人狼物語 三日月国


224 【R18G】海辺のフチラータ2【身内】

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【人】 口に金貨を ルチアーノ


日常と言うにはまだ遠いが、それでも多少の落ち着きを取り戻してきた頃。
その日はなんてないただの雨予報の日だった。
灰色の空は水気を含んだ空気を纏って重く沈んだ色をしている。

こつん、わざとらしく靴先で石を蹴った音。
忘れるわけもない。気付いてしまった自分に嫌気がさした。



「Bonsoir.愛しの猫ちゃんルーカス。今日も可愛らしいね」



その声の正体が確信へと変わった瞬間、彼の体はただただ固まって、その顔を見る事しかできなくなっていた。


「なんだ、ご機嫌斜めだね。
 色男になったのでも言われたかったかい?」



散歩でもするように歩いてきた者の名はファヴィオ・ビアンコ。
十年前にルチアーノの上司となり、五年前に行方不明になった男であった。

#ReFantasma
(57) 2023/09/28(Thu) 21:55:13

【人】 口に金貨を ルチアーノ

「見違えたね、随分大きくなって」

「……だんまりか、本当に拗ねているのかい。
 甘えたがりのルーカスは何処に行ってしまったのかな」

「うるさい」

聞きたくない、嫌でもあの日を思い出させるから。
目の前の男に触れられ、愛されて満たされていた日々が蘇ってくる。
失いたくなど無かった、ずっと居なくなって欲しくなかったものだ。


「どうして今更此処にいるんだ」
焦がれて、愛して、忘れられるはずなんてなかった存在が目の前にいる。


男から彼に施していたのは五年間の"教育"だ。
彼が決して逆らわないように、男の前では従順で素直で、常に周りを疑い警戒をし、それこそ男が居なくなれば何もできなくなるような人間になるように。
彼に自覚させることもなく、それが正しいことなのだと教え込ませ続けていた。
それは確かにうまくいっていて、今でさえその事実を彼は自覚することはない。

しかしそれは――未完成に終わっている。


#ReFantasma
(58) 2023/09/28(Thu) 21:58:17

【人】 口に金貨を ルチアーノ


「仕事だよ、言わなかったかな?
 『行ってきます』って。期間を言い忘れていたかもね」

「なんだ寂しかったのか、それなら君が怒るのも仕方ない。
 私が居なくなってから昇進もしたようだし、
 それはうんと働いて一生懸命に頑張ってきたんだろう」


五年前ファヴィオはオルランドに海外のマフィアへ諜報員として潜入する命を受けた。
極秘任務の為に完全に身分を隠さねばならず、同意の下行方不明扱いにされることになる。

そうして雨が降りしきるその日、何も言わずに男は彼の前から姿を消したのだ。



「それでも、漸くひと段落付いた。
 時間はかかったけどボスにも許可は貰っていてね。
 やっと君を連れて行けるようになったんだ」


ああ本当に自分勝手だな、年寄り共は。
俺のことを一体何だと思っているんだ。

初めからそうだった。
死体の前に血塗れで座る子供の俺を連れて行った今のボスも。
そんなガキを兄弟みたいに連れまわして面倒を見た黒眼鏡も。
十年前がらりと変わったファミリーで孤独を埋めてきた男も。

本当に、俺を何だと思って。

#ReFantasma
(59) 2023/09/28(Thu) 21:59:29

【人】 口に金貨を ルチアーノ

「おいで。また昔みたいにしてあげよう」


男は動きがない彼の目の前まで歩んでいけば、流れるような仕草で頭の上に手を置いて髪を梳く。
腰を抱き寄せつつ首元に見えた赤い痕におや、と呟けばくすくすと楽し気に笑って愛で続けた。

「何も考えなくてよくなるよ。沢山頑張って疲れただろう?」

「ファヴィオ、」

反射で男の名前を呼んでしまえばもう止まらない。

「俺は……」

揺れた声は艶を帯びていて、緩やかにそのシャツに手が伸びて。
縋るように服に皴を作れば、甘く誘うように口端が上げられる。

やっと、見つけた。


#ReFantasma
(60) 2023/09/28(Thu) 22:00:59

【魂】 口に金貨を ルチアーノ



「      」
パン。曇天の下、乾いた銃声と金属音が鳴り響いた。

ルチアーノはこの五年間、ずっとファヴィオを殺す為に探してきた。


#ReFantasma
(_3) 2023/09/28(Thu) 22:03:23

【独】 口に金貨を ルチアーノ

分厚いランダムに組まれた繊維が男を貫こうとする弾の威力を分散させた。
鈍い音がする。あばら骨の一本二本は折れただろうか。


「おお痛い痛い、飼い猫に手を引っ掻かれた気分だ。
 やれ、随分とやんちゃになって…昔とまた違う魅力を感じてしまうなぁ。
 ふふ、これ以上君のことを好きにさせて、一体どうしてくれるんだい?
 なんてね。私も命は惜しい、と言うより死んではいけない」

「舌噛んで死ぬぞお。もう一発受けるか」

「世界の宝を壊す権利を愛しの君に渡したいのは山々だが、
 愛より優先しなければならない使命が私にはあってね」

「いやぁ、すまないな、私が色男なばっかりに
 君を首ったけにさせてしまって」

「どっちが。あんたが俺を欲しがってるんだろう。
 甘えんな、俺に甘えていいのは犬と猫だけだ」

ルチアーノ・ガッティ・マンチーニは謔笑を送り。
ファヴィオ・ビアンコは巧みに咲い返した。


「私が必要なくなったら、いつでも捨ててしまいなさい。
 とは言えいつかに私が愛を最も優先してよくなった時、
 君がどこぞに落ちていたなら拾ってやるさ。
 安心して捨ててくれていい」


「そんなところかな。それではね、A bientôt〜!」


#ReFantasma
(-119) 2023/09/28(Thu) 22:04:06

【独】 口に金貨を ルチアーノ

立ち去る男の背を彼はもう追うことはしなかった。

「……」
「結局、置いていくんだよなあんたも」

俺のことを信じているくせに。
俺が信じているのを知っているくせに。

「……動けんー……」

しゃがみ込んで、新しい酸素を吸う。
誰かが銃声に気づいて来てしまうだろうか。
それでも暫くは足は動いてくれないから。



『すまんな、こんな時間に。
 今から言う住所のところに車乗ってきてくれえ。
 今日は部下連れてこれなかったんだ』


いつも通りの声で、何を返す間もなく。
最後に場所を告げれば、ぷつり、電話を切った。
#ReFantasma
(-120) 2023/09/28(Thu) 22:06:35

【独】 corposant ロメオ

その時ロメオは、曇天の空模様を窓越しに眺めつつ
適当な店で時間を潰していた途中だった。
窓際のカウンター席で足を組みながら
アイスティーを飲んでいた頃、手元の携帯端末にコール音。
発信先の名前を見て、「あれ」と一言呟き電話を取った。

「はい、もしもし。オレですけど」
「はあい。あい。久しぶりすねそういうの」

「んじゃそこまで……」

「……もう切れたわ」

すぐに切れた電話には、もう驚きもしない。
通話時間の表示された画面を消してすぐに席を立った。
以前であれば、今度は何用かと疑問が勝っていた所だが。

車を取りに歩きながら考える。
こういう時の心配って当たるんだよな、と。

#ReFantasma
(-135) 2023/09/28(Thu) 23:25:47

【秘】 corposant ロメオ → 口に金貨を ルチアーノ

>>-120

ブレーキランプがまだ乾いている地面を照らす。
まだ新しい黒の車を指定された場所の付近に止めた後、
やや急ぎ気味に降り貴方の姿を探すために周囲を見た。
ちゃり、と鍵に付いた鈴の音。

「ルチアーノさん?」

自分を呼びつけた依頼主の名前を呼ぶ。
貴方は声の届く所にいるだろうか。

#ReFantasma
(-137) 2023/09/28(Thu) 23:29:04

【秘】 口に金貨を ルチアーノ → corposant ロメオ

>>-137

野次馬が集まり始めたその通りは賑わっていて。
どうやら発砲事件があったらしい。
しかしそこには怪我人も銃を持った人間もいなかったのだとか。

何処かで見たような事件の話、明日の記事に小さく乗って忘れられるような物だ。

「――ロメオ」

そんな路地の裏から話しかけてきたのは貴方を呼び出した男だ。
声色はいつも通りに思われたが、腹部および右手に赤い血痕がべったりと付着しており何事かしか起こっていない。

追加で滴っている様子がないことから観察していれば返り血であるのがわかるだろうか。

「……あー。アジト以外ならどこでもいい」

そう、ただ此処でもいいわけでもない、と。
今回の貴方への要望は何処かに連れて行って欲しいらしい。

#ReFantasma
(-139) 2023/09/28(Thu) 23:58:09

【秘】 corposant ロメオ → 口に金貨を ルチアーノ

>>-139

剣呑な賑わいを見せる通りを横目に通り抜けて、
貴方の所へ来ただろうか。
いつもの声が聞こえたのはそちらの方ではなく、
少し外れた路地裏の方で。

「あ」「あ?」
「いや」「………………」

顔を見て安心し、視線を下にずらしてすぐに驚愕したような様子になり。そのままゆっくりと目を細めて怪訝な顔をして、もう一度視線が貴方の顔に戻る頃には片眉を上げつつ苦虫を嚙み潰したような表情だった。器用な表情筋をしている。

「あんたねえ。いや…………」
「乗ってくださーい……」

「あんたの怪我が無いんならまあひとまずはいいです……」

車の方向を指し案内する。その途中にそう零して、
車まで辿り着けば「邪魔なものはないと思うんで好きなとこ乗ってください」と運転席へ乗り込んだ。

車内には物が少なく、精々後部座席の白いクッション程度だ。
カバーのかかっていない座席はそれでも清潔に使われていて物をこぼした形跡もない。足元のフロアマットにも砂や泥は少なく、こまめに掃除はされているのだろう。
シガーソケットにセットされたディフューザーからは、ウッディーノートの香りが仄かにした。
貴方が座れば濡れタオルをぽい、と投げよこす。

「これで手拭いて。服それどうすんすか、それも拭きます?
 行き先どこでもいいなら気晴らしになるとこでも行きますか。海に嫌な思い出は? ある? ない?」

#ReFantasma
(-145) 2023/09/29(Fri) 0:49:33

【秘】 口に金貨を ルチアーノ → corposant ロメオ

>>-145
「そうだな、俺は正直者なんで怪我をしていたら言う」

流石にその表情と言葉に申し訳なさを感じたのか、
しっかりと自分に被害があるわけではないことを告げた。多分。
少なくとも物理的被害はその血の汚れだけだ。

「なんだ、俺が悪いのか? ちゃんと仕留めようとしたんだ」
「これでも頑……」

言葉を止めたのは決して褒めて欲しいわけでもなんでもなく、
今思えば完全に自分の事情でファミリーを撃ったことであり、
むしろあまり良くないことであるとわかりつつ、
怪我の理由も痴情のもつれにジャンル分けされるのかと思うと一瞬で気分が悪くなったからだ。
自分から見ても他人から見てもそうかもしれない。

最近猫と自分が入り込んだその座席にもぐりこむ。
出来る限り汚さぬように気を使いながら、投げられた濡れタオルで手を清め一息ついた。
服の問題がある、日が暮れゆく世界の中であれば目立たないがそのままもよくはない。
だがそれ以上に、もう動きたくもなかった。

「……服は、外で脱ぐ羽目にならなければどうでもいい」
「海に嫌な思い出は、ない」
「多分、泳ぎは微妙」「見るのが好きだ」

#ReFantasma
(-158) 2023/09/29(Fri) 2:08:00

【秘】 corposant ロメオ → 口に金貨を ルチアーノ

>>-158
あんたが正直者で助かりましたよ、と苦笑した。
無事ならば何でもいい、……なんて思考は、少々雑だろうか。

「やっぱあの騒ぎはあんたか。
 ……その言い方だと逃げられました?」

後でやり返しに来やしないだろうか、なんて思うのは
その相手を知らないからだろう。
──事実、知ったところでその相手についての事はあまりよく知らないのだが。
貴方の気分が悪くなっている理由も知らずに、別ベクトルの心配が始まっている。

「座席の下の引き出しになんか入ってなかったけ……
 パーカー畳んで入れてたはずなんで使っていいですよ。
 サイズも合うでしょ、きっと」

どこへ行くにもその格好じゃまずいだろうと考えて、そう言えば非常用に一つ上着を用意していたことを思い出す。
汚れたタオルはそこら辺に放っておいてもいい事を伝えながら、エンジンボタンを押してシートベルトを締めた。

「じゃあ見に行きましょう。泳ぎやしませんよ、寒い」
「人も建物も視界に入らない方が思考もスッキリするんじゃないですかね〜。多分ですけど」

自分も海を見たい気分だったし丁度いい。
ハンドルを切り、車を発進させる。
あんまり揺らしちゃ気の毒だとスピードはいつもより少しだけ抑えられていた。

#ReFantasma
(-183) 2023/09/29(Fri) 11:31:43

【秘】 口に金貨を ルチアーノ → corposant ロメオ

>>-183

「逃げられたんじゃねえ、逃がしてやったんだよ。
 またいつか来るからその時は殺してやる」

まるでその日を楽しみにするような態とらしく穏やかな声で殺意を述べる。
ここまで誰かに執着しているのも少ない、他には黒眼鏡ぐらいだったろうか。
別れの日が来てほしいなど思っていない、それでも嫌いなのだ。

「そうか、それは助かる。借りるぞ。
 いや、……
脱げばお前も驚くだろうからな……


男は何故か普段着ないタートルネックを着ている。
上着の血飛沫が付いた部分を内側に畳み込みタオルも添えて座席に放れば引き出しをあさりにかかる。
少し大きめか丁度いいそれを手に取れば自分のシャツの血が固まるのを待つことにした。べた、あと少し。

「カナヅチじゃないが俺が夏の浜辺に行くとモテてしまうからなあ、海に泳ぎにいかんのだ」
「んー……そう、だな……?
 別にその辺の空き地に放っておいてくれても良かったがな」

その様子だと付き合ってくれるんだな、となんともなしに。
時間があったから来てくれたのだろうが。自分は貴方に頼み事をするのが苦手であるので少し助かった。
こんな時ぐらい少しぐらい素直になれたら良かったが、電話をするので精一杯だった。

#ReFantasma
(-184) 2023/09/29(Fri) 12:00:06

【秘】 corposant ロメオ → 口に金貨を ルチアーノ

>>-184
「え。なんすかそれ。いいな」

へー、と面白い物を見せてもらった子供みたいに弾んだ声を出した。
そんな人が居るんだとも思ったし、
それってちょっといいなとも思った。
絶対殺したい人、オレにはいないしなあ。

『脱げば驚く』の言葉に見せられない何かがあるんだな、と雑な察し方をして「そか……」と口を少し曲げてこれまた雑な返事をした。

「あ。モテてる人の台詞だあ。色男は大変すね」
「……え? やですけど……オレそこまで薄情じゃないんで」

「愚痴でもなんでも付き合いますよ。
 どーせ今日は暇だったんす」

海が近くなれば運転席の窓を開ける。
こうやって潮風を浴びるのが好きだった。
青空の下であればどこまでも青い風景だったんだろうけど、
海は素直なものだから空の色をそのまま映している。

「あんたと話もしたかったし。何話すんだって感じですけど」

ハハ、といつもの調子で笑った。
あれからもロメオは変わっていなかった。
昔から起こった事を引きずらない方だった。
感情の振れ幅は一定で、今回もどうやらそうらしい。

#ReFantasma
(-186) 2023/09/29(Fri) 12:21:34

【秘】 口に金貨を ルチアーノ → corposant ロメオ

「いいわけあるか。……あー。
 五年前俺が馬鹿みたいに落ち込んでた奴だよ!
 別れの言葉は、あびやんて……だったか?
 何語だ……何処にいた……また来なかったら許さん」

雑に叫んでやった、自分を置いていった上司ファヴィオが目の前にいたからぶっ殺してやろうと思ったと。
でも逃がしてやったと言うことはそれなりに情と殺意が入り混じっているということで。
ファミリーでは見かけたら殺していいとは言われているが故にこそこにきまりは悪く。
殺し切れた方が絶対良かったのだ。いつまでも自分は甘ったれである。

「あとは肌が焼けるのも嫌だ、結局疲れるから海水浴自体は好かん」
「……? 薄情も何も。何処かに運んで置いておくのは十分仕事してるだろ」

「愚痴なんてものもなあ……、愚痴なんて……。
 言語化するほどあいつらを殺したくてたまらなくなるからいいもんじゃない」
「殺したくないんじゃないぞ、あいつらがの逃げ足が早すぎるからチャンスが掴めんのだ」

雲が泣きそうな天気だった。
あれから数時間経った今、相変わらずの重たい灰色は緩やかに流れていく。

「俺と話したい? 本当になんでまた。
 お前はそんなやつじゃないだろう。
 ……この間の文句でも言いたいのかあ?」

文句の一つでもあったほうが救われたかもしれない。
そんな事は言ってやらないが、貴方が変わっていないことを確かめるためにあえて話題に出した。

#ReFantasma
(-191) 2023/09/29(Fri) 14:26:07

【秘】 corposant ロメオ → 口に金貨を ルチアーノ

「あ〜……あ!? いたんすかその人!?
 あんだけ姿見せないで今更ひょっこり?
 そら……そうもなるか? なってるか……」

その話を聞いて瞼を持ち上げて驚いた。
貴方の落ち込みようを見ていた事もあるし、生きていた事にも驚いた。下っ端の自分にはなんにも知らされないばっかりで、とっくに処分されたものだと思っていたし。
お疲れさまです、とどこに向けてかもわからない労りをした。

「日焼けはオレも嫌いです。泳がねえし……。
 浜辺散歩するだけで十分すよねえ」
「そんなカッコのそんな経緯の人を空き地に転がして帰るのは十分薄情でしょうが。いや……オレが心配性すぎるだけなのかもしれねえすけど?」

「怖……そんなんすっげえ恨みじゃないですか。余程すね。
 じゃあチャンスがあれば殺すんだ。オレ手伝います?」

そんな事をサラっと言って、それともそんな殺してえなら帰って一人の方がいいすか? とも。
海と雲の間の、白い空を横目で眺めながら「なんでまたって」と。

「いいでしょ、逮捕されたって聞いて寂しかったんだし。
 すぐに帰ってこられたからいいけどさ……」
「文句なんかないですよ。オレが心配で行ったんですから。
 無理やり文句言うなら買ったティラミスが少し溶けてた事くらいじゃないですかね〜……」

「……ま、あの時よりは元気すね」

適当なスペースを見つけて、緩やかに停車する。浜辺の近くまでやってきたから、ここから歩こうと。
サイドブレーキのレバーを引いて車から降りれば、
ここまで波の音が聞こえた。

#ReFantasma
(-211) 2023/09/29(Fri) 19:18:28

【秘】 口に金貨を ルチアーノ → corposant ロメオ

「凄いぞあいつ、俺も死んだと思ってた。
 なんせ黒眼鏡すら見つけられなかったんだからな」

こんな風に笑い話のように話せている姿なぞ昔の自分では想像もできなくて。
細かく言えば今この瞬間まで口に出してここまでつっかえない物なのかと驚いている。
それは相手が貴方だからなのか、拳銃をぶちかました後だからかわからない。

「まあ俺は黒眼鏡もぶっ殺したいほど好きで嫌いだったが?
 チャンスがあれば……そうだな。
 もう一度失敗したし、次はお前にも手伝ってもらうか。
 俺じゃあ上手く殺せるかわからん、殺意が漏れてる人間ほどかわしやすい奴もおらんだろ」

自分でもそうかと腑に落ちるような答えだった。
執着していたのは確かだが、もう彼の意志を知った以上、その背を追うことはもうしない。
別に生死は関係なくて、はっきりと一人でどうこう思うだけの時間が終わったのだと実感した。


#ReFantasma
(-217) 2023/09/29(Fri) 20:26:03

【秘】 口に金貨を ルチアーノ → corposant ロメオ

「んで。つまり。
 心配で寂しかったから今俺の愚痴を聞いてくれて
 その上で散歩に付き合ってくれてるってことか?
 ……成程お? あー」

「…………」

……ティラミスはすまん


思い出して、目元を抑えながら珍しく心の籠った謝罪をした。珍しいことだらけだ。

「そうだな、あの時より疲れてはない。
 疲れてはないが……一人が嫌だったんだよ」

「……靴の中酷くなるかー?」

車から降りてパーカーを羽織る、もう血濡れたシャツは乾いて黒ずんでいて。
まあ、こんな時ぐらいはいいかと砂浜に足を踏み入れ波の音へと近づいていった。

#ReFantasma
(-218) 2023/09/29(Fri) 20:27:41

【秘】 corposant ロメオ → 口に金貨を ルチアーノ

「行方不明の振りもココまで上手くやれるもんなんですね。
 そんでまた消えたと。ニンジャかなんかなんですか」

ちゃんとまた現れるといーですねえ、と呑気に一言。
聞いてるこちらも他愛ない話のような感覚で返事をしている。
内容はそんなものではないという事は知っているのだが。

「苛烈だなあ……いーですよぉ。なら手伝います。
 オレが手伝えばまたなんか違うでしょ。
 そーいうサポートは割と専門なんで」

片手でOKサインを作ってみせる。
ぶっ殺したいほど好きで嫌い、だなんて随分な感情だと思った。愛憎相半ばにするとはよく言ったものだ。
実際の感情の比率は、ロメオが存ずる所ではないのだが。
それにまた、少し羨ましさを覚えたのだった。


#ReFantasma
(-229) 2023/09/29(Fri) 21:32:47

【秘】 corposant ロメオ → 口に金貨を ルチアーノ

「そーいう事です。win-winでしょ」

いつぞやみたいな都合の良い言葉。
一緒に居るのはこちらの勝手であることは知っている。
追い払われないから今は一緒に居ていいものだと思っている。
ロメオが「なんでもする」のはそれを許されるからだ。
許されなければ、なんにもしない。
貴方は許してくれる人だと思っている。

「いーですよ。溶けても美味かった」
「あんた、意外と寂しがりだったりします?」

それを揶揄するでも責めるでもない、ただの感想。
思った通りにここは人の気配が無くて、ここには二人しかいなかった。
彩度の低い風景だった。

「オレが言えたことじゃないか。お揃いすね」

そうしてまた、勝手にお揃いにしている。

#ReFantasma
(-230) 2023/09/29(Fri) 21:33:44

【秘】 口に金貨を ルチアーノ → corposant ロメオ

「……win-winなのか」

こちらはこちらでその言葉に少し訝しげになる。
あのときは冷静でも何でもなかったが、今思えば相当お互いにおかしかったのだ。
それが、何故か。自分はともかく目の前の男までも。
今態度が変わらないことを含めても、やはり違和感を感じる。

無条件に人に尽くそうだなんて思わない。
たとえそれが娯楽として行われていたとしても理由があるはずなのだ。

「……ああ、寂しがりやだなあ」
「お前と揃いで嬉しいよ、ずっと似ていると思ってた」

だからここは素直に告げてやって。

「なあロメオ。
 お前は一体何がそんなに不安なんだ?」

「何が欲しい。
 言えんのだったら俺はあのときのことを聞き直してやる」

水気を帯びた砂を蹴って、貴方を振り返った。

#ReFantasma
(-234) 2023/09/29(Fri) 22:18:59

【秘】 corposant ロメオ → 口に金貨を ルチアーノ

「不安?」

……足を止めた。
潮風で揺れる前髪が、深みのある翠の瞳を隠しては現す。

「オレは別に……」「いや」
「不安じゃないって言えば嘘ですけど。うん」

うろ、と視線が惑った。考えに迷っている時の癖だった。
自分の心について語るのは苦手だった。
誰にとってもどうでもいいもので在って欲しいから。
不安。欲しいもの。言ってどうなる。けれど問われている。

「……欲しいものなんかいっぱいありますよ。
 でもオレは弁えてるんだ。
 オレは聞き分けのいいゴミでいたい」

「そら使ってほしいのが一番だよ。
 オレを使ってくれる人はいっぱい居る。いいことだ。
 オレは便利な物か畜生扱いでいい。
 利用価値があったら捨てられないでしょ……」

とつとつと、ぼそぼそと、
それでも波音には掻き消されないくらいの声。
内容はいつか貴方に話した、在り方の続きだった。

#ReFantasma
(-242) 2023/09/29(Fri) 23:30:54

【秘】 corposant ロメオ → 口に金貨を ルチアーノ

「けど……どうせだったらさ」

「やっぱり好きな人に使われたいですよ。役に立ちたい。
 オレを求めてくれる人が居たら嬉しい。
 オレだって大事なものを大事にさせて欲しい」

「オレはゴミだが悲しいことに心がある。嫌だね。
 
贔屓
が出来ちゃうから……情があんだよ」

「なくなったら嫌なものにしがみついちゃうんだよな」

みっともなくてすみませんね。
眉を下げて、へらりと笑った。
あんまり答えになっていなかった気もするが、
不安と欲求の種はこれなのだ。

「だからオレ、なんでもするんです」

人というには烏滸がましい。
でもゴミにも畜生にもなり切れない。
居場所にさせてくれる人が欲しくて、
型落ちの用済みになるのが不安だった。

#ReFantasma
(-243) 2023/09/29(Fri) 23:33:42

【秘】 口に金貨を ルチアーノ → corposant ロメオ

「……そういうことかあ」

この化け物じみた努力ができる男がやっと人間らしく見えてきた。
自分から道具や畜生になろうとしたらこうもなるか。本当に涙ぐましい心意気と言えよう。

「俺もなあ、利用価値があれば捨てられんと思ってた。
 便利で都合の良い人間になることが自分の為にも周りのためになるとも思ってたんだ」

「……半分ぐらいそれで上手くいくんだがなあ?
 もう半分はどうしようもなくてな」

知ってしまったのだ、必要とされる喜びを。
本当に好いている人に求められる時間は有象無象の何かを超えた満足感が得られるということを。

「あと俺はわかりにくい嘘はつかない主義でなあ」

あの時の自分も、自分自身なのだ。
本心しか言わない、馬鹿ほど素直で、おかしくなった姿だ。

「……はー」

言ったことも本当にしたいことで嘘も一つもなくて。
ただ心配だったのはそこに貴方の心があったのかどうかだけ。
誰かに言われた一人だけという言葉が脳裏に浮かぶ。
確かに、こんな事を言う相手人生に二人もいてたまるかも思った。

#ReFantasma
(-246) 2023/09/30(Sat) 0:01:17

【秘】 口に金貨を ルチアーノ → corposant ロメオ



「ロメオ、俺はお前が欲しい」
「なんでもしてくれ、代わりに俺も、なんでもしてやる」

そう、また誰にも見せたことがないような、小首をかしげる仕草に笑みを添えてやった。

#ReFantasma
(-247) 2023/09/30(Sat) 0:02:26

【秘】 corposant ロメオ → 口に金貨を ルチアーノ

「え」

口からぽろっと零れたのは動揺の一音。

「……な」「なんで? 今なんて?」

それから疑問。
見た事無い仕草は、欲しかった言葉に添えられている。
理解が追い付いていない。確かに欲しいものを言った。
何故この場で、貴方からそれが与えられたのか。
これはめいっぱいに目を開いて驚いて、どっと汗をかいた。
嫌ではない。嬉しいはずだ。
与えられた言葉の一言一句は望んでいたものだ。
ただそれを、あまりにも簡単に貰ってしまったものだから。

「んで急に、 は? なんでもしてやるって言った?」
「オレに? いや、冗談なら……」「違、あ」「その」

「本気? マジで言ってる? オレだぞ? いや、あー」
「オレ別に見返りを求めてるわけじゃ……そうじゃない、
 分かってる。嬉しいんだけど、嬉しいんだけどさあ、
 使ってくれんの……? 欲しいの? オレを?」

誰にも見せた事無いくらい狼狽えた様子で、
それでも落ち着こうとしきりに後頭部をパシパシと叩いて。


#ReFantasma
(-250) 2023/09/30(Sat) 1:02:31

【秘】 corposant ロメオ → 口に金貨を ルチアーノ

「……………………あの……」
「……クーリングオフ期間付けますけどお……」

「それ言われるとオレ本気にするんで……マズいから」

丁寧に飲み下して、本当に本気か、とそれでも問う。
言葉の杭が欲しいのは相変わらずだ。

#ReFantasma
(-251) 2023/09/30(Sat) 1:03:25

【秘】 口に金貨を ルチアーノ → corposant ロメオ

「あの日にあれだけ言ったのに……。
 信じてくれてなかったのかあ?」

態とらしく落ち込んだ口調で呟けばふいっとそっぽを向いて口の端を機嫌よくあげた。
ああやっぱり少しはあるんだな、好感が見えるその姿で優越感に浸れてしまう。
この男がなにかに慌てふためくところなんて見たことがなかった。
もう滅多に見られないだろうがそれでも嬉しいものは嬉しい。
だから、誰かのものになってしまう前に欲しくなるのは仕方無いじゃないか。

「使ってもやるし、褒美もやる。
 出来るだけ寂しがらせんが、俺が寂しがったらなんとかしろ。
 お前が良いんだよ。傍に居るだけなら誰でも良いが
 それでも、俺の"相手"ができるのは、本当に都合がいいお前ぐらいしかおらんのだ」

たとえそこにどんな感情があるかわからなくとも、
確実に自分の役に利益になる物を手元に置きたがるのが俺だ。
大金よりもっと価値がある、そんな男が眼の前にいるのだから。
やはりこの口は口説かざるを得ない。そういうことにした。
そういうことにしておかないと、今まともに顔を合わせられない気がした。



#ReFantasma
(-280) 2023/09/30(Sat) 6:56:19

【秘】 口に金貨を ルチアーノ → corposant ロメオ

「……それともお前は。
 この色男のことを遠慮すると?」

「そうというのなら、勝手に一人で歩いてくたばるかもなあ。
 俺はそのせいで何人もの人間が悲しもうと気にしないぞ。
 身勝手で自由気まま放蕩息子で銘打ってるんで」

きっとその時は、また誰かのように念入りに準備をして、何かをやらかそうとするのだけれど。
今はそんなことは関係なく。
ただ、裏切ることの許されない約束がそこにかわされるかだけ。

「なあ。俺を欲しがってくれよ、ロメオ」

#ReFantasma
(-281) 2023/09/30(Sat) 6:59:33