人狼物語 三日月国

246 幾星霜のメモワール


【人】 番犬 グノウ

老夫婦の屋台の前に背嚢を下ろすと砂煙が上がる。中から食材の果物が零れ、一つ二つと拾い上げて戻した。その音で呼びかけるまでもなく屋台の裏から雇い主である老婦人が顔を出す。

「……………こちらで。
 …………いいだろうか」

『ええ、ええ、ありがとうねえ、ほんに助かったわ……』と元より曲がった腰で何度も礼を言う老婦人は、思いついたように再び裏へと引っ込んでしまう。受領印を待つ巨躯を外に残したまましばしの間。老婦人はにこにことしながら再び表に出てくるが、その両手には飴細工が握られている。
そうか。果物はこれに使う用だったか。

嫌な予感はしたが、受領印の捺印後、老婦人は『これは、一つ、おまけしておくねぇ』とその飴を差し出してくる。自分には食事の機能はない。固辞したが老人特有の退くかなさで金一封と共に押し付けられる。何度も礼を言われる後押しも追撃された。

後に残されたのは、体躯に見合わぬ、食えぬ飴を持たされた巨躯。

「………」

渡す当てを探して周囲を見渡すが、子どもが寄って来ようはずもなく、途方に暮れた。
(3) 2024/02/04(Sun) 23:00:22