![]() | 【魂】 疾風迅雷 バーナード>>5:_16 あなたからも口付けが返ってくれば、微笑みの形に細められた梔子色の瞳から雫が流れて行く。恐怖から生じるものから歓喜によるものに変化したそれは真っ白なシーツに染み込んで。 「……お前だけでも許してくれるならそれでいい。お前がどういう人間『だった』かは知らないけど、お前にとってこれが希望だったのなら……俺にとっても多分、そう。生まれた時からではないけれど、俺も役割を持っていた人間だから。 待っていて。必ず辿り着いて、お前と生きる"これから"を手に入れる」 こんなにそばにいるのに、まだ足りない。ほんの少し進めば届く気がするのに、ひどく重たい何かに手足を絡まれて今はまだ進めやしない。 それでも、自覚のなかった頃よりはずっとお前が近い。お前との賭けとその結果の"これから"より優先するものなんてないのだから、やることは決まり切っている。 「代わりにお前のことを……なんて。俺もお前のことが聞きたいから、後で教えてよ。 ……俺、両親間での傷害事件をきっかけに孤児院行きになったんだ。頑張って親の仲を取り持っていたし、俺が寝ている間は親が暴れないって分かったから早めに寝てた。ちゃんと言うこと聞いてくれた時は嬉しかったし俺が頑張ればあのまま一緒にいられると思ったけど……無駄だったよ。 で、孤児院行ったけど俺お兄ちゃんだったし昔から面倒見良かったからそのままお世話役してた。面白い場所だったよ、皆が大切にされる場所だった。俺の部屋も、服も、靴だって皆孤児院の皆に与えられたものでさ。"皆"のものはたくさんあった。"俺"のものは何もなかった。 ……なあ、知ってる?布団に潜ったら誰のことも気にしなくていいんだ。俺でいられるの。白は枕とシーツと布団の色で、黒は夜と目を閉じた時の色だから好き。落ち着く」 欲しがるのは何もないから。色がないのは安らぐから。 両立したのは、己の自我を外面が侵食していたから。 「面白い話になりようもない、つまらない話でしょう?」 (_17) uni 2022/02/27(Sun) 5:19:22 |