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【秘】 坑道の金糸雀 ビアンカ → エースオブ―― ヴィオレッタ「でしょう? イヤ、色々考えはしたんだけどさあ。 このままじゃ私、よくてナイト・バーの客引きババアよ。 そんな未来お断り。 はー、綺麗なままでいたい。若いままならいくらでも稼いでやるのに」 他愛のない冗句を溢して、オムレツをもう一口。 唇についたケチャップを、ぺろり、と僅かに赤を見せた舌先が舐めとっていく。 「……何」 にまにまとした顔に、少しだけ唇がとんがった。 なんとも居心地が悪そうな様子はワインで流し込み、 頬にまたほんのりと朱が差して。 「……ほんと? それじゃあ、ちょっと……あ、勿論借金だから。 絶対返すからね! ていうかさあ、普通にナイト・バーの従業員としてもイケる仕事してると思うんだよ私。 ワインバーとかで稼いで…夜の仕事なのは変わんねえけど……」 恥ずかしさを隠すためか、彼女の口はさらによく回った。 未来のこと、夢のこと。 結局自分は夜の街に立つことしかできないのだという自虐めいた言葉の中に、ちらほらと見え隠れする自負と誇り。 皿の上はあっという間に綺麗になって、ワイングラスも空になる。 ↓[1/2] (-2) 2022/08/23(Tue) 21:45:45 |
【秘】 坑道の金糸雀 ビアンカ → エースオブ―― ヴィオレッタ↓ 「っていうかほんと、おいしい、……おいしいなー。 ヴィー、お酒のこととかさ、料理とかさ、…… 教えてもらったりさ……」 むにむにと唇が動いて、また不器用に笑う。 笑顔のかたちを、思いだすかのように。 「……して、……いい? こんど、……また、こんど」 未来のこと。明日のこと。 そんなことばかり。 だって、怖い。 [2/2] (-3) 2022/08/23(Tue) 21:46:25 |
【秘】 どこにも行けない ヴェルデ → 坑道の金糸雀 ビアンカあなたが止まれば、少年は一歩、前に出て。 その拍子につんと手が引かれ、振り返る。 「……そりゃそうだ」 「おれみたいなガキがいるにはさ、」 「――あんたはちょっと、キレイすぎる」 それは聞き飽きた賛辞だろう。 あなたはもっと美しい言葉をかけられてきただろう。 それでも、口の巧くない少年は、嘘のつけない少年は。 心からそう思って。 さざなみのようにかすかに、繋いだ手が揺れる。 狭い部屋の隅っこ。 毛布と本のある寝床。 きっと自由からは程遠く、けれど確かに、あたたかい場所。 ――家へ帰ろう。 ▼ (-40) 2022/08/24(Wed) 14:09:27 |
【秘】 どこにも行けない ヴェルデ → 坑道の金糸雀 ビアンカ「なんだよそれ」 「そういうのは、おれが言う方だろ」 「かえる場所をくれて、ありがとう」 少年はさみしさを知った。 (-41) 2022/08/24(Wed) 14:10:20 |
【秘】 いつかの夢 ヴェルデ → 坑道の金糸雀 ビアンカもしも、こんな状況でなかったら。 もしも、明日も明後日もその先も、未来があったなら。 少年はいつかのあなたが言った通りに、他の仕事ができるようになろうと努めただろう。 お節介焼きのだれかさんに借りを作って、真っ当な教育を受けようとしただろう。 過去より架せられた苦痛を手放して、ほかの道へと目を向けただろう。 それは浅慮な子供らしい、想像力を欠いた夢。 困難を知らずに語られた無謀な言葉。 けれど確かに、自らの意思で。 呪縛でなく、義務でなく、強制でもなく。 十年後もこの手を、握っていたかった。 ――――それは、ここにはなかった、もしもの話。 (-42) 2022/08/24(Wed) 14:15:49 |
【秘】 A88A― ヴィオレッタ → 坑道の金糸雀 ビアンカ>> ビアンカ 「いいえ、なんでも?」 落としたケチャップは次のオムレツで掬ってなかったことに。 愉し気な表情も、すまし顔でなかったことにして。 「えぇ、貸しにしておきます。 ですから――」 何処かへ行っても、連絡をくださいね なんて素直に言えなくて。代わりに、 「ですから、しっかり働いて返してくださいね」 などと減らず口を言って。微笑む。 できることなら、日の当たるところで 此処ではない何処か、この街の外なら。 あなたと……あの子なら。それができると思っていた。 けれど、それはあなたの矜持を貶めると知っていたから。 今は夜にしか鳴けない鳥も、 いずれは陽の光を知ると信じていたから。 ただ、あなたの話を聞いて、頷いて。 ……少しだけ眩しそうに、見つめるだけ。 [1/2] (-76) 2022/08/24(Wed) 19:58:13 |
【秘】 家族愛 サルヴァトーレ → 坑道の金糸雀 ビアンカ「そう? ────君が言うなら」 やっぱり、そう。 君はあの子を渡さないし、男も結局こう言うのだ。 寂しいと言うくせに、悲しいと言うくせに。 カタギにするだとかなるだとか、そういうことに関心はないらしい。 男は言葉を尽くした。女は多くを語らない。結局は、そういう戯れを楽しんで。 戯れが稀に真実を映すこともあったろう。 沈黙は金、雄弁は銀なんて言うけれど、それだけが全てでもない。 偉そうな格言は、大抵何の役にも立ちはしない。 「身に余る光栄だ、<cc dolcezza>お姫様</cc>」 最後まで止めない。 男は模範的な客ではなかった。客を待つ娼婦と話し込むことも多かったし、顔を合わせれば大抵出かけようと誘った。酷く親しげで馴れ馴れしく、いつだって恋人を呼ぶように君を呼んだ。 男は模範的な客ではなかった。それでも乱暴だけはしなかったし、君の見せる夢に溺れることもなかった。恋人役を冷静に愉しみ、その手を引いて逃げようなんて言うこともなかった。 「僕も愛してるよ、ビアンカ」 それでもこれだけは、真実。 朗らかに笑って手を振り、踵を返す。 女は娼婦だった。男はマフィアだった。 それはきっと、ありふれた話だった。 (-77) 2022/08/24(Wed) 19:59:06 |
【秘】 A88A― ヴィオレッタ → 坑道の金糸雀 ビアンカ「そんなお世辞を…… って、さっきも言いましたね」 二度目の照れ隠しは途中で止めて小さく苦笑。 代わりにグラスのワインを流し込んで、ほぅと吐息を零した。 「……いいですよ。 えぇ、あなたが望むのなら、 私でよろしければ、いつでも」 そう言って頬杖をついて、あなたを眺める。 今日は夢に酔ってるせいか、 アルコールの回りも早い気がした。 「…… ビアンカ 」だから、普段は口にすることのない名を呼んだのも、 きっとその所為だろう。 [2/2] (-78) 2022/08/24(Wed) 19:59:33 |
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