203 三月うさぎの不思議なテーブル
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[テーブルで睦まじく談笑していた二人は先に退店していたようだ。
良い時を過ごせるように心の中でエールを送る。
うれしい結果が聞けたのは、また後日の話。**]
[未来の旅行計画を立てる彼に。]
ふふ、そうだねえ。
それ用の貯金箱でも作る?
あ、そうなんだ!夏生まれ。
了解。じゃあ間に合ったら個別に祝うし。
間に合わなかったら旅行しながら一緒に祝お。
[彼の誕生日もそこまで遠い話じゃない。
その時は何をしようかな、何をしたら喜ぶかな。
少し先の予定を考えながら、そんな話をしていた。]
[そうして豆腐ハンバーグ。
遠藤に彼がレシピを窺っていたのは聞いていたけど
どこまで参考にしたのだろうか。
ネギ類の甘味に豆腐のなめらかさ。
彼も気に入ったらしい
ワサビは付いているのかな。
リスペクトだと少し苦笑しながら話す彼に
目を細めてもぐもぐと食べる。]
うん、でもほんとに美味しいよ。
ありがとね、作ってくれて。嬉しい。
[シンプルな塩むすびを一緒に食べながら
ず、と温かい玄米茶を啜る。
ああ、なんか。幸せだな。しみじみ。]
へえ――…
[そうして、聞くのは彼の両親の事。
お人好しで心配性な父と、
家計を切り盛りするしっかり者の母。
いつかの真珠の件の答え合わせも聞いて、
微笑ましさについ微笑みが零れる。]
そっかあ。
…良いご両親なんだね。
[感想は心から。
断片的なエピソードだけで
二人とも善人なのだろうことや
愛を受けて育ってきたのだろうことは窺えるし
その環境が彼の屈託のなさを形成したのだろう。
こどもから自慢だと、胸を張って言われる親は良い親だ。
そうでもない家庭も玲羅は多く知っているから余計。]
うち?
うん、好きだよ。兄弟はいない。一人っ子仲間だね。
[好きかと問われれば特に衒いもなくYESと答える。]
パパはね、普通の会社員。
私が一人娘だからかめちゃくちゃ親ばかで過保護で、
私には甘々。
実家出る時もすっごい寂しそうだったけど、
押し切って出てきちゃった。
[あ、余談ですが玲羅は社会人になって以降一人暮らしです。
また変なファンにストーカーされたら…と狼狽える父は
いい加減子離れしろと母に一喝されていた。
思い出して少し笑いそうになってしまいながら。]
ママは子供向けの音楽教室の先生しててねー。
私が歌とかダンスとか好きになったのはママの影響。
パパが甘い分容赦なくずけずけ物言うから
小さい頃はよく喧嘩したりしてたな。
大人になった今は友達みたいな感じだけど。
…でも、私がアイドルになるって決めた時も、
急にやめるって決めた時も、何も反対しなかった。
[玲羅がよく考えて決めたなら好きにしなさい。
悩んだ時には私たち親を頼ってもいいけど、
自分の選択に責任は持ちなさい。
あなたの人生なんだから。
そう真顔で諭した母のこと。
時には厳しく思えた母の
それが確かに愛だったのだと知ったのは、
きっと大人になってから。]
良いご両親だよ。うちもね。
[なんて冗談めいた口調で、けれど心から笑った。**]
[旅行用の貯金箱とか何それ楽しそう。
未来の約束に、心が躍った。
レシピはまるっと参考にしました。
でもプロの味にはならないし、監修は母だしね。
山葵つけたよ。2人で気に入ったもんね。
『美味しい。』と。食べてくれる人は嬉しい。]
また作る。また一緒に食べよう。
[ああ。幸せだなって。
熱い玄米茶を飲み終わった彼女の手から。
コップを受け取って。]
[愛おし気に目を細めて。玲羅を見詰めて。
怒られるかな?]
[怒られてもそうじゃなくても。
胸が満ち足りて幸せだった。]
[玲羅のお父さんとお母さんの話し。
聞いていて、目に浮かぶようだ。]
玲羅を心配したんだね。お父さん。
お母さんは、玲羅を信じてくれたんだね。
『玲羅なら大丈夫』って。
信じてもらえるくらい。
玲羅は頑張ってきたんだね。
俺の勝手な憶測だけど……
良いご両親だね。
[目を細めて。微笑みかけて。]
[お弁当を食べ終わったら。
そろそろ手作りアクセサリー教室に向かおうか。]
アクセサリー教室ってどんな事するんだろう?
どんな物が作れるのかなぁ?
ああ。そうだ。お弁当食べてる時に気付いたんだけどね?
玲羅。爪も綺麗だね。お姫様みたい。
玲羅はどんなアクセサリーが好き?
[屈託なく笑いかけながら。
軽くなったお弁当箱を、しまっていった。*]
[ 訪問客もほとんどなく、友人が遊びに来ることも
あまりない。外で会うことのほうが多いのは、
互いのため。
故に面白いものは特にない自分の部屋だが
羨むような言葉があれば。君の部屋にも
興味が湧いた。
調理具の数は比べ物にならないだろうし、
日頃過ごす部屋の中には、趣味趣向が
色濃く、出ているだろうから、まだ知らない
相手の好き、が埋まっているような気がするから。 ]
[ 食器を増やしても、との打診に
告げた言葉の意味については、
正しく受け取られたようで。
その内と返される。
二人分の食器、それから服、部屋着、
枕、洗面用品等、数え切れないくらい
君の私物があればいいと思う。
自分の家だと錯覚するくらい。 ]
本当?嬉しいな
[ ささっと短時間で作ってくれた一品は、
冷蔵庫にも保存されているらしい ]
[ プロの手に掛かれば、調理器具など
数えるほどしかなくてもこれほどの料理が
出来るということに、いちいち、感動してしまった。 ]
さっぱりしてて、美味しそう。
だし、俺でも出来そうだね。
[ 授けられた知識は、技術力を要さない
簡単なもの。次に君がこの部屋を訪れる時には、
使用頻度が増えている証拠に、キッチン台の
手に取れる場所に、スチーマーはあるだろう。
冷蔵庫の中にも、多くはなくとも
食材は増えているはずだ。
出来ることが少しずつでも増えていけば
いつか、キッチンの中、狭いなんて言いながら
共に立てる日もくるだろうか。 ]
[ 茶碗蒸しなんて、家で作るものとは
思わなかったものだし、洋風の味付けが
とても気に入って、瞬く間に空にしてしまった。
表面の溶けたチーズと、コンソメの
組み合わせが絶妙に食欲をそそったもので。
好きだと以前言ったことを、
覚えていてくれたからこそ、作ってくれたであろう
スープも、スープ丼も。
体を内側からあたためてくれた。
加熱されて溶け出したネギの旨味が感じられる
スープを吸った米が、また美味だった。 ]
今日はさすがに冗談だけど、
次は泊まってね。
[ もちろん、店に近いからという理由
でもいい。君がここに居てくれるなら、
理由なんて、なんでもいいので。 ]
[ それから食事を終えれば、
片付けは自分がと申し出た。
ほとんど食洗機が片付けて
くれるし、君にもこの部屋で
ゆっくりして欲しかったから。
片付けを終え、コーヒーを手に
戻れば、君は何をしてただろう。
ダメになるソファに吸い込まれたり
していたなら声を上げて笑ってしまって
いただろう。
深夜と呼ばれる時間になる前には、
送りたいと言い、再びジャケットを羽織った。
帰り際玄関で、頬を撫でながら
いい?と問いかけた後、どうなったかは
君の返答次第かな。* ]
―― 鴨の日 ――
[カウンターに響く蕎麦を啜る音が二つ。
七味を振りかける神田と、
そのままを楽しむ高野を交互に眺めながら、
二人の水を注ぎ足しておく。
神田からの問い掛けには。]
はい、そうです。
[天ぷらは確か大咲が作ったと記憶している。
ゆっくりと味わうように器を傾け味わう。
そこから漏れた感想に、さすが、と微笑んだ。]
厚削りの鰹を使ってるんです。
[だから、今日も一つ答え合わせを。]
血合いの入った厚削りのものと、
それから、香り付けに薄削りを後から。
醤油は……何を使っているかは、秘密で。
[なんといっても店の特製なので。+109
大体の回答は出したようなものだが、
肝心なベースとなるものは伏せておいた。
ネギも鴨も好評のようで、
いつもの流水のように流れるような感想を楽しむように
耳を傾けながら二品目を頼まれたなら。]
はい、かしこまりました。
そうですね……、新じゃが使ってもいいですか。
[一言断りを入れて、作り出そう。*]
[二人の蕎麦を啜る音は、揚げる音と重なれば、
いくらか相殺できただろうか。
一方で口数の少ない高野に目を向けたところで、
微細な感情の揺れまでは気づけなかったけれど。
目が合ったなら、自然と細めて返していた。
竜田揚げに彼が手を付ける頃、
カウンターキッチンに戻れば、映画の話。
邦画はあまり観ることがないから。
説明されたものは欠片程度は聞いたことはあっても。
観たことがないものだったけれど。
一日では観られそうにない量に、
思案するように伏した瞳を、ちら、と向けたなら。]
配信なら、映画じゃなくてもいいんですよね。
……だったら、『戦隊モノ』とか観れます?
[タイトルまでは知らない。
けれど、彼にならそれで何が観たいかは伝わるだろう。]
観てみたいです。
『ブラック』が活躍するところ。
[今はプライベートな時間を楽しんでいるだろうから。
名前は伏せたまま、好きになったカラーを口にした。*]
[そんなリクエストを願った日だっただろうか。
帰り道で、葉月の話題に触れた時。
何故か顔を顰めたのを見たら、
機嫌を取るように、絡めた指に少し力を篭めて。]
葉月さんとは話してみたかったから、
俺は構いませんが。
[構われるのが嫌なのだろうか?
彼は純粋に高野のことが知りたそうに聞こえたけれど。
お節介についてはまだ葉月の人となりを
深く知らないから、微かに首が傾く程度。]
[指先から温度が伝わって、零れた笑いが見れたなら。
心配する必要はなさそうだ。
ねだるような問い掛けに返された応えは。
期待通りの、いや、それ以上のものだったから。]
『お父さん』の相手が『お父さん』だったら、
……驚くかな。
[少し崩れ始めた敬語には自分では気づかない。
はにかむ姿につられるようにして、双眸を緩めた。*]
―― 二品目 ――
[新じゃがを手に取ったら、まずはよく洗う。
皮がついたまま使いたいから念入りに。
一口大ぐらいになるように、大きさは6等分ぐらい。
手を入れた後は、
キッチンペーパーでしっかりと水気を拭き取って。
牡丹海老はお腹の殻を剥いてから尻尾へ。
そうすると頭も尻尾もちぎれることなく綺麗に剥ける。
頭と尻尾をそのままにするのは、
見た目にも楽しんでもらいたいという思いから。
こちらも下処理を済ませた後、水気を取って。
彩りにはアスパラを。根本を切り落として。
固い部分はピーラーで剥いて、5cm幅に。
次に手にしたのはスキレット。オリーブオイル。
勘のいい人ならばもう何を作るかは察せるだろう。]
[みじん切りにしたにんにくとアンチョビを
アスパラと一緒に入れ、いい香りがしてきたら。
新じゃがが柔らかくなるまでふつふつと。
後から海老を入れたら、今度は赤く色づくまで。
仕上げにパセリを少し散らして緑を深めたら。]
海老と新じゃがのアヒージョ。
こちらもお好みで、七味をかけてください。
[熱々のスキレットを木板に乗せてテーブルへ。
食べれない海老の部分は、殻入れを一緒に添えて。*]
うん、楽しみにしてる!!
[また作るという彼に元気よく頷いてそう答えた。
ちなみに自分もお返し的なものを
したいという気持ちはちゃんとあるんだけども
それは今は心のうちに秘めて。
玄米茶を火傷しないよう飲み干し、
コップを彼に手渡した。]
――――、
[一瞬虚を突かれて、ぽかん、としたあと。
間近で微笑む彼の表情と台詞に
ドキリと大きく心臓が跳ねて。]
〜〜〜っっ、!!
[ぶわわ、と頬が熱くなった。]
なっ、
も、……っっ、も〜〜!!
うーー……
[
だから不意打ちはずるいってば!!!
こんなところで、とか。誰かに見られたら、とか。
そんなことよりも愛おし気に目を細める彼と
うるさい鼓動の方に意識が持っていかれて。
赤い顔のまま、先程とは逆に
ジトッとむくれたような顔で
彼を見つめる玲羅だった。]
……私も好きだよ。
[拗ねたようにぽつ、と小さく返して。]
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