ぎ声が零れた。
制する声は甘さが混じるから、余り効果はないのかもしれない。
心も身体も同時に追い立てられて、急激に襲い来る快楽にくらくらと目眩がした。*] 

[やっぱりと言うか、当然と言うか。
嵐には怒られて睨まれた。
色んな気持ちがない交ぜになった。
自分でも言葉にするのが難しいことだから。
怪訝な顔には、笑顔で頷いて。

へー。下から脱ぐんだ。

と、じーっと見詰めて。
確かに下を脱いでも下着は見えなくて。
上もとの言葉には、当然頷いた。]

[太腿をくっつけて座った嵐の。
ロイヤルブルーの下着を見て、感嘆の息を吐く。
手を伸ばして、胸元から足の付け根まで指で辿って。]


…………海の色だ。


[そうして嬉しそうに微笑んだ。]


綺麗だ。とても綺麗だ。嵐。


[顔を寄せると、下着から覗く胸元に、口付けた。*]

[零れた涙はすべて吸い取った。
涙で自分の顔が見えなくなったら勿体ないだろう?
こんなにも紫亜を愛しいと思っている顔をしているのに。]


 うん。
 ……諦めないでいてくれて、ありがとう。


[彼女が通ってくれていた1年以上の間、気持ちに全く気付かなかった鈍感な自分のことを。
特に特別扱いをしている心算すらなかった、自分の気持ちに無自覚だった男のことを。
告白に即答できずに動けなかった情けない卯田を、卯田のことに関しては思ったよりも頑固な彼女が、ここまで育ててくれた。

彼女のことに関しては形振り構わず必死になれる男に。]

[甘え上手は甘やかし上手。
蕩けるような誘いの言葉に堕ちていく。

この恋を喪ったら、 ――もう生きてはいけない。]


 うん、
 
紫亜だけが俺を駄目にする、



[他の誰とでもこうはならない。
張り詰めた先がより深くを求めて質量を増す。]


 もう待てない、
 何回でもイけよ、また「ここ」まで連れてきてやるから、 っ、


[制止の言葉は卯田を止めるに至らず、ぱつぱつと肉がぶつかる音が結合部の水音と一緒に部屋に響く。

先程までは「せめて見えにくい場所を」とのささやかな配慮でつけていたキスマークの位置にも気を遣えず、いつものように喉元に吸い付いた。
命を左右する太い血管付近は、身体が本能的恐怖を覚えるのか、刺激すると膣がきつく締まる。
その感覚を求めて。

何度達しても、また高みまで連れて来てやるから、信じてもっと――紫亜こそ、駄目になってしまえば良い。*]

[幾度も浮かび上がる涙を丁寧に舐め取られていく。
塩気の混じるそれは決して美味しいとは言えないけれど。
何一つ、責められることはなく、宥めるように。

「ありがとう」と落とされた声に。
胸がいっぱいになって、ようやく微笑えた。

ビーフシチューみたいに長く時間を掛けて、
ことこと煮込んだ私の想いは形になって、
ようやく彼の口元に運ばれていく。

跡形も残らないように食べられて、
彼の身体を作り上げるものになりたい。]

[堕ちるなら二人一緒に――、

身体のずっと奥、
貴方しか知らない場所まで連れて行って欲しくて、]

  んぁッ、 アッ、ぁンっ――、……


[身体の内側で質量を増した嵩は、ぐっと深く身体の奥を求めていく。
縋るように回した手に力が籠もり、汗で滑る背中に爪を立てたら赤い筋が彼の背に浮かび上がった。]


 やぁ、だめ、こんなのッ……
 また、すぐイくッ、イっちゃ…うッ……


[段々と水音が激しくなって、身体を揺さぶられて。
ひっきりなしに声が溢れていく。我慢する余裕もなく、激しく息を乱しながら快楽へと溺れていく。
チリッと喉元に痛みを感じたのは一瞬のこと、痛みすら快感に変えられていく。
溺れていくのが怖くて、隙間を無くすようにぎゅうぎゅうと彼に縋り付いて腰に脚を絡めて。

目の前がちかちかと明滅して、一際激しく彼の芯を締め付けた。*]

[伸びてきた指が、胸元に触れて思わず目を伏せ。
ゆっくりと下へ肌を辿っていく指先に、
ぞわぞわと小さく肩を震わせて、息を殺しながら。

そっと瞼を上げれば、嬉しそうな顔が見えて。
色をわかってもらえた安堵に、
ゆっくりと息を吐いていたら。]

  ……っ、ん。

[くすぐったさに、喉が震え。
口付けられた肌が熱さに、
十数時間前に愛された記憶が蘇りかけて、
慌てて首を振って散らす。]

[浴室で触れられた時も、勘違いだったわけだし。
そんなつもりじゃなくただ触れてるだけだと
言い聞かせながら。]

  蓮司さん、あの……

[ただ触れられるのも、嬉しいけど。]

  ……キス、したいです。

[手をそっと彼の両肩に置いて、
私からもおねだりをひとつ。*]

[便座に座って、溜息。
丸めすぎていた背中が痛い。支えられずに歩くことはできたけど、なんというか。]


はあ……


[ため息その2。
でも急がないと。

目を閉じる。左手の指で唇に触れた。
そこに記憶された感触。
顎を開くと指先が唇を割り、歯列をくすぐって怯む舌を押した**]

─ そして仕切り直し ─

お待たせしました。


[良かった。片付けられてない。
3回洗った手は冷たいけれど、全身冷水浴びた時よりはマシ。
顔を見て、隣に座って。]


触っても平気です?


[グラスを握らない左手の上に手を乗せた。]

ジンさんのことが好きだから、ああなりますけど、
でも貴方が緊張したり、怖がったりするようなことは、ちゃんと。それ以上はしませんから。
だから謝らないで、困らないで触ってください。


[持ち上げた手の甲に額を押し当てて、ちょっと笑って。
それからグラスを合わせて乾杯。
中身は水だった。冷たくて甘い。]

[両肩に温もりを感じて。
可愛らしいおねだりが一つ。
顔を上げると微笑んで、抱き寄せて口付ける。
確度を変えて口付けて、舌を入れる。
歯列の裏を一つ一つなぞって、上顎を擦った。

口付けながら、パジャマのボタンを片手で外して。
上着をふぁさりと脱ぎ捨てる。
嵐を抱き寄せると、微かにくすぐるレースの感触。
それから、滑らかな肌の温もりを感じた。]

[抱き寄せた身体を意図をもって辿る。
微かな水音のする唇を離すと、小さく糸を引いた。]


…………。


[何も言わずに嵐を見詰めると、微笑んで。
そのまま喉元に口付ける。
舌で舐めながら、時折吸い付くけれど。
跡は付けないように意識しながら。
鎖骨に、胸元に、口付けて。
彼女の細い腰を抱いたまま、胸元から顔を上げて。
嵐の表情を見ると、小さく微笑んだ。*]

[さて何を話そうかというタイミング。]


……えーと。


[恋バナ。恋バナを振られて首を傾ぐ。]


そう、です。ね?
皆が普通に恋愛するようなハイティーンの頃はずっと片想いしてたので……あんまり。

あ。ジンさんの一目惚れ、それは聞きたいですね。
男の人だったんですか?
……年上?


[暴露にぴょんと耳を立て(幻覚)
ならば代りの恋バナ……とは。]


ええと、初恋は、幼稚園のゆき先生です。だけどああ言うのはノーカンかな。
その後は、好き、って、思ってたのは隣の家のダニエル。5つ上だったかな?懐いてました。
スクールで彼女ができてたのはショックだったけど、でも、恋愛感情だったかというと……全然、ジンさんへの気持ちとは違います。
ただちょっと憧れのお兄さんというか。



生まれてこのかた、ジンさんが一番好きです。特別ですけど一目惚れだからかわかるほど経験、してないです。

ゲイなの?っていうと、そうかな…?他の、女の子とまたセックスしたいとは思わない。

それでいいですか?


[マイクを返し渡す仕草*]

[意味のある思考はすぐに飛んでしまった。
ただ愛しい存在を貪るだけの男と化す。
背中に感じた痛みも性感を煽るだけ。
喉に、頸裏に、鎖骨に、いくつもの内出血を施した。]


 っ紫亜、 紫、 亜ッッ


[
――――喰い尽くしてしまいたい。
]

[もう何度彼女の裡が戦慄いただろう。
悲鳴に似た嬌声が告げた限界の数よりも多く収縮を感じたが、構わず最奥をごちゅごちゅと突き続けた。]


 
〜〜〜〜〜〜〜っっ!!



[びく、と身体が跳ねて律動が止まる。
昼間出したばかりとは思えない程長く、彼女の中に慾をぶちまけた。

飛びそうになる意識を繋ぎとめるように、紫亜の身体を抱き締める。
噛み締めた歯が、ぎり、と嫌な音を立てる程強く力を込め。*]

[揺さぶられる身体は熱を持って、繋がった箇所はまるで一つになったみたいに溶け合うかのよう。

何度も求めるように名前を呼ばれたら、また涙が浮かぶ。
激しく感情を揺さぶられて浮かぶ涙と、快楽に浮かされた涙が入り混じってもうどうにもならなかった。]



 ――― ぁ、あンッ…… !!


[目の奥に光が走ったと同時。
びくんびくんっ、と腰が仰け反って身体が激しく波打つ。
彼の動きが止まり、ぶわりと身体の奥に広がっていく熱を感じて。]

 
 ……ぁ、……


[抱き締められる腕に囚われながら、尾を引く長い余韻に息を吐き出して。
ずるりと背に回した腕が落ちていく。
弾んだ息は整わないまま、くたりと力が抜けていく身体をシーツに預けた。*]

[抱き寄せられるまま体を寄せ、
蓮司さんの脚の上へ跨るように座り直せば。
いつもと違って見下ろすことになるのが、新鮮で。

微笑む顔に見上げられて、ドキッとしながら
少し屈んで口付けを受け入れた。
息継ぎをするように唇を開けば、入り込んできた悪戯な舌に
ぞくぞくと期待するように震えてしまうのが、悔しくて。
私も舌を伸ばして、上顎をくすぐる彼にすりつけ絡め合う。]

  …………は、 ぁ

[纏うものがなくなった彼の上半身に
ぴたりとくっつけば、薄い布地ごしに伝わる温もりに
目を細めたのも、束の間。]


  ん…… ッ、

[体を這う掌に、息を呑み。
離れていく濡れた唇をとろんとした目で見下せば
そのまま喉からゆっくりと唇が舌が下がっていく。

ただ触れてるだけ、というには意図的なくせに
愛撫、と呼ぶにはもどかしい。

わざとだとわかってるのに、じわじわと体の奥が疼き
閉じることのできない場所が濡れはじめる感覚に、
逃げるように腰が浮きかけて。
抱き寄せられる腕に阻まれ、肩を掴む指に力が入った。]

  ……もー…… 蓮司さんっ。

[ジトりと睨んで見下ろす。
責めるような声色になった意味は、わかるでしょう?*]

[止まった腰を迎えるように、彼女の腰はびくびくと数度跳ねる。
飲み込むような蠕動に導かれて、すべてを注ぎ込んだ。
狭い胎内が懸命に胤を飲む間、抱き締めた身体を離すことは出来ず。]


 っ
ぁあ……っ


[漸く声が喉から出てくる。
酸欠で視界が曇って、ああ息を止めていたのかと遅れて思考が戻って来た。]

[がく、と膝が折れる。
慌てて横に倒れて彼女を潰すのは免れたが、今度は彼女との距離が開いたのがひどく寂しい。]


 紫亜、


[力なく投げ出された腕を取って、速く脈打つ手首にくちづけた。]


 紫亜、


[それから掌を舐め上げて]


 好きだよ。


[笑いながら、指を口に含む。
彼女が最初に噛んだ痕の手当てをするように。

そしてひとつ、ふたつ、軽くキスを落として。

何時か揃いの「永遠」を嵌める指に、予約とばかりに吸い付いた。*]

[見下ろされて、睨まれた。
可愛らしいと思ってしまう。
自分は目を細めて微笑み返して。]


…………ダメ?


[微笑むと、ブラの布地を少しずらして、胸を露わにする。
淡く色付く先端に舌を這わせて、吸い付いた。
片手は腰に当てたまま、逃げ出せないように捕まえて。
片手は柔らかな胸を包み込んで。
甘い声が聞こえてくるまで。彼女が蕩けるまで。
じっくりと嵐を味わいたい。

意地悪かもしれないけれど……
海の色を纏った彼女に、今日は少し甘えたかった。*]

[どこか遠くで聞こえる彼の声は。
次第に意識を揺り起こしてくれるものに変わる。

幾度も上下に胸を喘がせながら、
うつろな眸で取られた手へと視線を移せば、
慈しむみたいに唇を落とされて。

ぼうっとその光景を眺めながら、
応える代わりに軽く指先を曲げて応答する。]

[笑みと共に落とされた言葉が
じんわりと胸に沁み入っていく。
身体に浸透していくように、ゆっくりとゆっくりと。

舌先に痕の残った指を柔く絡めて、
落とされるキスを受けて、眸を見合わせたなら]


 うん、私も、
 ………
大好き。



[これ以上無いくらいに、蕩けきった微笑みを向けた。*] 



  う。


[絶対わかってるくせに。
そんな顔で微笑まれたら、何も言えなくなって。]


  ……っあ、

[ずらされたレース地から零れ出た胸を隠す間もなく
先端に吸い付かれて、声が上擦った。
もう片方も包まれて、掌に吸い付くように形を変えながら
次第に弄られ続ける先端がツンと尖って
強めの刺激を与えられる度に腰が微かに揺れてしまう。]

  ふ………、ンぅ…きもち、ぃ

[片手で口元を覆っても、零れる声は止められなくて。
だんだんと脚に力が入らなくなってくる。]

  
も、蓮司さ…… いじわる、


[気持ちいいのに、足りない。
どこが、まで言わないと触ってもらえないんだろうか。*]

[幾度となく達して身体はぐったりしているだろうに、卯田の手遊びに反応してくれる。
此方を向いた彼女の顔は本当に幸せそうで、泣きそうになってしまった。

手をぎゅっと握って零れそうになるのを堪え、それでも少し滲んだ顔を晒すのが恥ずかしくて。
目元を見られないように汗ばんだ額にキスをすることで誤魔化した。]


 ……次は、紫亜の実家、な?


[この「予約」を早く本当にしたいけれど、彼女の兄であり自分の友人である男の結婚式が間近に迫っている。
親戚等、招待客のことや何より彼女の両親の心労を思えば、そう急いてはいけないと二人ともわかっている筈だけれど。

――先に籍を入れてしまいたい。

そんな気持ちが日々高まっている。

今度こそ、プロポーズを「完了」させないと。]


 あ〜〜〜このまま寝たいけど、夕飯の準備があるよな……。
 紫亜はまだ動けないか?
 俺だけちゃちゃっと入って、ここの襖閉めてればもう少し休めると思うけど。


[名残惜しいが時間は迫る。
起き上がって、首回りに紅が散る彼女はもう浴衣を着られないかな、と今更反省した。**]

─ 一部再放送 ─

[水
   音。]


っぁ


[関節が軋むほどの、冷たさに溺れるのに。体の芯が熱い。]


                 くそ、  だめ


[バスルーム
触れられ、撫でられた手のひらの感触が鮮やかに、何度でも、肌の上に甦る。

たくさん、いっぱい撫でてもらった。
優しく抱き寄せられて。
あれは友愛、親愛、それか甘やかす形での慰め
今 答えを返すことは出来ない、と、正直に答えてくれた手のひらが

今は意味を変えてしか再生されない。]

  ふ、うう


[水音。荒いばかりの呼吸。
髪の先端から滴る水が、みぞれのようだった。シャワーヘッドを握る指は悴んで痛いくらい。

床に座り込んでいるのは立っているのが辛くなって。
冷たく濡れた壁に凭れて、脚をみっともなく開き。
自己嫌悪に細い嗚咽が漏れる。

熱を持った箇所を冷やそうと、水をかけてしまって。そのシャワーの水圧に、決定的に押し上げられた。
もう収めることも出来ず、手で触れて逃す勇気もなく。

彼の声を思い出す。
頭を、肩を、背中を撫でる感触を。腕の中に抱き寄せられる感触を。]


   んぅ……
       ふ、ぐ、


[微かに微かに声を殺す。
形を変えて張り詰めたそこへシャワーの水を当てる、細やかに遠回しな自慰。

蹲る背中を更に丸め、膝を震わせ。
冷えた体から凍る吐息と罪悪感を吐き出した**]

[甘えるように胸に吸い付いて。
漏れ聞こえる甘い声が、自身を育てる。
いじわると、呼ぶ声は先程までとは少し異なって。
顔を上げて、胸を触る手を下に降ろして。
ロイヤルブルーの下着をそっとなぞる。
微かに湿り気を帯びた下着をカリッとひっかいて。
横にずらすと指を差し入れた。]


濡れてる。嵐。可愛い。


[今朝も繋がったそこを、指で解して。
水音が部屋に響いた。]

[サイドテーブルに手を伸ばして、ゴムを取る。
少しだけ腰を浮かせてズボンと下着をずらす。
嵐を見詰めてキスしながらゴムを着けて……]


自分で入れて見る?


[おいでおいでと嵐を膝立ちにさせて。]


腰。落として。


[甘えたように囁くけど。
彼女はいったいどうしただろうね。*]

[彼の表情の僅かな変化に気づいたのはずっと見つめていたから。
声を掛けるよりも早く、額にキスが落とされてそれは見えなくなってしまったけれど。
盗み見た耳朶が赤く染まっていたから、愛おしさに眼が細まる。

静けさの中に、落ちた言葉には。
口にしたその気配から真摯さが伝わって。

実家に彼を紹介する「意味」を深く感じ取ってしまう。
気恥ずかしいけれど、嬉しくて。
指先を揺らしながら、はにかんで。はい、と頷きを返す。]


 基依さんを連れて行ったら、
 お母さんたち、驚かせちゃうかも。


[彼の学生時代を知っている両親のことを思えば、
今の彼の姿は目覚ましく成長した大人の男性であり。
娘が一緒に連れてくるとなれば、その意味も察してしまうだろうから。]

[シーツに横たわりながら話をしていれば、先程から頭を撫でる仕草や慈しむような手付きに微睡みを誘われて、とろんと瞼が落ちそうになる。]


 ん、もうちょっとだけ、ゆっくり……


[身体を離した今も、下腹部にはまだ彼の感覚があって。
そっと下腹部を撫でながら、視線を落とした。]
 
 
 まだ、
ここに基依さんが居るみたい……



[そう呟く合間も、うとうと襲い来る眠気に襲われて。**]

――仕切り直しての見直し――

おかぁえりィ。

[ふふふ。戻るまでの時間の何かを勘ぐってかアルコールのせいか、表情は完全に笑みの形。
 戻るまでの間に、普段は一度に入れない酒量を入れたので、視線はややあやういが。]

いーけどぉ、っ、

[ちょっと冷たかった。びくんと手が跳ねたけれど、重なりを解くには至らないまま。]

別に、なるななんて言わないよ? 男同士、生理現象なのは知ってるしねェ。
謝ったのは、俺が軽率だった、って思ったの。
俺はァ、麦がね? 俺を好きってのは聞いたから、麦ならべたべた構ってもいいかなァ、とかさ?
好きなら、我慢させたくないな、とか。そーゆーんで、絡みすぎたって思って。

そんなん、しんどいじゃん。

[例えば俺に、もう若さの昂りを受け止めてしまうだけの割り切りか好意があれば、いっそ良かったのかもしれない。
 隠された張り詰めを、この肚の中に叩き込んでもいいと言える度量があれば。
 けれど息を呑んでしまった。欲情の気配に緊張を覚えた。
 そんな相手に、自分なら手を出せない。――きっと、麦も。
 ならば耐えるしかないのに、相手が煽り続けるなら、地獄。]

俺、どーしたらいー、かな。

[水のグラスで乾杯。自分も今、随分と酩酊している自覚がある。
 少しは覚まさないと、まともに話もできなくなりそうだ。]

触んのは、イヤじゃない。麦がいーなら、触ってるよ。
そんで、俺も答えてやりたいなーと思ってるのも、ほんとなんだけど。

[だからキスは重ねたい。そこに嫌悪感がない時点で、そばにいる対象として彼を選ぶことに、抵抗はないと思うのに。
 そんな弱音を吐いたら、『それ以上はしません』になるだけなんだろうか*]


  ……ひ、 ッあ!

[不意に、濡れた場所を布越しになぞられて
ガクッと腰が砕けたように彼の上に落ちてしまう。
倒れそうな体を、咄嗟に後ろへ手をついて支えれば
湿った布地の色がそこだけ変わってるのが見え。
爪先でひっかかれるだけで、走る甘い痺れに息が乱れた。]

  ん……ゃ、 だって……
  ……蓮司さんが、さわるから ぁ

[今朝をまだ覚えている秘所は、
入ってきた指へ物欲しそうに吸い付いてしまい
恥ずかしさで埋まりたくなるのに。]

  ……あ、 ふぅ……ンッ

[動かされる度に水音がたつほど溢れ、
指を濡らしていく体を止めることなんてできなくて。
気持ちいい場所を押し付けるように、腰が揺れてしまう。]

[焦らされたせいで昇り詰めていくまで早く。
もうちょっと、という所で抜けていく数本の指に、
ひくりと喉が鳴った。

下着から飛び出した屹立が、薄い膜で覆われていくのを
潤んだ目でぼんやりと見つめながら。
目が合えば近付いてくる彼と、甘いキスをして。]

  じぶんで……って、

[微笑む蓮司さんと、勃ち上がった熱とを交互に見て
ちょっとだけ怖気づく。
でも寸止めされて疼き続ける熱には抗えず
手招きに彼の肩を掴み直し、おそるおそる膝立ちになって。
さっきまで指が埋まっていた秘所へ、彼を宛がった。]

[囁きに従って、ゆっくりと腰を落としてみるけど、
ずらしただけのショーツが邪魔をして
擦りつけるように滑って失敗。
片手で横にずらした布地を押さえながら、もう一度。]

  ぁ……ぅ、 はいった……?

[慎重に、少しずつ。
もっと奥まで彼を受け入れたくて逸る気持ちとは裏腹に、
いつもと違う体勢に余計な力が入ってるのか、
半ばで腰が止まり、蓮司さんの甘える囁きがあっても
首を横に振って。]

  ……ぅ、 
れんじさんん……


[俯き、泣きそうな声で助けを求めた。*]

しんどいですけど……構って欲しいです。
好きですから。

我慢できます。それでは駄目ですか?


[俺がもっとずっと子供だったら、こんなに困らせなかっただろうか。]

俺がいつか貴方に慣れて、ああいう…風にならなくなるか
貴方が俺にいつか慣れて、答えてくれるっていう気持ちに体が追いついたら。
何か変わるかもしれないですけど。

段階を踏もうって言ってくれたじゃないですか?


[水のグラスを口に当てる。
もうやめようって結論にだけはどうしてもしたくない]

そばに居させてくれます。
触ってもいいし撫でてくれます。
キスも──してくれますね。俺も、普通のなら平気です。
嬉しい。


[そっと頬に触れた。指1本。それを滑らせて耳へ]


えーと…そしたら境界線を見つけましょうか。
これ以上はやめとこうってとこがお互いに見つかれば、もっと振る舞いやすくなりませんか?

俺の方からされるキスは、どうですか?


[片手で耳朶に触れながら、さっき一度したように、顔を寄せて。
唇の手前2cm、一度止まらずに通り過ぎて、重ね合わせた。*]

――そして恋バナ――

はは。
ごめんね?

[ずっと片想いで青春を奪ってしまった。しかもこんな年上の男が。
 それに答えられればいいんだろうが、なんとそれもあやういときたものだ。]

まー、年上っていったら年上かな。
学校の先輩だったからね。

[暴露話の代金として語られる、過去の遍歴
 幼稚園の先生は女性だろう。次は5つ上のダニエル。
 憧れの感情とはまた可愛らしい話じゃないか。チェイサーを飲むのにもいい肴。]

けっこー年上が好きなんだね、麦は。
俺もタイプだったりしたらいいんだけど。

[一目惚れっていうのは、タイプとかを飛び越えるから。
 どうだったのかと思うのは興味本位。]

[軽口に乗せるなら、俺とはしたいの、と聞いてしまいたくなるけれど。
 さっきの生理現象がすべてを語ってくれている。]

ん。じゃー、俺も喋んなきゃだなあ。
長くなるからテキトーに聞いてて。寝てもいーよ。

[人生の黒歴史を晒すのだ、もうチェイサーではやっていられない。
 またタリスカーをワンフィンガー。勢いで呷ってしまってもいいように、水割りにして一口。]

俺はね、正直、分類的にはどっちかわかんない。
聞いといてなんだけどさ。

最初の恋は多分、涼だろうな。近所によく遊ぶ女子がいてさ。
小学校も同じで、中学まで腐れ縁。
けど、中学ともなるとマセてくるやつがいて、付き合ってんだろなんて噂されんの。
お互いそんな訳ないって否定するけど、言われると意識するってやつ?
否定する材料を探そうとして、涼のことを目で追って――

まあ、でも、自然消滅ってやつだ。高校違ったしね。

[さて、それから問題の話。
 高校の先輩に、一目惚れした話だ。]

そんな事があったから、高校では彼女欲しいとかそういう話に、あんま積極的になれなくてさ。
まあ、ただ、聞いて。たまに中学の話を盛って話して。
別にいつか勝手に好きな人ができるまで、それ以上はしなくていいかなって思って。
けど、来たんだな、その時が。

[はー、と深めに息を吐く。
 自分からはじめた話のくせ、いざ話すとなったら思い返すだけでもだいぶ恥ずかしい。
 助けてくれタリスカー。水割りをごくりと、大きめの一口。
 喉が熱くて、頭の芯が痺れだす。]

……制服着た先輩が近所で発声練習してんの見かけてさ。
セリフっぽいことやってたから、演劇部だろーなって思って。
学祭近かったから自主練だったんだろうけど、正直演劇部ってのが学祭のそういう時期以外何やってるかも知らなかったから、年イチしか出番ないのに必死になってよくやるなー、って思ってたんだけど。

なんか目離せなくて、ずっと見てたんだよ、その練習。
それから何日か、その練習見ててさ。いざ本番見に行ったら、これがまたそんなにうまくねーの。
やる気が空回りってか、悪目立ち? 浮いてる? 発声やってたから声はデカいんだけど、他のメンバーとテンションが合ってない、みたいな。

[喋りはじめれば、昨日のことのように語れる。
 昔の恋の話は、麦の耳にはどう届くだろう。]

だけどさ、なのに、もっと見ていたくなったんだよな。
カリスマ、とかそーゆーんじゃなくて。
全然かっこよくないけど、かっこよかったんだよ。スベってるのに光って見えた。
多分俺はあんなに全力で何かに打ち込んだことねーな、みたいな。

それからずっと、部活の練習とか影で見てたり、発声練習見に行ったり。
その時くらいにやっと、最初に見たときから俺惚れてたんだなって気づいたかな。
会えるだけで嬉しくてまともに話したことすらないのに、劇の相手役になった想像でヌいたりしてさ。

[興味のつもりが恋愛だったと気づいた瞬間、高校生の熱というのは簡単に燃え上がる。
 たいして顔もいいわけじゃなかった。喋ったこともなかった。同じ部活に入って、同じ舞台に立つ勇気すらなかった。
 けれど隣で応援しているだけで、恋心というのは育つ。まるで少女漫画だ。]

けど、先輩だから卒業すんだろ、先に。
そんで卒業式の日にさ、なるべく女子っぽい文字練習して、超丁寧に『大好きでした』って手紙書いて下駄箱に突っ込んで、それで終わり。

――終わりに、した。

[あの手紙は何らかの物議を醸したのか。その顛末すら知らない。
 或いは自分の存在がとっくに気づかれていて、嫌悪のままに破り捨てられたかもしれない。
 想像はできるが、それだけだ。]

こんなお話でよろしい?
ま、だから俺はさ、麦がずっと想い続けてくれたのすごいなって思うし、それを知ったからにはなんか応えたくなるん、だよなぁ。

[年寄りは長話をしました。
 反省とともに、水割りを飲み干してグラスを置く。
 ソファにとろんともたれかかって、そのまま麦の方に体重を寄せる**]

タイプはジンさんです。
他のこは好みじゃないし。
ダンはちょっとだけジンさんに似てたかも。


[ジンさんがダニエルに似てるんじゃなくて逆だからね。好みのタイプは時空を超越する。]


寝ませんよ。
じゃあ…パン食べてていいですか?


[バケットを手元に手繰り寄せた。
そのままでも齧れるが、アヒージョの残ったオイルがある。つまり美味しい。]

[もくもくとパン食う。
一度回りきった悪い酔いは、トイレで吐き出してしまったのかふわりと肌の上に温かな膜が張ったような感覚だけ。]


演劇部の、先輩。


[全力で何かに打ち込む姿に、光を感じた。
聞く話に胸が苦しくなる。どんな気持ちだっただろう、どんな思いで見ていたんだろう。
それは少しわかる気がして。]

[グラスが空になる。
体重と体温が近づいて、もたれかかる体を抱きしめた。]


きっと、すごく嬉しかったと思いますよ。その先輩。
相手が誰だかわかんなくても。
きっと想いは伝わったし、努力する姿が素敵だなんて、誰だって言われたら嬉しいです。


ジンさんは、一目惚れの特別な恋を終わりにしたの、
きっと辛かったですね。
でも、だから優しいんですね?

こんなに俺に応えてくれようとするのが、その経験の影響なら。俺はその恋に感謝します。



[キスは、しても平気だった。

触れるのは?
髪に、顔に、腕に、背中に。撫でるだけなら彼は緊張しない。
境界線はどこだろう。]


大丈夫ですか?
まだ潰れないで。起きててください。


[手のひらを胸に押し当てる。鼓動を皮膚で感じ取るように。
それから上へ滑らせて、鎖骨の輪郭を辿る。
ぎゅっと抱き寄せて、服の上から触れてるだけだ。
でもただ撫でているのとは違う、そういう動きで。]



[息を呑むなら、緊張を押し殺すなら、それ以上はしない。
すりすりして、許されるなら寄り添って、もっと飲んで。一緒に眠ってしまうのもいいかも。

だから無理やり応えようとしてくれなくてもいい。
体が、触れて平気ならむしろ、それでいい。

胸を滑り降りて、脇腹から背中へ。
ソファにもたれかかっているから、腰の上あたりでやんわりと円を描くように撫でた。**]


 驚く、で済めばいーけど。
 まー、反対されても説得するだけだ。

[正直まったく想像がつかないが、どんな反応が返ってきても、自分がすることは如何に紫亜が今の、そしてこれからの自分の人生に必要不可欠かを説くだけだ。

成長具合を見て貰うなら、その日の夕食を作らせて貰うのもありかもしれない。
ビーフシチューを煮込む時間はないから、お子様舌の友人に合わせたハンバーグとか。
手が温かいから苦手など言っている場合ではない。
練習せねば。]

[うとうとと微睡む彼女がそのまま眠りに落ちるなら、それを見届けてからシャワーに向かおうと。
呼吸に合わせて撫でていた手は、相変わらず無自覚に男を煽る台詞で固まる。
流石にすぐに復活する程サルではないが、胸をドスッと突かれた感覚があった。

参ったな、と苦笑を胸に仕舞って、彼女の息が深くなるのを待ってから立ち上がった。
彼女の下に敷いたままのバスタオルは、後で洗うことにしよう。**]

[乱れる嵐が可愛くて。つい、意地悪をしてしまう。
指を締め付ける強さが、彼女の様子を物語るのに。
指を引き抜けば、蕩けた瞳が物足りな気に此方を見詰めた。
愛おしくて、たまらなくて、口付けを交わして。]


そ。自分で。


[彼女からも求めて欲しくて、導くけれど。]


……ん。入った。上手。


[身に着けたままの下着が邪魔する中。
腰を落としてくれる彼女をじっと見詰めて。
でもその声に涙が混じったら……]

怖かった?

俺に抱き着いてて。大丈夫だから。


[嵐の腕を、自分の首に絡めて。
頭と背中を抱き寄せて、身を委ねさせる。
それから彼女の腰を抱いたまま、身を進めて。
ゆっくりと、嵐と一つになった。
膝の上に座り込むような嵐に、顔を覗き込むように微笑む。]


全部入った。……身体は大丈夫?


[背中をさすって。自分を抱き締める嵐を見上げて。
落ち着くまで、そうしていよう。]



ねえ、嵐。キスして?


[今朝のような渇望とも違う。
でも酷く満ち足りた気持で。
見上げた彼女に、口付けを強請った。*]

そう?
ま、言われて悪い気はしないねえ。

[タイプはジンさんです、と言い切られて。
 若い子だしもっといろいろあるんじゃないかな、と思ってしまうのは、癖づいた自己評価の低さのせいか。
 いやいや、それだけじゃないだろうよ。こちとらいい歳だし。]

――嬉しかったかね。そうだったらいーけどさ。
努力する姿が素敵のところまで、伝わってたらそうかもな。

[たった6文字のラブレターには、それ以上の情報はない。
 いっそそうした思いも綴ればよかっただろうか。
 いや、きっと書けなかった。知られるのが、怖かったから。]

そーだねぇ。辛かったんだと思うな。
事実、あれからあれ以上の恋は、してないと思うしなぁ。

[セックスはした。女を抱いて、甘く囁いて、この腕の中に抱きしめて。
 照れくさそうに顔を逸らす仕草が好きだ。愛おしくてたまらなくなる。
 まっすぐ立っている女が好きだった。凛とした横顔が蕩ける瞬間を知っている、その事実が欲をくすぐる。
 けれどその日々が光っていたかと言えば――やめよう。]

はは。感謝か。
そう言ってもらえるなら、青臭い黒歴史も、悪くないね。

[目を伏せる。
 アルコールを含んだ呼気を吐いて、感傷を払う。]

我慢させたくないから、悩んでんだよなぁ。

[境界線を探るやり取り。
 いつか慣れて、欲を失わせるのはしたくない。
 かといって、今はその欲に応えられそうにない。
 段階を踏むとは言ったが、段の大きさの測り方がわからない。]

[許容範囲は、それなりに広いつもりだった。
 耳朶に触れられる、熱い手が胸元をなぞる、抱きしめられる。
 食み合うようなキス。もし歯列を割られるなら、きっと迎え入れた。それは対等な行為で、女とするのと大して変わらない。]


      
――   
は 、



[微かに吐息が震えたのは、服の上からなぞるその手が腰に向かってゆるく撫ぜられたときだ。
 舌を絡められるのにこれにぞくりと震えてしまうのは、自分でもどうかと思う。
 自分が『暴かれる対象』になるかどうか。そこに越えがたい壁がある。
 好きな相手に欲情することは笑い飛ばせるくせにな。]

[小さな震えは麦の手を止めるには十分すぎたろう。]

……ごめん。

[小さく謝って、擦り寄ってくるなら抱きしめた。]

なんだろーなー。オカズになるくらいだったらヘーキかなー。

[なるべく空気を変えたくて、そんな風に冗談めかした*]

――夕食――

[襖を閉めて、シャワーで洗い流した後、露天風呂へ。
かけ流しの風呂は数時間前の名残をすっかり消してくれていたので安心して入ることができた。
背中や腕が浸みるのは紫亜に愛された甘い痛み。

新しい下着に着替えて備え付けの寝巻用浴衣に袖を通す。
此方は袖が洋服のようになっている、スーパー銭湯でよく見るタイプだった。
今日だけで下着は3枚目。
念の為多めに持ってきているとはいえ、携帯用の洗濯バッグで洗って絞り、クローゼットに干させてもらうことにした。

お食事です、と仲居が運んでくれたのは、固形燃料を燃やす小型の卓上コンロと鉄鍋、鍋の材料と。
紫亜の好みを優先して選んだ蒸籠蒸しの温野菜。
船盛の刺身は自分の憧れで選んだ。

所狭しと並んだ料理は圧巻で、ついスマホで写真を撮ってしまう。]

[起きて身支度を整えた紫亜が向かい側に座ったら、二人で手を合わせて固形燃料に火をつけた。
蒸籠の蓋を取ると、ブロッコリーやかぼちゃ、オクラ、レンコンなど多くの野菜がつやつやと並んでいる。]

 紫亜は日本酒大丈夫なんだっけ?

[自分の分は手酌で注いだが、彼女も飲めるなら用意しよう。
甘口だから飲みやすいとは思う、と銘柄が書かれたラベルを見て説明した。*]

[唇は唇と触れ合わせただけ。ごく軽く食み合うようなキス。
抱きしめて、鎖骨を撫でて。
胸から腹へ。]


……、


[手のひらを後ろに回したところで、それ以上進めずに止まった。見えない、侵せる勇気のない壁を感じて。]

謝らないで下さい。
俺のために悩んでくれるのはすごいうれしいけど。


[手を離して、代わりに体を擦り寄せた。

抱きしめてくれるのだから、触れることは許してくれるのだから、キスすらしてくれるのだから、]


──…ッ


[喉の奥で引き攣ったような息が一つ漏れた。]

おれは、ジンさんをお……
カズ
…にするの、平気じゃないです。
貴方を思い浮かべて、いいように扱って、抜くの……無理やり汚してるみたいで。
なのにやめられなくて。我慢できなくて、出したら凄く
       ……苦しくなります。


[罪悪感。
彼が笑って許してくれるのは、想像の中で何をされているのか、わからないからだ。きっと。]

今度は、ジンさんがしてくれませんか?
どれくらいまでなら、俺があの──煽られないのか。


[ぎゅう。腕に力を入れる。]


いっぱい撫でて欲しいです。キスもしたいです。
でもさっきみたいな深いキスは。
キスが上手すぎて、俺慣れてないから、勃っちゃうから、たくさんはだめです。

[反対されても。とは言うものの、恐らくそうはならないだろう。
母と料理していた姿を思い出して目を細めながら。
彼の将来の話に、自分が隣りに居ること前提で進んでいることが嬉しい。

兄の結婚式は夏の最中。
季節は梅雨を越えようとしている。
約束は近々果たされるだろう。

体温の高い手が頭を優しく撫でて、その心地良さに微睡みの中に落ちていく。
落ちて来る瞼に抗えずにゆっくりと視界を閉ざして、意識を手放した。]

―― それから ――

[数十分か数時間か、目を覚ませば既に辺りは暗くなってきていて。
脱いだ浴衣を羽織ってそっと隣の部屋を覗けば、既に食事が運ばれて始めていた。

慌てて身支度を整えようと、お風呂に向かう時。
内腿から伝う違和感に気づいたら、どうしようもなく恥ずかしくなって脱衣所へ飛び込んだ。
こっそりと事後処理をして、余り待たせては悪いからとシャワーだけで済ませる。

髪はまだ乾かしきれなかったけど、後は自然乾燥に任せて。
お風呂上がりに脱衣所で部屋着用の浴衣に袖を通して鏡を見たら、浴衣では隠しきれない箇所に赤い華が咲いていて、指先でその痕をなぞる。]

 ……どうしよう……。

[肌を隠しきれないのは困るけど。
彼の所有物になった気がして、嬉しくもある。
首周りの襟をきゅっと寄せ集めて、できるだけ帯をキツく締めた。]

[ようやく身支度を終えて、部屋へと戻ったら。
テーブルには料理が見事に並んでいて、彼のほうも準備万端だった。]

 わあ……、豪華ですね。
 おいしそう……!

[机を挟んで座椅子に腰を掛けたら、鍋に火が点る。
鍋に火が入るのを待ちながら、開かれた蒸籠へと視線を移せば、茹で上がった野菜達が顔を覗かせた。

両手を打ち合わせ、期待に目を輝かせた。
日本酒の説明を受けて、

 日本酒は嘗める程度しか飲んだことないんですけど、
 せっかくだから飲んでみたいです。

[興味半分、ご相伴に預かることにした。*]

[褒めてくれるのに、手は出してくれない。
甘く嬉しそうな目で見詰められれば、
燻る熱は上がるのにせつなく疼く場所には届かなくて、
時間ばかり過ぎていくから。
とうとう、ぽろりと目尻から溢れた雫が頬を落ちて。

ようやく伸ばされた腕に、胸が安堵で満たされ
彼の首に両腕を絡めて身を委ねた。]

  こわい、より……
  ちょっと……さみしかった、───…ぁ ン、

[蓮司さんが手を伸ばしてくれなくて。
目の前にいるのに、くっつけなくて。
ぐすぐすと訴えながら、支えられて彼を飲みこんでいく。]

[いつもより深い場所まで入り込むのを感じながら、
僅かな苦しさに眉根を寄せていたら。
覗きこんできた彼と目が合って、ふふ、と目を細めた。]

  ん。……へいき、です。
  おくまで、蓮司さんでいっぱいなの……うれしい。

  ……その、重くないです…か?

[背中をさする掌がやさしい。
見下ろしたところにある額に、こつんと額を寄せて。
濡れた頬が乾くまで、しばらくそのまま。]

[そして、馴染んできた頃。]

  ん。

[ねだる声に、小さく頷き。
鼻先をすりつけながら、彼の唇へ啄ばむようなキスを。
唇に、頬に、鼻の頭に、じゃれるように口付けていたら
身動ぎに合わせて擦れた奥に、小さく声が零れた。]

  ッ ふ……、
  あの……蓮司さん、動くの……まだ、だめ?

[ゆるやかに彼を締めつけてしまい。
目尻を赤く染めながら、彼をじっと見下ろした。*]

[戻って来た彼女の浴衣は合わせをきつくしているけれど、それでも首に咲いた華はそれとはっきりわかる程度に色づいている。
彼女の荷物にあの位置が隠れる服がなければ、明日は絆創膏を貼らせることになってしまうだろうか。
それはそれであからさまな気もするが。

鏡で確認してきた筈の彼女の顔に非難の色が浮かんでいないということは、後悔はしていないのだろう。
隠す方法は明日また二人で考えよう。]


 じゃあ、お試しにちょっとだけ。
 舐めてみて、きつそうだったらやめときな。
 ひと瓶一人で開けるくらいの心算で頼んだし。

[冷酒なのでグラスが用意されている。
傾けられた彼女のグラスにほんの数センチ注いで乾杯した。]

 っくーっ
 あ、甘いなマジで……

[刺身を食べるにはもう少し辛口が良いが、温野菜となら野菜の甘さも手伝ってデザートみたいな形で味わえそうだ。
店でも取り扱えないか、帰ったら店長と有村に相談してみよう。]

[うっすらと色づいた出汁が沸いたのを見て、野菜と豆腐を入れた。
竹筒からつくねを落とすのはお手の物、へらで均等な大きさにまとめて落としていく。
肉は一切れが大きいが薄い。
地元のブランド豚らしい。]

 あ〜〜〜〜この肉で野菜巻いて食うの最高。
 春菊はシーズンじゃないけど、鍋には欲しい派だからあって嬉しい。

[そもそも鍋自体初夏にはあまりしないものだが。
汗をかいたらまた露天風呂に入れば良い。
温泉最高。*]

……そか。

[青年の深い想いを軽く扱ってしまった。
 苦しくなります、の言葉が、ずるい大人の胸に深く刺さった。]

それは、俺がいいよって言っても?
――言ってもだよなぁ。分かるからなー。

[分かってしまう、その苦しさが。
 相手の知らぬところで、相手の知らぬ痴態を思い描く、その狂おしさ。]

そーね。
せめて、俺が受け入れられるようになるまで、たくさんは我慢して。
俺もしないよーに気をつける。

[深いキスを、あげたくなる。自分の許容範囲の中だから。
 けれどそれは、こちらも我慢すべきだろう。
 せめて、互いの境界線を探り合うような今の間は。]

んじゃ、触っていい?

[はじめは、なんてことない触れ合いから。
 頬に触れて、笑いかけて、髪を撫でる。
 徐々に、耳を擽って、唇を指先でなぞってと粘膜の近くへ。
 首筋のラインに手を添わせて、首後ろで両手を組む。うっとりと目を細めて、顔を近づけてみる。
 唇は重ねずに、しなだれかかるように体重をかけた。]

……あ。

[そのまま背中をたどり、腰に、叶うなら臀部に至ろうとしたが、手が届かない。
 せっかく雰囲気は出ていた気がするのに、締まらない。]

背高いねえ、麦は。

[ぽん、ぽん、背中を叩いてみた*]

[寂しかったと聞いて、胸の奥が甘く疼く。
背中を抱き締める腕に微かに力が入って。
大切な宝物を腕の中に閉じ込める。]


寂しい思いをさせて、ごめんね。
教えてくれてありがとう。


[そんな嵐が、嬉しいと笑ってくれるから。
自分も目を細めて、嵐に笑いかける。]


幸せの重さだから……
全く重く無いよ。


[事実、重いとか意識したこと無かった。
ぴたりとくっついて、抱き締め合える。
その距離の近さに、痺れるような快感を感じる。]

[キスを強請ると、啄むようなキスが降って来て。
顔中に降るキスに、小さく声をあげて笑う。
睦み合う時間に心からの満足を感じて居れば……]


ふっ。動こうか。

……嵐も。無理のない範囲で動いてみて?
後。俺にちゃんと、つかまってて。


[背筋を伸ばして、嵐の唇に口付けて。
下から突き上げるように腰を動かす。
微かに揺れる嵐の身体を、倒れないようしっかり抱き締めて。
低い吐息を零しながら、甘やかな夜に溶け行った。*]

 はい、じゃあ少しだけ。

 基依さんは日本酒お好きなんですか?

[グラスで冷酒を受けてから、彼のグラスと合わせる。
おそるおそると口を付けてみた。
思ったよりも辛くない。これなら飲めそうだ。]

 ……あ、あんまり辛くないですね。
 これならお付き合いできるかも。

[喉元を通る熱さはあれど、甘口とあって飲みやすい。
グラスを傾ける手が、少し早くなる。]

[お鍋がぐつぐつと煮えてきて、美味しそうな匂いがしてくる。
お鍋に温野菜と野菜の多さが嬉しい。
鍋奉行を彼に自然と任せてしまいながら、茹で上がったお肉とお野菜を貰った。]

 お鍋に入れる豚肉いいですよね。
 牛肉よりさっぱりしていて、お野菜に合う感じ。

 私は水菜も好きです。食感がシャキシャキで。

[取皿に息を吹きかけて冷まして、お肉を頬張る。
さすがブランド豚、柔らかく溶けて無くなっていくみたいだ。
野菜も湯は通してあるけれど、程よく芯が残っていて歯ごたえが良く、甘い。]


 ん〜……、夏のお鍋もいいかも。


[湯上がりの熱さに、お鍋の温かさ。身体がほこほこと温まっていく。*]


 飲みやすいからってペース早めたら一気に来るからな〜ほどほどで。

[とはいえ彼女はきっと、自分と飲めるのが嬉しいのだと思えば忠告も強くは言えないのだが。]

 詳しくはないけど大体飲むよ。
 熱燗よりは冷酒が好き。
 年末に予約して年始にだけ出るにごり酒は絶対買うから、初詣の帰りは一緒に呑もうな。

[一緒に過ごす予定がどんどん具体的な色を帯びる。
その頃までには「約束」を形にしたいという誓いは今は胸に仕舞って。]


 水菜も好きだよ。煮過ぎてなければ。

[くたっとなった水菜は歯に挟まる率が高い気がする。
味が苦手な訳ではないから食べるが、火を通さない方が好きなので、出汁にくぐらせた程度ですぐ器に引き取った。

アクを取り、お玉を持ち替えて豆腐を掬う。
彼女の器にも入れて、自分の器にも。]

 豆腐は塩水に30分くらいつけて水を抜いてから煮ると食感がねっとりになって美味いから今度食ってみて。

[この豆腐はふるふると崩れやすく、これはこれで美味いけれど。

そんな風に会話をしながら二人で鍋をつついて。
温野菜は味噌をつけて味わった。
刺身にはたっぷり目の山葵。

〆に鍋で雑炊まで作って、最後には流石の卯田も満腹になる。
酒も良い感じに回って、片づけて貰う間、少しうとうとしそうになっていた。]


 あ〜今風呂入ったら確実にオチるな。
 鍋食って酒飲んで、汗かいてんだけどー、



 ………



 ……あれ?寝てた?いや、寝てない………


[座卓に額がつきそうな気がする。]


 や、キスすんなら木じゃなくて紫亜がいーわ。


[何を言っているのだか。*]

はい。


[笑って。
ウィスキーを飲む。氷は溶けてしまっていて、飲み干してからもう少し注いで舐めた。
冷えていないストレートが直接喉を灼いて、でもその強さも海の香りも好きだなと思う。
思ってから、溶けた氷で水割りにすればよかったのではと思い付いた。チェイサーチェイサー。]


ん。きもちい……


[髪を撫でる指にとろんと瞬いて。
耳をくすぐられて息を抜く。]

……ふ


[急所。首に触れられてぞわりと粟立つ感覚。
でも嫌じゃないから、背中に回した腕が下がりすぎないよう肩の骨を柔らかく撫でた。

近づく顔に、やっぱり綺麗だと思う。
まつ毛が絡まってしまうんじゃないかという距離。]


  は、 …、

ん…ン



[額をすりすりと合わせて、ゆっくり瞬きをする。]


背──早く、はやく大きくなりたくて。
魔法をかけすぎました……


[恩返しのうさぎは身長の秘密を暴露した。]

は…ジンさ


[預けてくれる体重を支えたまま、重心の位置を変え。
伸び上がるように体を起こした。
顔が離れ、頭を胸へ抱きこむ。後頭部の髪で指先を遊ばせた。]


もっと、ためして…


[これなら届きますか?
手のひらを強請って、腰を小さく揺らした。*]



 はぁい。

[ペースを窘められたら、ちょっぴり首を竦めて。
それでもともう一口だけ口にした。]

 にごり酒?
 飲んだことないです。気になります。

[彼と話していると知らないことを覚えていくのが楽しい。
新しい味を覚えると共に、知識も増えていく。

お昼間に話していた初詣は、早速次の予定が決まって。
「楽しみにしてます」と期待を顕に口にした。]


 分かります。柔らかいと歯に挟まるので。

[くすくすと笑いを堪えて。
今し方話題に上がったばかりの水菜がお皿に移る。

お玉を差し出されたら、器を手に取って寄せて。
湯気の上がる豆腐が届けられたら、お箸で崩す。
ふわっと崩れていく豆腐はかなり柔らかく、口の中で溶ける。]

 塩水ですか?
 そんなことしたことなかった。
 今度試してみますね。

[お豆腐は基依さんが初めて出してくれた料理にも入っていたから、何だか感慨深い。
元より好きな食べ物だし、もしかしたらそのことも覚えていてくれているのだろうか、なんて考えが脳裏を過ぎった。

基依さんが作ったわけじゃないけど、今日のご飯も私の好きなものが散りばめられている。
そのことに密かに気づいて、また彼が愛おしくなる。

お刺身の山葵も、最初は敬遠していたけれど。
いざ食べてみたら新鮮さが勝って、辛味のない味がした。

また一つ新しい味を覚えて、好きなものが増えていく。]

[二人で料理を食べ尽くして。
片付けに来た仲居さんにお礼を告げて、ふと基依さんの方を見ればゆらゆらと彼の身体が揺れていた。]


 お酒も入っていますし、
 今はお風呂はやめておいた方がいいですよー?


[お酒が随分回っているのか、独り言のような声に笑って。
滅多に見れない姿を、可愛い。と感じながら、
船を漕ぐ様子に歩み寄り、隣にしゃがんで顔を覗き込む。]


 お風呂は明日も入れますから、
 お布団、行きましょ?*


 

[幸せの重さとか。
その言い方がほんとにタラシだなぁ、なんて赤くなりつつ。
もっとくっつきたいのも事実だから遠慮なく抱きしめて。
隙間なくくっつきながら、
幸せな充足感に心が体がふわふわと蕩けていく。

声をあげて笑う彼に、また胸の奥が小さく鳴って
もっと、と求める気持ちに抗えずに、続きをねだれば。

笑いながら応えてくれる口付けに、そっと瞼を伏せ。
彼に合わせて、腰を動かそうとしてみる。
けれど。]


  ……んんっ、 ぁ、
  きもちい、とこ…… あたって……───ッ!!

[下からの突き上げに揺さぶられながら
指で寸前まで昂っていた体はすぐに軽く達してしまい。
貫く熱を締めつけながら、
ぎゅっと蓮司さんの腰に脚を絡めた。]

  ぁ、ふ…… れんじ、さ…ァあっ ああン

[止まらない動きに、ゆるやかに達し続けたまま
首に縋るように腕を絡め、抱きしめれば。
ぴたりとくっついた肌の間レース地が胸の先端を刺激し、
引っ張られたショーツもまた敏感な部分に擦れて。

昇ったまま揺蕩い続けて降りてこれない快感に、
溶けていく夜はひたすら甘く。
ゆるやかな分だけ愛してくれる彼の腕とか、温もりとか
息遣いなんかをずっと長く感じていられて。]



  ふ、 
……ぁ、いしてます。



[低い吐息を、重ねた唇で受け止めながら。
囁くように告げれば、幸せに満ちるままはにかんだ。*]

[どこから夢を見ていたのかがわからない。

にごり酒は飲もうと約束した、はず。
豆腐の塩水浸けはどうせ試すなら一緒に今度うちですき焼きをしよう、とは誘ったかどうだったか。

風呂は止められて。
前に座っていたはずの紫亜が、すぐ隣で笑っている。

ぐーっと内側から幸せが広がって、へへ、と締まりのない顔で笑った。]


 んー?
 すげ、紫亜とがいーって思ってたら、居るじゃん……


[覗き込んできたその唇に、ちゅーっと、唇を尖らせた初心者みたいなキスを。]


 布団、布団なー……
 一緒に寝るかぁ……


[頭はふわふわしているが、足は覚束ない程ではない。
彼女に重い思いはさせずに済むだろう。
ゆっくりと移動して襖を開け]


 ……閉め切ってたから、まだちょっとやらしー匂いがする。
 ファブらな、 きゃ……


[と言ったところまでは覚えている。

紫亜の溢れさせた蜜と自分が放った白でぐちゃぐちゃになったバスタオルは、紫亜によって剥がされた後だったか。
とにかくそれを確認する間もなく、卯田はこてんと布団に横になってしまった。

無意識の内、ぱたぱたと布団を叩く手は、そこに収まる柔らかな身体を求めて。**]

[腕の中で乱れる嵐を、離さないように抱き締めて。
彼女の脚が腰に絡みついて来ると、腰を動かす。
うねる中は熱く絡みつくようで、一つに溶けて行き。
キスの合間に、幸せで頭が熱くなるようだった。

その囁き声に、意識ごと持っていかれるかと思った。
口付けの合間に囁かれた言葉。
はにかんだ笑顔に、同じ表情で微笑み返す。]


俺も。愛してる。嵐。



[吐息と共に囁いた声は、夜に溶けて。
幸せな時間は、ゆっくりと過ぎて行った。*]

[甘さを交えた吐息が、鼻にかかって漏れるのを聞く。
 それが官能的なのは、男でも女でも同じだなと思う。
 下腹が反応する程には至らないけれど、胸の奥をずくりと跳ねさせるくらいには。]

魔法で大きくなるもの?
俺も魔法使いになれたらよかった。

[ふは、と吐息で笑う。
 麦のうなじを、呼気がくすぐった。]

ん。

[身体の触れ合う形が変わる。
 麦の指先が髪と遊ぶのを感じる。]

触って、いーの。

[なら、遠慮はすまい。
 届くようになった臀部を、やわく揉む。そろり、Tシャツの裾から素肌に触れて、腰のラインを撫で上げる。
 胸元に、熱ぼったい吐息がかかる。胸元に、頬を擦り付ける。
 麦はどんな顔をしているだろうと、顔を上げて覗き込んだ*]



 はい、紫亜はここにいますよー


[机に寄り掛かりそうになる基依さんの身体を起こして、適度に相槌を返していたら唇を突き出されて、]

 
 ……んっ、……


[笑いながら、ちゅ、と音を立てて触れ合わせる。
もう一度触れたいけれど、そこはぐっと堪えて。
なんとか立ち上がってもらって、彼の脇に身体を寄せて。布団の敷いていある部屋へと向かう。]


 はい、一緒に寝ますよ。
 起きたら散歩にも行きましょうね。

 
[ゆらゆらと揺れる身体を支えて。
ようやく布団の前まで来たら、彼の身体を先に横たえる。

残り香を突付かれたら、気恥ずかしさに咳払いをして。
先程お風呂に行く際にバスタオルは脱衣所に運んだし、布団には先程の情事の名残はない。はず。

先に消臭スプレーを散布しようと鞄を探っていたら、
布団を叩く音に振り返って、誘う手に気づく。]


 ふふっ、かわい


[我慢できずに漏れた声はもう夢の中に居る彼にはきっと届かないだろう。
手早く後始末を終えてから、彼の元へ向かう。
片手を持ち上げて、身を滑り込ませて彼の隣に落ち着いた。

静かに寝息を立てる表情を覗き見て、幸せを噛みしめる。
重力に流れるままの前髪をそっと掻き分けてから、頬にそっと口づける。]




 おやすみなさい。
 また、明日。


[明日も、ずっとその先も一緒に。**]

[微かに身を捩った。
少しのつもりが、ソファが立てる音がやけに大きくて、ぽつと耳が赤くなる。]


触ってくれないと、わからない、し。


[Tシャツの裾が動いて、風が入ってくる。
肌に直接注がれる温度に息をこぼし、こぼして。髪に絡めた指がごく浅く引っ張った。
薄い、厚みの足りない未成熟な腰を、大人の手が撫で上げる。]


   ぁ


[震える。息を詰める。緊張して、強張る体。けれど]



[やめないで欲しくて髪を掬い、こめかみを撫でる。]



[見上げられて、視線を感じた途端に顔を横に向けた。

見つめられたならいつでも真っ直ぐ見返そうと思っていたはずが。
ただあやすように宥めるように撫でられたのとこれは違う。
触れられて感じている顔を、どうしていいかわからない。]


……ま、まだ だいじょうぶ、


[まだ。の単語が。頬に熱が上る。
赤面してばかりだ]

ジンさん、触る方は、平気なんです?
いやじゃない?


[羞恥で逸らした顔を戻すタイミングが掴めない。視線をゆらゆらと泳がせた。*]

ま、そーね。

[触ってくれないとわからない。
 つまり、まだいい、まだ問題ないということだ。
 さて、女を愛撫するようにはできるが、それで麦に欲を齎すとは限らない。
 なら、さっきまでの麦の手付きを思い出すだけ。
 ゆるり、ゆらり、円を描くように。腰の揺らめきをイメージするように丸く撫ぜる。]

[小さく強ばる身体に手を止めようかと思うも、先を促すように麦の指先が動く。
 逸らされる視線。まったく無反応、というわけではないように思うが。]

まだ? ……ほんとうに?

[言う割に、顔はこちらを向かないが。
 自分の口元がにこりと笑うのを自覚する。]

そーね。どっちかっていうと、うれしーかな。
ちゃんと感じてくれてるな、とか、そーゆー気分。

[自らの手で乱れていくさまを見るのは、見ていて悪くないものだ。
 欲情されること自体が嫌なのではない。むしろ、悦んでほしい。

 膝を張って身体を少し離せば、シャツの中の手を前に回す隙間もできる。
 胸元から、腹の方へ。つい、と一本指でなぞった*]

んん……
ほんと、  へーき 、


[ぞわぞわ、腰の上に描かれる円環がずっと細波を生んでいる。
平気ではないかもしれない。
熱は集まる感じがあるがキツくはない。そう答えた。
ただ、今はアルコールに神経が浸かってるのと、さっきガス抜きしたばかりだからなだけかも。]


だいじょうぶ
気持ちいい…けど、まだ


[顔ごと目を逸らしておいても、とろとろに表情が崩れていくのは隠せない。
片手は彼の髪から肩へと撫でるまま、片一方の手でとりあえず、口元だけ覆った。]

触る方は平気で、
嬉しい。ですか?そーゆー気分……


[わかんない、という顔。
体が離れてまた空気の流れが変わる。咄嗟に寂しさが漏れた声は、
シャツの中で動いた手の感触に、色を変えた。
ヒュ、と喉を息が擦る。]


  っぁ、 ──


[背中を少し丸め、瞼をきつく閉じる。]


今のは……だめ かも、 です

……逆なら、良かったんですかね。
俺は、尻に触られても、へ 平気、だし。
ジンさんは俺に、こういうことしても、平気だし?

逆だったら、いっぱい触れあって、一緒にいられるのに…


[目を瞑って、境界線を探る。そこにある。見えてなくても侵せないラインが。*]

そー。嬉しいかな。
こんな俺のこと、6年も想ってくれてた麦に、麦が悦ぶことしてあげられてんのかな、って。

[これくらいの愛撫であれば、手遊びの範囲だと思う。
 こちらが狂わされているわけでもなければ、直接性欲の標的に立たされているわけでもない。
 ――というのは、場数ばかり踏んでしまった大人の言い分なのだろうか。
 喋りながら手を動かせば、息の詰まるのが聞こえる。]

……ん。そーね。今のはちょっとわざとやった。

[きつく瞑られる目を見て、シャツの中から両手を抜く。
 裾をおさえるように、そっと撫で整える。波を耐えるのを、見つめつつ。]

俺さ。
麦のこと、すきだよ。

[程度の差は、あるのだろうが。
 それでも、階段ひとつ以上は登った。一番上にいる麦のところに手は届かなくとも、今は、他の誰よりも。]

俺のこと、好きって言ってくれて。
俺のこと考えて、手を尽くしてくれて。
うまそうにメシ食って、一緒に酒飲んでくれて。
触って、抱き合って、キスして、それで俺の一挙手一投足に赤くなって。
かわいくないわけないんだよな。好きになるわそんなの。
正直別に、興奮して勃ってんのも、嫌なわけじゃない。

それがこー、俺に入んの? と思うと、ちょっとビビるけど。

[それを意識するかしないかが、境界線。]

[そっと、やさしく、宥めるように麦の髪を撫でる。
 やわらかくて気持ちいい。]

そー、ね。……逆なら、良かったかもね。
俺に抱かれたいとは、思わない?

[及び腰の結果で選ぶ選択肢ではないのだろうし、勃つか勃たないかでいうと、まだ勃たないの方に天秤は傾く。
 けれど、吐息に、痴態に、興奮はした。尻を開く覚悟が決まるのと勃つのとでは、後者のほうが早そうな気はする。
 それ以上に麦の手練手管が上だったとしたら、わからないが*]

[腹筋に力を込めて、乱れた息を整える。
わざとと聞けば、あっさり反応した自分が生熟なようで恥ずかしい。
身体が離れたことで空いた隙間を見下ろした。そこにあるものの差を考える。

急いで大きくなっても必死に駆け登ってもこんなに違う。
麦にとってはたった一つの恋だけど、彼はほかの愛を知ってる。
段階は幾つ踏めたんだろう。ジンさんはもっとずっと上の方にいて、受け入れてくれて、試させてくれる。きっと好意をもって。
気持ちだけでは手が届かない。]


……


[そんなことを考えていたから。優しい雨みたいに落ちて二人の間に溜まった言葉に、驚いた。]



すき?  ……ほんとに…


[語られるのは”麦”の姿だ。
ジンさんが好きで、大好きで、少しでも近づきたい自分の姿。
かわいくないわけない、って。]


ほんと……


[ビビると聞いてちょっと笑った。
ほんとに?ジンさんが俺にちょっとビビってる?
小さな拒絶の、壁の意味をやわらかい言葉で教えられて、嬉しい。懐の内を明かしてもらえていると素直に信じられた。]

[それから。
髪を撫でる手に心を預ける。下腹に凝る熱はあるけれど。
もしこれが逆なら、ジンさんが触れられても大丈夫で、俺が変な欲情しないなら、もっと、って。
馬鹿げたことを言ったもしもに、返ってきたのは想像と違う「逆」だった。]


え……


[しばらく黙ったあと、
わかりません、  って途方に暮れたような声が出た。]


考えて、なかった、デス。

[抱かれても良いっていうのは、尊敬と親愛の情の形の亜種で、雄同士でも発生し得るものだって、聞いた。
それなら俺は、できると思う。]


わかりません、けど、でも。
ジンさんは…俺みたいにならないでしょ……?


[相手を抱きたいっていうのは違うはず。
だってあそこは意外と繊細だ。性的に興奮しない相手を受け入れたりできない。

一度、二度、瞬いて、テーブルに手を伸ばした。
水とウィスキー。指が迷って、水のグラスを取って飲む。
ソファから降りて、テーブルを押しやって、ジンさんの足元に膝をついて座った。
向き合う形の脚にそっと手を乗せる。]

ジンさんが俺を抱きたくなったら、俺は抱かれたい、かも。


[普段の角度とは違う、見上げる形、挑みあげるような。
脚の間に体を割り入れるように擦り寄って、口を開いた。]


これは、どうですか?試してくれますか、
俺を相手に…したくなるかどうか。


[女の子ともする行為だ。
したことはないけどされたことはある。だからきっと彼にもあるはず。ビビるようなことじゃない、はず。*]

 ……ん……、……

[小鳥の啼く声で目が覚める。
障子の向こうは太陽の明るさを伝えて、朝が来たことを教えてくれる。
眠気でとろりと落ちてくる瞼を何とか持ち上げながら、隣へと視線を移したらまだ眠っている横顔が見えて。
幸福感で胸いっぱいになりながら、伸び上がるようにして顔を覗く。
彼の身体の上に乗って、少し体重を掛ける。
寝起きで解けた髪を耳にかけて、邪魔にならないように。]


 基依さん、朝ですよ。
 起きて……?


[とは言うものの、まだ自分自身も布団から抜け出せずに彼に身体を寄せる。
寝ぼけ眼の彼の目が覚めたなら、おはようのキスをねだろうか。**]

[少し驚いた顔をするのに、ああやっぱり伝わってはいなかったんだなと思う。
 それはそうだ。勝手に自分の中で感情を作って、口に出さなかった。
 温度差の高い方から自惚れろというのは暴論だろう。]

ほんと、ほんと。
同情とか、ただ好かれてるから対応しなきゃとか、そーゆーんじゃ、ない。
一番最初からそうじゃなかったかはちょっと、何とも言えないけど……

でも今は、ちゃんと麦がかわいい。好きだから、喜んでほしい。
単純かね。

[数日。たった数日のことだ。
 6年前のことがあるとはいえ、ほとんどまっさらで、何にもない状態から始まって。
 まずは雇った。面白いやつだと思ったから。
 やたらと懐かれていると思ったのはすぐ。うまそうにメシを食うなと思ったのもその直後。
 その時点でかわいいやつだとは思っちゃいたが、好意としてその感情を示されたのはつい先日だ。
 それから今日に至るまで、何の変化があったかと言えば――自然な流れすぎて、具体的に口にするのは難しい。
 意識して見るようになった、それだけかもしれない。
 ただそれは、愛おしさとして芽を出すに充分だったということ。]

[ビビってる。弱さをさらけ出せば、笑みが返った。俺も笑った。
 麦が抱く感情を拒絶してのことではないと信じてもらえるなら何でもいい。]

え。

[「逆」の意味を取り違えたことに気づけずに、何度か瞬いた。
 奇妙な間が生まれる。
 欲の火は消えず、受け入れる勇気の見つけ方はわからず。
 現状はすぐに変わらないと思ったから、より現実的な方を、と思っただけなのだが。]

……はは、そーだよなあ。
あんま、抱かれる前提で恋する男いないわな。

[やや空虚に笑う。]

どーかなあ。

[実際に、繊細なそこは眠ったままだ。
 微かにちりちりと、肚の底が焦れるような感覚はあるが。]

けど、さっき俺の手に興奮してる麦がエロいなと思ったのは、ほんと。
顔必死に逸らして耐えてる麦が、やらしーと思ったのは、ほんと。

すぐに、はわかんないけど、正直勃つか勃たないかって言ったら、勃たなくなさそうだな、とは?

[種はある。愛おしい思いが芽吹いたように、その種はある。
 いざ性欲を前にして尻込みしてしまう身体では、実際問題どうなるかはわからないが。]

[テーブルは押し込まれる。
 床面に座る麦を見下ろす。
 酒精に蕩けかけた頭が、犬みたいでかわいいなと、甘えの一環として受け入れそうになったけれど。
 股の間に割り入る姿勢に、別の意図を知る。]

――お前は健気だねぇ。

[見上げてくる頭を、そっと撫でた。]

いいか悪いかで言えば、別に嫌だとは思わない、かな。
今のところは。

けど、今の俺がそれに応えてやれるかはわかんないよ。
悲しいことに身体は正直だし、酒はいってるとなかなか勃たないし、俺ももう麦ほど若くないし。

それと、今勃っても責任が取れない。
そのまま口でされてぶちまけんのも申し訳ないしなあ。

[ゴムとローションくらいは探せばあると思うが、他の諸々がいろいろと欠如している。
 せっかくのいい酒に水を差すこともあるまいと思っているが、どうだろう*]

――翌朝――

 んぁ……?

[呼ばれた気がする。
身体に感じる自分のものではない体温と柔らかさを抱き枕のようにぎゅっとしてから、左右に首を振って。]

 いま、何時……?
 朝飯は運んできてもらうんだったっけか……?

[瞼が開かないまま、紫亜の身体を完全に上に抱き上げる。
朝なので仕方がない変化はまあ何も言わないでおけば知らんふりをしてくれるかもしれない。

昨夜遅くにトイレに行ったついでに軽く入浴と歯磨きをして、酒は完全に抜けていた。
だから今ぐだぐだしているのは、二日酔いではなく、単なる堕落である。]

[朝食を食べないという選択肢はない。
この旅館の朝食はたくさんの小鉢に少しずつ入った各種のお惣菜で、もち麦ごはんにとろろもついていて、食べるのをとても楽しみにしていた。
だから、起きるという意思はある。]



 紫亜ー、 おはよ〜……


[声には出してみた。
ねだられるなら、キスも。
続けていれば頭は覚醒するだろうか。

寝ぼけ眼のまま紫亜の髪をかき混ぜて両耳を塞ぐ形で頭を固定し、少し上体を浮かせて唇を迎えに行った。*]

やらしー……


[なんとなく、シャツの裾を下に引っ張った。めくれていたわけでもないけれど。]


勃たなくはなさそう、ですか。


[どーかなあ。って。
つまり彼にもきっとわからないのだ。わからない同士。]


[ジャージの布越し、腿に乗せた手を緩慢に動かす。
撫でるというほどでもなく。
なるべく、下肢を押し開かせるような力を加えないように、指先で摩る程度。

頭を撫でられるのは好きだ。うっとりと目を細める。]


嫌じゃないなら。試してみませんか。


[応えてやれるかわかんない。そう続く言葉に頷いて、首を傾げて、と曖昧な相槌。]


もし、よしやろうって、気合入れて、
準備万端でダメだったら凹みませんか…。俺、凹みそうです。

今なら、飲んでたもんねー、急ぎすぎたねぇって。
また今度って。
落ち込まないでまた「次」の約束ができそうな気がします。


俺も、単純だし。ジンさんが好きだから、喜んで欲しい。
試してみて嫌だってわかったら諦める。

責任、ええと。
……口に出して良いです、し。
申し訳ないとか──


[責任の部分があまりピンとこなくて、そんなふうに言った。]


……あ!
もしかして、 不味い?

[それはちょっと。
きょろきょろして、押しやったテーブルの上に作りかけのチョコパイがあるのを見つける。良かった食べてなくて。]


口直しがあるので大丈夫デス。


[ばっちりだ。って顔。すりすりする。]


ちょっとだけ。
キスするだけ?それで平気だったらちょっと、舐めてみるだけ……とか。


[先っちょだけ、って頑張る人みたいになって。
でも別にきっと、やめとこうと言われれば引き下がるだろう。今日はもういっぱい頑張って、心もどこかで通じ合えて、良かったね。って。それだけでも満たされていた。
この日、良い酒で楽しんで。穏やかに眠れたかどうかは──*]



 ひゃ……、……

[身体を柔らかな檻に囚われて、咄嗟に胸板に手を添える。
寝起きの掠れた声を聞いたなら、目を細めてその様子をみとめながら。]

 アラームが鳴ってないから、
 まだ朝食には早いぐらいだと思います。

[寝る前にセットしたスマホのアラームはまだ大人しい。
朝食を届けてもらうにはまだ早い頃合だろう。
もうしばらくこうして微睡んでいても、怒られることはない。

完全に乗り上げてしまった彼の上で、ぱたぱたと足を遊ばせた。]

[まだ完全に覚醒していないのか。
目が開いてないことにくすくすと笑って、おはようございます。と応えて。
おねだりが受け入れられたなら、目を閉じて唇を受ける。]


 ……ン、


[髪をくしゃくしゃにされながら、触れ合わせるだけのキス。
離れていく間を惜しむように、唇で彼の下唇を挟んで、食んで。離れる。
まだ剃られていない髭が当たって、少しチクチクした。]


 まだ、眠い……?


[尋ねる声は甘さが滲む。
たまには怠惰な朝も、悪くない。*]

うん。

[復唱される勃たなくはなさそう、に肯定を返す。
 生理現象として、可能性はありそうだと思う。]

……それで、麦が嫌じゃないなら?
準備万端じゃなくても凹まない?

[勃つかどうかわからない。ダメかもね、で笑えるというなら。
 正直、俺だったら準備万端でなくても凹む気がする。
 ゆるく太腿に手がかかる。開かせるような圧は感じないが、その先に連想される行為があるから、触れられているその事実だけで、ぞくりとする。
 ただ、それは嫌悪や緊張ではなくて――煽られるような、熱の燻り。]

[責任。
 たとえば想像以上に俺が興奮して、衝動のままにセックスに雪崩れ込む可能性、とか。
 その時にきちんと、男を抱けるかとか。
 俺は俺の理性をあまり信用していないのでそういう最悪を懸念するが、麦の思考回路はそこにはつながらなかったらしい。]

口にかー。
まあうまかないだろうな。

[笑った。
 味は知らないが、人間の体液がうまいという話は聞いたことがない。]

口直し、ね。

[はは、と渇いた音が口を突いた。
 口直しがあるので不味くても大丈夫、と言われてどんな顔をすればいいんだ。
 笑気交じりの息を吐く。これからフェラチオしようって空気じゃない。
 だから、逆に、いいかって思った。]

んじゃ、やってみる?

[腰を浮かして、ジャージを引き下ろす。
 杢グレーの前開きトランクスだけが急所を守っている状態で、浅く、ゆったりとソファに座りなおした*]


 んん”〜〜〜〜
 まだ早いなら、もーちょっと、だらだらしよー?

[無邪気に足をばたつかせたら、寝乱れた浴衣が完全に脱げてしまいそうだと苦笑する。
まあこの姿で過ごす訳じゃなし、脱げたら着替えるだけだが。

瞼はまだ重い。
唇の位置は経験則で。
途中で鼻先に掠めようが顎に当たろうが、それはそれで恋人同士のキスとして間違いではないから、何度も軽く触れさせた。

伸びた髭が刺さっていると気づいたのは、頬にキスをした時に自分の手にも当たったから。
痛い?なんて聞いておいて、態と髭でつんつんしてみたり。

戯れに笑っていると、自分の声で段々覚醒してきた。]

[ゆっくり目を開く。
紫亜と目が合った。]


 いーな、こーゆーの。
 朝起きて一番に目にするのが紫亜っての、毎回幸せだなって思うし……。


[この部屋には誰もいないけれど、少しだけ恥ずかしいことを言うから声を潜めて、耳元で。]


 
……実は毎回どきどきしてる。

 はー、何時慣れんだろうな、これ。


[昨日の彼女よりも今日の彼女をより好きになるからか。
そこまでは言えないまま、照れ隠しにそのまま首筋に顔を埋めた。*]

[うまくはないだろう。
それはそう。それに、いい結果にならなければへこむかも。
でもきっと自分はこの先に何があっても大丈夫だろうと思った。根拠はないけど、だって、好きだから。]


はい、やってみます。


[床に座ったまま、ジャージが下ろされるのを見ていた。]

[浅く座り直した膝の間に、自分。
そっとかけた手の指が内腿の皮膚に軽く窪みを作る。

様子を窺うように表情を見上げたまま、背中を丸めた。
下肢の付け根に顔が近づく。]





[嗅いじゃだめかなと思いつつ、息を吸った。
すぐそばにジンさんがいるのを感じる。体温を手のひらに。

触れられるのが嫌じゃないかどうか。
柔らかな部分に鼻先を軽くうずめた。顔を見上げながら、じゃれつく犬のような仕草ですりすりとトランクスに懐く。
拒絶がないなら、顎を開いた。]


……あむ


[首を傾け、歯を出さないよう唇で柔らかな膨らみを食む。
内腿を軽く撫でながら、股座に人がいる状態を馴染ませるみたいに。]

は、ふ。


[竿の形を確かめるようにしばらくはむはむしていると、唇だけでも少し湿度が増して布地のグレーが濃くなってくる。
目線を上げて表情を見て、トランクスの前開きに指をかけた。]


……ジンさん、目、瞑っててもいいですよ。


[女の子ともやる行為だけど、女の子には見えないだろうから。]


でも出来れば、撫でてて欲しい。
やっぱりだめって、言わないで。ください。


[布の合わせから取りだして、また顔を寄せた。
吐息一つさえかけてしまう距離、今度は唇を閉じたまま。シュークリームの食べ始めみたいに、宝物に額ずくみたいに、そっと先端にキスをする。
痺れるような甘怠い感覚が腰に走って、ふわんと目を細めた。]

[誘われてしまえば断れるはずもなく。
笑って抵抗しなければ、それは彼にも伝わるだろう。
抱き上げられた際に少し浮いてしまった襟元も、今は彼しか見る人も居ない。

鼻先にから頬にかけて、唇や顎先まで。
落とされる唇に、くすぐったい。と笑いながら身を捩らせて。
髭が痛いかと聞かれたら眉尻が下がる。]

 ……ちょっとだけ。
 でも、いやじゃないです。

[接客業も兼ねているから身の回りはいつも綺麗にしている彼のこと。
こういった姿を見れるのが自分だけかもしれないと思うと、それすらも愛おしくて眦が緩んだ。]

[次第に眼差しも声も、いつもの調子を取り戻していく。
ふと混じり合った視線の先、密やかに落とされた声に耳を傾けたら、きゅうと胸が疼いた。]


 ………基依さん、可愛い、 


[ぽろ、と口から零れ落ちたものは取り消せない。
首筋に隠れてしまった顔は見えないけれど、その代わりにぎゅっと抱き込んでしまう。
緩く髪を撫でて、お互いの顔が見えないことをいいことに。

赤らんだ耳朶へと吐息を乗せて囁いた。]



  
私も毎日、どきどきしてます。
基依さんのことしか考えられなくなっちゃうくらい。


 
………もっと、いっぱい。どきどきさせて?
*

 

[触れるだけの淡いキスを何度か落として、
それから舌先でちろりと舐めた。
指を添えて、窪ませた舌を触れさせる。頬が熱くなるのを感じた。]


……、


[問いかけるみたいに顔をじっと見上げたまま、むずむずする腰を一度床からあげて、座り直した。*]

[「可愛い」と言われたら「でしょ〜♡」とノるのが卯田基依という男だ。
けれど今は、紫亜のくちびるから零れた、心から愛おし気な声に、どうしようもなく照れてしまって顔が上げられなかった。

溺れている。彼女に。]


 ……。


[何か言おうと思っても気の利いたことが出てこない。
本当に溺れているみたいにはくはくと口を動かしたら彼女の首筋が唇に触れて、反射的にまた痕をつけた。]


 ……がんばる。


[結局小学生男子のような拙い誓いをして、埋めていた顔を漸く起こす。
ふへっと笑って]


 手始めに、朝飯食って。
 昨日行けなかったとこまで散歩しようか。

 ……それとも、どこにも行かずにずーっとこうしててもいーけど。


[抱き締めた彼女を左右にゆらゆら揺らす。
完全に浴衣が脱げてほぼ裸になってしまったが、こんなだらしない姿、彼女にしか見せないのだから許されたい。*]

[ゆっくりと抱き込んだ頭を撫でる。
いつもならすぐに返事が返ってきそうなものなのに、今日はなかなか反応がない。
代わりに与えられたのは、チリ、と焼け付くような痛み。

 ンッ……、

 あ、……また、痕……
 隠せなくなっちゃう。

[元はと言えばおねだりしたのは自分だけれど。
季節柄、首筋を隠せるような服は持ってきていない。
絆創膏で覆い隠すしかなさそうだと、痕のついた箇所を指先でなぞる。]

[ジト目で見つめれば、幼く見えた笑い方に毒気を抜かれて。
ちゅっ、と音を立てるだけのキスを目尻へと贈る。

身体を揺すられたら、ンッと声を漏らして身じろいで。
はだけた浴衣が朝から目に毒で、眼のやり場に困る。
それに何より、さっきから気にしないようにしていたけれど。
生理現象で兆したものが下腹部を擦るから。]


 ……こうしてたら、
 
また欲しくなっちゃうから、だめ……



[気恥ずかしさに視線を反らして、そっと瞳を伏せた。*]



 旅行の間どころか、帰ってからの服装も困るよな?
 夏の間は首は我慢しなきゃ駄目か〜


[名残惜し気に言って、内出血をぺろりと舐めた。
汗ばむ季節、絆創膏だらけだと蒸れてしまいそうで申し訳ないし。]


 水着も見たいしな……。


[海なり、プールなり。
彼女がどんなデザインのものを着るのかにも興味があるから。]

[……想像したら、収まるどころか益々硬度を増したのは仕方がないとして。
夜中に風呂に入った時に怠惰にも下着をつけなかった、その全裸が居た堪れないのか目を伏せた彼女に、しゅんとした声を出した。]


 ……だめかぁ。
 じゃーちょっと収まるまで、じっとしてよう。


[素数を数えろって言うよな。
学が無いから素数が何かもわからないけれど。*]

……、

[浅くソファにかけて、視線を下ろす。
 そこには麦がいる。股の間、座っている。
 触れるだけだった指先に圧がかかって、やわらかい腿が窪む。]

はー……

[深く息を吐く。
 不思議な気分だ。ほんの数日前までは、ただのオーナーとスタッフの関係だったのに。
 緊張のような、興奮のような。
 このふたつはどちらも脳の作用は似たようなものだと聞いたことがあるな、などと頭のどこかが逃避のように思考する。
 なら、これは興奮なのだろう。背徳と、興奮。]

くは、

[敏感なところに頬ずりされて、もぞもぞとくすぐったい。
 なのに、吐息がかかって熱い。
 この熱は、覚えがある。劣情にまみれた、ほの昏い熱。]

ん――

[布の上から食まれて、その感覚にかすか、甘い色が鼻から抜けた。
 それが繰り返し、繰り返し。呼気で下着が湿るまで。
 もどかしい、刺激にもならない何かが、そこから背筋を這い上がる。]

……平気。
目、開けてらんなくなるまで、見てたい。

[目を瞑って、脳裏に女の痴態を描くことは可能だろう。
 その映像を使って雄を勃てることも。
 けれどそれは、違うものだ。]

へーき。
へーきだから。

[そろ、と片手を上げて、麦の後頭部を撫ぜる。
 押さえ込んでしまわないように、乗せている程度。]

ッ、ふ……

[まだ芯のない竿が、合わせからまろび出る。
 やさしい、やさしい口づけが落ちて、ぞくりと震える。
 それが拒絶や嫌悪でないのは、先端まで伝わるほどにひとつ脈打ったことから、わかるだろう。
 乗せた手がくしゃ、と髪先を捕らえた*]


 う。
 見えないところなら、
 全然構わないんですけど……

[さすがに夏の間ずっと詰襟のシャツを着るわけにもいかない。
絆創膏は返って目立つとも同僚にも言われてしまって、立つ瀬がなかった。
水着と聞こえて、視線を向ければ。]


 ……あ、えっちな顔してる。
 

[む、と眉根を寄せて。きゅ、と窘めるように彼の鼻先を摘む。
海もプールも、長らく足を運んでいないけれど。
でも、彼が見たいというのなら、それとなくどんな水着が好きなのかリサーチしておこう。とひっそりと計画を立てる。]

[消沈した声には、ドスッと胸を突かれた。
そんな顔をされると弱いのを知っているくせにずるい。
そもそも、本当に嫌ならとっくに身体を離しているのに。]

 
 …………。


[断りの言葉を今更撤回するわけにもいかずに、もじもじと腰だけが物足りなく揺れる。
昨日もあれだけ愛してもらったはずなのに。
己のはしたなさに顔を覆いたくなる。

アラームはまだ鳴らない。
そろそろ身支度を整えないといけないのに、離れがたくて。
はだけられた胸板を、そっと指先でなぞりあげた。*]


 そーやって甘やかすから俺が調子に乗るんだろ〜?


[見えないところを考えて、そういえば背中にはまだつけていなかったな、と。
後ろからすると彼女の顔が見えないのが寂しくて何となくいつも前からはいっていた。

そんなことまで思っていたから、水着の想像をしたら元々苦手なポーカーフェイスなどできる筈もなく。
鼻先を摘ままれてぎゅっと顔のパーツを中央に寄せた。
ばれたか、と舌を出したが、表情以上にやらしい反応がずっと彼女に当たっているというのは棚に上げている。]


 ……だめ、なんじゃなかった?


[言い訳すると、本当に素数を数えようとしていた。
1、3、5、7、11、13、17……までは。

身体が揺れるのは、紫亜がもじもじしている所為。
胸筋がぴくりと動く。]


 あんまり揺れるとはいっちゃうかもよ?


[偶然そんなことにはならないのをわかっていて揶揄うように言うけれど、声が欲情に掠れるのは誤魔化し切れなかった。*]

ん、ン


[腿に乗せた指の先が少し曲がる。
震えを感じ取って、それは指とくちから伝わってきてこちらの身も脈打たせた。]


ぁ、


[髪を揺らして撫でてくれる手にどれだけの力をもらえているのか、まだ伝えてられていない気がする。
離れていかない暖かさに誘われて、喉と舌を伸ばす。]

へー き?
もっとしても、いい ?


[先端を何度か舐めて、口づけて。
トランクスから覗く部分をそろそろと舐め上げる。]


ぅぅ


[不思議な感触、それ以上に熱がある。
直に触れることのできる体温が目を潤ませた。
涙だけじゃない、唾液もたくさん出てきて口の中が甘くなる。

仄昏い疼きが何度も背中を伝い降りていった。]




[唾をいっぱいに腔の中に溜めたまま、唇を緩めていく。
卵のパイの味を分かち合った時、どうしたっけ。
歯を触れさせないように大きく、大きく口を開けて]


    ふぁ


[中に。
耳から足の先まで全部熱くなってるのを感じた。

先端を含んで、戸惑うように止まって、また奥へと咥えていく。大きく開けようとしていても舌が持ち上がってしまって、ぎゅうと狭まった隙間に迎え入れるように。]

[唾が溢れてしまいそうになって唇を窄めた]


ん、んん
   っ


[粘膜同士が擦れるはじめての感覚に込み上げるのは、疾しいくらいの愛おしさ。
もぞもぞと腰を揺らして、脚に乗せていた手を伸ばした。
内腿から這わせて、浅く腰掛けた彼の腰へ腕を回す。縋り付くのか、捉えて逃さないように引き寄せるのか。

そのくせ不慣れな舌は遠慮がちにぎこちなく、絡める動きも拙いばかり*]

 だって、甘えてもらいたいし、
 
基依さんのものになれた気がして、嬉しいです、し……
 

 
……や、じゃないんだもん。


[だもん。だなんて子供じみた言葉を使って、ちら、と様子を伺う。
呆れられてしまわないかと怖れて。
まるで駄々を捏ねるみたいに言ってしまった自分が恥ずかしい。

痕はつけて欲しいだとか、かといって見えるにはつけないで欲しいだとか。
わがままが過ぎる。

朝から一体何の話をしているのか。
身体を揺すられて、下腹に当たる熱が更に淫猥な雰囲気を助長させる。]

[羞恥に瞳が潤んで、薄く唇を噛む。
煽られた身体は次第に熱を孕ませて、艶を帯びた吐息になって零れていく。 
揶揄う声すら、彼に馴染んでしまった身体は、たったそれだけの煽り文句で、びくん、と身を揺らしてしまう。]


 もといさんの、
いじわる……



[もう駄目とは言えない。
期待に震えた喉がこくりと鳴って、淫らに彼の腰元に疼く腰を擦り寄せた。*]

へー、き

[継続を伺う言葉には、頷きで応えた。
 これ以上下手に口を開くとなにかに耐えられなくなってしまいそうだ。
 耐える必要なんてないというのはわかっていても、理性の箍が外れきらない。
 恐る恐る、といった調子で舌が竿をくすぐる。
 あんまりにもどかしくて、見ていると約束したのに顔を逸らしてしまった。]

ぁ、


[はくん、と先端が咥えられて、粘膜のぬめりと熱さを直に感じる。
 思わず、といった調子の声が出た。]

ふ、――んん、

[拙い奉仕は、継続的な快楽の波を運んではこない。
 そのくせ、急に狭いうねりがこちらを捕らえるようにきゅうと締まる。
 一度齎されたそれを、脳が記憶してしまう。
 甘く濡れた音をこぼしながら、く、と背を丸める。]

待っ、 ――

[下腹に血の集まる感覚があるのに、それを拾い上げて育ててはもらえない。
 ガラス製の羽根にでも触るような、やさしい触れ合い。
 なのに口腔の中は狭まり、入り口は狭まり。
 逃げ場がないのに、責められもしない。]

ごめん、

[謝罪を口にして、目を伏せる。
 俯いて、背を縮こめる。
 拒絶と取られてもおかしくない。おかしくないが、このままストップがかかったら、気が狂いそうだ。
 だから麦の頭を、それ以上離れないようにそっと押さえて。]

……もっと、強く。

[血液の脈動は、粘膜越しに麦に伝わっているだろう。
 質量を増しはじめた竿の奥には、張りが生まれつつある*]

[子供みたいな口調も可愛らしい。
彼女の子供時代も知っているけれど、別にその頃のことを思い出す訳ではなく、今の彼女の姿で子供っぽい言い方をするのが堪らなく好きなのだ。
許されるものだから、きっと卯田はこの先も、所有印を幾つも刻んでしまうだろう。

すっかり卯田に馴染んだ身体はもう熱を求めている。
その潤んだ瞳に見つめられたら、焦らすことも揶揄うことも出来なくなって。

彼女の浴衣を雑に左右に払って太腿を撫で上げた。
きっとこの白いキャンバスが夏の間卯田の衝動を受け止めてくれるのだろう。
だが今この体勢からはつけるのが難しいから。
繋がることで互いに所有欲を満たすことにしよう。]

[初めは騎乗位で、途中で抱き合えないのがもどかしくなって、腹筋を使って起き上がった。
昨日の激情に任せた激しい抽挿ではなく、じわじわと土壌を耕すように、最奥の彼女が一番善がるところをぐりぐりと押す。]


 きもちいい?


[なんて聞いたらまた意地悪だと返されるだろうか。
恥ずかしがりながら求めれば言ってくれるから、卯田はまたそれに甘えてしまう。

ほら、ちゃんと言って?と。

なんて余裕も最後は保てずに――]


 ……っ
、 く、
ごめ
……ッ


[――置いてけぼりにしていなければ良いけれど。*]


 あ、 ぁっ ンッ……


[彼の腰の上でゆらゆらと身体を踊らせて、繋がった箇所からぱちゅぱちゅと水音が響く。
快感はぞくぞくと背筋を通り抜けて、仰ぐように天へと熱い息を吐き出した。
拙い腰の動きで彼を追い立てる。上手く動けないのがもどかしい。
泣きそうになって手を伸ばしたら、抱き留めてもらえて酷く安心してその背に腕を回した。]


 んッ、……いぃっ、……
 おく きもち、ぃ


[ゆっくりゆっくりと身体を開かれて、あまりの気持ち良さに涙が浮かぶ。促す声に浅く何度も頷いて、仕舞いには、もっと。なんて甘えた声で更にねだってしまった。]

[ぎゅうっと腕に力を込めて抱きつきながら、キスを乞う。
望んだものが与えられたら瞳に涙を溜めたまま、ふにゃりと笑う。
そんな余裕も、次第になくなっていってただがくがくと身体を揺すぶられて絶頂へと追い立てられていく。]


 
もと、ぃ、さっ……

 ……
すき
、……すきっ……


 ……――― ぁッ !


[身体の奥で広がっていく熱さを覚えながら、
声にならない声を上げて、彼の腕の中に溶けていった。**]

[見上げた視線は、どこかから交わらなくなっていた。
不安になるけれど、後頭部を撫でてくれる指は離れていかないから。逸らされた横顔が甘く綻んでいるのが、涙の膜ごしにぼんやり見えるから。]


ぅむ、ん゛


[謝罪に震えた頬にも、脈動が伝わるから。
おおきく、なってるから。
もっとって請う声が、自分と同じくらいきっと欲情してるから。]

[強くってどうすれば?
頭を押さえてくる優しい力に、下腹に集う疼きが強くなる。
苦しいほどの熱に腰を揺らして、片手で自分自身に触れた。
いつもそうする時に感じていた苦い自己嫌悪がないから、布の上から強く握る。]


んっグ


[こう、かも。扱くみたいに。なるべくぴったり密着させて?

唇で絞りながらゆっくり抜き出して、くびれに引っ掛かったらまた舌を絡めながら呑み込んでみる。
唾液でびちゃびちゃの舌は、酒精が染み込んでしまったみたいに甘く痺れている。サヴァランみたいに飾り付けたら、甘いのが好きじゃないジンさんも食べてくれるのか。]



[喜んでくれていることを感じたくて、時々目を上げて、耳を傾けて。

抜き出して迎え入れるたび、より深くへ。鼻がTシャツの裾に埋もれれば息が詰まる。
少しずつ喉の奥が突かれる圧迫感が増す。苦しさが増える。
舌の付け根までまでをうねらせて締め付けた。

くぐもるような、それでも甘ったるい呻きが漏れてしまう。ジンさんの腰にすがる手に力がこもった。*]

ん、ん"、    はぁ

[強く、と指示してから、飴を舐めるようだった刺激は、ただしく欲の波を齎す。
 扱くように絞られて、喉を鳴らす音が濁った。息を詰めてしまっている。
 吐く息が自分でもおかしいくらい、簡単に熱くなった。
 麦が、麦自身をも高めているらしいのを、下肢に触れる動きで知る。
 微か、その欲を垣間見れた目に喜色が浮かんだ。
 男はやはり、刺激を欲しがるところを知っているんだろうか。]

く――

[とろり、唾液の溜まりが竿を伝って、後ろに垂れていく。
 ぞわりと震える感覚すらも脳が快楽に変換して、また欲が育った。

 つい、強張ってしまいそうな力を逃がす場所がない。
 このままだと、麦の頭を、首を、抑え込んでしまいそうだ。
 クッションのひとつでもあればそれに逃がしてやれるんだがと、空いた片手がソファを探る。
 メリィらしきやわらかいウール地の端を掴んで、きつく握った。]

は、……むぎ、

[様子を見たくて逸らしていた目線を下に向ければ、目が合うこともあったろうか。
 熱に浮いた目を見るだけで性欲を煽られてまた膨れるのだから、すっかり堕ちたと言っても過言ではない。
 存在を主張している張りは、もうすっかりと芯を入れて熱ぼったい。
 こぼれ落ちる雫は、麦の口腔からあふれた唾液だけではないだろう。

 名前を呼んだ。髪を、指先で梳いた。
 愛おしい、と思えば、ひときわ育って。]

ごめ  、もー、すこし
ちょっと、  やば

[ふる、と小さく震えた*]



[苦しい。息が苦しい。
床に跪いて、喉奥を埋められて、うまく飲み込めない唾液が顎を汚し、
──すごく気持ちいい。
込み上げる嘔吐感。好きだ。圧迫感。好き。

圧と熱が増すほど、感じる味が変わる。それも欲の火を過熱する。
感じてくれている。きっと下手くそだろうフェラチオに欲情して、愛おしく感じてくれている。]


 ぃん、ん゛、ン


[名を呼ぶ声に応えようとしたけれど、出たのは熱に潤む音だけ。
技術なんてわからないから怠く痛む顎を開いて、できる限り強く舌を押し付けた。
上顎に擦り付けられる硬さに愛おしさが募る。

髪を撫でる指が優しくて、溜まっていた涙が零れた。]

[カーゴパンツを下ろす余裕はなかった。
中で、ボクサーを押し上げて、やけに濡れた音がしている。
もどかしい自慰は、口淫の飛び火で煽られて今にも決壊しそうになっていた。]


  ──っ


[二人、同じくらい、だろうか。
はちきれそうに脈打つ質量が、震えた気がした。

朦朧としかけていた意識をかき集める。
どっち、どっちだろう?今やめろって言った、もっとって言った?

しがみついていた腕を外し、顔を離そうと背中に力を込めた。
頭に触れていた手に力が入るならその動きは阻まれる、*]

ぅあ

[喋ろうとしたのか、舌の動きが不規則に変わる。
 それが頭を擽るようで、ぞくりと甘い声が出た。
 反射的に身を捩っても、押し付けられる舌と口蓋に挟まれて、追い立てられるばかりだ。
 女としていたときは、どうだったか。
 こんなふうに余裕なく息を詰めていたろうか。
 随分ご無沙汰だったとはいえ、まるで快感を知らないような反応をしてしまう。]

[にじむ走りは、止めどなく溢れている。
 唾液とは違う粘性が、ぬちぬちと竿を、そこに這う血管を、敏感な筋を絡めて離さない。
 余裕がなさそうなのは、麦も同じに見えた。
 扱き上げる、絞る動きに、前後の律動が混じって狂おしさを増す。]

は、ッ  ふ――

[自分の呼吸が荒く、やけにうるさく耳に届く。
 それから濡れた水音。衣擦れの音。――情欲の音だ。
 それを自覚するたび、どくりと下腹が熱くなる。
 このまま。このまま溺れて、手放したい。
 もう少し、と強請った言葉を叶えてほしい。]

……!


[だから、離れかけた麦の頭を、無意識のうち抱き寄せるように抑え込んだ。
 苦しませないように、やりづらくならないようにと触れているばかりだったのに、溺れかけた意識はそれを許さない。
 深さを求めて、腰を自ら浮かせ。]

やば、

[出る、と言おうとして、間に合わず。
 迸りを、喉奥に叩き込んだ*]


[のけぞろうとした動きが止まる。
逆に、抱き寄せられる力に従順に前へ。]


!グっぅ


[苦悶の音も、甘い恍惚を含んだままだった。
喉の奥の狭い柔らかい領域を尖端が突いて、反射的に痙攣した口腔が不規則な刺激をばら撒きながら喉を絞めた。

──熱くて苦いもの。]



  っか ハ
     ぁ、  ヴ


[粘稠の迸りは張り付いたようにそこに留まって、灼けるみたいだった。
チカ、チカと視界に光が飛んでいる。
頭に触れていた手から力が抜けたとしても、指先まで痺れて動けなくて。

吐き出せない精液を飲み込もうと、口の中の唾液を集めて舌をひくひくとせり上げる。
ジンさんの血管と筋とを舐めて、そこにまとわりつく残滓も嚥下しようと目を細めた。]

[やがて、鼻で息をすることを思い出して、痺れが収まり始める。
代わりに満たされる思い。

今、ずっと耽溺していたのは苦しいけれど愛おしい、情愛の行為だったと。]


ふ、ふ 。


[美味しいか美味しくないかっていたら正直に言うとすごく不味い。
彼の膝に緩く触れて、上体を起こした*]

は…………

[勢いに任せて吐き出した体液は、割と最低な無体を麦の身体に働いた。
 喉の奥の柔らかな粘膜を、体積のある竿ごと突き込んだ。
 喉の絞まるのを、先端で感じる。
 苦しげな声。思い切り噎せこんで床を汚しても仕方ないようなことをしたが、そうはならず。
 小さく呼吸に喘ぐような音だけ立てて、迸りを嚥下しようとしていた。]

[――という一連の様子を、ただ呆然と見下ろしている。
 頭の中身に全部布をかけて隠してしまったように、何も考えられず。虚ろに俯きながら、力が抜けてしまいそうな身体をソファに押し付けてどうにか座っている。
 残りのひと雫までとばかりに舐め取るのも、別次元のことのようだ。……現実だけれども。]

……ほんとに、のんだの。

[小さく笑いながら身体を起こす麦を見ながら、最初に出た言葉は無体への謝罪でなく驚きと呆れを混ぜた疑問だった。]

[シャワーを浴びたほうがいいんだろうなと頭のどこかでは思うのだけれども、身体が重い。
 吐精の疲労というのもあるが、それ以上に血流が巡り過ぎて、アルコールが一気に回った気がする。
 眠らない、眠るつもりはない、が。
 劣欲の熱が落ち着くほどに実感がやってきて、本能の呼び声のまま、のろのろと目を伏せた*]



んん、ンン!
……飲みました。


[声がうまく出なくて咳払いを何度か。
そして頷いた。]


……ジンさんの、あじ。


[シャツの裾を引っ張って口元を拭った。
俯いて、脱力してるように見える姿を見やって、キスしたいなと思った。
流石に差し障りがある。ふらふらと後ろを見て、そこにあったグラスの中身で漱ぐようにして飲み干した。]

だいじょうぶ?


[顔を覗き込む。
すこし虚ろにぼやけた目が、瞼の下に殆ど隠れてしまう。]


気持ち悪いですか?眠い?


[支えるように隣に這い上がって、体重をもたれさせる。
力が入らないのは自分も、だ。身を寄せて体温を触れ合わせ、力を抜く。
こんなに疲れる?
一番は顎と舌の裏が怠い。]

……。


[反応が乏しいけど、吐くとかではなさそう。
お水飲みますかと聞いたけど、立ち上がるのが難しい。]


……、


[今、満たされていて、動きたくない。ジンさんの隣も離れたくない。一分だって。

留め金を外して、身を捩ってパンツをずらした。
べたついた感触が気持ち悪い。
少しおさまってはいるけどまだ腫れて勃ち上がったままの。
フェラに感じてくれてるジンさんに、煽られて欲情した自分。

今ならたぶん、自己嫌悪で吐きそうになったりはしない。ぎゅ、と握って、まだ熱い息を吐いた。]


ジンさん、まだもうすこし。さわっていていいですか。
あとで、タオル……持ってくるから…


[肩に腕を回して、頭を自分の方へ引き寄せて肩口で支える。
撫でて、と要求するかわりに頭に頬を擦り付けた。**]

[その日は朝食の支度ぎりぎりまで抱き合って、朝食のとろろの所為にしてまた食後に布団に戻った。

首筋が心許ない彼女の為に、一人で一度外に出て、リネンのサマーストールを買って帰った。
彼女の洋服との相性は自信がないが、端のレースが上品で、色は合わせやすいクリームイエローのものを。

そうやって二人で出られるようにと配慮しながらも、二人きりが心地よくて、気づいたら触ってしまったり。
ごろごろしながらクラウドに保存してある料理写真を見て、彼女が食べたいものをピックアップしたり。

ゆっくりだらだらと過ごしていた筈なのに、気づけば最終日となっていた。]

[数日休んだ分、店に土産は買おうと思うが、何が良いのだろう。
ご当地の菓子を見ても、麦の方が上手に作ると思ってしまえばあまり気が乗らなくて、早々に菓子コーナーからは撤退してしまった。
初日の夕飯で出た地酒は夜の賄いで振舞おうかと1本購入して、個人的には。]

 ……うさぎだ。
 これどう思う?

[壁一面に並んだキーホルダーのうち、色んな色のTシャツを着た有名なうさぎのキャラクターの模造品と思われるものがあった。。
土地柄は全く感じない上に、公式ならばシンプルな顔がここまで崩れるか?という程度に絶妙にブサイクに仕上がっているが、これなら店員でお揃いを持てそうだ。
(実際に持ち歩いて貰えるかは考慮しない)。

青、ワインレッド、緑、灰色、麦の色は難しいから金色で、店長を白にして。
渡すことのない黒も買う。]

 紫もあるけど。

[彼女がこのブサイクなうさぎをつけたいかは別として。*]

そー……

[飲み下したそれを、おいしい?とは聞かないことにした。
 おいしいですよと返ってきたらそのまま味見することになりそうで。
 それはちょっと、行為の嫌悪感云々抜きにして、受け入れがたかった。

 口を漱ぐ様子も、ぼんやり見ていた。
 たしかに喉が渇いたな、と思うけれど、それを口にすることはないしグラスに手も伸ばさないので、そのままだ。]

うん。

[肯定と、]

いや……

[否定。だいじょうぶ?には首を縦に、気持ち悪いですかと眠いには横に。
 いや最後のひとつは否定要素はないのだけれど、この状態で眠るわけにはいかないと思っていた。
 反応は最低限。お水飲みますか、にはありがたく頷いたけれど、お互い動きが緩慢で、渇きは癒えなかった。]

いーよ。

[引き寄せられるなら、重い身体は液体のようにもたれかかる。
 重いだろうとかを気遣っている余力はあまりない。
 果てる前の熱を導く役を果たせるなら僥倖。]

なー……

   どうだっ た?

[試してみたほうが聞くのは立場が逆のような気もするが。
 もう俺は麦に咥えられて勃つどころか出せることも分かったので、みなまで言う必要はないだろう。
 気にかかるのは、麦の方だ。
 苦しくなかったか、ちゃんと興奮したか。
 ――オカズの映像は更新できたか、とか。

 クッションに縋っていたままの片腕も、麦の背に預ける。脱力した体勢が割と楽で、意識がふわりと、曖昧になっていく*]

[アラームが鳴っても暫くは離れがたいまま、時は過ぎていく。
襖の向こうで朝食の用意に来た仲居さんの声に応える彼にしがみついて、漏れそうになる声を必死に押し殺して背中に赤い筋を残した。

お風呂は部屋の露天風呂しか入れなくなってしまったけれど。
ゆっくりと二人でお湯に浸かるのも悪くはない。
「お背中流しましょうか?」なんて広い背中を泡だらけにして。
自分で付けてしまった彼の背中の痕に気づいて赤面したりもした。

ごろごろしながら見た料理写真の中には、今回出てきた旅館料理の他にも、彼の同僚たちが作った料理も沢山保存されていて、自然とSASANKAの話になる。
彼らの話をする基依さんを眺めながら、本当に好きなんだなぁと再認識して。
楽しそうに話す彼を見て表情が緩んだ。]

[あっという間に迎えた最終日には、彼が買ってくれたストールを首に巻いてお土産屋さんへと足を向ける。
会社へのお土産にと定番のクランチチョコや温泉まんじゅうを買っていたら、雑貨の前で立ち止まっている彼に気づいた。]

 うさぎ?

[ひょいと手元を覗き込む。
見覚えのある顔をしてるうさぎが此方を見ている。顔つきがちょっと違うから、おそらく公式のものではなさそうだ。
壁へと目を移せば、なるほど、Tシャツの色の種類が豊富だから目に止まったのだろうと頷ける。
同僚思いの彼に、くすくすと笑いながら、]

 いいんじゃないですか?
 みなさんとお揃い、仲が良さそうで。

[あまりに真剣な顔して尋ねるものだから、否定する考えもなく。うん、と頷く。
その中で紫を勧められたなら、小首を傾げた。]

 ……私も? いいんですか?

[スタッフ同士、揃いのものを持つのは仲睦まじくて微笑ましいけれど。
その輪の中に混ざってもいいのか、少し躊躇ってしまう。]

[でも、彼とお揃いのものが欲しくて。
輪の中に入ってみたくて、壁にかかった紫のうさぎを指先で揺らす。] 
 
 一緒に買っていいなら、ぜひ。

[紫のうさぎは、彼の家の鍵の番人になってくれるだろう。*]

[旅行自体を殆ど経験して来なかった身としては、自身で土産を選んだ経験にも乏しい。
貰う側になったことは何度かあるが、その時は消え物が多かった。

こうして形に残るものを贈ることが果たして同僚として適切な距離感なのかはわからないが、「残る」ことに拘りたかったのだ。
紫亜が否定しないでくれたから、それぞれのうさぎは卯田の掌に収まった。]

 ここに紫の仔がいるのに、俺が手を繋がない理由がない。
 だから、貰ってくれるなら、渡させて。

[彼女の趣味ではないダサいキーホルダーも、自分とつきあっている証に持っていて貰えるなら、明日からまた気軽に会えない日々が続いても、想像で慰められる気がするから。]

[離れがたくて荷物持ちと称して彼女の家までついて行った。
近所の人に噂されて彼女が暮らしにくくなってはいけないので、別れ際は玄関先で握手を長く。]

 また来れる日は連絡して。
 普通のしてても、連絡があったらうさぎのタイに替えるから。

[いつもそうしているのに改めて話す。
少しでも時間が欲しくて。]

 楽しかった。
 また行こうな。

[これももう何度目か。]

 ……おやすみ。

[漸く彼女を解放する4文字を言って、手を離す。
また握りたくなるのを堪えたものだから、振る手は拳の形をしていた。**]



うん……


[どうだったかと言うのなら。
苦しいし吐きそうだし疲れるし不味い、けど。
結論は一つに収束する。]


ジンさん、素敵です。
すごい……よかった。好きになってくれてありがとう。

[反応薄いジンさんは今、あまり聞いてないんじゃないかと勝手に思う。
ぐち、ぐちと酷い音を立てて手を動かした。
重さを預け合って抱き合っている人を想いながら。]


俺、ジンさんとセックスしたいです……


[今だって、力の入らない彼を身体の下に折り敷いて、暴いて思うままに揺さぶる想像は消えてない。

でもそれよりも、甘く爛れる声だとか。
少しずつ熱をもって充溢していく質量だとか。
優しいこの人が頭を押さえつけて、理性の外にある欲望を見せてくれたこととか。

オカズの映像はきっと大きく変わった。罪悪感と苦痛を取り払ってくれた。]

手作りスープもオムレツも美味しかったけど。
ジンさん自身を食べて俺の腹の中にいる感じ、すごい、幸せ。

俺も貴方の中に入って一部になってしまいたい。


[たぶんあんまり聴こえてないだろうって決めつけて。
余韻で緩くなってるくちから声をこぼしながら、手を乱暴に動かして息を乱した。
熱を吐き出す瞬間、抱きしめる腕にいっぱい力を入れて。]


……したい。

ジンさん、「次」は。
──俺を抱けるかどうか、試してくださいね。


[手で受け止めたけどティッシュ届かない。
Tシャツの腹で拭って、ついでにもぞもぞ脱いで、裏返ったそれを腰のあたりに被せておいた。
もたれ合っていれば寒くはない。飲み会の片付けは、すこし、眠ってからにしよう*]



 ……嬉しい。
 でも、一人だと寂しがっちゃいますから。
 私も、これ、買いますね。

[手に取ったのは、既に彼が手にしているものの中にもある灰色のうさぎ。部屋に飾ってあるぬいぐるみ達と同じように。ペアにするつもりで。

灰色のうさぎを揺らして、いつか彼がしたいみたいに唇を寄せる。
まだ支払いの前だから、触れる寸前で止めておいてリップ音を響かせた。

紫うさぎには、いつも灰色うさぎが必要なのだ。]

[長い休みを取った旅行は、瞬きするほどの時間で過ぎていって、気づいたら帰路になっていた。
繋いでいた手を離し難くて、部屋の前で足が止まる。
温かい手に手を包まれて、この体温が感じれなくなることを惜しみながら、別れ際の彼の言葉に、淡く笑む。]


 はい、また食べに行きますね。


[二人の合図はそろそろ周囲の人にも気づかれているかもしれない。うさぎが彼の首元で動く度に、好きな味が増えていく。]


 次は夏に。
 プールか、海……?
 楽しみにしてますね。


[それよりも早く、何度もお店や彼の部屋に通うことになりそうだけど。
こんなに長く一緒に居たのは初めてだったから、また次の遠出を仄めかす。

握手が解かれる間際、指先を絡めてきゅっと握りしめて手を解く。
おやすみなさい。と別れを告げる声は密やかに。
彼の手に温められた手を小さく揺らした。**]

【人】 オリト シア

―― SASANKAへ ――

[旅行から帰ってしばらくは仕事に追われた。
旅先で買ったお土産は、同僚たちにはまずまずの反応を貰って。
「旅行どうだった?」と尋ねられたら「
すっごく楽しかった!
」と間髪入れずに応えた。
留守の間に溜まった書類をこなしていく。

SASANKAへ行くようになってから外食費が嵩んでいるから、
残業は前よりも少し多くするようになった。

いくらかの軍資金を貯めて、書類の山となっていた束も崩せた頃。
今日は久々にSASANKAに顔を出せそうだという旨のメッセージを彼に送る。

SASANKAに行くのも、彼に会うのも旅行以来だから心が弾んだ。]
(76) 2021/05/26(Wed) 14:11:47

【人】 オリト シア

[残業もそこそこに切り上げて、私服に着替えてSASANKAへと向かう。
旅行中に付けられた首筋の痕は、大分目立たなくなった。
おそらく注意してみないと気づかない程度には。

夏が近づいているから、蒸れる首元を出したくて。
髪を纏め直して、サイドに束ねて蝶に巻きつける。
今日も紫の蝶が、髪に揺れている――。

SASANKAまでの道なりを、逸る気持ちを抑えて歩いて。
ようやく見えてきたうさぎのシルエットに「久しぶり。」と再会の挨拶を。
迎えてくれた感謝に指先でしっぽを撫でてから扉を潜った。*]
(77) 2021/05/26(Wed) 14:13:56
そか。

[聞いてないことはないが、返せる言葉は短い。
 どこか非現実的なもののように麦の声が頭の中をするする通り抜けていく。
 それを必死に捕まえて、返事をしていた。

 すてき。よかった。
 麦から聞くこの言葉たちを、きっとこれから少しは素直に受け止められ――いや、むしろ、色々と勘繰りすぎてしまいそうだ。]

[セックスしたいとまっすぐに欲を口にするのには、迷ったまま何も返せずにいたから、眠ってしまったと思われたかもしれない。
 正直なところ眠気はあるし、眠ってしまったほうが麦にはいいのかもしれない。
 自慰の声を聞かれ続けているというのは、想像するだに恥ずかしい。
 ……が、その声に興奮するのはこちらの本能なのか、眠気に身を任せるつもりがうまくいかない。
 麦が自身を追い立てる動きも相まって、半覚醒くらいの状態のまま声を、乱れる息遣いを、耳で受け止めていた。

 きつく抱きしめられて、吐精を知る。]

……そう、ね

[吐息に紛れた小さな音は、麦に届いたろうか。
 互いの劣欲が吐き出されてしまえば、いよいよ訪れる静けさ。
 誰が止めていたわけでもないが、意識はもう途切れていいと判断したようで、ふつりと切れた。
 シャツを脱ぐ動きも、それをかけられるのも気づかないまま、ソファに沈み込む。]

[――眠りが深くなる寸前、夢を見た、気がする。
 これが夢なのか、まだ意識したがる脳の妄想なのかは、定かでないが。]

……ふ、く、

[ゆっくり、力を抜いていてくださいと促され、マットレスに身体を預ける。
 女のように濡れない場所。ものが入るべきでない場所を指先でなぞられ、そのままぬぷりと侵入される。
 異物感に震えるも、それは想像していたよりは恐怖ではない。
 俺の覚悟が決まったのか、愛ゆえか、それとも相手が丁寧でうまいのか。
 あるいは、意識の深いところでは、求めているのか。
 そんなことを考える余裕はなく、膝を震わせて――]

[目が覚めるのは、太陽が空をあかあかとした紫に染める頃*]

【人】 オリト シア

[店内に入れば、すぐに彼が見つけてくれた。>>79
久しぶりに聞いた彼の声が相変わらず優しくて目尻が緩む。]

 こんばんは。

 え、そうですか?
 最近、ちゃんと食べてなかったからかな……。

[彼に言われて頬を抑える。
確かにここ数日、帰りが遅かったからスーパー残り物になったお惣菜や、チンするだけの冷凍パスタなんかで食事を済ませてしまっていた。
体重計にも毎日乗っていたけど、最近はサボっていたから体重の変動には気づけない。
見た目に出る程だったら困るな、と眉尻が下がる。]

 今日はいっぱい食べるので、大丈夫ですよ。
 ハンバーグ、大好きです。

[ぐっと両手を拳に作り変えて笑って見せながら、ブラックボードへと視線を移す。]
(80) 2021/05/26(Wed) 15:33:50

【人】 オリト シア

[ブラックボードに書かれた食材は今日も好きなものばかりが並ぶ。
中でも野菜は特に。トウモロコシもスナップエンドウも、人参も食べたい。]

 あ、あとトウモロコシで。
 一品お願いしてもいいですか?

[トウモロコシの黄色は、彼が選んでくれた淡い色のスカーフを思い出す。
スツールに腰を掛けて、そんなリクエストを一つ。]
(81) 2021/05/26(Wed) 15:35:19

【人】 オリト シア

[カウンターへと視線を移せば、先に入っていた常連さんの姿が見える。>>70
嵐さんの隣にランさんが居たから眼を丸くして驚いた。>>62

 こんばんは、宇張さん、嵐さん。

[少し離れたアキさんには手を振って。>>27

 宇張さんは今日はお客さんなんですね。
 デートですか?

[ちょっぴりひやかしも交えつつ、にこにこと笑って尋ねる。
宇張さんの指に光るダイヤが>>42、ホールを彩るライトに反射して輝いた。*]
(82) 2021/05/26(Wed) 15:36:21

【人】 オリト シア

[嵐さんに髪型を褒められたなら>>86、照れ臭さに髪を弄る。]

 暑くなってきたので、
 纏めてみるのもいいかなと思いまして。

[蝶に触れたらサイドに取った後れ毛が、はらりと束になって落ちた。]

 宇張さんはショートカット、お似合いですよね。
 髪、伸ばさないんですか?

 ショートカットもお似合いですけど、
 髪を伸ばした宇張さんも見てみたいです。
 
 ね、嵐さん。

[そんな話題を振りながら。
カウンターに有村さんの姿が見えたから、洋ナシのノンアルコールシードルを頼む。
以前、飲んだ時に美味しかったから、同じものを。
その内、ノンアルコールじゃなくて、アルコールが入っているのを作って貰うのもいいかもしれない。*]
(91) 2021/05/26(Wed) 16:29:26

【人】 オリト シア

[基依さんに自分でも気づかなかった身体の変化を指摘されて、よく見ているなぁとしみじみと思う。
ちょっとしたことで見られる体重の変化は、悩みの一つでもある。
太ってお肉がついちゃうのも嫌だけど、あまり痩せ過ぎて骨ばった身体を見られるのも抵抗がある。ほら、抱き心地がどうこうって聞くし。

此方の様子を伺う彼を安心させるように笑って。
これからの食事に気を配ろうと誓いを立てた。]

 わぁ、コーンスープ好きです。
 お店の味? どんなのだろう。

[ハンバーグのソースは耳慣れないもの>>87だったから、小首を傾げた。
彼の腕なら、おいしい以外のものが出てくるはずもないので。そこはおまかせすることにして。

水に口をつけながら、いつものようにカウンターキッチンに向かう彼の姿を眼が追いかけた。]
(93) 2021/05/26(Wed) 17:43:36

【人】 オリト シア

[ホールをメインに働いていた彼も好きだったけれど。
厨房に立つ姿を見るようになってからは、垣間見える真摯な眼差しにどきどきして、やっぱり厨房で働く彼が好きだな、と実感する。
野菜を器用に剥く指先も、大きな鍋を持つ力強い腕も。何もかも。

その器用な手が、力強い腕が、私に触れるのかと思うと―――、
止めよう、これ以上考えたら胸の高鳴りが収まらない。

注文したドリンクが届いて、半分ほど量を減らした頃。
ふわりといい香りが漂ってくる。>>89

コーンスープの甘い香りに、お肉から滴る赤ワインと玉葱のソース。]

 わあ、……おいしそう!

 ラップサラダもいいですね。
 スナップエンドウもにんじんも好きなんです。

[両手を組み合わせてはしゃいで、まずは料理の見た目を堪能する。
ハンバーグが好きな兄に自慢しようと、スマホでぱしゃりと一枚収めて。
冷めない内に、いただきます。と両手を合わせてからナイフとフォークを手にとった。]
(94) 2021/05/26(Wed) 17:44:24

【人】 オリト シア

[シャリピアンソースはステーキに掛かっているのを何度か見かけたことがあった。
ナイフでハンバーグに切れ目を入れて、一口サイズにして。
みじん切りされた玉葱がお肉に絡む。脂が浮かんでいるのはお肉の脂だけではなさそうだ。バターと赤ワインの豊潤な香りが鼻孔を刺激した。

口当たりは牛肉で作られたハンバーグよりもさっぱりしているのに、玉葱がそこに絡むから甘さが残る。]

 ん、おいしい

[口の中でお肉の脂がとろけてなくなる。
トルティーヤチップスでエスプーマを掬えば、泡がたっぷりとチップスの上に乗る。
歯を立てたら、さくりと音がして触感がいい。一口だけじゃ飽き足らず、二口、三口と口にしてから、コーンスープへと移る。

コーンスープと聞いたから温かいものを想像していたけれど、出されたものは冷たかった。
スプーンで掬って口元へ運べば、コーンのまろやかさが沁み渡る。コーンだけではないのか、溶けた玉葱と崩れたじゃがいもも見つかった。
十分に煮込まれた野菜がほろほろと口の中で溶けていく。]
(95) 2021/05/26(Wed) 17:45:12

【人】 オリト シア



 ん〜……、お腹も満たされるけど、
 気持ちも満たされる〜……おいし……

[ほわり、美味しさに表情が緩んで。幸福感でいっぱいに満たされた。]
(96) 2021/05/26(Wed) 17:45:34

【人】 オリト シア

[苦笑混じりに響いた嵐さんの声は柔らかい。>>92
聞くからに本心と分かるそれ。
表情から滲み出る、ランさんへの愛おしさに思わずランさんを見た。
ランさんの反応はどうだっただろう。
すこし照れているようにも見えたかも。

茶化すのも野暮な気がして、ただ目を細める。]


 ふふ、そうですね。
 好きになった姿が、一番ですね。


[二人の様子に微笑ましくなる。
その様子を眺めながら飲むノンアルコールは、
お酒も入っていないのに、二人の熱を移されたみたいな味がした。*]
(97) 2021/05/26(Wed) 17:46:21

【人】 オリト シア

[美味しいからついつい食事が進む。
半分ほどお皿を空けたところで、カウンター越しから食べっぷりを指摘されて、頬を染めた。]

 う……、だって美味しいんですもん。
 お腹も空いてたし……、ついついお箸が進んじゃう。

[久しぶりのまともな食事。
それがお店であろうとも彼の手料理となれば食べないはずもなく。
好物とあってラップサラダまで追加注文してしまった。

ハンバーグをフォークで刺して、口に含んで。
幸せそう>>109と言われれば、ふにゃりと様相を崩す。]

 
 そりゃ、好きな人が作ってくれた
 ご飯を食べられるんですから。
 幸せです。


[完食したお皿は、ソースも残らずに綺麗に空になった。]
(113) 2021/05/26(Wed) 20:57:37

【人】 オリト シア

[ナフキンで口元を拭って、グラスを傾ける。
早くも懐かしい味は、甘い洋梨の香り。
すっきりとした味わいが喉元を過ぎていく。

不意に彼の口から、おめかし。なんて言葉が出てきて。
意図が分からずに「ニョッキ?」なんて尋ね返した。
ニョッキとおめかしの共通点が見つからないけれど、
誘われたなら断る理由もなく、はい。と頷く。]

 
 ニョッキって確かじゃがいものパスタ? ですよね?
 じゃがいももパスタも好きです。

 いつになりますか? 


[ちょうど夏に向けて、
サマーワンピースを買おうと思っていたところ。

食事中に服を汚してはいけないからとずっと避けていたけれど、思い切って真っ白なワンピースに手を出してみるのもいいかもしれない。

なんて、考えながら。
また一つ増えた約束事に、心が踊った。*]
(114) 2021/05/26(Wed) 20:58:12

【人】 オリト シア



 えっ? 何か不味いこと言いました?


[手で顔を覆った基依さんの表情は見えない。>>120
隣から向けられる温かい視線にも。>>118

何か狼狽えさせるようなことを言ってしまったのだろうか。
おろおろして様子を見守ったけれど、
隠しきれない耳朶が赤く染まっているから、
悪い方向ではないと信じたい。

自分の言葉が彼を一喜一憂させてることに気付けるのは、
まだもう少し先の話。]
(127) 2021/05/26(Wed) 21:43:19

【人】 オリト シア

[ニョッキにそんなに種類があるなんて知らなかった。]

 わぁ、どれも好きです。
 チーズもあるんですね。

 ソースは? トマトソースですか?
 生地から作るの、面白そうですね。

[両手を打ち合わせて、「楽しみにしてますね」と、微笑んで。
早速スマホを取り出してアプリのスケジュール帳を確認する。

いくつか候補を上げて、予定が合いそうな日を二人で選んで。
予定が決まったら、うさぎのアイコンをその日に設定した。
来たる未来にわくわくしながら、胸にスマホを抱く。]

 じゃあ、この日に有休取っておきますね。
 朝に一緒に出かけられるの久々だから、嬉しい。

[前もって予定を立てて、おめかしして欲しいなんて注文まで入るということは、何かしらきっと特別な日になるだろう。
サプライズ?まさかね?
膨らむ期待にそわそわして落ち着かなくなったけど、彼が私を喜ばせるために考えてくれたことなら、何だって嬉しい。*] 
(128) 2021/05/26(Wed) 21:44:18

【人】 オリト シア

[お客さんとしてカウンターに座るランさんは、
いつもと少し雰囲気が違う。
それが見慣れない普段着から来るものなのか。
それとも彼女の隣に嵐さんが居るせいかのか。

はにかむ姿>>125はいつも毅然と対応している姿よりも随分と女性らしく見えて、とても綺麗だった。

髪の長いランさんはちょっと見てみたくはあるけれど、
二人の様子を見ていたら、>>126>>131
これは暫くはランさんの髪は短いままだろうな、という想像は容易い。]


 わぁ……、ごちそうさまです。


[思わず口から漏れた。
お互い様だなんて言葉は知らない。*]
(134) 2021/05/26(Wed) 22:05:18

【人】 オリト シア

[リマインダには頷きを。
忘れない内に指を滑らせて、送っておくことにして。]

 秘密?
 当日のお楽しみ、ですか?

 ジェノバソースってバジルですよね。
 それもいいなぁ……。

[顎元にスマホを当てて、トントンとリズムを刻みながら、歯切れの悪い彼>>140をじっと見つめる。
まだ彼は全てを明かす気はない様子。
それならそれで先の楽しみとしてとっておこう。

一度、失敗したプロポーズに出されたビーフシチュー、
パーティの時に出してくれた二人の色が彩られたデザート。

料理に意味を持たせる彼のことを知っている。
何気なく出されたニョッキにもきっと、彼なりの思惑があるのだろうと予想して。]

 基依さんが驚くくらい、
 めいっぱい、オシャレしてきますね。

[今は深くは触れないようにして、笑いかけた。*]
(150) 2021/05/26(Wed) 22:50:20
――温泉旅行の幕間――

[アラームが鳴って何分経ったのだろう。
まだ時間があると思っていた訳でもないが、彼女の中に一度放った後、離れ難くてそのまま抱いていたら、呼吸に合わせて柔く締め付けてくるものだからすぐに復活してしまって、今に至る。
結合部からは割と激し目の水音が響くものだから、聴覚にも煽られて、もう途中で止めようもなかった。

 『失礼します。朝食をお持ち致しました』

そんな声が聞こえて、二人ともが硬直した。

 『お客様……?』

……普通、こんな状況だと萎えるものなのではないか。
こんな状況になったのが初めてだから何とも言えないが。
驚くべきことに、一向に堅さは失われず、彼女の方も強く締め付けてくる。]

─ いつかの夢の話 ─

[うさぎの穴の灯が点らない休日にて。
窓の外では、太陽が空をあかあかとした紫に染めていた。

狭い巣穴に潜り込むのはひよこに毛のはえた若鶴と。]



……仁さん。素敵です。


[囁く声が濡れる。
おつまみと、キッチンで飲む美味しいお酒。
淡い酔いと共に交わす抱擁、愛撫、接吻。繰り返したその果て、

丁寧に丁寧に恐怖をほぐし、愛情を注いで。
互いを求めあう夕暮れ時。]


 っ、 あー、すみません、今、起きまして……


[声を掛けられて無視が出来ないのが接客業のかなしい性。
つい応答したら、彼女の爪が背中に突き刺さった。
非難されているのかと思ったが、どうやら表情を見る限り、むしろめちゃくちゃ気持ち悦さそうで。
その様子に煽られて、つい腰を揺らしてしまう。]

 今から着替えたいんで、準備はそちらでお願いしてても良いすか?
 この後いただきます。

 っ、ありがとうございます。


[ちゃんと澱まずに言えたと思う。
激しくすると音や息遣いでばれるから、先端を内壁に押し付けたままぐりぐりとしか動かせなかったけれど。
彼女の方は涙も流して声を堪えるのに必死そうだった。

 『――では、失礼します。ごゆっくり』

長い長い数分だった。
汗なのかそれとも自分たちの秘所から溢れたものなのか、とにかく太腿がぐちゃぐちゃに濡れていた。]



力を抜いていてください──



[狭いシングルベッドのマットレスへ、
愛おしい人の肢体を沈めた。

押し拓かれて震える膝へ、口づける──*]


 あ〜〜〜〜駄目だ、も、動く……っ


[散々背徳感で昂った数分が過ぎて、限界が来た。
一番自分が強く突ける体位を求めて彼女の身体をそのまま押し倒し、脚を持ち上げて上からどちゅどちゅと穿った。

そして幾らも経たない内に、再び彼女の胎内を白く染め上げたのだった。**]

―― 旅行の幕間 ――

[あえかな声と荒い息遣い、衣擦れの音だけが響く。
朝の明るい日の下で、ゆさゆさと身体を揺さぶられて堪らずに身をくねらせる。
アラームを止めようとした手は遮られて、背に導かれる。
スヌーズに切り替わった時計は定期的に時を訴えるのに、繋がった箇所は未だに酷い水音を立てて、理性を突き崩してくる。]


 もぅ、……だめっ、……


[弱い抵抗は何の意味も果たさない。それよりも繋がった場所がきゅうきゅうと甘く締め付けて彼を離さないから身体は正直だ。
とろりと瞳が落ちて、甘い快楽に溺れていきそうになる。

そんな折に、隣室から声を掛けられてびくっと身体が跳ねた。]



 ……っ、……ッ !



[人の気配に身体が強ばる。思わず顔を見合わせた。
ふる、と弱く首を振って彼から離れようと身体を攀じったら、返って悦い場所に当たってしまって咄嗟に口元を覆った。]


 
……ンッ、  ふ、ぅン……



[普段どおり会話を進める彼に目を見開く。

隣に人が居るというのに再び始まる律動に視界が滲んだ。
仲居さんに気付かれないように懸命に息を押し殺してやり過ごす。
甘く送られてくる刺激にびくびくと打ち震えて、内腿で彼の腰を締め付けた。

羞恥に堪えきれないのに、それが返って刺激になってじわりと蜜が溢れて、彼自身の動きをより滑らせてしまう。]

[隣室からの物音がようやくしなくなったら。
詰めた息を吐き出して、柔く彼の胸を突く。]


 もっ、……、ばかっ、ひどいっ……
 

[涙が浮かび、言葉だけは彼を非難したものの、甘く焦らされた身体は限界を訴えている。
ぎゅうっと抱きついて、更に奥へと彼を誘う。
我慢しなくてよくなった声は、高く、甘く、切なく、彼を求めて。
追い立てられるままに、絶頂へと導かれていく。

その日の朝食のお味噌汁は、猫舌に優しい温度になった。**]

【人】 オリト シア

―― *** ――

[久しぶりの有休は奮発して2連休。
昼過ぎに自宅を出て、まずはネイルサロンへ寄って指先を彩ってもらう。
カラーは薄いピンクにグレーを混ぜて。
散りばめらたラメと白い花が指先で花開く。
指に彼のカラーが添えられて、両手を開いて眺めて表情が緩む。

その後は、美容室にも寄ってメイクと髪を整えてもらった。
髪を編み込んでもらって中央で束ねて、ハーフアップにしたら薄紫のリボンで留めて、アクセントに彼から貰った紫の蝶を踊らせる。

メイクは白いドレスに合うように甘めのピンクベースにしてもらった。
ふわふわしすぎないように、口元は鮮明なピンクのリップを引いて引き締めて。

肩口まで開いたオフショルダーのドレスは少し奮発した。
めいっぱいおしゃれをしていくと言ったから、多少大胆なデザインでも許してもらおう。]
(173) 2021/05/27(Thu) 0:57:03

【人】 オリト シア

[その日のブラックボードには、おすすめ料理にニョッキが並ぶ。>>163

料理をしながら語られる彼の言葉に耳を傾けて。
時折相槌を打ちながら、応える。

普段の何気ない「いつも」を特別と言ってくれることが嬉しくて。
「毎日」が欲しいと望む彼と同じ気持ちであることを伝える。]


 私も、毎日一緒に居られたらいいなって思います。


[彼の家に通うようになってから、彼と別れて自宅に帰ることが寂しくなった。
仕事を終えた彼を迎える日は、ねぎらいの言葉を掛けて彼を癒やして。
仕事に向かう彼を送り出す日は、いってきますのキスをして見送る。

そんな日が、毎日続けばいいと心から思う。]
(175) 2021/05/27(Thu) 0:57:28

【人】 オリト シア

[締められる言葉と共に、眼の前に出された料理は。
私の好きなじゃがいもがたくさん詰まっていて、紫のじゃがいもにグレーのソースに彩られていた。
お皿の中央でうさぎが笑っている。

「これからの人生」に「紫のうさぎ」それを意味する言葉に胸が詰まる。
料理と、基依さんを交互に見比べて、その言葉が間違いでないか確かめるように。何度も彼と眼を見合わせた。

手を取られて、薬指を指し示されて。
ストレートに言い直された言葉に、間違いはないと知る。

感極まって、胸が打ち震えて。
じわりと目尻に涙が浮かぶ。

答えなどとうに決まっていた。

ずっと、ずっと一方的に視線が追いかけていたその姿が。
今は、真摯に眼差しを返されて私の姿を映し出す。]
(177) 2021/05/27(Thu) 0:58:58

【人】 オリト シア

[目尻に浮かんだ涙を指先で払う。]


 ――――――はい。
 私を、幸せにしてください。

 貴方じゃないと、だめなんです。


[これからは、大好きな人とずっと――、
「いただきます」と「ごちそうさま」を、「毎日」一緒に。**]
(178) 2021/05/27(Thu) 0:59:23
 




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