【雲】 サティ家次期当主 シャーリエ[池の底は苔に覆われていて 立とうとしたら頭まで水に沈んだ。 片方しかない靴よりも、裸足の方が石の凹凸を掴めるか、と 水の底に靴を捨てた。 素足で触れる苔はぬるぬる滑って安定させてくれない。 水面をばしゃばしゃさせてなんとか岩影の水から抜け出せば、 「お嬢様」と聞き慣れた呼び名を叫ばれた>>D59] リフルっ ! [そっちを向いた私の目に映ったのは、知らない男の顔だった。 すごい速度で嫌悪感が肌を伝わっていく。 顔なんて見ていなかったけど分かってしまった。 私を捕らえたのと同じむっちりした手。 すぐ後ろで感じた、私を包んでしまう体格。 怒りと好色で目をギラつかせて、にたにた笑う髭の顔。 首に当てられたざらついた皮膚が、あの髭だったに違いない。 嫌悪があふれて喉が開かない。叫ぶこともできなくなってしまう。 その場にへたりこんでしまって、 なにがなんだか分からない涙が、濡れている頬に混じっていった。] (D68) 2020/10/04(Sun) 22:00:54 |