【妖】 黒崎柚樹["好き"を出すことすら難しくて、ぜんぶ、"かわいい"にすり替えて伝えてくる、愛しい人。 "大好き"も"愛してる"も滅多に言えないその理由を私は理解しているし、言って欲しいとねだったこともない。 言葉になんてしてくれなくても、武藤はいつだって、行動で、他の言葉で、私にたくさんの事を伝えてきてくれるもの。 あの美術館での出来事の直後、まだ病院にいて日常に戻れてもいない状況下でプロポーズじみたことを告げられていたことには、後になって気付いて早いよ、と笑ってしまったのだけれど。] …………ん。大好き。大好き、だよ。 [この姿勢でぎゅう、と抱きつくと、私のささやかな胸が武藤の喉元あたりに押し当てられることになるんだろうか。まあいいや、とぎゅうぎゅうしてしまう。] とら。愛してる。 [囁くように耳元に告げて、はむりと耳朶を小さく噛んだ。 記憶を失ったままでもいいと一度は思ったけど。やっぱり私は"この武藤"が良いよ。 自らの意思で踏み出し歩み寄って、私に"愛してる"と言ってくれるようになった武藤が。] ($91) 2023/03/10(Fri) 15:13:12 |