【人】 魔法使いの弟子 オペラ[閉め切られた部屋の窓を開くと、 やわらかな風が春の香りを運んでくる。 埃っぽい空気の代わりに、 私はそれを、思い切り吸い込んだ。 机の上の資料は、きっと大丈夫だと思うけど 風で飛んでしまわないよう、 重しを乗せておきましょう。 ついでに覗いたカップの中身は、三分の一ほど。 もうすっかり冷めてしまっているから、 新しいものに入れ替えようと手を伸ばす。 ここまで一切無反応。 カップも机も、この部屋も 全部私のものじゃないのに。 元々無口な人だけれど、 作業に没頭すると寝食まで忘れてしまうのが 私の師、その人だった。] (1) 2022/03/26(Sat) 1:51:21 |