【置】 小さな サルガス >>L15 深夜の中庭 美しい噴水の底を覗いて、水の溜まる箇所に手を突っ込んで。ベンチの下をしゃがんで覗いて、見えない場所を探り当てて。 それでも何も見つからない。靴にスカーフ、見つからない方が安心なのかもしれないなんて思うけれど。 影さえ見えない探し物に身震いしたのは、秋風が濡れた手先につめたいからではない。 「中庭や森に、いったわけじゃないのかな。でも、先生たちのばしょにはあんまり立ち入っちゃいけないし。 いつかは……いかなきゃ、ならないかな。あぶなくても、だれか知ってるかもしらないし。 ……みんな、これだけじゃ終わらないって、いってたな」 目を伏せれば不安を掻き立てるような推測が水を掻き回して泥が舞うように浮かんでくる。 自分たちの中に……ああでも。それより先は考えてはいけない。愚直なままでいられなければ。 頼りを探すように草木の色に指を沿わせて、赤みの橙colorのツルバキアflowerに口付ける。手折った色をきゅうと食んで、花の匂いに擦り寄った。 「ぼくひとりで、やらなくちゃ。 みんなを、これいじょう不安にさせちゃいけないんだ」 勇気を振り絞り眠い目を擦って、足音は看板の横をすり抜けていく。 唇からこぼれた花の一片だけが、そこにあったものを知らせている。 (L16) 2021/05/27(Thu) 12:27:57 公開: 2021/05/27(Thu) 12:30:00 |