人狼物語 三日月国

246 幾星霜のメモワール


【墓】 白昼夢 ファリエ

>>9 エミール

手を差し出されれば、初めて人間を見た野生動物のような手つきでおっかなびっくりあなたの手を取った。
寒空に冷えた手。赤切れもいくらか目立つかさついた手。
黙って柔く繋いだまま二人だけの足跡が、時が止まったような静寂を覚ましながら。
目的地に着くとそっと離れていっただろう。

「…………怖い、なのかな。
 ああやって聖女聖女って熱狂する人たちが怖いのはそうなんだけど」

もうあなたに触れられても拒絶されることもなく、されるがまま。
己の記憶と結びつく嫌なものではあった。
ぐるぐると思考が行ったり来たりするうち、別の気がかりに気づいた。

「どうして私なんだろうって。そっちの方が強いかもしれません。
 この痣が祝福のあかしだって未だに信じられなくて」

呟いた言葉にたっぷり時間かけて口を開いた。
零れる言葉は曖昧に遠回り。
殆どが独り言で石畳の隙間に浸み込んでも構わない雰囲気だった。

「……罰なんでしょうかね。
 自分勝手な愚か者への、おしおき」
(+5) 2024/02/06(Tue) 9:09:39