【置】 学生 涼風拝啓 毎日暑い日が続いておりますが、 様にはお変わりなくお過ごしのことと存じ上げます。 (中略) 小さな子が遠くで泣いている声を聴くと、たまに姿を重ねてしまいます。 都会に引っ越すことが決まったあの日。幼い私は顔を真っ赤にしてわんわん泣いて。「家の外にも響いていたとご近所さんが心配していたのよ」と語る祖母の声は今でも思い出すことが出来ます。 声をあげて泣いたのはあれが初めてでした。 弾けるような友達の声。共に歌うように響く蝉しぐれ。どこまでも続くような青空の下で、遮蔽物のない村の大地を風が思いきり駆けていく。 ささやかで特別なものではない時間さえも、お気に入りの紅茶缶にでもしまいたくなるような愛しさがありました。 私にとってこの村は、この村で過ごした時間は、この村で出会った人たちは。 まさに夢のようなものだったのだと、成長してから気付かされたのです。 (中略) 敬具 20××年 8月××日 涼風薫 (L3) 2021/08/12(Thu) 14:46:09 公開: 2021/08/12(Thu) 15:00:00 |