【人】 帰宅部 雨宮 健斗[ 体育館はまださっきまでの興奮で、 むっとする熱気に包まれている。 息苦しいような気さえするその場所で、 不思議に落ち着いている自分は、 ちょっと場違いな感じがした。 機材がまだ残るステージ上ではスタッフが 慌ただしく動き回り、上手では ひっこんでいたピアノを役員と先生で動かして、 セッティングしてくれている。 幕裏でそれを眺めて時を待つ。 跳ね回りそうな心臓をなんとか宥めていると 演奏を終えたTwo winsのメンバーが 見えたりしただろうか。 頭ひとつ飛び出した、友人の姿も。 もし、見えていたら、 すげぇ、かっこよかった。と、 声を出さずに口を動かして。 左手で、 親指を立てるだろう。 ] * (230) 2020/06/19(Fri) 19:08:42 |
【人】 帰宅部 雨宮 健斗[ どうぞ、と舞台を指差すスタッフに、頭を下げて。 客席の視線を感じながら、ピアノに向かう。 ちらりと二階に目をやって、 首元のネクタイを、ぐい、と引っ張って緩めた。 すう、と息を吸い込んで、背筋を伸ばして。 吹き出しそうになりながら、 爆速で、あの日>>0:34の【猫踏んじゃった】を弾く。 体育館の空気がざわついた。 構わず、続けてバイエルの練習曲を一節。 ピアノをやってるやつも多いのだろう、 くすくすと笑う声が耳に届いた。 それから、休符も挟まずあのゲーム音楽を>>0:63 アレンジを盛って弾けば>>0:66 どっかで聴いてるかな、と見知らぬあの日の セッション相手を思った。 ]* (249) 2020/06/19(Fri) 21:40:15 |
【人】 帰宅部 雨宮 健斗[ ゲームオーバーの音を奏でたら、 そのまま教室で弾いた矢川の選曲をみっつ、 短く続けて。 今じゃ星に祈っても叶わないことが、 世の中にはあるのだと知ってしまったけど、 それでもその旋律は色褪せることなく。 須藤の描いた絵が閉じた瞼の裏に浮かぶ。 あぁ、ベースがいないのはやっぱ、 ちょっと寂しいな、と思った。 ] (250) 2020/06/19(Fri) 21:42:25 |
【人】 帰宅部 雨宮 健斗[ 客席の空気が少し、変わった気がする。 ラフマニノフも、リストもショパンも、 今は満足にもう弾けないけど。 それ以外の音楽もたくさん溢れていて、 いつだってこんな俺にも、 ずっと優しかったじゃないか (251) 2020/06/19(Fri) 21:45:24 |
【人】 帰宅部 雨宮 健斗[ 一瞬だけ、間を取って。 和音で階段を降りて行くような前奏の曲を、ひとつ。 So goodbye yellow brick road Where the dogs of society howl You can’t plant me in your penthouse I’m going back to my plough Back to the howling, old owl in the woods Hunting the horny-back toad Oh, I’ve finally decided my future lies Beyond the yellow brick road スターダムへの道を捨てて、 あの森へ帰ろう。 僕の未来は 黄色いレンガ路を外れたところに 広がっているんだ そう歌う曲を、口遊みながら。 ]* (252) 2020/06/19(Fri) 21:48:15 |
【人】 帰宅部 雨宮 健斗[ は、と一息ついて、そっと左手を撫でた。 ] 『あとちょっとだからがんばれポンコツ。』 そう左手に毒吐いたら、 『うるせぇちゃんと弾け雑魚め。』 と返される声が聞こえた気がした。 Cause we don't want your broken parts 壊れた部品はいらないって I've learned to be ashamed of all my scars 自分の欠点を恥じてきた I am brave, I am bruised 勇敢で、傷つけられた者 I am who I'm meant to be, this is me これが俺のあるべき姿、これが俺だ そんなことを高らかに歌い上げる、 映画の主題歌のメロディを紡いで。 ]* (255) 2020/06/19(Fri) 21:54:56 |
【人】 帰宅部 雨宮 健斗[ 音を、気持ちを、感情を。 ひとつ、ひとつ、大切に。 だれかのこころにとどくように。 須藤に、矢川に。 ここにいる、だれかに。 ] (256) 2020/06/19(Fri) 21:59:01 |
情報 プロローグ 1日目 2日目 エピローグ 終了 / 最新