【雲】 矢川 誠壱[腕の中の彼が、小さく首を横に振る。 続いていく言葉は、ただ黙って聞いて。 「ずるいのは俺だな」と一度締められたそれに、 開きかけた唇はなにも言葉にすることなく、 そのまま、背中をとんとんと叩いた。 ずるいのは、俺だよ。 だって、どうしたって聞きたい。 心の中では決まってるくせに。 どっちでもいいって言いながら、本当は 雨宮のこと、思いっきり抱いて、俺のものに してしまいたいっておもってるくせに。 それを、隠して、それでもなお問いかけるのは、 彼が選んだと自覚して欲しいから。 逃げることの、できないように。 こんな欲を彼が知ったら引かれてしまうかも。 怖がられてしまうかもしれない。 だから、口には出さないで。 あくまで、優しいふりをしてる。 ほんとに、ずるい。] (D26) 2021/06/21(Mon) 13:24:15 |