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【人】 日差しにまどろむ ダニエラ>>39 黒眼鏡 勤務後。赤く染った空が同色に海を染めている。 「すみませえん」 店主の姿を探し覗き込む。 看板が出ているからには営業中のはずだ。 珈琲豆の香りと機械油の香りではどちらが優位か怪しいものだが、この店のそういうところを女は結構気に入っていた。 「コーヒーくださあい」 #Mazzetto (65) 2023/09/09(Sat) 6:06:14 |
【人】 黒眼鏡>>65 ダニエラ ゆらゆらと揺れる照明。 薄暗いカウンター。 ほんの少しの珈琲と、金属と油、それと海からの潮の匂い。 飾り気のない店内には、ときたま似合わない花が飾られている。 どこをとってもちぐはぐな店内に、女の声が響く。 …しばらくは無音。 だが、すぐに。 がたん、がたんと店の奥から音がして、 のっそりと長身の男が顔を出す。 「おや」 いつでも、それこそ夜中でもかけているサングラスの奥の瞳が、笑みの形に変わった。 「いらっしゃい、お嬢さん。 コーヒーね。ミルクは? 砂糖は?」 注文を聞きながら、すでに手は動き始めている。 何を言っても、多分"今日のオススメ"が出てくるだろう。 #Mazzetto (66) 2023/09/09(Sat) 7:37:26 |
【人】 日差しにまどろむ ダニエラ>>66 黒眼鏡 ちぐはぐな店内。 そこに店主の姿がすぐになくとも居心地の悪さを感じない程度に女は豪胆だった。 寝惚けたような視線を漂わせ待つこと暫らく。 姿を見せた長身を見上げて、サングラス奥の笑顔に頷いた。 「どうもお。どっちもお願いしまあす。 あ。砂糖は2つで〜。」 席に腰掛け、カウンターに両肘で体重を預ける。 ぷらぷらと脚を揺らして、漂い始めるコーヒーの香りに目を閉じた。 こればかりは、喫茶店の醍醐味だ。 「いい香りですねえ」 以前来た時も、同じことを言ったかもしれない。 もう何ヶ月も前のことだし、お互いそんなこと覚えちゃいないだろうが。 #Mazzetto (70) 2023/09/09(Sat) 9:16:57 |
【人】 黒眼鏡>>70 ダニエラ 「はいよ、砂糖が2つ〜」 長い手足を、狭いカウンターの中で窮屈そうに動かしながらサイフォンに火をかける。 ゆったりとしているように見える動きだったが、かちゃかちゃと見えづらい作業が手際よく行われ、香りが漂い出してからは早かった。 「はい、コーヒー。 がんばってブレンドしたからさあ、そう言ってくれると嬉しいね」 笑いながら、カウンターにカップが置かれる。 ふわり、と漂う湯気と香りの中、サングラス越しの視線女の顔で止まった。 「…見覚えある? かもしれんなあ。 ナンパじゃないぞ。 どちらにせよ、綺麗なお嬢さんにはサービスね」 コーヒーカップに添えるように、クラッカーの箱が置かれる。 紙箱に何袋か入っているタイプのものだが…一袋は開封済みだ。 さっきまで食べていたやつだろう。 #Mazzetto (74) 2023/09/09(Sat) 10:01:00 |
【人】 日差しにまどろむ ダニエラ>>74 黒眼鏡 「えー、いいんですかあ。」 「らっきー。いただきまあす。」 湯気くゆるカップに手を伸ばし、まずはひと口。 舌先で転がして、その風味を味わう。 そうしてことりとカップを置いた手は、まっすぐクラッカーへと伸ばされた。 「でも、正解ですよお。」 「前にも来ましたあ。マスター、記憶力いいですねえ」 弧を描いた口許が口ずさむ。 「今日は、お仕事帰りなんですよお。」 「ふふ、お仕事、何だと思いますう?」 控えめな雑談も、また。喫茶店の醍醐味だろう。 乾いた音とともに、口の中に薄い塩味が広がった。 #Mazzetto (79) 2023/09/09(Sat) 12:19:13 |
【人】 黒眼鏡>>79 ダニエラ 「いーのいーの。 このトシになると腹膨らむものキツくなってきて」 つんつんとまばらに立った髪をかきながら、 恥ずかしそうに零す。 カウンターの内側には、半分くらいかじったホットドッグ……の、ソーセージ抜きが皿に乗っかったまま放置されている。 小食なのか、それとも食事を放り出して車でもいじっていたのだろうか。 「あ、ほんと? いやあ、当たって良かった。 こういうの外すと恥ずかしいからねえ」 ビンゴだ、と指を向ける仕草は、やはり少々古臭く。 「んー? なんだろうね。 君みたいな美しいお嬢さんは、デザイナーかカフェ店員と相場が決まっているものだが」 顎に手をあてて考える仕草をしたあと、もう一度指を向けて。 「……新聞記者」 どう? と。首をかしげる。 #Mazzetto (80) 2023/09/09(Sat) 12:41:41 |
【人】 日差しにまどろむ ダニエラ>>80 黒眼鏡 「ああー。」 「惜しいー。」 けらけらと控えめに笑う。 頬杖で向けられた指先をじっと見た。 「答えはあ、どーしよっかな」 「また次に来る時の楽しみにしちゃおっかなあ」 「そおしたら、次も覚えててくれるでしょお?」 乱視のレンズを通して目を細める。 その頃には視線は黒い眼鏡の顔に移っていた。 「コーヒーおいしいしぃ」 「お店の雰囲気もいいしぃ」 「どおです?」 #Mazzetto (86) 2023/09/09(Sat) 14:50:46 |
【人】 黒眼鏡>>86 ダニエラ 「ええー、違うのかあ。なんだろな」 その控えめな笑顔に、まるで眩しいものを見るかのように目を細めた。 額に指をあて、なんだろなー、と首を傾げて、 「ええ、そんなあ。お嬢さんうまいねぇ…! 次、ってのに弱いんだよなあ、男っては」 降参するように、両手をひらりひらり。 口許を楽しそうにゆがめて、 「……だが、そうだなあ。 次も来てくれたら、 もっとサービスしちまおうかな」 しっかりと覚えてるよ、と。 カウンターに肘をつきながら、緩く微笑み。 「……あ。そういえばコレ」 と。突然思い出したように、カウンターの脇にある冷蔵庫を開ける。 中から出てきたのは、ラッピングされた小さな箱。 このサイズでもそこそこの値段がする、ブランドもののチョコレートだ。 「あげるよ」 …クラッカーをあげたあとに、あげるようなものではない。 #Mazzetto (93) 2023/09/09(Sat) 18:35:56 |
【人】 日差しにまどろむ ダニエラ>>93 黒眼鏡 「やったあ。」 「言いましたねえ?」 今日ですら、注文外のクラッカーを戴いているのだ。 次のサービスも楽しみになる。 そうでなくともこの穏やかな空間で飲んだコーヒーが美味しい、それだけで十分なのだというのに。 背を向けた長駆に小首を傾げ、またクラッカーをパリと鳴らす。 出てきた小箱に瞬きを重ねた。 「ええ?いいんですかあ?」 「ふふ、…マスターも、お上手ですねえ」 驚きはほんの僅かのことで、すぐにそう笑む。 こんなにサービスされてしまっては、次がもっと楽しみになってしまうじゃないか、と。 「それとも、みんなに同じことしてるとかあ?」 そう並べる女は只管に楽しそうだった。 #Mazzetto (98) 2023/09/09(Sat) 20:28:29 |
【人】 黒眼鏡>>98 ダニエラ 「言いましたとも。 男たるもの、口にした言葉をたがえることはないぞお」 今日の海風は静かで、するとすれば古びた空調の響きくらい。 それはやる気なく放られたゴムボールのように てんてんと軽く、気軽に弾む会話の音に遮られて、さほどの邪魔にもなりはしない。 サイフォンを片づけるかちゃりという音がときたま、 心地よい雑音として混じり込む。 「はははは。 上手になろうとここ10年、ずっと頑張っているからな!」 あまり実を結んではい無さそうな努力を埃ながら、 無精にしているわりにひげが生えた様子のない顎に指をあてた。 「いいや? かわいらしいお嬢さんにだけさ。 みんなじゃないとも」 …これはなんとも、信頼のおける言葉なことだ。 「あ。忘れてた。おしぼりドーゾ」 今更取り出したそれを、カウンターの上にとん、と置いた。 #Mazzetto (100) 2023/09/09(Sat) 20:50:33 |
【人】 日差しにまどろむ ダニエラ>>93 黒眼鏡 あなたの立てる雑音に混じり、カップとソーサーがかちりと鳴る。 その隙間でけたけたと女はまた控えめに笑う。 「そっかあー。」 「かわい子ちゃんで得しちゃったなあ。ありがとおございまあす」 満更でもなさそうに言って、手を伸ばした先ではクラッカーが空になっていた。 届けられたおしぼりを見つめて、んーと首を傾ぐ。 結局、使うことなく席を立った。 「もう帰りますからあ、大丈夫ですよお」 「あ、コーヒーおいくらでしたあ?」 財布の中にはずぼらさを象徴するようにレシートが数枚。 告げられた金額を丁度払って、会計は恙無く終わるだろう。 #Mazzetto (110) 2023/09/09(Sat) 23:22:19 |
【人】 日差しにまどろむ ダニエラ>>112 黒眼鏡 「サービス、これ以上良くなっちゃうんですかあ」 「それはあ楽しみですねえー」 支払いを終え、チョコレートの小箱を手に取って。 「んー?…はあい」 「気をつけまあーす」 送り出される幼子みたいに返事して。 この日は、その場を後にした。 #Mazzetto (114) 2023/09/10(Sun) 1:05:04 |