【人】 路地の花 フィオレ夜更け、海の見える三日月島に沿った道路脇。 人通りの少ないそこに止められた車の中。 『……―――――』 女は手を握って、その男が紡ぐ言葉に頷きを返している。 事後特有の熱気が引いていくのを肌で感じながら、緩慢なそれに笑みを浮かべたまま。 「そうだったの」 「もっと早く話してくれていたら、私たち……まだ一緒にいられたかもしれないのに」 残念だわ。 男の体を抱き締める。冷えた汗に触れて、女の身体が小さく震えた。 抱き返されない腕に、笑みをたたえたまま眉を下げて。 そっと離れたならば、倒された椅子のヘッドレストに置いた服に腕を通す。 「Addio.」 「Amore mio.」 さいごに口付け一つ落として、車を降りた。 ―――― 一歩、二歩。もう少し離れてから、電話を耳に当てる。 「もしもし?」 「引っかけた子が、うちのファミリーに手を出したおばかさんだってみたいで」 「うん、そう。話は聞けたから、迎えついでに後始末お願いしてもいい?」 「そんなこと言わないでよ、ちゃんとお礼も用意しとくから……ね?」 (5) 2023/09/02(Sat) 1:25:54 |