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![]() | 【人】 略奪者 ラシード─ 水晶宮:屋上展望台 ─ 水晶宮って、生物の保存って役割から 温度湿度の管理、みたいなものが いっとうに徹底された施設…なんだって。 ……締め切った金庫の多いこの島で、 いちばんに『呼吸』を必要とする施設だとか。 後天的ではあるんだけれども、 大気の流れは此処を中心に渦巻いてるんだ。 だから都合が良かった。 君をコレクションとして迎え入れて貰うのにも、 都合が良かった。 [職人の分厚い革手袋をした手に締め上げられ、 ブクブクと泡を吹く蛇の頸から滴り落ちた鮮血が。 銀の香炉の中の火のついた香、煙の中に一滴 ────ぱたりと音を立てて、堕ちた。 細く立ち上る白い煙が、沸き立つように赤黒く変色する。 僅かに立ち込めていた甘ったるく腐った果実のような匂いが 質量を持ち、大気を犯す猛毒、否、呪毒へと転じる。] (1) 2022/11/07(Mon) 0:01:26 |
![]() | 【人】 略奪者 ラシード悪く思うなよ。 島全体に行き渡らせるには きみの血は残さず搾り取らなきゃ、なんだ。 呪うなら、ぼくと一緒にこの島を呪って。 血の誇りを口先で称えながら “蒐集品”に貶める、この島を。 ぼくのために、ぼくらの誇りのために、 “祖”の毛皮を取り戻す為に──── 死 んでおくれ。[鼻と口を紅で覆った若き首魁の声に祈りは無く。 鉄のように、硝子のように、 その表情は冷たい。] (2) 2022/11/07(Mon) 0:05:36 |
![]() | 【人】 略奪者 ラシード[呪いを孕んだ腐臭は、狂馨は、 まるで泡が弾けたかのように急激に質量を増し、 潮風に乗って島の四方八方へと拡散していく。 赤い呪布を身に付けた略奪者たちが 各所の保存施設の窓に投石や矢を放って砕く。 だが、それを衛士に報せる市民は居ない。 駆け付ける衛士も、警備員も居ない。 長い歴史が作り上げた宝箱の中に、 赤を纏った賊は次々と侵入し───誰も止めることができない。 呪いは、腐臭は、火をつけたのだ。 ]*人々の───自身の中から身を焦がす欲望の炎に。 表層に顕れたそれは理性を蝕み、喰い殺し。 キュラステルという楽園は風上から、 北からじわじわと狂い始めた。 (3) 2022/11/07(Mon) 0:13:40 |
略奪者 ラシードは、メモを貼った。 ![]() (a0) 2022/11/07(Mon) 0:25:59 |
![]() | 【人】 略奪者 ラシード─ 狂騒 ─ [朱に染まり、傾いた陽光が 市街地に長く冷えた影を落とす。 幾度も幾度も其処で繰り返されていた筈の 人々の営みは今や其処には無い。 肉屋の硝子棚を拳で叩き割り、 陳列された生肉を手掴みで引き摺り出し 破片の刺さった己の腕から流れる血液ごと 次から次へと口に押し込んでいく肥った地人。 獣人の店主は路上で犯された末に引き裂かれた女の死体を 鉈で更に細切れにしつつ片っ端から機械に放り込み ドス黒い腸詰め肉を延々とひり出し続けている。 職人街では、表情を失った刀鍛冶が 焼けた鉄をハンマーで叩く。叩く。叩き続ける。 何度も何度も叩いて叩いて叩き続けて、 そうすれば鉄は粉々になって、 やがて彼は只々金床だけを叩き続けるだけ。 彼にだけは見えているのだろう。 想像を絶するほど美しい光を放つ、渾身の刃が、金床の上に。 ] (45) 2022/11/08(Tue) 2:04:43 |
![]() | 【人】 略奪者 ラシード[書店の前の路上には奇妙なものが広がっていた。 チョークで書き付けられた難解な数式に難解な図形、 まるで古代文明の陶器に刻まれた幾何学模様のように 丸眼鏡を掛けた魔人の少女が息を荒げながら、文字を、数を、 彼女の頭の中で爆発する閃きを書く。書く。書き連ねる。 それはやがて向かいの煉瓦壁にも進出し、 壁を舐めまくっている若い男の背中臀部そして頭部にも刻み、 街路樹の葉の一枚一枚、石の一つにも数式は刻まれ、 チョークが尽きればペンを、ペンが尽きれば己の指先を切りその血液を。 此処はもはや異空間だ。彼女の頭蓋、その内側のようなものだ。 野菜を犯す男。人妻を犯す女。 ころすころすころすと泣き喚きながら、衛士から奪った槍を振り回す少年。 誰が着れるのか検討も付かない巨大な服にミシン針を叩きつける女。 その数々を足蹴にして、見向きもせずに、 性欲や暴力衝動を孕み飛び掛かってくるものたちに 拳や脚を叩きつけ、赤い呪布を身に付けた略奪者達は駆ける。 彼らの求める宝の元へ向かうもの。 または手近な民間の窓や扉をぶち壊して、金目の物を狙うもの。] (46) 2022/11/08(Tue) 2:05:29 |
![]() | 【人】 略奪者 ラシード─ 銀鷹公の屋敷 ─ [ だ た ん。 吹き抜け階段の巡る広間。 其処に次から次へと降り注ぐものがある。 死体。いや違う。衝突する瞬間までは生きていた。 虚な目を、否、”居場所を見つけた安堵”に満ちた 泣き疲れて安堵した子供のような、 さかさまの人間ひとりふたりさんにんよにんごにん、 だ たん。だ たん。次々と堕ちてくる、堕ちてくる。 広間を塗り潰さんばかりに、赤い血液が広がっていき、 ああ、また”おかわり”の追加だ。 だ たん。 だ たん。] 自殺願望持ち、か。 ……確か銀鷹公の屋敷では、 若手の研究生を奨学生として受け入れて 小さな研究室を与える…… みたいな慈善もやってたのだっけ。 [見上げる螺旋階段。壁際には開け放たれた部屋の数々。 そのひとつひとつに若き研究者が住まい、夢を追って、] どいつもこいつも行き詰まりで、 正直死にたい気持ちで一杯だった、ってことかな。 (47) 2022/11/08(Tue) 2:07:02 |
![]() | 【人】 略奪者 ラシード閉じた箱にはお似合いの末路ってやつだ。 [踵を返せば、もう其処には興味の一欠片も残らない。 螺旋階段を登り、次々と身を投げていく学徒に目もくれず 略奪者の首魁は屋敷の上層へと向かっていく]** (48) 2022/11/08(Tue) 2:13:35 |
略奪者 ラシードは、メモを貼った。 ![]() (a11) 2022/11/08(Tue) 2:16:30 |
![]() | 【人】 略奪者 ラシード─ 銀鷹公屋敷:博物廊 ─ [青磁色の壁にずらりと並ぶ、 大小様々な草食獣、肉食獣の首。 まるでアラベスク模様のように 円を描くよう釘打たれた蝶に蛾に甲虫。 天井をぎこちなく泳ぐように吊り下げられた 亀やエイ、小さな鯨の骨格標本。 王の前に控える騎士のように、 恭しく膝を立てて鎮座する人骨。 皮を剥いた人間の標本。 人の皮だけの標本。 枝葉めいた神経系だけの、標本。 床タイルの一部は分厚い硝子張りで、 その下にあるらしい、細長く浅い水槽で 生きた魚がゆったりと泳いでいるのが垣間見えた。 此処は晩年、生物学に傾倒した黒鴉公が キャビネットや水晶宮から更にお気に入りの物を選び出し、 彼の趣味に沿った形式で飾り立てた廊下。] (86) 2022/11/08(Tue) 23:21:10 |
![]() | 【人】 略奪者 ラシード……報告で聞いてたけど、悪趣味ったらないな。 [べ、と吐いた唾は透明な硝子に落ちる。 何も知らぬ顔の淡水魚がゆらりとその下を通り過ぎる。 生命の歩み、形、歴史を並べた標本箱も、 略奪者にとっては耄碌老人の玩具箱でしかない。 けらけらと嗤いながら廊下を疾走する使用人女 ───たぶん、モップ掛けが楽しくて楽しくて仕方がないのだ───を、二、三歩の軽い歩みで避けながら、 略奪者はずかずかと大股で奥へ、奥へと進んでいき、 歩みは、ある地点で止まった。] (87) 2022/11/08(Tue) 23:22:13 |
![]() | 【人】 略奪者 ラシード…………ああ、 あぁ…… やっと、やっと見つけた。見付けられた。 なんて非道い。けど、もう大丈夫、大丈夫ですよ。 お迎えに上がりました、我が祖よ。 (88) 2022/11/08(Tue) 23:22:35 |
![]() | 【人】 略奪者 ラシード[島を混沌に堕とした略奪者は跪く。 騎士の様に。標本のように。信徒のように。 其処にあったのは、漆黒の額縁。 その内側で、腹から開かれ、薄く平され 磔にされた白銀の獣皮。 突き出した鼻と三角形の耳から狼だと分かる。 ……だが、狼の物にしては明らかに大きい。 四肢は長く、爪も鋭く、長いたてがみは毛髪のよう。 保護の為の硝子に押し花めいて押し潰された毛並みは いっそ、緻密な銅版画のようにすら見えただろうか。] 大いなる狼の祖。 貴方を、この閉ざされた匣から連れ出します。 [がつん。 硝子に突き立てられた鑿から 蜘蛛の巣めいた亀裂が走る。破片が降り注ぐ。 煌めく硝子編の中、滑るように落下した銀色の毛皮は 抱擁でもするかの如くに、獣人の子の身を包み込んだ。] (89) 2022/11/08(Tue) 23:23:06 |
![]() | 【人】 略奪者 ラシード─ キュラステル 市街地 ─ [ 欲望の赤に染まった街を、 銀の獣が疾駆する。 分厚い毛皮を背に被り、 呪の穢れに手を染めて。 奔る、奔る、奔る。 彼が地を蹴り向かう先。 コレクションを積んだからくり車が 首魁を乗せ、港に向けて走り出すべく 今か今かとその時を待っていた。 ]* (90) 2022/11/08(Tue) 23:25:26 |
(a18) 2022/11/08(Tue) 23:30:18 |
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