【人】 しあわせうさぎ 理恵── ? ? ? ── [痛みで目が覚めた。布団をよく見ると、出血のあとがあった。出産についての知識はある程度身に着けていたので、それは子宮口の開いたしるしだと分かった。フウタを起こして、その時が近づいてきたことを知らせた。 病院に電話して状況を伝えると、極めて理想的な状態であることを知らされた。急ぐ必要はないようだ。事前に用意していたものを持って、フウタの操縦する人力車に乗った。車の匂いは嫌いだし、のろのろとした速度は、すっかり体に馴染んでいた。 朝のすがすがしさの中に、温かいみそ汁の香りや、パンを焼く香り、コーヒーの香りが満ちていた。いつも通りの朝が始まろうとしていた。 必死に深呼吸を繰り返しながら、きらめく朝日を浴びた。呻くたびにフウタが振り返る気配を感じ、そのたびに顔を歪ませたままコクコクと頷いた。おなかの中の子供が、出ようとしてもがいていた。服をまくり上げ、破裂寸前の腹の丸みを出すと、つっぱって硬くなった皮膚に陽光が当たり、にじんでいる汗を輝かせた。 痛みに朦朧としながら、頭をよぎる思いがあった。 子供は今、腹の中でこの光を見ているだろうか。目は見えなくとも皮膚を透かして、ぼんやりと赤い太陽を感じているだろうか。 おなかの子に教えてやりたかった。]** (0) 2021/01/04(Mon) 23:45:23 |