174 完全RP村【crush apple〜誰の林檎が砕けたの?】
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視点:人 狼 墓 恋 少 霊 九 全 管
[私は喉がひきつれるのを感じた。
小泉さんは死ぬ、死ぬけれども。
津崎さんは、生きている。]
ああ、あ、う、ぅ…
[ほっとした、悲しかった、でも今凄く安堵している。]
[天使の顔が見える。声が聞こえる。]
[今、私はどこにいるのかな、それすら、よくわからないけれど。]
…………津崎。
………………そっか。
[深く深く深く溜息を吐いた]
………っ、
[天使の声を聞いて
、意識が戻っていく感覚がした。]
……徹っちん、よかった…。
[苦しさはどうしてもあるけれど、夢の中、残された2人の前では聞こえないにしても発せられなかった自分の声で目を覚ます。
両手で顔を覆った状態のまま聞こえた自分の声はひどく掠れていて、頬に熱いものが伝わるのがわかった。]*
―― 病院 ――
[緩慢に右手を上げたら、いつもの服じゃない──手術着?みたいな?──服を着ていて。
起き上がったら「黒崎さんの意識が云々」って看護師さんたちの声がした。
でもどこも痛いところはないし、頭が痛いなどということもなく。]
……武藤、もここにいるのかな……?
[ぽつりと呟いた。
武藤に、会いたい。*]
[乱雑に目元を擦って起き上がると、くっきーの病室に走る。
場所は確認していたから迷うことはなかった。
病室に着けばノックもせずに勢い良く戸を開けてしまったけど、中に誰かとかいたらどうしようとかは考えてない。
誰かしらいたとして咎められたとしても聞くつもりもなかった。
姿が見えれば真っ直ぐ駆け寄って]
……、おかえり。
[此処にいることを確かめるように抱きしめた。]*
[とりあえず、詳しい検査は後とかで、看護師さんたちが部屋から出て行って。
そうか、ここ、やっぱり病院なんだ……?って、少しぼーっとしていた。
突然、ノックも無しに扉が開いたから、肩が跳ねるくらいには驚いたのだけど、向けた視線の先には、もっと驚く人の姿があって。]
…………武、藤……?
[武藤だ。
あれ、病院って、皆、一緒なのかな。
いや、まだ夢の世界だったりするの?
いろいろ、混乱したのだけど、]
武藤……、ほん、もの……?
[抱き締めてきてくれた熱も、腕の力とかも、記憶に残る人のもの。]
ほん、もの、だ…………?
ただいま。
ただいま、武藤。
[やっと会えた。会いたかったよ。*]
[あの夢の世界ではそこまでではなかった睡魔が襲ってきて、ああこれは現実なんだなと思い知らされる。
色々、話したいのに。
津崎、戻ってくるよ、良かったね、とか。
遺言とか聞かされたのに案の定無駄だったよ、とか。]
……武藤。
起きたら、たくさん話せる……?
[話したいなあ、と呟いた声はもう寝息に溶けていた。**]
─病院─
[ゆっくりと瞼が開き、日中の日差しの明るさではない電光が目に入る。
と同時に、突き刺さるような切り裂かれるような喉の痛み]
、 。
[案の定、声が出なかった。
段々出なくなっていた原因はこれか、と喉に手を当てる。
さすがに眠っていた時間のせいか、点滴の管が刺さってた。
俺、筆談とか出来ねぇんだけどどうすんだろ。
看護師や医師がわあわあとやって来てあれこれし始めるのをよそめにそんなことを考えていた。]
[どれくらいぶりかに思える自分を呼ぶ声に安堵の息を吐く。
不思議そうなのはまだ寝ぼけているからだろうか。
還って来た後はオレもそんな感じだったなと随分前のことみたいに思う。]
ああ、本物だ。
ちゃんと此処にいる。
[生きて此処にいる。オレも、彼女も。
夢の中ではずっと側にはいたのだけど、こうして声が届くことが、触れられることが、まるで夢みたいだけど現実だ。]
ありがとう、還ってきてくれて。
[還る希望をオレに持ってくれて。]
……頑張ったな。
[泣かないと気を張らせてしまったこととか、いろいろ。
夢の中でのままならないこと沢山。
なんのこと言ってるかわからないかもしれないけど、きつかっただろう諸々を思い返して頭を撫でた。]*
[工藤は夢の中で天使の声を聞いた。
そして夢の主を知った。
涙は流さなかった。]*
[すっかり着替えさせられていた、元の服はズタボロになっていて。
それで滅多刺しにしたTシャツも元に戻れなかったんだなと理解する。
色々リンクしていたらしい不思議な夢、なんと目を閉じて眠れば行けるそうで。
粋な計らいね、と心の中で悪態でも吐くとしようか。
置いてきた津崎くんが最後に目覚めるのだと天使は言った。
つまり小泉くんが亡くなったのだと。
二人がどんなことを話すのか。
気にならないといえば嘘になる。
それでも俺は、なるべく覗くまいと思う。
もし呼ばれたことに気付けたなら、行こうかな、くらいで。
死者を、そこにまだ等しくいる者を覗くのは
生者である俺には気が引けた。]
うん、起きたら話そう。いくらでも話せる。
…おやすみ。
[時間はいくらでもあるのだからと、眠りに落ちるのを見届けた。
ベッドの横に椅子をつけて、手を握れば上半身を眠るくっきーの傍らに預けて目を閉じる。
人の病室で寝てたら看護師などが来た時に引き摺り出されるかもだけど、それまでは。]**
──いつか・病院?──
[もしも松本先輩に会えたならこう言っただろう。]
松本先輩のことは、私が殺します。
[夢の中、死のうにも死に切れぬ松本先輩の喉を何度も切り裂いた。
どうせ殺せないと分かっている夢の中で、介錯を繰り返すのには訳があった。
今もまだ、工藤の腕が殺害の感触を覚えている。どの角度が一番いいか、どれほど力を籠めればいいのか、どれほど勢いをつければいいのか。一瞬で致命傷を与える方法を、何度も研究して身に着けた。
研究のためだった。やがて松本先輩が夢から目覚めた時、苦しまずに送るための。]
今も死にたいですか。
[そう問いかけたものの、松本先輩はなぜか声が出ないらしい。これは工藤も予想外だった。
だから、行動は先送られることになっただろうか。]*
[還った今でも、代わりに死ねたらよかったと思う。
それが津崎くんであれ、それが小泉くんであれ。
なんでなんだろうなって、俺が死ぬまで思い続けて行くし
いつか俺が死んで神様に会う時が来れば、積年の恨みでぶっ飛ばしてやるよ。
生きていてほしいと願った津崎くんは、生きている。
生きていてほしいと願った小泉くんは、死んでいる。
どうにもならない。
それでも、悔しい。悲しい。辛い。
小泉くんはいいやつなのに。]
[物思いに耽っていた時か、工藤ちゃんが部屋に来た のは。
告げられる言葉に目を丸くしてしまう。
驚きこそすれど、少しの間をもって、ああやっぱり優しい子だなと思う。
俺が死にたいことを理解してくれていたから
殺すという手段を考えていてくれたのだろう。
死にたいかどうか。
暫く考えて、ゆっくりと一度だけ首を横に振る。
大切な人が帰って来るのを待たなくてはならないから。
それを伝える手段はなく。
ただじっと工藤ちゃんを見つめるだけになってしまう。
それでも何かは伝わったのだろうから、
研究を重ねたその行為は先送りとなったのだろう]*
は 、
[工藤ちゃんが帰ってからの一人の病室で短く息を吐いた。
目を閉じる、両手で自分の耳も塞ぐ。
最後に聞いた願いを頭の中で繰り返す。
──生きていてくれてよかった。
息を吐く。細く、長く。
思い出せる限り、津崎くんの声を、歌を
暫くずっと、ずっと思い出し続けている]**
―― 病室 ――
………………。
[ああ、今は夜なのかな。それとも早朝?
すう、と意識が浮上した。
ずっと正午近くの太陽が輝いていた
あの場所とは違って、ここには薄闇があって、そして近く遠く、人の気配もたくさんして。
でも、一番近くに一番好きな人の気配があった。
ああ、ずっと手があったかかったのはこれだったのか、と、握られた右手
に気付いて小さく笑った。]
…………武藤。
[空いた左手を伸ばそうとしたら、その腕には点滴のチューブが繋がっていて、そして左手親指がツキリと痛んだ。あの時切った まさに、あの場所。
松本さんの傷は目の前で治っていったのに、自分のこの小さな傷はずっと痛んでいて、どういうことかと不思議に思っていたのだけれど。
白い包帯にごくうっすら血が透けて見え、ああ、こういうことだったのかと合点した。
でも身体のどこも、他にこれと言って痛い場所はなく、安堵の溜息を吐く。]
こんなとこで寝てたら、腰痛くなるよ?
[小さく声をかける。
でも、武藤はこんな感じでずっと私を待っててくれたんだなあと解って、すごく嬉しかった。
武藤をこんな感じで近くで見下ろすのって、初めてだな、なんて。
少しパサついてる派手な金髪に左手を落として触れたら、ようやっと、"私は生きてる"という実感が沸いてきた。]
……小泉、さん……。
津崎。
[口に出ないほどの小声で、微かに呟く。
眠っている間、私は美術館の中に居た。
顔色悪く立ち上がる小泉さんの姿 が見えた。
声をかけたけど、小泉さんには届かなかったみたい。
ああ、還っても、こうしてあの夢の世界は覗けるのか……と、理解した、んだけど。]
武藤。
もしかして、すごく見てた……?
[武藤が起きたら、聞かずには居られない。
だって、まさか、津崎といたプラネタリウムに、そんな格好 で居座っていたなんて、思いもしない。**]
─病室─
[怪我は大したことは無い。
身体は呆れるほど丈夫な方だ、生憎と華奢や病弱とはかけ離れた位置にいる。
だけどどうした事か声が出ない。
原因が分からないと医師に告げられる。
何か言いたいことは、と差し出される五十音の並んだ表。
平仮名だけでもチカチカするのをなんとか伝える為に指を動かした。]
「しきじきようかんかく、もじみるのきつい」
[医師が難しそうな顔をするのがよく分かった。
流石に理解はしているようで、表を下げてくれたのは良かったが
意思疎通が難しいねと困った声で告げられた。
YesかNoで答えられるように問診が続き、また一人の時間があたえられた。
同じく地震の被害で病院にいる者たちがいる。
友人達の元には顔を出していいよ、とも告げられたが。
俺から足を向けることは今は無い。]
──夢と現実の狭間──
[天使の声を聞いた後、自分の声と先輩の声が重なったのを醒めていく頭の片隅で聞いた記憶がある。
それは同じ人の生還を喜ぶという意味では同じくしていても、意味は全く違うもので。
先輩の安堵の理由。
その事実を同時に認識して、涙が溢れた。]
──夢──
[再び夢の中に落ちると、天使に微笑む先輩が見えて。
あんなに憎いと思っていた天使に何か言ってやりたくても。
「ありがとう」と告げる先輩を見てしまうと何も言えないまま、何処かへと歩き出す後ろ姿を見ているしか出来なかった。]*
──病院──
ん…、
[ずっと聞きたかった自分を呼ぶ声がして、小さく身じろぎする。
こんなとこでって何処だっけ。
腰が痛くなる…、ああ、そういえば座ったまま寝ていたみたいだ。
ぼんやりした思考を巡らせている頭に柔らかく触れる感触がして薄く目を開けた。]
……?
[視線の先には握った手があって。
微かに何か小さく呟く声が上の方でするのを聞きながら何度か軽く握るのを繰り返す。
徐々に意識の霞が晴れてきて漸く、くっきーの傍らで寝ていたのだと思い出した。]
…んん、おはよ…。
[緩慢に突っ伏していた上体を起こせば、その顔を見て何度目かの安堵を覚えた。]
寝顔?ならそんな見てないがー、
[問いかけの意味が一瞬理解できずに首を傾げる。
答えながらさっきまで寝ていたなら夢の中であの世界に行けることはわかってるんだなと気づいてちょっと固まった。]
すごく、というほどでは…?
[いや他の皆のセンシティブそうな会話や様子は配慮して見ないようにはしてたのだが、等もごもご言ったけど特に弁解にもならないなこれ、と気づく。]
くっきーに関しては特に配慮してなかったかもしれないな?
まあ…、ほぼ見ていたと言っても過言ではない、気はする。
[さすがに手洗いとかついて行ってないし常識の範囲だと思うから安心してほしい。
プラネタリウムの座り方は常識というかマナー的に問題あるが、バスのことを思い出したりしてどうしても真ん中に座りたかったので仕方ない。]*
………………"ほぼ"。
[少し眠そうな武藤の顔 に、ああそういう顔も初めて見るものだなと、嬉しく思う。
武藤が還ってしまってからは、記憶の中の顔や言葉を思い出すことしか出来ずにいたから、こうして知っていることの"更新"が出来たのが嬉しくて。
……でも、"すごく、というほどでは…?"などと口籠もる彼を若干のジト目で見つめていたら、自分から白状してきた。"ほぼ"って。]
………………。
……幻滅、したんじゃない?
[だって、私、大概酷かった。
"過酷な状況下での情緒不安定ゆえ"とか、言い訳はいくらでも出来るだろうけど。
津崎を傷つけるような事を言ってしまった気がするし、皆の前で泣き叫んだりもしたし、偉そうな事言っておいて、小泉さんに残せたものなんて、きっと、全然無い。]
[口ではそう言いつつも、ずるい私は、「……ん」と、ねだるように武藤へと両手を差し出そうとする。抱き締めてよ、って言う風に。
きっと武藤はそうしてくれるだろうから。]
……津崎、生きてた。
……………………良かった。
[武藤の頭と肩に手を回しながら、囁くように口にした。
口にしないと、まだあの夢から抜け出せないままでいるような感覚が残っていて。]
……………………。
……ぅ……小泉、さん……。
[もう、泣いてもいいかな。いいよね。
"もう"も何も、とっくにいっぱい泣いてた気がするけれど、それでも、すごく我慢していた。
武藤の前では隠し事はしないって決めたから、今ばかりは、涙が零れるまま、吐息が引き攣った風になるのも構わずに。
暫くは心の枷ぜんぶ外して、泣いていた。
武藤は頑張って強がってたのかな。それとも。*]
【夢の中・レストランにて】
[後悔はしないつもりだ。赦しを乞うつもりもない。
私は津崎さんに生きていてほしかった。
小泉さんか津崎さんのどちらかしか生きられないのなら、津崎さんに生きてほしいと強く願った。
そして願いは現実となって。
そこに後悔は存在しない、けれども。]
[それと同時に頭の中に巡るのは大して接点もなかった人間に、それでも親切に振る舞う小泉さんの姿。
集合写真の時に場所を替わってくれたこと。
パンを買いに来てくれと言われたこと。
香坂さんと一緒にパン屋に行くと約束したこと。
アレルギーに配慮してくれたこと。
そして直前に別れてしまったこと。
あの時、別れていなければ、ともすれば小泉さんは命があったのかもしれない。
誰一人、欠けることはなかったのかもしれない。
小泉さんを犠牲に願ったことは後悔しないと決めた、赦しも乞わないと。
だから、こんなことを考えても意味はないし、考えてはいけないことだと思う。
それでもふと、脳裏に過った。
私は、工藤さんの方を見る。
工藤さんが仲良くしたいと教えてくれたのは、彼なりの気にかけてやってくれというメッセージなのだと受け取って。
そして私もまた、彼女の人生に付き合うと決めたから。]
工藤さん…
[その先の言葉は出なかった、ただ私は彼女の背をそっと撫でた。あの時と同じように。
今はそれしか、出来ないから。]
[白状した夢の中での背後霊っぷりに送られるジト目から目を泳がせていると、投げかけられた問いには再び首を傾げた。
幻滅するようなことがあっただろうか。
徹っちんとの会話がすれ違ったりするのはお互いがちゃんと友達でありたいと思っている故のことだと知っているので、これから先があることを思えば尚更心配はしていない。
還る前の皆の前での出来事もあの場にいた者にしかわからないものがあるのだろうし誰にも責められることじゃない。
隠さない本音を伝えられたことはよかったんじゃないかなとオレは思うし。
先輩のことならオレは尚更何もできてない。それに、先輩はあの時間のことを──。
答えを言う前に差し出された両手に小さく笑って背中に手を回す。]
いや?いい女だと再認識したくらいだ。
[抱き寄せてから幻滅したかの問いには否定を返して。
それでもきっと本人的には後悔とかいろいろと思ってしまうことはたくさんあるだろうけど。
誰の夢かを知った今、そんな気持ちを抱えているのはオレも同じだから。]
……うん、徹っちんは生きてるって信じてたけど、
やっぱりちょっと怖かったしな。
遺言とか言い出すし。
[耳元に落ちるマブダチの無事への安堵に、答える声は少しだけ掠れそうだった。
そして、もう会えなくなる人の名前を紡ぐのを聞いて。
そこに涙声が混じるのがわかるから頭に手を回して慰めるように触れる。
耳にかかる吐息が引き攣る音で途切れるのがわかって、撫でる手が微かに震えた。]
……、先輩は、あの時間を、
…有意義だったって、
[あの時間で得るものがあればよかったと還るオレに言った先輩。
先輩にとって天使の慈悲だったと受け止めていたのなら、何も出来なかったなんてことはきっとないって思いたい。
うまく言葉が出てこなくて、一度目を覚ました時に流れたはずのものが目の奥からこみ上げてくるのがわかった。
泣いてもいいはずだ。
だって泣きたい時は泣いた方が良いと先輩は言っていたから。]*
[最後、残してきた言葉を思えば今すぐにでも目を閉じて夢に会いに行きたかった。
でも、なるべく覗かないでおこうと思う。
見られたくないこと、聞かれたくないこと、知られたくないこと。
勝手に知るのは俺自身が許せない。
それからこの会いに行けるなんてクソみてぇな“慈悲”が等しく全員にあるとするなら。
俺が夢にいた時は誰も見なかった。
つまり夢の中からはこちらを見ることは出来ないってことだ。
津崎くんにだって、小泉くんにだって
会いたい人も見えてたい人もいるだろうに。
俺だけが見えて、向こうから見えないなんて。
それはそれで、辛すぎるから。
どうしても呼ばれたら行こう。
見えてなくたって、俺は傍にいる。]
……ぅ…………。
[聞くと居たたまれなくなる"かわいい"もだけど、"いい女"とか。
武藤はまた、そんな殺し文句を繰り出してきて、頬に朱が走る。
津崎も少しそういうところあるけど、武藤も大概、自覚無しの人たらしだ。
それを、"そんなことない"って思ってしまって、ありがとうと素直に受け止めることの出来ない自分の臆病さは、ただただ、申し訳なくて。
でも、笑顔で受け止められるようになるまで、多分、武藤は待っててくれるのだと思う。]
……うん。津崎に遺言、言われて。
どうしようかと思った。
って……ああ、見てたんだね。
[さも横で見たような風に言われた から、言葉通りに"見てた"ということだねと頷く。
何を言ってるのと腹立たしかったし、けど"マブダチ"として唯一できることなら、彼の願いに応えたい、応えなきゃ、と思って。
心が端から凍りついていきそうだったけれど、もっときついのは津崎の方なのだからと必死で冷静を努めていた。
声も気配も感じなかったものの、あのやりとりを武藤が見ていてくれたのなら、あの時の心が冷えた記憶も、少し和らぐ気がした。]
"生きてたら、全部スルーで"
になって、良かった…………。
[配信の手伝いはするって約束したけど、そんな形で手伝いたくはなかったもの。
津崎と交わしたその約束を武藤はまだ知らないかもしれないけれど、いざやるとなったら、多分武藤も巻き込んでしまうのだろうし、だったら、3人でやった方が、絶対楽しい。]
小泉さ、ん…………、
"有意義"って、思ってくれた、んなら、
…い、いな……ぁ……。
[ああ、もう絶対、泣きじゃくってるのは武藤にバレバレだろうけど。
それでもいいやと武藤の首筋にしがみつく力を強くする。
で、武藤も泣いてるな……と気がついたけど。
泣いていいよ、って思った。一緒に泣こうよ、って。
それは小泉さんにとって何の弔いにも慰めにもならないかもしれないけど、でも、"自分の事など忘れて幸せになって"なんて、私はきっとどちらの立場に立っても思えないだろうから。]
起きる前、小泉さんの、パン、食べたの。
猫型だっ、たの。
[すごく美味しかったんだよ、とせめて笑顔を作りたかったのに、もう全然、無理だった。*]
[窓の外を見た。
夕日が沈もうとしているのが見える。
赤い空を見つめて、進んでいる時間を認識した。
もうあの青い空はここにはない。
ただボンヤリとみつめているしかできなかった。
茜色の空をもう、小泉くんが見ることはない。
パンを奢ってくれる約束も。
生きてかえったなら、聞けるはずだった願い事も。
スマホを恐る恐る取り出して保存ファイルを見た。
俺が頼んで保存してもらった写真は不思議と残っている。
ふ、と吐いた息。
笑み故に毀れたのか、息が詰まったのかは、自分でもわからなかった。]*
―― 少し未来:病室 ――
[武藤と会話して、その後、私の病室から去っていって(看護師さんに追い出されたとも言う)、それから少しした頃。
意識が戻った私を見舞いに、母と弟がやってきた。
私同様に泣き虫な2人の涙を見て、"死んでもいい"と思っていたことを改めて反省した。
もう"死んでもいい"なんて、思わない。
これは、小泉さんに貰った命だと思う。
"たった一人" を引き受けてくれた、
小泉さんに貰った命。
話によれば、外傷はほとんどなかったものの、私は一時、原因不明の脱水症状に陥っていて、嘔吐したり激しく魘されたりと、細々したことはあったらしい。]
────ああ、だから、
[なんで手術着みたいなのを着ているのかなとか(少なくとも武藤は私と同じ格好ではなかった)、なんで点滴されているのかなとか、不思議に思っていた事柄が、腑に落ちた。
左手の裂傷は、割れたパフェグラスの破片が刺さっていたから……だそうだ。
再検査で異常なしのお墨付きが貰えたところで、漸く私服──美術館に行った時と大差無い──に着替えられたし、点滴の針も抜かれ、そして私はようやく病院内を歩けるようになる。*]
あ、うん。見てた。
[そういえばあの時オレは二人には見えてなかったんだとか今更。
徹っちんが他の人と個人的に話してるところはなんだか気が引けてほとんど見てないが、この2人なら別に、自分がいることが自然だとすら思っていたし。]
でもまだ世に出してないオリジナルの曲とやらは聴かせてもらわないとな。
徹っちんそのうち海外行くらしいし。
なんか、ばーちゃんちとか。
[寂しくはなるけど離れても帰ってくるのだから悲嘆することでもない。
それまでにいろいろパフェ食うでも動画の撮影でも、一緒に出来れば楽しいことは知っているから。]
……オレも、そう思いたい。
[少なくともくっきーが先輩と本音を話したり手料理を食べたりする時間はきっと無駄じゃなかったはずで。
オレがいた時間、それから見てきた時間。
あの夢の中のことをひとつひとつ思い出すと静かに溢れてくる涙が頬を伝う。
おそらく此方が泣いているのも伝わっているだろうなとは思いながらも、泣きじゃくる背を緩く撫でた。]
あんだけ美味そうに食べてたら先輩も嬉しいんじゃねえかな。
先輩、ほんとにパン好きだし。
パンもだけど、人に喜んでもらうこと…?、誰かの力になることが好きなんだと思うし。
[少なくともオレにはそう見えたから、今はいっぱい泣いたら、またあのパンを食べてた時みたいに笑えれば良いと思う。]
[濡れた自分の目元と頬を手の甲で擦って顔を上げれば、泣いてぐしゃぐしゃになってるくっきーの顔に向き合った。]
先輩のパン屋、行く約束してるから一緒に買いに行こうな。
[猫のパンでもトラのパンでも、と言った顔はなんとか笑えていたと思う。
向かい合った眦を親指拭えば涙は止まっていただろうか。
まだ溢れてくるようなら濡れた目元に唇を落として、泣き止むまで待つよ。]*
──病院・どこかのタイミングで──
[くっきーの見舞い(?)を終えた(追い出された)後で、まつもっちゃんの病室へ向かった。
此方へ還る直前、声が出ないようだったが大丈夫なのだろうか。
喉の調子が悪いのであれば食べたり飲んだりも今はできないかもしれないのかもしれないし、と手土産は思い浮かばず。
筆談できない>>:5+116とは聞こえたので理由はわからないがまだ会話は難しいかもしれないけれど。
顔を合わせれば開口一番で]
まつもっちゃんが、生きててよかった。
[そう伝えるつもりだ。
還る直前の様子から「いきたい」に当てはまる漢字がなんなのかはオレにはそこまで察せていないし、聞くことはしないけれど。
これはオレの単なる願望で。
それ以上でもそれ以下でもない本心だから、返事は出来なくても伝えられればそれでよかった。]*
[別に、武藤に見られて困ることは、していなかった……はず。
まさか、吐いてる時にすぐ隣に居た とか、一人でべそべそ泣いてる時にもずーっと傍に貼り付いてた とか、絵の中の偽物の自分に喧嘩を売っていたところで"いい女"呼ばわりされてた とか、そのあたり暴露されてたら「なんでそこまで全部見てるの」と、拳を握り締めていたかもしれないけど、まあ、黙っていてくれたなら……うん。
いずれにしても、津崎とのやりとりは見られて困るところはどこにも無かった……のだけど。]
────え。
それ、全然聞いて無い。
[武藤の言った"海外行くらしい" は初耳だったし、ばーちゃん云々は少しだけ本人の口から聞いたけど、そういえばどこの国のとか、そういうのは全くすっとばされてたし。
まあ、遺言で口にすることでもなかったんだろう。
「武藤から聞いた」と後に私が津崎に告げたところで、「言わなかったっけ?」くらいの反応が返ってくるんだろうし。]
[パンが美味しかった。
美味しいと伝えることができた。
それを心底喜んでくれたか否かは、推測でしかなくて、武藤の言葉 は、もしかしたら互いの傷を舐め合うだけの言葉だったかもしれないけれど。
それでも、この無機質な病室で一人抱えて泣くよりは余程に良かった。
武藤のおかげで、涙も早く引っ込んでくれたのだと思う。]
────行く。
小泉さんのパン屋さん、行く。
[小泉さんの後輩です、とてもお世話になりました、って言って、いっぱい買い物する。
ようやくに目を合わせた武藤は、武藤の側も泣いた後っぽい顔になっていた。
けど、あからさま、私の方がもっと泣いてて、なんだか悔しくなったかな。
最後にぼろ、と零れそうになった涙まで唇で止められ、ようよう気持ちが落ち着いたのだった。]
ごめん。
──もう、大丈夫。
そういえば、工藤さんや朝霞さんは無事?
そういえば松本さん、
還る前になんだか具合が悪そうでだった……。
[自分の指の状態からして、夢と現実はいくらかリンクしているようで。
松本さんの具合が気になったけれど、まだ動けないんだよねと、点滴付きの腕を掲げたのだった。
そうしているうちに、回診の時間が来たようで、武藤は病室を追い出されることに。
動けるようになったら、今度は私が武藤のお見舞い(?という名目で良いのかな?)に行こうと思う*]
─病院・武藤くんと─
[ベッドの上でただ空を眺めていた。
病室のドアが開く音に振り返れば、そこには武藤くんが立っていた。
その姿は幾分と元気そうで、怪我などなかったことが窺える。
開口一番告げられたそれ。
武藤くんがどこまで俺を見ていたのかは知れないが。
その言葉が嘘偽りない本心であろうことだけはわかる。
唇を開いたけど、空気を吐くだけで声は一つも出なかった。
ふっと苦笑を漏らして、自分の喉を指さす。
その後首を振れば理解はしてもらえるだろう。]
……、…。
[「生きていてよかった。」
頷けばいいのか、首を振ればいいのかわからなかった。
永遠に、その答えは出ることなどない。
だから「ありがとな」とゆっくり唇を動かした。]*
──病院・くっきーの病室──
[ずっと貼り付いてたことを具体的に告げるのはむしろオレが恥ずかしいので拳は解いておいて大丈夫た。
知らないはずのことを知ってるかのように答えることはあるとは思うので、「なんでそこまで見てるのかポイント:を踏まないようには気をつけたいとは思うが自信はない。]
オレも徹っちんからはこっちに還る前くらいに聞いたから初耳だった。
まあ、行ってもそのうち帰ってくるとは言ってたし、またすぐ会えると思うよ。
[どのくらいの期間かはわからないけど、戻ってきた時にオレは結婚してるかなと言われたのを思い出し。
若干恥ずかしくなるのと同時に、それは長い期間なのか短い期間なのか…?と疑問が湧いた。
数年くらいだろうか、そんな長いことではないなら良いなと思う。
多少長くても、此処で感じた帰りを待つ時間よりは穏やかに待てることは確かだ。]
[目覚めた時に一人で流した涙はただひたすらに苦しくて、その後もふとした時に泣いてしまいそうな感覚が残っていた。
だからこうしてくっきーが一緒に泣いてくれたことで、大分心が楽になった気がする。
パン屋に行く約束に頷いた顔はだいぶ落ち着いていたようだったから、なんとか作った笑顔は幾分自然なものに戻せていたかもしれない。
さすがにオレの方が泣いてたら恥ずかしいなと思ったけど、見合わせた顔がなんとなく悔しそうだったから]
待ってる間の競争はオレのが速攻で負けたから引き分けってことで。
[最後の一滴が止まった後で、一方的に知ってばかりはやっぱ不公平かなと思ってバラしておいた。]
ミサミサは脛に傷を…、
いや、言い方が悪かった、
脛にでかい痣がある以外は怪我はないそうだ。
じゅじゅは足を骨折してるらしい。
顔出したけど親御さんに悪い虫を警戒されたみたいなので会ってはない。
あ、でも良さげなチョコ菓子をもらったので後で徹っちんと3人で食おう。
[先に還っていた二人の状態を説明しつつ、まつもっちゃんの名前が出れば具合は大丈夫か心配になってくる。
命に別状ないのはわかっていても。]
じゃあオレはまつもっちゃんの様子見に行こうかな。
ちなみにオレは無傷だから、いつでも会いに来ていいぞ。
[今更みたいに自分の状態も付け加えて。
回診に来た看護師に追い出される形でくっきーの病室を後にした。]*
──病院・まつもっちゃんと──
[喉を指差して首を振る様子に話すのが困難なのだとわかって、早くまたいろいろな話ができるようになれば良いと思う。
あの夢の中でたくさんのものをくれた声をどこか懐かしく思い出していた。
口の動きで伝えられたお礼に、うん、と笑って返す。]
還る前にまつもっちゃんが言ってくれたことで、
待ってる間大分救われたから。
オレもありがとう。
くっきーが還ってきて、
徹っちんが生きてて、よかったよ。
[その裏にある先輩の死が悲しくないわけがないけれど。
オレの大切な二人の無事を祈ってくれていた時にオレが素直に頷けなかったことを今は全部ひっくるめて受け止められれば良いなと思う。
一方的に話すことになると思うけど、そんなことを告げれば]
喉の具合良くなったら教えてね。
[その時は何かお土産持ってくるわと付け加えて、何ごともなければ病室を後にしただろう。]*
[武藤くんの笑顔は柔らかくて それは本当に救いだったかもしれない。
礼が返ってきたならば、今度は一度頷こう。
何かを与えられたなんて思ってはいないけど、それでも
何か受け取ってもらえるものがあったのなら、首を振る必要はない。
俺が生きていて。
黒崎ちゃんが生きていて。
津崎くんが生きていて。]
、 …、…。
[一瞬、呼吸が止まった。
その裏の死をどうしても感じてしまうから。
たった一つの願いである“津崎くんが生きている”こと。
喜びたい、すぐにでも。
聞こえやしないだろうけど夢の中まで駆け出していきたい。
会いたい、傍にいたい。
それでも、ぐ、っと拳を握る。
もう一つだけ頷いて、少しだけ眉を下げた。
「おう。」
喉の具合がよくなれば、には唇でそう返して。
部屋を出る武藤くんを見送った。]
[武藤くんがいなくなって、病室には静寂が訪れる。
静かではあるけれど色んな音がした。
蝉の声、木々の擦れる音、心拍を測る機械、俺の鼓動。
生きているリズム。
あの世界では切り取られていた一部。
小泉くんはもう、感じることはないんだ。
夏の暑さも、空の移り変わりも。]
っ 、… 。
[目の奥がチリチリと焼けるように熱かったけど
唇を噛み締めて、拳を握って、窓の外の夕日を睨み付けた。
「いっぱい泣いてやればいいと思う。」
俺はまだ、泣いちゃいけない。
そう思ったから。]*
[まつもっちゃんの病室を出て、廊下を歩きながら話していたときの表情を思い返す。
並べた生きていてよかったはただの事実で。
「皆が幸せに生きること」を願ってたまつもっちゃんが、その裏にある死に罪悪感や絶望を抱かないはずがないのはわかっていて「よかった」なんてわざわざ言ったことに、何か胸に詰まったような顔を思い出して胸が痛まないと言ったら嘘になるけど。
最後に一人残るのが誰だったとしても、還った皆に向かってよかったって言うつもりだった。
先輩にもう会えないことを思えば悲しくて押しつぶされそうだけど、多分先輩は皆が生きていてよかったと思うはずだ、とは願望だけじゃなくて。
もし還る側だったとしたらと想定してまず心配することが「皆のために出来ること」だった人だから。
残ることより還ることに対して不安を覚えていたような先輩が、もし還ってきたとしたら、その裏にある悲しみがどれだけ深くても「よかった」と伝えたいと思ってた。]
──病室──
[先輩が還ってきたらお礼を言うと返して、還ってこなかったらの想定には何も答えなかったミサミサの胸中はわからなかったし、先輩にもう会えないとわかった今どんな心境かもわからない。
いくらか口数が増えて、話すたびにどこか成長しているように見える不器用な後輩が変わったのは多分、先輩のおかげなのだろう。
こちらの言葉への返答以上をあまり返さない彼女から唐突に出た先輩の話からそれくらいはわかる。
夢の中ではあまり見かけなかったけれど、先輩の側にいるのだろうか。
病室に戻ってきても今は目を閉じる気にならなくて、代わりに残された二人のことを考えて目頭を押さえた。
徹っちん。
先輩のこと、先輩との最後の時間、
託すことしかできないけど任せたよ。
先輩の思いを受け取って送り出して欲しい。
最後の二人では還る方の苦しさや悲しみも大きいことは想像に難くないから、還ってきたら笑顔で出迎えられるようにはしておくつもりだ。
心の整理はまだどうしてもつかないけど、再び顔を合わせられる時までには、きっと。]*
―― 夢・パンを焼く小泉さん ――
[気付けば私はまた美術館の中に居た。
ああ、そうか、回診の後、また眠気が襲ってきて寝ちゃったのか……と思いつつ、でも、津崎と小泉さんの会話を覗き見ようなんてつもりは全然なくて。
帰ろう、と踵を返したところで、ふあんと記憶にある香りを感じたのだった。
]
………………パン?
[焼いたパンじゃなくて、それよりずっと前の、発酵している小麦粉とかバターとかの、ちょっと甘い、ミルクっぽいような匂い。
別に食べたいと思ったわけじゃなく、小泉さんのパン作りを見たいと思って、つい、ふわふわと近付いてしまった。]
[私がパン生地を作ろうとするとすぐベタベタになって、それが嫌で粉を足して、足しすぎて大惨事……という感じだったのだけど、やっぱり、小泉さんの作業はすごく綺麗だった。]
1次発酵って、どのくらいなんだっけ……。
[オーブンに貼り付いて、少しずつ膨らんでいく生地を見ていたら、小泉さんがぽつぽつと独り言を呟いていて。
聞くともなしに聞いていたら、突然、語りかけるような口調が飛んできて、私は足が地面から浮くほど驚きながら、目を見開いた。]
────え……。
["死んでほしくなかろうが、俺は死ぬ"。
それはまるで、こんなの嫌だと駄々をこねた私 への返事の言葉のよう。
いや、それはきっと、私のあの時の言葉への返事だった。
正論じゃない。正論じゃないよ。
それは全部、小泉さんの本心で、全然、教科書っぽくもなくて。]
生、きますよ…………。
諦めなきゃいけないんだって、知ってるし、
ちゃんと生きて行くし、
一緒に還った人、みんな大事にするし、
死にたがりの人には首輪つけておきたいし……っ
[ついさっき武藤とさんざん泣いたのに、一応、心にけりを付けたつもりでいたのに、再び涙がぼろぼろ零れてくる。
やっぱりあの夢は、"さよならを言うための場"だったんだなと、どこか納得できた気はした。]
これ……津崎が歌ってる時のマスクの犬……?
[その後もぐじぐじと泣きながら小泉さんに貼り付いていた(もはや"取り憑いていた"と言えたかもしれない)私は、前回の"ネコチャンパン"ではない、白っぽい生地の犬のパンが出来上がっていくのを傍らで見ていた。
やっぱり、もっと早くいっぱい話しておきたかった。
もっと早く、パンや料理の作り方、教えて欲しかったですよ。小泉さん。*]
【いつかの現実・松本さんの病室にて】
[やっぱり一番に会いたいのは津崎さんかな、なんて思うし、声が出せないのでは色々と不便もあって聞きたいことは先延ばしだな、なんて考えるけれど。
それでも私は、松本さんの病室の扉を叩いた。]
失礼します、朝霞です。
[そう一言かけて、病室の中へと歩みを進める。]
体調、大丈夫ですか?
[当然大丈夫でないのは分かっているが、それ以外の会話の切り出し方を思いつかなかった。]
いつか話してくれた、文字が読めない理由、直接聞きたかったんですけど、喋れるようになったら聞かせてもらえますか?
夢の中では、結局聞けずじまいだったから。
[聞けなかったこと、聞きたかったこと。これからは聞くと決めたから。]
―― 病院・屋上 ――
────私が不器用なだけ……?
[この病院にいる皆は大丈夫なんだろうか。
強く思いを残していると云々みたいな理由があったりするのか、眠ろうとするともれなく意識が美術館に飛んでしまう私は、眠るのを諦めて病室を出てきた。
聞いてしまった小泉さんの言葉
は、まるで私あての遺言のように聞こえたけれど、本当に聞いて良かったものかはわからないし、津崎との会話などとなったら、なお、聞いてはいけないような気がして。]
…………きれい。
[廊下に落ちる光は鮮やかな赤を刷いていて、窓の向こうは綺麗な茜色。
何とはなし、上を目指して、屋上を目指していた。
閉所恐怖症というほどのものではないけれど、病室のような空間はあまり好きではなくて、外に出たいと思ってしまって。]
[松本さんに会いたかったけれど、夢の世界で最後に見た松本さんは全く声が出ないようだったし、つらそうだった。
会いに行くのはなんとなく憚られたし、武藤が行くと言ってたから、会いに行くにしても様子を聞いてからでも遅くないな、と。
脛に傷持つ(?) 工藤さんと、骨折している朝霞さん。
彼女たちは、還っていく様を目の前で見たわけではなかったから少し実感が薄かったのだけど、共にこの病院に居るらしい。
とはいえ全くの無事というわけではないみたいだから、会いに行こうというのも、なんだか、違う気がして。
……というか、他の誰でもあっても、顔を合わせて"生還できたね良かったねおめでとう"と言い合う気持ちにはなれなくて、自然、足は病室から離れた方に向かっていく。]
…………カラス、飛んでる。
[特にこれというものもない、病院の屋上。
殺風景さはあの美術館のものと大差なかったけれど、頭上は綺麗な茜色と紺と紫が混在していて、浮かぶ雲もごくゆるやかに動いていて。
遠くにはカラスらしき飛ぶ鳥のシルエットが見えたし、カラスではない他の鳥の鳴き声も聞こえる。
車が走る音、遠く遠く、子供がはしゃいでいるような歓声も。
全部、あの歪な世界では存在しなかったものだった。]
……………………。
["後期は1限の講義詰め込めるね" なんて。
あの時武藤に告げた言葉は、欠片も現実感を抱けずにいたけれど、漸くに、戻ってきたんだと実感できた気がした。**]
屋上、走ってもいいかなあ……と思いつつさすがに自重……
入院してる身で屋上走るのはさすがにまずいと思うぞ(廊下は走った人
待って?夕方ってことはもうすぐ夕御飯だね!?[途端に元気]
―― 病院・屋上 ――
[病院食。昼に食べていたけれど、正直、味気なくて美味しくはない。
一人で食べるとなると、ますます美味しいものではなくて。]
『夕飯、トレイ持ってそっち行ってもいい?』
『一人で食べるの、退屈』
[そう武藤へとLINEを送る。
気付けば武藤から何枚もの写真が届いていて、何かと思えば美術館のレストランでの料理写真
だった。
本当、そういうところ、マメだよね。*]
落ち込んでいてもご飯与えておけば元気になるのは知ってた…
[答えが決まっている今、放っておけないからという理由で徹っちんを見に行くつもりはあまりなかった。
まだ答えがわからない状態で不安定な時は心配で仕方なかったけれど。
先輩のための最後の時間に残ったのが徹っちんである以上は信頼して任せられると思う。
先輩が望んでいることが、先輩の夢の中で果たせたのかだけは気になっていて。
あの時聞いておけばよかったけれど、先に還る自分が残る人にそれを聞くのは憚られたのだった。
そんなことを考えながらうつらうつらとしていると、微睡の中で先輩の声が聞こえた気がした。
「みんな」と呼びかける台詞は確かにあの場にいた皆へ言葉で。
あそこにはもう皆はいないのに。
先輩のための夢なのに、皆の成長や変化が嬉しいなんて。
ああ、だからあの時。
「この世界に来れて良かったか」と聞いたのかと改めて思う。
よかったという答えに安心したように微笑んだ顔を思い出す。
オレの夢ではないことは確定している時になぜそんなことを聞くのかあの時は不思議だったが。
思えばあの時から先輩はどこかで気づいていたのかもしれない。]
[夢の中でオーブンの完了音のようなものがして、目を開けるとスマホの通知がきていた。
くっきーからだ。
夢の中ではいろいろと美味そうなものを食べてたし、病院食は味気ないだろうなと思いつつ返信を送る。]
『いいよ』
『どうしてるかなと思ってたとこだし』
[まさか屋上にいたとは思わなかったし、走ろうとしてたらさすがに止めてたと思う。
あとあのスマホちゃんと生きてたんだな、とも。
無事送った写真が既読になっていたので安心した。]*
―― 病院・屋上→武藤の病室 ――
[走りたいなあ……と思ったものの、「走っていいですか」なんて看護師さんに聞いても100%止められるだろうし、黙って走っても見つかったら叱られるだろうし……で、さすがに自重した。
見つからない保証があったなら、きっと走ってた。
まさか己が、"落ち込んでたり機嫌悪かったりするときには餌やっとけ"的認識をされているとは思わないまま、そういえばそろそろ夕飯だなと武藤にメッセージを送って、自室で夕食のトレイを受け取った後、パーカーの腹に隠すようにとあるものを入れ、彼の部屋へ。]
こんばんは…………?
やっぱり部屋の感じ、同じだね。
[言いつつ、お邪魔しますと、するりと入る。
ドアを閉め際、ちら、と、周囲に看護師さんや配膳の人が居ないのを確認して。]
武藤。
"良い子のお土産"と"悪い子のお土産"
どっちがいーい?
[いたずらを隠すような笑みを浮かべつつ、そんな問いかけを。
まあ、どっちと言われても両方出すつもりではいるけどね。*]
[オレは廊下を走った時普通にすれ違いざまの看護師に怒られたのでその判断を知ることがあれば賢明だと思うだろう。
まあ元気そうなら良いかと食欲ありそうな様子のついでに思う。
そろそろ来るかなと思って椅子だけ用意してたところで戸が開いて、室内を確認しながら入ってくる姿に手を軽く挙げて応えた。]
ああ、皆同じような部屋だったぞ。
還って来た奴の部屋大体全員見たからな。
[少し前に受け取っていた夕飯は手をつけずに目の前にある。
食事の内容も同じようなものだなと思えば体の調子も似たようなものなんだろうなと思いつつ。]
ん?お土産?
[悪戯っぽい笑みと問いかけに少しぽかんとして]
大きいつづらと小さいつづらなら大きい方を選ぶオレだがー…
"良い子"の方かな?
[良い子で待っていたと思うので、多分。]*
[知ってた。武藤は"良い子"だよね。]
じゃあ、こっちどうぞ。
今日、母さんが持ってきてくれた、ふりかけ。
[看護師をしている母さんだから、病院食についてはよくよく知っている。
"おかず少なめで御飯ばっかり多いのよね"って、ふりかけの小袋セットを差し入れてくれた。]
私は悪い子だから、こっち。
[部屋の冷蔵庫にこっそりしまっておいたから、まだしっかり冷えてるそれを、着ていたパーカーの中から取り出す。
ストロング××なんてロゴのついた缶チューハイは、こっちは弟からの秘密の差し入れ。
どうせ姉ちゃん、飲みたいんだろう、って。
何もアルコール度数高めなものを選択しなくても……と思ったのだけど、気遣いはありがたくいただいた。
ん?もちろん病院内は飲酒厳禁だけれども。]
飲みたかったらもう1缶持ってきてあるよ。
[どうする?"悪い子"になる?なんて。]
あ……そうだ、写真、ありがとう。
さっき見た。
[自撮りとかしたわけじゃない。
ただただ、オムライスだとかパフェだとかのアップだったり諸々料理の全景だったりの写真。
でもそこから伝わってくる空気感は懐かしかったり切なかったりで、貰えて良かったし、津崎が還れない状況になっていたら、もう二度と見たくはない光景になっていたのだろうなと思う。
流れで私のスマホは大丈夫なのかとか尋ねられたら。]
んー……だいじょばないけど、
買い替えは次にバイトしたらかな……。
陸上のオンシーズンって、
あんまり定期のバイト入れられなくて。
[割が良いから引っ越し屋と夜間の交通整理とか……まあ、何日かやったら、なんて答えると思う。
夜間の肉体労働は女だとそもそも雇って貰えないことが大半で。
名前からはバレないからと、性別詐称して潜り込んでいる私は"悪い子"な自覚はあるよ。*]
【夢の中・レストランにて】
[小泉さんは死に、津崎さんは帰ってくると分かっても、私は出来る限り、その場に留まろうと思った。
複数人でいたときとは違う、ある種最もプライベートな空間であることを分かっていて、二人の時間を邪魔するつもりは毛頭ないし、この時間が二人きりであることが重要なのだと感じたら、津崎さんと松本さんの時と同様、その場を離れるつもりだけれど。(親友同士のお願いの場には立ち会ってしまって、どうしてもその場に居たいと思ってしまったのは確かなのだけど)
小泉さんが本当に死んでしまう、夢からさえも消えてしまう最期の瞬間。
その瞬間からは目を背けてはいけないと感じるから。
生きていく人間が出来るのは、死者の想いを背負っていくことだけ。
死の瞬間を見る、その死を受け止めるということ。
それが自分に出来る、最大限の葬送なのだと信じている。]
─病院・朝霞ちゃんと─
[窓の外を見つめたまま暫く経つ頃。
病室の外からかかる声にゆるりと振り向く。
朝霞ちゃんがそこに居て。
彼女が還る時、俺は透明になっていて、諸々の事情を全く知らない。
彼女の葛藤の末に得た恋心も。
その彼女に向けられていた津崎くんの想いも。]
、………。
[大丈夫かと聞かれたら笑って頷く。
体調に変わりは無い、声が出ないだけだから。
喋れるようになったら、分かったと頷く。
全くなんでこんな状態になっているのか分からないが、言葉が出ないのはもどかしいものだ。
困ったように眉を下げ、いつかの時みたいに顔の前に手を合わせる。
“ごめんな”って。]
[差し出された小袋に目を瞬かせてから受け取る。
隠してきた割にそんなにもったいぶるものかなとは思いつつもありがたく受け取って]
確かに白米だけ最後余っておかず足りないとかなるから助かるわ。
くっきーのかーちゃんにもお礼言っとい…
え?!
[と、言葉の途中で悪い子の方を見てでかい声出た。]
いやガチで悪い子の方じゃん、しかもストxxって、どんだけ…、っ、ふはっ…、
[本当に酒好きなんだなとしばらく笑ってたと思う。
そっちのがよかったかもって言おうと思ったら悪い誘いが来たので少しだけ悩むふりはした。]
好きに呑める状況でも皆に悪いとか言ってたのは一体…、
付き合うけどな。
[断る理由はなかった。
いや、病院で考えたら理由はあるけどバレて怒られる時は一緒に怒られてやろうと思って。]
[写真の話になれば、ああと思い出して。
送ると言って送ってなかったしなと返す。
スマホは大丈夫じゃないみたいだが確かに高いからな、とは。
バイトのラインナップは随分男らしいものが多くて少し驚く。
ああ、性別詐称…って言われてからそういえば男だと最初は思っていたことを今更みたいに思い出した。]
オレはコンビニとか接客のバイトくらいしかしたことないが、まあ、日雇いならその方が割が良いだろうしな。
体壊す心配…、は鍛えてるから無いのかもしれんが。
[やっぱり多少心配にはなるけれども、とは内心で思いながらチューハイの缶の蓋を開けるとカシュ、と小気味の良い音がする。]
……、まあオレは卒業したら多少稼げるところに就職しようとは思うので。
[特に何も考えてなかった将来のことを珍しくまじめに考えようと思いながら缶を一口呷った。
話が繋がってないと思われるかもしれないけど一応繋がってはいる。]*
[首輪つけたい なんてまた言われていることも知らず。
気遣われて この扉を叩かぬ人がいることも知らず。
死にゆく人が俺に残す言葉も
その旨の裡も
ただ現実に “いきる” 俺には
届きようがない]*
[素っ頓狂な大声を出しかけた武藤 に、声が大きいと顰め面をしつつ、]
さすがにストxxはこれ持って来いって指名したじゃないよ。
["ガチで悪い子"の評価には、一応不服を申し立てておく。
それでも、武藤が飲まないようだったら、自分が飲んでもいない酒の匂いを残して部屋から去るのも憚られるから後で一人こっそり部屋飲みしようと思っていたわけだけど。
結局、"悪い子"は2人に増えた。]
……さすがに、あの状況の美術館で飲むのは……
なんか、気が引けて。
[美味しかったけどね。チョコレートのお酒。
良心の呵責的には、今の方がよっぽど軽い。]
ふふ、武藤、"接客"似合いそう。
お金だけ考えれば夜の仕事だけど……さすがにね。
[そもそも私はそこそこのレベルの人見知りだし、人と話すのが大好きというわけでもない。
目の前の、コミュ力の塊みたいな、"誰かと話していないと死んじゃうマン"を見ていると、つくづく自分は口下手だなと思ってしまう。
ほんと、どうして、この人、
私なんかの事、好きになってくれたのかな。
"私なんか"、って言うと、悲しそうな顔になるのが目に見えてるから口には出さないけれど、やっぱりふとした時にそんな思いは浮かんでくる。]
…………そうなの?
[繋がっているようで繋がっていない、就職の話になれば。
じゃあ金髪は止めるんだ?、なんて返す私も、缶を煽りながら夕食のおかずをつまみながらだから、話題の急転換の違和感には今一つ気が及ばないまま思いを馳せる。]
私はとりあえず、秋の大会かな……。
良い成績残せたら、道、増えるかもしれないし。
……………………。
………………あー……、武藤……。
[どうしよう。照れる……というか恥ずかしい、というか。
口を噤んで言い淀んだ。*]
いいんです、謝らなくて。
これからがあって、これから聞かせてもらえるなら、私はそれでいいんです。
むしろ、謝らなくてはならないのは、私の方。
機会があったのに、それを活かしきれなかった。
もう二度と聞けなくなるかもしれないのに。
[それから考える。どう話を切り出すべきかを。
そもそも、この話を本当にするべきなのかを。
逃げないかという不安はあるけれど、だからといって殴られるというのも今考えるとどうなのだろう。
少しだけ、松本さんの様子を伺った。
自分には出来なかった、大切な人の後を追いかけた人のことを。]
[強い酒が好きだと思われているから差し入れられたのではと指定したわけではないからに首を傾げつつ。
とはいえ病院に一升瓶持ち込まれても困るしなとか明後日な方向のことを考えていた。]
呑まないとやってられないって顔してたからな、
というかオレが話しづらかったから付き合わせたのだが。
[美術館での酒盛りのことを思い出して呟く。
あの時話せたことはオレにとってはかなり大きなことなので、あのリキュールは必要経費だったのだ、きっと。
しかし宅飲みの前におかしなところでサシ飲みをすることに二度もなるとは思わなかったと笑って。]
夜の店ー…、は、酒ならタダで呑めると思うがアスリート的には体によくないと思うぞ。
[誰かと喋ってないと死んじゃうマンという謎の呼称をまた使われているとか、コミュ力云々のことを考えているとも知らないので割の良いバイト先についてはそこそこ真っ当なやめとけを返した。]
…、……。
[“これから”
未来を指し示す言葉に、言葉を話せない口を引き結ぶ。
窓の外は時が流れていることを知らせるのに。
この世界は時間が動いているはずなのに。
何でかな、俺の時間は今止まってるんだ。
俺は確かに生きてるし、大切な人が帰ってくるのも分かっているはずなのに。
笑われちまうかもしんないけど。
何かこちらの様子を伺う顔 がある。
どうした、と軽く首を傾げて見せた。
冷えた指先は決して悟られぬよう、いつもの笑みに隠す]*
んー、さすがに就活の時は黒染めしないといけんかな、めんどいが。
[割と自分で気に入っている金色の前髪をいじりながら答える。
いきなり就職の話に飛んだ件は言った直後に若干焦ったのもあり、特にツッコまれもしなかったことに少しホッとした。]
あー、大会の成績…
スポーツ特待だとそうだよな。
……、うん?
[あまり仕組みは理解していないがその辺りで就職先も変わってくるのだろうと納得する。
何か口籠る様子に、先程うまいことスルーされた繋がらない話が遅れて繋がったのかと思ってまた焦ったけど。
随分言いづらそうにしている様子に顔を寄せた。]*
[私は苦笑して、自分の中にあった恐れに気づいた。
私は松本さんに嫌われたくないんだと。
それでも、覗き見していたことは言わなければならないだろう。
私と津崎さんの間に具体的に何があったかまではいう必要はないと思うけれど。
そもそも松本さんの病室を訪ねた理由の半分は夢で見てしまったことについてなのだから。]
告白します。
夢の中で、自分がいなくなった後のことを覗き見れるのを知っていますか?
私は夢の中で、松本さんが津崎さんを大切に想っているんだろうということを知りました。
本当はその場にいない人間が知るべきではなかったことだけど、私は私がいなくなった、その後を見ていたくて。
私を殴ってほしい。今、松本さんは怒れないから。
あの天使だと思って、出来る限りの力で。
津崎さんを大切に想っている人に私は殴られたい。
知らなかったはずのことを覗き見てしまったことを、殴ってほしいです。
[それは少しだけ、嘘だ。
私は津崎さんを傷つけた、だから彼を大切に想う人から殴られたかった。それは本当。
でも松本さんと津崎さんが寄り添い合う姿を見たのは、覗き見でも、後悔していない。]
あー……そうだね……確かに。
"呑まないとやってられない"は、そうだったかも。
[武藤に言われて 思い出した。
あの時は確か、工藤さんが偽物ってなって、朝霞さんは記憶喪失になっていて、だから小泉さんと津崎がなかなか大変な状況に陥っていて。
そして私たちはそれを余所に呑気に酒盛りしてたのだった。チョコレートリキュールで。
饒舌な武藤にしては言葉少なに告げてきた、あの時の"自己紹介"。 ]
うん、あの時のお酒も、必要なものだったよね。
[今が必要な時なのかは、さておき。]
……そっか、あの時だ。
武藤の怖いものと欲しいものが私と似ていて、
ああ、すごく解るし、
この人は私の事、解ってくれる……って思ったの。
[強めのお酒は久しぶりな気がする。
常ならこのくらいじゃ酔わないのに、アルコール特有の浮遊感がふわりと襲ってきて、そして私は少しだけ饒舌になっていた。]
ああ、武藤のこと、好きだなあ、
……って自覚したのが、多分その時。
[ぽつりと零し。
でもそれ以前に、松本さんに"ハッピーセット" 呼ばわりされてしまうくらいには、居心地良くて、ずっと一緒に居たんだよ。]
ふふ、黒染めしたら"チャラ男"じゃなくなっちゃうね。
[全然中身はチャラ男じゃないのだから、ある意味見た目で損している気がしなくもないけれど。
見た目だけで朝霞さんのお母様に不良呼ばわりされていた とか知ったら、優等生な笑顔つきで嫌味の一つでも言いに押しかけてしまうところだ。しないけど。]
金髪でも黒髪でも、私が好きなことには変わりないけど。
[ぼろぼろとそんな言葉が零れてくるあたり、多分私は、私が思う以上に酔っていた。
言った後に我に返って、厚揚げとこんにゃくの煮物を箸先でつつき回すくらいには、理性は残っていたけれど。]
[促したあとに続く言葉 に半分は驚きこそすれど
天使の宣う神からの恩恵のことは分かっていたから、ある程度のことは知られているのだろうなと理解する。
不思議なことに、プライベートを覗き見られたことに怒りが湧くこともなく。
でも何かの強い思いを持ってここに来たのだろうという事だけは分かったから。
ゆっくりと手を伸ばしてその頬に手を添えた。
柔らかい、きめ細かい滑らかな肌。
今の出来るだけの力を込めて──]
「ばぁか。」
[唇の形はそう告げて、頬を叩く。
指がただ当たる程度の、音もならないような柔らかなそれ。
そのままその手を伸ばして髪に触れる。
細い、守りたくなる、そんな手触りに目を細め
女の子だろうが容赦なく、くしゃくしゃにかき混ぜてやった。
何かを感じ取ってたのかもしれない。
例えば「それは俺が怒ることじゃない」「傷付けた誰かにちゃんと謝りな」とか
きっとそういうこと]*
………………早く、"日常"が戻るといいな……。
[きっとまだいくらかはこの"異常事態"が続くのだろう。
今も、緩んだ気分で密かな酒盛りをしているものの、武藤はベッドの上で、ここは病院。
災害があった。死者が出て、怪我人が出て、無事な人もいて。
状況整理して片付けて、はい元通り、にはならない。
今、大事な人を思うこの気持ちについてだけは、異変前の"元通り"になるのは全然歓迎しないけど。
とりとめないことを思いつつ、傍らの白いシーツに頭を落とした。*]
まあ、今も多分必要な酒なんじゃねえかな。
[入院で健康食に飽きるからとかではなく。
待つことしかできない状況で、悲嘆に暮れて皆の帰りを、最後の時を待ち続けるのはどうにかなりそうだったし、と缶チューハイを傾けながら思う。]
……ん?
[あの時だ、と言われて傾けていた缶の角度を戻して顔を見る。
似ているからオレの怖いものがわかったのだとしたら良いとは思っていたものの、自分の察し能力に自信がないので曖昧だったから、改めて口にされた答え合わせを嬉しく思う。
顔に出さないように缶に口をつけたまま頷いて。
結局、好きだと続けられた言葉に照れ臭さの方が勝って再び缶を傾けてアルコールを流し込んだ。
そういえば何で好きとか聞いてなかった気はするし、そういう話はあまりしないのだろうと思っていたので頬の辺りが酒のせいだけでなく熱くなる。]
そ…、か。
いや、あの時オレとしては既にバレてるとばかりというか、半分告白していたようなものだったんだが…。
[くっきーがいてくれたらいいと言ったことだったり、なんなら呑む前から言ってた気はする。
気づけば一緒にいることが自然に思えたから、そばにいてほしいという願いは叶うと思っていたけど。
くっきーは期間限定のものだと思っていたようだが、こちらの方は恋愛感情を向けたら今までの関係が崩れるかもしれないとか、そういうことで葛藤していたし。
全然気づかれなかったのは会えなくなるかもしれないとなるまで言えなかったオレが悪いのだとは自覚はしているので責めているわけではない、とは言っておく。]
好きでしてる格好だから変えるのは抵抗はあるけどな。
[見た目で損するというのはあまり気にしてない。
近づいてから離れられるより上辺で避けられる方が有り難いと思ってしまうので。
思わぬところでくっきーがオレのモンペにならなくてよかった。]
髪色がどうあれオレがイケメンなのは変わりないので…、
つか、柚樹さん、酔ってます…?
[さらりと連発された「好き」に思わず敬語になってしまった。
煮物をつつき回してる様子は今更照れているのかかわいいと思ったので]
いや、嬉しいけどな。
[小さく付け足してから茶碗に残っていた米をかき込んだ。]
………そうだな。
["日常"のひと言に込められた重みは以前と随分違ってしまったし、どうあっても"元通り"にはならないのだろう。
これから取り戻していかないといけない日常にいてくれることが何より心強いと思う。]
このまま寝ると腰が痛くなるぞ。
[シーツに沈み込んだ頭を撫でて経験談で言うけど眠くなるなら特に起こすつもりもなくて。
とりあえず"悪い子"の残骸は自分の鞄に突っ込んで隠しておいたけど。]*
─思想─
[俺にとって、この世界は生き辛いものだった。
例えるならずっとずっと溺れている。
呼吸する事が許されないのに、死ぬことも許されない。
死なないで。
生きてほしい。
優しい人たちはそう言ってくれる。
優しいから、……───無責任に。
生きる道がどれ程苦痛か、知らずに突きつけてくる。
生きることが正しいこと。
耐えて過ごす事が美徳。
どんな困難も乗り越えて。
その先に輝く未来がある“はず”だから。
見えもしない未来を謳う。
死ぬことは周りを悲しませる。
後片付けももちろん大変だし。
自殺なんてのは非道徳的で。
現実から逃げる行為。
いけないこと、ダメなこと。
それが世の中の“普通”。]
[ずっと、理解できなかった。
俺が死んだって何も変わらない。
優しい人たちは涙してくれるかもしれないけど
時間が経てばそれも風化していく。
夢の中から掻き消えた時のように、薄らいでいく。
やがて顔も声も名前も忘れて、本当の死が訪れる。
普通になりたかった。
けど、普通には到底なれなかった。
異端に指を刺され、蔑まれ、傷付けられ。
生き続けることに希望が見いだせなかった俺は
死ぬことに羨望を抱くようになった。
死ねば楽になる、じゃない。
死ぬ事で、消えることが出来るのだと。]
[撒き散らした紙吹雪みたいに消えてしまいたかった。]
[誰しもが生きる事を強いる。
苦しい道を耐えて生きろと押し付けてくる。
ずっと、息が出来なかった。
「死んでいいです。」
そう言われて初めて、呼吸が楽になったんだ。
無理しなくてもいいんだって。]
[………──今、きっとあと少しで。
俺じゃない誰かが、死ぬ。
俺の話を聞いて、思うなりの言葉をくれた人が。
俺が死ぬことを何とか止めようと、支離滅裂になりながらも声をかけてくれた人が。
あんなに理解できないと思っていたのに「生きてほしい」なんて思う。
本当に、無責任に。
もうどんなに願っても、その願いは届かない。
決められた運命を書き換える力も魔法も、ない。
喪って初めて“普通”の感覚を知る。
生きていてほしい、は、失いたくないのだと。]
[失いたくなかった。
大事な友人の一人だった。
パンの話も、就職の話も、恋バナももっともっと聞いてあげればよかった。
思う度、心が締め付けられる。
みんなきっとこんな風に苦しんでいるんだろう。
もし俺が死んだら、そうなったんだろうか。
死を許してくれた彼も、苦しんでくれるのだろうか。
まだ、泣けない。
俺が泣いていいのは、ちゃんと「生きたい」と思えるようになってからだ]**
[多分だけど、今日のお酒も必要なお酒だった。
あの時は武藤が素直になるためのお酒で、今日は私が素直になるための。
酒の力を借りなきゃ云々って思うと相当に駄目な感もあるけれど、臆病な私たちにとっては、ほんの少し背を押してくれる存在は、多分にありがたいもの。
そういえば武藤のことを好きだと告げたど、あんまり多くはどこが好きとか、いつから好きとかは口にしてなかったなと思いつつ、少しだけ俯きながら言葉を紡いだ。
俯きながらだとチューハイ、飲みにくいわけだけど、それはそれでしっかり飲みつつ。]
告白は…………うん、ごめん。
ほんとに、直接言ってくれるまで気付いてなかった……。
その、はぐらかしてた、とかじゃなく。
[武藤なりに婉曲に──いやどうやら主観的にも客観的にも相当にストレートだったらしいのだけど──伝えてくれていたらしい 好意の言葉。
"かわいい"には"そんなことないのに"の心の中の反発が先に来てしまっていたし、好意は伝わってたけど、女と解っても友達って思ってくれるのは嬉しいなあ、なんて、明後日の方向に受け取っていた。]
…………言ってくれて、良かった。
[私からはきっと最後まで言えなかった、"惚れてるっていう意味での、好き"。
踏み出して言ってくれた武藤は、だから私よりずっと、勇気があると思う。]
["じゃあ金髪が許される業界か、外資とかなら煩くないんじゃない?"なんて。
それなりに普通の会話をしつつ、でも、頭の中のリミッターが外れかけているのか、言葉の端々に"好き"が出始めてしまった事に気付いた私は、トレイに残る最後のおかずだったこんにゃくをつつき回す。
武藤の言葉も一旦耳を素通りして、戻ってきたのは10秒くらい経ってからのこと、だった。
────"柚樹さん" 。
そういえば、武藤が人を呼ぶのって、後輩だろうが先輩だろうが、100%ニックネーム。
"くっきー"のあだ名だって、"黒崎"からいかほど短くなっているのは疑問なところだし、そも武藤は短くすることには全く頓着していないようで。
それにしたって"くろ"とかでも良いわけだし……とは思ってた、けど。]
[
え、と、なんだっけ、武藤の名前。
"トラとかトラちゃん♡" って、言われた。
確か、かげ、とら?
自分には難易度高すぎて、耳まで赤くなったのをお酒のせいと誤魔化しながら私もトレイの皿を空にする。
ベッド降りることないよ面倒でしょと2人分のトレイはとっとと廊下の配膳ワゴンに返しに行って、そのまま部屋に帰るのも帰りがたくて、また、戻ってきて。]
[日常は、まだ、とても遠い。
遠いけど、でも戻らなきゃいけないし、けれど一人で頑張る必要もない。]
うん……寝ない。大丈夫。
ちゃんと、帰る。
[頭を撫でてくる指に、うっとりと眼を細めながらシーツに突っ伏す。
して欲しいとも思うこともなかった行為だけど、きもちいいなあ……って。]
[そういえば、松本さんも、私が落ち込んだりしていた時にはそうして触れて来たことが、時々あって、それも全然、嫌とは思わなかった。
優しいあの人はちゃんと眠れているんだろうかと、優しさなんかじゃなく、エゴ100%で"生きて"と願ってしまう無責任な私 は思いを馳せる。
死を後押ししてくれる人がいてくれるなら、私はそれの逆を行くと、私は決めた。
首輪つけるとか首に縄つけるとか告げたところで、松本さんは"うわぁ"ってあの口調で言いながら、ぬるぬる逃げ出してしまうんだろうけど。
居なくなって良いなんて思わない。
失いたくないと願ってる人は、ここに居る。
足の裏の針で、自分をふわりと浮かせている風船をすぐにでも割ってしまいそうな人に、その針やめてと、私は何度だって伝えるよ。
たとえ、本人にはすごーく迷惑な事だとしても、ね。]
武藤。
明日の朝御飯も、食べに来ていい?
[ああ、でもその前に津崎、戻ってくるかな。どうだろう。
あの夢の世界での体感時間だと、そう遠いようにも思われなくて。]
…………いや、やっぱりもう1回、来る。
シャワー浴びてから。
……私、眠るとどうしてもあの美術館行っちゃうから、
あんまり、寝たくない。
[武藤は寝てていいよ、私、隣でスマホでも弄ってるから、と。
"悪い子"な私はそう言って、"元良い子"な武藤へ、缶は私が持って帰るよと手を差し出す。
何も言わずそっと自分の鞄に仕舞い込む とか、ほんと、そういうところ、武藤は武藤だ。良い子。]
多分明日も弟来るし、缶、持って帰らせるよ。
[飲んだって連絡したら新しいの持ってきそうだしねと、"悪い子"は肩を竦めた。*]
なんか、津崎に色々言われてる気がする……が。(どうせ悪口でしょうの顔)
[私は目を細めた、泣きそうになるのを堪えた。
嫌われる覚悟をしたつもりだった、責められる覚悟をしたつもりだった。
津崎さんを大切に想う人から、彼を傷つけたことを怒られるべきだと思った。
友人という立場の人からでも怒られたかもしれないけど、私は松本さんに怒られたかった。
津崎さんを想い、追いかけた人に怒られたかった。
でも経緯は言えなかった。
怖かったのもある、だけど何より、その経緯に松本さんは関係がなくて。
関係があるのは、傷ついた津崎さんを通してだけで。
だから、覗き見たという言葉で誤魔化した。
実際、覗き見ている、それが本当の怒られたかった理由ではないだけで。
でも、多分、伝わっている。何故だか。松本さんはいつもそうだ。
優しいからか、それとも、どこか似ているところでもあるのか。
私に与えられたのは、優しい叱咤だけ。
それでも以前そうしてくれたように、どうすべきなのか、分かる気がした。
またすれ違うかもしれないけれど、後悔だけは、もう、残したくない。
今度は、手を掴む、追いかける、もう遅かったとしても、そうしたいから。]
もし、松本さんがいつか死ぬことがあるのなら…
[それは裏切りの言葉。
今起きている以上、私は津崎さんの言葉を知らないし、人の心を読めない以上、松本さんの気持ちも分からない。
松本さんに生きていてほしい、とそう願う全ての人への裏切りの言葉。]
あなたの死を、隣で受け止めさせてほしい。
私にあなたを看取らせてほしいです。
[死ぬ瞬間を私に渡して、私の心にしっかり傷をつけて。
人は死ぬ、でも想いは残る。
願われたこと、頼まれたこと、託されたこと。
それらの想いが、私を生かすから。
私の中で、たとえ思い出でも誰かを生かすから。
死にたい人に生きて、なんてたとえ思い出でも残酷だと思う。
生きてほしいと願うなら、思い出じゃなくて現実で生きてほしいと願うべきなのかもしれない。
でも、私は生きることは強要されるべきではないと思うから。
それでも生きていてほしいと思ってしまうから。
だからせめて、死ぬときは私に傷をつけてほしい。
松本さんの思い出を抱えて、私は生きるから。]
すごく嫌がりそうだからいつか津崎の頭をわしゃわしゃしてやろうと心に決めた。
+109
そして生きていくなら、辛いこと、苦しいこと、分けてほしいです。
私は、本当はそうしたかった。覚悟がなかったけど。
生きる上での辛さや苦しみを分けてもらうことが、頼られるってことなんだと思うんです。
出来るなら、生きていく上での喜びも楽しみも分けてほしいけど、そこはお任せします。
全てのことを一人で抱え込みたいかもだけど、あなたの腕の中の荷物を、私にちょっと分けてほしい。
私は、松本さんに頼られる人間になりたい。
[死ぬなら、の後に、生きていくならの話を出すなんて滅裂している。
私は松本さんに幸せに生きてほしい、津崎さんと寄り添って生きていってほしい。
そこに松本さんの死の余地はない。ないと思わせてほしい。
でも、もし死ぬなら、そして津崎さんと生きていくのなら。
そのどちらにも、私の入る余地はないけれど。
文字を読めない理由を聞けなかったことを後悔したように、それを知りたいと思ったように。
これから、どちらになるとしても、私は松本さんの気持ちを教えてほしい、苦しみや痛みを分かち合って、喜びを側で喜びたい。
それが私のやりたかったこと。]
[本当は生きてほしい理由をいうべきなのかもしれない。
死ぬなら、生きるなら、ではなく。
でも私は、松本さんに生きてほしい理由がちょっと曖昧だから。
幸せになってほしいなんて、死ぬことが幸せなら生きてほしい理由にはならないし。
津崎さんと寄り添って生きてほしいということは、当人同士の問題だし。
だから、せめてどちらにしても、松本さんにしてほしいことをいう。
辛いこと、苦しいことを分かち合う存在に、私がなれたなら。
松本さんの苦しさや辛さは変わらないし、全然減りもしないけど、分かち合うことで、少しだけましになるなら、その分だけもう少し生きてみてもいいか、なんてそんな存在になれたらいい。
…何かをしてあげるではなく、こうしたいが先に来る。
でも、私は松本さんにしてあげられることが思いつかないから。
分かち合う存在になりたい、苦しいって言える存在になりたい。
私には松本さんを幸せにすることができないから、生きてと願うことができても、その先の保証が出来ないから。
だから、死ぬなら、生きるなら、どちらの苦しみも少しだけ分けてほしい。]
[大体呑む時は賑やかで楽しかったーで終わるのだけど。
こうしてくっきーとサシで呑んで、言いづらいこと言えたり言ってくれたりするのは心地が良いと思う。]
謝らんで良いが、くっきーはもっと自信を持って良いと思うぞ。
[人からの好意に鈍感なところはおそらく"何も言われないで済む姿"でやってきた経験のせいなのだろう。
その怖がりがなかなか治らないのはわかるつもりだから]
これからもはっきり言ってくことにするわ。
[言ってくれてよかったにはそう返す。
回りくどい表現が伝わらないのはよく知ってるし。それがありがたい時もあるけど。]
[なるほど見た目気にしなくて良い業界調べてみるか等。
ずっと避けてたモラトリアムの先のことを考えて人と話せるのはオレにとっては驚くほどすごいことなので、くっきーには本当にいろいろと前に進ませてもらっていると思う。
夢の中で徹っちんに名前呼ばれてた時怒ってたから名前呼び嫌いなんかなと思ったけど、敬語の流れで呼んだ名前については何も言われなかった。
いやあれは揶揄った徹っちんが悪いだけかもしれんが。
あだ名をつけるのは趣味みたいなものだけど、こだわりはなるべくかわいく聞こえるやつという感じだ。
今更普通に呼ぶのもなんとなく恥ずかしいとは思うのだけど、呼んでみたいとも思う。
嫌がられなければだけど。
とか考えてたら空になった食器の乗ったトレイを返しに行ってくれていた。
ベッドから動かずに良いという配慮にはサンキューと返しつつも、座ったまま見送るのもなと思っていたら戻ってきたから安心する。]
酒入ってるし眠くなったんかと。
……ん、寝る時はちゃんと横になった方がいいしな。
[「ちゃんと帰る」のは正しく普通なことなのだが、一抹の寂しさは感じて。
このまま寝ても良いんだけどとの言葉は口に出さず。
おとなしく撫でられるままなのが愛おしいなと思いながら指に触れる髪の感触に目を細めた。]
[朝ご飯食べに来ても良いかと言われた時は多分わかりやすく嬉しそうな顔をしていたと思う。
「いいよ」って答えたところで、またすぐ戻ると告げられれば]
マジか。すげー嬉しい。
オレも今日は多分起きてると思うし、居てくれると助かる。
[そう普通に口に出してた。
隠しとこうとした空き缶は回収されて、弟君にもお礼言っといてと伝える。]
[なるべくアルコールの気配は消しとこうと、待つ間に自分もシャワーとか歯磨きとか諸々済ませておいた。
居てくれるのが嬉しいのは別に"誰かと喋ってないと〜"だからというわけではなく、オレが目覚めてから今日まで日数経ったわけでもないのに、体感ものすごい長い間離れていた気がしていて。
どうせ眠れないと思っていたし今は一人で考え込んでいるのがつらいのもあるけれど、純粋にそばにいてくれるのが嬉しいしありがたいと思った。
くっきーが戻ってきたのは髪の水分をタオルで雑に拭き取りながら部屋をうろうろしてた時だろうか。]
おかえり。
[って言って入ってきたとこ抱きしめたのは、別に酔ってるからではない。]*
[くっきーを待つ間、どうしても考えてしまうのは、徹っちんと先輩がどうしているかなということだった。
微睡の中で聞こえた先輩の声の後にオーブンの音がしたのはなんとなく覚えているから、パンを焼いているのかもしれないなとぼんやり思う。
先輩がたくさん、好きなことできていれば良い。
きっと二人とも深いところを語り合うのだろうし、待つしかできないオレは、徹っちんの口から聞けることだけ、伝えたいと思うことだけ徹っちんから聞けたら良い。
夢の中でオレに想う人の話をしてくれたように、悲しいの理由を教えてくれたみたいに。
「寄り添えなかった」「戻ってきたら寄り添いたい」と言ったじゅじゅや、身を投げ出しても救おうとして自分が還れないかもしれないと落ちていた時でさえ気にかけて徹っちんが救おうとしていたまつもっちゃん。
徹っちんと彼等の間に何があったのかはオレは知らない。
だけど、どちらも徹っちんを大切に想ってくれていることはわかるから、それぞれの想いが後悔しない形で収まってほしいと思う。
そこにはきっと本人にしかわからないままならないことがたくさんあるのだとしても。]**
[私も、飲み会の参加経験と言えば体育会系の賑やか極まりない、わやくちゃなものばかり。
そもそも同性相手でも異性相手であっても、お酒があってもなくても、こういうことが嬉しかったとかつらかったとか、顔付き合わせて話すことなんて経験自体が全然無かった。
それでもなぜか武藤の傍は居心地良い。
似てるところも多々あるものの違うところも勿論あって、でもそれを聞いて知るのも、なんだか楽しい。
武藤もそうなら、もっと嬉しい。]
…………うん。……努力、する。
[武藤からの"自信を持って良い"の言葉 には、素直に頷く。
それはきっと、小泉さんが言ってくれた"これからの人生の一瞬たりとも無駄にするな" に通じることだと、思うから。
本音を隠して口を噤んでいたり、かけてくれた言葉を聞こえないふりしたりの、そんな回り道は、もうしたくない。
でも、"柚樹って呼んでいいよ"とか"柚樹の方がいい"とか、それを口にするのはまだ難しかった。なんだか、こう、身の置き所が無くなってしまうから。]
[────で。
食事を終えたし、チューハイの缶も1滴残さず飲み干したわけだけど、なんだか、とても離れがたくて。
眠りたくはなく、かといって悶々と"いつ津崎戻ってくるのかな"と一人で病室で思い続けるのも正直、つらかった。
出来れば、誰かと一緒に居たかった。
誰より、武藤と。
武藤が一人で居たかったら申し訳ないなと思ったし、"すげー嬉しい"とか"居てくれると助かる"という言葉 も、私を気遣ってそう言ってくれるのかなあ、なんて、やっぱりほんの少しだけ考えてしまうけれど、そんな臆病はそっと蹴散らすことにした。]
[いや、でも、しかし、ね?]
…………これ、って……。
[シャワー浴びて、浴びながら歯ブラシ咥えて歯も磨いて、パジャマ代わりの黒ジャージ上下着て、そこそこおざなりに──どこかのお洒落男子が知ったら顔顰めそうなぞんざいさで──髪乾かして。]
これって、"男の家に一人で行く" のと、
あまり変わらなかったりする……?
[すごく今更、気付いてしまった。
警戒…何かしておくべき?いや、だって相手、武藤だし。ここ、病院だし。
いや、でも。]
………………まあ、いいや。
[結論。"まあいいや"。
そして先程に輪を掛けてこそこそと、"悪い子"は武藤の病室へ向かったのだった。
もう回診も終わった時間だしね、大丈夫大丈夫。]
……ぁ、……ただい、ま……?
[ノックしてドアを開けつつ、ぽそもそと告げる。
なんとなく、この部屋ではずっとベッドの上の武藤ばかり見ていたから、今もそうなんだろうと勝手に想像していた……のだけど、ドアを開けたすぐ近くに武藤が居て。
見知った束感重視っぽい金髪がくしゃりと垂れてて、そうなるといくらか幼く見えるなあと、新鮮さに何度か瞬く。
案外猫っ毛だったりする?なんて問おうとした声は、抱き締められて跳ね上がった心臓の音に掻き消された。]
うん。……ただいま。
[ほぼ背が同じな、"マブダチ"でもある人からのハグは、でも、"好きな人から"が加わるともう全然違うもので。
身体も心もそこら中がふわふわする気分になるし、少し緊張して手指は冷えてる気がするのに胸の中はあったかくなってくるし、つまるところ、全部が幸せ、で。
キスしたいなあ……なんて思ってしまったけど、なんだか、さすがに、この状況でキスってよろしくないのでは???と頭がぐるぐるしはじめてしまう。]
…………同じシャンプーの匂い、するね。
[浴室に置かれてるのをそのまま使ったのだから当然なお話だけど。
つい零してしまったその言葉も、状況的にあまりよろしくなかったのでは!?なんて、思いもしない。*]
[あまり話したことなかった時までの印象で、くっきーは結構一人でいる方が好きなタイプなのだろうかと思っていた。
隣に座った以上オレに絡まれることは避けられないバスの中や約束してた3人でのレストランはともかくとして。
異変後の美術館では単独行動は避けようってしてたのもあって(最終誰もそれを守ってなかった気はするんだが)、自然と一緒にいてくれたと思っていて。
だからこうして人のたくさんいる現実に戻った以上、必要なければ一人になりたいとかもあるかなとは少し思っていて。
夕飯食べるのをわざわざ来てくれると言われたのはすごく嬉しかったし、まさか酒持ち込んでるとは思わなかったけど。
酒入ると普通の食事より時間とれるしよかったと思ってたくらいなのだから、このまま居てくれると言われて嬉しくないわけがなくて、余計な気遣いは蹴散らしてくれてよかった。]
[ただ純粋に一緒にいてくれることが嬉しいということばかり考えてたから、来る前にくっきーが何やらいろいろ考えてまあいいやに着地していたのは想像もしてなかった。
まあ考えてたら変に緊張して待つことになってただろうから、オレの想像力が乏しくてよかったとしておこう。
それでも待つ間はなんだかそわそわとしていたので、ノックの音がして控えめな挨拶と共に入ってくるのが見えれば此方をなんだか珍しいもの見るみたいな顔をしているところを抱きしめていた。
心なしか体温が高いような気がするのはシャワーだけとはいえ湯上がりだからかとか、まだ湿り気のある乾かしたての髪からふわりと香った匂いはいつもとちょっと違う気がすると思ったらドキリとしてしまって。
同じシャンプーという追い討ちの発言に一瞬息を詰まらせる。]
……───〜〜、
[何か軽口でも言えれば普通にできる気はしたんだけど。
普段饒舌な口からはうまいこと言葉が出てこなくて、代わりになんか変な感じの呻き声みたいのが喉から漏れた。]
[そういえば還ってからはキスしてないなとか今考えてしまうのは不可抗力みたいなものなので許して欲しい。
したいと思ってくれてるとか知ったらそれこそ歯止めが効かない気はするけど。
至近の顔を覗き込むと、元々化粧っ気がないから湯上がりであろうと特に変わりのないはずなのにいつもと違うような気もして心臓がうるさくなる。
無言のまま頬に手を添えると、そっと唇を重ねた。
あの時最後に触れた瞬間、全てが消えてしまった記憶が頭を掠める。
消えてしまうことはもうないってわかってはいても触れただけでは離し難くて、唇を甘く食んだ。]*
[武藤が考えていたとおり 、一人が好き……というか、私は人が大勢居るところは、あまり得意じゃない。
リラックスしきれるとは言い難いし、無意識に"自分の居場所の無さ"を再確認してしまっていたたまれなくなるし、変に気を張ってしまうから、後ですごく疲れるし。
けれど、無音の閉ざされた狭い空間に一人居るというのは、賑やかな場所と同じくらいには苦手で、許されるならば開けた空間に出て走りたくなってしまう。
でも、武藤の傍が、行き先を思い描いたどの場所よりも"あそこが良い"と思ってしまったのだから、仕方がないよね。]
[抱き締められて、抱き締めて。
嬉しいのに心臓はやかましいし、なんだか照れくさくて逃げ出したくもなるし、いや、逃げないけど……なんて頭ぐちゃぐちゃにしていたら、武藤の側も、それは私の心境かな?と思いたくなる風な、言葉に詰まったみたいな呻き声、出してるし。
ふ、と、視線を上げたら、ぱちりと視線が噛み合った。
頬に当てられる手に、初めての時とは違って今度こそ、自然と目が閉じていく。
そういえば、最後にキスしたあの時も、目を閉じる余裕なんて、全然なかった気がするよ。
触れるだけのキスしか知らない私に、触れるだけのキスが降ってきて、でも、それだけじゃ終わらなくて。]
[全然怖いとかはなく、武藤となら、って。
してくれた事をそのままなぞるように唇を動かしてみたら、どうやらそれはそのまま"深い口付け"になるというものだったみたいで、なんか、色々、飽和した。
えっと……舌、とか。
どこがどうなってたかなんて、もう全然わからないけれど、キスって、こんなに長い時間するもの──できるもの?──なんだ……?なんて、混乱する頭の隅、そんな事もうっすら考えていた。
────で。
そこそこ盛大にテンパった私は、そのキスが一段落したところで武藤の手をぐいぐい引っ張ってベッドに"押し倒し"……はしなかったし、"突き飛ばす"と表現するほどの乱暴狼藉は働かなかった……と思う(思いたい)けど、ごく若干、ごくごく若干、強引めにベッドに押しやって。
自分もスリッパ脱ぎつつもそもそとベッドの上、武藤の傍らに俯せに寝転がったのだった。
目の前の枕抱えたら、それ、武藤のものだったわけだけど。ごめん、許して。]
ここ、病院なの、で。
…………その……うん。
…………………………可能な、範囲、で……。
[何をどこまでできるって?知らないよ!!*]
[真剣に渡される朝霞ちゃんの声を、俺は頷くでもなく首を振るでもなくただ聞いていた。
「看取らせてほしい」「頼られる人間になりたい」
ここまで伝えてくれる相手に返す言葉を、俺は持たない。
例えばそうだな。
誰かに頼る事が出来ていたなら、幼かった俺も死にたいとなんて思わなかったのかもしれない。
もっと素直に、もっと“普通”に、生きていたのかもしれない。
頼られることばかりを覚えて、頼ることは出来なかった。
そう簡単に変えられることじゃない。
不誠実な答えしか出せない自分自身に、苦笑する。
眉を下げて、悲しそうな顔になる。
相手が朝霞ちゃんだから、ではない。
誰に対しても、俺自身のことを明け渡せなくて。
自分勝手で、ごめんね。]
[万が一、俺が結局自ら死を選ぶ未来があったとしても。
きっと誰にも伝えない。
ありがたいことに、首に縄かけようとしてくる奴もいるし。
俺が死ぬのをきっと全力で止めようとしてくるだろうから。
そんな奴らの前で、優しい人たちの前で
心に深く爪痕を残してこの世を去るなんて
俺には出来ないから。
看取ること も、叶えてあげられそうにない。
折角伝えてくれた願望を、叶えてあげられない。
ああ、でも───
朝霞ちゃんの手を取り、その掌に指先で書く。
これなら伝えられるかもしれない。
分かりにくいだろうからゆっくりとゆっくりと、冷えた手で文字をなぞる。]
「しなない」
「つさきくん」
「またなきゃ」
[津崎くんが生きているのなら。
共に生きられたらと思う。
もし、津崎くんが「一緒に生きたい」と思っていなくても。
それがあの夢の中で、漸く俺が見つけられたこと。
小泉くんから与えられた、“慈悲”。
逝く人から与えてもらった時間で見つけた、たった一つの道。
朝霞ちゃんの手を軽く握って、隠していた温度を伝えた。
あたたかくなんてない、優しくなんてない、柔らかくもない、酷い指先。
この手はひとつのものしか選べない。
それを暴露することが
今出来る、俺に出来る、最大限のこと。
ひでぇやつだね。
嫌ってくれていいよって、やっぱり眉を下げるしか無かった]*
「あいたい」
[きっと今、唯一の死と対峙している津崎くんに。
きっと今、その死と向き合う小泉くんに。
呟いたけど声にはならなくて、けほ、と咳が毀れた]**
[あの屋上で最初にキスした時も、最後別れる時も不意打ちみたいになっていたんだっけと顔を寄せながら思い返していた。
目が合って、準備が出来てるように閉じられる瞼に、もしかしたらくっきーもしたいと思ってたのかなとか、そうなら良いなと思う。
キスしたいなと思った時は前みたいに軽く触れられたら良いだけと思っていたのは本当だ。
けど、唇が触れても消えることはないのを確かめて重ねたまま薄く開いた口に応えてくれたから]
[重ねた先で呟いた言葉に返ってきた囁きに小さく笑んで吐息が漏れた。]
[絡めた舌先に慣れない感じで応えてくれるとことか、いじらしく思えてかわいい、とか考えてる余裕もあんまりなくて。
キス一つでとはちょっと言い難いくらいにオレ自身割と必死な感じだったし、頭がくらくらするのは酸素が足りないためだけじゃなかったと思う。
よく回ってない頭でやめるタイミングがわからないんだがとか間抜けなことを考えてはいたんだけど。
途中、頬に添えていた手を首筋に落として、肩から鎖骨をなぞった後の指先のやり場に躊躇してから漸く顔を離した。
調子乗ったかもしれん、大丈夫かなとか思いながらくっきーの顔を見ようとしたら手を引かれたので焦る。
怒ってんのかなと思ったらそうではないみたいで、ベッドに押しやられた時は寝とけってことかな等考えていた。]
[ベッドの上、横に寝転がるのを見て目が泳いだ。
枕を抱いたまま俯せになってる顔はよく見えなくて。
とりあえず頭を撫でたら小さく呟く声に、ぐ、とまた息が詰まって喉から変な声が出た。]
それは……、えーと、
[いいのか?というか可能な範囲ってどこまでなんだ?
とは混乱してるけど、好きな女にそう言われていろいろ我慢できるほど自制心があるわけではない、ので。]
可能な範囲がわからん…、
ダメだったらストップかけてくれ…
[一応断ってから寝転んだまま身体をくっきーの方に向ける。
緩く手を伸ばすと指で髪を梳いて耳から首筋に触れた。
どうにもその体勢されてると顔が見えづらいな、と思って。]
…顔、見えづらいんだが。
あと枕…、
[肩に手をかけると身体を寄せて額に口付ける。
少しだけ肩を押しやって此方を向くように促したら、とりあえず邪魔な枕は取り上げた。
指先を滑らせて胸元に触れる。
ほぼ脂肪は感じられないけれど、触れてみると自分の体とはやっぱり違う気がするし、丁寧に扱わないといけないといけないものだと感じた。
心臓の音が伝わってくるのに、自分の鼓動がうるさいせいでどっちの音なのかもよくわからなかったけれど。]*
[────言い訳させてもらえれば。
あのままキスしてたらあらぬ声が出そうだったし、地味に悔しいことに、足までなんだか震えてくるし。
けど、やめてとか言いたくないし押し退けるなんてする気もなかった。
ようやく唇が離れたところで、膝がかくりと落ちそうになって、何ていうか、いたたまれなくなって。
今更"椅子に座ってお話しよう"でもないし、この部屋での他の場所なんてベッドぐらいしか存在しない。]
[────で、思い至ったのが、"とりあえずベッドに避難"的な、間抜けな選択肢だったという次第。
ベッドに移動して抱きしめあうとかだったら、さっきのキスほど心臓止まるような事にはならないんじゃないかと思った私は、ベッド上の行為はまだまだまだまだ"先"があるのだということを、完全に失念していたのだった。
でも、ほら、ここ、病院だし。
そんな、色々は、しないし、できないよね、と…………思って。
というか、そも私は、その"色々"というのを、そんなには御存知なかったわけだけれども。]
………………。
私にも、わからない、よ……。
["可能な範囲がわからん" 言われて、私も枕に顔押しつけたまま、もごもごと返事をする。
"ダメだったら"と言われても、困ったことに、ダメじゃないから、困ってる。
武藤がすることにダメなんて存在しないんだから、ストップなんてかけようもない。
顔、"見えづらい"んじゃなくて、見えづらくしてるんだよ。
枕が最後の砦とばかりにしがみつこうとしていたのに、ちらりと見やった隙に額に口付けられて、距離の近さに驚いているうちにその砦まで奪われた。]
…………ぅー……。
[色気ゼロの小さな唸り声になっても仕方ないと、思ってください。
手のひらを相手に向けるように、手の甲で顔を隠しがちになるのは、多分、自分でも気付いていない、私の癖。]
な、んで、武藤は、動けるの……。
私……恥ずかしくて、死にそう、なんだが。
[羞恥の極みかつ悔しまぎれで、思わず口調を武藤のそれになぞらえてしまう。
臆病が似ている武藤だから、キスまではしても、それ以上は"続きはまた今度ね"ってなる気もしてた。……いや、そうなると思ってた、かな。
けど、間近で見た武藤の瞳が常になく精悍で。
瞳の奥に揺れる欲も見えてしまって、それが、少し嬉しくもあって。
だから、"まあいいや"って、またもや思ってしまった。
ねえ、でも、私の身体触っても、楽しくもないし、心地良くはないと、思う、んだが。*]
[今までの話を聞いた限りというか、告白した時とかキスした時の反応から見ても多分そういうこと想定してないのだろうなと思ってはいたものの、
なんか謎の信頼を置かれていたことは知らない話だ。
困っているような声を出しているのはわかっても、ストップとは言われてないしと自己解釈しながら枕をどけた先の顔に視線を向けたらやっぱり顔は見えなくて。
手の甲で顔を隠す仕草は告白した時にも見た記憶がある。]
いや、だから顔が見えづらい…見えないんだが
[恥ずかしくて死にそうと、もごもご手の下で言ってる口調が自分の癖と被ったので、すごい照れてるということはわかった。
横を向いてる半身の下側の手で頭を引き寄せると、もう肩手は其方へ伸ばしていて塞がってる(別に塞がってはいない)ので、顔を塞いでいる手に幾度か唇を落とす。]
なんでと言われても…、
オレも健全な男子なので…、
[とは前にも言った気がする。
大丈夫だ、そんなにコトを急ぐつもりもないし病院なのは忘れてないので。
オレだって恥ずかしくないわけはないけど、目の前でそれだけ恥ずかしがられると少しくらいは落ちつけると思うし、多分。
もっと近くで触れたくて胸元に置いていた手を少し下にずらして背中と腰の間に回す。
引き寄せるついで、上着の裾から手を入れると直に触れた背の肌を撫でた。]
……、熱い、
[抱き合った時に触れた温かさより幾分高い温度に小さく息が漏れる。
指先が触れた肌じゃない感触は面積が広くて一般的に色気のある下着ではないのだろうけど、自分には必要ないそれに改めて性別の違いを意識してしまって。]
けど、いや、熱いから?
…、こうしてると気分が良い。
[それでもなけなしの理性をなんとか保つ努力はしているし、こうして触れている肌の感触と体温だけでも、楽しいは違うかもしれないが心地良いと思った。
ので、心配しなくて良い。]*
[松本さんは悲しい顔をしていた。
私の願いは、私の我儘なんだから、そんな顔をする必要なんてないのに、否定してしまえばいいのに。
優しい人はいつも、私を責めない、否定しない。
津崎さんも松本さんもそうだった。
沈黙は優しさ、肯定しないのは誠実さ。
誰かに心の内を分けるのは、とても怖いこと。そう簡単に出来ることじゃない。
ましてや私は臆病者で、すぐに逃げ出そうとしてしまう。
そんな人間に頼れと言われて、頼れるはずがない。それでも。
今は難しくても、一歩ずつ、歩み寄れるような人間になりたい。今は思うだけ、だけど。
いつか少しでも、荷物を分けてもらえるように。
そんな機会がたとえ訪れなくても、そうなれるように努力してみるから。]
[うん。前にも言われた。
"健全な男子"って。
でも、なんだろう、健全な男子だからこそ、私の身体に(なんか……って言うと、いけないのだろうけど、でも)触りたいとか、そういう欲は、あんまり沸かないんじゃないかなあ……などと、私は勝手に思ってしまっていた。
"好き"という感情と、キスとハグまでは繋がっていても、その"先"まで欲しがってくれているということを、今一つ信じられていなかったんだと思う。
"謎の信頼"なるものは、多分。
自分の身体の、女としての魅力の無さの方向に全幅、向けられていた。]
[でも、触れられる事自体は少しも嫌だとは、思わなかった。
困惑しているうちに砦の枕は消えているし、抱き締められているに近い距離にまでなってるし、そして、知らないうちに武藤の手は背の、服の内側にまで入ってきていて。]
……武藤の手だって、すごく熱い、よ。
[昼も夜もスポーツブラ一辺倒だから、多分、武藤の指先が掠ったところで水着に触れているのと大差無いだろうけど。
色気が無いのは、そも、その上に着てるのがユニセックス系の黒ジャージなところからお察しだし、そのへんは、今更だけど。
女らしさの薄い、柔らかくはない身体を始め、どこもかしこも色気のいの字もないことには、ごめんねとしか言いようがない。
けれど、熱を持った指先から、なんとなくだけど武藤の気持ちが伝わってきた気がして、また頬が熱くなった。
そろそろ血液が沸騰していたっておかしくないよ。]
[事を急かずに、優しく触れてくる手指の動きひとつからでも、武藤の"好き"が伝わってくるようで。
顔を隠していた腕を外し、私も両腕を武藤の方に伸ばしてみた。
おずおずと頭を抱えると、さっき気付いた、同じシャンプーの香りがふわりと漂ってきて。]
………………うん。
きもち、いー、ね。
[ああ、武藤、ピアス外してる……、なんて事にも気付いてしまいながら、抱きついてしまえば、もう顔を、見られることもないから恥ずかしさも薄れるし。]
────好きになってくれて、ありがとう。武藤。
[武藤が欲しがってくれるなら、なんでも全部あげたいけど。
でも、やっぱり色々、"健全な男子"には物足りないかもしれなくて、胸の端がつきりと痛む。
ごめんね、とは、言っちゃいけないと思ったから、言わないけど。*]
[松本さんが、私の手を取る。
そして、伝えられる言葉
松本さんの胸の内にある、確かな想い。
私と向き合って、それを伝えてくれた、松本さんの誠実さ。
私はゆっくりと頷いた。
暖かいものが胸の内から溢れて、瞳から頬へと流れていくのを感じる。]
よかった。
[松本さんが生きる意味を見出だして、津崎さんが彼を一番に想う誰かに出会うこと。
いつか、そうなることをどこかで望んでいて。
松本さんが生きる傍らに津崎さんが居て。
津崎さんを一番に想う松本さんが居る。
そんな未来を、今は願っている。
二人の関係に私は首を突っ込むことなんて出来ない、してはいけないけれど。
追いかけられなかった私が、追いかけることが出来た人に、傷つけた人に何かを願うなんて傲慢なのかもしれないけれど。
幸せになってほしい。幸せに生きてほしい。と。
そんな身勝手な願いは心の内に抱えたままでいさせてほしい。]
[松本さんが小さく呟いた、声にならない声に私は頷いた。
何を言っているのか、分かる気がしたから。
きっと、もうすぐ。
会いたい人に会えるのも、永遠の別れが来るのも。
もう、そんなに遠くないことだから。]
[背中に触れた自分の手も温度が高いことは言われるまで気づかなかった。
意識してみればオレだって頬は紅潮していると思うし全身熱い気がする。
恥ずかしがったり困惑してたりするような反応の裏で、また女子としての魅力云々みたいなものをネガティブにもにょもにょ考えてるとは気づけなかったけど。
こうしているだけで健全な男子らしい反応は此方の身体もしているので。
とは、ちょっと怖がられたくないし引かれたくないから気づかれないように若干腰は引いたり、とか、いろいろ大変なのだが。
素直に好きは出せるようになってもお互い内心の後ろめたいことまでは表に出せないのは仕方ないのかもしれない。]
……、ん。
[頭に回された腕に引き寄せられて目を細める。
触れているのが気持ち良いけど、触れられると更に熱が上がる感じがした。
耳元で呟かれたありがとうに、どうして今ありがとうなのだろうとかぼんやり考えて。
ああ、また何か自信ないとかそういうこと考えてるんだろうな、と。
その礼の頭に「私なんかを」とか付いてるんじゃないかって。
ごめんは言われなくても何となくそう思う。
一緒にいて、夢の中で見てきて、これでも結構わかるようにはなってると思うから。多分。]
あー…、オレはくっきーだから好きなのだし、
それに、
柚…樹、のことを抱きたいと思ってる、し。
[別に今すぐでなくても良いし、場所が場所だしとか、急いでないとは付け足して。
その結果でがっかりとかするわけがないのはオレ自身がよくわかっているのだがちょっと説明が難しい。]
………、
今時点いろいろと耐えているので…
[しばらく言い淀んだ結果めちゃくちゃ小声になったけど、他に説明のしようがないというか背に腹は変えられなかったというか。
事実、抱き寄せた身体は筋肉はついていても男と比べたらやはり華奢に思えるし、多少体脂肪が平均より少なくても触れた肌の感触とかに柔らかさを感じる。
あと、客観評価は知らないが、対オレについては変なこと考えなくて良い理由に惚れた弱みは多分にある。
そこまでは口には出せないけど。]*
[私は私の葛藤でいっぱいいっぱいで。
武藤も武藤で大変だったらしい ……とは、やっぱり口にしてくれなきゃ気付けないことで、神様だか天使様だか悪魔様だか忍者様だかが見ていたら、それは笑われていた光景だったかもしれない。
後から振り返ればあの時は初々しかったなあ、なんて微笑ましく思えたことかもしれないけれど。
ともあれ今は、"このままでいたい"のと"恥ずかしい"のと"これからどうすればいいのかな"と、ほんの少しの"私なんか"が心臓の音と共に、それはもう、やかましく飽和しまくっていた。]
────…………ぇ、
[武藤はエスパーなのかな、と、武藤の頭にしがみつきながら、幾度か瞬いてしまう。
私"だから"好きなのだと。
……で、"抱きたい"、のだと。
それは饒舌な武藤にしては随分と端的な言葉だったけれど、"だから不安にならなくて良い"という、私の欲しかったもの全部が詰まっていて、ちょっと、泣きそうになった。]
…………うん。
うん。
ありがと。
[抱いていいよ、抱いて欲しいよ、と囁きかけながら身体を擦り寄せようとして……"とある事象"に気付いてしまったのと、武藤がすごくすごく小声でぽそもそと告げてきたのが耳に届いたのは、ほぼ、同時のこと。]
……………………ぁ……。
[ぽふん、と顔から耳からなんなら頭皮から指先まで赤くなった気がした。]
[別に、引いたりしない。怖くもない。
けど、まあ、気不味いか気不味くないかで言えば気不味いわけで、でも、ごめんでもないし、ありがとうでもないし……、]
ぇ、っと…………え、と。
[よく知らない。
知らないけれども、男の人って、"こう"なったら、けっこう、大変なのではなかったっけ。
念仏唱えるとか素数数えるとかしたら、どうにかなるんだっけ……?といつだったかに見た漫画か何かの描写を思い出しつつ、目の前で好きな人が念仏唱えて耐え忍ぶのも、激しく違うような気がするし。]
あ、の………。
………手伝えること……ある、のかな。
[元はと言えば、全く後先考えずベッドに武藤を連れ込んだ(と言うと語弊があるけど、状況としては正しくそれだった)私が悪い気がするし、"これ"は、多分、ここが病院でもギリセーフ…………じゃないかもしれないけど、"まあいいや"って。*]
ぅ……なんか津崎から言われてる気がする……(いちゃついてるよ……)[顔覆い]
徹っちんがオレのことを考えてる気配がする……[目逸らし
そりゃ武藤はいい男だけど津崎もちゃんといい男だよ…[ぼそ]
[好意に対するお礼という意味では同じだけど、安堵したような声で呟かれたありがとうはさっきのとは違うってわかるから、今度は素直に受けとった。
少しでも不安が取り除けたなら嬉しかったし、少し前、もっと自信を持てと言ったこともちゃんと伝わった気がして。
抱きたいと言ったのは自分だけど、答えをストレートに囁かれるだけでもいろいろまずくてちょっと意識が自分の今抱えている問題にばかり向いていた。
ので、シーツが擦れる音が微かにして身体を寄せる気配に気づくのが遅れた。]
……っ、あ、ちょっと待、 ……っ、
[ここで勢いよく離れるのもできないしとか考えてたら咄嗟の判断もできなくて、少しだけ身体を引いたところで下肢の方に触れられた感触で言葉が詰まった。]
………、
[気まずさで無言になりながらワンチャン気づかないでいてくれないかな、と思ったのだけど。
いや、いろいろ耐えてると言ったんだから既に伝えてたようなものだが、もっと概念的な意味に捉えられるようにも言ったつもりだったし。
みるみるうちに朱に染まっていく顔は見えていなかったが、口籠る様子にさすがに誤魔化すのは無理かなとは悟って、羞恥と気まずさで彼女の肩口にゴツ、と額を埋めた。
というか頭を落とした。]
いや、放っておけばなんとか…、
[とは言えこうして体を寄せていたらなんとかなるものもならないのだが等ぐるぐるしてたら耳元に聞こえた問いかけに、一瞬頭がフリーズする。
手伝うこと…
手伝い、とは。自分の作業などに手を貸してもらうこと??
とか単語の意味から考えたりする程度には同様していて。
言ってる意味を理解すれば、いや、意味わかって言ってるのか本当に、とは思うのだけど、今度はオレの方が頭から湯気が出そうになった。]
[申し訳ないとか恥ずかしいとか葛藤する時間はどれくらいだったか。
数十秒は、肩に顔を埋めたまま、あーとかうーとか言いながら考え込んでたと思う。
漸く顔を上げてから下にしている方の腕で頭を抱え込むと、首筋に顔を埋めて。
上着に差し入れていた片手を抜くと、抱き合った身体の間に落とした。]*
[こんな状況下で、"かわいい"とか思ってしまうのは、大変に申し訳ないのだけど。
私の心情ばかり気遣って、私が怖がらないように引かないようにって──それは、まあ、自分の保身っぽいのがあったとしても──狼狽えている武藤 は、なんだかちょっと、可愛かった。
同学年なのに私よりもよほどに人慣れしていて、対外的には自信満々的な態度で居る事が多いから、殊更に。
武藤が"目の前でそれだけ恥ずかしがられると少しくらいは落ちつける"なんて考えていた ことは知らねど、それは確かに、その通りだったかもしれない。
肩に落ちてきた金髪とか、少し辛そうなのにそれを出さないようにしている吐息とか、事ここに及んで"放っておく"とのたまうとか、なんだか、かわいいなあ……と、思ってしまった。
一度は緩めていた腕でもう一度武藤の頭を抱え直し、大丈夫だよ気にしないでという風に髪を撫でたけど、果たして伝わっていたのかな。]
[こんな状況下で、"かわいい"とか思ってしまうのは、大変に申し訳ないのだけど。
私の心情ばかり気遣って、私が怖がらないように引かないようにって──それは、まあ、自分の保身っぽいのがあったとしても──狼狽えている武藤 は、なんだかちょっと、可愛かった。
同学年なのに私よりもよほどに人慣れしていて、対外的には自信満々的な態度で居る事が多いから、殊更に。
武藤が"目の前でそれだけ恥ずかしがられると少しくらいは落ちつける"なんて考えていた ことは知らねど、それは確かに、その通りだったかもしれない。
肩に落ちてきた金髪とか、少し辛そうなのにそれを出さないようにしている吐息とか、事ここに及んで"放っておく"とのたまうとか、なんだか、かわいいなあ……と、思ってしまった。
一度は緩めていた腕でもう一度武藤の頭を抱え直し、大丈夫だよ気にしないでという風に髪を撫でたけど、果たして伝わっていたのかな。]
[今一つ人語になっていない呻きをそこそこ長く漏らした後、それでも武藤は私に無理を強いることなんて一つもなくて……そして、まあ、落着した……のかな。
お互い緊張と羞恥の極みで、改めて眼を合わせた時には気が抜けてしまい、ふにゃ、と笑み崩れてしまった。]
ぁ、っと…………おつかれさま……は、変かな、うん。
[武藤もめちゃくちゃ恥ずかしいんだなと解ってしまったし、だったら私ばっかり恥ずかしがってるのもフェアじゃないなと思ってしまって。
武藤相手なら怖くないし、何度でも言うけど絶対引かないし、醜態を晒すことになったって、きっと許してくれるから。]
しようね、武藤。
今度は、"ちゃんと"。
[微笑んで、武藤の鼻先に口付けた。*]
──回想病院・朝霞さんと会話──
はい。私たちは、今、生きています。
現実に生き残ったのは私です。絵の中の彼女ではなく。
[朝霞さんの言葉に、頷きさえせずに肯定した。
それから、彼女が絵の女の代わりを求めていないことを確認すると、工藤は続けた。]
仲よくなりたい人には事情を話しておくと、
ある程度の事情を汲んでもらえると思うが。
[それは、小泉先輩の言葉の受け売りだった。
だから、工藤は己のことを話す。
現実を分かち合うために。
今までに途切れてしまった、いくつもの縁と同じにしないために。]
私の五感は、皆さんにとっては些末なことを、非常に敏感に感じ取ります。
そしてこの五感は、私を身勝手に見せます。
だから私は皆さんと同じように時を共有することはできません。
私は誰かと食事に行ったりしません。食べられるものが無いので。
ルーティンを崩したくないので、興味の無い遊びには付き合いません。
[それに加えて、工藤には人の心が分からないという問題がある。]
「楽しそう」と言った人を親切心で連れ回していたら、「あなたに合わせすぎて疲れた」と縁を切られました。そういうことが良くあります。だったら断ればいいのに。
皆さんは心遣いだと言って嘘をつきますが、私にとっては迷惑です。
[そして朝霞さんは心遣いのできる人だ。
だから、付き合い方を間違えると、彼女ばかりに負担が行ってしまう。
工藤は朝霞さんの性格まで考慮して言ったわけではないが。]
だから私と現実を分かちあうというのなら、朝霞さんはやるべきことがあります。
気を回して嘘をつかない。嫌なことは嫌だと言う。私の行動に興味が無い時は自分の時間を楽しむ。
そのように試みてください。
[優しい嘘は、お互いを苦しめてしまうから。]*
──お見舞い・松本先輩──
[工藤の言葉は唐突で、松本先輩は目を丸くした。
表情が読めれば、工藤はその驚きの意味や、寛大な解釈を理解できたのだろうけれど。
分からないから、じっと松本先輩の目を見ていた。]
そうですか。
[ゆっくりと首を横に振られて、やっと工藤は彼の意見を理解する。
どういった心境の変化があったのかは、予測はできないけれど。
いらないというのなら、今はいらないのだろう。]
死にたくなったらいつでも言ってください。
衝動に任せて自分を傷つけると、苦しみを長引かせます。
[だから、そのようにだけて伝えて、病室を去った。
松本先輩の声が出ていないことに対して、特に何か言うことも無かった。]*
──夢の中・レストラン──
[工藤は天使の言葉と共に、小泉先輩を見た。]
はい。
[朝霞さんに呼びかけられて、いつも通りに返事をする。
背中を撫でられても、微動だにしなかった。]
死んだのは小泉先輩でした。
[そのように、ただ事実を述べた。
夢から目覚めることなく、二人の会話を見つめ続けた。]*
[静かにしている間、朝霞ちゃんには>
どう伝わったんだろう。
その頬を涙が伝うなら、伸ばした手の甲で拭ってやった。
優しい人なんだなと思う。
何かのために、誰かのためにこうまで気持ちを傾けられるのは。
暴くことの出来ない心の裡は知れるはずなどないのだけれど
きっと人は何かを抱えて生きていくものだから
それが重荷にならないのなら、大切なものなら
しっかりとその胸に抱えていてほしい。
頷く朝霞ちゃんには、ふと弱弱しく笑みを向ける。
暫く何を語るでもなく、ただその手を軽く握って過ごした。
沈黙の中で夕陽だけが動き、空に夜を連れてくる]*
─病院・工藤ちゃんと─
[黒い人形のような目が、逸らされることなく此方を見ている。
そしていつでも殺せると物騒なことを言うものだから
ふはって声も出さずに笑った。
ちゃんと声が出るようになったなら、
この優しい人にも伝えなければならない。
いくら望んでも、応えちゃいけないこともあること。
他者の命は奪ってはならないということ。
偽善に溢れた道徳的な意味ではなく
工藤ちゃんが捕まっちゃうからね。
声が出ない症状に何一つくれるでもなく
いつものように去っていってくれる、その態度は
気遣いなんかじゃないとわかっていても
少し、有り難かった]**
[相手が恥ずかしがっているうちは余裕が出るものなのだなということは思い知った気がする。
引かれてなければ良いとは思ってはいたものの、よもやかわいい等思われているとは知らず。
かわいいは褒め言葉なのでオレには言っても良いとかバスで言った記奥はあるが、今はさすがに羞恥が勝っていた。
結局放っておくこともできなかったし、と思いながら、頭を抱える手が髪を撫でれば懐くように擦り寄せた。]
─現在・夢の中─
[行くまいとしていた夢の中へ行こうと思えたのは
朝霞ちゃんとの時間があったからかもしれない。
もう陽も落ちて進んでいる時間を認識する。
覚悟を決めて、布団の中に潜り込んだ。
目を閉じて、どのくらいたった頃か。
気が付けば夢の中にいた。
一度はレストランに寄って二人が会話する様子を見た。
内容までは聞かないようにした。
まさか俺の話が出てるなんて思いもしないし。
やりたいことがあったから。
前と同じように、店の折り紙セットをくすねて。
屋上で細かい三角を作り始める。]
[これがもし“カムパネルラ”の織り成す夢なのだとして
きっとザネリは俺でもあり、みんなでもあり
南十字の輝く駅に今、津崎くんと小泉くんがいるんだろう。
孤独で空想好きなジョバンニと、人気者で優等生のカムパネルラ。
“終わる日まで 寄り添うように 君を憶えていたい”
その為に、ザネリの一人はゆるゆると動く。
いつものように背を丸めて、緩慢な動きで。
見えないかもしれないとわかっていても。
せめて夢から醒める時くらいはさ。
一瞬でもいいから、明るくしてぇじゃん。]
[最期に会えてよかったって、思ってほしいじゃん。
覆らない。覆せない。
大切な友人が、逝くんだからさ。]**
[呼吸とか諸々、落ちついてから顔を上げるとくっきーと視線が合って、浮かべる表情が定まらなかった。
崩した笑みを見れば少し眉を下げてはいたけど笑みを返せた、と思う。]
ん……、
[お疲れ様には何と答えて良いか分からず。
ごめんと言うのも、いや、ごめんでいいかこれはさすがにとか考えてたとこで告げられた言葉にひいてきていた顔の熱がぶりかえしたけど、
鼻先に降ってきた唇に目を細めて]
……、うん。
楽しみにしとく。
[返した言葉は若干照れくさかったから変な感じになったかもしれない。
一度体を起こして暫しベッドを離れるまでの間はどうにも気恥ずかしいのが抜けなかったけど。
二度目の水浴びで頭を冷やして、着替えて戻ってきた時には幾分普段通りには戻れてた、と思う。]*
"楽しみ"。
うん…………"楽しみ"。
[や、自分が言ったんだけどね、"次はちゃんとしよう"って。
楽しみと改めて言われてしまう と、また気恥ずかしさが蘇って、武藤が再びシャワールームに消えて行った後、除けられていた枕を回収して抱え込み、ころりとベッドに寝転がる。]
う"…………ちゃんとした下着、買うべき……?
[買ったところで胸、おっきくなるわけじゃないですけども。
寄せて上げる基本的パーツがそもそも不足しているわけですけども。]
どうせなら、もっと、ちゃんと、
"かわいい"って思われたい……。
[それはけっこう前途多難な道な気がするけれど、道自体、あることを認めようともしていなかった自分からすれば、きっと大進歩なのだと思う。]
[さあさあと、遠くに武藤が浴びてるだろうシャワーの音を聞いて、多分私は少しだけうたた寝していた。
脳裏にきらきら、星屑のかけら。魔法のかけら。
────『みんなで魔法使いになろうぜ!』
声が出せない状態なはずの、あの人の声が聞こえた気がした。]
……武藤。
なんか、松本さんが、呼んでる気がする。
美術館で。
[戻ってきた武藤に、なんか、声が聞こえたんだよ?と、首を傾げる私。
なんだかんだ離れがたくて。
夢の世界へダイブする時も、2人ベッドに寝転がって、手を繋いで飛んだ、んじゃないかな。*]
[シャワーを浴びに行ってる間、くっきーがかわいいことを考えてたのは知らず。
病室に戻ればかけられた言葉に目を瞬かせる。]
まつもっちゃんが?
……、わかった。
[夕方見舞いに行った時に見た表情。
生きててよかったの裏の意味を思ってだろう言葉を詰まらせた時のものを思い出せば、頷いて。
なんとなく当たり前のつもりでベッドに寝転ぶと手を繋ぐ。
目を閉じれば、すぐに眠りに落ちたはずだ。]*
【現在・夢と現実の狭間で】
あなたって絵があんまり上手くないのね。
それとも私は化粧が崩れた顔ってイメージが強いのかしら?
[どこかおどけたような声が聞こえる。]
最期なんだもの、迎えに来たわ。
[白靄の中、そちらを見ると、あの工藤さんがいた。
でも、顔は工藤さんそのものではなく、かといって綺麗な林檎でも砕かれた林檎でもない。
私の描いた、少し歪な林檎だったのだけれど。]
さあ、私の手を取って。
誰かの死を悼むのもいいけれど、その前に少しくらい私との別れを惜しんでくれたっていいでしょう?
[そう言った彼女の表情は変わらない。
でも私は、小泉さんの死を受け止める前に、少しだけ彼女に会いに行こうと思った。
夢が消える、彼女の肖像を見る機会もこれが最後。
分かってる、彼女はもういない、これは私の記憶の中の彼女。
でもちょっとだけ、夢を通して本物の彼女が、最期に私に会いたがって、私の記憶を通して話しかけてくれたのだと思ったから。
私は彼女の手を掴んだ。]
─夢の中・屋上─
[ザネリ達の足音が屋上までやってくれば
そこには一人でチョキチョキやってる俺がいる。
気付いて振り向けば、ひらひらと手を振って。]
よっすよっす。
みんなで魔法使いになろうぜ?
[夢の中では不思議な事に声が出せた。
これも“慈悲”なのかもしんねぇな。
来た順から紙とはさみとを渡していく。
一人でやった時より、いっぱい作ろうぜ。
満天の星空、作ってやろうよ。
烏瓜の灯を川へ流すみてぇにさ。]
―― 夢・美術館 屋上へ ――
[閉じた眼を開ければそこはあの、美術館。
傍らには、手を繋いだそのままの状態で、武藤も立っていた。
寝たままのジャージ姿だったらどうしようかと思ったけど、そこはちゃんと夢らしく、この美術館を訪れた時そのままの姿になっていて。]
松本さん、屋上じゃないかな。
魔法使い云々言ってたから、
また"あれ"をしたいのかも。
[そう告げて、まだ記憶に新しい廊下を駆ける。
なんだかひどく遠い昔みたいだ。
この階段上がった先の屋上で、武藤に好きと言われて、私も好きと返して。
頭上に広がるのは、あの時の青空のまま。]
松本さん。
"ハッピーセット"、来ましたよ。*
【夢の中・特別展にて】
[私はずっと津崎さんの側にいたいと願っていたからか、寝れば津崎さんの側にいるということが大体だった。
でも、今回私が目を覚ましたのは、特別展。
工藤さんの肖像の前。
肖像を見れば綺麗に修復された林檎頭の彼女。
他の肖像と違うのは、胸を彩った私のハンカチ。]
小泉さんの死を受け止めるって決めたから、少しだけしかいられないけれど。
[そう言って、私は彼女の肖像をわずかな間だけ眺める。
すると頭の中に響く声。]
悲しむだけが死者の想い方ではないわ。
別にそれを否定するつもりはないけれど。
でも、たまには他の想い方をしたっていいでしょう。
私を絵に描いてくれたみたいに、死者の在り方にも色々な形があるのよ。
さあ、手を取って。
[思わず横を見る、そこには工藤さんの肖像と違う、私の描いた彼女がいた。
私は少しだけ考えて、そっと彼女の手を取った。
瞬間、世界が変わる。
特別展から、真っ青な空へ。]
―― 夢・屋上で ――
…………?
松さん、声。
[松本さんは声が出るようになっていた。
ここから"還る"時は、現実とリンクしていた事象が色々とあったけれど、今ここにいる私たちは、正しく"夢"ということなのかもしれない。
……だから、紙片を散らしても、あるいは津崎にも小泉さんにも見えないのかもしれなくて。
でも、それでもいいと思った。
この"魔法"は、小泉さんを見送るためでもあるし、私たちが"日常"に戻るための儀式のようにも思えたから。]
…………前の"魔法"も、
こうして手作業でやってたんですか……。
[とんでもない量を切らなきゃいけないのでは、と、少しだけ呆れながら、私ももくもくと紙片を切り始めた。*]
──夢・屋上──
[何度も足を運んだ夢の中の美術館を見渡す。
少し久々に来たような気さえして。
もう二度と来ることはないのだろうと思うと少し目頭が熱くなる。
くっきーの説明に、オレが還る日に送り出してくれたあのキラキラした魔法が瞼の裏に蘇った気がした。
アスリートの駆け足にちょっと引き摺られる感じで階段を駆け上がる。
扉を開ければまつもっちゃんがいて、くっきーの紹介に笑ってから手を振りかえす。]
まつもっちゃん、来たよー。
[あのキラキラの正体が作られているのを見れば、紙とはさみを受け取った。
声出てるな、とはなぜか不思議と思わなかった。
これなら林檎剥くよりはできるなと思いながら、屋上の床にしゃがみ込むとはさみで魔法のタネを作る作業にとりかかる。]*
[目の前に広がる青空。津崎さんの瞳の色と一緒だな、なんて考えていたのはとっさに襲ってきた浮遊感に脳が追いつかなかったせいで。
私の体は彼女に連れられて、わずかな間だけ宙に浮き、そして屋上にごく軽い衝撃と共に着地した。
周りを眺めれば、トラくんと黒崎さん、そして松本さんがいる。
工藤さんは、きっと来ない。消える瞬間をその場で見守るだろう。
私は迷う。どうすべきかを。
そして駆け寄り、魔法の準備は手伝うことにした。
その瞬間、どうするかはまだ決めないままに。]
魔法使いにはならないかもしれないけれど、手伝わせてください。
ん? なんか声、出る。
夢だからだろうな。
[ははって何でもないこと みたいに笑って。
夢の世界なんて何でもありだな。
もしかしたら念じてたら、大量の<<who>>に囲まれる…
なんてことも出来たのかもしれんな。]
おう、めっちゃ大変だったんだぜ?
[魔法の欠片をつくる手伝いを各々に頼んでいく。
前の魔法は腱鞘炎直前までやった。
それも夢の中でだったからか、現実に戻ったら腕なんて痛くなかったけど。]
[おうおうと、また一つ魔法の欠片を手渡す
林檎の飾り切りよりは幾分とマシな手つきで。]
ちゃんと三角に切ってくれよ?
こうすっとくるくるして綺麗なんだってさ。
[魔法の種をみんなでつくる。
そこには今泉ちゃんや香坂ちゃんや、みこちゃんも居ただろうか。
俺には見えてるから、これが俺の幻想じゃなけりゃいいと思う。
駆け寄る朝霞ちゃんの姿も見えた]
ありがとな。
[髪を手渡す。
この魔法を使うか使わないかは自分で決めていい。
それでも来てくれたことに、感謝を込めて。]
【夢の中・屋上にて】
[私は色とりどりの紙をできるだけ細かく、三角に切る。
私は小泉さんの犠牲を願った、何度も、何度も願った。
それを赦されたいとは思わない、後悔もしないつもりだ。
それでも、死に逝く人に最期に出来ることがあるのなら、ただそれを手伝いたいと思う。
色々なものをくれた人だった、優しい思いやりに満ちた人だった。
もう会えないのだ、これが最期の別れになるのだ。
自分がどれだけ苦しんだって、それは別にいい。
でももし旅立つ人に、何かをしてあげられるのなら。
最期の別れが、せめて寂しいものではなく、明るいものにできるならば。
小泉さんが少しでも明るく、楽しい気持ちになれるなら。
最期の旅路なのだ、それもいいだろう。
死に逝く人の先行きが、せめて暗いものでないように、彩る手伝いくらいしたっていいだろう。]
[小鳥が何匹も飛んでいくのが見えた。
その想いが届くのは、もう少しだけ先のこと
各々、ここにはいないやつもいるだろう。
それでもきっとどこか別の場所で、小泉くんや津崎くんを想っていると思ってる。
みんなのおかげできっとたくさん魔法の種も出来上がったはずだ。
前回よりも増えた紙を─気持ちを─両手いっぱいに掴む。]
行くぜ?
[さあ、みんなで一緒に。
大切な友人に餞を──]*
[心臓の音が、やけに大きく聞こえる。
もうすぐそこに、死の瞬間が迫っている。
私の心臓は、私が分からなくても、知らなくても、死の気配を感じ取って教えてくれる。
いつもは恐ろしいそれが、今だけは小泉さんの生きた証なのだと思える。
私は紙吹雪を作る、黄泉路を艶やかに彩るそれを作る。
そして、林檎の彼女の手を取って、工藤さんの隣へと一瞬で移動した。
小泉さんの死の瞬間を、そしてそれを明るく彩るべく作られた彼への最期の贈り物を見届けるために。]
[気がつけば朝霞さんも屋上に来ていて、人数が増えた屋上ではそこここで、ショリショリと、どこか林檎の皮を剥くのに似た乾いた金属音が響き始める。
でも、朝霞さんは"魔法使いにはならないかもしれないけれど" と言っていて、なんで?と首を傾げてしまう。
ここ以外に存在する用事と言ったら、津崎の傍に居る、あるいは小泉さんの傍に居る。
おそらく2人は一緒に居るだろうから、つまりはその2人の最後の瞬間を見届けようとでも言うんだろうか。]
…………私はそういうの、あまり好きじゃないな。
[思わず、言ってしまった。
もう"王子様"で在ることは廃業したしね。]
最後にお別れする津崎と小泉さんの言葉も表情も、
お互いのためだけのものだと、私は思うよ。
[最後の日に残るのが武藤と津崎だったりしたら、心が千切れそうな思いを抱えながら私もこの世界を彷徨ってしまっているかもしれないけれど。
でも、最後の瞬間は、多分傍らに居ず、離れると思う。]
……まあ、小泉さんも津崎も優しいから、
"見た"と言っても、"そうか"としか言わないかもだけど。
[でも、私が最後の2人の1人だったら、本当に大切な人以外には、見られたくはないなと思ってしまうだろうから。*]
[ひたすらハサミを動かしていると、じゅじゅが駆け寄るのが見えれば紙を持つ手をひらひら振った。
まつもっちゃんのアドバイスを聞きつつ、お手本を見ながらハサミを入れていく。]
さん、かく…
[初回は切る方向に体が傾いだけど、慣れてくればスムーズに作れるようになったと思う。
ひとつひとつ、ハサミを入れながら先輩のことを考えた。
美術館の中では一応オレと先輩でリーダー分けたけど、結局ほとんど頼ってしまったこと。
それでも先輩はオレにも決めごとには意見を求めてくれて、不公平がないようにしてくれたこと。
いつも皆の様子を見て、助けてくれていたこと。
早々に還るオレに、得るものがあればよかったと笑った顔。
先輩にもらった美術館での時間。
此処でオレはいろいろなものを、大切なものを見つけたから。
変われた、と思う。救われたと思う。
オレや他の皆にとってそうであったと思うように、先輩にとってもこの世界が救いだったならと願って。
……
考えながら切ってたら手が痛くなってきそうだけど、腱鞘炎になっても夢の中だから問題ないだろう。
いっぱいあった方が綺麗だと思うし。]*
[黒崎さんの言葉に、私は林檎の彼女の方へ向かう足が止まる。
事実だ。
…彼女の方へ向き直る、私は泣きそうな顔をしていたろうか。]
工藤さんと一緒に、小泉さんの死を分かつと約束しました。
津崎さんと小泉さんの邪魔をしたいわけではないです。
私は、小泉さんの死の瞬間を胸の内に落として生きていきたい。
消えていくその時を見なかったら、本当に死んでしまったのか疑ってしまう気がする。
私は津崎さんに生きてほしいと願って、だから小泉さんの犠牲を願いました。
彼が消える瞬間、それは誰も横合いに入ってはいけないのかもしれないけれど、でも死ぬ瞬間を、犠牲を願った人間が見ないで生きるなんて、罪から逃げるみたいじゃないですか。
赦されたいとも、後悔もしないと誓ったけれど。
命が喪われる瞬間は、ちゃんとその重みを感じたいんです。
[これはエゴだ、でも明るい黄泉路を願っても、犠牲を願ったことが消えるわけではない。
小泉さんのことを胸に刻んで、私は生きようと思うから。]
[そろそろ、紙片も大量になって。]
武藤は、さ。
私と一緒で、眠ろうとはしなかったよね。
[立ち上がりながら、傍らの武藤にぽつりと呟く。]
そういうところもね、好きだなあって思うよ。
[そりゃあ、違う人間なのだし、この先、意見の相違で衝突することだってあるかもしれないけれど。
でも何だろう、この人となら、たとえ衝突しても言葉を交わしたらわかり合えるんじゃないかなって思うんだ。
つい、衝突してしまう津崎もね。
言葉が伝わらないと諦めてしまっていたら、とうにマブダチなんて辞めてるよ。
解って欲しいし解りたいと思ってるから、噛みついてしまう。
もうちょっと、上手くやれないかなとは、思ってるんだけど。
私たちには、未来がある。
戻っていく"日常"がある。
小泉さん。ありがとう。さようなら。
餞の星屑たちを、そっと両手に取った。*]
[たった一人の大切な人の帰りに。
たった一人の大切な友の餞に。
みんなと放つ、ささやかな魔法。
さちあれと撒く幸せの種。
魔法の欠片の紙吹雪。
津崎くんが帰ってきたら何を話そう。
そもそも声出ないの、絶対心配されちゃうよな。
なんとかなりゃ良いんだけど。
何とかなったらまずは何を伝えようか。
小泉くんとはもう会えないけれど。
生まれ変わったらパンおごってくれるんだもんな。
それまで生きろって、お前が言ったんだもんな。
約束破るんじゃねぇぞ。]
…………松本さんは、生きてくれますよね。
私と武藤の結婚式、
来て貰わなきゃいけないし。
[隣から変な声が聞こえてきたりしたかな。
まあ、気にしない。]
[ハサミを動かしながら、先輩の顔を見たくなった。
けど、
最後に直接見たのは、オレを見ている先輩の顔は、オレのことを考えて安心したみたいに笑ってくた顔だから。
それを瞼に焼き付けておくからそれで、いや、それが良い。
そして、魔法が使われるその時、屋上から]
よっしー先輩!!
ありがとうございました!!
[さよならは言ったら泣いてしまいそうだから、泣いたら先輩は困りそうな気がして。
舞い散る紙吹雪の魔法を見つめて、
一番伝えたいことを叫んだ。]**
ん?
……──、はは!
[ 笑っておいた。
けどまあ、いまんところは悪い意味じゃねぇよ。]*
ああでも。
腕にシップ貼ってくれなかったのは、
心残りだわ。
**
えっ
[変な声は出た。けど、]
そうだな、祝いのオムライス作ってもらわないと…
[でもすごい先延ばしにした方がよくなりそうじゃないか?とは言わない。]
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