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【人】 豊里― 薄墨神社付近 ―[昨夜は疲れを見せていたものの、 一晩ぐっすりと休めば体調は万全。 旅籠で朝食を済ませ、 早速ゴンドラに乗って薄墨神社の方へやってきた。] (今日も良い天気だ。まずは出店を見て回って……。 そうだ昨日薦めて貰った舞を見に行きたいな。>>0:42 ご神木も姫櫻の神楽も見たい。楽しみがいっぱいだ!) [人とぶつからないよう注意しつつも、 きょろきょろと忙しなく辺りを見回す。 遠目に、桜並木が見える。 はらりはらりと落ちる花弁と、芳しい春の匂い。 参拝客や花見客の和やかに笑う声。 自分は今一人だけれど、 同じ物を見に来ている人達の中に入り込んでいると、 そんなことも忘れてしまい、 物寂しい気持ちなど欠片もなかった。] (7) 2022/04/11(Mon) 20:51:21 |
【人】 豊里[幼い頃から、機械に囲まれ生きてきた。 豊里家の子は真希奈と、歳の離れた弟のみ。 代々続ける家業を継ぐ子が必要だったけれど、 子は授かりものだから、 都合よく男子が生まれるとは限らない。 真希奈が後を継ぐかもしれない。 そう思って、父は真希奈に豊里家流の英才教育を施した。 暫し時を遅くして男子が生まれたものの、 真希奈は筋が良かったから、其の儘教育は継続した。 勿論、弟にも同じく英才教育が施されたが。 厳しく躾けられ、技術を知識を叩きこまれた。 だから知らなかった。 自分が無知と云っても過言でない程、 世間知らずだったなんて。] (9) 2022/04/11(Mon) 20:57:38 |
【人】 豊里[良い物を作る事は、 正 しい事だと思っていた。でも本当は、必ずしも正しいとは限らない。 良い物が必ずしも、 善 い事に使われるとは限らないのだから。] (10) 2022/04/11(Mon) 20:59:38 |
【人】 豊里[あちこち見ていると、太刀を振るう人形が見えた。>>1 香具師の男の口上に合わせて、人形が動いている。 当然の様に興味を引かれ、 近寄ってじっくりと動きを観察した。 紙はどんどん小さくなっていき、紙吹雪が舞う。 ご丁寧に薄紅色の紙で、花びらの形になっている。 一通り芸を披露すると、最後に人形はお辞儀をした。 子供たちが「わー、すごい!」と 感激するのに交じって、 真希奈も拍手喝采を送った。 思わず商品を買いそうになったが、 冷静に考えると別に必要ない事に気付き止める。 他にもぶらぶらと屋台を見て回ると、 瓶入りのラムネを売っているのを見つけたので、 購入して一休みすることにした。 近くにベンチがあったので、其処に腰掛ける。 瓶を呷れば、シュワシュワと 炭 酸 が 弾 け た 。 * * ] (11) 2022/04/11(Mon) 21:04:58 |
豊里は、メモを貼った。 (a0) 2022/04/11(Mon) 21:09:55 |
【人】 豊里[飲み終わったラムネ瓶を店へと返し、 引き続き出店を見て回っていると、射的を見つけた。 景品へと目を向けると、掌に乗る大きさの小さな日本人形が。 桜色の着物を纏い、優美に佇んでいる。] これを自分へのお土産にしよう。 親父さん、一回やらせてくれないか。 [射的は得意なので、もうすっかり取れた気で云うと、 コルク玉を五つと、銃を出してくれた。 しっかり狙いを定めて、まずは一回目。 ……外してしまった。] まずいな。 命中してもあれは一発では落ちない。 [見た目から算出した大体の重さを考えると、 何度か当てなければ落ちないものだと思われた。 仕方ない。 本気を出すか……と、真希奈はゴーグルを外した。] (30) 2022/04/12(Tue) 20:11:57 |
【人】 豊里[真希奈の家は、代々銃を作る銃工の家系だった。 幼い頃から工房で育ち、 銃作りの技術や知識を叩きこまれて成長した。 弟がいるけれど、家を継ぐのは真希奈かもしれない。 名匠の器だなんて、持て囃されたこともあった。 ある時、工房に一人の青年がやってきた。 当時の真希奈よりも年若い、 何処か少年らしさを残した青年は、 真希奈の作った銃が暴発したせいで、 兄が大怪我を負ってしまったと訴えた。 後で調べた所によると、 族を追っていた自警団の青年が、 捕えようと揉み合ったことで 銃が暴発して起きた事件で、 銃を作った真希奈には一切過失はなかった。 きっと、大事な兄が負傷して、 いてもたってもいられなかったのだろう。 逆恨みであることを薄々気づいていたけれど、 その場にあった銃を真希奈の左目につきつけて、 「人非人」 と吐き捨てるように云ったのだ。] (31) 2022/04/12(Tue) 20:15:06 |
【人】 豊里[それ以来、すっかり心が折れてしまい。 銃を作る事が出来なくなった。 父も流石にこんな危険な目に遭った以上仕方ないと、 真希奈に仕事を強いることはしなかった。 幼い頃から、機械に囲まれて生きてきた。 其れ以外の色々を知らない真希奈は、 結局作る物を変えただけで、作ることは止められなかった。 憎しみを生まず、人に愛されるもの。 自動人形が其れだと思い、人形作りに没頭した。 真希奈のゴーグルには、防弾硝子が嵌められている。 あの時の恐怖は殆ど薄れて消えているけれど、 その間ずっとつけていたせいで、 外すと落ち着かなくなってしまった。] (33) 2022/04/12(Tue) 20:18:28 |
【人】 豊里[何年かぶりに外でゴーグルを外したので、やはり眩しい。 とは云え、ゴーグルをつけたままでは邪魔なので、 暫し目を瞬いて光に目を慣らす。銃を構えた。 集中して、連続で玉を当てた。 動かない的相手なら、何度も実弾だが試し撃ちしてきた。 最後の一発が見事頭に当たり、人形は棚から落ちる。] やった!旅の思い出が一つ形になった。 [ご機嫌で、人形を布に包んでトランクに入れた。 隣の店で敷物が売っていたので、それも購入した。 お昼に食べようと思い、塩焼きそばと苺大福も購入。 昨日、職人街でお薦めされた舞を見ようと、 聞いていた櫻の大木を目指した。**] (34) 2022/04/12(Tue) 20:20:42 |
【人】 豊里[話に聞いていた場所に向かってみると、 人垣の先に大きな櫻。 そして其の下で舞う狐面の男が見えた。>>13 もう始まってしまっていたが、始まったばかりの様だった。 人垣の頭と頭の間から、顔を覗かせて其の姿に見入った。 音を鳴らすのは鈴のみで、お囃子などはないけれど。 でもそれが却って神秘的に思えた。 狩衣の袖がふわりと揺れて、扇が空を切る。 桜の花びらは、舞い手に追従するように踊った。 リン…… 最後に鈴が一つ鳴ると、舞は終わった。 拍子をとっていた見物人の手が、拍手を送る。 真希奈は圧倒されつつも、手を叩いた。 どのような歴史がある舞か、 残念ながら真希奈は知らないけれど、 お薦めして貰って、見ることが出来て良かったと思う。 技術は新しいものに、どんどん上書きされてしまうけれど、 美しさは決して色褪せない。 ずっと大切にされていくものだから。**] (37) 2022/04/12(Tue) 21:32:49 |
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