【人】 XIV『節制』 シトラ── 選択の時 [ どうしても寝付けずに、わたしは日記帳を取り出した。 文字と文章の練習を兼ねて書き始めた日記帳は 早数冊目になっていた。 日付が新しくなる毎に字が整い、文は長くなり アリアちゃん記録で埋め尽くされていた日記に 記されるひとの名前が増えてゆく。 編み上がったセーターを、 フォルスさんに見せに行ったときのこと。 売店奥のスペースで あまいカフェオレをいただいたこと。 タナトスさんに、字を綺麗に書くには どうすればいいか尋ねてみた日のこと。 マドカさんとユグさんに、おすすめの本を 教えてもらいに行ったときのこと。 エーリクさんに初めて会った日のこと。 キュリアさんに、編み物以外の お裁縫を教わりに行ったときのこと。 カルクさんに慰めてもらった夜のこと。] (85) 2022/12/20(Tue) 16:56:33 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ 植木鉢を運ぼうとして落としてしまったこと、 包丁で手を切ってしまったこと、 クッキーを焼こうとして焦がしてしまったこと、 お皿を洗おうとして割ってしまったこと。 話そうとしてくれた誰かが居たのに、 泣き出してしまってうまく話せなかったこと。 失敗も後悔も懺悔も詰め込まれたそのノートは 同じくらい楽しかったこともすべて呑み込んでいる。 言わば成長の記録。眺めていると少し落ち着く。 不意に、窓を開けてはいないのに カーテンの裾が揺れたような気がした。 窓の外を見上げれば冴え冴えとした月が 柔らかな光を放って、こちらを照らしていた。 ……もしかしたら、誰か起きているかもしれないし この景色を見るのも最後になってしまうかもしれないし 夜の散歩に、出かけてみようかな。 そのひとの後姿を見つけたのは 廊下を歩き始めて、すぐのことだった。>>3:3] (86) 2022/12/20(Tue) 16:56:36 |
【人】 XIV『節制』 シトラ[ 悲しむひとが少しでも少ない方がいい。 そう思った時点で、答えは出ていたのかもしれない。 わたしの選択は最初からほとんど決まっていたし 神様を前にしたいまも、答えは変わらない。 けれど、 わたしはきっと、いまから このひとを悲しませてしまう。 悲しませたくなかったはずの、このひとを。 襟を正し、長い上着の裾をぎゅっと握った。] …………、 わ わたし、 ……わたしは──── ** (87) 2022/12/20(Tue) 16:56:42 |
情報 プロローグ 1日目 2日目 3日目 4日目 エピローグ 終了 / 最新