【人】 空閑 千秋[この宿に泊まることになったのはこれで三回目。 今回通されたのは 桔梗の間 。最初に泊まったきっかけはなんだっただろう。 母が亡くなり、母の支配から逃れて、 気持ちの置き所がなくなってしまった時だった。 私に父の面影を重ねて 私を恋人のように扱い、愛し、 存在の在り方を歪めたあの人。 私はきっと、あの人の事を憎んでいる。 それでいて、あの人が歪めた価値観を 未だに直し切れてもいない。 部屋に通され、直ぐにこれまで着ていた衣服を脱ぐ。 部屋に用意された浴衣に着替えて 手提げに着替えを入れて来た道を戻っていく。 廊下を歩きながら窓の外を眺めた。] (2) 2020/08/07(Fri) 19:40:12 |