【人】 京職 一葉そこは、今が季節と菖蒲が咲き誇る蓮池。 「────これを、な。見せたいと、思った」 青に白に濃紫。もうすぐ訪れる夏の夕暮れのような色彩が広がる中、迷いのない足取りで一画に進み、しゃがみ込む。 そこには、深い青緑色を孕んだ珍しい色合いの菖蒲が小さな群生となっていて。 「お前の髪の色に似ていると、思った」 あやかしに、花を愛でる嗜好は無い。 己は相当に異端な存在で、そして、"人の世に上手いこと溶け込んでいる"だけの徽子に、花を美しいと感ずる心があるとは思っていなかったけれど。でも、それでも。 「うつくしが、これを綺麗だと思える日が来ると良いと思っている」 そう言いながら立ち上がった。 茶屋にはきっと御馳走が待っている。 私の好物の餅菓子も、きっと。 徽子の心が、舌が、あの並ぶ馳走を旨いと感ずるに至るのはまだ遠い話かもしれない。 けれどそれは、あり得ない未来でも無いと、私は思うのだ。* (6) Valkyrie 2021/04/26(Mon) 17:14:41 |