【雲】 闇の精霊 アルカードはじめての、ニンゲンだったのだ。 我に、世界の破滅を望まなかった。 我を、友と呼んだ。 我にこの世界は美しいものだと知ってほしいと。 我に、これからも傍にいてほしいと言ってくれた。 ……そう、望まれた。 [永い永い時を生きた。 そのあいだに、数多の人の子と関わりを持った。 あの暗闇の中、我を喚んだ誰もが、この世界の破滅を――滅亡を願った。 いつだって、我に届く声は世界を、他者を呪うもの。 悲しみと憎悪と寂しさと苦しみに満ちた声だけが 我を此の地へ喚び寄せる道標。 ―――…そのなかで、たったひとり。 風変わりで、弱々しくちっぽけで、今にも消えてしまいそうで。 だが、我が手の中で決して消えることなく、あたたかな輝きを放ち続けた、たったひとつの星。 この命を手離さないことに、 離れがたいと願いを持つことに、理由が必要だというのなら。 ……それで、十分だろう?] (D18) 2022/05/30(Mon) 23:14:51 |