人狼物語 三日月国

70 【第36回TRPG村】百鬼夜行綺譚


【人】 京職 一葉

日々、戦場や墓で屍肉を漁り、腐肉を啜る。
この都の郊外に居着いていた取るに足らない小物妖怪────それが元々のオレ、だ。

  「そんなものより、こっちの方がずっと美味しいわよ?」

二十年ほど前のある日、犬の死骸に食い付いていたオレに、そう声をかけたヒトがいた。

白くふわふわした甘い何かを手渡され、その鈴のような声に驚き顔を上げれば、満開の桜の下、微笑む娘が居た。

  「ご覧なさいな、綺麗な桜じゃない」

端から見ればほんの些細な、小さな出来事だったろう。
だが、死骸を探し、地だけを見て生きていたオレに、それは、世界を変える出来事だった。

 * * *

「それまでは、ヒトとは、精々が"知恵のある餌"でしかありませんでした」

だが、ヒトには心があった。
花は美しく、"団子"なるものは屍肉より遥かに旨かった。

────屍肉を啜るしかない己が、酷くさもしく、恥ずかしいものに思われた。

訥々と身の上を話す私を、百継様はどのような顔で受け止めていたのか。いや、最早、聞く耳すら持たれていなかったやもしれぬけど。
(18) Valkyrie 2021/04/23(Fri) 8:12:11